「やあ。お目覚めだね。君は、谷城凪斗というんだ」
と、隼翼、さんが、あらかじめそう答える予定だったとでも言うように、そう答えた。
「.....あの、ここはどこですか?」
「ここは病院。しかも、我々特殊能力者たち専用の、ね」
「.....特殊能力?」
「ああ、そうだ。君にもあるぞ?」
そう言われても、全くもって覚えてない。
本当に何もかも覚えてない。どこで生まれたのか、どこで育ったのか。昨日何をしていたのか、なぜ記憶を失ったのか。完膚なきまでに、何もかも。
自分が本当にここにいるのかさえ、怪しくなって、怖くなってきた。誰にも理解されない。むしろ、最大の理解者であるべき自分が、一番自分を理解できない。圧倒的孤独。
「大丈夫っすか?」
声が聞こえた。その瞬間、心が落ち着く。自分をまるでいたわるような、心配しているような、そして、その人物に、声を掛けられるだけで、うれしい。そして、それに対する懐かしさと、それをそれを思い出せない喪失感が、同時に襲ってくる。
「.....あの、本当に大丈夫ですか?」
声のした方を向く。煌めくような白髪を、おさげにした少女。透き通った青い瞳には、僕の顔らしきもの、が映っている。その美しい瞳に僕が映るだけで、すごく幸福な気持ちになれた。
「.....ああ、うん。大丈夫。......君は?」
「わたしですか?わたしは、友利奈緒といいます」
友利奈緒。それはすごく、僕にとって、懐かしく、愛おしい名前。それはなぜか、本当に覚えてないけど、彼女の名前を思い出せて、幸せだった。
「さて、それじゃあ、自己紹介といこうか。」
パンパン、と手を叩き、先を促す隼翼さん。彼の傍らには、いつの間にか、四人の男女がいた。
「ここから、熊耳、目時、前泊、七野だ」
「.....」
「よろしくね」
「今後ともよろしくお願いします」
「....けっ」
「さて、本題なんだが、まず、何故君がここにいるのか、説明しよう。君は、『何故か』わからないが、記憶を失って、たおれていたんだ。それを熊耳が発見し、俺たちが保護した。先ほども言ったが、君にも特殊能力がある。それは、《爆発》。文字通り爆発される能力だ。これの使い方は、君が一番よく知っているはずだ」
《爆発》。それが、僕の特殊能力。どうしたら使えるだろう?試しに、爆発、爆発、と、手のひらに念じるとーーーボン!という音とともに、手のひらの上で火花がちり、炸裂した。なるほど確かに。これは使いようによっては、使えるかもしれない。
「われわれ特殊能力者たちは、ある学校を作り、そこに君のような特殊能力者、ないしは、それの資質を持つことものたちを、その学校に引き入れている。君には、そこに入学し、奈緒ちゃんと一緒に、生徒会に入り、副会長をやってもらいたい」
やった。友利と一緒だ、なんて的外れなことを思いつつ、しかし、僕は思いついた一つの疑問を口にする。
「あの、なんでその、特殊能力者たちは、学校に集まるのですか?」
その疑問を口に出した瞬間、部屋の空気が凍った。
熊耳さんは、相変わらず無表情だが、目時さんと前泊さんさえも険しい表情をし、七野さんに至っては、眉間に皺を寄せ、今にも僕に飛びかかってきそうだった。
「それは、研究者が『敵』だからだ」
「『敵』?なんでですか?」
「今まで何人もの能力者たちが連れ去られ、そして研究者によって廃人にされていった。そこには、俺の仲間も多く含まれている。そして、廃人になったら、捨てられる。能力者は、そういう運命を背負ってるんだ。だが、この学校にいれば、研究者は手を出せない。もう誰も、あんな非人道的な実験を受けなくて済むんだ!」
隼翼さんは、目の見えない瞳に、決意を籠らせて言った。
「だから、学校に、入ってくれるね?」
「....はい。もちろんです。しかし、研究者は、最低ですね。許せないです...!」
僕がそう言った途端に、部屋の空気が緩んだ。
「わかった。歓迎しよう。ようこそ、谷城凪斗くん」
こうして、僕、谷城凪斗は、『星ノ海学園』に、友利と共に、副会長として、入学することになった。