「蘇芳さん、あらあらまた寝てしまったの? お友達がいらしたっていうのに・・・・・・私ちょっと、コールで呼ばれているの。貴女達だけにしていいかしら?何か有ったらコールで呼んで頂戴」
「判りました。寝てるだけなんですよね? 蘇芳さん・・・・・・」
「そうよ。朝も異常はなかったし、大体蘇芳さんは病気じゃないですから、試験が終わってホッとしたんでしょう。そうねー。起こして外に散歩でも行ってみたら? 」
看護師さんの言葉に安堵する私達。そして看護師さんが出て行く様を、皆で頭を下げて見送った。ベッドの方に視線を戻すと、そこには私と苺姉の書いた手紙が置いてあった。丁寧にはさみで開封した様だ。蘇芳ちゃんらしいなと思う。苺姉も手紙に気が付いたみたいでニコニコしながら、私の脇腹を小突いてきた。他の子は気が付いていないようだ。
「ねえ、あの看護師さん、白羽さんじゃなくて、蘇芳さんだってさ。何だか怪しいね。立花はどう思う? 」
「マユリもそう思ったの? 私もよ。普通言わないわよね。毒牙にかかる前に早くこんな所から帰ってきて欲しい・・・・・・」
「二人とも気にしすぎじゃない? 呼び方ぐらいで」
「孝崎さんは知らないかもしれないけど、黒沼さんの事を聞いてるから。入院中に手込めにされたって話よ? 」
全く。どうしてそういう風な方向に持っていくのだろう。慎みが無い三人をギッと睨み、流れを変え様と思案する私・・・・・・。以心伝心なのか苺姉が口を開いた。
「このまま寝顔見てるもの至福だけど、これからのこともあるから起こそうよ。目覚めのキスは誰がする? ジャンケンにしよう。委員長いいでしょ? 」
「そうね。でも苺さん、五人だと中々決まらないと思うから、あみだにしましょうよ。そうしましょう。孝崎さん、林檎さんもいいかしら? 」
委員長が私にも同意を求めてきた。この流れに異議無しだ。病室で騒ぐのは不味いし、煩さで先に起きてしまったら、意味無くなってしまうから・・・・・・。苺姉が間髪を入れずに部屋に置いてあった試験の問題用紙を手に取り、裏に手際よくあみだくじを書き込んでいく。
「ちょっと。それ問題用紙じゃないの。後で蘇芳さんに叱られても知らないわよ。苺さんはがさつなんだから・・・・・・」
「酷いなあ。求められていることに直ぐに答えを出せる瞬発力が有るとか言って欲しいね。臨機応変でもいいよ。大体問題用紙なんて、試験終わったら要らないじゃん? 」
「えっ? 」
「委員長、何驚いてるの? 」
「もう一度、振り返ったりしないの? 。孝崎さんは? もしかしてマユリも? 」
「えー。もしかして自己採点とかもしなかったり? 」
沈黙は是だ。委員長ががっくりしている。普段なら有り難い講釈というか呆れてのお説教タイムだけど、さすがにこの状況では空気を読む。
「出来たよ。後は一人一人、一本を書き加えて」
言われるままに皆が線を書き足していく。そしてあみだくじのテーマ?を口ずさみながら始まって行った。
-結果- 勝ったのは私。沙沙貴林檎。
「林檎、早くして・・・・・・覚悟が無いならお姉ちゃんが代わるよ? 」
「白雪姫は王子のキスで目覚めるのに、なんで 小人が起こすんだよ。何か釈然としない。孝崎さんも、立花もそう思うだろ? 」
「ちょっとそこの負け組、ディスってるんじゃない。先に生まれた一番の年長者に対して失礼ですよ。大人のキスを良く見ておきなさい」
皆の嫉妬の視線を心地よく浴びながら、恥ずかしさを捨てて蘇芳ちゃんの唇を奪う。そして・・・・・・お姫様は目覚めた・・・・・・のだけど。
「あれ、林檎さん? 良かった・・・・・・願いが通じたんだ。本当に助けに来てくれたのね。でも、私・・・・・・。逃げられないの・・・・・・身体に爆弾をしかけられているし足には枷も・・・・・・。これからずっとこのイルザ収容所から逃げられないの・・・・・・」
「ちょ、何言ってるの? この寝坊助。暇だと思って二度寝なんかするから変な夢見るんだよ。ほら、もう一度キスしてあげるから! ちゃんと起きなさい! 」
今度は半分目を覚ましている蘇芳ちゃんにキスをした。二人とも目を閉じずに。そして舌を絡めた。そしてそれを見て、皆が私を引き剥がす。
「正気に戻るかの瀬戸際なんだから。皆、邪魔しないで」
「だからって、舌入れたでしょ。姉の前でそんな反則は許さないよ、林檎」
「そうよ。目覚めのキス如きで、舌入れるなんて聞いた事ないわ。花菱さん、匂坂さんも何とか言ってやって」
「孝崎ちゃん、この二人はもっと過激な起こし方してるからダメだよ。一度見てみた方がいいよ。朝なのに淫靡で普通の人は五秒も見てられ無いから」
私の話に、孝崎ちゃんは呆れ、委員長達は今更ながら恥ずかしいのか二人して真っ赤になってる。そうこうしていたら、蘇芳ちゃんが夢から現実に帰ってきた。
「えっ、どうして皆がここに居るの? だって夢から覚めたのに、また異世界に?・・・・・・私、本当に夢から逃げられないの? 取り込まれてしまったの? でも攫われて殺されてしまった筈の立花さんにマユリ、苺さんに孝崎さんもここに生きてる・・・・・・本当に現実なの? 」
「落ち着いてよ蘇芳ちゃん、もう大丈夫だから。何も心配しなくていいからね。皆もお姫様を目覚めさせて。ほら委員長も、ユリーも、孝崎ちゃんも。トリは私がするから」
代わる代わる、蘇芳さんにキスをしていく。そして最後は苺姉。終わったときには蘇芳ちゃんは完全にこっちの世界に帰ってきていた。
「うれしい。お見舞いに来てくれたのね。本当に嬉しい・・・・・・ありがとう。淋しくて淋しくて・・・・・・看護師さんもドクターも皆優しいし、親切だったし・・・・・・でも、皆に会えなくて淋しかった。ホームシックになったの。あんな刑務所みたいな寮が恋しくてしようがなかった。今でも夢見てるみたいに不思議な感じ。さっき寝ぼけていて御免なさい。沙沙貴さん達のお手紙を読み返したら、淋しくなって狂ったみたい・・・・・・」
「そうなんだよ。私達も脱柵した時、同じこと思ったもの。刑務所に帰りたくなって仕方なかった・・・・・・」
「沙沙貴さん、そう何度も刑務所、刑務所、言わないの。何だか悲しくなるじゃない・・・・・・」
「立花、元気出して。そうだよ。蘇芳さん。あんなに食事の美味しい刑務所なんて無いよ。世界中探したって。もうすぐ病院食でなく美味しいものがお腹いっぱい食べられるよ」
「そういえば蘇芳さん、少し痩せたかしら? 顔が少しシャープになったみたい。顎のラインが前より綺麗・・・・・・羨ましい。でもお胸も小さくなっちゃった? そうなら八重ちゃん、がっかりするかも・・・・・・」
「ガッキーはおっぱいラブだものね。特にダリア先生を見るとき、視線が・・・・・・まるわかりだよね。当人は判ってないのかもしれないけれど」
「それは仕方ないよ。八重垣さんは、"永遠の少年"なんだから。貧乳同盟結んでた沙沙貴は大きくなって今や一人孤高の・・・・・・」
「マユリ、其処までにしておいて。孝崎さんが怒ってるわよ」
ガッキーを肴にして、何時もの空気になってきた。と同時に、気が付いたのはさすがに蘇芳ちゃん。
「皆ここにどうやって来たの? ダリア先生が許可を出してくれたの? もしかして? 」
皆が押し黙って視線をそらす。そして逃げ後れた? 私に視線を向ける蘇芳ちゃん。仕方ない。切り出すとしますか。
「察しの通り、許可は出てないよ。発端は委員長とマユリさん。先生に話をしたものの、門前払いを食らった。そして協力者が現れて事を起こした。それは八代、小御門の両先輩に、そのアミティエの千葉先輩。千葉先輩は蘇芳ちゃんも知ってるでしょ? そして車出してくれたのが千葉先輩のお姉さん?みたいな人」
「鈴木先生とかはニカイアの会がというか、八代先輩が早く帰朝させ蘇芳ちゃんから遠ざける罠にかけたそうだ。この辺りは委員長に聞いて私達も伝聞だけでしか知らないから・・・・・・。蘇芳ちゃん、私達と委員長たちは一緒だけど一緒じゃないの。委員長とマユリさんは本隊で、私達と孝崎ちゃんはあとから割り込んだクチ。私達と孝崎ちゃんは三年の先輩が力添えしてくれたんでここに来られたの。強引に潜り込んでね」
「車の用意も委員長たち二人を連れて行くって言うことで話が通っていたから、無理無理五人乗ってきたのよ。あの黄色の車速かったけど、狭かった・・・・・・まだ身体痛いんだ。帰るときは広い車だから助かる」
「そうそう忘れてた、車出してくれたお姉さんが、蘇芳ちゃんに聖堂で失礼の事を言ってしまって御免なさいって。そう伝言頼まれたよ。何か有ったの? 」
「どんな感じの人? 」
「黒髪のストレートで、真ん中分け。メガネかけてて、ぱっと見は冷たい感じの人。そうそう冷子って言ってた。冷蔵庫の冷の字なんだって。珍しいよね。あの字使うの。意外な事に孝崎ちゃんの知り合いでも有るんだよね。それで本当は孝崎ちゃんは学院に残るはずだったのに、知り合い枠で強引について来ちゃったんだよ。だから脱走用な服の手配が間に合わなくて蘇芳ちゃんのユニホームなんて着てる。浮いてるよね。残されたガッキーは今日はダリア先生の子分なんだよ。可哀想に・・・・・・」
蘇芳ちゃんの顔が、少し強張った。そしてそうあの人が・・・・・・私の為に。謝らないといけないわ。そう呟いて涙を滲ませた。
「蘇芳ちゃん、何泣いてんのよ。また夢を思い出しちゃったの? それでさ、これから早速出かけたいのだけど。街でお買い物デート。拒否権は無いからね。蘇芳ちゃん」
「えっ、街に出るの? 」
「そうよ、蘇芳さん。先ずは洋服を買って、靴を買って。それからコンタクト買いに眼鏡屋行って、蘇芳さんもメガネ買うんでしょう? それから美味しいもの食べてお揃いのアクセサリー買って・・・・・・」
「全く。委員長たちはお買い物メインで蘇芳ちゃん二の次なんだから。怒って良いよ蘇芳ちゃん。それはそうと私達、夕方の食事に間に合うように帰らないといけないから、そんなに時間無いの。早く着替えて。私達はともかく、孝崎ちゃんの格好も不味いから何とかしないと」
「外に出るっと言っても私、制服しか持ってないわよ。寝間着で運ばれて、後から先生が制服だけを持ってきてくれたけど、さすがに制服を着て外歩いたらアングレカムの子ってバレバレでしょ・・・・・・」
「それにしても、そのお揃いのサンドレス良いわね。まるでアイドルグループみたいだわ」
「これは、上級生の家庭科の実習の作品なんだよ。委員長たちのが二年生の作った出来立てほやほやので、私と苺姉の着てるのがね三年生が去年作ったものなの。だから襟とか袖、少し違うんだよ。双子コーデじゃなくて四つ子コーデだね」
お洒落の話はとても楽しい。学院内では中々深まらないけど、実際に着ての話はあーだこーだ話が進む。しかし、蘇芳ちゃんと孝崎ちゃん二人の洋服どうしよう。夏だから冬と違ってコートの下は寝間着というわけにはいかないし・・・・・・。
「そうだ、看護師さんに相談してみる。帰りここに戻ってくるんでしょう? なら借りられるかも・・・・・・待ってて。自販機はエレベータホールの所にあるからね」
そう、帰りは地下の駐車場に集合して、学園の側に車を止めそこからは山道で学院に帰る。ルートは確認してるから大丈夫。ただ暗くなると明かりは皆無なので危険な道ではある。赤いフィルターを装備した隠匿行動用の明かりは用意してあるけれども。
蘇芳ちゃんはナースコールをしてから部屋を出てナースステーションに消えて行った。
「思っていたよりは、元気だったな。もっと陰々滅々かと思ってた。ちょっと蘇芳さんに失礼だったかも・・・・・・」
「マユリ、酷いわね。私はもっと元気かと思っていたから、少し元気なく思ったわ。孝崎さんはどう思った? 」
「私もどちらかというと匂坂さんに近いかな。想像ではもっと本が山積みだと思ってた。こんなに明るい部屋でなくて、学院の教室みたいな建物に・・・・・・私達の部屋みたいに本だらけで歩くと蹴躓く様な。そして孤独と共に共有して地味にしてる気がしてたから、思っていたよりは明るくてホッとした」
そのイメージはガッキーの印象とごっちゃ混ぜだよねと私が突っ込むと、そうかそうだよねと。何処か得心の孝崎ちゃんだった。
苺姉は、どことなく口数が少ない。普段の様子とはちょっとだけ違う。違和感に気付くのは私くらいだろう・・・・・・他人には理解できないと思う。この感覚は双子ならではと自認している。
「!!!!****!!!!」
突然、部屋のコールが鳴った。皆で顔を見合わせて固まる。なすり付け合いの末、委員長が出た。暫くして看護師さんが部屋に現れ、孝崎ちゃんがナースステーションに連れて行かれた。
ジュースを飲みながら、景色を堪能し、久々に見るテレビに感動していると、暫くして蘇芳ちゃんが帰ってきた。いや蘇芳さんが帰ってきた、の方が適切か・・・・・・。
「ちょっ、蘇芳さん? その格好は・・・・・・」
「それで外に行くの? お母さんみたい 。似合ってはいるけど・・・・・・」
「お母さんと娘でお買い物だね。蘇芳ちゃんがサンドレスやワンピ着て胸元強調するよりは怪しまれないとは思うけど・・・・・・。林檎はどう思う? 」
蘇芳ちゃんは、夏っぽく髪をアップにして、グレーの薄手のスーツを着て戻ってきた。インナーは白のカットソー。スカートは脚の長い蘇芳ちゃん故、かなりミニになってしまっている。生足がえっちぃ。履物はパンプスと行きたいのだろうけど、サンダル。蘇芳ちゃんは足が大きいから見つからなかったのだろう。仕方ないからここで学院指定のローファーに履き替える。
それにしても・・・・・・だ。似合う似合わないだっだら、似合ってる。背が高いし。身体のメリハリにもフィットしている。だけど、二十代のOLならいざ知らず、十四の女の子が似合いすぎてしまうのは、それはそれでちょっと悲しい気がする。皆そう思うのか、微妙な顔をしている。だけど、蘇芳さんは満更でも無いのか、鏡を相手にポーズを付けてその横顔には笑顔が見える。そして部屋のドアが開き、今度は孝崎ちゃんが戻ってきた。
「マジ? その格好・・・・・・。カッコいいじゃない。さすがに元芸能人」
そう苺姉が囃す。
「有り合わせでこうなるなんて凄いよ。さすがだね。良く見るとネイルもしてないし、お化粧もしてないから違和感有るけど」
マユリも感嘆する。委員長は何かお気に召さないらしく、無言・・・・・・。
孝崎ちゃんの着替えは、ボーダーのタンクトップにノーカラーのジャケット。ボトムはロールアップしたダメージジーンズ。足元はヒールの高いサンダルにアンクレット。蘇芳ちゃんとギャップが凄いけど同じ人の私物らしい。孝崎ちゃんが戻って来たのに気が付かない程浮かれた蘇芳ちゃんが鏡からやっと離れた。
「どうしたの林檎さん? 私、似合ってるでしょう。孝崎さんも夏っぽくていいと思うわー。ねえねえ写真撮りましょう。其処にカメラあるからー」
「うーん。蘇芳ちゃんちょっと大人っぽすぎない? 白羽先生と言った感じ。職員室に座っていても違和感無いわ。孝崎ちゃんの方はなんだかえっちぃ。決まってるけど・・・・・・谷間丸見えのお胸の膨らみが凶悪すぎるし、ウエスト細いし、ちら見するお臍の形も綺麗・・・・・・」
皆で写真を撮り合い、最後まで使い切った。速い仕上げなら、今日中に仕上がる。早く見たいな。先輩にも見せたいし・・・・・・
「まあ、不都合が有ったらお店で服を買って着替えれば良いのだし、ここでぐずぐずしてても仕方ない。さあ出掛けようよ。立花、街まではタクシー? 」
「六人は無理じゃない? 観光地だと、ジャンボタクシーが走ってるみたいだけど・・・・・・ここは普通の街だし」
「じゃ送迎バスだ。この階に来る時ロビーで時刻表貰ってきたよ。エロいテロリストが居るから色仕掛けで一台丸ごとジャックしようよ。貸し切りで蘇芳先生と四人姉妹で遠足気分ー」
「ちょっといい? エロいテロリストって誰よ。私そんな事しないわよ! 」
「もしもし、鈴木先生ですか? お久しぶりです。お元気でしたか? それはさておき、今どちらにいらっしゃいますか? お迎えに上がりたいのですけど・・・・・・。はい、道の駅に。判りました。十分ちょっとで着くと思います。現地に着いたらお電話をかけますから・・・・・・それではまた」
私が学院の生徒だった頃、先輩後輩の間柄で色々関わりになった人だった。いや、今もか。彼女は、従姉妹が設立を画策している部活の顧問に内定しているらしい。その関係で再び鈴木先生に関わるように成った訳だ。
私は、学院の授業で大怪我をし腕に障害が残り、嘱望されていた音楽家の道を諦めた。療養と失意の中五年かかって卒業して、父の会社に属し、色々な仕事に携わった。芸能、講師、秘書etc・・・・・・。今年から父と少し距離を取り個人で調律師のお仕事。それが学院に知れたのか今期になってからかつての罪滅ぼしだか知らないけれど、ことあるごとに仕事を回してもらっている。
久々の再会後も鈴木先生は未だに先輩として慕ってくれている。学院在籍の五年の間、彼女との関係は先輩から後輩にと変わっていったのに・・・・・・私はどういう立場になって良いのか判らないから、敬語を使い少し距離を取って今に至る。
在学中、私は変わっていく立場に素直に馴染めずにだんだん孤立していった。性格もきつくなり、先日蘇芳さんにやらかした様に、トラブルメーカーの様になっていき更に浮いていった。そんな私の支えになったのは従姉妹の緑の存在だ。そんなに仲は良くないけれど、音楽を通しての繫がりがある。緑には素質がある。事故前は直々に指導したし、事故後も色々と指導者を世話した。そして今、それは実を結びつつある。私が断念して出来なかった道で成功して欲しいと願って止まない。その為にはどんなことでもする所存だ。だけど・・・・・・
「鈴木先生、お久しぶりです。相変わらず綺麗ですね。羨ましい。続きは車の中で・・・・・・。指示のあった荷物は後ろに積んであります」
道の駅で待っていた私の前に、黄色のポルシェが止まった。さすがに格好良く視線が集まり、『おい、あれ996じゃないの? 初めて見たよ。しかも運転してるの女じゃなくね? 』こんな声がチラチラ聞こえる。先輩は窓を下げて乗り込む様に指示した。好奇の目に晒されながら乗り込みシーベルトを閉めると。ロケットスタートして道の駅を後にした。
「何もそんなに飛ばさなくて良いわ。時間に余裕があるし。スピード違反で捕まったら、赤切符は確実よ。それに久々に二人で水入らずなんだもの。ゆっくりとお話をしたいの」
「いや、後ろからついてくる車が居たのよ、もう振り切ったから・・・・・・女だととかく舐められるのよ。敵いっこ無いのにね」
「そうなんだ。色々大変なのね。こんなに飛ばして手は大丈夫なの? 痛まない? 」
「大丈夫よ。これパワステにオートマだから。カタワの私でも何とかなるのよ」
「そんなに卑下しないで。悲しくなるじゃない。冷子先輩・・・・・・」
どうだ? うまく行ったのか。まあ、騒ぎになってはいないし僕達関わったものに呼び出しがかかっていないところを鑑みると、取り敢えず無事に出て行った様子だな。それじゃこちらは、月命日の祭事の会議にでも行きますか。
「ネリー、行こうよ。それにしても使っていない部屋ってのは独特の匂いがするんだよな・・・・・・窓は開けていこう」
ネリーと書記と連れだって来客用の応接室に出向いた。途中介護の先生と一緒になり、先生の立案したプランに目を通す。
「先生、こんなに立派で良いんですか。費用が気になります。もう少し質素な方が・・・・・・。いや予算の裏付けがあるならこれはこれでいいと思いますけど」
「お前達生徒はそんな事気にするな。金の成る木を見つけたんだよ。オッ、鈴木先生が帰ってきたよ。さすがに速いなーポルシェは。この間乗せてもらって酔っちまったよ。先生に話があるから先行っててくれ。そう言って先生は右手の人指し指と中指を絡ませた」
窓の向こうに黄色い車が見える。そうだ荷物。書記の子に、図書委員と視聴覚委員に受け取りに出向く様に連絡をしてもらう手筈を依頼した。後は各々が処理していく決まりだ。学院から見たらルール破りそのままだけど、皆だって娯楽に飢えているんだ。チクッたりはしない。向こうがこっちに気付いた様で、鈴木先生が手を振っている。僕達も窓を開けて手を振る。ひとしきり手を振って先生が頭の上に手を伸ばして大きな丸を作った。心底ホッとした。ネリーも顔がほころんでいる・・・・・・
お掃除は終わった。お布団は乾燥機にかけてるし。シーツは新しくしたから、後は譲葉を待つだけ。今日は私達の今後を決定する大事な日。布石は色々打ったから今日はその最後の仕上げ。人払いをするのに色々と手を打った。
ここは部活棟の天文部の部室の仮眠室。私が女を失いそして女を知った場所。一人の地味で真面目な生娘が、二人の悪魔に好色な女に変えられてしまってまだ何日も経っていないのに、今日は私があの子を堕とす番だ。口ではセクハラ発言や下ネタを言うけど、あの子は結構ウブ。逃げられない様に色々と準備は欠かさない。この先の私の未来をより良くするために・・・・・・。
窓から校舎の廊下を歩く譲葉が見えた。笑顔で誰かに手を振っている。後何時間かするとあの笑顔を私だけのものに出来る。待ちきれない・・・・・・蘇芳さん御免なさい・・・・・・貴女の事は好きだけど・・・・・・どんな事をしても手に入れたいモノってあるのよ・・・・・・。
「八重垣さん、テストお疲れ様でした。貴女ならこんな初心者用の問題、どうって事なかったでしょう? 」
「ええ、まあ。ですけど・・・・・・。この最後の・・・・・・」
「なあに、八重垣さん?」
「今後のバレエの授業で助手になってくれたら、次回からテストは受けなくても良いですってのは・・・・・・」
「そう、そのままの事。曲解などする必要はないわ。で返事は書いてくれたかしら? 採点を楽しみにしています。それでは午後一時からアンケートの資料作成をお願いしますね。一式不備の無い様に揃えておきます。私もできる限り一緒に居る様にしますから安心して」
「それと、お風呂の介助は何時もの時間にね。そう、孝崎さんはどうしているのかしら? 見当たらないわね。何時も側に居るのに・・・・・・」
「孝崎は、沙沙貴達と泉の方に行きましたよ。夕食のリミットまでには帰って来る予定の様ですけど・・・・・・」
「そうですか、夜まで。それまで私が独占しちゃうのね、なんだか照れちゃうな・・・・・・あの目に見つめられると・・・・・・」
「先生、どうしたんです? 何をブツブツ呟いているのですか? 私何か拙い事言いました? 」
「いえ、お気になさらずに。それでは、待ってますから用向きお願いしますね」