「はぁっ、はぁっ」
走る。走る。
後ろからの脅威から逃げるために。
走る。走る。
腕の中にいる少女を守るために。
血がポタポタと垂れ落ち、通路を汚していく。
「っ!うわっ!」
血を流しすぎた。
足がうごかなくなる。
つまづき、転ぶ。
体から血が流れている。
体が動かない。
寒い。寒い。寒い。
目の前の倒れている少女を見やる。
気を失い、血にまみれていても、それでも彼女は美しかった。
高城の騒動から一転。僕らが向かったのは隼翼さんの所ではなく、矢吹グループの本社ビルだった。
隼翼さんより、新たな能力者の存在、そして、その能力者がここに囚われているということを知らされ3時間。つまり、松方村より3時間かかった。まあ、北海道の端から端へ。あのほぼ大自然村から札幌という都会に3時間で来れたのは、実に上々と言えるだろう。
「なあ、友利」
「なんですか?」
「こんな、少なくとも数ヶ月前まで大会社だった所で本当にやってんのか?人体実験なんて」
「違いますよ谷城さん。人体実験はもう終わり、実験の成果でその能力者が死にかけているんです」
「同じことだろ」
矢吹グループ。数ヶ月前より、少々景気が怪しく、低迷している元大財閥。
矢吹グループには、まあ、あっておかしくないくらいの、それこそ、大企業にふさわしいと言える、変な噂が多々あった。
例えば、社内には『未来予知』の超能力者がいて、その超能力者が会社の利益を増大させているだとか。
そんな、眉唾物だった。
無論、そんな根も葉もない話、信じる方がどうかしている、が、しかし、それはあくまで、能力者関連の事態にまったく、関わりを持たない人たちである。
矢吹グループには、全盛期と呼ばれる時代が2つあった。
30年前と、数ヶ月前。
数ヶ月前は、僕らも知っている通りだ。TVCMの3本に1本は矢吹グループのCMだったことを、よく覚えている。いや、性格には、僕以外の大多数の人が覚えている。
30年前の全盛期の直後にも、この事態と同じようなことが起こったらしい。そして今から5年前より、少しずつ景気が回復し始め、数ヶ月前に暴落。
隼翼さんは、実を言うと、かなり前からこの眉唾物の噂を信じ、矢吹グループにあたりをつけ、調べていたらしい。そしてそれは、本当に、今さっき、熊耳さんの『能力者発見能力』により見つけられた。
能力は、『未来予知』。
ドンピシャだった。
後ほど、目時さん、前泊さん、七野さんとともに北海道まで渡ってくるらしい。が、先鋒隊として、僕らが先に突入するらしい。
なぜ全てらしい、なのかと言うと、僕はこの話を友利からしか聞いていないからだ。おそらく、隼翼さんの力になりたいあまり、独断先行で突入するかもしれない。
しかし、僕は止めない。
友利に、従おう。
「さ、じゃあ行くっすよ」
「ああ」
伏魔殿へと、突入した。
中には、当然のことながら、ロビーがある。
「どうする?ここからさらに中に入るのは、なかなか困難じゃないか?」
「困難というか、無理っすよ。ここには何人の人がいると思ってるんですか」
ロビー内には、ざっと見て30人から40人ほどだろうか。ここまで多数の人間がいるなかで内部に入るとなると、何人かに見られるのを覚悟するか、あるいはーーーーーー
「ここにいるやつ全員制圧するか、だな」
「お、いいっすね、それ」
「はあ?おいおいまじか?ここにいるやつら全員再起不能にするんだぜ?」
「まあ、全員再起不能にするのはさすがに骨が折れますが、しかし、あるじゃないですか。1つ方法が」
「方法?」
「今あるんでしょ?火薬」
「....。」
確かに、今懐には松方村からそのまま持ってきた火薬類の巾着袋があるが、しかしーーーー
「俺は人をもう殺したくない」
ーーーーもう?
もうって、なんだ?
「何言ってんすか。別に殺せ、とは言ってないです。ただちょっとだけボヤ騒ぎを起こして、注目を集めればいいんですよ」
「...ああ。なるほど」
その隙に僕らは内部に移動するのか。
「もう入る所に目星はつけたのか」
「はい。あそこの非常用階段。見えますか?わたしの勘ですが、間違いなくダミーです」
「まじか?」
「はい。恐らくは。では、ボヤ騒ぎのうちに、さっさと突入しましょう」
「よし、分かった」
「では、お願いします。準備ができたら、合図しますよ」
「オーケイ。任せろ」
そこで友利と別れ、ある程度人が密集している所に向かう。火薬を落とす。すぐには爆破させずに、離れた所にもう一つ。さらに別の場所にもう一つ。計3つの場所に、火薬。つまりは爆弾を落とした。
「.....よし。じゃあいこっか」
ひとりごち、力を込める。まず一つ目の爆弾を爆破。そこに注目が集まる。しかし、まだまだ足りない。二つ目、三つ目の爆弾を同じように爆破。完全に注目が集まる。
「......。」
ちらり、と友利の方を見る。友利は手招きのサインをしていた。
すばやく扉に近づき、進入。
扉をすぐに閉め、座り込む。
「....はぁ、なんとか、成功した....」
「こんな所でばててたらこの先やっていけないっすよ」
そう言って、友利は僕に手を伸ばす。
「.....ああ。そうだな。ありがとう」
「ん、しょっと」
「しっかし、なんだよここは....。完全に会社じゃないよな」
そこに広がる景色は、オフィスではなく。ただ、白くて、そして広い廊下が伸びているだけだった。友利の言うとおり、本当にダミーだったようだ。
そこはまるで、研究所のようだ。
懐かしい.....。
懐かしい.....?
懐かしい、のか?
どこがーーーーー
「何ぼけっとつっ立ってるんですか?早く行きますよ」
「あ、ああ。そうだな」
そうだ。懐かしいか懐かしくないかなんてどうでもいいじゃないか。どうせ隼翼さんたちのアジトも、似たような造りだったし。早く『未来予知』の能力者を救わなくては。
そう自分に言い訳をしながら、歩き出す。進みだす。
歩んでゆく先は、 ただ白く。ただ白く。ただただ不気味だった。
しばらく真っ直ぐの道が続く。
「ここまで白いと気が滅入るなあ」
「そうですね....。わたし少し気分が悪くなってきました」
「そーか。おぶってやろうか?」
「そんなことするなら、七野さんと結婚した方がマシです」
「おい、どさくさに紛れて七野さんdisるなよ....っていうかなんて言いぐさだ....」
かなり真面目に泣きそうだった。悲しい。
閑話休題。
それはともかくとして。
無駄話をしつつ、言いようもしれない不気味さと気持ち悪さをこらえ、しばらく歩き続けた先、それは、
壁だった。
「.....。」
「.....。」
数秒の沈黙。
静寂。静寂。静寂。
....いたたまれないなぁ....。
「ここまで来て、気持ち悪くなる思いまでして、行き止まりって....」
「あーあ。友利がバカみたいになった」
カタカタとバカみたいに震える友利を優しく抱きしめる。
「愛してるよ。友利」
抱きしめようとする、が、瞬間するりと抜け出し、
「わたしに触るな」
およそ汚物を見るような目で見てきた。
おいおい泣いてしまう(ふりをする)僕。
まったく、とんだ茶番である。
「とはいえ、どうしてだろうな?僕らはただ真っ直ぐの道を通ってきたのに」
「考えられる可能性は、どこか隠し扉がある、か。それとも、どこかにスイッチが...」
そう言って周りの壁を探り出す。僕もそれに習うが、見つからない。
「そうだ、もう少し高いところに...」
そう言ってジャンプする。
手当たり次第探すが、見つからない。
しょうがない、あと一回で諦めて、別を探すか...
そう思って、飛ぶ。あたりはなかった。
ため息をつきながら、着地。するとーーー
カチリ、と音がした。
「っ!友利!見つけたーーーーー」
瞬間、体が浮揚した。
そして、落ちる。
「え、あれーーー」
「谷城さん‼︎」
手を伸ばす。手を伸ばす。
伸ばした手はーーーー届かない。
落ちるーーー落ちる。
光がーーー途切れた
ーーーーー暗転。