様々な疑問が僕の頭の中で渦巻く。
先程までは人の気配を感じなかったのに、なぜ今になって、湧いてきたように人が出てきたか。
今さっき判明したばかりの僕の気配探知。なぜこんなことができるのかはわからないが、しかし、ここに来たばかりの時の警備員や、峯連くんの時も僕たちを助けてくれたこの感覚に、僕は絶対の信頼を置いていた。
しかし、この現状。気配探知は使えず、その結果、友利は凶弾に倒れた。
僕が友利を殺した。
殺した。
殺した。
友利は、いない。
目の前が真っ暗になった。頭が。脳が。神経がこの現実を否定している。受け入れられないでいる。フザケルナ。こんなことが、認められるものか。
現実は非情。残酷。そして無情。
そして悲しみの悲鳴が上がり、辺りには残響が残されようとしていたーーーーー
「....まだだよ」
「ーーーー!」
現実を否定する言葉。僕を救う言葉に、思わずすがってしまう。
「....当たったのは脇腹。内臓は全く傷ついてない。放っておいたら死ぬけど、まだ助けられる」
さっき助けたと思った少女に助けられるだなんて、なんて無様。
でも。
友利を。愛する人を守れるのなら、無様だろうがなんだろうが、泥を啜ろうか這い蹲ろうが、関係ない。プライドなんて、
信条なんて、愛する人の前ではチリと化すのだ。
ブラックアウトしていた視界が、元に戻る。モノクロだったセカイが、色を取り戻していく。
まだ後ろからは銃を持った狂人が迫ってきている。
冷静に、辺りを見渡す。《未来予知》の能力者を背負っているのを、確認。足元に、友利がいる。急いで抱え上げて、駆け出した。
友利の息遣いが聞こえる。やはり、《未来予知》の能力者の言うとおり、まだ生きている。しかし、血は止まらず、ポタポタと僕たちの道筋を追ってきていた。
「なぁ、おい」
「.....なに?」
「友利の血で僕たちの居場所がばれるんじゃないのか?」
「.....大丈夫」
それだけ言うと、《未来予知》は、思いっきり口を開けるとーーー僕の首に噛み付いた。
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
「....さっさとはしって」
そして、僕の血を啜る。奇妙な感覚だった。
ある程度進んだ後、それを吐き出す。綺麗な血の跡に見えた。
「唾が、ない...?」
「....そういうぎじゅつ。さっさとはしって」
そして次々と血を吐き出す。
後ろからくる声が、どんどん小さくなっていく。弱点だった血の痕が、逆に相手を惑わしている。
「....そこ左。てきがだいぶ減ると思う」
言われたとおり、左に曲がる。
部屋がある。
「入って」
ドアをこじ開け、入る。どうやら休憩室のようだ。
「ハァ、ハァ....」
「....ここには、たぶん医療セットがある。とりあえず、応急処置だけでもして」
「ああ....。分かった....」
友利をゆっくりと下ろす。服が真っ赤に染まり、見るからに痛々しい。
奥に行くと、《未来予知》の言うとおり、簡易医療セットがあり、友利に応急処置を施す。
消毒をし、包帯を巻き、身体の汗を拭った跡、ようやく一息つけた。その間、《未来予知》はずっとぼうっとしていただけだった。
「なぁ、お前、名前はなんて言うんだ?」
「.....なまえ?」
「うん。名前」
「....ない」
「は?」
「....」
無言。基本ローテンションなやつらしい。
そいつは辺りを見渡す。すると、視線の先には、『現場管理人 笹森祥子』と書いてある札がかけてある。
「....あれ、なんて読むの?」
「....ささもりしょうこじゃないか?」
「....じゃあ、それ」
「なんだそれ」
「....だってほんとにないんだもん」
「そっか。じゃあ、笹森」
さっき決まったばかりの名を呼んでみる。
「さっきから僕をナビゲートしてくれていたけど、それってやっぱり、《未来予知》の能力なのか?」
「.....たぶん。あたしののうりょくは、十秒後の未来が見えるの....」
「...たった、十秒だけ....?」
「....でも、あの機械といっしょにいると、二年後まで見れるの....」
「いつからここにいるんだ?」
「....いつからだろう....?気付いた時からかな...?」
「お、親は....?」
「おやって、なに?」
それって、つまり....
「いつから、未来が見えるようになったんだ....?」
「....それも、気付いた時からかな...?」
特殊能力とは、つまり後天性の病気。この世には、病気をあえて発症させる薬がある。
すぐにむき出しになった腕を確認する。無数の、痛々しい注射痕が。
「........」
言葉がなかった。
たかが会社の利益のために、子から親を取り上げ、自由を取り上げ、監禁してまで.....。そんな非人道的な行為をしてまで、会社の利益というものは大事なのか....?人1人の命よりも重いのか....?
心が定まった。
やはり好まない腐りきった伏魔殿は、潰さなければならないらしい。
「おい、笹森」
「.....」
「笹森!」
「............ああ。そういえばそんななまえだったね...」
「十秒後、僕はどうしたらいい?」
「....知るか」
「.....」
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10分後、
やることもないので、友利を見ながらぼうっとしていたら、いきなり笹森から、話しかけられる。
「....十秒後。ここであなたは出るべきよ」
「急だなおい」
「....ここがベストタイミング。ここを逃したら、もう死ぬ運命しかない」
それを聞いて、友利を再び抱え上げ、笹森を背負い、すぐに部屋から飛び出す。
「おい、間に合ったか⁉︎」
「....超ギリギリ」
「....はぁ」
なんとか間に合ったらしい。
「これからどうする?」
「....ボコボコにされる。運が悪かったら死ぬかも」
「はぁ⁉︎」
「....だからあたしとこの子を命懸けで守って」
なんということだ。
「ほかに道はないのか」
「.....ほかの道は、あたしたち三人とも死んじゃう」
「.....まじかよ.....」
「...でも助けがくる。杖みたいなの持ってる人」
「まて、それよりも、お前が見えるのは十秒だけじゃないのか?」
「....はっきり見えるのは、十秒後まで。それいこうは、だんだんもやもやしてくる」
「それが見えてるってのは、早い段階で助けが来るんだな?」
「....たぶん」
僕は考える。
今まで、比較的無事にここまで来れたのは、笹森のおかげだ。その笹森が入っているのだから、信じてみてもいいのかもしれない。痛いのはそりゃもちろん嫌だけれど、でも、結果的に助かるのなら、構わない。それに、友利を守るためだ。
「ーーーーーやるよ。任せろ」
「......ん。まかした」
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「.....ここ曲がって。いるから」
「分かった」
なにが、とは言わなかった。全くの愚問だから。覚悟はもう決まっている。
勇気を持って一歩踏み出した。
刹那。銃撃。
「ーーーーー!」
急いで物陰に隠れる。初っ端から命の危険がある。
「おい!聞いてないぞ!ボコボコどころじゃないだろうが!」
「....だからくわしいことはわかんないっていったじゃん」
表情の乏しい笹森にしてはかなりムッとした顔で言われた。そういえば言われた気がするが、さすがに目の前に命の危険があると、記憶が飛ぶ。
「....まてよ?」
なぜあいつらは僕の姿を確認したのに、なぜ追ってこないのか?笹森とケンカしていた時間があれば、僕を発見し、銃で撃ち殺すことなど容易いだろうに。
というか、そのもしかしたら撃ち殺される時間を棒に振ってまで、僕は笹森とケンカしていたのか。我ながらアホである。
その時、僕の中に、一つの閃きが生まれた。
試しに、火薬玉を一つ、向こうに放ってみる。
すると、凄まじい銃撃。あれに当たったらと思うと、ぞっとする。まちがいなく、生きてはいないだろう。
間違いない。奴らは、なんらかの方法で、意識が奪われていて、視認したものだけを撃つように、プログラムされている。
....まてよ?なんで僕は、なんらかの方法で、操られている、だなんて思った?
知っているというか、身に覚えがあるような....。
考えても仕方ない。
両手には、閃光弾を持つ。決死行だ。
走り出した。銃弾が飛んでくる前に、閃光弾を二つとも放つ。
眩い光。
僕は、あらかじめかけておいたサングラスで、ある程度視界に自由があった。
こういう場合のセオリー。それは、どこか近くに、操っている側がいるということ。つまり、これは特殊能力者の仕業だ。《未来予知》の能力を二年後まで伸ばす矢吹グループの技術力があれば、できるのかもしれないが、しかし、特殊能力者の方に、僕は『賭けた』。
笹森はボコボコにされて、最悪死に至るといっていたが、抵抗するな、とは言わなかった。また、どんなに過去や未来に、タイムマシンか何かで飛んで、なんらかの未来変更を行ったとしても、世界は収束して、別の代替で同じことが起こると何かの本で読んだことがある。それに『賭けた』。
閃光弾を放ち、素早く動くことで、銃弾が急所にあたらないことに。そして、流れ弾が、物陰に置いてきた、友利と笹森に当たらないことに。
一番大事なのところも賭けなのがなんとも情けないが、装備も勇気も実行力も。なに一つ中途半端な僕が取れる方法は、それしかなかった。思いつかなかった。
最善策ではないかもしれない。でも、それを考えている時間はない。考えている間にも、状況は動く。
最善策ではない。でも、最善時間だ。
思い立ったが吉日。この場合は、吉日ではなく、吉時かもしれないが。
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弾が、腕を。足を。耳を。かすめていく。もしかしたら肉が少し抉れたかもしれない。
でも、不思議と痛みを感じない。大切な人を守るという、使命感があるのか。銃撃が行き交う中という、命の危機に瀕していて逆にハイになっているか、分からないが。
銃を持った人の間を縫うようにして走りながら、能力者を探す。この賭けが外れた場合。僕は、死ぬ。
怖い。怖い。怖い。この足が止まった瞬間、腰を抜かし、格好の的になってしまう。
必死に目を動かし、探す。探す。探す。
「ーーーーーいってぇ!」
腕のど真ん中に、当たった。
「⁉︎ーーーーーああああ‼︎」
太ももに当たった。
「ーーーー!」
耳を掠めた。
「ーーーーー」
肩に当たった。
もう、言葉が出ない。
足が止まった。膝ががくりと折れる。もう終わりだ。もう.....。
「.......った」
声が、聞こえた。僕の知っている声じゃない。そして、何度も撃たれても撃たれても撃たれても撃たれても撃たれても、決して手放さなかった、ちょうど人を気絶させる程度の威力の火薬玉をそいつの足元に転がした。能力を発動する。しかし、爆破したそれが手榴弾だと分からなかった。気付けなかった。知らなかった。僕が、能力を発動する前に爆破したと分からずに。
手榴弾は、周囲の人間が全てを巻き込んで、破裂した。
血だまりが見えた。僕は吹き飛ばされたらしい。すでに重傷を負っている。立ち上がるのは無理そうだ。視界には、友利と笹森が見える。見た所怪我をしていないようだ。僕は、安心して、そして、意識が、落ち、て、いっ、て............................。
「凪斗くん!凪斗くん!しっかりしろ!七野!前泊!早く担架をーーーーー」
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翌日のニュース速報。
「昨日、北海道矢吹グループ本社の地下フロアで、大規模な武力抗争があった模様。死者は矢吹グループの警備員、12名。被害者は一箇所に固まっており、死因は、司法解剖によると、手榴弾の爆発を至近距離で受けたことによる、身体裂傷によるものーーーーー」
ニュースを、続けます。
僕は、人類として、最大の禁忌を犯した。
ヒトヲ、コロシタ。
雰囲気暗くてすみません。