書斎から飛び出した僕待っていたのは、いつのまに外に出たのか、熊耳だった。
「どけやぁぁぁぁっ‼︎」
無我夢中だった僕は、理性を維持できずに、目の前のものを突破し、一刻も早く、この場所から逃げようとしていた。
熊耳に向かって大振りの右ストレートを放つーーー当たるすんでのところで、熊耳が屈んだ。避けられる。僕は右ストレートの勢いを殺せずにそのまま地面に突っ伏す。だが、すぐさま飛び起きて、今度は蹴りを放った。しかしそれを熊耳がいなして、僕を転ばせる。僕はそのまま転んだ勢いを利用し、ごろりと前転し、体を熊耳に向けて、殴りかかった。
そこからは、先ほどからずっと僕が攻めて、熊耳がかわし、いなして攻撃を止める、というものだった。ぼくはこの時、攻撃をフェイントか何かで相手を騙し、その隙に逃げればよかったのだ。しかし、そうしなかった。僕の中には、怒りしかなかったからだ。あの人たちを、僕の恩人達を『敵』と言ったあいつ含め、あいつの仲間を、許すわけにはいかない。こいつらを戦闘不能にしてから、縛り上げて、この建物全部を爆弾にしたら、5日後が楽しみだ。そんなことを、暴走した理性の片隅で思っていた。だから、最初にこの熊耳が出てきた時に、少しだけ、ラッキーだと思ってしまった。まずはこいつだ、なんて思った。幸いに、こいつは見たところ、合気道のような、相手の勢いを利用する術がないを持っているらしく、それだったら、ごり押ししてでも勝てる、と思った。だからだろう。背後の存在に気づかなかった。
ーーーーーー背後からの、衝撃。
「ッ!」
完全に予想していなかった攻撃に、一瞬にして、思考回路が止まる。ちょうど、肺の部分を当てられたようで、呼吸も止まる。パニックに陥った。
オレンジ色の髪の女性が見えた。こいつも仲間か。直感でわかった。パニックを起こし、自由に動かない体を、必死に動かそうとする。しかし、無理だった。悔しくて、ぎり、と歯ぎしりがなる。オレンジ色を睨んだ。視界には、金髪の目つきが悪い男、群青色の髪の、優しい雰囲気の男、そして、
ーーーーー友利奈緒。
彼女が何もない空間から、いきなり出てきた。
ーーーーそういえば、友利の能力、聞いてなかったな。
オレンジ色の目が白く光る。
体の自由がなくなってきた。
ーーーーこの感覚、車の...
意識が、切れた。
「よかったの?これで」
オレンジ色の女性、『目時』が隼翼に尋ねる。
「ああ。彼は、必ず我々の『目的』必要になる。これは『確信』だ。」
「でも、いくらなんでも、記憶までは消す必要はないのでは、ないのでしょうか...」
そう言って苦言を呈したのは、群青色の男、『前泊』だ。
「いや、彼は一度、研究者に捕まっていたんだ、と、思う。しかも、研究者を『敵』ではなく、『恩人』と言った。あまり手荒な真似はしたくないが...」
そう言って、複雑な顔で、うつむいた後、
「頼む、前泊。」
決意のこもった目で、前泊を見た。
「はい。わかりました。」
前泊が、凪斗の体に触れる。
前泊の能力は、《記憶消去》。相手の記憶を、ピンポイントで消すことができるが、その代わり、相手の体に触れて、長い時間をかけて、その記憶を探らなければならない。その間、相手が暴れないとも限らないので、目時の、《相手を眠らせる》能力とのコンビネーションが必要となる。
「しっかしよぉ、こいつは本当に使えるのか?なんせなんでも爆弾にできるけど、それに、120時間、つまり、5日間かかるんだろ?とうてい役に立つとは、思えねぇな」
凪斗に苦言を呈したのは、金髪の目つきが悪い男、七野。
「へぇ、あんたの《透過》よりはよっぽどマシだと思うけどね。あんたって、壁2枚通り抜けたら、もう限界じゃない」
と言って、ケンカになるのがいつもの目時と七野のパターンだが、あいにく、目時は寝てしまっている。
目時の《相手を眠らせる》能力は、相手を下手をしたら、十数時間眠らせる、深い眠りに落とすことができるが、その代わり、自分も眠ってしまう、というものだ。
七野の能力、《透過》は、壁などを通り抜けられる能力だが、通り抜けた直後、途轍もなく疲れる、という代償を払うことになる。
友利の能力は、《特定の相手の視界のみから、見えなくなる》能力だ。特定の相手のみから見えなくなるだけなので、他の人には見えてしまうので、完全に、一対一、そして奇襲専用の能力である。
このように、彼らが使う能力は、使い所によっては便利だが、総じて不完全な点が多い。その中でも、凪斗のの使い勝手のなさは、トップレベルと言ってもいい。まず日常生活において、使い所が全くと言っていいほど無く、使うにしても、時間がかかるし、融通がきかない。目時や七野のように、眠気や疲れを、必死に我慢すれば、なんとかなるものと違い、感情と時間という、完全にコントロールできない点が枷となっている。しかし、凪斗には気づいていない、《爆発》の融通が利く点が一つあるが、それはまた別の話だ。
「...あの、隼翼さん」
「?、どうした?」
そうこうしているうちに、集中していたのか、額にうっすらと汗を浮かべた前泊が、隼翼をよんだ。もう終わったのか、と、思った隼翼だが、前泊の顔色が芳しくなかったので、少し、嫌な予感がした。
「凪斗くんの、記憶ですが...彼の記憶の大部分に、研究者の姿があり、それを消すには、彼の記憶そのものを消すしか...」
「....なん...だと...」
隼翼の予想していなかった事。それは、凪斗が余りにも多い時間を研究者とともに過ごしており、そして、研究者に対して、いい思い出を持っている事だ。『敵』である研究者に対して、そのような感情を持っている事は、隼翼たちにとって、不都合しかない。しかし、隼翼は、これから仲間になる予定の凪斗に対して、あまり乱暴な真似はしないはない。しかし、
「...そうか。仕方がない」
やむを得ない決断だった。
「記憶を全て消してくれ」
「...いいのですか」
「彼は、我々が責任を持ってバックアップしよう。日常生活に全く影響がないように」
隼翼は、悔しそうな顔をして、歯を食いしばり、手を血が滲むほど握る。
「...すまないな。こんな事をさせて」
「...いいんです。僕たちは、あなたに見つけてもらったから、今こうして暮らしていけるんですから」
「...本当に、すまない」
ーーーー目を覚ました。
「やぁ、お目覚めだね」
「...ん、んぅ.....あ、あなたは......?」
白い天井、白いベッド。全て白い。ここは、どこだろう?
「俺の名は、隼翼、というんだ。よろしくな」
「...は、はい。よろしく、お願い、します.....?」
「あの...ところで...」
「うん?なんだい?」
「僕は、誰ですか?」
熊耳さんの戦闘能力は、オリジナルです。 なんだか展開が早くて、じぶんの文章力の無さを痛感するばかりです...!