1,
「......」
「あ、起きましたか?」
目覚めると、眼前に友利の顔が目一杯広がっていた。顔が驚くほど近いため見ずらいが、顔にガーゼや包帯が巻かれていて、所々に傷がある。視界の端には、高城と笹森も映っていた。
「.......ここは?」
「保健室っすよ。頭は痛くないですか?」
「あ、ああ。お前が蹴ったんだけどなーーーそれより、その怪我、どうしたんだよ」
「......なんでも、ないです」
明らかになんでもないわけがない。髪も制服もボロボロだ。
「......非常に言いにくい事なのですが」
「おい、言うな」
「いや、しかし」
「余計なことすんなよ」
友利が高城を睨みつける。友利の剣幕に高城も参ったのか、
「わかりました」
と言って引き下がった。
「.....あの後、僕はどうなったんだ?」
「わたしに蹴られて気絶して、そこから二時間くらい寝てましたね」
「そうか....。そういえば、僕が蹴ったあのでかいやつは?」
「そこで寝てますよ、いびきかいて」
隣を見ると、髪を金色に染め、耳にピアスを開けているいかにも不良といった風貌の生徒が、だらしなくいびきをかいて寝ていたが、こちらの視線に気づいたのか目をパチリとあけた。
「ん、んあ....?おお、友利の姐さん、ご無沙汰っす」
「おはようございます、コンドウ。すいませんね、嫌な役押し付けて」
「いやいや、あんなもの、友利の姐さんにやってもらったことに比べればまだまだっすよ」
下手したら社会人に見える大柄な男が丁寧な口調で話し、女子にしては背が高いほうだが、男に囲まれている中では小ささが目立つ美少女が尊大な口調で話すという、はたから見ればシュールな光景だが、僕は口を挟んだ。
「二人って、知り合いなのか?」
「彼は、コンドウ。この学園に何人かいる、『協力者』です」
「『協力者』?」
「またの名を、『友利親衛隊』という」
「黙れ。彼とは、まあ、わたしが昔科学者から彼の姉を助けたのが始まりですね」
「俺はその恩を返すために、微力ながら協力させていただいてるってわけだ」
「....は、はあ」
「そんなことより、お前」
「ん、僕?」
「そうだ。えっと、名前なんつった?」
「谷城だよ。谷城凪斗」
「谷城、お前はなかなかに見所があるなぁ。鋭いキックだったぜ」
「はあ。そりゃどうも」
「さすが、友利の姐さんが選んだ男だな」
「は?それって、どういう」
「はいはい、無駄話は終わりにしてください。谷城さん、それに高城と笹森さん。これから生徒会室まで案内しますから、ついてきてください」
「あ、そうか。僕はここの副生徒会長になるんだったな」
「はい。高城は、まだ決めてないな、何がいいかな......メガネかけてるから、書記でいっか」
「理由が雑!」
「笹森さんは....まあ、何言ってもしない気がしないので、置物にしましょう」
「....zzz」
「おいこいつ寝てんぞ」
「高城、背負え。よし、生徒会室までいっくぞー。コンドウ、適当に先生に言い訳しておいてください」
「おう、任せな」
眠っている笹森を無理やり高城が背負い、(背負っている間、「なぜか私の扱いが雑な気がする....」とつぶやいていた)保健室から出た。
2,
「そういえば、さっき嫌な役とかいってたけど、あれってどういう意味?」
「ああ、あれですか。あれは、授業とか受ける時間もったいなかったんでコンドウに適当に絡んでもらって、あなたを気絶させてから生徒会室まで連れて行こうとしたんです」
「それを俺が予想外に怒って、計画がおじゃんになりかけた、そうだろ?」
「よく分かってるじゃないっすか。まあ、暴力沙汰の件については、隼翼さんに頼んでお咎めなしにしてもらいましたけど、このままいけばあなた停学でしたよ?」
「まあ、それはそれとして。言っとくけど、あれはお前のために怒ったんだからな?」
「頼んでませんよ、そんなこと」
「そんなこというなよ。お前だってあんなこと言われたら嫌だろ?」
「別に。もう慣れました」
「.....なあ、もう一度聞くけど、お前がケガしてた理由って」
「あなたには関係ないです」
「関係ないなんていうなよ。これから同じ生徒会で頑張る仲間だろ?」
「.....仲間?」
「う、うん」
あまりにもキョトンとした顔で聞かれてしまい、若干どもってしまった。
「まさか、その言葉をあなたから聞くとは思いませんでした」
「....どういうことだ?」
「仲間、なんて言わないでください」
「そういうのが世界で一番信用できない」
もう、誰も信じない。
3,
扉を開ける。
目に飛び込んできたのは、まずは、膨大な、本棚に納められたファイルだ。その中の一冊を取り出して広げてみると、全国の摩訶不思議な、不可解な事件やオカルトゴシップ誌、新聞の切り抜きなどが入っていた。どうやら、能力者が関与しているかもしれない事件に片っ端から当たりをつけて調べているようだった。このやり方は、隼翼さんをロールモデルにしているのかもしれない。
生徒会室は吹き抜けの二階。上に行くためには、設置してある螺旋階段を登る。上には、仮眠を取るためだろうか?簡易式ベッドが二つ、用意してあった。
一階には、生徒会長の机に椅子、パソコンがある。ホワイトボードには、能力者と思われる人物の顔写真に、どこにいるか、どんな能力を使ったが書かれている。また、真ん中にあるテーブルには、ここら一帯の地図が敷いてある。テーブルを囲むようにして、二人掛けのソファー一つに、一人掛けのソファーが二つ。液晶テレビが一つと、だいぶ充実した設備となっている。しかもこれで給料まで出ると言うのだから、なかなかにホワイトな、いい職場かもしれない。
「適当にそこらへんに座ってください」
「わかった。おい笹森、起きろ、おい!」
なかなか起きない笹森のほおをペチペチ叩く。すると、笹森が伸びをしながら起きた。
まどろむ笹森。
「おー、なぎなぎ、おはよー」
「ああ、おはよう」
ぶっきらぼうに返す。こいつと話していると調子が崩れるというか、こいつのペースに呑まれてしまう。
「あー、褒めてくれたー」
「んなわけないだろ」
あの地下でのナビゲーターと同一人物とは思えない。...いや、その通りか?変わらないような気がする。笹森はどこまでいっても笹森だ。
これからの活動について、高城が友利に問う。
「それで?私たちは一体何をすればいいのでしょう?」
「生徒会の主な活動は、まだ野放しとなっている能力者を星ノ海学園で保護することです。そのためにはまず、能力者を説得、このまま能力を使い続けていると科学者に捕らえられ、人体実験をされる、ということを説明して、納得してもらってから、星ノ海学園にご同行願う、という形です」
「能力者をどうやって発見するのですか?」
「そうか、お前と笹森さんは知らないんだっけか。『協力者』が来ます。そいつは、《特殊能力者発見》の能力を持っているので、基本的には、『協力者』に見つけてもらいます。見つけてもらって、その能力者がいるところに行きます。そこからは先ほど説明した通りです。
「.....なるほど。わかりました」
高城は、少しの間理解に苦しんだようだが、なんとか納得したようだった。
その時、友利の携帯が鳴る。差し出し名は、『協力者』。
まんまだ。『熊耳』とかじゃないのか。
「お、朗報です。早速お仕事ですね」
そこから、30分後、扉を壊しそうなくらい激しく開けたのは、
全身びしょ濡れになった、いかにも怪しい風体の男だった。
なんか、もう全身から不審者オーラを放っている。
てか、なんで全身びしょ濡れなんだよ。そんな制約なかったよな?なんかのパフォーマンスか?
少しだけ、いつも無愛想な熊耳さんがファンシーに感じた。
「能力は、《静電気》」
能力名と、手の雫が落ちた場所に、能力者がいる。
それだけ告げると、スタスタの歩き去って行った。
「うーん、ここはかんっぜんに予想外だなぁ。しかもここ河川敷って、たまたま散歩に来たのかもしれないし、わたしたちが行った時にはもういないかも、どうですか、笹森さん?」
「んー?何がー?」
「ここにわたしたちが行った時、能力者はここにいますか?」
「あたしあんま詳しいことはわかんないんだよなー。うーーーーん......。だめだ、人影が多すぎて誰が誰だがわかんないやー」
「そうですか....。ま、とりあえず行ってみます?」
「そうですね。とりあえずは、それでいいと思います」
「てめーにきーてねーよ」
「ねーよー?」
「辛辣っ⁉︎ていうか笹森さんまでぇ⁉︎」
「どうですか?谷城さん?」
「ぼ、僕かよ?まぁ、行った方がいいんじゃない?」
「そうですね。そうしましょう」
「なんで素直なんですか?まさか私のことが嫌いですか?」
「いいえ?ただどうでもいいだけです」
「本当辛辣っ⁉︎」
本気の本気で、茶番だった。
しかし、茶番のあとには、嫌なことがあることを、僕たちは忘れてはいけなかった。