突然だが、今は何月何日だろう?
僕のこの完膚なきまでに記憶を失った脳によると、学校にが始まるのは大抵四月。隼翼さんは星ノ海学園に入学しろと言ったけれど、それは後何ヶ月、あるいは何日後だろう?
「今ですか?10月です」
「へ、10月?」
「だから後半年ですね」
僕が記憶を失って3日たった。
僕は体が回復してから、そのまま隼翼さんたちの本拠地、と呼ばれる山の中にある研究所のようなところで生活している。星ノ海学園は能力者たちを一か所に集めるために、全寮制らしい。だから、ここに居られるのは、あと2ヶ月。
僕は、ここのいる人たちと出来る限り交流をしてみようといきり立った。
「料理を教えて欲しい?」
「はい。目時さん」
現在、友利によると10月10日。全寮制ということは、自炊が基本、ということで、料理が得意そうな目時さんに習うことにした。
「なんであたし?」
「目時さんって、なんか大人っぽいじゃないですか。だから、料理とか、得意そうだなぁって」
「...それはあたしが老けてるってこと?」
「違いますよ?魅力的なお姉さんです」
普通こんな気障なことを言ったら、赤面するか、おれ、かっこいい!なんて思うかもしれないが、あいにく、僕の記憶はないので、羞恥心というものも忘れているらしい。
言われた目時さんも、
「そう?ふふ、わかってるじゃない」
と、サバサバしながらも、嬉しそうににかっ、と笑った。
まぶしいです。笑顔。
無事、料理をある程度基本は習い終わった。目時さんに、「筋がいいね」と、褒められた。確かに、なぜか勝手に料理をするてが動いていた気がする。記憶を失くす前の僕は、どんなことをしていたのだろう?
僕が記憶を失って10日。現在10月20日。突然隼翼さんに呼び出される。もちろん、友利も一緒だ。なにがもちろんなのか、わからないが。
「そういえば、凪斗くんには、生徒会の具体的な仕事内容を話していなかったと思ってな」
「はい」
「あの、なんでわたしまでいるんですか?」
「目的を再確認しておくのもいいだろう?君達はこれからはツーマンセルなんだし」
「.....まあ、隼翼さんが言うなら」
おいおい、そんな普通に面倒くさそうな顔するなよ。僕が泣くぞ?
「さて、肝心の内容だが。それは、各地にいる、能力を悪用している、または野放しになっていて星ノ海学園に入学していない能力者たちを回収することだ」
「.....それって、警察とか、そういうのの仕事じゃあないんですか?」
「警察に見つかったら、そいつはもう人生詰みますよ」
そうだった。警察に捕まったら強制的に研究者行きだった。
「しかも、無理矢理捕まえて星ノ海学園に放り込むだけじゃいけない。その人にちゃんと能力を使うことのリスクを説明し、納得してもらわなくちゃいけない」
「だから、納得してもらうまで、地の果てまで追いかけろ、ですよね」
「正解だ。奈緒ちゃん。そこで、だ」
そして、隼翼さんは一つの大きい封筒を僕と友利に渡した。
「君たちには最初のミッションを与える。その封筒に詳細は書いてあるから、北海道まで飛んでくれ」
「北海道⁉︎」
「北海道には1人、《瞬間移動》の能力者がいる。その者を見つけ、星ノ海学園に入学することを約束させて欲しい」
そうすれば、また1人、能力者が救われる。と、隼翼さんは続ける。
しかし、北海道か...そんな広いところに1人って、能力者というのは案外少ないものだな。なんて考えていたら、友利が、
「北海道に1人、というのは、能力が発症している人が1人、という意味です。能力発症予備群の人たちはもっとたくさんいます」
「たくさんって、何人くらい?」
「高校が軽くマンモス級になるくらいです」
マンモス級ということは、だいたい4000から5,000人くらいか。星ノ海学園は随分広いんだな。
「では、2人とも。すでにチャーター機は用意してある。すぐに北海道へ飛んでくれ」
3時間後。
僕達2人は、北海道の千歳空港に降り立った。
向こうも寒かったのに、こっちはもっと寒い。尋常じゃあない。
着ている服は、ジャンバーにマフラーだが、それでも、寒風が服の間から入ってきて、悪寒が止まらない。何故か頭もぼうっとするし、フラフラする。
対して友利はジャンバーにマフラー、それにモコモコした靴、手袋に耳当てと、完全防備だ。
「さて、では行きましょうか。情報によると、《瞬間移動》の能力者がいるのは、松方村、というところらしいです。ここからタクシーで向かいましょう」
そこからタクシーを利用して、30分。目的地の松方村に着いた。
『松方村へようこそ!』と書かれている看板が見える。周りが山にかこまれている。どうやらここが村に入る道のようだ。
「さ、行こうぜ、友利」
「はい」
そう言って、道に入ろうとする。
ーーー刹那、なにかが急に接近する音が聞こえてくる。
慌てて友利を突き飛ばし、自分も避けようとするが、マフラーがちぎれ、前髪数本を持って行かれてしまう。
反動で吹き飛んでしまった。
したたかに背中を打つ。
「いった!」
「大丈夫ですか⁉︎」
友利が慌てて駆け寄って体を起こしてくれる。ズキズキする。いってえ...
「助けてくれてありがとうございます」
「なに、気にすんなよ。大したことはしてない」
そう言って、強がりを見せる。背中からいったおかげで、肺がうまく機能しない。うまく息を吸えなかった。
さっきのはなんだったんだろう?防犯システム?そんな訳がないよな。
そんな風に考えていると、
巨大な破壊音。
いや、なにかがなにかにぶつかって、それが壊れた音だ。
音のした方を見やると、やはり、山の崖にヒビがはしり、クレーターのようなものができていた。
大量の砂塵が舞う中、1人の人型の影が見える。瞬間、友利を庇うように身構える。
「おまんら、なにしにきよったでやつか?」
「...はい?」
「じゃかあらぁ、おまんらはなにしにきよおったととうときせてるんじゃあ!」
急に砂塵の向こうから聞こえてきた、どこのものともわからない方言。言っていることが、全く理解できない。
「お前たち、なにしに来たんだ?と言っています」
「え⁉︎わかるの⁉︎すげえ‼︎」
「まぁたあの『開発』とかいぬうやつかあなはや⁉︎あんはもう認めんということろうかよ‼︎このわかんならやずやめぇ!」
「またあの『開発』とかいうやつか?あれはもう認めないと言ってるだろ?この分からず屋、と言っています」
「いや、違うといってくれないか?」
「わたしべつにあっちの言葉が分かるだけで、そんな話せませんよ」
「まじかよ...」
どうやら会話が成立ししないっぽい。
「なごむわー!ずんずんなごむわー‼︎」
「もはや何語だよ⁉︎」
「ここからどうします?」
「あいつが村に通してくれれば、もしかしたら標準語が使える人もいるかもしれないけど、通してくれるわけないよな...。うん?」
「どうしました?」
「なあ、あいつ...どこかで見たことないか?」
砂塵が晴れる。真ん中で別れた青い髪に、着物の下でもわかる盛り上がった筋肉。そいつの顔を見た気がする。しかも、結構最近に.....。
「ああ‼︎思いだした!」
「....ああ、なるほど。」
どうやら友利も納得したらしい。そうだよな。まさか北海道にきてこんなすぐに目的の第一ステップをクリアすることができるなんて。
「一応、聞いておこう。...おい!お前!」
「あうん?なんじゃあなごし」
「お前の名前、なんて言うんだ?」
「あん?なんじゃあそんなことかいなはなた!わしんなぁわぁ『高城丈士郎』いうんわい!」
まさかの能力者発見だった。