1,
「...............」
目が覚めると、ベッドに寝そべっていた。
どうやら、記憶を失って、初めて起き上がった、あの病院。
身体中がだるく、全く持って動かない。
「起きたか」
「.........。七野さん」
「おいてめぇ今一瞬誰だろうって考えただろ?」
「......ぜんぜん?ぜんぜんぜんぜぜんぜぜんぜん?」
全くの図星だったが、勢いで誤魔化してみる。ここ数日は予想以上に濃密で、何度か死の危険もあったのだ。ぶっちゃけ言うと、これまでの体験が濃すぎて、印象が薄れていってしまったのは、確かに否めない。
けど、もともとそんな感じの立ち位置の人じゃん。七野さんって。
「......あの。体どころか首も、動かないんですけど」
「鎮静剤打ってあんだよ。大分怪我がひどいらしいからな。動かれたら傷が開くからって、1日は全く動けない、強力なやつ打ったらしいぜ」
「.....そうですか」
「いまは、こうして俺ら四人が時間決めてお前のお世話ってやつだ。どうだ?オムツ変えてやろうか?」
「えー、オムツ穿いてるんですか、僕」
「穿いてるわけないだろうが。管だよ、管。だから遠慮なく垂れ流せよー」
「......なんかやだなー」
問題はないのだろうけれど、お漏らししている気分になる。
あ、出た。
「.......」
「あー漏らしたー」
「.................いっそ殺せ.....!」
「アホか」
しばらくそんな茶番の応酬を続けていると、不意に七野さんから問われた。
「奈緒ちゃんのこと、気にしねぇのな」
「.....何かあったのなら、とっくに言ってますよね?」
「まあ、確かにな」
「でしょ?」
天井を見る。
「それに、約束したんです」
「何を?」
「来るべき時が来たら、あいつに好きって言うって」
言った途端、七野さんはアホみたいな表情をして、ぽっかーん、な感じだった。
口が開いてだらしない。
「え?なに?お前らもうそんなとこまで進展してんの?」
「進展って、まだ告白もしてないのに、そんな」
「なにその、『おれ、この戦いが終わったら、あいつと結婚するんだ』みたいなやつ!死亡フラグじゃね?」
「死亡フラグじゃなくて、成功フラグだと言ってください」
それだけ言うと、七野さんは諦めたように、いすにどかりと座ると、スマホをいじり始めた。
「.........あれ、七野さん、目時さんが好きなんですか?」
「は、はあ⁉︎ぜ、ぜんぜん⁉︎ぜんぜんぜんぜぜんぜぜんぜん⁉︎」
「だって、スマホの待ち受け、おもいっきり目時さんじゃないですか」
「..................。いますぐ記憶を消せよお前。話したら殺す。ゼッテー殺す」
「言いませんって。もー、心配性なんだからー」
「.......ホントだな?」
「ホントのホントの本当、ですよ」
「信じるぞ?」
「任せてください」
「.......分かった」
七野さんはひとまず納得したようで、スマホを再びいじり始める。すると、病室のドアが開いた。
「七野。もう交代の時間ですよ」
「あー。もうそんな時間か。じゃ、頼むわ」
「はい」
前泊さんが現れ、七野さんと交代するらしい。病室を出る直前、七野さんは、ギロリとこちらを睨み、
「約束だぞ?」
と、言い捨て、帰っていった。
「約束、とは?」
「あー、七野さんが目時さんのことを好きってことです」
「あー、なるほどなるほど」
「ちょっと待てやコラぁぁぁぁぁ!!!!」
さりげなく七野さんとの約束を破ると、七野さんがドアを蹴り倒さんばかりに病室へ乱暴に入ってきた。
「あのー、ここ病室なんで、もう少し静かにお願いしますよ」
「んなことよりテメェ、いきなり約束破りやがって!!!ゆるさねぇぞコラァ!!」
「え、いや、僕はてっきり、目時さんに言うな、って意味だと思ったんですけれど」
「いやいやいやいや!そこは普通に俺とお前以外の人間全員にだろうが⁉︎」
「.........七野。それはやはり本当ですか?」
「ま、前泊さん?」
普段ニコニコ穏やかな前泊さんが、何故かいつも以上に目が据わり、冷たい雰囲気を七野さんに向かって放っている。
「お、おう。それが、どうした?」
「.......どうやら、僕の気持ちには気づいていないようですね....」
「ま、まさか⁉︎」
「そのまさかです‼︎僕も、目時さんを、ずっと前から、それこそ、出会った時から、お慕いしておりました!!!」
「な、なにおう⁉︎俺だって、あいつとは小学校からずーっとすきだったぜ⁉︎」
「ふっふっふ.......あなたはどうやら勘違いをしているようだ.....七野。僕と目時さんが実は幼なじみという設定を忘れたのですか⁉︎」
「な、なんだってー⁉︎そ、そんな設定があったというのか⁉︎お前は⁉︎」
「あなたは甘い。甘すぎるんですよ、七野!こういうのは、外堀からじわりじわりと逃げ場をなくし、選択肢を潰しに潰し、逃げ場をなくしてからこう言うのです!!!」
そう言って、前泊さんは七野さんを壁へ押しやり、手を突き立てる。
俗に言う、『壁ドン』というやつだ。
「お前、俺と付き合えよ」
「っ⁉︎」
うわ、気持ち悪っ。
「.....っは⁉︎一瞬、ほんの一瞬だけだが、お前のことをかっこいいと思ってしまった!負けを認めてしまった‼︎いやでもしかし、それでも俺は諦めない。あいつは、目時は、絶対に俺のものにしてやる!」
「いえ、僕のものになるのです!」
「あのー、二人とも、ここ一応病室.....」
「「お前は黙ってろ!!!」」
「あ、ハイ」
その後も、二人は目時さんのどんなところを好きか、どんなところが魅力的か、また、自分がどれだけ目時さんのことを愛しているか、散々語りあった後、最後には、
「お前、なかなか見所あるじゃあねぇか!!」
「貴方もです。久々ですよ....本当の好敵手に出会えたのは!!」
と、お互いにガッチリと手を固く握り合っていた。
「あんたら、そーいうのはいいから、とっとと凪斗くんの世話やんなさいよ」
「「め、目時(さん)⁉︎」」
「散々人のことを好きだ好きだと言って....恥ずかしいったらありゃしないわ。ここは病院よ?病人が怪我や病気を治すために、安静にしていなきゃいけない場所なの。それをあんたたちはピーチクパーチクと......」
そこで、目時さんの怒りの沸点を越えたようだった。
「いい加減にしろ!!!そんなやつは大っ嫌いだ!!!」
「「そ、そんなぁぁぁぁぁぁ」」
七野さんと前泊さんが揃って崩れ落ちる。
.............。
コメントすんのも面倒くさいな。
放置しよう。
2,
そこからしばらくは七野さんと前泊さんは、正座プラス、これから一週間、目時さんと絶対に口をきかない。そして、目時さんには絶対服従という、キッツーイお仕置きを受け、二人してしゅんとしている。
「ごめんねぇ、あの馬鹿どもが騒がしくて」
「いえ、そんなことはないですよ。二人の会話は聞いててとっても面白かったです」
「そう?あ、そうだ。果物持ってきたんだ。食べる?お腹空いてるでしょ?」
「あ、はい。いただきます」
「分かった。むいたげるね」
そう言って、慣れた手つきでリンゴを剥き始める目時さん。確かに、二人があれだけ惚れ込むのもわかる気がする。母性の溢れた目で、何かをしている女性というのは、魅力的なものだ。
それに目時さん美人だし。
「はい、できた。ほら。あーん」
「え?いや、それはちょっと....」
「どうせ体動かないんでしょう?だから、あーん」
「あ、あーん」
もぐもぐもぐ。ごっくん。
あ、美味しい。
それを伝えると、目時さんは、
「そう?ありがと。剥いたかいがあったよ」
友利という存在がなければ、うっかり惚れてしまいそうなほど、可愛らしい笑顔だった。
ちなみに、その間、ずーっとその一連の流れを見ていた目時さん曰く「馬鹿ども」が、恨みがましい、まるで、末代まで祟る、といった目で見ていた。
男の怨念って、怖い。
新しいことがわかって、実りのある時間でした。
3,
しばらくは、目時さんに相手をしてもらいながら、時間を潰していった。
僕は、七野さんには、心配ないと強がったけれど、それは外面を取り繕っただけであって、本当は今すぐベッドから飛び出して、友利の安否を確認したいほどに、友利のことを心配していた。
それを悟られて、目時さんに、
「奈緒ちゃんなら、無事よ。今は別の病室で眠ってる。あ、一緒にいた女の子は奈緒ちゃんに付き添ってるよ」
と言われ、内心が見透かされて少々恥ずかしかった。
正直、笹森のことはどうでも良かったが、失礼。口が悪かったようだ。笹森も気にはなっていたが、友利の方が何千万倍も心配だった。
無事だと聞かされて、安心してどっと疲れが取れたのも、また事実だった。
「.....なんか、あたしのことは心底どうでもいいって、顔してる。なぎなぎひっどーい」
「そ、そんなこと思ってないし。あとなぎなぎってなんだ?」
「にっくねえむだよ?」
「.......あっそ」
しばらくすると、隼翼さん、熊耳さん、そして笹森が病室に入ってきた。隼翼さんは、僕の目の前に着くなり、
「君にも聞いてもらいたい」
といった。
「何をですか?」
「君と一緒についてきた、あの少年だよ。今から彼の尋問を始めるんだ」
「その少年って、まさか.....」
「そう。そのまさかだよ。名前は確か.....」
奏上峯連くん。だったかな。
次章『神能帰会』編、開始。
しばらく間隔空けてしまって、すいませんでした。今回は、雰囲気明るめで行きましたデスよ。
七野さんの扱いって、おもしろいデスね。