インフィニット・オオカミ   作:陸のトリントン

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今回は箒視点での振り返り話です。


狼男を目撃した少女の証言

私には姉がいる。自分が認めた人以外には冷たくあしらう天災の姉である。

 

小さい頃は家族の一人として扱っていた。色々と面倒な事を起こすけど、それでも昔の私は姉を慕っていた。このまま騒がしくも楽しい家庭生活が続くと思っていた。

 

 

 

姉さんがISを発表するまでは・・・

 

 

 

ISの力が世界に知れ渡った「白騎士事件」以降、私の周りは変わってしまった。

 

女子達からは遠い国の人みたいに見られ、男子達からは憎悪の対象として見られていた。

 

両親は重要人物保護プログラムで行方知れず。姉はどこかへ雲隠れし、私は孤独になってしまった。各地を転々と行き、友達も満足にできなかった。

 

IS学園に入れたのも、束の妹と言う理由で政府から無理矢理入らされた。

 

私は心身共に疲れた。暖かかった家族は消え、代わりにあったのは冷たいベットと入学手続きの書類だった。親戚の家に預けられているが、私の心の傷が癒えることは無かった。このまま、味気の無い学園生活を迎えると思っていた。

 

そんな中、大きなニュースが全国に飛び回った。一夏がISを動かしたのだ。そのニュースを聞いた時、私は心から嬉しかった。私が想いを寄せていた一夏が学園に来る。それだけで、私は学園生活が楽しくなると考えていた。

 

だが・・・

 

 

 

「高原和也です。皆さん知っての通り、ISを動かした二番目の男性操縦者で狼男です。ですが、狼男とか関係なく一人のクラスメイトとして接してください。これから一年間よろしくお願いします」

 

 

 

一夏以外にISを動かした男が入学してきたのは不服だった。

 

しかも、狼男の姿で自己紹介をした。はっきり言って恐怖以外、何も感じることが無かった。どうして一夏以外の男がISを動かした?しかも狼男だ。空想上の生物がISを動かしたという事態に、私の頭の中はパニック寸前だった。高原和也の情報は既に全国に知れ渡っている。その中には信憑性が低い情報もあったが、その時の私はそれら全てを鵜呑みにしていた。

 

SHRが終わった後、私は一夏に高原に関する情報を話した。信憑性の低い情報が含まれているにも関わらず。

 

それを聞いた一夏の顔はみるみる青ざめていったが、私だって変な噂を流されたのに高原に関しては何のためらいもなく変な噂を流した自分は改めて馬鹿だと思った。

 

その後、参考書を古い電話帳と間違えて捨てた一夏が千冬さんに鉄拳制裁を喰らった授業が終わった後、とある噂を耳にした。

 

 

 

「織斑先生がIS適性試験で高原に負けた」

 

 

 

その情報を聞いた時、私は何の疑いも持たずに信じてしまった。

 

あの織斑先生を負かす程の力を高原は持っているのかと思うと、私は少し身震いを起こした。それが狼男の身体能力測定のため手加減したと知らず、私は高原を警戒した。

 

だけど織斑先生は・・・

 

「狼男であろうと高原は人間だ。これ以上怪物呼ばわりするのなら、私の教え子であろうと容赦はしないぞ。お前達もだ。高原は生まれつき狼男になれたわけではない。過去の事故で狼男になってしまっただけだ。それでも高原を怪物呼ばわりするなら、生徒会と教諭達を敵に回すと思え」

 

高原に警戒心を持つどころか、擁護する姿勢を示していた。しかも、クラス代表に立候補した高原をだ。自分を負かした存在を何故守るのか、その時の私には理解できなかった。

 

その後、特に事件が起こる事無く授業は終わり、夜を迎えた。

 

私は寮でその日の復習をしていたが、授業内容が頭に入ってこない。

 

「高原が織斑先生を負かした・・・」

 

私にはその事で頭がいっぱいだった。小さい時に一緒にいただけだが、千冬さんの強さは知っている。ブリュンヒルデの名を貰う前から実力はあり、父さんからのお墨付きまで貰ってる人だ。その千冬さんが負けたなんて・・・

 

 

 

「ウオーーーーーーン!」

 

 

 

そんな時、外から狼の遠吠えが聞こえた。

 

「なっ!?何だ!?と、とりあえず!電気を消さなければ!」

 

私は一体何が起こったのか分からずパニック状態に陥った。何故か竹刀を持ち、一夏の所へ急いで向かった。

 

「一夏・・・無事でいてくれ!」

 

甚だしい妄想だと気付く事無く、一夏の部屋の前に着いた。

 

「確か、この部屋のはずだ」

 

私は意を決して、ドアノブを握り力強くドアを開けた。

 

私の目に映ったのは、私より小柄の女性を抱いていた一夏の姿だった。

 

「・・・・・・」

 

そのまま一夏の額に竹刀の一撃を与えた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

次の日。遠吠えで不眠になる事も無く目が覚め、SHRが始まるまで席に座っていたが高原は物凄く眠そうにしていた。早朝からISの訓練を行っていたことを知らなかった私は、眠そうにしている高原に警戒をしていた。

 

「大丈夫~?」

 

「少し・・・眠くて」

 

「昨日の夜は眠れなかったから、遠吠えをしたのか~」

 

「あれはいつもの事だよ。狼男になって遠吠えとかしないと、ある日突然狼男になっちゃうんだ」

 

「ガス抜きみたいな事?」

 

「うん。そういうこと」

 

昨日から、高原に声を掛けているクラスメイトが一人いたな。確か・・・布仏本音だったはず。

 

「でもビックリしたよ~。突然の狼の遠吠えにびっくりして消灯したからね~」

 

「そんなに驚くものなんですか?」

 

「そうだよ~」

 

高原は、自分がいた町とIS学園が別世界にあるような発言をしていたが、翌日の朝になるまで発言の真意を知る事は無かった。いや、知る気などなかったと言った方がいいかもしれない。

 

「ねえ、たかやん」

 

「何ですか?」

 

「狼男って、ふさふさしてるの?」

 

「え、ええ・・・」

 

「触らせてくれないかな~?」

 

「どうしてですか?」

 

「狼の毛並み感が知りたくて~。えへへ」

 

「別にいいですけど頭だけでお願いします」

 

そう言い、高原は狼男に変身した。その瞬間は今でも目に焼き付いている。小柄な顔や体が周りに板を付けた風船が膨らむように大きくなり、それと同時に全身から白と灰色の毛が生えていた。それを間近で見た私は、見てはいけないものを見てしまったかのように言葉に出ない恐怖に襲われた。

 

「おお~!ふさふさだぁ・・・・・・・・・Zzz」

 

だが、何故布仏は狼男を恐れていないんだ。周りは彼女の行動に恐怖と奇異な視線を送ってるにもかかわらず、布仏本音は狼男になった高原の頭の上で寝ている。

 

その後の事は、はっきりと覚えていない。狼男への返信に布仏本音の言動に初めて頭がショートしたからだ。何故、親密に触れ合えるんだ。彼女は怖くないのか?狼男と言う存在に。あんなのはISと同じだ。ただの脅威でしかないのに?

 

「千冬姉・・・いだっ!」

 

「織斑先生だ」

 

気付けばSHRは終わり、一夏は千冬さんにある事を聞いた。

 

「和也は狼男で戦うのか?」

 

何を言ってるんだ一夏は・・・

 

「一夏。僕は打鉄で決闘に参加するから、狼男で戦う事はないよ」

 

「そ、そうなんだ。・・・って、千冬姉?」

 

「織斑・・・私が昨日言ったことを忘れたとでも言うのか?」

 

「え?」

 

「高原は狼男であっても人間だと言ったはずだ」

 

「昨日の遠吠えが・・・」

 

「私の前で言い訳をするとは良い度胸だ。少し屋上で話をしよう」

 

「いや!待って!これにはちゃんと・・・」

 

一夏、骨は拾う。だから潔く散ってこい。

 

「大丈夫かな?」

 

高原は一夏の安否を気遣っていた。そういえば、あいつから色々と聞きたいことがある。これを機に聞いてみるか。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

結論から言うと、高原との間に大きな壁を作ってしまった。自分に考えを相手に上手く伝えられない所があるのは自覚していた。だが、高原に対し発言したものはどう聞いても彼を突き放すセリフだった。その時、私は高原自身に恐怖心を抱いてる事に気付いていなかった。

 

 

 

放課後になり、私は一夏を剣道場に呼び出しISの訓練の名を借りた剣道をしていた。

 

本当は一夏と一緒にいたかっただけで、ISの訓練など全くのでたらめである。

 

「もっと、ぐいっと攻めないか!」

 

「だから、そのぐいって何だ!?」

 

「ぎゅっと行って、スパーンと決めることだ!」

 

「意味が分からない!」

 

こんな意味不明なやり取りでさえ、私には堪らなく嬉しい。孤独だった私には一夏との時間が・・・

 

「そっとしておこうか」

 

誰かがのぞき見してるな。

 

「そこにいるのは誰だ!」

 

私の怒号に驚いたのか、物陰からのぞき見をしていた犯人が現れた。

 

「ごめん。別に二人の邪魔をしに来たわけじゃなくて、聞き慣れた声がしたから入って来ただけなんだ」

 

高原だった。私は彼の姿を見た瞬間、体が思うように動かなくなった。被害妄想ではあるが、それに気が付く事無く私は恐れを抱き、竹刀を強く握っていた。

 

「えっと、二人の邪魔をしたくないから・・・」

 

「待て。私と戦え」

 

「い、嫌です。僕には戦う理由がありません」

 

「私にはある。お前が織斑先生を負かした程の実力を持っていると聞いた」

 

私の頭の中は恐怖が支配していた。高原を人として見ず、物の怪の類として見ていた私には実力行使以外の手段が思い付かなかった。

 

「それは狼男の能力測定だから、別に戦ったわけではないから」

 

「だとしても、織斑先生を負かしたのは事実だ。その力を確かめさせてもらう!」

 

「あの、篠ノ之さん」

 

「どうした!」

 

「その、どうして怯えてるんですか?」

 

「なっ!?」

 

高原に指摘され、私は冷静を保つことが出来なくなった。どうすればあいつを追い払えればいいのか。

 

「昨日の遠吠えが原因だったら謝ります。でも・・・」

 

「あ、ああ!そうだ!昨日の遠吠えが原因だ!それが原因で私は・・・な、中々眠れなかったぞ!」

 

「篠ノ之さん。僕のどこが・・・」

 

「な、馴れ馴れしく呼ぶな!」

 

私の頭には理性など残っていなかった。ただ、敵と見なしたものを倒すことしか考えていなかった。

 

「落ち着いてください。僕は・・・」

 

「いやぁぁぁ!」

 

「うわっ!」

 

気付いた時には、私は高原の顔に竹刀を振り下ろしていたはずだったが・・・

 

「あ・・・」

 

目の前にいたのは狼男だった。

 

「く、来るな・・・」

 

私は怖かった。頭の中が真っ白になっていた。何が怖いのか分からないのに恐怖心が私を包み込む。誰かの叫び声が聞こえていたが、恐怖に支配されていた私はそれに気付くことは無かった。

 

 

 

私が正気を取り戻したのは、寮の部屋で一息ついた時だった。

 

自分が何をしたのか、その後何があったのかあまり覚えていない。

 

ただ、自分が情けない女だというのは覚えていた。

 

「己を律することなく恐怖に溺れ、何も成すこと無く怖気づいた姿など、恥さらしもいい所だ」

 

自己嫌悪に浸りながら私は睡魔に身を委ねた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「自己紹介をしよう。俺は葉山幸助。外科医で高原和也専属の医者だ」

 

翌日の朝のSHR、教壇に立っていたのは高原専属の医者を名乗る葉山幸助と言う男であった。

 

織斑先生は怪我をして病院で治療を受けていると言ってたが、昨日の道場での出来事が原因だ。

 

(あの時、私がしっかりしていれば・・・)

 

昨日の行いで後悔している中、オルコットと葉山さんの口論(?)が繰り広げられていた。

 

「大体、何なのです!あなたというお方は!?」

 

「俺は外科医で高原和也専属の医者だ。それ以外は何もやっていない」

 

「なら、あなたから言ってくださいませんか?この学園から去って欲しいと!」

 

「そいつは無理な話だ。ここの入学は高原自身が選んだことだ。他人があれこれ言う資格はないだろ?」

 

政府から無理矢理入学させられたのかと思っていたが、高原は自分の意思で入学を決めたのか。

 

「あなた・・・織斑先生を傷つけた怪物を擁護するのですか!」

 

「織斑先生を傷つけたことに関しては、俺が話をするという事になってるから安心しろ」

 

「安心などできませんわ!お陰で学園内は恐怖に・・・」

 

「一番恐怖に怯えてるのは誰なのか知っている」

 

「知ってらっしゃるのですね。誰なのですか!?」

 

「高原和也だ」

 

「あなた、ふざけるのも・・・」

 

「ふざけてなんかない。学園内で狼男に一番怯えてるのは高原だ。それが変わる事は無い」

 

「どうして言えるのですか!」

 

「それは、あいつが狼男になれる原因から話さないとな」

 

 

 

葉山さんの口から狼男誕生の経緯を語られた後、一組の教室は暗い空気が支配していた。

 

多くの犠牲者を出しても人体実験を行ったにも関わらず、罪の意識を持っていない外科医の話に私は罪悪感を持っていた。

 

高原を責める権利は無い。彼は他の生徒と同じく学園生活を送るべきなのに、私達は彼を除け者扱いして孤独に陥れようとした。私も孤独を味わった身なのに、自分の事を棚に上げて高原に行った言動に嫌気がさしていた。

 

「謝らなければ・・・」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

私は三つの驚愕すべきことがあった。

 

一つは、三角巾で左腕を固定した織斑先生が教壇に現れた。

 

葉山さんは全治1ヶ月半と言ったにもかかわらず、織斑先生は何事もなかったかのように授業を行った。

 

二つは、高原が全責任を負おうと停学処分を頼み込んだ。

 

本来なら私がいけなかったにも関わらず、高原は自分を停学処分するよう頼み込んだ。だが、織斑先生に処分を求める行為を行うなと注意され、高原の処分は終わった。ちなみに私は職員室で厳重注意、一夏は別室で反省文を書かされた。

 

三つは・・・

 

 

 

「自分が大きな失敗や過ちに気付いて、それを償おうと必死に行動してる人を許さないわけないじゃない。織斑君がカズ君にちゃんと謝って、お友達になってくれれば私はそれだけで十分よ。重要なのは原因を知った後、自分がどう行動するかなの。だから、お姉さんとカズ君の事をよろしくお願いします」

 

 

 

高原のお母さんは昨日の一件について怒っていない。

 

これが一番の驚きだった。実の息子が絞められたにも関わらず、一夏の考えと行いを否定せず視野を広めるよう助言を行う姿に私は己の浅はかさを思い知らされた。自分がすべきことは責任ではなく、償い。昔から自分ではどうしようもないと思い全てから逃げていた私が出来る事は、高原を友人として接し、ごく当たり前の幸せを手に入れさせることだ。彼は自分が人ではない事を自覚しているから、処分を求める行為をしたに違いない。

 

「その・・・白状すると私は、お前と一緒にいたくて特訓を始めたんだ」

 

「じゃあ、あの剣道は俺と・・・」

 

「それ以上、口に出すな!恥ずかしいだろ!」

 

「あ、ああ・・・」

 

「だが、昨日の一件と葉山さんの話、そしてお前と和也のお母さんの話を聞いて私は決心した。クラス代表戦の特訓を他の生徒に譲ると。昨日と今日で、私は自分が井の中の蛙だと思い知らされた。私だけが辛い。私以上に不幸な者はいないと思っていた。だが、葉山さんの話を聞いて・・・」

 

「箒、これ以上は言わなくていいよ」

 

「一夏・・・」

 

「和也のお母さんがさっき言ったじゃないか。重要なのは原因を知った後、自分がどう行動するかだって。だから、和也を捜して一緒に謝ろう。例え、和也に許されなくてもいいからさ」

 

「ああ・・・」

 

一夏との特訓は本音に頼んで一夏のルームメイトに任せるよう頼んでおいて良かった。一夏と離れるのは嬉しくないが、距離を置いて自分を見直さなければ。それは人として武人たるもの怠ってはいけないことだ。

 

「そういえば、和也はどこにいるんだ?」

 

「和也は整備室にいると本音から聞いた」

 

「整備室の場所分からないからさ、道案内頼むよ箒」

 

「分かった」

 

私は篠ノ之束の妹・・・だが、私は私だ。もし、姉が何かをしでかすなら篠ノ之家の一人として止めに入る。いや・・・姉と一回、面と向かい合って話をしよう。

 

「箒・・・どうしたんだ?そんな笑顔になって?」

 

「いや。何でもない」

 

高原のお母さんみたいな人に出会えた私は幸せ者かもな。ただ・・・

 

「一夏。一つ気になっていたが・・・」

 

「何だ?」

 

 

 

 

 

 

「高原のお母さんの名前は何だ?」

 

「そういえば・・・名前は何だ?」

 

高原のお母さんの名前は聞くべきだった。




高原のお母さんの名前は考えていません。

もう、「高原のお母さん」でいいんじゃないかと思っている始末です。
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