「ねえ、えりかっち。ここの解き方教えてよ。どうせ暇なんでしょ? 」
「お前な、そう言うのは白羽に言え。あれ? アイツ居ないのかよ。それじゃ委員長に聞け、な・・・・・・!? そうだ委員長は孝崎の所か・・・・・・」
「蘇芳ちゃんは風紀委員と職員室に行っちゃったんだよ。ダリア先生に呼び出されてさ。だからここのとこ、わからないから教えてよ。下敷きで煽いであげるから・・・・・・」
双子の沙沙貴姉妹が、ステレオで煽いできた。涼しい・・・・・・。教室は冷房無し。今日は窓を開けているけど風は皆無。生き返る思いで享受した。仕方ない借りは返さないと・・・・・・でもその前に。
「バスキア教諭が? 風紀委員と白羽を? アイツまたまた何かやらかしたのか? 風邪の一件からアイツなんかおかしいよな。沙沙貴、お前たち何か知ってるか? 」
「ごめん、良く知らないんだよ。蘇芳ちゃんは委員長に拉致されちゃって放課後会えなかったし、こっちはこっちで例の冤罪晴らすんで必死だったし・・・・・・。放校になる寸前だったんだよ。それは置いといて、あれだけ煽いだんだから、解き方をじっくり教えていただきますよ、え・り・か・先生!」
仕方ない。この自習時間はこいつらと付き合うか。目の前できゃっきゃ騒いでるこいつらを見て思う。黙って大人しくしていれば結構可愛いのに、色々残念だと。まあここには男は居ないし二人のお笑いキャラが負になることも無い。何しろいいとこの生真面目なお嬢様が多いここで、沙沙貴は確固たる地位を占めてる。先生受けは悪いけど。クラスの太陽といった感じだ。
「二人いっぺんに見るのは無理だから、交互に見るぞ。で、空いてる方は煽いで扇風機の代わりな」
「白羽さん、こっちに来て。萩野さんも同行ありがとう。ここからは白羽さんと二人で話すから、萩野さんは教室に戻ってください」
それでは失礼します。と、萩野さんが複雑な顔をして帰って行った。無言のまま連れてこられた談話室。中にはバスキア教諭とアミティエ試験の面接のときに会った教諭が居た。二人とも笑顔ではなく真顔。どう考えても叱責の場だ。着席を促されて座るも、とても平常心では居られない。空気の重さに居たたまれない・・・・・・。視線を足元に落しひたすら耐える。
「白羽さん、黒沼さんのことで貴女には色々と迷惑をかけたわね。ごめんなさい。今から話すことももしかしたら関係があるかもしれないわね」
意外な切り出し方に、びっくりして顔を上げてバスキア教諭を見やる。
「貴女のアミティエの根本さんから、手紙を頂きました。内容は貴女のことです。白羽さん、あなた根本さんに何をしたのですか? 詳細は伏せますが、暴力をふるったとか、性的な関係を強要されたとか、勝手に部屋を出て行って別の部屋に居るとか・・・・・・。この内容を100パーセント盲目的に信じたりはしませんが、幾らかは思い当たることも有るのではないのかしら、白羽さん。貴女は入学したときから随分変わったわ。あの頃の孤独の影を今は纏っていないもの。その代わりまだ知らなくていいものも色々と知ってしまったようね。私はそれがとても残念です・・・・・・」
伏目がちに抑揚を抑え淡々と話すバスキア教諭に畏怖を感じた。事実を言い反論したかったけど、同席の教諭に『この場であなたの発言は認められていません。慎んでください』そう強い口調で遮られてしまった。
「テストが開けるまでは保護観察扱いとします。テスト開けに学院としての処分の判断を正式に決定しますので覚悟しておいて下さい。尚、今日から自室で根本さんと過ごして下さい。養護教諭の意見に基づきオブザーバーとして保健委員の関本さんもテスト期間の間同室とします。いいですね。ではこれにて散開とします。白羽さんはすみやかに教室に戻ってください」
異議を申し立てようにも、とりつく島もない。同席の教諭はともかく、担任のバスキア教諭は味方だと思っていたのに。私がただそう思っていただけなんだ・・・・・・。どうして関本さんまで・・・・・・。彼女はもうオブザーバーとして同室になることを知っているのだろうか。 もしそうなら、クラスの中で知れ渡っている? 色々考えるも好転する気配はない。暗澹とした気持ちのまま教室に戻る。
だけど教室の前で入るのに逡巡してしまった。付き添いでも居れば好奇の目の中でも教室に入れるのだけど。一人では足がすくむ・・・・・・。いけない事とは思ったけれど、好奇の目に晒されるであろう教室での自習をサボって一人になれそうな聖堂に足を向けた。
さすがに試験期間の授業中だけあって聖堂は誰も居ない。少し暑いけどホッとする。列の中程まで進み長椅子に横になった。ここの場所は入学の時座った場所・・・・・・。
私、ここを辞めさせられたりするのかな。祖父は途中で帰ってきてしまった私を受け入れてくれるのだろうか。譲葉や級友とも会えなくなってしまうのだろうか。ふとそんな事を考える。見上げてる天井が涙で視界が滲んだ。すると誰も居ないはずの聖堂にビアノの音。調律をしている様だ。拙い。サボりがばれては、負の累計が・・・・・・。
音が切れて暫く経ったのでこっそりと立ち去ろうとした時、躓き椅子が音を立ててしまった。さっとしゃがんで隠れるも、足音がどんどん近づいてくる。
「誰か居るの? 幽霊?それはこの場所には有り得ないか じゃあまさかのイーバかしら? 」
「あら普通に人間じゃないのつまんない。ちょっと貴女、こそこそしてかくれんぼ? こんな時間にこんな所に居るなんて授業さぼってるんでしょ。こんな超お嬢様学校にも不良ちゃんが居るのね。まあ私は学院の人間じゃないからチクったりしないわ安心しなさい。ただあのピアノを調律しに来ただけだから。そうね一応名乗っておくわ。私は千葉冷子、貴女は? 」
「私は、白羽蘇芳。ここの一年です・・・・・・」
ブラウスにタイトスカート姿。首から入校証を下げて名を聞くまで自然体だった彼女が、名を聞いて刹那目がつり上がりが固まってしまった。彼女は私を見据えた。全身を視線が舐め回す。鋭い視線に悪心が。千葉冷子と名乗った女性は偶然なのか義母と同じ髪形。似た様な眼鏡をかけ全体の雰囲気も義母のそれだった。
「へー貴女があの白羽蘇芳さんなの。良い機会だから、ねえちょっと弾いてみてよ。もう調律終わってるから。ほら時間が惜しいから早くして」
強引に制服の袖を引っ張られた。袖が肩からビリッと破けそうな勢いで。こっそりさぼって居るのも忘れ、声を荒らげた
「何するんですか、止めて下さい。手を離して。制服切れちゃいますから・・・・・・」
「だったら早く座って弾きなさい。演目はトータプルクラでいいから。それなら譜面無しで弾けるでしょう聖母祭で弾いたのなら・・・・・・」
気押されて椅子に腰掛け鍵盤に向う。あの時のままの椅子の高さだ。そしてあの日以来久々にピアノを弾いた・・・・・・。弾き終わって、我に返った。一体何がどうしてこうなっているのだろう。義母を思わせる有無を言わせない強い口調に圧倒されてしまった。
「何よ。この間の演奏と随分違うじゃないの。横に居るのが私だとこんなものって訳ね。まあ中坊だからしょうがないか・・・・・・」
「悪かったわね。勝手に期待した私がバカだったということね。もういいわ。時間取らして悪かったわ。さぼりを続けて頂戴、残念美人ちゃん」
そう言い、いけ好かない年増女が聖堂を出て行った。初対面なのにあまりに失礼な物言い。確かに演奏の出来は今二つの出来だったけど私にも言い分がある。あのサプライズ演奏から全く弾いてはいないし、今もただ、強引に強制されただけだ。これをあの時と比べられるのはいくらなんでもフェアではないと思う。
ブチ切れて爆発しそうだった。あんたなんかに何が判るっていうの? もう一刻もピアノの側に居たくなかった。悪心が沸き立ち気持ちが悪くなってきた。興奮が過ぎたのか鼻血も。
雪崩れる様に隣の部屋に駆け込む。革張りのソファーに仰向けに倒れ込んで号泣した。口に血の味が流れてくる。不快だ。ここはバスキア教諭にアキラの容態を聞かされた部屋、ここはあの時の絶望を否が応にも思い出してしまう。
あの時と今の混乱した気持ちがない交ぜになって泣き疲れて寝てしまった。
気が付くと、私は下着姿でベッドに寝かされていた。天井の作りがここを寮の保健室だと知らせている。古い校舎の保健室とは違い今風だから・・・・・・。でも一体何故こんなところに居るのだろう?
「おっ気が付いたか。白羽。なんだかお前もここの常連になってきたな。それにしても、血で真っ赤な制服見た時は、ちょっとばかり覚悟したぞ。血だらけの制服はクリーニングに出したからな。下着にも血が付いてるけどそっちはもう少し我慢しろ」
「八代が叩いてから、お前まだ鼻の中か治りきっていないんだよ。また血塗れになりたくないなら少しは自重してくれ。それにしても聖堂に続く渡り廊下で倒れてたっていうのはどういった事情だ? まっそれはおいおいとして、なんにしても気になるからちょっと採血をさせてくれ。ほら腕を出して。検査は大事だぞ。黒沼だって検査をサボってなければ・・・・・」
「私、聖堂の外で倒れていたのですか? なんだか記憶が曖昧で・・・・・・」
「ああ。調律師の人がそう言ってここに運んできたんだよ。かなり取り乱してたな。美人が血塗れで倒れていれば、誰だって驚く。外傷が有ったらいつぞやの八代みたいに・・・・・・。答えにくいかもしれないけど・・・・・・お前は、初潮は来たのか。生理痛はどうなんだ? 」
「私は・・・・・・。その、軽い方ですから・・・・・・それにこの間来ましたから、暫くは・・・・・・」
「そうか。そっちの方では無さそうだな。じゃ採血させてくれ。親指入れて手を握って・・・・・・少し痛むからな」
チクッとした痛みの後、薄目を開けて腕を見る。抜き取られた血が、思っていたよりも赤くなく戦慄した。禁忌を犯した私は血も汚いのだろうかと。
「終わったよ。お前軽く熱中症の症状も出てるからこれから点滴をする。流量の所はいじるなよ。検体は急いで検査に回す必要が有るので私は街の提携大学病院に行くから。車でも往復3時間位かかるんで、その間は校舎の保健室に花菱と孝崎が居るからあいつらにこっちに来てもらう様にする。委員長なら安心して任せられるからな。そうそうダリアにも連絡してあるから授業のことは心配するな。そういやダリアがお前が寝てる間に来てさ、なんだかえらく心配してたぞ? 泣きそうな顔して」
ばたばた支度し先生が出て行き、保健室は風に揺れるカーテンの音だけの世界になった、また横になり、点滴の落ちる様を見ていたら眠くなり、目をつむった。程なくして戸を開ける大きな音と共に大きな声が耳に飛び込んできた。
「蘇芳さん大丈夫なの。鼻血出して倒れたって。一体どうしたって言うの。熱中症なの? ねえねえしっかりして・・・・・」
「そんなに大声を出してはダメよ、落ち着いて花菱さん。取り敢えず持ってきた服に着替えてもらいましょう」
立花さんと孝崎さんが来てくれた。手には着替えと花瓶に活けた花。
「自習の合間に二人で温室の花摘んでたら、急に呼ばれて。一緒に持ってきちゃった。私はちょっと教室に行って用をこなして来るから孝崎さんは蘇芳さんを清拭してね」
「立花さん、待って。私のことは内緒にしてくれないかしら。勝手なお願いだけど・・・・・・。ここにいること余り騒がれたくないの」
「なんで? ・・・・・・そうね。蘇芳さんがそう言うなら教室に行くのを止めるわ。黙っていたって嗅ぎつけられてしまいそうだし。用と言ったって、ちゃんと自習しているかなと言う事の確認だけだしね」
「ありがとう。我が儘言ってごめんなさい」
「良いのよ、蘇芳さん。それじゃ私も孝崎さんと一緒に清拭するわ」
着替えは孝崎さんに取ってきて貰ったから、ちょっと確認して。立花さんにそう言われて持ってきてもらった下着と制服を見た。すると孝崎さんが照れた様に
「これが一番似合いそうだから、セットの花をあしらったのにしたわ。引き出しの中どれもこれもおしゃれな下着で驚いたわ。制服はハンガーに掛かっていたのにしたけど、何かサイズが大きい様な気がするわね」
「もしかして、それは私の部屋から? 」
「えっ、何でそんなこと聞くの? 変な白羽さん。もちろんあなたの部屋よ? 」
「そうだ。ごめんなさい、孝崎さん。説明が足りなかったわ。蘇芳さんはここの所、私達の部屋に居るから、普段使いの下着は蘇芳さんの部屋には無いのよ。ごめんね孝崎さん、蘇芳さん。私が替えを取りに戻るから・・・・・・」
「立花さん、気にしないで良いわよ。今日はなんだか気分変えたいし、それ使うから。孝崎さんの持ってきた制服は・・・・・・。それね実はアキラのなのよ。お母様に是非使ってって言われてね・・・・・・。今の私にはちょっと大きいけど、いずれフィットするだろうって」
「そうなんだ・・・・・・これ亡くなったと言う黒沼さんの形見なのね……。それじゃあ身体を拭きましょうね。その血の付いたブラ外して裸になって下さい白羽さん」
「・・・・・・・・・・・・」
「そんなに恥ずかしがらないで。女同士じゃないの。あの子もそうだけど、どうしてそんなに同性の身体を気にするの? それって何かとっても不思議よ。中年のスケベオヤジならいざ知らず同年代の女の子に見られたって良いじゃない。ねえ、花菱さん」
「蘇芳さんは今の世代では居ない位の恥ずかしがり屋さんなのよ。トラウマが有るらしくって。お風呂も着替えもずっと一人だったの。一人なるまで時間潰してたり。それが出来なかった身体測定の時なんて本当に大変だったのよ」
「へー。こんなナイスバディなのに、出し惜しみは罪だわ。私なら見せつけまくるけどな。自分から脱ぐのが恥ずかしいなら、言い訳立つ様に私が脱がしてあげようか? 」
それ、身体測定の時に立花さんにも言われたな。記憶がフラッシュバックしてきた。あの時は皆が脱いでるのに私一人が制服着たままで逆に恥ずかしかったな・・・・・・。
「それなんだけど・・・・・・あのね、私だけが裸なのは凄く恥ずかしいの。お風呂は皆裸だから諦めてるけど。もしね、もしもなんだけど、お世話ついでにもう一つお願い聞いてくれないかしら。あのね、無理なら仕方ないけど・・・・・・立花さんも孝崎さんも一緒に脱いでくれないかな。上だけでいいから。私、自分でも変な事言ってるわよね。判ってる。ごめんなさい今日の私は何処かおかしいのよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
私の突飛な提案に、立花さんは思わず孝崎さんを見た。二人して目をまんまるにして見合っている。そして小声で何かを話した。そして二人がして私に近づいてきて・・・・・・。
「そうね。こんな機会はそう無いからね。今日は蘇芳さんのお願いを聞いてあげるね。でも私だけ貧相で悲しいな。大きくはなってきたのだけど、さすがに貴女達の前では・・・・・・」
立花さんが口ではそうは言うものの、一番先に制服を脱いで下着姿に。そして間髪を入れずにブラジャーを外して上半身裸に。続いて孝崎さんも。彼女のまた躊躇なく脱いでいく。
孝崎さんの胸の大きさ、形の良さに目が皿になってしまった。立花さんも目が点に。大きい方だと思っていた私より更に大きいし形も良い。今まで見た中では譲葉と同じ位の大きさがある。小御門先輩よりは小さい様だけど、先輩も大きくなったのは二年になってからって言ってたし。一年生では圧倒的なボリュームだ。
「白羽さんそんなにじろじろ見ないでよ、もーあの子みたい。バスキア教諭の方がもっと大きいわ・・・・・・」
「ダリア先生と比べたら勝てる人はここには居ないでしょ。私もあの歳になる頃には、あれくらいになるのかな・・・・・・。それじゃ蘇芳さん身体を拭くから、点滴のチューブに気をつけて腕を伸ばして」
二人がかりで私を拭いてくる。なんだか凄く気持ちがいい。背中胸お腹と。下半身も彼女たちにお願いした。濃く茂っているものに二人とも顔が真っ赤になった。聞けば立花さんはまだお子ちゃまで、孝崎さんは薄いし、処理してるからこんなじゃないわと。
拭き終わった後互いに胸の大きさを触って確認したり、秘密を積み重ねていった。そして多言無用を三人で指切りして契った。信用できる人を支えて、又支えられているのは至福。気が付くと涙が出ていた。
「何処か痛むの蘇芳さん?」
「優しいわね花菱さんは。ねえ花菱さん、浮気しちゃダメよ。こんなの裸見せられて・・・・・・翻意して白羽さんにグラっと来てない? 」
「白羽さん、さっきね。すごいの見ちゃったのよ。花菱さんが、保健の先生に抱かれて匂坂さんのことで衝撃の告白してたの。涙流して貴女の事も好きだけど、匂坂さんの方を愛してますって。超びっくりしたわ」
「言わないで。恥ずかしいでしょ。よりによって蘇芳さんの前で言うなんて酷いわ孝崎さん」
口ではそう言うものの、本気で怒ったりはしていない。唯照れている。私も立花さんとマユリさんがまだ続いてる事に安堵した。
「あれ二人とも反応が薄いわね。もしかして周知の事実なの? 」
「立花とマユリさんはクラス公認だもの。知らないのは転入してきた貴女達位よ。孝崎さん」
「そうなの。なんだ。世紀の大スクープかと思ったのに。貴女たち以外に他にも居るの? 交際してる人って」
「何となく判るのは何組か居るわ。あまりオープンにすると色々あるから、こっそりと付き合ってるわね。学院側はこういうのにいい顔してないし、私もマユリも何度も何度も呼び出されてお小言もらってるもの」
「ねえ、付き合うって肉体関係有りって事なの? 女同士で? 花菱さんもしてるの? 白羽さんは、あの会長さんとしてるの? 」
「私は・・・・・・してるけど。凄く良いものよ。孝崎さんは経験無いの? そんな凶悪な身体してるのに。お相手出来たら色々教えてあげるわ」
立花さんが、あまりに直球で私はむせてしまった。二人の目が私に。射る様な孝崎さんと興味津々と言った目の立花さん。裸の私達は色々麻痺している様だ。
「そんなに見ないで。譲葉とは最後まで行ってないわ。譲葉はああいう人だけど、意外にシャイなの。だけど経験は有るって言ってた。相手は小御門先輩だと思うけど、ここに入学する前の事らしく詳しいことは教えてくれないの」
「でも、黒沼さんとは最後までしたんでしょ? 」
「アキラとはね。でもそんなに何度もしてないから・・・・・・。片手以上両手以下位よ。関係を持ってから、亡くなるのが早かったし・・・・・・そうアキラも経験者だったわ。入院してる時に、担当の看護士の"主任さん"に一から教え込まされたって。しれっと言うから嫉妬した・・・・・・私は聖母祭の夜が初めてだったの・・・・・・」
空気がしんみりしてきたので、立花さんが孝崎さんに振った。
「それで、孝崎さんは経験は有るの? 男の人を知ってるの? 今度は孝崎さんの番よ」
「私は・・・・・・無いわ。ガチのヴァージンよ。芸能界って言っても子役だもの。浮いた話は少ないわ。父はかなり顔が利く人で、その娘に不用意に手を出す様な人居なかったし。ただ後輩の女子には慕われていたことが有ったけど。彼女とは別に何も・・・・・・」
立花さんと二人でため息。テンションが落ちた。私達は保護者モードになって孝崎さんを見つめた・・・・・・。
「じゃあ、服を着ましょう。でもそれ外せないわねどうしようかしら?」
知恵を絞って先に点滴のパックとチューブを制服に潜らせてから制服を着た。着る前にタグの名前を指でなぞった。暫しアキラの記憶が頭を過った。半身起してベッドの上で点滴の残りを見る。
「取り敢えず、教室行くから。もう大丈夫でしょ? 一応聞かれたらここに居ることは伝えるわね。なるだけ来ない様にさせるけど」
頷くと立花さんは手を振って出て行った。そして居なくなった頃合いを見て、ベッドの横に立った孝崎さんが私の頬にキスをしてきた。
「この間のお返しよ。ねえ、何でさっき本当の事言わなかったの。私、農場で関本さんにされた事を、ずっと見てたの。おかげで風邪引いてしまったけど。そして保健室でも関本さんにHな事されてた 。私が横に寝ているのに、されるがままにされてるのだもの驚いたわ」
この間の脅迫騒ぎ、あれ私が直訴したのよ。ここで寝ている時にトイレに行くを装って先生の部屋にメモを入れたの。あれは色々ぼかして書いた訳だけど、どうしてバスキア教諭に本当の事言わないのよ。何かやましい事が有るの? あんな事をする関本さんを受け入れているのは何故? 」
「・・・・・・・・・・・・」
「ぼかして書いたのは、まだあの時は人間関係の事情が良く分からなかったから。一応関本さんは途中転入の同期だもの。売る様な事はしたくなかったし、貴女が全て折り込み済みでさせてるとも限らなかったから・・・・・・でも事情は判ったからこれからは貴女を支持する」
「貴女みたいな美人が悲しい顔をしているのは、耐えられないわ。くどいようだけど、あれを受け入れてまで、話せない秘密って? 力になるから・・・・・・」
答えられずに黙っていたら、孝崎さんはそう言ってくれた。でもあれが知られていては、自分はともかく関係する人、親友、先輩に迷惑がかかってしまう。今日のを見ても私は学院に目をつけられている。自重の時期なのだ。
顔を起し振り向きざま孝崎さんの唇にキスを返し、呆気にとられる孝崎さん。
「ありがとう。その時が来たら頼らせて。それまでは黙ってて下さいお願いします」
「ねえあの子にも内緒で良いの? 八重垣えりかは、貴女の事を四六時中考えてるわよ。寝言だって言うんだから参るわ。それでもなの? 白羽さん」
お願いしますと意をこめて、ひたすら頭を下げた。上目遣いで見るとやれやれと言った表情の孝崎さん。
「わかったわ。うまく収める方法を考えて。いつまでも味方だから」
その言葉に安堵した時お腹が鳴ってしまった。二人顔を見合わせ笑った。時計を見るとお昼の時間だった。とその時、花菱さん達が来た時以上に乱暴に戸が開いた。
「蘇芳ちゃん、どうしたのよー。ダリア先生に殴られて鼻血出したってマジなの? ダリア先生マジ馬鹿力だから鼻血くらいで済んだらラッキーだよ。今、林檎がお昼持ってくるからさ、ここで食べようよ。つーか食うよ。委員長が気を利かせてくれて、他の人来ない様にしてくれたから」
Vサインを出して笑う苺さんと入れ代わる様に、孝崎さんがあの子の介助に行くからと手を振って保健室を出て行った。私は林檎さんが持ってくるお昼ご飯を待ちながら、彼女たちが脱柵を実行した夜の事を思い出していた。