「ゆかり、貴女だったのね。写真抜き取ったのって・・・・・・」
陽が西に傾きかけて、少し風が出てきた。私達は水場を離れ放置されて廃屋同然のバンガローに場所を移し、冷えた身体を回復させると同時にさっきの話の続きをした。
「で、ゆかりはそんな色仕掛けを画策してまで蘇芳さんを手に入れようとした・・・・・・と。その蘇芳さんを諦める程に、あの白木葉子が良いって言うの? 」
「自分でも良く分からないの。でも葉子先輩に指導していて情が移ったのは確か。だけど蘇芳さんは小夜花に譲った形になってるし、件の葉子先輩は、今頃・・・・・・」
「キングサイズのベッド上で情事の真っ最中。あの会長とまぐわってると。ゆかりの話を聞く限りでは、会長はもう落ちていてもおかしくないわね。あの会長は結構初い所有るし。だとしたら、もう付け入る先は無いわよ。それよりは・・・・・・」
「そうなんだけど、蘇芳さんがこの経緯を知ってしまったら、私・・・・・・小夜花みたいに締められちゃうのかな、軽蔑されたくない」
「あのねえ、だったらーしなきゃ良かったでしょうに。ゆかりは来て早々、私から聞いた血塗れメアリーの一件から脅してるんでしょうに・・・・・・。今更何を怖気づいているの? ここまで来たら強引に行きなさい。そんな事よりクラスの子が気付いた方がやっかいよ。蘇芳さんみたいに口が固くないのでしょう? 」
「うん・・・・・・」
「蘇芳さんは何時帰って来るの? 帰ってきたら私が一緒に頭を下げに行ってあげるからね。ゆかりは何も心配しなくても良いよ。私がすべて丸く治めてあげるから安心しなさい・・・・・・だから白木葉子は諦めなさい。今後は関わらないように。それがゆかりには一番良いとお姉ちゃんは思うの」
「あの子には変な噂が無かった訳じゃないし、もし何がしかの写真や動画なりが有ったら即刻消しておきなさい」
「変な噂って? 」
「一年前に顧問の先生が寿退職したのよ。その時にあの子だけが、頑なにお祝いをしなかった。上級生が代わりにプレゼントを用立てて事を音便にした事が有った。大体その先生が休職でなく辞めたのも、あの子の呪いだとか・・・・・・。その先生の消息が途絶えたのは父親の人脈で処理したとか。闇の部分を噂をしていた上級生も突然理由も告げずに辞めてしまったの。それも一人じゃないの。これは多言無用。おそらく天文部の現三年生しか知らない事だから」
お姉ちゃんは封印していた記憶を、逆行催眠術で取り戻すように語り始めた。にわかには信じられない。私達の前では、あんなにも従順に恥ずかしい事を受け入れて被虐の悦びを享受していたのに。指導していたつもりで色々したのに、それすら釈迦の掌の上で踊らされていたと言う事なのか・・・・・・。
あの時の事を思い出していると手が勝手に秘部に潜っていった。目を閉じながら一人で慰めていると・・・・・・
「一人で何してるのよ。真面目に話をしていたのに慎みが無いわねーこの子ったら。聞く気無いなら話はもういいわね終了」
「まだ時間はあるし、ゆかり、こっちに来て。お姉ちゃんといい事しよう。そうね、昔みたいにお医者さんごっこしようよ。そこのリュックの中に道具入ってるから・・・・・・久しぶりにゆかり先生に触診されたいの」
「何よ、甘ったれた声出して。まあいいわ。お姉ちゃんは何時も患者さんだったよね? こっそり道具持参なんてこの恥知らず。よくまあ人の事を慎みが無いなんて。相変わらずのドMなの? クランケはここに横になって、そうしたらショーツ脱いで」
「意地悪ね・・・・・・。先生、お腹が張って苦しいんですけど見てください。お願いします・・・・・・」
「これは酷い。何日ため込んでるんですか。あまり使いたくはないのだけど、レシカルボンを使うからね・・・・・・効かない様ならほじるわよ」
真っ暗になるまではまだまだ時間がある。それまで愉しみましょう。お姉ちゃん。
「蘇芳ちゃん。ゾンビグッズがこんなに売ってるなんて思わなかったよ。見慣れると結構かわいいじゃん!? 。林檎もユリーもそう思うよね? 」
苺姉が私に振ってきた。正直可愛いかは微妙だけど、蘇芳ちゃんはとても嬉しそう。お店のモノをフルコンプしそうな感じで選んでいた。そして私達もお揃いになる様に幾つか買い求めた。嬉々としてお薦めを語る蘇芳ちゃんに疑義の目を向けるのは・・・・・・。
「蘇芳さんってゾンビ好きなの? 綺麗な顔して・・・・・・本当に? 皆で担いでない? 私の事を・・・・・・」
「孝崎さんは、まだ居なかったものね。入学して初めての自己紹介の時に、皆がドン引きする事件があったのよ。それって言うのがー」
「立花さん、恥ずかしいからヤメテ。後生だからこんなお店の中で言わないで・・・・・・」
「じゃ、立花に代わって不肖匂坂が説明を。蘇芳さんが自己紹介の番の時、ゾンビ映画が好きって嬉々として切り出して、ゾンビの歩く速さに持論を得々と語ってさ。かわいいだの何のって話し始めて、教室は空気が変わって凄かった。まさにドン引きって言う奴。それなのにまだ続けるから、ダリア先生に止められて。あれで止められてなかったら、一時間でも話してたと思うよ。それくらいの好き好きアピールしたのさ」
「酷い・・・・・・。誇張よ。そんなに言ってないわ。止められたの確かだけど。マユリさんの意地悪・・・・・・」
「蘇芳さん、今度その辺りの話を聞かせて。退院したら部屋に来てよ。八重ちゃんも聞きたがると思うし」
「そういえば、ガッキーの趣味って何? 読書は除外とすると他に思いつかないんだけど・・・・・・」
「映画も本と同じくらい好きね。それ以外だと、鍵開けとか人間観察とかかな・・・・・・」
「健全じゃないって言うか、それは十四の少女として拙いんじゃない? 同じ書痴として蘇芳ちゃんはどう思う? 」
「私は、今のままでも良いと思うわ。ただね・・・・・・」
「ただ? 」
「お裁縫とか編み物とかああいうのが向いてる様な気がするのよ。でもあれをヤレよこれをヤレって煽るのではなく、家庭科の授業が本格的に始まれば自然と始める様な気がする。だからその時まで待てば良いわ」
「達観してるね。さすがにお母さんだ。そういえば蘇芳さんカメラ屋さんで姿を見ない時が有ったけど、何処に行ってたの? 」
「それは内緒。秘密・・・・・・よ。その内判るから暫く待ってて。マユリさんも皆もね」
突然、夕焼け小焼けのメロディが風に乗って聞こえてきた。時計を見ると午後五時。皆で顔を見合わせて頷く。愉しい時間は永遠ではない。リミットが来てしまったのだ・・・・・・。
「荷物も有るし、病院に戻るのタクシーにしましょうか。二台で。あそこが乗り場みたいね。急ぎましょう」
「立花、先輩方や千葉さんのお姉さんへのお礼の品をまだ買ってないよ。どうする? 」
「うっかりしていたわ。蘇芳さんと沙沙貴さん達は一足先に病院に戻って頂戴。マユリと孝崎さんは、私と一緒にお礼の品を選ぶの手伝って」
「了解。蘇芳ちゃん、急ごうよ。委員長にお願いなんだけどさ。マカロンとかを少し買っておいてくれないかな? 」
「いいけど。包んでもらう? それとも直ぐに食べちゃう? 」
「先輩にあげるんだけど、ラッピングは自分でするから。素のままでいいよ」
「苺姉、早く、早く。先行っちゃうよー」
「林檎、蘇芳ちゃん。待ちなさい、待ってよ・・・・・・」
「遅いわよ。あれ?、貴女たちだけなの? 他の皆は? 」
既に駐車場には、冷子さんが待っていた。私達しか居ない理由を説明すると、安心半分、いらだち半分の顔になった。疲れたのだろうか車の中で目を閉じて二人抱き合い、寝てしまった沙沙貴さん達。それを横目に見ながら私は冷子さんと車の外であの時以来の時を過ごす。
「蘇芳さん、元気そうね・・・・・・良かった。あの時は本当に御免なさい。ここに来る原因を作ってしまって・・・・・・。緑に叱られてしまったの。だから罪滅ぼしにこの企てに参画することにしたの」
「緑が蘇芳さんのことを、それはもう褒めちぎって・・・・・・私、嫉妬してたのよ。あの日会う前に、サプライズ演奏のビデオを見せて貰ったわ。緑があそこまで蘇芳さんに入れ込むのが判った気がした。だけど今までずっと私の方だけ見ていた緑が、私を捨てる様な錯覚をしてしまって・・・・・・」
「私はもうスポットライトの当たる舞台には立てないけど、演奏部のスーパーバイザーとして蘇芳さんと緑をバックアップしてあげるからね。もっと自分を大事にして頂戴。怪我をしそうなことは、もう止めて・・・・・・」
あの時と違い、冷子さんは感情を抑え訥々と話す。演奏部? 何の事だろう。合唱部が有るのに吹奏楽部が無いって話しで設立の噂を耳にした事が有ったけど・・・・・・。
「演奏部って? それが私と何の・・・・・・? 」
「蘇芳さん、何をとぼけているの? 貴女は秋に発足の演奏部にスカウトされるのよ。緑から聞いて無いの? だからサッカー部を止めて頂戴って事よ。キーパーして手が裂けたらどうするのよ! 」
「えっ、初耳ですけど・・・・・・」
「緑ったら。メインのピアニスティンに声をかけていないなんて、信じられない・・・・・・。本当は料理部も止めて欲しいのよ。包丁で指を痛めでもしたら・・・・・・」
いったい何が何やら・・・・・・だ。勝手に決めないで欲しい。しかし、以前会った時に、緑さんの演奏に対する拘りをとくと聞かされ、それとなく組んでみたいと言われていたけれど、あれは社交辞令かと思っていた。本気だったのか・・・・・・。
「あの、私は料理が好きですし、沙沙貴さん達も居るし譲葉のコーチもしていますので、料理部は辞めません。サッカー部は・・・・・・。譲葉が居ますし、マユリさんも苺さんも・・・・・・。 出来るなら続けるつもりです」
「頑固な人ね。でも私みたいに怪我して障害者になって手が動かなくなったら、取りかえしがつかないのよ。才能の無駄使いは止めて。良く考えて頂戴。今日はここまでにしておくわね。これ私の名刺よ。近々また会えると思うから。話の続きはその時に。ほら向こうにお友達が見えたわよ・・・・・・」
冷子さんの視線の先に、立花さん達がダッシュでこっちに来るのが見える。
「すみません。遅くなりました。後ろ開けて下さい。荷物を仕舞わないと・・・・・・。一人足りない? マユリは今トイレに」
「冷子さん、遅くなってゴメンね。お土産選んでたら遅くなっちゃった。今度の車は広くていいわー」
タメ口に近く話す孝崎さんにびっくりした。荷物を余所にさっさと乗り込む孝崎さんを、冷子さんが一瞥して立花さんと整然と荷物を積み込んでいく。トイレに行っていたマユリさんが来た時には積み込み完了。
「それじゃ、蘇芳さん明日また学院でね。今日は本当に楽しかった。一生の思い出よ。ほらお見送りだから起きて・・・・・・」
立花さんの呼びかけに、寝ていた沙沙貴さん達も起きて手を振る。窓を開けて手を振る彼女達を私もまた車が見えなくなるまで手を振り続けた。
「学院までは二時間近くかかるよ。この車は遅いから。それまでは寝たいものは寝ておきなさい。侵入口に来たら起こすから。そして君達を下ろしたら、この車は正門から学院に入り荷物を降ろして帰るから、最低限の荷物を持って降りなさい。荷物はヨゼフ座の入り口にシートを掛けて置いて置くから各自回収して行く様に。連絡は以上。何か質問は? 」
「コンビニに寄って下さい・・・・・・」
「千鳥ちゃん・・・・・・いきなりね。トイレ行かなかったの? 」
「それも有るけど、お腹空いちゃった。てへ! 」
「てへじゃないわよ。他の者は平気? 」
「寄って頂けるなら、是非お願いします」
「ミートゥー」
「仕方ないな。あと十五分も走れば一軒あるからそこに寄る。その先は何にも無いからな。それにしても夕日がもうすぐ落ちるけど、夜歩きの用意はしてあるんだろうな? 」
「懐中電灯は用意してます」
「まさか鞄の中じゃないだろうな。それだと・・・・・・。図星か。コンビニに止まった時に後ろ開けて出しておきなさい。それと履物を・・・・・・それもか・・・・・・」
全く、この子達は。家に帰るまでが遠足という至言を知らないのだろうか。
「全員乗ったな。行くぞ」
「お願いします。沙沙貴さん達もこれから先は起きていて頂戴。孝崎さん、目は大丈夫? 夜は平気なの? マユリはまた足挫かないでね・・・・・・」
委員長の花菱君が何かと気を使っている。この子が居るのなら、まあ心配は杞憂か。そんな事を思いながら、ひたすら空いている道を飛ばす。そして侵入口に着いた時には、陽が落ち空にうっすらと星が見えている。逢魔が時、この時間にここから山道を学院に歩くのは正直無謀だ。だけどそうしないとこの少女達の冒険の旅は終わりにはならない。山歩きには全く向かないけれど、ここで制服に着替えて学院にバレないようにする・・・・・・
「それじゃ。気をつけて。何れまた会う機会があると思うから、その時には今日の事を話してくれないか。それじゃ元気で」
「行っちゃったね。さてこれからが本番。私達が前歩くから、孝崎ちゃんが真ん中、委員長達はしんがりを。少しでも明るいうちに距離稼ぐよ」
譲葉ったら何処に消えてしまったのかしら。これだけ捜して居ないなんて・・・・・・。捜し残ったのは、部活棟だけ。料理部にも出ていないというし、合唱部は私が確認している。残るは天文部だけだ。部室の前に赴き、ノックをして声をかける。中から聞こえるのは譲葉のアミティエ、白木葉子さんの声。
「こちらに譲葉来ていませんか? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「居るわよ。何か用かしら? 」
「決済のサインを頂きたいのだけど」
暫し間が空き、かちゃがちゃと鍵を開ける音がして、中からドアが開いて私は中に入った。確かに譲葉はそこに居た。居たのだけど・・・・・・。その姿は・・・・・・。首輪をはめられてる全裸の牝・・・・・・。
「葉子さん、一体ここで何を・・・・・・譲葉、貴女一体・・・・・・」
「小御門さん、そんな顔しないで下さらない? 。何をって? 譲葉とナニをしただけよ。小御門さんだって経験有るでしょうに? ああ、小御門さんにも譲葉の神々しい様を見せてあげたかった。最初は嫌がってたけど、直ぐに私を受け入れてくれたの。何度も私の名を口にして・・・・・・逝った顔が愛しくって。今日からは譲葉は私の物よ首輪はその証」
「気が触れたの葉子さん! 強姦みたいな事して。人間として最低よ。 譲葉、首輪なんて外して早く服を着なさい。どうしたって言うのよ、どうしてこっちを向いてくれないの? 」
近寄る私を、葉子さんが突き倒した。普段とあまりに違う様相に、身体が固まる。怖い、この人は悪魔・・・・・・。
「小御門さん、ウザイから出て行って。余韻が台無しよ。譲葉は今日から私のモノなの。誰にも渡さない。 貴女何しに来たんだっけ? そうそう書類を貸しなさい、あとで渡すから。折角愛を確かめ有っていたのに、お邪魔虫は出てって頂戴」
譲葉は全裸でベッドに立て膝をして座っている。私と葉子さんの怒鳴り合いが聞こえているはずなのだけど、無反応なまま全裸の身体を隠す事をせずに固まっていた。膝に顎を乗せ外を見ているけど、目が死んでいて何も見えていない様に思えた。白い肌に残る無数のキスマークに痣。爪の痕。それに幼女の様につるりとした秘部が今に至る事の次第を証明していた。
「ニカイアの会の人間として、いいえ、一人の女性として・・・・・・看過できないわ。こんな事って。酷すぎる・・・・・・」
「何が酷いって言うの? 私達は愛し合っただけよ。すこし激しかったのは認めるけど。譲葉、小御門さんに説明して差し上げて」
「僕は、今日から葉子と付き合う事になった。そして互いを求め有った。蘇芳とは別れる・・・・・・。そう言う事だから、今日は帰ってくれお願いだから・・・・・・」
ぽつりぽつり話しだす譲葉にショックを受けた。単なる脅迫なら譲葉はこんなにも無力な姿を見せたりはしないと思う。何か普通ではない事が起きたのだ。葉子さんに書類を手渡し部屋を出た。あんな姿を見続ける事は無理・・・・・・。廊下の角で泣き崩れていると、譲葉が部室から出てきた。首輪はしていない。無言で私の手を取って立たせようとしてけど、私はその手を振り払った。譲葉は書類を私の所に置いて立ち去り、宛ら幽鬼の様に階段を降りて行った。
「あら蘇芳さん、帰ってきたのね。いい顔してる。楽しんだみたいね。その服も似合ってるわよ」
「ただいまです。これお土産です。お借りしたスーツと孝崎さんのお洋服、クリーニングに出したいのですけど、どうしたらいいでしょうか?」
「そんな事気にしなくていいわよ。返してくれれば良いから。もうすぐ夕食よ。あと二回で終わるから薄味でも我慢してね」
主任さんをステーションに尋ねて、お土産を手渡した。借りていた洋服を返して、病室に戻る。ベッドに横になり四肢を伸ばす。久しぶりに距離を歩いたので、脚がパンパンになってる。ここまでむくみが酷いのは初めてだ。いや、サッカーの試合をした時もこんな感じだった。ふとあの試合を思い出し、冷子さんの話が頭の中をグルグル回った。譲葉は知っての事なんだろうか? それとも? 私からは辞める理由なんて無いし。気にする事なんか無いよね。そう結論付けて考えるのを辞めた。
夕食を済ませ、看護師さんの好意でシャワーを借りた。そして、朝からの楽しみ、譲葉からの交換日記。やっと読める。手を洗い清めてからページを開いた。
そこには愛しの譲葉が居た。近況から始まり、私が質問した身体の性徴の事、女同士の性交渉や同性愛と学院との妥協点、料理部の事、身体や髪のケアetc・・・・・・。丁寧な字でびっしりと書き込んであり、私の書いた所との違いに恥ずかしくなった。アミティエ試験の時には私がびっしりと書いて恥ずかしかったのにね。苦笑しながらページをめくると、写真が挟み込んであった。それは私の写真にキスをしている譲葉が写っていた。セルフタイマーで撮ったのだろうか。裏には"早く会いたい・・・・・・蘇芳。最愛の人"そう書いてあった。涙が止まらない・・・・・・。私も会いたい。日記帳に思いの丈を書き込んでいく・・・・・・。
消灯時間になり、長かった一日も終わる。日中の疲れも有り、横になって直ぐに闇に落ちて行った。夢に譲葉を出させようと日記帳を抱えて・・・・・・。
「これで、半分くらい来たのかな。このままなら夕食に間に合うから、足元気をつけて落ち着いていこう。孝崎ちゃんは元気そうだけど、ユリー、委員長は平気? 」
苺姉がリーダーシップを取る。順調と言うには多少の問題が発生していた。途中で委員長が足を木の根で挫きで少し立ち止まっていた時に、やられてしまったのだ。そう、蚊に襲撃されて・・・・・・一同ボコボコに。一番やられたのが委員長で、次が孝崎ちゃん。マユリさんと私達は不人気で助かった。委員長はかき壊して血が出てしまってるところも有るほどでまさに踏んだり蹴ったり。虫よけまで考えが及ばなかった、私達の大失敗。
委員長以外にも転んで擦りむいたり、蜘蛛の巣にかかったり、イラクサで痛い目にあったり笹で手が切れたりと問題は山積して段々士気が下がってくる。ぐすぐす泣く委員長をマユリさんが懸命に介抱する。でも辛そうで・・・・・・。鼓舞する苺姉も、次第に無口になってきた。
辺りは既に真っ暗になり、懐中電灯の明かりに全てを委ねた。月は雲に隠れてしまって役に立たない。難儀していると後ろから二つの青白い明かりが近づいているのに気付いた。私達は恐怖におののく。だってこんな時間、こんな場所で明かりなんて・・・・・・。人魂? 孝崎ちゃんが呟いた言葉に私達はパニックになった。私や苺姉は耐性が有る方だけど、この時の怖さはチビる程。実際、病院でもコンビニでトイレに行かなかった怖がりの委員長は・・・・・・。
行軍の速さを失った私達に後ろからの青白い明かりはドンドン近づいてくる。一本道で切り通しになっている場所なんで逃げ場が無い。この時には人魂というより、宇宙人が攫いに来た様な恐怖が皆を包んでいた。
「私達、こんな所で攫われちゃうの? アブダクションされて何かインプラントされて宇宙人の子供を孕まされるの? それとも、キャトルミューティレーションみたいに内蔵まで晒されて惨殺・・・・・・」
孝崎ちゃんが恐怖のあまりマニアックな事を口走り、さらなる恐怖を煽る。正直、皆覚悟していた。グスグス泣く中、私達は懐中電灯を消して・・・・・・シダの生えるヌタヌタした窪みに皆で抱き合い最後の時を・・・・・・。
「そこに居るのは誰? 女の子達じゃないの・・・・・・。学院の下級生ね。泣かなくていいわよ。安心しなさい。ゆかりちょっと急いで、貴女のクラスメイトみたいよ」
眩しい明かりに照らされた私達を若い女の声が包み込む。助かった。人間だったんだ。声の主が明かりを絞った。そして、もう一人別の声を聞き取った。
「お姉ちゃん、クラスの子よ。沙沙貴さんと匂坂さん、孝崎さん、もう一人は花菱さんね。どうしたの? こんなに赤土で汚れて・・・・・・。ううん、それよりこんな所で何をしてるの? 」
「ゆかり、それは後で聞きなさいよ。こんなジメってる所に止まって居ては拙いわ。少し先に石舞台になっていて乾いてる場所があるから、そこまで行きましょう。歩けるかしら? あら貴女は脚をくじているのね。ゆかり、肩を貸してあげて」
「わかったわ。お姉ちゃん。花菱さんも皆も全身がが汚れてるからそこに着いたら先ずは身体を拭きましょう。拭き終わったら状況を教えて。少しなら薬持ってるから。赤チンも有るのよ知ってる? 赤チン」
そうだ、後から来た声は、クラスの保健委員の関本ゆかりさんの声だ。もう一人は三年に居ると聞いていたお姉さんと理解できた。顔を拭き、脚を綺麗にして、お水を飲ませて貰った。傷口を消毒し薬を塗り、かゆみ止めと虫よけを塗布した。皆、落ち着いてきたので委員長がお礼を口にした。
「ありがとうございます。助かりました。ハイキングの帰りなんですけど遅くなってしまって。私が挫いたり、虫に食われたりと・・・・・・それに、後ろから明かりが人魂に思えたりして・・・・・・ちょっとパニックに」
「困った時はお互いさまよ。私は天文部の部長の和田です。ゆかりは妹なの。よろしくね。続きは歩きながらしましょう。少し悪路だけど近道があるの」
近道をしてかなりの時間を稼いだ。挫いている委員長には辛そうだったけど、なんとか遠くに学院の灯が見えるところまで来た。チャイムの音も良く聞こえる。水場で小休止をして各人のコンディションを再確認した。学院で怪しまれないように、洋服の汚れを落としていく。
「この時間ここを歩くには、もっと用意をしなくてはダメよ。次からはちゃんとしてね。今日みたいに月が隠れてると、キツいから。それより・・・・・・」
和田さんが関本さんを横に従えて私達の側に座った。
「貴女たちに、赦して欲しい事が有るの。それは蘇芳さんの事。取り敢えず聞いて頂戴。ゆかり達が転入した時に農場のところで蘇芳さんが倒れていた事件があったでしょう。あれはゆかりが犯人なの」
「この中の何人かが、前に夜に校内に不法侵入して天文部員に捕まった事が有ったでしょう。それを私がゆかりに話したら、それをネタに蘇芳さんを脅迫して関係を迫った。あのことは学園には内緒になってるのよ。それを言えば、捕まった子は全員放校になるでしょう。だから捕まえた部員も八代会長も誰にも話さなかった。だけど、私はついうっかり口を滑らし、ゆかりは禁を破った。その事で蘇芳さんや貴女達をを苦しめてしまった。蘇芳さんが戻って来たら、謝罪をするけれど、その前にこんな形とは言え、貴女たちに会えたから先に話を・・・・・・。本当に御免なさい。貴女たちの大事な蘇芳さんに大変な迷惑を掛けてしまった・・・・・・」
二人して土下座をして謝る。私と苺姉はかつての想像が大体合致しているのに驚くと共にやはり・・・・・・の思いだった。委員長とマユリさんは初耳に近かったようできょとんとしている。孝崎ちゃんは、私達以上に事情を知っている様で、二人に掴みかかりそうな感じだった。それを私達が収めると・・・・・・。
「それで、貴女たちは今日学外に出たんでしょう? 蘇芳さんは元気だった? 」
「一体何の事ですか? 私達はハイキングに・・・・・・」
「嘘おっしゃい。あの道は外に出る道、帰る道という事は上級生なら大抵知っているもの。その格好にしても持ち物が少ないことからハイキングじゃないのは一目瞭然よ。それに・・・・・・反応がわかりやすすぎるのよ、貴女たちは。まあ、この事を内緒にするから、妹の不始末で貴女達に迷惑掛けた分をチャラにしない? いいでしょう? そこの睨んでる貴女もよ・・・・・・」
「脅しですか? 」
「心外ね。取引よ。あのままあそこで貴女たちを放置しておいた方が良かったのかしら? そうしたらもっと拙い事になっていたでしょうに? 蘇芳さんも、協力者も全員芋づる式に検挙されてしまったらどうする気だったの。二度と会えないならともかく、明日には帰ってくるんでしょうに・・・・・・もっと大人になりなさいな」
「・・・・・・・・・・・・」
「判りました。手を打ちます・・・・・・」
「そう。いい子ね。後日、念書にサインしてもらうわ。もちろん私達も書くから心配はしないで。それは貴女たちが保管して頂戴。じゃ学院まで、後もう少しよ。さあ立って。温かいお風呂に美味しい夕食が待ってるんだから・・・・・・」