会長の思惑、Second Phase   作:抱き枕50

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他人のために何を!?

「八代譲葉です。入ります」

 

 やっと放課後になった。今日程放課後が待ち遠しく思えた日は無い。頼まれ事を断るのに難儀しつつ一目散に蘇芳の寝ている寮の保健室に来た。

 

  授業中も勤めて集中しようとして居たけど、正直無理だった。先生から睨まれっぱなし。蘇芳の事もだけど八重垣君から聞いた話も気になってるしね。蘇芳を見舞ってから会いに行く予定だ。だけどまずはこっち、蘇芳が先だ。

 

「どうぞ。開いてます」

 

 先生の声では無い。保健委員の関本君の声だ。ついでに僕の手の指の具合も見てもらいたかったので先生が居ないのがちょっとばかり残念だが、アポを取った訳でなし仕方がない。

 

「蘇芳の具合はどうだい? 起きてるかなー」

 

「起きてますよ、八代先輩。本調子ではないけど、話もokです」

 

「それでは私は養護教諭に、所見を書いたのを出しに行ってきます。後は宜しくお願いします」

 

 

 そう言いペコリと頭を下げて関本君が保健室を出ていった。

 

 

「何だか顔が赤いけど、熱は高いのか? 蘇芳。腫れ自体は良くなったみたいで良かった」

 

「うん」

 

「もし、あのビンタで蘇芳のその綺麗な顔が崩れていたりしたら、一生をかけて償うつもりだったんだからね。本当だよ」

 

「譲葉ったら・・・・・・陳腐。そう・・・・・・、それじゃもっともっと叩いて良くてよ

・・・・・・来世も償えるくらいに」

 

 軽口に、軽口を返して少しだけ微笑みを見せる蘇芳。僕は蘇芳に近付き顔を寄せた。唇に触れるだけのソフトなキスをかわす。そして僕の胸に顔を埋めさす。互いに手を回し抱き合いながら、薄い夏服を通して、僕の鼓動が伝わる様に。どれくらいしていただろう。人の気配を感じて蘇芳を離した。

 

 

「その辺にしておけ・・・・・・スキンシップ過剰だよお前ら。八代、退け。診察の邪魔だ。白羽、顔をよく見せろ」

 

 呆れた様な顔の先生。そして手でしっしっと僕を排除すると蘇芳に近づく。近い近すぎる。後ろから見てるとまるでキスをしている風だ。思わず引き剥がしたくなる・・・・・・。

 

「随分な剛力馬鹿が叩いた様だなァ。口の中も切れてる。唇も切れ鼻血もか。これを見て上に報告書出さないって訳にいくか? 事故にするには無理すぎだろ。なあ八代、お前どう思う? 」

 

 先生は、僕が叩いたと知っているのだろう。ジョージ・ワシントンではないけど、正直に申告することにする。

 

 

「先生、白羽の怪我のことなんですけど、僕が手を出しました。手を出した経緯はこの場では話せません。処分は甘んじてお受けいたします」

 

 口ではそう言ったけど正直、処分が下るのは怖い。寮で出禁の謹慎か"ラボ"、”別荘”と呼ばれる更正棟行きか、はたまた放校か頭の中が悪回転する。

 

「何、カッコ付けてんだァお前は! 沙沙貴の妹がゲロってんだよ。すべてをさ。さっき授業中なのに廊下をチョロチョロしてたんで問い詰めたんだよ。ダリアに呼び出されてその帰りらしいけど、素直に教室に戻らないのがアイツらしい。お前と白羽が黒沼の月命日の献花台のことで揉めたんだろ? 」

 

(!? 一体何の話だよそれは)

 

「で、煮え切らない白羽に、お前がやらかしたと。黒沼とはこっちも色々あったんでさ、傷心の白羽には悪いけどさ規模はともかくきっちりやって欲しいんだ。ちゃんと企画立てて、こっちに寄越せ。資金の心配はしなくていい。アイツの為なら学院から如何様にも引き出してみせる」

 

 

 黒沼アキラは、ここ保健室の主で、この先生は昵懇の仲だった。口に出しては言わないけど、治療の甲斐なくアキラが夭逝してしまったことを悔いているようだ。もっと早期に発見されてさえいれば・・・・・・と。それにしても、思い切ったストーリーをでっち上げたものだ。林檎君が1人で考えたのだろうか、心底感服した。

 

「そんなわけで、今日の事はこっちで預かりとする。試験が終わったら話を持って来い。その出来次第だな。それで一件落着としよう。不満か? 」

 

「いえ、それでお願いします。寛大な処遇に傷み入ります。蘇芳君もこれで良いだろ? 」

 

「はい・・・・・・。それで結構です」

 

 

 消え入りそうな声で答える蘇芳。顔をタオルで覆って泣き顔を隠すも、嗚咽は聞こえてくる。忘れたつもりでもまだ恋人の死って奴はそんなに簡単には行かない。

 

「先生、蘇芳をよろしくお願いします。ご迷惑ばかりかけますが出世払いで勘弁してください。それでは、失礼します」

 

「いいよ。お前なら早く返してくれそうだからな」

 

 

 八重垣君の所に行かないといけないので、僕は少し後ろ髪を引かれる思いで保健室を後にした。

 

 

 

 

「あら、八代会長。どうなさったのですか? こんな所でお会いするなんて・・・・・・耳が早いということかしら? 」

 

 八重垣君の部屋の前、間の悪いことにバスキア教諭と鉢合わせしてしまった。

 

 

「何のことですか? バスキア教諭。僕は八重垣君に試験対策の補講っていうのかそんなのを頼まれまして・・・・・・」

 

「あらあら、いつの間に親しくなったのですか。八重垣さんも隅に置けませんね、フフっ」

 

「嫌だなあ、そんなんじゃないですよ。蘇芳君が臥せってるので、その代理です」

 

 バスキア教諭が納得の表情を見せた。そして僕に問う。

 

「白羽さんの風邪は如何でしたか? 養護からは、午前中の話として・・・・・・重症ではないけど要注意の所見を貰いましたけど」

 

 そう僕に意見を求めてきた。根本君との一件からの騒動は知らないんだと理解した。余り余計なことは言わない方がいいと、自分に言い聞かせた。バスキア教諭に怪我した指を見せながら話を切り出す。

 

「その怪我。大丈夫なのですか? 」

 

「お蔭様で軽く済みました。この怪我を見てもらっている時に、蘇芳君に会いました。風邪辛そうでしたけど、寮に戻したって事はもう時期に治るということだと思われます」

 

 

 安心した顔のバスキア教諭。でもまた曇り顔に。

 

「蘇芳さんと一緒に寝ていた孝崎さんはまだダメみたいなの。それで、治るまでどうしようかなって。孝崎さんには私がしている介助のお手伝いをしてもらう予定だったんだけど」

 

「新しい保健委員の子なんかどうですか? なかなかしっかりしてるようだし、転入生は課題提出で試験ないし」

 

「ああ、関本さんね。彼女良いわね。でも忙しい保健委員だから・・・・・・。風紀委員の萩野さんをあてようかしらね・・・・・・あの子クラスの中でも大きい方だし」

 

 得心の表情のバスキア教諭。善は急げとばかりに、そそくさと入室することなく立ち去って行った。ふー。これで取り敢えず、一難去った。ノックをして声をかける。

 

 

「八重垣君、八代だ入るよ」

 

「どうぞ。出迎えは無理なんで勝手に入ってきてください。ただ病人が居るのでお静かに」

 

 相変わらずの口ぶりだ。孝崎君はベッドで寝ていた窓側に寝返りしていたので表情は伺えない。八重垣君が、看病していたのだろうか、白湯と薬の空き袋がテーブルに。

 

孝崎君に声をかけると反応が有った。とはいえ声は未だ出ないようで、咳き込んだだけ・・・・・・。聞かれてしまうことに少し躊躇したけど、八重垣君に先の事案を問うことにした。

 

 

「単刀直入に聞くが八重垣君、さっきの、"ゆすり"の事なんだけど」

 

「正直、内容は不明です。走り書き程度らしく、秘密を盾に意に沿わぬことを何度かされているようだということ。判ってるのはそれくらいですね」

 

「沙沙貴達は、イタズラの疑いということで呼び出されたそうです。何しろあいつらは犯歴が多すぎますから。委員長と匂坂はクラスの重要人物である点から声がかかったらしいです。私は犯人はともかく、被害者は白羽の気がするんです・・・・・・」

 

 

「どうして? 今日、それなりに蘇芳君に会ってたけど、被害者って感じはしなかったよ。むしろ加害者・・・・・・ゴホっ、ゴホっ」

 

「先輩、白羽に風邪うつされましたか? そりゃ加害者ですね、白羽」

 

 

 八重垣君が、猫の表情で僕を笑った。彼女も蘇芳のことを理解している一人だ。何かを感じとっているのかもしれない。先程までの曇った顔がそれを表していた。

 

 それにしても何がしろの事情が今日の蘇芳の行動の裏打ちなのだろうか? ただの嫉妬かと思っていたけど、もっともっと奥が深い闇か有るかと心がざわめいた。蘇芳のこともそうだし、学院の生徒を束ねるニカイアの会の代表としても、看過出来ないなと思った。

 

 

「孝崎君は治りそうなの? 蘇芳君は明日には何とかなりそうだけど。なんかこの時期として意外なぐらいに重症だね。八重垣君が白湯を用意したのかい? 甲斐甲斐しいね」

 

「からかわないでくださいよ。そりゃ同室のアミティエだし、これくらいのことはしますよ。仲良い訳でも無いけど、こんな時くらい頼ってくれても良いのですけどね。わたしもこんなですから全ては無理ですけど。こいつトイレに勝手に行って、慣れてないのに加えて熱で判断力が落ちゃって迷子になったんです。真逆のバスキア教諭の部屋の方で座り込んでたんですよ。声が出ないからヤバかった。たまたま寮の清掃のスタッフの方が助けてくれて・・・・・・」

 

 

 聞こえていたのだろう、孝崎君が急に咳き込んだ。目配せして、会話を切った。そうそう大事な話は他にもあった。

 

 

「八重垣君の介助だけど、孝崎君があの状況なんで、風紀委員の萩野さんが来るってさ。ここに来る前にバスキア教諭に会ってね。そんなことを言ってたよ」

 

「萩野って・・・・・・誰だ? 」

 

「おいおい、クラスメートの名字と顔位は覚えておいておくれよ・・・・・・。学年で30人程度しか居ないんだから」

 

「不得手なんですよ。そう言うの。向こうにしても私との出会いは佳い思い出ではないでしょうし。必要になる時にはなんとかしますしなるでしょう」

 

蘇芳が悲しむなと思った。いくら自習で教室に行かなかったにしても。蘇芳は八重垣君を清水の舞台から飛び下りる様な気持ちでクラスに最初に連れて紹介したのに、件の本人がそんなではね。ちょっとムッとしてしまった。

 

 

「忘れてた。八重垣君、試験がらみで蘇芳に教えてもらいたい事があったんだろ? 蘇芳から聞いておいてくれって言われてたよ」

 

「それは・・・・・・聖書のことで・・・・・・。試験範囲も知らないし、聖書は全くの不得意分野でして。白羽や委員長は聖書の授業得意だって言うので。それで教えてもらおうかと」

 

 

「ミッションスクールにあるまじき生徒だな、八重垣えりか君。ニカイアの会の会長としても悲しいぞ。今から僕が教えるとするか。試験範囲を聞き出してくるから待っていなさい」

 

「待ってください、まだ試験まで間がありますから白羽が出てきてからアイツに・・・・・・」

 

 

 コンコンとドアをノックする音がした。

 

「萩野です。八重垣さん、いらっしゃいますか。介助の事で来ました。バスキア教諭も一緒です」

 

 

 どうぞ。開いています。

 

 

「八重垣さん、孝崎さんが治るまで、風紀委員の萩野さんが介助役をすることになります。それでは実際に練習しましょう」

 

 興味深かかったので、僕も見学し、実際に抱えあげたり、お着替えの手伝い、食事の配膳等の講習を受けた。実践してみると抱き上げるのは力でなく、身体全体で行うとかやってみると確かに違うのがツボだった。

 

 

 八重垣君は小さい時からずっと障害を抱えているので大抵の事は一人で出来る。しかしお風呂はさすがに一人では無理の様だ。水死の可能性が有ると言うのは怖いのだと思う。お風呂の介助だけは八重垣君の頑なな希望で、大人のバスキア教諭が行うことになった。

 

 

 一通り講習実践して、バスキア教諭と萩野さんが帰ろうとしている。ここで聖書の試験の範囲を聞く事を思い出し萩野君に問うた。彼女は快く答えてくれた。それをメモしているとバスキア教諭がびっくりした様に僕に聞く

 

 

「八代会長? 一年生のテストの範囲なんて聞いてどうなさるのですか? 」

 

「いやなに、八重垣君が聖書の試験に向けて勉強を見てくれって言うのでね。なのに試験の範囲すら教えてくれないので・・・・・・それでね」

 

「そう・・・・・・。出題の範囲もご存じ無かったのですか。そんなに邪険に扱われていたなんて、少しショックです」

 

 

 刹那バスキア教諭の顔が曇る。今まで授業に出ていない八重垣君を、家庭教師のように彼女が教えているのに、八重垣君は不得意というか、殆ど興味が無いのだろう、その事が悲しいようだ。

 

 

「いや、いや、いや、そうではなくてですね・・・・・・記憶が少し曖昧だったものですから。会長さんにばっちり教えてもらいますので、期待しておいてください」

 

 

「会長さん、あなたも忙しいはずですけど、大丈夫ですか? 何でしたら私がやりましょうか? 」

 

 

 八重垣君を見やる。バスキア教諭の申し出に明らかに戸惑っている。照れまくってる感じが初々しい。八重垣君はバスキア教諭に特別な感情を持っているようだ。ここはちょっと意地悪をしてやろうと思う。

 

 

「いや、大丈夫です。僕も振り返る事で、知識の推敲をしてみたいと思いますので、いいだろ八重垣君」

 

「はい・・・・・・。八代会長お願いします」

 

 初奴とばかりに、車椅子の彼女を抱きしめた。バスキア教諭は、刹那複雑な顔をしていたけど、直ぐに笑顔に代わり、萩野さんを連れて部屋を出ていった。

 

 

 

「ここまでで、何か質問はあるかい? 」

 

「いえ、取り立ててありません。先輩は教え方が上手ですね。うちの委員長みたいです。白羽は頭いいけど教えるのはそんなに得意じゃないんですよ」

 

 何気なく時計を見ると、始まって小一時間は指導した都合だ。堅い話に僕が飽きてきていた。先生を職業には出来ないなあと思う。

 

「授業ならチャイム鳴った位の時間だね。ちょっと、リフレッシュしようか」

 

 そこまで言って席を立ち、八重垣君の車椅子に手をかけてベッドの脇に停めた。そしてさっき習ったように抱えあげ、ベッドに載せた。そしてうつ伏せにひっくり返し体の上に跨がる。

 

 

「何をするんです、退いて下さい。先輩はそういう趣味、そっちの人だったんですか? 」

 

「何をうろたえているのかわからないなー。 これからするのは、マッサージだよ。マッサージ。一体何と勘違いしたのかな? 」

 

「マッサージですか? 別に凝ってなんかいませんよ。降りて下さい・・・・・・」

 

 

 マッサージと聞いて、声のトーンが明らかに下がった。意味は問うまい。

 

 

「なかなか上手だろ。コツは掴んだ。それにしても君は軽いな。蘇芳はあんな感じだけど身が詰まってる様で存外重いんだよ。さてさて始めるとするかね。そんなに嫌がらない! 身体にいいことだよ。癖になる。身体が求めてくるよそのうち・・・・・・」

 

「ああ。ちょっ、其処痛いです。こんな事するほど凝ってませんから」

 

 

「そうかね。こことか、結構きてるじゃないか。これは目から来てる。あんまりを目を使うのも良くないぞ。1日5分の遠方凝視をかかさないようにな。それ、ちょっと力入れるよ」

 

 思った通り、八重垣君の身体は疲労が溜まっていた。口では色々言っても身体は正直だ。僕はマッサージは得意で、ここに来る前から、サッカーで疲れた弟にしてあげたりしてた。今でも、希望者にはしてあげたりしてる。ネリーやアミティエの葉子にはしょっちゅうだ。

 

 

「あっ、あっ。そこの所・・・・・・。いいです。うっ、うっ。あー。続けて下さい。そこです。そこ。気持ちいいです・・・・・・」

 

 本気で施行して早十数分。恍惚を思わせる言葉が、八重垣君から漏れる。寝ている孝崎君が、もぞもぞし始めた。マッサージとは判っていても、八重垣君の声がまぐわいの様に聞こえているのだろう。

 

 

「それにしても、上半身は筋肉が凄いね。車椅子ってのはこうなってしまうんだ・・・・・・。それに比べて下半身は、細いね。白いしとても愛らしいよ。いやすまない、ちょっと配慮がかけたね。謝らせてくれ・・・・・・」

 

 

「いえ、全然気にしてませんから。こんな脚でも有るだけでもマシです。ニーソやレースト、ペディキュアでお洒落も出来ますから。車椅子に関してですけど筋肉は必須では有りませんし。電動のでも使えばマッチョでなくても平気ですから」

 

ここから暫く車椅子談義。蘊蓄を語りたかった様だが聴いてくれる人も居ない中、うっかり隙を見せた僕に襲いかかってきた様だ。なんでも今のは著名な職人のオーダーメイド。ベアリング、タイヤ以外は手作りだそうだ。天然素材にこだわり軽く丈夫に出来ている事をことさら強調した。そしてそれが済んでの二回戦。今度は素直にポジション取らせてくれる。

 

「今度は腰な。ここはまた張ってるね。やりがいが有るよ。気持ちよかったらさっきみたいに遠慮しないで声出しなよ。我慢は良くないからね」

 

「あん。先輩もっとし・・・・・・て」

 

二回戦となりてらいが無くなり最高に艶っぽい喘ぎ声。

 

「墜ちたね。まあ恥じることはないよ。蘇芳は殆ど声を出してくれなくてつまらないんだ。逆に僕の弟なんて喘ぎまくりで口にタオルかましてやったよ」

 

「弟? 」

 

「ああ。今でこそ離れ離れだけど、すごく仲がいいんだよ。それでさ・・・・・・」

 

 今度は僕が語る番。八重垣君も自身の姉妹の事を色々僕に語る。今日一日で僕達はかなり親密になった。良い時間を過ごせた。マッサージを入念にし、勉強も捗った。道筋は付けてきたので、八重垣君なら後は何とかするだろう。まだ試験までは幾らか有るしね。

 

 

 帰り際八重垣君に悟られない様、こっそりと孝崎君にメモを渡した。『僕達の話を色々と聞いて居たろう? これからの会話の種にしなさい。そしてマッサージを覚えたいなら僕の所に来なさい。これからアミティエと学院で生活するなら、君にとって必要になるだろう?』

 

 

 

 さて次は、林檎君に会わないと。お礼を言わないと座右の銘に背いてしまう。何処にいるのか、まずは寮の部屋を訪ねた。しかしここには居なかった。次に行った蘇芳君の所にも来てなかった。やっとの事で見つけたのは、意外にも僕の部屋だった。アミティエの葉子、それにネリーと林檎君が、クッキーをつまみながら珈琲を飲んでいた。

 

「遅かったじゃない、譲葉。お客様が待ちくたびれてるわよ」

 

 

「なんだ林檎君はここに居たのか。探したよ。ちょっと八重垣君のとこに用があってさ。介助の実習受けてたんだ。林檎君今日は済まなかった。林檎君の機転で救われたよ。本当にありがとう。よくあんなことを思い付いたね。そういえば苺君は? 」

 

 

「苺姉は、根本さんと出かけた。農場だと思うけど・・・・・・」

 

「農場? 」

 

「この間の検証らしいけど、何も出ないと思うよ。他に誰か居たみたいだけど、蘇芳ちゃんは言わないし、証拠品なんて無いだろうしせいぜい足跡位でしょ。うちの生徒とそれ以外は判るだろうけどねえ。学院の靴、ソールにサイズの刻印無いしね・・・・・・」

 

 何だか歯切れが悪い。何時も一緒のイメージなのに、姉についていかなかったことを聞くと、珍しく意見の相違だと言う。林檎君は、ぼそぼそっとらしくない口調で話した。

 

 

 林檎君が何故ここに来たと問うと、蘇芳ちゃんがあの脱柵の一件で脅されているのでは無いかと言うのだ。確たる証拠はないけど、勘だと言う。ダリア先生に呼出された時、頭の中で点と線が繋がったと言う。僕達は全員が関係者だ。安心して話せるからと口を開いた。

 

 

 あれを知ってるのは、僕達ここに居る3人、ネリーが関係した外部のスタッフ。さすがにこの中には居ないだろう。しかしその序章ともいえる血塗れメアリーのことだとすると、天文部にも知ってるのが居るし、寮のスタッフから漏れたかもしれない。

 

 

 「葉子、天文部であの夜の捕物、部の中で話が出たことあるかい? 」

 

 「無いわ。だってあの日の泊まり観測自体が、ある意味でっち上げなんだもの。だから参加したのは極一部だけだし、私にも知らされて無かったのよ。譲葉が話をしてくれたから知ることが出来たけどね。大体、自分の首が絞まること吹聴しないって」

 

「そうだよなあ・・・・・・」

 

「ただでさえ、天文部は高額な設備でいろいろとやり玉にあげられてるのに、自爆的なまずいことは避けないと・・・・・・。仮眠室を改装するのも突然だったし、あれも裏が有りそうよ譲葉」

 

 

「美術部が、公認取ろうと動いてるって噂があるの知ってる? で、まずは高額お手当が出てる部をやり玉にって。天文部を疎ましく思ってる人間がいるのかもしれないわ」

 

 

「僕はそこまでの話ではない気がするよ。個人的な事で、それほど考えなしに単純に困らせたいとかそんなことではないのかね」

 

 

「うーん、譲葉の考え通りやはりその辺りかも。関係者の知人の知人とかの、上っ面だけ知った状態でゆすった、と」

 

「まあ何にしても、蘇芳に聞いてみないと。でも試験前に派手に動けないし、困ったな。取り敢えず蘇芳を守らないと。君達で、蘇芳を固めてくれないかな。悪い虫がたからないようにさ。花菱君や勾坂君にも頼んだけど、君達の方が適任だろう」

 

 

 「私達で蘇芳ちゃんガードするから。つーか何より試験勉強見てもらわないとまずいんだ。安息日が補習に消えたりしたら、また脱柵しないといけなくなっちゃうよー」

 

 僕が頭を小突いて嗜める。葉子もネリーも呆れてるけど、本気でないから静観だ。

 

 

 「林檎君の発案の月命日の事だけど、賛同者がすごく乗り気でね。試験終わったらニカイアの会でやることになったから、聖堂か寮の所に献花台を作ることになると思う。作るといっても、養護教諭に計画書を出して、制作搬入は外注になるけどね」

 

「養護の? あの先生が? 」

 

 

 「先生はアキラの事を悔いていたから、献花台には思いが強くあるみたいだ。実現の運びになったのは林檎君が振ってくれたお陰だよ、ありがとう」

 

 

「私達、前から思ってたんだ。亡くなった人を丁重に扱ってほしいなって。私達、おばあちゃんの初七日で帰って来ちゃってるから尚更。せめて一年間はあって欲しいってね」

 

 

「先輩も四十九日が過ぎたら、蘇芳ちゃんに手を出すんでしょ本格的に。蘇芳ちゃんも先輩好きだものね。羨ましいですよ」

 

「私と苺姉は、蘇芳ちゃんが悲しんでるのを見たくないんだ。だって親友だもの。ここ来て三ヵ月、色々あったけどね、やっとここのよさが判ってきたよ。ただの刑務所じゃないって」

 

 林檎君が意外な饒舌で他の二人が驚いている。僕はそんなに意外では無かったけど。

 

 

「前から聞きたかったんだけど噂に聞く、蘇芳ちゃんファンクラブって実在するんですか? 」

 

「実在するよ。文芸部の中にある。そこの3年生が会誌を書いてるよ。一度だけチラッと見た。どっちかと言うと、二次創作的な会誌だね。部誌みたいな感じ 一定の読者は居るようだ。とはいえあそこ会員制的ノリで、一見さんを排除するからなあァ」

 

「うちのクラスには、文芸部居ないんだよね。転入生に入りそうな子居るかな。ちょっと見てみたいかも。それにしても蘇芳ちゃんが文芸部でなくて良かった。あそこだったら私達はダメだもの。今みたいに仲良くしてなかったと思う。八代先輩の命で料理部にはかなり強引に誘ったから、蘇芳ちゃん最初はあんまり乗り気でなかったし、悪いことしたかなって。でも、誘って良かったよ。すごく明るくなったし、籠らなくなったしね。発端の八代先輩に感謝してます」

 

 

 そう言うと、林檎君が頭を下げた。だからこそ蘇芳ちゃんの力になって救いたいと。彼女の決意に、ここに居る二年生の3人にスイッチが入った。かわいい後輩に一肌脱ぐかと、互いに目と目を見つめ、うなずいたのだった。

 

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