「ねえ蘇芳さん、折角だからこれ使いましょうよ」
保健室から寮に戻るときに、立花さんが車椅子を指差した。多少ふらつくけど脚がおぼつかないほどではない。
「大丈夫です立花さん。普通に歩けますから。車椅子は大袈裟です・・・・・・」
「ダメよ。病弱なサナトリウムのお嬢様を、メイドの私が押してあげるの。そのシチュエーションで行きましょう。折角なんだから楽しんだ方が勝ちよ蘇芳さん」
「立花、露骨すぎ。私とだったらそんなに甲斐甲斐しくしてくれないじゃない。私にもたまにはしてよー立花」
「何よ、"する時"は何時も私がする側、貴女がされる側なのに何を言ってるのかしら? 我儘言う子にはお仕置きね」
「またそれか。立花は私にはドSなんだよ、蘇芳さん。優しい立花を感じられる蘇芳さんが羨ましいなァ」
そう言い、立花さんの後押しをするマユリさん。この流れでは致し方ない。車椅子に乗ることにした。押す側は八重垣さんのを何度も押してるけど、乗る側は経験がない。今目の前にあるのは、八重垣さんのと違い、普通の車椅子。なんだかキシキシ音がしてなんだか悲しい。一方彼女のは、オーダーメイドの高級品。彼女にとって車椅子が服同然なのだから、良いものを使うのはもっともだと思った。
「それ黒沼も良く使ってたよ。良く一人でうろうろしては脱輪して嵌まってスタック。結局誰かが連れ帰ってたっけか・・・・・・」
養護教諭の昔語りが胸にチクっと来た。
「花菱、白羽を宜しく頼むわ。基本丈夫な筈だからそんなに気にしなくても平気だけどね」
「孝崎って言ったっけ風邪の一年生、あっちの方が重症だから一応見てやってくれ。この間みたいに八重垣が必死な顔で来てないから平気だと思うが。問題があったらダリアかアイツが言ってくる筈だから・・・・・・」
「あの八重垣さんが、必死なんて相当だったのね。それでは失礼します。マユリ、先に出るから戸を閉めて。じゃあ先に八重垣さんのとこに行きましょう。あの2人、壁乗り越えて仲良くなったのかしら? 」
「あっ。そうだ、勾坂。ちょっと待て、渡すものが有った。孝崎の声出てなかったらこれ塗れ。使い方は・・・・・・」
「お話長くなりそうね。先に行くわよ。後から来て」
入寮の前にひと悶着あった八重垣さんと孝崎さん。八重垣さんのメモを読んだけでしか知らないけど、かなり嫌悪な状況だった様だ。彼女は口と態度が違うから、風邪で弱った孝崎さんの弱味につけこむことはしないと思うけど・・・・・・。
ノックしたら、間髪を入れずにどうぞの声。車椅子に乗ったまま、ドアを開けて入室する。自分が車椅子に乗ってわかった。前から変な所にドアハンドルが有ると思っていたけど、この部屋は車椅子で使いやすくリフォームしてあるんだ。
「おいおい、なんだよ白羽。柄にもなく車椅子なんか使って。委員長、白羽は介助の献体か?」
「白羽を介助の献体にしたら、合法的に触りまくれるから大人気だろうな。一度バスキア教諭に意見具申してみるか」
「一体何の話? 今日は貴女じゃなくて、孝崎さんの具合を見に来たのよ。風邪良くなったかしら孝崎さん? 」
「ーーー」
かすかに聞こえる声が、現状の証明。明日は保健室登校だろうか。そこにマユリさんが到着。
「立花、これ塗ってだってさ。喉の薬押し付けられたよ。やり方はこれ見ろってさ」
立花さんがプリントをひらひらさせるマユリさんを見ている。やりたくないオーラが2人の間に漂う。八重垣さんは、離れた所で頷いてやり取りを見てる。
「立花さん、私がするわ。やったことあるから貸して」
よろめきながら車椅子から立ち上がり、一式を受けとる。少しバツの悪そうな立花さんと入れ替わるように孝崎さんの所に行く。
大丈夫なの? ちゃんと出来るの? そんな視線が痛い。口を大きく開いてもらい、赤い所に塗った。程なく終わり、オデコを付けて熱を測る。大体平熱に感じられた。立とうとしたら布団からそっと手を出してきて孝崎さんが私の腕を掴んだ。そして満足に出ない消え入りそうな声で『ありがとう白羽さん』と言ってくれた。
「困った時はお互い様よ。気にしないで。早く良くなってね」
そう言い、立花さん達の隙をついて孝崎さんのほっぺにキスをした。驚いたようで、ギッと私を見やる彼女。私は小さく手を振って離れた。
「ねえ、八重垣さん、八代先輩に会った? 」
「会ったと言うか、関わったというか色々あったよ。でもお陰さまで、聖書のテストの勘所が理解できたよ。変な人だけど、さすがはニカイアの会の会長だな。博識だし、あのマッサージはあれで飯食えるよマジで」
それ聞いてマユリさんが反応した。
「えっ、八重垣さん八代先輩にマッサージしてもらったの。いいなァ。アレ最高だよね。サッカー部でしてもらったけど、恥ずかしい声出しまくりだもの。他人に聞かれたら絶対勘違いされるね、前に苺がされてるのを見てたときは、そこだけが児童ポルノの世界で異様にワイセツな空気になってたよ」
今この中で、立花だけがしてもらったことがない。悔しさで怖い顔をしてる。立花が私の服を掴んで懇願する。
「マユリ、貴女されるだけで習ってないの? 私にもしてよ・・・・・・」
「一回教わったんだけどね、人にしてあげられるレベルのマッサージはまだ出来ないんだよ、立花ゴメン・・・・・・」
「あのー、私がしましょうか、立花さん。アキラ相手に毎晩していたので、一通りできます。アキラは師匠の譲葉程ではないけど、そこそこいけるって言ってくれました」
「蘇芳さん、良いの? 病み上がりでしょ? 」
「力は余ってるから。寝る前にやりましょう。今日はそちらにお邪魔の予定ですし」
さっきまでの仏頂面が、一転の笑みになった立花さんが八重垣さんに声をかけた。
「それではお暇しますね、八重垣さん。明日また教室で。孝崎さん、早く良くなってね。皆が待ってるから」
来た時と同じ様に、私は車椅子の人になり今度はマユリさんが押して部屋に進んだ。途中、私の部屋に寄り、荷物を置き、代わりにお泊まりの一式を持ち出した。その時気付かされたのだけど、ドアが引っ掛かって介助なしだと車椅子が入り口を入れない。どうりで八重垣さんを夜のお茶会に誘っても来なかったのか判った気がした。
「蘇芳さんと夕食を食べるの、いつ以来かしらね。楽しいわ、ねえマユリ」
「黒沼さんが来てからは、してないと思う・・・・・・」
「そうなのね。随分間が空いてしまったんだ。蘇芳さんって食事の仕種がお上品で何時も感心してたの。本物のお嬢様ってこういう人なのかなって・・・・・・」
「私は別にお嬢様じゃないですよ、立花さん・・・・・・」
「それにしても、ここの食事は美味しいわ。いっぱい食べて、身体動かして、大きくなりたい。背も、ココも・・・・・・」
立花さんが私の胸を見ながら、自分の胸を指さした。かつてのアミティエが久々に一つのテーブルで食事をする。食事は美味しいし、立花さんは気を使って話題をいろいろとふってくる。会話が途切れたとき、厨房をちら見した。そして何かを見つけたのだろうか? いい物を持って来るからと立花さんが席を立った
ふと見回すと八重垣さんの分と孝崎さんの分を風紀委員の萩野さんが取りに来ていた。それを見て通りしな声をかけ、委員長の立花さんが労を労っていた。こういうところが、彼女をクラスの委員長足る地位にしてるのだろうと思う。アミティエを解消してからはあまり一緒に行動を共にしなかったので、彼女の良い面を再発見して嬉しく感じた。
一方のマユリさんは、相変わらず休み時間は、スクールカーストのクィーンだけど、教室を離れるとそういう風ではなく、群れない人に変わる。それが以前と違う感じだ。今も食事をそそくさと済ませ立花さんを待たずに1人で食堂を出て行ってしまった。
目で追うと其処には美術部の先輩が彼女を待っていた。部活を見学した時会った記憶がある。美術部。クラスには彼女だけだ。ここは顧問が厳しく、部外者立ち入り厳禁なので色々と謎が多いのだ。部員同士がヌードモデルをする噂も有ったけど真相は今だ不明だし・・・・・・。彼女もなにも語らない。恋人の立花さんも最近のマユリは秘密が多いと嘆く。
こっちに向って来る立花さんが目に入る。手に提げているのは、カットフルーツの入ったかご。満面の笑みだ。
「えっ、マユリ帰っちゃったの・・・・・・。マユリの分も有るのに」
刹那とても淋しそうな顔をする。正視するのを憚られるくらい。
「それも・・・・・・頂くわ。フルーツは別腹だもの・・・・・・」
「ありがとう、蘇芳さん。ねえ、マユリに関すること見聞きしたら些細なことでもなんでも良いから教えてくれないかな・・・・・・」
そう寂しそうにポツリと話した。時を同じくして食堂の奥から楽しそうな声が聞こえてきた。
声の主は転入生達だった。今日は根本さんが関本さんと向かい合って食事をしてる。原則、アミティエ同士が食事をするのだけど、暫く1人の根本さんを慮ったのだろうか。それにしては、親しげだ。お澄ましなタイプの2人が、大口開けて笑っている。それを見て立花さんが口を開いた。
意外に仲良いいのよあの2人。学校は違うらしいけど、同じバレエスクールに通ってたらしくて。2人のどっちか忘れたけど、離婚したか再婚したかで名字が変わってたらしく、直ぐには気がつかなかったらしいわ。でも今は長年の親友みたいな感じだわね。
まさか、根本さんのあの発言も関本さんが裏で糸を?
「蘇芳さん、気分でも悪いの? 顔色が冴えないわよ。食べすぎちゃった? 」
「そんなことないわ。ちょっと胃が荒れてるらしく、ちょっと痛いなって。ここのところ処方されたお薬多かったでしょ?それでね・・・・・・」
「さあ、戻りましょう。胃に優しい紅茶を淹れてあげるわよ、蘇芳さん」
もうすぐ消灯になる。今日は立花さんに、譲葉直伝のマッサージをしてあげる。マユリさんが美術部からラグを借りてきてくれていた。狭いベッドでなく、床で存分に出来るのが嬉しい。
「蘇芳さん、上手! マッサージで、こんなに声を出してしまったことなんて無いもの。声だけ聞いてたら絶対に勘違いするわね。お疲れの時に無理言って悪いけど、マユリにもしてあげて頂戴。蘇芳さん、この通りだから」
そう言って手を合わせて頭を下げる立花さん。そうまでされたら仕方ない。
「じゃあ、マユリさん、横になって。少し消灯時間オーバーするけど良いよね? 」
「うん、お手柔らかに。蘇芳さんって手が大きいんだ。ピアノのが上手なのも頷けるな。サッカーのキーパーも手が大きい方がいいって言うよね」
「ありがとう。でも少しコンプレックスなのよ。ピアノをこの間まで止めてたから、ただただ大きいだけで可愛くないもの。マユリさんとか立花さんの手は女の子らしく可愛いから羨ましいわ」
「蘇芳さんでも、外見や容姿で、コンプレックス感じたりするんだ? だってパーフェクトだよ誰が見たってさ。この間立花に水着の相談されて、結論は蘇芳さんのスタイルなら何を着ても決まるけど、私達はスタイルを誤魔化せるビキニ。苺と林檎はスクール水着がお似合いでしょうだったんだ。私と立花は、春よりも胸大きくなったし、背も伸びたから、今年は少し大人っぽい水着買う予定。立花はガーリー系でフレアタイプ。私はクロスホルターにタイサイドのセクシービキニ。カットは大胆なモノをね」
「水着って、何処で着るの? ここにはプールは無いわよ」
「私達はさ、ほら夏の休みの時、ここを出て帰省するから。その時に海に行くって決めたんだ。私の地元は遠浅で綺麗な砂浜が有るんだよ。立花の家は学院から遠いんで移動に時間が掛かりすぎるから、うちに来て泊まる予定なんだよ。父も是非会いたいって
・・・・・・。苺と林檎は新盆で帰省するからその時にプールで着るって話。泳ぐの得意なんだってさ2人とも」
「蘇芳さんは、帰省しないの? 」
「私は、まだ決めてないわ。多分ここに残ると思うけど・・・・・・。皆帰省しちゃうなら、淋しくなるわね・・・・・・」
蘇芳さんが淋しそうに呟く。
「やだなァ、たかだか一週間だよ。今生の別れ何かじゃないんだから、しんみりしないで・・・・・・」
「そうよね、さあ始めるわよマユリさん」
マユリさんの身体は、立花さん以上に凝っていた。がちがちで時間もかかってしまった。それでも何とかこなして、ベッドに潜り込む。前とは違い、一番上に寝ることになった。直ぐに寝ついたけど、熟睡とは行かずに夢の中にすべり落ちた。
そこは夏休みであろう学校の教室。それを物語るのは黒板に大きく書かれた夏休みの文字とセミの声。居るのは自分1人。誰も居ない教室は夏なのに妙に寒々しい。どれくらい待っていたのだろうか、がらりと教室の戸が開き、見たことの無いシスターが現れた。
『あなたが居残りの白羽蘇芳ね。私はここでシスターをしています。名はイルザ=バスキア。これから暫くあなたの担任になります。よろしく』
メガネがキラリと光る。髪の毛はウエーブの付いたロングのブルネット。綺麗な人・・・・・・。でもどこか現実感が乏しい。背がモデルさん並みに高いし、ハーフの様な顔立ちも整いすぎてる。なのに、言葉は義母みたいな典型的な発音の日本語。
あぁ、これは夢なんだと思った。良く見ると建物はアングレカム学院をデフォルメして幾らか変えた感じになってる。違うのは病院のような白く塗った壁。鉄格子のはめられた窓。開いた窓から入ってくる虫、そして窓の外が海だったり・・・・・・と。
「他の皆はどうしたの? 一体ここは何処? 」
全員が帰省はしてない筈だし・・・・・・と、シスターに問うと
『あなた何を言っているの?ここはあなたを更生するだけの施設。他に誰も居ないわ。あなたは罪を犯したからここに居るのよ。脳にダメージでもあるのかしら。そんな報告は来てないけど』
『立ちなさい、白羽蘇芳。罪人に服は許されません。脱ぎなさい、早く!もたもたしない!』
鞭を手に、先程と打って変わって強い口調で急かす。シスターの目がつり上がっている。口角を上げてニヤリとした。恐怖で身体が何時ものように動かない。
『あら、挑戦的ね。あなた立場が判っていないのね。まあ良いわ早速楽しませてくれるなんて・・・・・・』
そして 私に向って何事かをシスターが呟くと、何がしかの魔法を掛けられたのだろうか、私は頭とは裏腹に服を脱ぎ、靴下とローファーだけの全裸になった。そして黒板の前に進み手を付いてお尻を突き出す。そして思い切り鞭を打たれた。今までの罪の分だと罪状を述べながら一発一発打ち続け、しまいには何十発にも・・・・・・。
皮膚が裂ける様な音だけど、現実とは異なりそんなに痛くない。というか甘美な感じだ。多分身体は反応して濡れているのだろう。そう思わせる状況だった。そしてシスターが私を蔑んだ。
『あなた、一体何なのこれ。鞭打たれることに贖罪の気持ちが有ったらこうはならないでしょう。恥を知りなさい、白羽蘇芳』
そう言って私の汁でねっとりと糸を引くシスターの指を、口に含まされた。
『自分で出したモノでしょう、きれいに舐めとりなさい。あァ汚らわしい。この恥知らずな女。あなたは色々と更生のさせ甲斐がありそうね。ダリアが私に押しつけたのが良く分かるわ』
『次は剃毛でもって思ってたけど、ランク上げて駿河問いに吊ってみようかしらね。あなた身体柔らかくなったんでしょう? 今度は気持ちいいばかりでは無いわよ』
なんだかシスターの声が遠くなっていく。と同時に、私を呼ぶ声が耳に入る。
「蘇芳さん、どうしたの? 酷くうなされてたわ。大きな声で悲鳴の様にも聞こえたのよ。悪い夢を見たのね。寝汗もすごいわね。このままだとまた風邪引いてしまうから、一旦起きて着替えをしましょう」
「マユリ、お湯持ってきて。もう食堂は調理してる時間だから、事情を言えば頂けるからお願いね」
マユリさんが行って来るから待っててと、返事をして部屋を出て行った。私はよろよろと梯子を降りてラグに座り込む。
「蘇芳さん・・・・・・、酷い夢だったんでしょう。もう平気よ。私がついてるから・・・・・・」
そう言って私を抱き寄せて、いきなり立花さんが唇にキスをしてきた。もちろんフレンチキス。いやカクテルキスというものだろうか。激しさに圧倒された。
「蘇芳さんの、寝言が、その、凄かったから、私とっても興奮してしまって・・・・・・。何をされていたの? 聴かせてお願いだから・・・・・・。まだ覚えてるでしょう? 」
「ここと似たような学院で、怖いシスターが、あなたは罪人だって断言して、私、体罰を受けたの。痛いし怖いし、それで大きな声を・・・・・・」
「それで、それなのに蘇芳さんはこんなになってしまったの? 」
立花さんが、私の下着の染みを指差して、そのままグぃっと押してきた。
「蘇芳さんがエッチなことに興味無さそうな人じゃなくて安心したわ。この部屋で蘇芳さんに初めて会ったときは、ものすごく"うぶ"だったのにね」
そしてまたキスをしてきた。今度は触れるくらいのだ。
「蘇芳さんが黒沼さんとしたのは私も知ってるわ。聖母祭の前と後で蘇芳さんは変わったもの。急に女になった感じ。ねえ、八代先輩ともしたの? マユリとは? 他にも居るの? 」
「ここのところ、マユリがよそよそしくって。私、あの子の為に色々と”した”つもりなんだけど、嫌われちゃったのかしら。このままだと、マユリがフッと消えてしまいそうで怖いの・・・・・・」
「蘇芳さん、私どうしたら良いのかしら・・・・・・」
立花さんが、すがるような目で私を見上げる。泣きそうな顔に、ドギマギした。その時、夜中なのにドンっとドアを開ける音がした。
「遅くなってゴメン。ちょっと捕まってた。だけどフルーツをせしめてきたよ。夕食の残りだけどね」
ポットを抱え、手にはかごに入ったカットフルーツ。マユリさんを見て立花さんが、急に悲しい顔して涙を頬に流した。マユリさんが持ってきたフルーツは、夕食の時立花さんが持ってきたものと同じ・・・・・・。食べてはもらえなかったそれと同じ物だった。
「立花、どうしたの? どうして泣いているの? 蘇芳さんになんかされたの? それとも私が遅かったから? 」
「何でも無いのよ。マユリ。そのフルーツ美味しいでしょうから皆で食べましょう。でもその前に、蘇芳さんのお世話が先。蘇芳さん、寝間着脱いで早くしないと風邪ぶり返してしまうわ」
ギラッと私を睨んだものの、立花さんに諭されマユリさんは納得いかない表情のまま、私の着替えを手伝い清拭をしていた。そして微妙な空気の中、3人でフルーツを食べた。そして再び就寝。しかしもう外は明るく、布団の中で起床時間を待つだけの時を過ごしたのだ。
「林檎、起きて。朝だよ。ほら、早く!」
「苺姉、後5分寝かせて。3分でいいから」
ダメだよ。と頭をこずいた。恨みがましい目で私を見る、同じ顔の妹。今まで何をするのも一緒。考え事しても然り。他人を受け入れずに、2人で一つで今まで過ごしてきた。でもこの学院で、それが変わろうとしている。クラスメート否級友の方が"らしい"か。その中に居た一人の少女の存在によって、望むも望まれぬもだ。
「遅いじゃない、沙沙貴さん。急いで食べないと遅刻してしまうわよ。毎日綱渡り状態では大変じゃない・・・・・・あと5分早く起きればいいのに」
委員長からの毎朝の小言。自分はユリーに毎朝起こされてるくせに・・・・・・。
同室の子が居た時は起してくれたことも有った。でも彼女は突然退学してしまった。3人でうまくいっていたはずなのに・・・・・・。理由も言わずに突然だった。その事で私達は随分責められた。ハブったんだろうって。私達は無実だけど、証明する証拠がない。それを直接のきっかけに脱柵を計画した。
ただ脱柵するのではでなく学院の七不思議を利用して鼻を明かしてやりたいと計画を練った。それを上級生達に阻まれて失敗に追い込まれてしまった。次なる計画は、同じクラスの蘇芳ちゃんに気付かれたことで、"けち"が付いたけど、脱柵自体は成功した。
しかし祖母の危篤、そして死亡という事態が結果を変えた。私達は再びここに戻ってきて、親友といえる友人を得た。それは蘇芳ちゃん。雨降って地固まるとは良く言ったものだ。そして先に挙げた上級生とも良い関係を築くことが出来た。それも蘇芳ちゃんの存在がキーとなった。
その親友がどうもおかしい。なにか隠している。学院の中で一番分かり合えたと思っていたのに。怒りと淋しさでおかしくなりそうだ。実際に怒りで手を上げてしまった。妹はそれを咎めて、蘇芳ちゃんに優しくアプローチしているが未だに何も語ってくれない。
そして蘇芳ちゃんが立て続けに騒動を起してしまった。そこでまずは、発端である農場の所で倒れていた事案に絞った。第一発見者かつ新たに蘇芳ちゃんのアミティエになった根本さんと色々調べたけど、正直ボウズだった。何も出なかった。妹は妹で蘇芳ちゃんと付き合いのある上級生達に対して行動を開始している。多忙ながらも協力を取り付けたそうだ。
「苺姉、今日は蘇芳ちゃん徹底マークだよ。試験対策を口実にね。八重垣ちゃんに先に囲われないようにしないといけないね」
「林檎は先生筋頼むよ。あんたは養護教諭に可愛がられてるから・・・・・・」
「ズルいよそれ。あたしばっかり先生廻りするのやーだ。たまには苺姉やってよ」
ぐずる妹に、テストが終わったら生徒必須の温室作業を代わることを条件に納得させた。
「蘇芳ちゃん、おはよう。風邪治った? 今日も暑いね」
「沙沙貴さん、おはよう。もう少しかな。そろそろ完全に梅雨開けね」
他愛ない挨拶。さて、マーク開始だ。逃がさないよ、蘇芳ちゃん。