会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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覚悟

「ゆかり、こっちよ。こっち」

 

 姉が私を見つけて大声を出した。私も手を振って応える。先日、姉にあるお願いを申し入れた。それを色々と尽力して受け入れてくれたので、今日はそのお礼を兼ねて二人水入らずでデートすることに・・・・・・。待ち合わせにしてされたのは、寮のロビー。ここは三年生のたまり場なのだ。

 

「お姉ちゃん。なにもそんなに大声を出さなくたって聞こえるわよ。皆が見ているじゃないの。恥ずかしいわ・・・・・・」

 

「和田ちん、お前にこんなにかわいい妹さんが居たんだ? 和田ちんもこれくらい可愛げが有ったのなら・・・・・・折角だからちょっと紹介してよ。フリーだったら園芸部に入らないかい? 今度公認に格上げされるんだよ。一年生が居ないんで、困ってるんだ」

 

「いやいや、それなら料理部に来て。貴女のクラスでクイーンの白羽さんも居るから。そうそう漫才師みたいな双子さんも料理部なのよ。貴女は白羽さんと親しいのでしょう? もう暫くしたら体験入部食事会やるから是非いらして。そうそう、この間は色々御免なさいね。疑うつもりは無かったんだけど、八代会長の事故も有ったし・・・・・・」

 

 その先輩が、改めて非礼を詫びて、その場の他の人も頭を下げてきた。それを姉は複雑な表情で見ている・・・・・・

 

「先輩方、頭を上げてください。もう済んだことですから・・・・・・。それじゃお姉ちゃん行こうよ。先輩方、私は既に天文部に入ってますのでごめんなさい」

 

 

 姉を促して、この微妙な空気の漂うロビーから立ち去った。そして向うは秘密の泉と呼ばれる水場。学院で知る人ぞ知るデートスポット。一年生で此処に行った経験を持つ者は少ない。私も場所を知ってる姉に付いていかないとたどり着けない。

 

 

「お姉ちゃん、少し休もう。疲れた。喉乾いたよう・・・・・・。あとどれ位歩くの? 」

 

「ゆかり、まだ三分の一位よ。若いのに、疲れたなんて・・・・・・。まあいいわ。一休みしましょう。それにしても、ゆかりがデートしてくれるなんて凄く嬉しい。折角一緒の学校に居るんだから、もっと会いに来てよ。なるだけ一緒に居たいわ」

 

 土の上にシートを広げながら話すお姉ちゃんは、凄く嬉しそうに見える・・・・・・。

 

 姉がここに来る前は私と何をするのも一緒だった。姉は先妻の連れ子で、私は後妻の子。私とは仲が良かったのに、私の母とは折り合いが悪く。父の判断で姉は全寮制のここに入学した。そしてここでは先妻の旧姓を名乗っている。今年の夏前、私は両親を説得して後を追う様に転入した。以前から姉の誘いも有ったけど、この閉ざされた学院に来る気にさせた最後の一押しは、姉の持っていたとある写真。姉の元から簒奪したその写真に写っているのは、黒髪の美少女。私は一目惚れだった。

 

 姉とは直接の血の繫がりが無いのを良い事に? 小さい時から性的な関係が有った。そんなこともあり、好きになる相手は何時も女の子だった。そして父のバレエスクールに通っていた時から、友達から一線を超えた仲になる事も良く有った。だけど、姉の存在が恋人には昇華させる事は無かった。

 

 私がここに転入を決めた時に、父のバレエスクールに何か話が有ったらしく、バレエスクールの子達も、私と一緒に転入してきた。件の根本小夜花もその一人。

 

 小夜花も私と同じ性的志向を持つ。それはスクール時代に関係を持っていたので知っている・・・・・・。私が白羽蘇芳、小夜花は八代譲葉に目をつけていたのに、何時の間にか小夜花も白羽蘇芳に惚れてしまったらしい。謀の一環で、その事を強く意識させられた。

 

 そして私は罠をかけた相手に堕ちてしまった。あんなにも恋人になりたかった白羽蘇芳をさし置いて、その人が私の中でその存在を大きくなって行く様を止められない・・・・・・。

 

 

「ゆかり、どうしたの? 具合でも悪いの? 早いけど何か食べる? お姉ちゃんがお菓子作ってきたから・・・・・・。ゆかりの好きなフルーツゼリーよ。本当はもっと色々作りたかったけど、試験期間で料理部の厨房が使えなくって・・・・・・御免なさい」

 

 すまなそうな顔をしている姉。そんなに気にしなくて良いのに・・・・・・小さい頃から何かにつけて私に謝る姉。気質何だろうけど心苦しい。誘ったのは私なのに申し訳なく思う。

 

 

「ゆかり、さっきの事も謝らせて・・・・・・」

 

「さっきの事って何? お姉ちゃん? 」

 

「あんな所を待ち合わせにして、色々と言われてしまって・・・・・・嫌な事を思い出させてしまったよね・・・・・・。ゆかりは無実なのに、辛かったでしょう・・・・・・」

 

 姉の涙にドキッとした。そしてハンカチを取り出して、涙を拭く。姉はそもそもの発端になった農場の一件を知らない。私が卑劣にも過去の事件をネタに蘇芳さんを脅して関係を迫った事を。そしてそれは墓に入った後でも誰にも晒してはいけない、絶対の秘密・・・・・・。

 

 

「気にしてないわよ・・・・・・私は。気にしてるのはお姉ちゃんの方でしょうに。もう気にしなくて良いわ。もっと凄い事の黒幕してるから、私」

 

「嘘よ。嘘。そんな顔しないでよ。鬼の部長が形無しよ。もう大丈夫だからかたして出発しましょう。ほら、立って。お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 

「綺麗な所ね。ここは学院の敷地なの? この池、ううん、湖ってほうが適切かな? 今日は私達の貸し切り状態なんだね、お姉ちゃん。ここらでお昼にしようよ。さすがにお腹空いた・・・・・・」

 

「そうね、そこにテーブルがあるから使わせてもらいましょう。前に来たのは去年の秋だったかしら。退学した子のお別れ遠足みたいので来たのよ」

 

「去年って、二年生とかでも辞めてしまう事あるんだ。その子一体どうしたの? 」

 

「学院の先生にね、先生を好きになってしまって。それで事件を起こして辞めてしまったの。悲恋で捨てられて可哀想だった。この事実を知ってるのは三人くらいかな。アミティエの子と、私と本人と」

 

「先生も辞めたの?」

 

「先生は、まだ在籍はしてることにはなっているけど・・・・・・研修名称で、外国に飛ばされたというのが本当みたい。私達が卒業し暫くしたらまた学院に戻すのだと思う。知ってる人が居なくなってほとぼりが覚めればね・・・・・・」

 

「辛気臭いから止めましょう。折角のご馳走が美味しくなくなるわ。ゆかりはそこの湧き水を酌んで頂戴。少しぬかってるから気をつけて」

 

 

 

(ねえ、ゆかり。私は貴女が誰を好きになっても、私はゆかりを絶対に裏切らないから・・・・・・)

 

「お姉ちゃん、何か言ったー? 」

 

「何でも無いのよ。汲む時ハンカチで漉してね」

 

 

 

「ゆかりも、居ないし・・・・・・。これからどうしよう・・・・・・」

 

 蘇芳さんを明日迎えるためにしていたお掃除が終わった今、私は虚脱感に包まれている。寮にクラスメートは殆ど残っておらず、さりとて上級生に知り合いはさほど居ない私は仕方なく校内をぶらついていた。聖堂の所に来たら何やら騒がしい。

 

「根本君じゃないか、良いところに来た。少し手伝ってくれないかい? 測量の助手が必要なんだ」

 

 声をかけてきたのは八代先輩。手にはスケール。そして図面の下書き。話を聞けば、屋外聖堂横に黒沼さんの献花台を、いやちょっとした小屋を建てる事になったそうでその測量らしい。

 

「先生が担当だったのに、巧みにいなされてしまって・・・・・・先生には借りがあるから仕方ないけど。でも、君に出会えて幸せだよ。二人でなら、艱難辛苦を乗り越えられそうだ・・・・・・」

 

「お上手ですね。八代先輩。蘇芳さんが聞いたら首を締められますよ。怒った蘇芳さんの所業、私は身をもって体験しましたから・・・・・・」

 

「おいおい・・・・・・。あの時は災難だったな。まさか、後遺症とか出ていないよね? 」

 

「後遺症ですか。有ると言えば・・・・・・有ります・・・・・・」

 

 

「何、先生には話したのか。まだなら早くしろ。もしも蘇芳に迷惑を・・・・・・とか考えているならそんな気は使わなくていい。僕が仲介してその辺りはぼかすから。僕も付き合うから今すぐ行こう」

 

「八代先輩、ちょっと落ち着いてください。後遺症って言うのは、肉体的でなく心の問題です。あの時の事を思い出してください。私がある事を口走って惨劇になった・・・・・・」

 

「そうだね。根本君のあれがトリガーを引いて・・・・・・」

 

「あの時の私が言った言葉は、あの時の真実です。私は八代先輩に憧れていました。転入の時挨拶し握手して下さった。あの時惚れてしまったんです。そしてアミティエの蘇芳さんが先輩と恋人とお聞きして蘇芳さんはあの美貌。見た目だけなら負けるけど、中身で勝負。そう思い直しました。でも蘇芳さん、お話をしたらとっても良い人で付け入る隙がない。この人なら仕方ないかと思いました」

 

「だけど、言わないで腐らせるには・・・・・・。だからあの時冗談ぽく切り出して・・・・・・。あの一時、一瞬で良いから八代先輩の恋人になりたかったのです。でも蘇芳さんの愛に負けてあんな事に・・・・・・」

 

「でね、八代先輩。後遺症と言うのはですね。私も蘇芳さんを愛してしまったと言う事です。あの日、あれから短い間に色々有りました。私、本気です。蘇芳さんを私に振り向かせてみせます。負けませんから。その為には悪魔に魂を売る覚悟です」

 

 

「でもそれはこの測量の続きをしてからの話です。黒沼さんを蔑ろにする人は、蘇芳さんに相応しくないですから。黒沼さんが安心して私達の争いを見ていられる様に、良い物をこしらえましょう。それまでは休戦」

 

 一気にまくし立てて、先輩を見やると目を丸くして私を見ている。私と目が合い、互いに吹き出した。

 

 

「根本君、そうか君も・・・・・・。取り込まれてしまったわけか。でも、僕もネコの子を譲るように、"はい、そうですか"とはいかないよ。君よりは付き合いも長いし、部活やら色々とアドバンテージは持ってるつもりだし、何よりも現役の恋人だからね。ハンデは要るかい? 」

 

 

 自信に満ちた話しっぷり。だけど、交際の最後まで行ってないのは周知の事実。付け入る隙はある。

 

「いえ、結構です。でも、私と蘇芳さんは同室のアミティエ。ずっと一緒の時間を過ごす。それを軽視されると足元をすくわれますよ? あっ、交換日記は続けてくださって結構です。それを止めろと言うほど野暮天では無いですから」

 

「言うねえ。それ位の方がこっちも気合が入るってモノさ。さて、暑いしさっさと終わらせよう。葉子の用事もあるし・・・・・・」

 

 

 

「お母さん、こっちこっち。ここのバスは後ろから乗るんだよ。立花もだけど、バスの乗り方知らないって、どれだけお嬢様なんだよ。この二人・・・・・・」

 

「本当よ。花菱さんはともかく、蘇芳さんも随分と箱入りで育ったのねー。それに比べたら沙沙貴さん達は私達に近いよね。結構普通でホッとする。あっ、もちろん匂坂さんもよ。それにしても、送迎バスが故障なんてついてないわ。市バスは高いし混むし・・・・・・」

 

 

「何よ、知らない物は仕方ないじゃないの。だって花菱の家に行ってからは送り迎えが普通だったのよ? そうじゃ無い時はハイヤーが来てくれたし」

 

「ハイヤーって何? タクシーと違うモノなの? まあいいや。 委員長、私達だって田舎じゃ送り迎えだったけど、バスの乗り方くらいは知ってるよ? 委員長は自転車一つとってみても異世界の人だから・・・・・・だけど、蘇芳ちゃんが、あの体たらくとは思わなかった」

 

「だって・・・・・・。 私、ずっと引きこもりだったから・・・・・・。夜や早朝外にコンビニに歩いてお買い物行ったりした以外は、家の車で遠くの会員制スーパーと生協の宅配でこなしてたの。だから今とっても新鮮で楽しい」

 

「後ろ空いてるから並んで座りましょうよ。一人分窮屈だけど良いわよね。あの車よりはマシだもの・・・・・・沙沙貴さん達が右、左は匂坂さん達。真ん中は私達でいいわよね。"お母さん"! 」

 

 

 

「ねえねえ、彼女。一人なの? 俺達と何処か遊びに行かない? もちろんおごるよ? いいじゃん、ねえシカトしないでよ」

 

「うっさいわねー。その顔でナンパしようだなんて、ふざけんじゃないわよ。お母さんもなに黙ってみてるのよ! 」

 

「げっ、母親同伴だったのかよ・・・・・・くそっ、ついてねえ。上玉だと思ったのに」

 

「全く。だからこういうバスは嫌なのよ、ああ言う輩が居て。蘇芳さん、顔が青いけど平気? 私がこんな格好だから軽い女だと思われたのかしら・・・・・・アイツら死ね」

 

 

「さすがに、あのあしらい方はたいしたもの。凄いね孝崎ちゃんは。私達だったら、ああまでばっさりと出来ないもの。本当に来てくれて良かったよ」

 

「私も、あの手のナンパには強く出るけど、孝崎さんほどは出来ないな。芸能界ってああいうの多かったりした? 」

 

 皆に褒められて面映い。匂坂さんの質問に応えつつ、級友を見やると、花菱さんは明らかにショックを受けてる様だ。蘇芳さんと匂坂さんが二人してフォローしている。シートの影でキスをする匂坂さん。それを当たり前のように見る蘇芳さん。全く。でも正直羨ましい気も・・・・・・。八重ちゃんは私の事どう思っているのだろうか。バスキア教諭に具申した話、受けてくれるのだろうか・・・・・・

 

 

「うわー、暑いね。バスは寒いくらいだったのに。冷房の効いてる所に早く入ろう。といっても、何処でも言い訳じゃないんだよ、苺。ちょっ、パチンコ屋に足向けるんじゃない! 補導でもされたら全てが水の泡なんだから自覚しなさいって」

 

 

「なんだよ。本気で入る訳ないじゃん。ユリーは頭固いよ。下半身緩いのに・・・・・・」

 

「聞こえたよ。苺、カエルの焼き物作る話、無しな」

 

「ごめんなさい。ユリー許して。何でもするから。それだけは許して下さい、お代官様・・・・・・」

 

 

 

「さあ、先ずはお洋服と靴ね。ここのファッションビルは、中高生向きのブランドが充実していていいのよって、黒沼さんから教えてもらった事があるの。孝崎さんの意見は? 」

 

「黒沼さんって、いいセンスしてたのね。私もここならお薦めよ。先ずは其処で主役の蘇芳さんに合うドッキングワンピかスリムパンツを見てそれから皆合わせていきましょうよ」

 

 

「異議無し。その後ミュールとか見ようよ。グラディエーター、欲しがってたのって苺だっけ? 」

 

「グラディエーター、って何? マユリ説明してよ。ねえ、ねえってば」

 

「苺、説明してやって・・・・・・」

 

「マユリから聞きたいのよ。いいでしょう?」

 

 

 この二人を余所に、着替えたらコインロッカーはここね。とか残りの皆で段取りを決めていく。匂坂さんと恋人つなぎでベッタリして暑苦しい事おびただしいけど・・・・・・バスの一件で元気のなかった花菱さんも元気になってきたので一安心。

 

 

「蘇芳さん、こっちのワンピの方が私は似合うと思うよ。皆はどう? 」

 

「マユリさんの持っている方より、委員長の方が襟元がすっきりしてる分、今日アップで決めてる蘇芳ちゃんには、より似合ってると思う。それにしても蘇芳ちゃん首長くて羨ましい。後れ毛も魅力的だし。あくまでも私の意見だから、蘇芳ちゃんが選んで」

 

「全く、最初に決めなきゃいけない人が、最後まで決まらないなんて。優柔不断もここに極まれりだね。恋人はちゃっちゃか決めてやる事やっちゃう人なのにさ」

 

「苺さん、それって、私が好きモノってこと? 酷いわ。そりゃ色々と経験は積んでますけど。もう埒が明かないから、林檎さんの意見に乗るわ。レジ行って来る」

 

「やっぱり蘇芳ちゃんは、私の親友だよ。最後は私の所に還ってくる」

 

 

「よし、これで全員会計も済んだし、着替えも済んだ。そこでプリクラ撮ろうよ」

 

「ポーズどうしようか。最後は変顔で締めるからねー」

 

 皆でわいわい言いながら、全員で撮ったり、二人で撮ったり、それはもう何枚も撮った。もう楽しくて。時間がかなり経っていたのに気付いたのは。蘇芳さんのお腹の鳴る音。学院の食事と被りたくなかったので、お昼はファストフード店に入った。ばっちり決めた私達が店内に入った瞬間、空気が変わった。皆の視線を一身に浴び、テレビの仕事をしていた頃を思い出す。

 

「気遅れしちゃダメ。私達はアクトレスなのよ、そう思って。自信を持っていいわ。特に蘇芳さん、猫背になっているわよ。もっと胸を張って。今日は貴女がセンターなんだから」

 

 オーダーをして、窓際の席で食事をしていると、一人の少女が私達の所にペンとノートを携えて来た。そして私にサインを求めてきたのだ。

 

 

「あの、孝崎さん、新劇に出ていた孝崎千鳥さんですよね。ファンでした。ご迷惑でなかったらサインを頂けませんか・・・・・・」

 

「今はもう、出てないけど良いのかしら? 」

 

「はい、目を患ったとお聞きしておりますが、良くなっての再びのご活躍を待っております。そちらのお綺麗な方は劇団の方ですか? 」

 

「今日は全くのプライベートなのここで会った事は内緒にしてね。それにこの子達は、学校のお友達で芸能人では無いから写真はダメよ」

 

 頷く少女からペンを受け取り、ささっとサインを書き上げて握手と、二人で自撮り棒を使ってツーショット写真を撮らしてあげると上気した顔で少女が頭を下げてお友達の所に消えて行った。

 

「どうしたの? 皆そんな顔して。良くある事よ。こういうの。サインなんて小さい頃に色々と考えなかった? 」

 

「それもだけど、目を患ったって。どういう事? 初耳よ。知ってた人居る? 沙沙貴さん達、知ってた? 」

 

 

 そっちの事か。私が学院に転入してきた理由。それは目の病気。多分に精神的な物だと言う事で、環境を変える事を主目的に聖アングレカム学院に来た。これは誰にも言わなかったので、この反応なのだろう。

 

「そうよ。あの子が言っていたのは本当の事。八重ちゃんは気付いてるみたいだけど、皆に話した事は無いから。驚かせてしまって御免なさい。お願いなんだけど、この事は内緒にしてね」

 

「孝崎ちゃんがそれでいいなら。いいけど・・・・・・」

 

「私達、眼鏡屋さんに行くから、孝崎さんも一応測定してみたら? 一時しのぎでもよく見えたりするかもしれないし」

 

「そうね、花菱さんの話も一理あるわね。行くだけでも行ってみようかしら。マユリさんも蘇芳さんもメガネ作るんでしょう? 沙沙貴さん達はどうするの? 」

 

「私達は、ひやかしだよ。目は自信あるんだ。遺伝だか知らないけど、うちの家系は目の悪い人居ないらしい」

 

「私は、憧れのコンタクト。バレエの時、汗で困ってたから。それに、メガネだとお店でラーメンとかで困るんだもん・・・・・・」

 

「えっ、花菱さんみたいな超お嬢様でもラーメンとか食べるの。それって・・・・・・号外出そうなくらいの驚きよ」

 

 

「テンパーのお嬢ちゃんじゃないかさ、久しぶりだね。今日は一人でここまで来たのかい。何時ものあの子はお出かけなの? 食券、其処まででいいよ取りに行くから。端の所で待ってな。持って行ってやるからさ」

 

「サンキュー! おばちゃんも元気そうで何よりだよ。元気が一番。そうそう、御飯は中盛りにしてね」

 

「わかったよ。食って大きくなりな。そこのフルーツおまけしてやるから、どれがいい? 」

 

「パインで」

 

 私は、授業に出ていない頃、ここに入り浸っていた事が有り、ここのスタッフのおばちゃんとは昵懇の仲なのだ。

 

 

「私にも一口頂けるかしら。八重垣さんは好き嫌いが無いの? 偉いわね。先生は結構あるのよ。教育者としては恥ずかしいのだけど」

 

「今日、黒沼さんの祭壇の話に急に呼ばれてしまって・・・・・・。ご両親に連絡取ったりと、今までてんてこ舞いだったのよ。ああ、パインが美味しい」

 

カットフルーツをひとしきり味わってから、食券に無いメニューをオーダーした。

 

 

「私は、おにぎりセットをお願いします。沢庵とひじきを少し入れて下さい」

 

 何度か見ているとはいえ、金髪の外人さんが選択するチョイスでは無いよね・・・・・・と思う。ポットから淹れた緑茶もその感を強くする。

 

「先生、それだけで足りるのですか? 」

 

「ここの所試験の関係で運動不足になってしまって・・・・・・恥ずかしい話だけど、少しばかり太ってしまったの・・・・・・」

 

「でも毎晩、レッスン室の電気が点いているから、"自習"を欠かしてはいないのでしょう? それなのに? 」

 

「八重垣さんはあらゆる事に目を配っている様で少し怖くなるわね。なんだか心の底を見透かされているみたい。しかるべき組織に居たら・・・・・・そう思ったら本気で怖い」

 

 別に私はアングレカムのモサドを気取るつもりも無いし、先生の思考は杞憂でしかないのだけど・・・・・・。何か隠し事でも?

 

 あっと言う間に食事を済ませた先生は手持ち無沙汰のようだ。立ち上がって献立表を見たり、掲示板の新聞社提供写真ニュースを見てみたり。それでもここから立ち去らない。無神経にかなり遅れて食事を終わらせた私を待ってましたとばかりに外に連れ出した。もちろん食器はきちんと返却して礼済みだけど。

 

 

「八重垣さん、この間孝崎さんから相談が有ったんですよ。お風呂の介助の事で私の代わりに孝崎さんがやりたいって直訴してきたのよ。私も色々と用事があるから、彼女の申し出を受けてみようと思っているの。それで当事者の八重垣さんの意見を聞きたいのだけど・・・・・・」

 

「孝崎では少し不安な面もありますので、出来る事なら先生にお願いしたいのですけど・・・・・・でも、先生のご都合を優先して頂いて結構です。私、迷惑ばかりかけていますので」

 

 

「そう。わかりました。私も淋しくなります。特定の生徒と仲良くなるのは本来良くないのでしょうけど、私はどうもクラスの子に嫌われているようなので、八重垣さんとのこのような関係は楽しかったし、嬉しかった」

 

「先生。私も担任が先生で良かったと思ってますよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

(もしも・・・・・・さっき思いっきり否定してくれたのなら、私を選んでくれたのなら・・・・・・。私、八重垣さんの事を・・・・・・。いけない・・・・・・何を考えてるのダリア=バスキア。あの子は生徒なのに・・・・・・)

 

 

「着きましたよ。先生。さあ、選択授業の資料を早くしあげて、バレエの方もマニュアルを作りましょうよ・・・・・・」

 

 

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