その足運びは、完全にこちらを殺しにかかっていた。両手の鎌をだらりと下げ、その双眸は、冷たい殺意にぎらつき、背筋が底冷えするような、雰囲気を纏い、その口は、
歓喜を帯び、狂気に笑っていた。
「...誰だおまえは?」
「ターゲットの問いに答えるほど、ぼくはおろかじゃあ、ない」
「何が目的だ」
「言わなくても分かるでしょう?おにーさん」
「...誰の差し金だ?」
「言う必要は、ない」
「...殺すのか?僕たちを」
「当たり前じゃん」
その言葉を聞いた途端、その言葉の意味を認識した途端、
僕の中のナニカが急激に冷え込んだ。
まるで、その言葉が、スイッチのように。
まるで、その言葉が、引き金のように。
脳が冴え、視界が明瞭になり、血液が全身にいきわたり、それまで騒々しく危険信号を打ち、鳴り響いていた心臓が、急に正常どうりに戻った。
僕は直感した。
戦闘体勢だ。
僕が、友利を、殺させないために、こいつを止める。
僕のことなんてどうでもいい。友利が無事なら、それでいい。
そんな強気な気持ちが、隙を見せない行動に表れた。
「......。」
隙を見せないようにゆっくりと下がり、安全圏と思われるところに友利をそっと降ろす。
そして、相手を睨みつける。友利に手を出したら殺すぞ、と意味を込めながら。
懐の手榴弾に手をかけながら、少年と相対する。
そして、それは、いきなり始まった。
僕はノーモーションで火薬の袋から取り出した、砂状の火薬を投げつけた。少年はよけない。その一粒一粒が、一つの爆弾だとしらずに。
少年の眼前で爆破させる。
終わった。
あの爆発ではもう、生きてはいないだろう。
そう思い、安堵する。
人を殺したのに、なぜ安堵する?
そんな自分の中の違和感を見て見ぬ振りをして。
友利の安全を確認しようと思い、駆け出したが、しかし、本来なら、聞こえてこないはずの、
声が、聞こえた。
「いやぁ、危ない危ない。危うく死んじゃうところだったよ、おにーさん」
「...!」
「おにーさん、不思議な能力持ってるんだねぇ、いーなー、羨ましいよ、そういう超能力的なやつ。僕のなんて、ただの」
そう言って、両手の鎌を構える。
「身体能力だし」
少年が、消えた。
忽然と、消えた。
と、思った、その時。その刹那。
ぶるりと凍える殺気。首筋が狙われていることを瞬時に理解し、薄皮一枚犠牲にしながら、転がる。
今さっき僕がいたところに、巨大な、それこそ、人間の首くらい簡単に切り落とせる傷が、人間の命くらい蝋燭のように吹き飛びせる傷が、真一文字に刻まれていた。
慌てて起き上がると、少年が目の前に立っていた。
「.....いまのを避けるなんて」
「なんだ、今のは?」
「ますます油断できないな」
こちらの質問を無視し、また構える。
「次こそ殺す」
少年の体がまた消えた。
反射的に、少年からの直線上に、羽織っていたジャンバーを盾のように広げた。
しかし、
「ぐああ!」
傷を受けたのは、背中だった。
しかも、結構深い。
「ちっ、また殺せない」
不機嫌そうに少年が舌打ちする。
痛みで意識が飛びそうになりながら、なんとか這いつくばって、意識を保つ。奥歯が砕けそうなほど歯を噛み締め、血が出そうなほど拳を握る。
そうやって這いつくばっていたからこそ、気づくことができた。
少年の靴の底が焦げていることに。しかもそれが、摩擦熱によるものだと分かったこと。
「ああ、分かったぞ、お前の、能力...」
「それが遺言かい?じゃあ、今度こそ、死ねぇ!」
少年が向かってくる。消える。
そして、僕は目をつむる。気配を探る。再び首筋が狙われていることに気づく。僕は避けようとせず、閃光弾を放った。
これは、賭けだった。僕の考えが当たっているかどうかの、賭けだった。
無我夢中に転げ回って、逃げ待とう。相手は多分、瞬間的に視界が潰れただろう。しかし、僕は目をつむっていたので、ある程度は耐えられる。
光の中に、少年の姿を確認する。すかさず蹴りをいれ、壁まで吹き飛ばした。
手の中に持っていた鎌を取り落とす。
案の定、靴の底がプスプスと焼け焦げていた。
手の中にたんまりと火薬をもち、少年の目の前に行く。
背中の痛みに耐えながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「君の能力はズバリ、《加速》だね?」
そう、切り出した。
「.......」
「しかし、それは限定的に、体の一部にしかできない。だから君は、足に《加速》の能力を使い、さらに視線誘導で自分を視界の外に行き、僕に攻撃していた、違うかい?」
「でも、今それをやったらこの火薬で君の足を吹き飛ばす。それがわかるなら、質問に答えてくれ」
「.......」
「まず一つ目。君は誰だ?」
「......奏上峯連」
「そうじょうほうれん。珍しい名前だね。なぜ君は僕らを殺そうとしたの?」
「...... ここの人間に雇われた。僕は殺し屋だから」
「殺し屋......。じゃあ、君に、僕らの殺しを依頼した人は?」
「......矢吹。矢吹新二郎」
......あの野郎。
どこまでいってもクズか。しかし.......。
「なんで僕らがここにいることを知ってるんだ....?」
「.......」
「何か知ってるだろ?話して」
「.......」
「吹き飛ばすよ?」
「.......正確には、この部屋の奥にいる、『お姫様』を他の奴から守れっていう依頼だ」
「その、『お姫様』って、もしかして...」
「大方、おにーさんたちが見つけようとしてる、《未来予知》の人だよ、多分....」
「....君は、どうして殺し屋に?」
「そういう家庭だから」
複雑な事情があるらしい。
「じゃあ、その『お姫様』がいる部屋ってのは....?」
「ここをまっすぐ行ったところにすぐ」
「分かった。ありがとう」
もう尋問は十分だと判断し、峯連くんに背を向ける。
「そういえば、峯連くん。君もーーーー」
言おうと振り返ったとき、もうそこには奏上峯連はいなかった。
「使命は果たす!死ねぇぇぇ‼︎」
そう吐き捨て、僕の背後で僕に飛びかかっていた。もう避けられない。万事休すか。
そう思った直後に、今度は顔面に蹴りが入って、またもや壁まで吹き飛ばされた。
「まったく、なに油断してんすか、ばーか」
僕のお姫様は、へたり込んだ僕を、呆れた表情で見下ろしていた。
字数すっくな⁉︎や、ヤベェ...どうしよう