「白羽さん、ごきげんよう。朝食は終わったのね。顔色良いけど良く寝られたかしら? 今日は少し検査が有りますから、午前中は試験無しです。昼食後に始めます。それまでは看護師さんの指示に従って下さい」
「鈴木先生、おはようございます。土砂降りですけど濡れませんでしたか? 」
「大丈夫よ。地下駐車場が空いていたから濡れずに来られたわ。白羽さんは相変わらず優しいのね。気にかけてくれて嬉しいわ。この病室眺め良いのに雨だと勿体ないわね」
「そうですね。雨は残念です。売店で使い捨てカメラが売っていたんで、この景色を撮る為に思わず買っちゃいました。何枚か残ってるから退院の時看護師さんと一緒に撮ろうと思ってます。先生、学院はどうですか? 何か変わった事とか有りましたか? 」
「そうね。取り立てて変わったことは無いかな試験期間だし・・・・・・。そうそう、あなたの所の双子さんから手紙を預かってきたわよ。本当はこういうの許すと歯止めが利かなくなるから受け付けないんだけど、私の大学の先輩の経由で来たから特別よ。」
「三年にその先輩の姪御さんが居てね、先輩はその子の母親代わりだったから甘いのよね。この全寮制の学院に入って依存が薄れたのだけど、それまではべったりでね。その姪っ子の頼みだからってどうしてもって懇願されちゃったの。何だかんだって世話になってるとね・・・・・・その子の使い走りじゃないけど、これくらいは頼みごと聞かなくっちゃね・・・・・・。それじゃ、午後にまた来るわね、白羽さん」
そう言って先生は出て行った。今日は何時ものスーツでなくて、涼しそうな薄手のシャツワンピにカーディガン。黒の下着が透けてるのに赤面した。眉もばっちり決まってるしエクステ付けて目元も気合が入ってる。リップは言わずもがなだ。思わずデートですか? と聞きたくなるオーラが強烈に漂う。私の担当を良いことに私用をこなすのだろう。先生だってあの学院に四六時中縛られたくは無いだろうし、私も野暮な突っ込みはしない。
看護師さんが来て完食した朝食を片づけていくのを見ながら、薄味の食事に慣れてしまっている自分に軽いショックを覚えた。この間来たばかりなのに、もうそんなにここに馴染んでしまったのか・・・・・・と。
さて、手元の手紙だ。その三年生の先輩からの頼みは理解出来たけど、それがどう沙沙貴さんに繋がるのがさっぱりわからないまま、手紙を受け取った。白い封筒に手書きの二人の似顔絵のポンチ絵。
ほっこりして笑みが出た。どうしよう、読みたいなでも・・・・・・これからすぐに検査だし、美味しいものは最後に食べる私。そうね後にしよう、そうしよう。嬉しさのあまり浮かれて声が出ていた様だ。
「白羽さん、可愛い。今の聞こえちゃったよ。とっても嬉しそうね。何だか初めて歳相応の貴女を見た気がする。14だったよね? 、今」
「なのに白羽さんは高三、いや女子大生でも通る位の大人っぽさだもの。私、妹が今二十歳で看護学校通ってるけど、白羽さんの方が数段大人っぽいわ。背も高いし・・・・・・。もしかして学院でハーレム作ってモテモテじゃないの? あーその顔、図星っぽいわね・・・・・・。何よ、そんなに怖い顔してぶんぶん首を振って否定しなくたって良いんじゃない? 」
「酷いです。それって老けてるって事ですか。気にしてるんですよ・・・・・・。それに私はそんな女じゃないですよ・・・・・・。私は、友達から距離を置かれるタイプなので、全然モテモテではないです。年上には割と弄ってもらえるんですけど、モテモテというには違います。あっ、でもウサギにはモテモテですよ。もふもふで可愛くて・・・・・・。女性同士の恋愛、それに学院はそういうの否定的なんです。先生にも依るけど同性愛は禁忌という考えが立場が上の人程頑なで・・・・・・。見つかると反省室で正座の上、しばき倒されます」
「そうなんだ。まあ、それも仕方ないかもね。聖アングレカム学院て言えば超が付く程の特別なお嬢様の為の学校だし、古風って言えば聞こえは良いけど、旧態依然の考えの人が多そう。旦那様と結婚することが唯一絶対の女の幸せ。妻は夫の三歩後を歩け的な・・・・・・ね」
看護師さんが話すのを聞きながら、今度は私が、"そうなんだ" と呟いた。私は単にアミティエ制度が有ると言うことから聖アングレカム学院に来た。今まで生きてきて自分がお嬢様だと自認したことはない。しかし外から見ると、ここの制服着てる人は問答無用でお嬢様とイコールなんだ・・・・・・と。
うちは特別な旧家や一代で成り上がった様なお金持ちでもないし、ましてお付きのメイドが居るような家では無い。祖父が不憫な孫の為に財産を処分して、お金を用立ててくれたから何とかここ聖アングレカムに来られた。
言われて改めてクラスの皆の事を考えると、クラスの大多数は創業者系お金持ちの子、代々ここのOG系と縁故やバレエスクールの推薦、立花さんの様な旧家系、そしてレアな私の様な庶民系。比率を多い順から並べるとそんな感じだ。
そんな場違いな私が、クラスに徐々にだが溶け込みつつあるのも、私の容姿が気に入られたからだろうか、他に理由は浮かばない。アキラが亡くなった時には、クラスの全員が色々慰めてくれたりして話をしたけど、今にして思えばアレは単に同情だった。
あれ以降はさほど話しもしなくなってしまった。天気やらの世間話的、挨拶的な話はするけれど・・・・・・。譲葉と付き合ってから、クラスの皆から冷やかされたりはしても、ただそれだけ。逆に人気者の親しい者として嫉妬で冷たくされることも・・・・・・。
私自身は正直気に入らないけど、この容姿だけは皆が世辞を言ってくれる。基本インドア人間で非行動的、体育会ではないし、性格は暗いし、人見知りの私。独り言も多いし空想癖があり、人の話を聞いてなかったり。空耳したり。そんな私の唯一の取り柄は容姿。でも自身は嫌いな容姿・・・・・・。
重く見えるカラスの濡れ羽色の髪を筆頭に、級友に比べてちょっとゴツい骨格、大きな背丈。それにこの歳にしては分不相応な胸の膨らみ。同じく発育の早い剛の陰毛。そして安産型と陰口を叩かれるほどの腰回り。付随して太い腿。足もこの歳で25.0もある。他の子と靴が並ぶと愕然とする。何処をとっても嫌いな私の体つき。バレエの授業や、お風呂は今でも恥ずかしい。
本当は中肉中背で、小御門先輩の様なふわふわした金髪、沙沙貴さんの様なスラッとした脚。そうなりたいと今でも思う。
コンプレックスだらけの私。こんな私の内面を理解し心を許せる数少ない親友、双子の沙沙貴さん達からの手紙。嬉しくないはずが無い。今日の試験が終わる夕方。それを指折り数えてひたすら待つ。
今日は何が書いてあるのかしら? あの子たち私にどんな酷いことをさせるのかしら? 試験が終わり級友との挨拶もそこそこに、この時期毛虫が多く誰も行かない桜並木に急ぐ。そして目立たない老木の桜の木に足を向けて辺りを伺いながら、洞の中に有るポーチを取り出して中に入っている手紙を取り出す。そこには私を辱めることが羅列されている・・・・・・。
「こんなこと、出来ない・・・・・・無理・・・・・・。でも、守らないと、今の私は彼女たちの慰み者なのだから・・・・・・自分から志願してのものだもの・・・・・・」
そこに書かれていたのは、まずブラを外しポーチにしまう事。ポーチに入ってる首輪をはめる事。ショーツを履いたままスカートを捲くり立ってお漏らしををする事。しゃがんでするのは禁止。その汚れたショーツを手に持ったまま農場に行く事。隠すのは禁止。そして大きめのトウキビの先にショーツを引っ掻けて来る事。そうしたら、首輪をしたままノーパン、ノーブラで寮に戻り私達の部屋でリードを繋いで待つ事。そして私達が部屋に戻る迄、一人でしていなさい。手錠をし、かつ目隠しをして最低三回は逝く事・・・・・・。逝った後"指導"の感想をノートに記す事。尚、心証をもっと良くしたいのなら、二枚目のオプションプランを実行されたし。
恐る恐る二枚目を読むと・・・・・・。
無理、こんな恐ろしい事は絶対に出来ない。酷すぎる。悪魔だってもう少し慈悲深いことだろうに。ポーチの中には使用するアイテムがいくつか入っていたけど手に取る勇気は無かった。固まってしまった私。
「白木さん、こんな所で何をしてらっしゃるの? 風邪引きますよ。まだ試験は続くのですから早く部屋に戻って下さいね。こんな雨の中、わざわざ見に来る様な何かが、その老木に有るのですか? 」
聞き慣れた声。担任の先生だ。何で、今このタイミングで・・・・・・。近づいてくる。まずい、バレたら・・・・・・。
「ここの洞に蛇が居るんです。私は蛇好きなんですよ。でも先生は嫌いでしょ・・・・・・来ない方が良いと思います」
咄嗟に嘘をつく。蛇が好きだったらどうしよう? 嫌いでしょ、そうよね、そうでしょ先生・・・・・・。
「嫌ー。蛇がそこに居るの? 白木さんは平気なの? 私、無理。絶対無理。何で平気なのよ。助けて・・・・・・こっち来ないでー」
大声を出してパニックになった先生は全速力で立ち去って行った。助かった。ポーチのファスナーを閉めて腹を括る。二枚目のオプションは幾らなんでも完全に無理。でも最初の紙の事ならなんとかなる。これならまだ我慢の範疇。あんな酷い目に遭わなくて済む・・・・・・思考のレトリックに堕ちた私は、粛々と書かれていることを実行に移していった。
さてと、こんなモノを届けられたって・・・・・・どうしたものかな。試験の最中だって言うのに・・・・・・
「ネリー、ちょっと来てくれないか。ちょっと相談したいことが有る。僕の部屋に来てくれ」
「ちょっと譲葉。袖引っ張らないでよ。この間直したところがほつれちゃうって・・・・・・ねえ,聞いてるの? 」
いつになく真剣な顔している譲葉。何か有ったということは直ぐに理解した。部屋に引き入れられ、向かい合わせに座りギッと私を見据える。
「話って言うのはこれだ。誰かが夜のうちに僕の部屋のドアの隙間からこれを入れてきたんだよ」
そう言って、擦れた跡の有るA4サイズの薄い白い封筒を差し出してきた。ニカイアの会公式の封筒に酷似しているけど、糊がはみ出していたりどことなく作りが雑だった。
「これ誰かが手作業で作ったものなの? 似てるけど少しずつ違うわね・・・・・・」
「中を見てご覧よ。誰が届けてくれたか知らないけど、この時間になっても呼び出しが無いって事は・・・・・・」
譲葉はそこで言い澱んだ。言われるままに閉じ紐を外し中を見た。
「これは・・・・・・。こんなもの作っていたの。あの子達は・・・・・・」
「そう、まさにこんなものだよ。あの子達はやっぱり友達なんだな。蘇芳も良い友人を持ったものだ。だけどなニカイアの会長としては良い話としてだけで処理は出来ない。私文書偽造だしな。唯一の救いが学院バレはしてなさそうってことだ」
「ネリー、場所を変えよう。あの子達の所に行くとするか」
「居ないわ。鍵がかかっているわよ。ねえ貴女達、花菱さん達知らないかしら? 」
「あっ、小御門先輩に八代先輩。こんにちは。えーと、花菱さん達は・・・・・・誰か知ってる? 」
「先生の部屋の方で見かけましたけど・・・・・・。なんだかとっても焦ってるみたいでしたよ? 」
「そう、ありがとう。こっち来て・・・・・・」
答えてくれた子達に一人ずつハグをして謝礼の意を伝えた。突然沸き立つ嬌声。そして譲葉もウインクをし手を軽く掲げて答えていた。だけど直ぐに真顔になって、私を置いて目撃現場に早足で消えていく。
「ちょっと、待ちなさいって。置いていく気なの? 。ごめんなさいね。また何か有ったら頼らせて頂戴」
「はい、先輩の頼みなら、万難を排しても最優先ですから。是非お手伝いさせて下さい」
「それにしても上級生が来る事が増えたわねー。綺麗な人ばかりで憧れちゃうな・・・・・・後輩が出来る頃には、私達もああなっているのかしら・・・・・・」
「ちょっと譲葉、待ちなさいって・・・・・・」
「廊下は走ってはいけない、だろ。守らせる立場の君が走ってどうするんだ。それに僕のことを"たらし"だって散々にレッテル張るくせに、今の見てたけどネリーの方がよっぽど"たらし"じゃないか。呆れたよ」
「何よ、貴女みたいに口説いてないわよ。ただハグしただけじゃないの。馬鹿みたい」
「全く君は、ああ言えばこう言うだな。面倒臭い・・・・・・」
「うわっ、最低。そんな言い方って。自分の恋愛が滞ってるのを八つ当たりしないでよ」
「居た居た。見つけたぞ。おーい、匂坂君」
「ちょっ、逃げたわね・・・・・・卑怯者。譲葉ったら何か変わった・・・・・・」
「そんなにおびえた顔するなよ。笑顔が引きつってるぞ。別に赤紙持ってきたわけじゃないんだから」
「先輩、な、何か御用ですか? ちょっと用事が・・・・・・いっ、急いでるもので・・・・・・」
「つれないなー。匂坂君は。そんな冷たい事言わないでくれよ。裸に成って互いに全身を揉みほぐした仲じゃないか。試験終わったらまたサッカー部始めるから一緒に早朝ランニングしような。まっ、それはさておき、君たちの用事ってのはこれだろ? 」
鞄から件の封筒を見せると、匂坂君の顔色が変わった。そしてバツが悪そうに廊下の角に視線を動かす。
「立花、こっちに来て。レッドアラートだよ、立花・・・・・・」
「チェックメイトとの方が適切ではないかな。いやそれは僕達側の言葉だな。敗者側は・・・・・・。おっ、来た来た。ラスボスが来た。花菱君、久しぶりだね」
匂坂君が、花菱君に耳打ちする。事態を把握してすこし動揺したようだが、取り乱したりはしない。さすがだなと思う。
「まあ立ち話もなんだ、雨も止んだし、外で話そうか。まだテスト期間だし、外の方がより秘密を保てる」
「君たちと東屋で一緒になるのは、アキラと一緒のとき以来か。あの時はケーキが山になってたよな。紅茶も美味しかった。でも今日の所はパックのジュースで勘弁してくれ。そのうちに料理部の体験調理会に招待するからさ。期待していてくれたまえ」
軽口をたたき、萎縮している一年生の顔を上げさせた。さすがに譲葉、少女の扱いは手慣れている。この先どう進めるのかお手並み拝見。間髪を入れずにテーブルに封筒を出して話を切り出した。
「これが、僕の部屋に届けられた訳だ。今朝の事だ。ドアの隙間からねじ込んであったから誰が入れたかは不明。この封筒は紙を折っての手作りだね。そしてこの文字は既存の封筒也から、コピーをしたものだろう。汚れの筋が入ってる。学院のコピー機に今現在出てる症状だ」
「これを作った事は明らかな偽造だ。偽造と言う事を全く失念していたのか、深く考え無かったのか、それとも効果を意識しての事かい。後者なら無罪放免とはいかない。何しろ私文書偽造になる」
「すみません。そこまで考えてはいませんでした。軽率な事をしました本当に申し訳ありません。ただ、先生に見せるのに重みが有った方が効果的かなと・・・・・・。意図的に狙ってやりました・・・・・・。浅薄な考えでした。ニカイアの会及び、八代会長、小御門副会長をはじめとする役員の皆様に私達の至らない行為で大変ご迷惑をおかけしました。私達、処分は甘んじて受けます、受けますから蘇芳さんには迷惑がかからないようにご配慮下さい。お願いします」
膝に手を置き、突っ伏して謝罪する二人。肩が小刻みに震えている。口では気丈にしていても内心はパニックなんだろう。
「その前に、ちょっと聞きたい事が有る。頭を上げてくれ。あそこで探していたという事は、だ。あの辺りで紛失したという事かい? 」
匂坂君と花菱君が顔を見合わせてもじもじしているのが妙だけど、こくんと頷いた事で肯定した形だ。そして意を決したように花菱君が口を開く。
「多分、そこのトイレで・・・・・・。私達、ダリア先生の所に行って直訴したんですけど、全くの門前払いでした。作った書類を封筒から出して手渡そうとしたんですけど目も落としてくれませんでした。悔しくって悔しくって、トイレで二人して泣いたんです。それで忘れて部屋に戻ってしまって、部屋でもカッカしていて朝になるまで気が付かなくて・・・・・・試験の最中とか、気になって気になって、全く集中出来ませんでした・・・・・・」
「立花・・・・・・」
「匂坂君、付け加える事は無いかい? 」
「その通りです。ありません・・・・・・」
「今の話だと、ダリア先生はニカイアの会の文字を見ていないって事か。君達の書いた熱文も全く見てはいないだのね? それだと幾らかの酌量の余地が有るな。そして先生にどこまで具体的に話をした? 」
「具体的には・・・・・・。ただ、私達を蘇芳さんのお見舞いに行かせてください、外出の許可を下さい。それは必死にはアピールしましたけど、プラン等は話していません。と言うか行く手段、方法が考えつかなくて・・・・・・」
「なるほど、それならまだチャンスは有りそうね」
「チャンス? ネリー、 何の話だい? 」
「おいおい話すから待っていて譲葉。ダリア先生は、学外に出たがっている生徒が居る。ここまでは承知していると言う事で良いわね。で匂坂、花菱の両名がその候補だと」
「そして徒歩では脱柵出来ないし、出た所でヒッチハイクしようにも車も来ない、業者の車に乗ろうとも、防犯カメラをかいくぐるのは日中はまず無理。よしんばタクシーを手配出来ても、確実に通報されてしまう。だから戻ってくる前提の脱柵は無理。そういう認識で良いかしら? 」
「そうだね。ダリア先生、いや学院の認識としてそれで正しいと思うよ。生徒だってそういう風に思っているしね。だから刑務所なんて揶揄される訳だ」
「だけど、最終日、一限の試験が終わって夕食まで姿を消す事が、学院側に気付かれず怪しまれ無かったとしたなら、どう? 」
「さすがに、病欠以外で昼食、夕食抜きだとスタッフのチェックが入るから夕食までに帰ってくる事が条件になる訳。試験の最終日って言うのは、それまで睡眠削って無理して勉強をしていた子がダウンして寝ているケースも多々あるから、学院で姿見ていなくても案外怪しまれないものよ」
「確かにネリーの意見には肯けるけど、行って帰る足が無くては机上の空論だよ・・・・・・」
「それがね、有るのよ。これから話を煮詰めていけば絶対にうまく運ぶわ・・・・・・」
したり顔のネリー。時計を見ながら、私の部屋に来てと言う。思わずネリーの顔を覗き込む。僕とネリーのアミティエ、千葉緑とは正直言って仲は良くない。犬猿の仲とまでは行かないけど、折り合いが悪く何かとギクシャクする関係だ。板挟みのネリーには色々と迷惑をかけていて心苦しい。
千葉は、クラスで一番勉強が出来るし、楽器は先生の代わりに指導する程の腕だ。だけどどうにも偏屈でお固い。絵に描いたような根暗のガリ勉風だ。それに見た目で判断するタイプ。チャラく見える僕はそれだけで敬遠されている。千葉の容姿が"小さい教育ママゴン"然してても、僕は見た目で敬遠したりはしないんだけど・・・・・・。
「緑さん、勉強中悪いけど、ちょっといいかしら。お客様なんだけど奥にお通ししても良いかしら? 」
「小御門、それじゃまるで私が牢名主みたいじゃないか。君の部屋でも有るんだから、私に気兼ねなくやってくれ」
「失礼します。一年の花菱です」
「お邪魔します、同じく匂坂です」
「何やってるの。貴女も入りなさい。恋人の為でしょうに・・・・ほら早く。何を遠慮しているの! 」
緑さんが訝しげに私の話を聞いている。そして所在無さそうに入ってきた大柄な客人を見やり、えっ,と声を上げ手に持っていた教科書を落した。そして部屋の空気が固まった。
「お邪魔します・・・・・・。これ保健室で支度した淹れたてのコーヒーと料理部特製のクッキーです。良かったらどうぞ・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・・お構いなく・・・・・・」
「あらあら。教室で毎日顔を会わせてるっていうのに。何その言い草。この二人ったらおかしいでしょう? 花菱さん、匂坂さん。貴女達のクラスではこんなに大人げない級友居ないでしょ? 先輩なのにみっともないわ。呆れてるわよこの子達」
「呆れてるなんて、そんな・・・・・・。変わった子は居ないわけじゃないから・・・・・・ねえ、立花。孝さ・・・・・・」
「ちょっ、余計な事言わないのよ。いやねえ、マユリったら。ほほほっ・・・・・・」
「それじゃ、私は邪魔だから何処かに行くよ。そこ開けて・・・・・・」
一年の二人が通れる分だけ開けようとした。
「ダメよ。緑さんに話が有って来たのに。その本人が居なくなってしまってはダメじゃないの、座って頂戴。とても大事な話だから。まあ先ずは、コーヒーを飲みましょう。冷めてしまったら淹れたてが台無しだも・・・・・・。花菱さんには悪いけど、今日はコーヒー好きに花を持たせて」
「淹れたては美味しいわ。今日のコーヒーの豆はとっておきなのよ。嘆願する時の為に。まあそれは冗談だけど。緑さんにどうしても見てもらいたいものが有るの。譲葉、アレを出して早くして・・・・・・」
「これは? ニカイアの会が私に何の用? 」
「中を見て頂戴。話はそれからするわ」
紐を緩め、中の書類を見て緑さんは思わず声を出した。目が必死に真剣に字を追っている。読み終わって深いため息をつく。
「それで、この子達がここに来たという訳だ。要はあの人の車に、この子達をこっそりと乗せて外出させて、病院に居る蘇芳に会わせる。そして退院を早めて、夕食前に一緒に帰って来るって事か。小御門、お前悪知恵働くな。お前だけは敵に回したくないよ」
「で、返事は。緑さん」
「うーん。基本的にはOKだ。君たち同級生は行く権利があると思うよ。だけど、あの車二人乗りじゃないのかな? 最悪の場合、車のトランクだよ。それは覚悟していて。それに蘇芳の退院は、動かせないように思えるけど、どうよ? 」
「そうね、一緒に帰って来るってのは断念するとしても、外出許可取って一緒に街に出るくらいはさせてあげたいじゃない。それには向こうに行ってる鈴木先生を何とかしないといけないわね。譲葉も考えてよ」
「鈴木先生か、他の先生よりは御しやすいと思うけど・・・・・・。それでも至難の業だな」
「頼りないわね。譲葉ったら。まあいいわ。先に進めると、私服を用意させないといけないわね。この制服ではバレバレに過ぎるもの。幸い夏だから、上級生に家庭科実習で作ったはずのサンドレスを貸してもらえるように頼んでみる。脱柵がうまく行けば向こうでお洋服調達すれば良いしね。これは私と譲葉がやるわ。部活の方からアプローチすればバレにくいし」
「お金は、まあ平気として、カメラの死角から乗り込むとか、留意するところを拾いだしていきましょう。ヨゼフ座にウイッグ無いかしらね? 」
「何しろ時間がないから、使えるモノ、先輩、後輩使える人総動員ね。みんな、よろしくお願いします。肩組んで気合を入れましょう。譲葉、音頭とって。サッカー部でやってたじゃない試合前に。あんなに大声でなくて良いけど」
「どうしたのよ花菱さんも匂坂さんも。泣くなんておかしいわ。涙は蘇芳さん会った時の為に取って置きなさい・・・・・・」