会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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喪失と秘匿

「うわ、ちょっとあれ見てよ」

 

「うっそー。どうしたっていうのかしら。大胆すぎる・・・・・・」

 

「会長はあの白羽さんと交際していたんでしょう? 乗り換えたのかしら? 」

 

「寝盗られたんじゃないの? だってあの葉子さんの得意気な顔。それに比べて八代会長の覇気の無さ」

 

「蘇芳さん、捨てられちゃったって事? 八代会長も事情が有るのかもしれないけど弄んでポイ捨てとはあんまりじゃない? 見損なったな」

 

「白木さんだっけ? 言っちゃ何だけど地味よね、蘇芳さんの方がお似合いかも・・・・・・」

 

「今入院してるんでしょ蘇芳さん。どっちがどうか真相は知らないけど、黒沼さんの事も有るし・・・・・・何だか蘇芳さんが可哀想・・・・・・」

 

「これ本当に現実なの? 酷すぎるよ・・・・・・」

 

 

 ざわめく食堂。原因は僕とアミティエの葉子。恋人つなぎで手を取り入室し部屋の真ん中の席に並んで座り、互いにあーんをして食べさす。周りの視線がここぞとばかりに刺さっていく。葉子の希望。それを拒むことが出来ない僕。今日帰って来る蘇芳にどんな顔をして会えば良いのだろうか・・・・・・。

 

「譲葉、手が止まってるわよ。食べさせて頂戴。ねえー早く、早くして・・・・・・冷めてしまうわ」

 

「ゴメン。ほら、あ-んして。よく噛んで食べるんだよ、葉子」

 

 今まで以上に、鋭い視線に射られる。沙沙貴君と匂坂、花菱君達の何だか汚いものを見るような視線と、保健委員の関本、蘇芳のアミティエの根本君の生暖かい視線。それに氷のような冷たいネリーの視線とそのアミティエの侮蔑の視線・・・・・・。葉子は一向に気にしていない。それどころか見せつける様により身体を密着させ、僕の口の周りのソースを舌で拭うなどしたい放題。いつもなら挨拶に来る子達も、誰も来ない。来たのは、ネリー達だけだった。

 

 食器を二人で下げて、席に戻りコーヒーを飲んでいる時に、二人は来た。全員の代弁者の顔をしている。

 

「ごきげんよう、譲葉。葉子さん、パブリックな場で破廉恥な事は控えてくださらないかしら? 教育上問題ですから。風紀の方にも連絡をしておきます」

 

「八代、小御門の言う通りだ。この状況は看過できるものじゃない。お前は非常識なところも多いけど、こんな事をする様な女じゃなかったろうに。見損なったよ・・・・・・」

 

 

 そんなのはわかってる。喉までその言葉がせり上がってくる。だけど、もう僕は葉子のマリオネットでしかない・・・・・・。雑言に耐え下を向き、テーブルの下でグッと拳に力を入れて堪えると、葉子が僕の手に自分の手を添えてこっちを見て微笑み、ネリーにギッと睨んで封筒を手渡した。

 

 

「小御門さん、これを読んで下さいな。そしてコピーして要所の掲示板に張って下さい。それと各人に配るプリントをお渡しします。一番下にニカイアの会への要請書が有りますから。掲示の許可は教諭、理事、職員、ニカイアの会の会長の印を貰ってあります。あと、礼拝が終わった後皆さんにお知らせしたいことが有りますので、皆を残しては下さらない? とても大事なお知らせですからね・・・・・・。それでは譲葉、行きましょう」

 

 

 ネリー達を残して、僕達は食堂を後にする。その時も、葉子はべったりと腕を絡ませる。昨日までは挨拶で廊下を歩くのも大変だったけど、今日は誰一人声をかけてこない。精々離れたとこから目礼されるくらいだ。葉子もさすがにこの空気が気になったのか、小声でごめんなさいユズ、私のせいでと呟いた。

 

 

 

「何だったんだあれ。罰ゲームか何かなの? 苺達は何知ってる? 」

 

「私達は、何も聞いて無いよ。蘇芳ちゃんを迎える為のシミュレーションなのかな? それにしても目のやり場に困ったよ。一学年しか違わないのにあんなにも淫靡なんだもの。ユリーや委員長、孝崎ちゃんとガッキーなんてあれ見たら可愛いものだね。あー、まだモヤモヤしてるよ」

 

「うん。苺姉に完全同意ですよ。朝からエロかった。だからといって委員長達は張り合わないように。昨日のあの全裸お姫様抱っこは、私達は超恥ずかしかったんだからね。二人は自分の世界で満足だったろうけどさ。八代先輩達のあの痴態、孝崎ちゃんは見てないよね? 触発されたら拙いからそれが唯一の救いか・・・・・・」

 

「ねえみんな、先輩のアレだけど、蘇芳さんには内緒にしない? 事情がわかるまでさ。立花、部活繋がりで小御門先輩から聞き出してよ。お願い・・・・・・」

 

「小御門先輩に・・・・・・。でもあの剣幕でしょ?・・・・・・。あそこまで鬼気せまる顔見せるくらいだから、あの四人に何かあったんだろうけど、私如きじゃ聞けないわよ。適任者なら沙沙貴さん達だって居るわ。料理部で八代会長とかなり親しいじゃないのよ。聞き出して・・・・・・」

 

 

「無理。あの熱さじゃ、初な私のイカロスの翼は溶けて近づけないよ・・・・・・」

 

「苺姉、それ、例えが正しくないよ。それは調子に乗るなってことだよ・・・・・・恥ずかしい」

 

「むー。この揚げ足取りめ・・・・・・。じゃ林檎、あんたが聞き出してよ・・・・・・。林檎はネリー先輩と怪談友達でしょうに・・・・・・」

 

 

「ほら、一年、そろそろ礼拝に行け」

 

 上級生にお小言を貰い、すっきりしないまま保留案件となってしまった。礼拝の後の衝撃をが全てを吹き飛ばすまでだったけど。

 

 

 

「蘇芳さん、お早うございます。いよいよね。一週間、長いようで短かった。私達も名残惜しいわ。あなたを受け持つことができて嬉しかった・・・・・・。お土産、美味しかった。皆で食べちゃったけど良かったの? 」

 

「ありがとうございます。そう言って頂けると私も嬉しいです。お土産は皆さんで召し上がって下さって。まだの人が居たらお取り置きを」

 

「いや、うちの主任にかと思ってね。あなたが来てから主任が別人なのよ。やたら機嫌が良いし、日誌もあなたの事ばかり。逆に退院後が心配になるくらいなの。黒沼さんの時はそれはもう酷かったのよ・・・・・・お酒に溺れたりして」

 

 

「無駄口はそこまでにして。検温は? 後は私が変わるから805からお願いします」

 

「主任、すみません。まだです・・・・・・。それでは805号室に行ってきます」

 

「おはようございます。主任さん」

 

「おはようございます。蘇芳さん、退院は十時位になりそうよ。お迎えは来るんでしょう? ハイ体温計。寝たままでいいから」

 

「今日は、養護の先生が車で来て下さる事になってます。主任さん、来月の第一土曜日なんですけど学院でアキラの召天記念日の祭事が行われることになりました。一般の月命日の祭事です。もしご都合が合えばご招待したいのですけど・・・・・・」

 

「えっ、そんな内々の事に私の様な部外者が行って良いの? 」

 

「主任さんは部外者なんかじゃないです立派な関係者ですよ。では戻ったら直ぐにでも招待状を用意しますから、予定を空けていただけたらと・・・・・・」

 

 

 刹那、嗚咽が聞こえたので身体を起こして声の主を見た。窓際で泣き崩れる主任さんの姿。検温のお知らせを告げる体温計を腋から引っこ抜き、脱兎の如くベッドを降り主任さんを抱き抱える。主任さんは化粧が流れるくらいの大泣きで身体は小刻みに震え、部屋に来た五分前とは別人になっていた。

 

抱き抱え私のベッドに寝かせた。グチャグチャになった顔をハンカチで拭った。刹那、頭を両手でがっちり抑えられ主任さんが私の唇を奪う。私ももそれを受け入れて、求められるままに舌を絡ませる。何十秒のキスの後、顔を離した私に主任さんは小声で"キラちゃん"と呟いた。真意は読み取れないけど、まだ愛しているんだ・・・・・・複雑な気持ちを抱く。私は・・・・・・次の恋をしているけれど、この人の時間は止まったままなのだろう・・・・・・。

 

 主任さんを抱き起こし、隣に座ってもう一度検温をやり直した。音が鳴った体温計を渡していると、朝食が届いた。最後の病院食。最後と思うと何だか名残惜しく思えた。じっと見ていると、主任さんが残しちゃダメよ。そう言って手を振って病室を出て行った。

 

 

 

 部屋を引き払い、ロビーで迎えを待つ私。土曜の今日は何時もよりは空いているようだけど、救急車が来たりしてどことなく落ち着かない。文庫本を読んでいると、頭を小突かれた。

 

「白羽、迎えに来たぞ。それにしてもお前、メガネなんか掛けていたか? こんな字の小さい本なんて読んでるからだぞ? まあそれはいいとして、ほれ荷物を寄こせ」

 

 養護の先生が迎えに来てくれた。本が詰まった重い鞄を軽々と持ち上げ、大股で闊歩していく。相変わらず中性的で豪胆な人だ。看護師さんがヅカのスターを見る様な視線を先生に向ける。なんとも淫靡だ。そして退院の手続きをしていると、主任さんを始めお世話になった看護師さんが出てきてお見送りと相成った。凄く恥ずかしいけど、『元気になって退院するって私達とっても嬉しいのよ。そうでない方が多いから』前にアキラの話をしたときに聞いた言葉を思い出ししっかりと挨拶を返した。

 

 

 

 何故か、車は玄関横付けでなく建屋の裏に有った・・・・・・

 

「く、車ってこれですか。え、えー・・・・・・以前学院で見たゲリラのトラックじゃないのこれ・・・・・・」

 

「何だよ。不満そうだな。無理に乗らなくても良いけど? BTTFのマーティだってこういうの欲しがってたろ? 判ってる奴はこういうのに乗るんだよ」

 

「あれは、おニューの新車でしょう。だってこのボロ、いえ年季の入ったレトロな車、ドアに有るマシンガンで撃たれたような穴は・・・・・・。ガントレットのバスかと思いましたよ。それにワイパーについてる紐は、もしかして手で引っ張るのですか? 」

 

「そうだけど。まあ晴れてれば関係ない。見ろよ空をこの夏の空を。快晴だ。白羽の退院を空も祝福してるよ。何だその人を哀れむような目は。早く乗れ。乗る前に行っておくけど助手席の窓はそれ以上開かないから絶対に動かすなよ」

 

 間近に見るとあまりのボロさに卒倒しそう。穴だらけのボディにテープで中途に固定してある助手席の窓。そしてその窓と運転席の窓を紐がくぐりワイパーに結んである・・・・・・。メッキはくすみ、グラフィックのデカールはは褪色が酷い。内装の樹脂は割れている。私のあきれ顔を余所に、運転しながらこの車を得々と語り始めた。曰く、逆輸入した車で日本に何台も無いと。35年くらい前の製造でこれからレストアするから今日は我慢しろ・・・・・・と。エンジンは載せ変えて快調なんだ。ウエーバーの40Φがどうたらこうたらと理解できないことを得々と語るのに閉口した。ガワもボロなら、排気音もボロボロ聞こえる・・・・・・

 

 

「凄く暑いんですけど、エアコンは・・・・・・」

 

 言ってから思ったけど、ある訳ないよな。でも窓開かないんだし、付いてるのかな? そう思った私はやはり思慮が足りなかった 質問に答える代わりに、私に扇子を投げてきたので、これ以上聞くのを止めた。運転席の窓は全開だけど夏の風は如何にしても暑く、二人して汗だくになっている。

 

 寄り道してコンビニを見つけフラッペを食べ、更に冷たい飲み物を買い込む。外に出ると車の周りに人だかりが出来ている。あまりにボロだから人だかりかと思いきや、レア車と言うことでの人だかり。先生は今までに見たことの無いはつらつとした顔で質問に答えている。挙げ句ボンネットを開けての車談義。

 

 褒めまくるギャラリーをよそに私は居場所が無い・・・・・・。仕方ないので涼しい店内のイートインで時間を潰す。先生がイートインで睨んでいる私に気が付いたのは、一時間は経っての事。平謝りの先生をチクチク苛めた。でも、あんなに愉しそうな先生を見たのは初めてだったから、ハーゲンダッツを追加でおねだりをしする程度で手を打つ。しかし炎天下に止めていた車は異常に暑く、そのアイスの貯金も、ものの五分で消滅してしまった・・・・・・。

 

 マイペースで学院を目指す私達。途中、車を止め定時連絡を入れた以外は走り続けている。電話の後、先生は口数が少なくなった。遅れの叱責でもされた様だ。

 

 

「先生、もっとスピードでないの? 何か天気が悪くなってきたわ。雷も鳴ってる・・・・・・。ワイパーを手で動かすなんて信じられない。あー、水滴が・・・・・・」

 

「うるさいよ。白羽。黒沼や八代はそんなにギャアギャア言わなかったのに・・・・・・。暫く会わないうちにキャラ変わったよな? ほれ紐を左右に。なんだ結構上手だな。その調子で頼むよ」

 

 

「先生、そっちの窓は・・・・・・。もしかして上がらないとか・・・・・・」

 

「信じられない。雨がザンザン吹き込んでくるし・・・・・・なんで直さないんですか? 先生、さっきから不思議に靴下が濡れるんですけど・・・・・・もしかして床にも穴があいてませんか・・・・・・。その白々しい口笛、図星なんですね。最低です、この車」

 

「白羽の荷物は、完全防備だから安心して良いよ。命を懸けてもいい。濡れ鼠の私達は後で一緒に風呂に入ろう。湯船に使って脚を伸ばし、身体を洗って。そうすれば汗も汚れも嫌な事も悲しいことも全部水に流せるから・・・・・・」

 

 

 

 

「これから重要な発表が有りますから、そのまま待機してください」

 

 八代会長と、白木さんがマイクの前に立つ。土曜の礼拝が終わった後、帰る事は許されずに、待機となった。そしてプリントが配られて目を通す私達。そこに書いてあった事は・・・・・・。

 

 衝撃的な内容だったけれど、あまりに規模が大きく全てを理解するにはリソースが足りない。これは上級生も同じ様だった。先生方も全員が知っていたようではない様に見える。あちこちで私語の花が咲いた。

 

 

 かい摘んで話すと、学院の経営母体が変わる。新しく白木グループが学院を経営し、旧経営陣は顧問のような立場になる。上の学院を整備買収し、エスカレーター式に上がれる高校大学を設立する。生徒数も増やす。授業の形態も変える。部活動のあり方も変えるetc. そしてニカイアの会を改変し、上に学院とのパイプ役となる組織を作る。これにはグループの一人娘、白木葉子を当てて、当人を在学中は理事補佐とし大学卒業後は正式に理事になる。その補佐としてニカイアの会を退任後に八代譲葉が当たり、白木葉子との同じ理事補佐になり大学卒業後は理事となり学院に関わる。

 

 文章には無かったけれど、十六歳になった時点で、白木葉子と八代譲葉が養子縁組を結び家族となる。そして八代の実家の会社を白木のグループ傘下に。弟はサッカー留学でイギリスに行くという。晴れやかな顔で話す白木葉子とは打って変わって、ぎこちない笑顔の八代譲葉の顔が二人の関係を物語っていた。

 

 

 

「ゆかり、あたしたちのやったことって、これに直接影響したのかしら? 」

 

 蘇芳さんを迎える為に、部屋の掃除をしつつ、あの重大発表に思いを巡らすゆかりと私。

 

「小夜花、これって相当前に決まっていたってことだよ。あれをしなくてもこうなっていたって事でしょうね。全く大した狸だよ、葉子先輩は・・・・・・さ。全てを巻き込んで欲しいものを奪っていく。私達に関わったのって単に性欲を満たす為だけに乗ったってことだね。虫も殺さぬ顔をして腹の中真っ黒だよねあの人」

 

「私達、消されちゃったりしないかしら・・・・・・怖いよ、ゆかり・・・・・・手元の写真とか何処かに埋めておく? 」

 

「外部に出してある分があるから、それは燃して証拠隠滅よ。楯突くと消されなくても、もう学院に居場所が亡くなりそうだわ。全く、私達とは役者が違いすぎる。お姉ちゃんのアドバイスは何時も正しいわ。ありがとう、お姉ちゃん・・・・・・」

 

 

 

「これって、蘇芳ちゃんはどうなるの? 離別決定なの? 蘇芳ちゃんの絶望した顔をまた見るなんて嫌だよ・・・・・・」

 

 誰も居ない、来ない場所を探してたどり着いたのは床のメンテで使用禁止になっているレッスン室の横のロッカールーム。ここに陣を張り蘇芳さんのことで鳩首会談の緊急開催に相成った。

 

「考えたくないけど、そうだよね。最愛の弟を実質人質にして、実家の会社を巻き込み、籍まで簒奪する手を打ってくるなんて、どんだけ本気なんだろうか怖いよ怖すぎる。あんな聖人顔をして・・・・・・ただ、良いことも全く無いわけじゃない。私達の進路に標が出来たからね」

 

「マユリ、今それは言わないの。それより差し当たっての問題は今日帰って来る蘇芳さんよ。この事知ったらまた辛い思いを・・・・・・。死別に続いて略奪では蘇芳さんは立ち直れないんじゃないかしら? それより、刃傷沙汰になるかも。根本さんの首締め見てるとそれも考えられなくも・・・・・・」

 

 

「しかし隠し続けることはことは不可能だよね。どうしよう、どうしたらいい? なんとかソフトランディングの仕方を考えないと・・・・・・ガッキーも孝崎ちゃんも、こっち来て一緒に考えてよ・・・・・・。時間がないから・・・・・・」

 

 

 苺姉の呼びかけに、ガッキーと孝崎ちゃんが来た。二人とも深刻な顔をしている。傍らの委員長もマユリさんも押し黙ったままだ。重苦しい空気の中、私林檎が口火を切る。

 

 

「ねえ、取り敢えず帰って来たら、お祝いしようよ。何処か人の来ない所で情報を遮断できる場所で。ガッキーの部屋がいいかな。あそこ、来客絶対来ないでしょう? 」

 

 

「林檎、お前大概失礼だぞ。絶対言うな。そりゃ、お前ら以外は誰も来ないけどよ。おかげさんで読書に集中できるんだよ。」

 

「読書だけじゃないのよ。最近はね、愛してくれるんだー。行為自体はまだまだなんだけど、ピロートークが最高なの。まるで魔法の呪文みたいに・・・・・・沁みるの」

 

「止めろよ。何恥ずかしい事をぺらぺら話してんだよ。まあ取り敢えず今日はアイツをうちんとこで隔離するか? 寝る時は沙沙貴んとこで頼む。私の所はベッド二つしかないからさ。委員長の所は結構人が来るからまずい」

 

「八重ちゃんと委員長、マユリさんに沙沙貴さん達と私に、アミティエの根本さんには来てもらうことにするから、蘇芳さんを加えて八人か。狭いわ。ちょっと無理ね。でも、外は雨降ってきたし。しかも風が強いわ。東屋はこの風じゃ無理よ・・・・・・」

 

 突然、苺姉のお腹が鳴った。他人に振ろうとする姉を余所に時計を見ると、もう十二時を回っていた。

 

「とりあえず、お昼を食べに行きましょうか。続きはその後にしましょうよ、マユリも沙沙貴さんも、孝崎さんも八重垣さんも、そうしましょう」

 

 

 委員長の言葉に促され、ロッカールームを後にした。何時もなら楽しい食事の時間だけど、今日はどうにも気が乗らない。それは皆も同じ。食堂で持ち帰りにしてもらい、温室のベンチで食べることにした。皆で黙々と食べていると、不意に聞き慣れた声が。寮監とダリア先生が私達に話しかけてきた。

 

 

「貴女たち、良い所に居たわ。蘇芳さん少し遅くなるって。携帯で連絡が有ったのだけど、何でも故障からスリップして脱輪して止まってしまってるらしいのよ。今は走り出したらしいのだけど、雨でスピードが出せないみたい。しかも脱輪した車を出すので二人とも全身ずぶ濡れらしくって。寮のお風呂を早めに入れてあげたいのだけど、スタッフの方が見当たらないの。貴女たちで捜して下さらない? 」

 

 

「車って。養護の先生のアレでしょ。さもありなんだわ。あの車で迎えに行くなんて、チャレンジャーすぎる。冷子さんにでも頼めば良かったのに。都合悪かったのかな? 」

 

「孝崎、会計とかあるから先生が行ったんだろうよ。まあ車だけでもチェンジしておけば良かったのに。まあ手遅れだけど。つーかこの程度の雨でスピードが出せないって? どんだけボロよ」

 

 皆で窓の外を見て蘇芳ちゃんを想う。

 

 

「ねえマユリ、思いついたんだけど、いっその事私達で掃除して沸かしてホットタブパーティーみたいなことしない? 広いし鍵掛けて清掃中を理由に簡単に部外者お断りに出来るし。沙沙貴さん、孝崎さんも八重垣さんもいいでしょう? 」

 

「悪くないね。立花にしては良い方だ。ただ、沸かし方を聞き出さないと画餅だね」

 

「花菱さん、それ凄く良いアイデアよ。私も八重ちゃんの介助の練習になるし。今日から一緒に入る予定だったの。ダリア先生からお風呂の介助を引き継ぐことになって・・・・・・良いでしょ? 何よ赤くなっちゃって。八重ちゃん恥ずかしいのかしら? 」

 

「悪いかよ。私は物心付いてから、大勢の前に裸を気安く晒したことはいまだかつて一度も無いんだよ。恥ずかしいに決まってるだろ。でも蘇芳の為だ、仕方ない一肌脱いでやるよ」

 

「私達が、沸かし方聞き出してくるから、委員長たちはここの準備を頼む。この件ちょっと心当たりがあるんだ。孝崎も来いよ」

 

「孝ちゃんも、って呼んでくれたら行く・・・・・・。八重ちゃんは蘇芳さん絡みだと積極的に動くんだから悔しいな。ねえ言って、言ってよ・・・・・・。もうつれないんだから八重ちゃんは」

 

「アホ。置いていくぞ? ほれ、さっさと押せよ千鳥」

 

 

 

「もう腕が疲れましたよ。退院の迎えがこの車なんて・・・・・・。せめてワイパーの動く車にしてください。窓も曇るし前の見えない車なんて危険すぎます。もう飛び出さないで下さいね」

 

「判ったよ。そんなにぷりぷりするな。可愛い顔が台無しだよ。いや今日の天気予報だとここまで悪くなるとは言ってなかったんだ。さっき学院に電話して、事情を説明したからお風呂の用意をしてくれてるはずだよ」

 

「降ると判ってて、この車を? ありえないです。夏だからまだ我慢出来ますけど、直すなり捨てるなり何とかして下さい」

 

「今度、給与体系が変わって昇給をしそうでさ。それが本決まりなら、すぐに修理に出すから捨てろとか言うなよ。白羽も捨てたがる女なんだな・・・・・・私の仲間はダリアだけか。アイツは混沌とした部屋が好きだからな。言ったら殺されるけど凄いんだよ・・・・・・」

 

 

「気になりますよそこまで振ってはぐらかすの。それにしてもこんな次期に昇給するんですか。おめでとうございます。この車の被害者は私を最後にして下さいね。言い添えておきますと、私は捨てたガールじゃありませんよ。片付けは得意ですけど、捨てられないものが沢山有ります。捨てようと手に取っても、思い出が蘇ってきて・・・・・・」

 

「そうか、それじゃ今日のこれも思い出になるね、白羽。そのずぶ濡れの制服の記憶、大事にしてくれ。なんだったらその紐もあげるよ」

 

「紐はいらないです。こんな経験は最初で最後にしたいです・・・・・・ショーツが冷たくて・・・・・・。これアキラのお下がりなんですよ。丈が少し合わないけど、これを着るとアキラを感じるんです・・・・・・だけど先生、自分で思い出云々言うのは無いですよ・・・・・・。先生はまず反省をして下さい。一人で無理なら私が手伝いますよ。江戸時代の良い資料を入手したので・・・・・・」

 

「マジな目で見るなよ。怖いよ白羽。謝るから・・・・・・。ゴメンな。白羽がこれからも・・・・・・私と皆と・・・・・・学院で思い出を作ってくれるなら幾らでも反省する。約束しろ白羽。黒沼みたいに早逝しないと誓え・・・・・・」

 

「約束します。約束しますから、前見て! まだ死にたくないです! あー怖かった。恐怖の報酬は針刺しと購買のスイーツの回数券で許してあげますよ、先生」

 

 

 

「聞いてきたよ、沸かし方。でも、おばちゃんがしてくれるって。蘇芳の話したら即OKが出た。後、十分もすればお湯出していいってさ。委員長、掃除は終わったか? 」

 

「終わったわ。それにしても蘇芳さんはいろんな人に愛されてる。力を貸してくれる。なのになんで、恋路は成就しないのかしら。せめて今日、ここに居る間だけでも、先輩のことを忘れて欲しいけど・・・・・・」

 

「委員長、匂坂達は? 」

 

「マユリは、沙沙貴さん達と料理部で直ぐ出来るようなお菓子作りに行ったわよ。場所が場所だけにふやけて脆ける物は避けるとか言ってたし意外に手間掛かりかもね」

 

「孝崎さんはどうしたのよ? 」

 

「千鳥はアミティエの根本んとこだ。話をつけに行ってるよ。何でも向こうも独自にお迎えの用意をしていた様だし、すり合わせに時間かかるんだろう」

 

 

「匂坂さん、聞きたいことが有るんだけど良いかな? キリの良い所で止められるかしら? 廊下で待ってるから」

 

 料理部でお菓子を作っていると、クラスの子が何人も訪ねてきた。マユリさんは顔が広く、姐御肌だから良く相談事を持ちかけられる。今回もそうだと思っていた思っていたけど・・・・・・。廊下での話し声は何だかトーンが暗い・・・・・・

 

 

「苺も来て。林檎はオーブン見ていてよ。焼き目注意しておいて」

 

 しまいには苺姉も連れ出されてしまった。見かねた部長が私を手伝ってくれる。部長はどちらかというと、お菓子よりもガチの料理派なんだけど、こういうのも如才ない。見惚れてしまうほどの指裁きだ。手伝いながら部長が話しかけてきた。

 

「白羽さんのことだけど、料理部を辞めさせる様にと、圧力がかかってるのよ。八代会長からも退部届けが出てるし、色々大変なの。白羽さんは、今度演奏部にスカウトされてるじゃない? だからそのからみで。でも本人から退部届けが出ていない以上、瑕疵も無いのに辞めさせられないしね。貴女たち、外で会ったんでしょう? 何か聞いていない? 」

 

「演奏部の話は聞いてましたけど、辞める云々は初耳ですよ。それ本当ですか。それに八代先輩も辞めてしまうのですか・・・・・・」

 

「ええ。今日のアレの絡みで。サッカー部だけは続ける様だけど。合唱部も辞めそうなことを言っていたわね。写真部は設立する様だけど名誉会員みたいになるんじゃないのかしら。そうそう蘇芳さん、サッカー部も退部しろって圧力かかってるらしいわよ。聞いて無いの? そっちが通ると前例が出来たことになってしまうしね」

 

 

 私達の知らない所で、話がドンドンと進んでいる。距離を取り完全に蘇芳ちゃんと別れるつもりなんだ。あんなにお似合いの二人だったのに。だけど、私にはこの状況は悲しいけども、ある意味チャンスなのだ。昨日したためた手紙。何時渡そうか・・・・・・。でもタイミングが難しい。下手打つと、弱みにつけんで・・・・・・そう言われそうだから。第三者に言われたって屁の河童だけど、蘇芳ちゃんに言われたりでもしたら・・・・・・。

 

 

「林檎ゴメン。遅くなっちゃった。それでね、数を増やしてよ。参加人数が増えちゃってさ。今購買で、ユリーが材料買ってくるから、それにクラスの子も手伝いに来るよ」

 

「いいの? 人数を安易に増やして。蘇芳さんにバレ易くならない? 」

 

「そこは委員長が踏み絵をしたんだよ。誓約書取ってさ・・・・・・」

 

 思わず、口笛を鳴らしたくなるシチュエーション。さすがに委員長、蘇芳ちゃんを大事に思っているんだ。苺姉が部長に部外者を来ることを伝え、返事はもちろんOK。下手したら全員入部の勧誘しそうな笑顔をしている。

 

 

「こんにちは。料理部の方、設備を使わせて頂きます。ご迷惑かと思いますけど、蘇芳さんの退院祝いなんでよろしくお願いします」

 

「良い物を作ってね。判らないことが有ったら、私か部員に遠慮なく聞いて下さい」

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