悲しみで思わずワールドトリガーをやってしまう始末であります。
では、本編どうぞ。
手を引かれる。足がもつれる。転ぶ。
なんかここに来てから2回も転ぶなんて、人間やめたほうがいいのかもしれない、と思うくらいに情けない転び方だった。
足と足とがもつれあい、転倒する。
ポッケに火薬類を入れていたのを忘れていた。
爆発。
大爆発。
「ーーーーーうわぁ⁉︎」
爆発の影響で、周囲の雪がなくなり、小規模なクレーターを形作っていた。
その真ん中で起き上がった僕。火傷、裂傷、その他諸々、全くの外傷なし。
爆発の文字通り渦中にいた僕は、なぜか無傷だった。
起き上がり、周囲を見渡す。高城と友利が揃って倒れていた。
「おい!おい!しっかりしろ友利!」
「う、うーん....ぁ、あれ?確か爆発が起こって、その後は....って、あんた!なに爆発させてんすか⁉︎」
「い、いや、知らないよ。そんな火の類いは持ってないし、火薬が爆発する理由もないし!」
そう。僕はマッチだとか、ライター、あるいはチャッカマンのような火を起こすものは、全くもって所持していない、どころか、そもそも火薬が爆発する理由が一つも見当たらない。ただ転んだ。それだけだ。
「....もしかしたら、あなたの能力が関係しているのかも」
「え、でも僕の能力は目くらまし程度の威力しかないポンコツ能力じゃ....?」
「もしかして、火薬やら、そういうものを引火させることもできるのでしょう。そうなったら、能力名は《爆発》とではなく、《爆弾》になってしまいますね!」
「いや、なってしまいますね!じゃなくてさ....じゃあ、超危険じゃん。どうすんのこれ?」
「うーん、現状ではなんとも。とりあえず、火薬は持たないこと、そして谷城さんが気をつける、程度の意識を持つくらいでしょうか?にしても、以外です」
「ん?なにが?」
「ほら、男の子って、こういう危険なこととか、そういうの大好きじゃないんですか?ほら、『この身体に触れるな....!この身体は呪われているのだ.....!ぐ、ぐわあ!かつて魔王と戦い、奪い去った邪眼の左眼と暗黒なる魔獣を宿したみぎてがが疼くゥ!』みたいな」
「ん、んーと....それは誤解があるような、偏見があるような....。しかも、それってだいたいはフィクションっていうか、おふざけでやってるとかでしょ?本当にそんなことあったら、僕は困ると思うなぁ」
「ふーん、そうなんですか」
「そうだよ。危険なことなんて、人生ないほうがいいさ」
「それは例えば、記憶がないこと、とかですか?」
「......。」
僕は答えない。
僕は答えられない。
記憶を失っている。
人格を失っている。
本当の自分が誰なのか、どんな奴なのか、全くもって、完膚なきまでにわからない。
そんな記憶がない僕が、いったいどうしてそう言えようか。
危険なことなんてないほうがいいと。
だって僕は、
わからないんだから。
全てが。
かつて、僕が危険そのものだったのかもしれないことも。
わからないのだから。
かつて、僕は人畜無害なチキン野郎だったのかもしれないことも。
わからない。
自己喪失。
最大の危険。
僕は答えない。
答えられない。
自分のことは、何もかも。
「.....ごめんなさい。少し、意地悪しましたね」
「.....ああ」
「さぁ、さっさと高城の奴起こして行きましょうかー」
「え、今呼び捨て」
「呼び捨てでいいっすよ、別に」
「....」
脈絡がない。
ゆさゆさとゆすり、起こそうとする。
「え⁉︎ゆさりん⁉︎」
「いや別にゆさゆさと揺らすとは言ったけどさあ」
確かに。
こんな奴、呼び捨てでいっか。
「は⁉︎そういえば、爆発は⁉︎おお!私も谷城さんも友利さんも無傷とは⁉︎これは何故⁉︎」
「ご都合主義だ」
「はぁ⁉︎....ま、そういうことにしましょうか」
まぁ、実際には全くもって、違う。
多分、僕はある程度爆破対象を選べるんだろう。
味方だけをさけ、敵のみを爆撃する。
本当に危険な能力だ。
一生封印したほうがいい、と思うくらいに。
「一生封印したほうがいい、なんて思ってないでしょうね」
「.....いや?」
「嘘ついてるのバレバレです。まったく。あなたの能力は必ず必要な時が来ます。わたしは言ったでしょう?使い道を選び、使いどころを選び、慎重に慎重を期して使えば、むしろわたしたちの助けになるのです。その力は、必ずや隼翼さんのためになるのです」
「.......友利。.......、.......わかった」
何故か。なんだか。
おかしい、気がする。
何か、引っかかる。
「ちょっと!なに話してるんですか⁉︎そろそろ行かないと」
「わぁーってるよ!...行こうぜ、友利」
「あ、待ってください。これ」
そう言って渡してきたのは、巾着袋。
中身は火薬。爆薬。
あの爆破をもう一度再現できるくらい。
「....持っててください。一応」
「...一応な。言っとくけど、使う気ないから」
形ばかりの、口先ばかりの抗議をして、それを懐に入れる。
まったくわ僕も甘い。本当に。
少しだけ感じた、あの違和感については、その時はもう、頭から脳から、完全消去されていた。
「やぁ、待っていたよ、高城氏」
と、鼻につく声で挨拶してきたのは、矢吹。
矢吹新二郎。
今年25歳。
北海道を拠点とした新進気鋭、猪突猛進、日進月歩の財政力を誇るグループ企業。
その御曹司。
その個人資産は一般的な家庭の20倍、30倍にも及び、すでに矢吹グループの中では頭角を現している。
矢吹グループの総資産はウン千億円。僕なんかが、一生遊んで暮らしても、それこそそこそこ湯水を使うようにすれば、ギリギリ消費できるレベル。
目的は、この村を買収しにやってきた。
超大型レジャー施設。ゴルフ場、スキー場、スケートリンク、ワンダーフォーゲルや、テニス。その他諸々の一般的スポーツや、レストラン、水族館、博物館、美術館、ホテルなどの観光地としても期待をかけている。
それの建設。
高城が立ちはだかるが、持ち前の交渉術で、すぐさま契約書調印一歩手前まで行く。が、高城が振り絞り振り絞り、脳から一滴残らず振り絞りとって、ギリギリ踏ん張ってなんとかその日を遅らせている。
しかし、それも時間の問題。
おそらく今日、矢吹たちを返り討ちにできなければ、この村はすぐさま、何もかもが潰され、整えられ、平らにされ、鉄の塊の建設が始まるだろう。
矢吹たちと相対した僕たち。真ん中に友利。左右には、まるで姫に付き従う騎士(そんな高尚な例えもおこがましいが)のように僕たちが侍っている。
「今回は、高城に変わりこの友利奈緒がお相手仕ります」
「おやおや、これはこれは先ほどの可愛らしいお嬢さん、あなたが。そうですかそうですか。わかりました。....しかし、大丈夫ですかな?まだこんなうら若き少女にこの村の行く末を、運命を託して。あ、そうか!もうあなたが限界だと!そこでこのどこの出かも知らないような者に助けを求めたと!」
矢吹は、はぁぁ、とため息をつく。
言葉の端々から、いや、もう全体から、高城を、ひいては友利を見下し、馬鹿にしているような気持ちが漏れ出している。漏れすぎている。
「くっ......」
高城は歯を食いしばり、唇を噛み、耐えている。確かに、言っていることは別に事実なのだから、反論のしようがない。反論のしようものなら、それこそ価値が下がるというものだ。開き直るのも、得策ではない。だから、耐えるしかない。それしかできない。
「別に、いいじゃないっすか。他人に助けを求めるくらい。元々人と人は、生物と生物は互いに互いを助け合うことで、進化し、成長してきたんすよ。それをあなたはネチネチネチネチ...」
友利は、はっきりと、見下した目で、顔で、雰囲気で、そう言った。
「【自主規制】ちっさい野郎だな」
「.......。」
「.......。」
「.......。」
そうかもしんないけど。
そうかもしれないけれども。
それを、その単語を、女の子が言っちゃあ駄目だろう.....。
初めて、友利がいろいろポンコツだと思い知った。
もしかして、秘策というとも、嘘、というか、かなりグダグダなかんじなんじゃあ....?
「それじゃあ始めましょうか。これが多分、最初で、最後の交渉です」
「........、はっ。あ、ああ。分かった、そうだな、うん」
.....図星だったか?本当にちっさかったのか?気にしてなのか?
妙にダメージを受けていた。
まぁ、でも、うん。
気持ちは、わかるよ。
「だいじょーぶですよ、矢吹さん」
「?」
「すぐに終わりますから」
余裕の表情で、人を惑わし、魅力する笑みを浮かべながら、そう言った。
さすがにこの物言いにカチンときたのか、矢吹は、
「そうかそうか、随分余裕だな...。まさか秘策でもあるのかね?しかし、残念だよ。君のその秘策は全くもって不発で終わるだろう。なぜならわたしは君が言っているその100倍の密度を誇った言論を30パターン程度用意しているからな。君のその穴だらけのみみっちい策じゃあ、僕はピクリともしないね」
「そうですか」
「ふっ、そうだよ。では、先攻どうぞ」
交渉において、1番と言っても過言ではないくらい大切なのは、先攻後攻の取り決めだ。理由は、後攻のほうが、基本的には有利だから。相手の出してきた提案に、自分の案を出しながら、否定するようにかぶせればいいだけだからだ。だから、矢吹は先攻を相手に譲った。しかしこれは、単なる駆け引きではなく、相手を馬鹿にするニュアンスが含まれている。相手が交渉のルール、攻略法を知らないかどうかを判断するために。もしそれで断ったら最低限やれる相手だということ。相手が先攻をとったら儲けもの。そういう計算が入っている。
矢吹新二郎。むかつくが、食えない男である。
友利は、当然、後攻をとるために先攻を拒否ーーーー
「いいっすよ。じゃ、先攻で」
「⁉︎」
これには高城も驚いた。危うく声が出てしまうかと思った。
高城がひそひそ声で話しかけてきた。
「何がどうなってるのですか⁉︎」
「何がって、何が?」
「なぜ友利さんは、後攻をとらないのです!有利を捨ててまで!」
どうやらぼくと同じ考え方だったらしい。
「さあ?取り敢えず、信じるしかないだろう」
「そ、そんな....この村の運命がかかっているというのに...」
「言っとくけど、協力求めたのお前だからな?」
「はい.....分かってます...」
「まー、もう諦めて腹くくれよ。この村の心中する勢いでさ。大丈夫。あいつはやってくれるさ、多分」
「はあ....」
意気消沈してしまった。
しかし、興味がある。友利が、ここからどう動くのか。
「まずあなたがこの村に手を出した理由、いや、もっと掘り下げましょうか。あなたたち矢吹グループは、なぜ超大型レジャー施設なんかを建設しようとしたのか、少しだけ調べさせてもらいました」
いつの間に。今日からこっち、ずっと一緒だったのに、そんな素振りまったく見なかった。
「あなたたち、停滞してるんですよね?」
「....それがどうした?」
「そして、レジャー施設の利益で、巻き返しを図った。こんなところでしょうか。つまりあなたがたは、傾きかかっている会社を立て直しないのですね?」
「それは会社の人間として当然だろう」
「もっと言えば、拠り所がいるのではないですか?例えば、そう、お金を援助してくれる、機関、のようなものが」
「.....何がいいたい?」
「いえ?ただの現状把握です」
「まったく。では次はこちらだな。こちらの言い分は全くもっていつも通りだ。金を払うから、ここを明け渡せ、他の場所に移れ、だ。慰謝料と、謝罪文をつける。」
「いくらですか?」
「一家庭三十万」
破格の値段だ。
正直、一家庭十万そこらだと思っていたので、予想外で少々驚いた。
そのまま高城のほうを見ると、
「なんですか」
「あ、いや、別に。ただ、一家庭三十万は少し多いからちょっと驚いただけ。まさかとんでもない悪条件を出してきて、それを権力で脅しているのかと思ったけど、むしろ好条件じゃないか。なんで断り続けるんだよ?」
「まったく足りないからですよ。たかが三十万では、ここで暮らしてきた人々の記憶と歴史を買うには、あまりにも安すぎるのです。そもそもお金で買えるものではありませんが」
なるほど、確かに、そうかもしれない。
けれども、高城。
少し、頑固すぎないか?
いや、それは個人の主観的問題か。僕が首を突っ込むべぎ問題ではない。
そうこうしている間にも、交渉は進んでいく。
「少し足りないのでは?ここに住んでいる人々の記憶と歴史を買うには、少々足りないように感じました」
全てこちらのひそひそ話しが聞こえてる、と言わんばかりに、高城と同じことを言う。
「ふん。あの高城氏もそう言っていたが、しかし、先ほど、あなたが言っていたではないか。会社の経営が傾いていると。そういった状況のため、これが、私達が出せる、最高の金額だ」
「...そうですか」
と、その時、ピロりん、ピロりん、というその場に不適切な音楽が鳴ってきた。友利の携帯だ。
矢吹は、明らかに不機嫌そうな顔をして、
「ちっ、交渉の時くらい電源切っておけ....。おい、出ていいぞ」
「ありがとうございます」
友利が、にやり、とわらって電話にでる。
「もしもし、隼翼さん?」
『ああ、もしもし、奈緒ちゃん?どうしたの、いきなり、ごめんね、すぐに出られなくて』
「いえいえ、出てもらっただけでも嬉しいですよ」
『そう?それで、用件ってのは?』
「あ、はい。えっと、隼翼さんは、矢吹グループってご存知でしたか?」
『ああ、うん。それが、どうしたの?』
「ちょっと、いろいろあって、それを買収してもらえません?」
『....は?』
「そういうわけなんで。お願いしまーす」
『え⁉︎ちょ、ちょっと待っ』
プツリ
ツー、ツー、ツー
「はい、というわけです」
「...はい?」
「嫌だから、ご自分の会社を買われたくなかったら、即刻この村から手を引いてくれ、という意味です」
「はぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
いや、今思いっきり強引に押し切っただけで、別にいいと言ってないじゃん、隼翼さん。いいのかよ、それで。
「し、しかし、お嬢さん、先ほど、買収と約束したわけではなく、あなたの一方的な押し切りだったのではないですか?そ、そんなの、認められーーー」
と、反論した時、矢吹の側近の男が、電話を片手に矢吹へと近寄ってくる。
「あの、新二郎様」
「......なんだ」
「その、『乙坂隼翼』という人物から、『即刻この村から手を引かなければ、あんたの会社丸ごとこの俺がいただく』と言っておりまして、実際、もう金の方も振り込まれておりまして...」
「つ、つまり」
「そう。つまり、あなたがたは」
「正真正銘、完膚なきまで、詰んだのです」
「どうですか?振り込まれたそのお金があれば、会社を立て直すことができるのではないですか?しかしその場合は『矢吹グループ』ではなく、『乙坂グループ』になりますが」
「あ、あああ」
「会社が乗っ取られたくないのなら、この村に一生手出ししないと、契約書に書いてください」
「ぐ....ぐぐぐ」
「どちらにせよあなたがたは、もう二度と、この村には手出しできない。この交渉は」
わたしの勝利です。
友利は、高らかに宣言した。
結局、矢吹が選んだのは、この村に一生手出ししないと、契約書に書くことだった。
捨て台詞は、
「あいつが、必ず成功すると言ったから、だから手を出したのに...」
だった。
負けたことを他人のせいにするなんて、最低。
そう思った。
しかし、気になったことがある。
『あいつ』って、誰だ?
「本当に、ありがとうございました」
「いえ、わたしたちは、あなたが星ノ海学園に入学してもらうためにここにきただけですので。あなたがそれを約束してくだされば、それでいいのです」
「右に同じく」
「はい。約束ですから。必ずや、星ノ海学園に入学しましょう」
「よかった。そう言ってくれて、助かりました。では、はい。これが星ノ海学園関連の書類です」
そう言って渡したのは、茶色の封筒。そのには、入学案内、学校説明や、寮についての説明などが入っている。
「では、四月に会いましょう」
「じゃあな、また会おう」
「さよならです」
こうして、松方村での一通りの物語が、幕を閉じた。
ーーーーーそして、次の物語が始まる。
プルルルル、プルルルル
電話が鳴る。とった。
「もしもし?」
『ああ、その声は凪斗くんか、高城くんのことはもう済んだかい?』
「ええ、まあそうですけど。なにかあったんですか?」
取り乱した隼翼さんの声。
『ああ。先程、新しい能力者がみつかったんだが、その子は、北海道にいるらしい。こう立て続けに何度も見つかることは稀なんだがーーー』
また北海道。北海道は広い。能力者の数も、多いのだろうか?
『場所は、矢吹グループ本社ビルの地下23階。そこに、能力者が囚われている。』
「ーーーーーーーはい?」
『すぐに、向かってくれ。
ーーーーー命が、危ないんだ』
高城編、終幕。
そして、日常へーーーとはいかず、
間髪入れずに、次の章。
笹森編の、幕開けへ