曇天二ヒカルノハ、死ノヒカリカ、ソレトモ   作:インサイト

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お姫様

落ちる。堕ちる。落ちる。堕ちる。

果てしなく続くと思われるほど、長い、長い体感時間。実際数十秒もなかったかもしれない。が、しかし、それが永遠にも感じられるほど、奇妙な感覚だった。

 

「グフっ!」

 

思いっきり背中から落ちた。肺が一時停止して、息ができない。

上を見ると、光が途切れるなんてことはなく、たかが数十メートルだった。おそらく、いきなり穴が開いたせいで、驚いて体の向きがおかしくなったのだろう。

 

「谷城さーん。大丈夫っすかー?」

 

上から友利が覗き込んでこちらをうかがう。

 

「おー、んっゴホッゴホッ、えほっ、だいじょーぶ、がっは!」

「めっちゃ咳き込んでるじゃないですか、まったく。じゃあ、今からそっち行きますねー」

 

そう言って、友利はひらりと舞い降りた。僕なんかと違って、緩やかに、それでいて安全的に飛び降りたが...

その....降りるときに、あの、スカートがひるがえって、友利の下着が見えたというか、安全的に飛び降りたけれど、スカートの中身は安全的ではなかったというか...

 

「ぐはあっ⁉︎」

「...記憶を消せ」

「おれ、まだ...何も言ってないのに...な、なんで...」

 

友利からすごく腰の入った、世界を狙える右ストレートが放たれ、僕の腹に直撃した。ただでさえ背中から落ちて、呼吸がうまくできないというのに、追い打ちをかけられる。脳に酸素が行かなくなり、一時的に記憶をなくしてしまった。

友利の下着は、純白である。たぶん勝負下着だ。

なんの勝負だ。

そして忘れてねぇじゃねえか。

「あ、あれ...?なんかすごく幸せな理想郷を見た気がしなくもなくなくない...?」

「たぶん気のせいっすよ」

 

閑話休題。

それはともかくとして。

 

「それにしても、ここどこだろう?」

「さあ?おおかた、あの研究所っぽい廊下はダミーで、ここが本当の研究所、みたいな?」

「なんでダミーなんかいるんだよ?」

「一般職員にも秘密なんじゃないですか?あんな研究所っぽいところがあれば、誰だって研究所だと思いますし。それとも、一般職員には見せられないような危険なことをやっているのか...?」

「なるほど。ここのやつは随分と用心深いんだな」

 

友利と二人で話し込んでいると、少し遠くから、声が聞こえた。

 

「おい、本当にここらへんなのか?」

「間違いねえ!ここで何かが落ちる音がしたんだ」

 

やばい、見つかる!

 

「おい友利、逃げるぞ!」

「は?なんで」

「たぶんここの研究員か警備員だろ。早くしろ、万が一にもここにいることが知れたら...」

「でも、そんな声聞こえな」

「いいから早く!」

「あ、ちょっ、待って」

 

動こうとしない友利の手を握って無理やり歩かせる。

側にあった物陰に隠れた。

 

「ちょっと!何するんーーー」

「しー」

僕が真剣な表情で静かにしろ、とジェスチャーすると、さすがに押し黙った。

数分後、明らかに武装したと見える男二人が僕たちが先ほどまでいたところに来た。

 

「見ろ、扉が開いてるぞ!」

「まずい、侵入者だ、今すぐ知らせなければ!」

男の一人が、無線機を取り出す。

それを聞いた瞬間、友利が飛び出した。

 

「おい、お前よけろ!」

「は?何言ってーーー」

「でやぁぁぁ!」

 

友利の飛び蹴りが相手の頭にクリーンヒットした。

「ガハッ!」

「て、てめぇ!」

 

残りの男が銃を構える。

しかし、銃口が友利に向く前に、僕の能力で銃の中の火薬を暴発させる。

 

「ぎゃああ!」

顔のすぐ前で銃が爆発し、気を失う男。

追っ手がこないことを確認し、友利に近づく。

 

「お前、あんま無茶すんなよ...」

「だって知られたらお陀仏じゃないっすか」

「そうだけど...」

「それに、助けてくれたじゃないっすか。ありがとうございます」

真正面から、ぺこりと頭を下げられる。

それにはさすがにこの僕でも照れてしまい、

 

「え?い、いやぁ。当然ことをしたまでで」

「なにキョドってんすか気持ち悪い」

 

バッサリ斬られた。

いい気になった罰らしい。

 

「さて、と...」

そう言って、友利は男の一人の体をごそごそと漁りだした。

 

「な、なにやってんだ?」

「武装と、あと地図があるといいなぁ、と思いまして、」

「武装⁉︎」

「そりゃそうっしょ。こんなにガチゴチに武装してあるんだから、このまま丸腰じゃ危険ですよ」

「まあ、そうだろうけど...」

「ほい、手榴弾と、閃光弾」

 

気軽に人を殺せる道具を差し出される。

どうしても触れない。

手が震える。

 

「?どうしたんすか?」

「お前は、その、怖くないのか?」

「はい?」

「だからその、簡単に人を殺すことができる道具を今持ってるんだぞ?抵抗はないのか?」

「あの...もしかして、これ使ってわたしが脳とか心臓とか打つと思います?」

「へ?ちがうの?」

「ちっがいますよ!抵抗あるに決まってるじゃないですか!まったくもう、失礼ですね。殺すわけないじゃないですか!殺せるわけないじゃないですか!そんなの、研究者なんかと同じじゃないですか!」

「と、友利...?」

「わたしが殺すわけがない。せいぜい足か手です。さっきも言ったでしょう?これは武装した相手ともし対峙したときに、こっちが丸腰じゃ危険だからです。だからです!人を殺す、なんて、そんな、研究者みたいな、人を人と思ってないような、に、兄さんが、あんなことになったのも、全部、ぜ、ぜんぶ、ぜんぶ」

「友利⁉︎お、落ち着け」

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああ」

「友利⁉︎友利⁉︎」

「ああああああああああああああああああああッ⁉︎」

 

友利は、いきなりまくし立てたかと思うと、その場に座り込んで泣き叫んでしまった。

ーーーくそ!どうすればいい⁉︎

ーーーそうだ、隼翼さんに連絡すれば。

そう思い、携帯電話を取り出し、隼翼さんに電話するが、

 

『...おかけになった電話番号は...』

「くそっ!こんな大事なときに!」

「ああああああああああああああああああああああああッ⁉︎」

「友利、友利!くそ、どうしたら」

 

どうしようもなくうろたえていたら、奥から人の声。

 

「なんだこの声は⁉︎」

「おい見ろ、侵入者だ!」

「応答願います、本部。こちらB-3地区。侵入者2名発見。すでに警備員2名が交戦、負傷した模様。直ちに捕獲作戦へと移行します!」

「よし、捕らえろ!」

ざっと15人。先ほどと同じように武装した警備員が向かってくる。

 

「くそ!」

 

僕はすかさず手榴弾ーーーいや、閃光弾を手にし、素早くピンを抜く。

投げる。

まばゆい光。

 

「うわぁ⁉︎」

「くそ、閃光弾か!」

「!」

 

いつの間にか泣き止み、気を失っていた友利を抱き抱え、その場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ...」

 

あの離脱から約5分。

 

「ここどこだ...?」

 

無我夢中で走っていたので、ここがどこかわからない。

腕の中の友利を見やる。

先ほどとはうって変わって、穏やかな寝顔をしていた。

 

「ったく、おとなしくしてれば、可愛いのによ」

 

髪を掬う。

サラサラしていて、まったく途中で止まらない。

しかしーーーなぜ僕はさっき、流れるような動作で、閃光弾を使用できなんだ?

記憶を失う前の僕は、どんな人間だったんだろう?

高城のときにもあった、妙なデジャヴ。

今より推測するに、相当にぶっ飛んだ、危険人物に違いない。

そんな風に、自分のことなのに他人ごとのように考えることに少し違和感を覚えながら、友利を再び抱き抱え、立ち上がった。

カツン、カツン。

 

「!」

 

靴音。

急いで周りを見渡す、が、隠れられるところがどこにもない。

 

「逃げられちゃ困るんだよ、おにーさん」

 

透き通るような声で、少年は言った。

両手に鎌をもって、吐き捨てた。

「この先には、大事な、大事な、お姫様がいるんだからさ」

 

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