会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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漂流する心と身体

"pi.pi.pi.pi.pi."

 

『あ、止めないと。朝だ・・・・・・。起きないと。』

 

目覚まし時計のアラームを目を擦りながら止める。それにしても悪夢だった。いまだかつて見た事が無いほどの。

布団から身体を起こそうとしても、なんだか身体がとてもだるい。普段は時間前に自力で起きれるのだけど、今日は目覚ましのアラームに救われた。アラーム音を蜘蛛の糸にして、やっと悪夢から逃げ出せた・・・・・・。

 

 

「おはようございます。白羽さん」

 

「朝方だいぶうなされてましたけど、大丈夫ですか? 凄い寝汗ですよ・・・・・・」

 

半身を起こし乱れまくった髪を手で梳く。視界をクリアにしてから根本さんに挨拶。

 

「根本さん、おはよう。私そんなにうなされてました? 」

 

覚えている夢の内容、寝汗でぐっしょりの寝間着を見れば、わざわざ聞かなくても判るのだけども・・・・・・。

 

「ええ。寝言も色々と。内容までは聞き取れませんでしたけど、助けを請うてる感じでした」

 

返答に赤面する。醜態を晒してしまって恥ずかしい。

 

「私、先に食堂に行ってきますね」

 

 

根本さんが、私に気兼ねしたのかそそくさと出て行った。それを見届け、身体を拭き、朝の支度を済ませ制服に着替える。鏡を見ると赤ら顔の私が居た。そういえばなんだか喉に違和感が。風邪? 夏なのに少し寒けが・・・・・・。

 

 

でも今日は大事な試験の日程の詳細が出るので休みたくないし、根本さんも食堂で待ってると言ってくれている。

 

 苺さんにはたかれた頬は元に戻ってるけど、切れた唇は口を大きく開くとまだ痛い。ドアを引いて部屋を出ようとしたら、正面の廊下に関本さんが立って居た。

 

 

「おはようございます。蘇芳さん。一緒に食堂に行きましょう」

 

「せっ関本さん!? お、おはよう・・・・・・。どうしてここに? 」

 

「どうしてなんて・・・・・・酷いわ。恋人が来たって言うのに。蘇芳さん、今朝はなんだか顔が赤いわね。もしかしたらお熱があるのでは? 食事済ませたら、養護の先生に見てもらいましょう」

 

 

まさかの逢瀬に言葉が出ない。昨日の告白は悪ふざけの罰ゲームなどでは無くやはり本気だったということか。関本さんを前に逡巡する私。固まった私に腕を回してキスをしてきた。

 

 

「そんな顔をしないで。朝の挨拶よ。蘇芳さん。これからは毎日するわ。ねえ蘇芳さん、貴女やっぱり熱っぽいわ。御飯の前に保健室行きましょう」

 

強引に手を引かれてよろめく。がっしりと手を引かれ歩く私達。関本さんは普通にしているけれど私はすれ違う級友や上級生がとても気になる。上級生の中には口を手で抑えひそひそ話をする人も・・・・・・。そしてもれなく生暖かい視線のおまけ付き。

 

 

「ひっ、一人で行けるから手を離して・・・・・・お願い、関本さん」

 

「ダメ。そんな真っ赤な顔をして何を言うの? 蘇芳さんだって知っての通り私はクラスの保健委員になったのよ。欠員が出て先生の推挙で。蘇芳さんだってその時教室に居たじゃない? 」

 

「え、保健委員? 」

 

「ええ! もしかして知らなかったの? 」

 

「う・・・・・・ん」

 

 

「だから私と2人とだからって誰も怪しまないわ。1人でとかそんなわがままな事言うともっと密着するけどいいの? 蘇芳さん」

 

 

徽章を見せながら毅然とそう言われて、何故だか少し安心してしまった。だからすれ違う級友は変に見ていないんだと。すたすた歩く関本さんに連れられて保健室に来た。札が裏返っている。もう養護の先生が居るようだ。養護の先生は敷地の離れに常駐して朝晩はここ寮の保健室、日中は学院の校舎の保健室に勤務している。

 

 

「一年の保健委員の関本です。急患を連れてきました。入ります」

 

 

どうぞの声に入ると、そこには意外な先客が居た。

 

 

「おいおい、白羽。お前も風邪引いたのかよ。顔が真っ赤だぞ。にしても馬鹿じゃないお前が夏風邪か? 私はお前を健康馬鹿と思っていたんだけどな真夏だってのに何してんだ? 私? 私はほれ、この馬鹿ったれが熱を出して・・・・・・」

 

視線の先に、薬を飲み熱さましの処置をして寝ている孝崎さんが居た。呼吸が苦しそうで私なんかよりもずっと重症みたいだ。

 

「なんでも、お前の騒動が有った裏で、日没まで外に居て歌を歌っててこの態らしい。ボイストレーニングらしいけど、風邪でのど痛めて本末転倒。まったく何やってんだだよって感じだ、こいつは」

 

 

私が先生に診察してもらっている間、関本さんは八重垣さんと連れ立って朝御飯を取りに行った。私と孝崎さんの分も。

 

『ここで食事したら関本、八重垣は教室に。孝崎、白羽はここで休め。良くなっても今日はここか自室で静養。誰も居なくなる状況の時、鍵は保健委員が管理して舎監に渡すこと。何か有ったらそこのインターホンで私を呼べ。使い方、私の番号は其処に記載が有る。無線式でな、一応学院内に居る時は漏れなく繋がるシステムだ。贅沢? お前たちの健康と安全の為だよ。教員だって持ってない最新のアイテムなんだから。それだけ学院が気をつかってるんだよ君達生徒を。いたずらに使ったらお前達の親呼ぶからな? 』

 

私達を前にして先生はこうお話をし、これから校舎の保健室に行くからと欠席の証書を発効して出て行った。

 

 

「おい開けてくれ。手が離せないんだ。戸を開けてくれ」

 

引き戸を開けて、2人を導き入れる。八重垣さんは、私と孝崎さんの食事を膝に乗せ、関本さんは八重垣さんと自身の食事で手が塞がっている。私と孝崎さんは食べられたら食べるということで特別にお弁当箱に詰めてもらい、保冷剤と一緒にクーラーバッグに入れてもらった。

 

 

「全く。私も熱出して、こんな風に転がりたいぜ。今日から教室で授業だとさ。今までの極楽は何処へ・・・・・・」

 

八重垣さんは食事をしながらそう言い、孝崎さんと私を見やる。関本さんは私と親しげに話す存在が面白くないようで、終始無言でパンをついばむ。

 

「そう、今日から教室でやっと皆と一緒になるのね。あんまり皮肉とか毒舌を繰り出してはだめよ。立花さんが悲しむから」

 

「奴の話は・・・・・・白羽と一緒に本を語る時間が減るのは淋しいよ。ぼっちの私には先生とお前だけがこの学院の救いだったんだけどな」

 

「何言ってるのよ。沙沙貴さん達だって、立花さん、マユリさんだって八重垣さんを友達だと思ってるんだから、そんなことは言わないで」

 

「さてと。少し長居しすぎたか。鞄を持ってから教室に行くよ。じゃあな白羽」

 

「1人で? 」

 

「ああ。それがどうかしたか? 」

 

「介助しなくていいの? 」

 

「平気だよ白羽。まあスロープを使うんで迂回するから少々時間はかかるけど。その分教室に居る時間が減るってもんで結果オーライさ」

 

「またそう言う事を言う・・・・・・」

 

八重垣さんらしい受け答えに苦笑する。で口に向かって動き出した車椅子がキュッと音を立てて止まった。

 

「忘れてた。保健委員の関本さんだっけ?、悪いけど私の食器をかたしておいてくれ、頼む。孝崎に何か有ったら頼むよ。そうだ後でお前に教えてもらいたい事あるんだけどいいか? 白羽」

 

「良いけど? 」

 

何だろう? 試験の事かな? 車椅子を繰る八重垣さんがまず先に出て行く。そして関本さんが食器をかたして出て行った。扉が閉まるのを見届けると急にだるくなり、私も布団に潜り寝る事にした。

 

 

「蘇芳さん、体調はどうなの? 朝食に居なかったから心配してたのよ」

 

 

休み時間に、クラスを代表して立花さんとマユリさん、それに私のアミティエの根本さんが連れ立ってお見舞いに来た。慈愛の人立花さんが話を切り出してきた。何しろ優しさ100%の彼女の事ずっとやきもきしていたんだろうなと・・・・・・。

 

「蘇芳さん、昨日のことが原因なんでしょう。風邪引いてしまったのって。私達に出来ることなんでもするから遠慮なく言って」

 

立花さんにはあの事を話すわけにはいかない。曖昧に笑顔で暈す。

 

「苺と何が有ったんだい? 今ここに誘ったら依怙地になって来ないし。血塗れメアリーで体験の共有して蘇芳さんとあんなにも仲良くなってたのに」

 

苺さんと特に親しいマユリさんは私にその原因がある事を見抜いている様だ。そうならひたすら沈黙を持って堪えるのみ。具合が悪くなるフリで誤魔化す。

 

「蘇芳さん、朝ごめんなさい。こんなに重症だなんて思わなくて。廊下で倒れたなんて・・・・・・。病人を一人にしてしまってアミティエ失格ですね私」

 

何も悪くない根本さんに心の中で詫びる。具合が悪くなるフリをしている手前シカトする状況を生んでしまっている。本当にごめんなさい。

 

「保健委員の関本さんが居て良かったわ。でもどうして蘇芳さんを見つけたのかしら。彼女の部屋は遠いのに」

 

「立花の疑問ももっともだ。根本さん判る? 」

 

「いえ・・・・・・。思うに私達新入生で御飯を一緒にとか思ったんでは? 」

 

「そうか。それっぽいね立花」

 

 

 孝崎さんは良く寝ていて、そのまま立花さん達は寝かしてあげていた。立花さんが速攻で手紙を書き枕元置いたとほぼ同時にチャイムが鳴り、また来るねと帰って行った。

 

 

今、保健室は二人の寝息だけが支配している。

 

 

静かにドアが開いた様な気がして夢の世界から現実に。寝ぼけた目に音も立てずに小さい影が近づくのが映る。そしてカーテンを静かに開けて私のベッドの所に誰か、いや何かが来る。まさかのアブダクション? 昔読んだ本に出ていた秘密検察に逮捕された小さい宇宙人の写真を思い出した。布団の中で身構える私。

 

「蘇芳ちゃん、林檎だよ。起きてる? 」

 

宇宙人ではなく林檎さんで本当に良かった。正直本当にびびって居たのだ。なんだろう、正直幽霊なんかよりも宇宙人の方が苦手。幽霊ならある種の意思疎通が出来そうだからかな。

 

「林檎さん? どうしてここに。今授業中でしょう? 」

 

 

「花摘みって偽って来た。足音するから裸足で来た。苺姉の事なんだけど、許してあげて。これ蘇芳ちゃんにって苺姉から手紙。今は寝て後で読んで。昨日あんなことになってしまったけど、苺姉は蘇芳ちゃんが心配なんだよ。まだ話せないの? 」

 

「うん。私だけの事なら話せるのだけど・・・・・・。了承取らないと色々な人に迷惑がかかってしまうからその辺りからクリアしないと・・・・・・」

 

「わかったよ。今は我慢する。私達はどんな事が有っても蘇芳ちゃんの味方だから。それだけは信じて」

 

 

 そう言って静かに帰って行った。話をし林檎さんの心遣いに涙が滲んだ。待ちきれず手紙を読み私を想う苺さんの心に再び涙。二人の親友の気持ちが嬉しかった。それゆえ迂闊に事を運べないという事を再認識した。ほかほか気分になって暫くしたら、睡魔が襲ってきてまた寝てしまった。

 

 

 夢を見た。蝋燭の灯るヨゼフ座で、私は女性とまぐわっていた。現実通りであるなら、相手は黒沼アキラ。私の初体験の相手。最愛の存在だった。でも不思議な事にアキラとまぐわった夢を見たことはなかった。

 

アキラ・・・・・・いや違う今の相手は彼女じゃない。誰だろう何故か相手の顔はぼやけている。愛撫され夢の中の私は程なく絶頂を迎えた。落ちていくように目が覚めて夢の真実に気付かされた。

 

 

「蘇芳さん、夢の中でエクスタシーに達したの? 私がアシストしたからかしら。蘇芳さんのおっぱい、大きいし柔らかいのね。肌もすべすべで嫉妬しちゃうわ。こんな身体で未亡人なんてもったいない。2つ上の私のお姉ちゃんよりも大人の身体してる。こことこか・・・・・もうかなり性徴してる」

 

 

「なっ、なにを!? 」

 

「しっ! 孝崎さんが起きてしまうわよ。堪えなさい。それとも見られた方が良いのかしら? やらしい人。よほど夢見が良かったのかしら? 身体中ベタベタね。もう一回逝ったら清拭してお着替えしましょう」

 

 

そこまで言うとキスをして口を塞いできた。舌を入れる大人のキス。私の服の下に手を潜り込ませて指を使ってまさぐっている。寝ている間からずっとしていたのだろう。それであんな夢を・・・・・・。

 

それにしても慣れた手つきだ。あの夜のアキラとは違う。されるがままの私。また達してしまった。どれくらい続いたのか唇を離して私と距離を取る。目の前で愛撫で濡れた自分の指を煽情的に口に含む関本さん。

 

「美味しい。蘇芳さんの愛液」

 

 

「もうゆるして。止めてください。私をおもちゃにしないで・・・・・・」

 

 

「可愛い。でも語彙の使い方、文学少女じゃないわね。後生ですからとか堪忍してとか使って欲しかったなぁ残念。蘇芳さん、言っておくけどおもちゃなんかじゃないわ。貴女は大切な恋人よ。私は本気」

 

「嘘。唯弄びたいだけでしょ」

 

「翻意するまで、じっくり愛してあげる。私無しで居られない様にしてみせる。それまでは焦らないから、期待して待ってて、がっかりさせないわよ。それじゃ清拭してお着替えするから、ほら寝間着脱いで」

 

 

 語気に押され言われるままにする。汗をぬぐうホットタオルが心地よい。自前の下着を脱ぎ、学院の指定の物に着替える。ダサいと評判のだけど、肌触りはいい。そしておニューの寝間着。気持ちが切り替わっていく。

 

 

「さてさて、孝崎さんはどうかな。それじゃまたね」

 

 

私に投げキッスをしてカーテンを開け、孝崎さんのベッドの向った。

 

「あら起きてたの。まだ声が出ないのね。はい。体温測って。汗は治まったと。ちょっと脱水の心配があるからこのOS1を飲んで下さい。顔赤いわね。先生呼んで、喉とか見てもらいましょう」

 

 

 インターホンで先生を呼ぶ声がする。程なくして先生が来た。但し1人ではなく、ニカイアの会のあの2人を連れて・・・・・・。

 

 先生は先に重症の孝崎さんを診る。のどの奥にライトを当て腫れを確認し、薬を塗ってる。私の番はまだ先・・・・・・。先輩方はどうしてここに来たのだろう。授業中なのに。その心のモヤモヤが表に出ていた様で・・・・・・。

 

 

「たまたま、あっちの保健室に来てたんだ。ドアに指を挟んでしまってねこのザマだよ。治療してもらっていたらこっちから連絡が来てね。蘇芳君が居るって聞いて気になって仕方ないから・・・・・・」

 

包帯を巻いた人指し指を私に見せる。あのスラッとした指が損なわれるのは痛々しく悲しい。かつて味わった、あの白磁の指が肌を滑る感触は甘美だった。私はその虜に・・・・・・。

 

 

「ぼーっとしてるね。薬の副作用かい。それにしても蘇芳君、どうしたんだ? 風邪を引いたって。夏だよ今は。薄着で油断したのかい。もしかして裸族の人なのか?」

 

「何言ってるのよ。裸族なら普段からそうなんだから、風邪なんて引かないでしょ、譲葉。蘇芳さん、花菱さんから話しを聞いたわ。今は詮索しないけど何時でも話したくなったら相談に乗るから」

 

 

「試験が近いのだから、自愛してくれよ。そうだ腹巻貸そうか? あれは良いものだよ。色は黒がお薦めだ。大きめのなら延ばしてボディコンみたいに着られるし。君が蘇芳君を看病してくれたんだね。感謝する。名前は? 」

 

「保健委員の関本です。治るまでしっかりと見ますのでご安心を、先輩方」

 

 

 私の番が来た。熱を測り血圧等を計る。検査の結果は、白い顆粒の薬3日分と相成った。孝崎さんは吸う薬やらうがいの液等、色々で私の倍くらい処方されてる。保健委員の関本さんが私達の代理で、校舎の方の保健室に出向く。あっちは校医さんと別に専属薬剤師さんが居るのだ。

 

 

「会長と副会長。この2人を部屋まで頼む。お前らはこの時間授業に出なくたって平気だろ? 文句言う奴が居たら、正式な書類作ってやるから気にするな。孝崎と白羽、お前たちをここに寝かす段階は終わった。後は部屋で寝てろ。孝崎はそこの車椅子使って行け。よろけて怪我したら洒落にならんから」

 

 見た目はともかく性格や口調が男以上に男っぽいと評判の養護の先生。学院の生徒はもとより先生とも色々な噂が有ったりするけど、孤高の人みたいで生徒が言い寄ってきても相手にしないと、八重垣さんが教えてくれた。そんな豪胆な先生にお礼を言って、保健室を後にする。

 

 

「ねえ、孝崎さん。歌お上手なんでしょ。合唱部に入らない? 良かったら考えてみて」

 

小御門先輩が元芸能人の孝崎さんに話しかける。

 

「昨日農場の方で歌ってたでしょ。偶然あれを聴いてしまって・・・・・・あれ良かったわ。聞きほれちゃった」

 

ビクンと身体を揺らすしぐさ。驚いている様だ。

 

「今は試験期間中で部活はお休みなの。それが終わってからでいいから、一度来てくださらない? 活動場所は聖堂よ」

 

 

 声が出ない孝崎さんだけど、指でまるを作っていた。私達が彼女の部屋のドアを開けて車椅子のまま彼女を運び入れる。そして抱き抱えてベッドに寝かせた。この部屋は段ベッドでなく、普通のベッドでこういう時は対応しやすい。

 

「授業が終わったら、ダリア先生が八重垣さんと来るからそれまで寝ていなさい」

 

 小御門先輩がそう言うと、また手でまるを作った。普段なら塩対応とでも言うか、愛想の無い突慳貪な態度だけど、病気の時は素直になるなと感心した。そして孝崎さんが寝たのを確認して、私と先輩達は部屋を出た。ここで気を利かしたのか、小御門先輩が帰ろうとする。引き止めようかと思ったけど、その目がそうするのを阻んだ。

 

 

「ここが、新しい蘇芳の部屋か。やはり本が多いな。さっきの八重垣君と孝崎君の部屋もだけど、書痴というのは伊達じゃないね」

 

先輩が私の部屋を見回し、感想を口にする。結局、私と八代先輩2人で部屋に来た。私をベッドに寝かせ、先輩は床に座って寝ている私の頭を撫でる。たまに髪の毛を手漉きして感触を味わっている。

 

「綺麗な御髪。何時までも愛でていたいよ、蘇芳」

 

恋人だった黒沼アキラを病気に攫われ、この世の終わりのような感情になった私。皆が慰めてくれたりしてくれたけど、特に八代先輩には救って頂いた。小御門先輩の後押しもあり、八代先輩と恋人になりたいと思うようになった。

 

アキラも八代先輩となら逢瀬を許してくれるはず・・・・・・。そうは思うも間を置かずに付き合う事に色々言われる覚悟が足りなかった。なかなか一歩が踏み出せなくなっていたけど、最後の手紙の追伸に綴ってあった

 

 

"蘇芳、良い人を見つけなさい。そして新たに2人で幸せになって。貴女は未亡人なんかじゃない。未来を手にして頂戴"

 

その言葉が私を前に向かせてくれた。

 

「くすぐったい。でも気持ちいい。私もシュシュ似合うかしら? お揃いにしてみたいわ」

 

「蘇芳、早く良くなって。僕は風邪は引かない方なんだ。僕の血を輸血したら体質改善しないかな? 手始めに唾液を・・・・・・」

 

先輩のキスは、強引な関本さんとは違う。たおやかで上品だけど思いの深さを感じる力強さを感じ取れる。舌を絡めて愛を確かめ合う。やっぱり先輩としていると満たされる。その先だってしてもらいたい・・・・・・。それなのに・・・・・・なのに私は、私の身体が裏切ってしまった。

 

 

「どうしたの。泣いちゃうなんて。まだアイツを忘れられないの? それとも・・・・・・」

 

「ごめんなさい。そんなことじゃないの。譲葉は悪くない・・・・・・。悪いのは私、気に病まないで」

 

「初めて名前で呼んでくれたね。嬉しいよ。そうだ、これからは皆の前でもさん付け禁止だよ、蘇芳。綺麗な花に悪い虫が付かないようにしないと」

 

「君が自分の意思で浮気するなら、僕は我慢するけど、寄り付く輩は手荒なことをしてもエリミネートする。たとえそれが女神様でもね」

 

最後の言葉を誰かに聞かれていない無いか、ドキドキした。宗教学校の生徒の長としてはまずいと思ったから。でも、その立場よりも、私を大事にしていると考えると涙は収まった。

手を伸ばして私からキスをせがむ。一瞬間を置き、譲葉はそれを笑みで受け入れた。狭いベッドに乗り込んで来て、抱き合いながら貪った。さながら餓鬼の様に。

 

「愛してるよ、蘇芳」

 

「私もよ。譲葉」

 

 

しかしドアが突然開いて甘美な二人の時間は霧消した。私のアミティエが戻って来たから。

 

「白羽さん、お具合は良くなりましたか? 」

 

根本さんは、私が譲葉と2人で下着だけで同衾してるのを見て、押し黙ってしまった。間男を隠すような行動をしようとした私。しかし譲葉は覆い隠した布団をはね除けて、根本さんの前に進み土下座した。私も根本さんも驚き固まってしまった。

 

「君の留守中に不埒なことをしてしまった。許して欲しい。白羽さんには責任は無い。悪いのは僕だけだ。どんな願いも聞くから・・・・・・」

 

 

「先ずは頭を上げて下さい、先輩。わかりました。不問にする代わりに、一つお願い事があります。先輩だけでなく、白羽さんにもです」

 

根本さんが私を見てきた。頷くしかない。

 

 

「八代先輩。試験が終わったら直近の安息日に、私と2人っきりで大人のデートして下さい。悪い話では無いと思いますよ。そう思いますよね、蘇芳さん」

 

 

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