ガラスに仕切られた向こう側に、峯連くんが座っていた。
「あ、やぁーおにーさん。三日ぶりだねぇ」
「三日?僕は三日も寝てたのか?」
「あれ?他の人たちに言われてないの?」
「言われてない」
「薄情な人たちだねぇ」
「そうなのか?」
他愛のない会話をする。すると、熊耳さんに支えられた隼翼さんが、咳払いをした。
「ん゛ん゛っ。そろそろいいかな、少年」
「だから奏上だって。何回言えばわかるのさ」
隼翼さんは、峯連くんの向かいにある椅子に座った。
「それでは、今から事情聴取を始めるぞ」
「あの、そういえばなんで僕がここにいるのかまだ説明してもらってないんですけど」
「......それは、そこの奏上が交換条件として提示したからだ」
僕の問いに熊耳さんが答える。
「なるほど」
「では、峯連くん。まず、先に言っておくことがある。君が今ここにいるとき、君の安全は保障される。だから、遠慮なく、機密を喋っていただきたい」
「.....やっぱ気づかれたかぁ」
「?なんのことですか?」
「すでに奈緒ちゃんからこの子の能力のことは聞いている。
《加速》の能力者。ただの《加速》は、そこまで強力な能力ではないが、使い方次第では絶対即瞬殺の能力になる」
「瞬殺って、じゃあ、やっぱり峯連くんの言う通り、彼は」
「そう。僕は殺し屋だよ」
殺し屋。
なんの怨念もない相手を、依頼主からの金だけを目的に殺す、最悪の職業。
「あの時、確か家業だとかなんとか言ってたよな?」
「そ。僕の家は代々殺しを生業とした呪われた一族」
「噂に聞いたことがあるが、実物を見るのは初めてだ。君が、あの奏上家の人間だとはね」
「まあ、もうとっくに破門になってるけどね」
「破門に?」
「なんだって?じゃあ、今回の件に関して、奏上家は何も関与はないのか?」
「まったくないよ。まずもって、奏上家はもうない。その残党がいるだけさ」
「残党?」
先ほどから、僕は言葉をおうむ返しにしているだけだ。ぶっちゃけ、話の流れに追いつけない。
なんだよ殺し屋って。こんな、僕より年下の子が、人を殺してきたなんて。
「今からちょうど5年前くらいかなぁ。突然うちにある集団がやってきてね。能力者を片っ端からさらっていったんだ」
「能力者だと?奏上家には、君の他にも能力者がいるのか?」
「僕の他にもっていうか、その頃、奏上の殺しのやり方はほとんど子供による能力の行使、だったからねぇ。大人はもう用済みって感じだよ。まぁ、まず僕ん家は知る人ぞ知るって感じだったから。噂になっているのは、強すぎる僕くらいだよ」
強すぎるってのも困りもんだよねぇ、と峯連くんは続ける。
「その情報はまったく知らなかった」
「続けるよ?....それで、奏上家はバラバラに瓦解。強すぎる僕をはじめ、数人は生き残ったけど、もうほとんど残ってない」
「さっき安全を保障するって言ってたけど、それって、お前誰かに追われてるのか?」
「ん、鋭いね。そうだよ。当時の事件を大人を殲滅するための自作自演だっていう意見があって、それを唯一の拠り所とする連中が中心となって、僕を始末せんと追っているのさ。大方、僕が一番だったから、僕が首謀者ってことになってるんじゃない?大人が一人も死んでないことからもう気づきそうだけどね」
ほとほと馬鹿にしたように、峯連くんは続けた。
「では、これはどうだ?君は先ほど、能力者がさらわれたといった。その当時、能力者は大体何才くらいだったんだ?」
「んー、7、8歳だったんじゃない?」
「は⁉︎たしか、能力って、思春期にしか発症しないんじゃ」
「奏上の家には、病気をひどくする能力もあったから。それを使って、半強制的に能力を発症させたんだよ」
「それじゃあ、お前も....」
「もちろん」
僕が驚愕している間、隼翼さんは、熊耳さんに何やら話しかけている。
「どうだ、見つかったか?」
「もう少し待ってくれ。そいつの言っていることが本当なら、すべてが繋がるはずだ」
「そうか....」
「んー?どーしたの、おにーさんたち。何か考え事かい?」
「君には感謝しているよ。君のお陰で、今追っている、組織の尻尾が掴めそうだ」
そして、隼翼さんは、確信を得た目で、顔の前で手を組み、峯連くんをじっと見た。
「こちらでも、君の情報は色々と洗わせてもらった。君は、自分のネームバリューを使って、様々なところに自らを売り込んで行ったようだ。『谷繁』、『城樺』、『凪弓』、『斗神』。有名どころはこれくらいか。そして、この前の矢吹」
しかし、と隼翼さん。
「莫大な富をもつ、いまの日本を牛耳っているともいえる最初の四家以外、金よりも、扱う情報量が多いところで動いているように思える。つまり、君は、ある情報を求めているなる。しかも、かなり黒いところを、だ」
「.............あなたには、やはり隠し事はできないなぁ」
と、ある種諦観したような顔で言った。
「それが、もし能力者関連のことであれば、我々以外には、たとえ御四家でも、この日本ではその情報を扱えるものはいない。なにせ、ここには、《能力者発見》の能力をもつ男がいるからな」
「ーーーーー妹を、探しているんだ」
峯連くんは、静かに語り出した。
「理由は、分からないんだ。ただ、そうしなければいけない気がして。家も、地位も。全部なくなった僕がこれから再生するためには、まずは僕の一番みじかな人を探すことからしなければ、なんて思ったんだ」
自分でもわけが分からないことを言っている自覚はあるらしく、いつも飄々と構えている姿勢から一転、自信がなさそうに話している。
しかし、僕にも、気持ちは分かる。僕も、全部なくなった人なのだから。峯連くんと違い、僕は友利に頼っているけれど。
「そうか.....。妹さんの名前は、なんて言うんだ?」
「崩子。崩れる子供って書いて、崩子」
「.......その子の能力は、なんだ」
「僕と似たような能力だった気がする。......えっと、たしか、《思考の加速》だった」
まったく謎の能力が出てきて、一瞬空気が止まった。
隼翼さんも聞いたことがないようで、
「それは、どんな能力なんだ?」
「んー、まあ、端的に言えば、頭の回転が速いって意味。つまり、頭がいいんだ、すごく」
「頭がいい。.....ますます戦闘用じゃないな」
「まあね、あいつどんくさかったし、戦闘力皆無だったし。専ら、参謀役だったよ。でも、あいつが立てた作戦は、百発百中だった。間違えようがなかったんだ」
「......もし、覚えているのなら、攫われたという能力者の能力も教えてくれないか?」
「別にいいけど......。何か企んでるの?」
「今はまだ考えをまとめている最中だが....。君の情報次第だ」
「そっか.....じゃあ」
そう言って、峯連くんは覚えている限りの能力を熊耳さんに言った。それを聞いた熊耳さんは、
「ーーーよし。隼翼、ビンゴだ」
「わかった。では、作戦を開始しよう」
峯連くんを見据える。
「たったいま、君と、俺たちの利害は一致した。俺たちの目的は、日本のすべての能力者を科学者の魔の手から救うこと。そして、君の目的は、妹と再会すること」
「.....どういうことだい?」
「ある組織に、能力者たちが大勢とらわれている。俺たちで、その能力者たちを助けにいこうと思う」
そして。
「その中には、君の妹さんもいることが判明した」
「ーーーっ!」
「力を貸してもらいたい。頼めるか?」
刹那。
部屋が凍った。
他でもない、峯連くんの殺気によって。
それを聞いた峯連くんは、不敵な笑みを浮かべた。
あの日見た、背筋が凍るような、残虐で恍惚で殺伐とした、
あの、笑みを。
「そんなの、愚問に決まってるじゃん」