インフィニット・オオカミ   作:陸のトリントン

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入院患者名:狼男

事故報告書

 

クラス対抗戦にて乱入して来た黒いISの正体は未登録のISコアを用いた無人機であり、武装は肩部のビーム砲2基と素手による格闘が確認されている。

 

黒いISは遮断シールドを突破しアリーナに潜入。1分弱静止した後、観客席の遮断シールドの破壊行動に入った。

 

既に生徒達の避難誘導は行われたが、布仏本音と高原和也の両二名の避難が完了していなかったため、黒いISの襲撃に巻き込まれ、高原和也は怪我を負う。

 

アリーナのフィールドにいた凰鈴音のと織斑一夏の二名が黒いISに応戦するも、致命打を与えることができずセシリア・オルコット、更識簪の二名を援護に向かわせた。

 

代表候補生4名による戦闘が行われようとした矢先、高原和也の奇襲により黒いISは右脚、右腕を損失。その隙に、織斑一夏の攻撃により左腕とISコアを破壊され機能を停止。

 

教員達が到着した後も敵の増援は無かったため、事故は終息したと判断。

 

教員達と高原和也の間で問題が起こり、高原和也は緊急医療室へ搬送され現在治療中。

 

学園のセキュリティシステムの改善と黒いISの解析が今後の課題とされる。

 

 

 

IS学園 生徒会長

 

更識楯無

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

午前6時35分 診療室

 

「これが、君が書いた事故報告書なのか」

 

「・・・はい」

 

無人機襲来から2日経ち、私は診療室で学園に提出した報告書のコピーを葉山さんに見せている。黒いISの襲撃の事件は報告書に書いてある通り、和也君の奇襲が好機となり、織斑君の零落白夜が決定打となった。

 

「多分、教員達が着いた後の出来事を誇張拡大されたのが原因だと思う。普通なら、2週間の謹慎じゃなくて休養になるんだがな。しかも面会謝絶で、両親も例外ではないと言うのは納得がいかないな」

 

報告書に書いてある通り、和也君と教員達の間で問題が起こった。

 

狼男の姿に恐怖した教員が和也君に発砲をしたのだ。銃弾は当たることは無かったが、人としての意識を完全に失ってた和也君は発砲した教員に襲い掛かった。

 

ISの腕や脚、武器は紙風船の如く引きちぎり教員に噛みつこうとした時、パニックに陥った教員は壊れた銃を和也君の頭に何度も突き刺した。突き刺すたびに噴き出る鮮血な血と肉。その光景をある者は愕然と見続け、ある者は目を背き、ある者はあまりの残酷な光景に口を押えていた。

 

私は霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)を展開し、半ば強引ながら教員と和也君を引き離した。

 

和也君と教員は既に気を失っており、教員は保健室へ運ばれ、和也君は緊急治療室へと私が急いで運んだ。

 

見るも無残な姿に変わり果てた和也君の姿を見て、私は生徒会長として行動した事に悔やんでいた。早く和也君の所に行けば、こんな事にはならなかったのに・・・

 

「その日の夕方に怪我が完治したのは驚きましたが、和也君の心は大丈夫なんですか?」

 

「会いに行けば分かる。ただ話をするときは、和也の言葉を素直に聞いて、自分の気持ちを素直に言ってくれ。後の事は俺が何とかする」

 

私の不安を察したのか、助言までして私と和也君の面会を許してくれた。勿論、葉山さんも和也君の事を心配して、私に賭けているのだと思う。

 

「これが和也がいる病室のキーだ。面会時間は自由だ。好きな時に帰って良いし、寝泊まりしても構わない」

 

「ありがとうございます」

 

私は葉山さんから病室のマスターキーを受け取り、和也君の病室へと向かった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

午前6時50分 病室

 

病室のドアの前に立っているけど・・・ドアを開けられない。手は震えて、胸の鼓動は早く打っており収まる気配が無い。

 

「駄目よ私。こんな所で立ち止まってはいけないんだから」

 

私はキーを使ってドアのロックを解除し、病室へと入って行った。

 

「どうしたんですか刀奈?」

 

ベットに座り、熊のぬいぐるみを編んでいる和也君の姿があった。

 

「和也君、怪我大丈夫?」

 

「大丈夫ですが・・・どうしたんですか?」

 

「お見舞いしに来たわよ」

 

「生徒会の仕事があるのに、こんな朝早くからありがとう」

 

何事も無く笑顔で応える和也君の姿に私の胸が締め付けられる。

 

「和也君・・・ごめん」

 

「刀奈?」

 

「私が早く和也君の所に駆けつけていれば、こんな事にはならなかったのに」

 

「別に気にしなくて大丈夫ですよ。こうやって無事でいますから」

 

「でも・・・でも、私には和也君が傷つく姿の方が耐えられない・・・」

 

力尽きる様に和也君の膝にしがみついた私は、心の中に溜まっていた思いを吐き出した。

 

「本音を避難させようとしただけで、狼男の姿になれるだけで、どうして和也君が目の敵にされるの?どんな事をしても悪く伝わって、事件が起これば全て和也君のせいにして、何を言っても怪物呼ばわりされるなんてもう嫌・・・和也君が苦しんでるのをただ見てるだけなんて嫌よ!」

 

彼が何をしたと言うの?今回の騒動だって、先生が発泡しなければ問題に発展する事はなかったのに、どうして・・・

 

「刀奈が悲しむ必要は無いよ。僕がISを上手く動かせればこういう事態にはならないから」

 

泣きじゃくっている私を見ても、和也君の顔が曇ることは無かった。

 

「でも、和也君は・・・」

 

「刀奈が考えてる通り、本当はISで戦いたくない。誰かを殺すような事はしたくないんです。入学して最初は、一番ISの操縦が下手でも構わないと思っていた。でも、あの黒いISが現れて皆を襲って、皆を悲しませた。多分、今後もそういう事は起きると思うよ。無人機であろうと無かろうと」

 

「私じゃ・・・和也君を守る事が出来ないって言うの?」

 

「そう言う訳じゃないよ。狼男とIS。目的はどうであれ、それは人が作りだしたモノ。それで誰かを傷つけるなら、その逆だって出来る。いや、やらないといけないと思うんです。もし、逃げ出したら誰も守れなくなると思う。だからISの練習は続けます。皆さんの力になりたいんです」

 

心の中で無茶も承知で言ってるのが私には分かる。私の両手を強く握りしめて落ち着かせようとしているから。

 

「和也君は・・・戦うのが怖くないの?」

 

「怖いです、ものすごく。自分の意志では無いとは言え、教員二人を襲ってしまったのですから。でも、刀奈がいるから大丈夫です。刀奈のお陰で、今日まで学園生活を送ってこれましたから」

 

笑顔で語りかける和也君の姿を見て、いつの間にか私は泣き止んでいた。

 

「私がそんなに強くない人間だって・・・分かってるよね?」

 

「はい。だから、二人で頑張って人として強くなりましょう。僕も学園とISと狼男の板挟みの中、頑張って刀奈を支えますから」

 

「だったら、約束して欲しい事があるの」

 

和也君の膝に乗り、彼を覆うかのように抱きしめた。

 

「一人で全部抱え込んで、一人で思い悩むのはやめて。泣きたい事とか、辛い事とか、ワガママを言いたい時は私に言って。和也君と一緒に悩んで、悲しんで、人として強くなりたいから」

 

「分かったよ刀奈」

 

彼は嫌がる素振りを見せず、そのまま抱きしめられる事を受け入れてくれた。

 

「刀奈」

 

「何?」

 

「お腹が空きました」

 

時計を見ると、時刻は7時をちょっと過ぎていた。皆が朝食を食堂で食べている時間。謹慎の身である和也君が今から学園の食堂に行く事はできず、病院の食堂で食べなければならない。

 

「じゃあ、一緒に食事でもしよう」

 

「でも、授業は・・・」

 

「授業は休んで、和也君の先生となって授業をするから。ISに乗れない所は、授業に参加してない二日分を取り戻さないといけないでしょ?教科書とノートはあるから、教える事は出来るわよ。それに和也君の最初のワガママは聞き入れないとね」

 

私はベットから降りて、顔を赤くしつつ手を差し伸べた。

 

「和也君、手を繋いでくれない?」

 

「え?」

 

「恋人同士だし、いいでしょ?」

 

「は、はい!」

 

和也君も顔を赤くしつつ、ベットから降りて私の手を握りしめた。小さくも温かく、柔らかい感触が私の手に伝わってくる。恋人になってから、手を繋いだことは一度もない。私も和也君も照れつつも、病院内の食堂へ向かった。

 

「刀奈。僕の両親はどうなったんですか?」

 

「いつも通り、頑張ってるわよ」

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

IS学園 地下50mにある謎の部屋

 

「織斑先生・・・これは・・・」

 

「山田君、分かってる。どうやって二人がこの部屋に入ったのかのだろう?」

 

薄暗い部屋に設置されてるディスプレイの光で照らされている千冬の顔は、酷くうんざりしていた。破壊されたISの横には和也の両親が立っていた。和也の母は割烹着を着こみ、和也の父はジーンズに白いシャツと着こみ、右手にはニッパーとマイナスドライバーを持っている。

 

「お二人に伺います。どのような方法でこの部屋に入ったのですか?」

 

「食堂に行こうとしたのですが、いつの間にかここに辿り着いていましたぁ」

 

「興味本位で通気口に入ったら、セキュリティシステムの中枢部に辿り着いて、配線を全部切ってからこの部屋に入った」

 

「はぁ・・・」

 

ため息をついて頭を抱える千冬の姿に、世界最強(ブリュンヒルデ)の面影など無かった。残業続きで疲れ果て、どうしようもない依頼を受けて困り果てたOLそのものだった。

 

「一体・・・何をどうすれば誰にも気付かれず、部屋に辿り着けるんだ?」

 

「織斑先生、この二人は・・・」

 

「山田君、言うまでも・・・」

 

「実は超能力者ではないのでしょうか!」

 

「何でそうなる!?」

 

世界最強(ブリュンヒルデ)の受難は続く・・・




この作品の更識楯無は、

「容姿端麗、頭脳明晰、スタイル抜群の完璧超人」

ではなく、

「家系より、ごく普通の幸せが欲しいお嬢様」

として書いているつもりです。
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