書くモチベーションを保つのは、いつもながら苦労します。
クラス代表戦から三日経ち、学園内は平穏を取り戻していた。
アリーナに乱入して来た黒いISについては、生徒会長から所属不明の無人機であると全校集会で発表された。生徒達に戸惑いがあったものの、教員達によって無人機は破壊されたという話で事は収まるかに見えた。
「あの無人機・・・あの高原が呼び出したって噂、本当かしら?」
「なんでも、お父さんは世界中を駆け巡ってる泥棒で、無人機は泥棒稼業で繋がりのある人に頼んだとか・・・」
「もしかして、自分がISより優れてる事を証明したかったんじゃないの?」
だけど、周りはこの事件の主犯格が和也と親父の二人ではないかと噂されている。和也の親父が無人機を呼び出し、和也が破壊して自分の優位性を示そうとしたのではないかと言われてる。のほほんはそれを否定しているが、耳を傾ける人はいなかった。
「そんなわけないだろ・・・のほほんを避難させようとしただけなのに」
反論をしたかったが、俺はもう一つの問題を抱えている。
「簪、ちゃんと食べてるのか?」
「うん・・・大丈夫。ちゃんと・・・食べる・・・から」
「ちゃんと食べてるって、昨日は何も食べ・・・」
「大丈夫。今日は・・・ちゃんと・・・食べるから・・・」
簪が食事をあまり摂っていない。あまり食べない方ではあるけど、ここ数日ちゃんと食べてる姿を見てない。昨日は保健室で寝込んだという悪い噂を耳にした。その事について簪に問いかけても、大丈夫の一言で話を終わらせてしまう。それに日を追うごとに元気がなくなっているのが分かる。このままだと、病室で寝込むなんて事もあり得ない。
「うーん。どうすれば・・・」
時刻は6時になろうとしている時、俺は廊下で一人考え込んでいる。この時間帯、生徒達は食堂に向かっているから廊下は静かである。だから、考え事をするにはうってつけの場所だが・・・
「簪を誘いたいんだけど・・・」
簪は今、部屋にいる。風呂に入ってるわけでもない、ただ部屋にいる。今までなら食堂に誘って一緒に食べていたけど、今では全て断られている。
「このままだと、倒れるかもしれないのに・・・」
「なら、彼女の相談に乗ってみたら?」
背後からの声に驚き、その場から2歩下がりすぐに振り返った。
「どうもぉ」
和服姿の『和也のお母さん』がいた。
「・・・和服?」
「違いますよ。私服ですよ」
和服が私服のお母さんなんて、初めて会ったかもしれない。
「それで・・・相談って?」
「そうそう。彼女を見てると、どこか無理をしてる所があるって感じるの。なら、原因を探せば分かるんじゃないかなぁって」
「俺も何度か聞いてみようとしたんですが、口を開いてくれません」
聞く度に簪の顔が険しくなっていき、聞くのがオカシイと言わんばかりの冷たい視線を俺に向けた事を覚えている。
「あらぁ。どういう風に聞いてみたの?」
「どういう風にって・・・どうしたとか、俺でよければ相談に乗るとか言ってみたんですが・・・」
「うーん。それだと、逆に言いづらくなるんじゃないかなぁ?」
「え・・・」
「多分、彼女は織斑君の言動に不安を感じてると思うのよ。だから、彼女の不安を取り除いてから聞いてみると良いわよ」
笑顔でアドバイスをくれる『和也のお母さん』に感謝をしつつも、俺は気になっていた。
「あの、一ついいですか?」
「何ですか?」
「その、和也の事について何か聞いていますか?」
「大怪我を負って、2週間の入院だと聞きましたけど?」
「そうですか・・・それじゃあ、簪の所に行ってきます。和也によろしくと伝えておいてください」
「はぁい」
俺はそのまま簪のいる部屋へ一直線に向かって行った。
「和也みたいに強くなれるだろうか・・・」
・・・・・・
部屋のベットで寝転んでいる簪の顔に生気は感じられない。顔は若干やつれ、目の下には隈が薄く現れている。身体を動かす気力も無く、そのまま毛布にくるまり瞼を閉じていた。
(私、和也君が好きなの。狼男とか、更識を知った男じゃなくて、一人の男性として私は好きなの)
頭をよぎる姉の言葉。『楯無』として襲名した日の夜、姉の口から明かされた告白。姉の恋人自慢だと思っていた簪は、嫉妬交じりで話を聞いていた。ただ、その時の姉は『楯無』ではなく、『刀奈』として自分に語っていた事は憶えていた。彼の存在が姉を変えたと考えたら、彼は物凄い人物ではないのかと興味が湧いた。
だが、クラス対抗戦の出来事が彼女に恐怖心と疑問を植え付けた。
頭を潰され即死からの蘇生。謎の黒いISに致命傷を負わせる力。襲い掛かる殺気。人としての意識が無いまま教員を襲い、頭部に重傷を負っても息をする。
「う・・・」
その光景が何度も頭の中で再生され、その度に吐き気が襲ってくる。今まで堪えていたが、限界が来ていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
重い体を起こし、彼女はふらつきながら手洗い場へ歩いて行った。
彼が狼男である事は知っていた。だが、クラス代表戦での光学兵器による攻撃、クラス対抗戦での無人機による攻撃を喰らっても全治する。大量の出血、頭蓋骨の複雑骨折、脳への物理的攻撃。常人では即死当然の怪我を、彼は2、3日で直してしまう。そんな非常識な出来事を、簪は受け止める事が出来なかった。姉はそれを恐れるどころか、彼が学園に馴染めるように努力をしている。
「お姉ちゃん・・・どうして、あの人が好きなの?」
彼女には理解できなかった。常識では計り知れない存在である彼を愛する姉が理解できない。どこから彼への愛が生まれたのか?どうやって彼の愛を受け止めたのか?だが、そんな彼女の問いに答える者は誰一人いなかった。
・・・・・・
「簪・・・あれ?いない?」
俺が部屋に戻った時、部屋には簪の姿がなかった。
「どこかに行ったのかな?」
部屋を見渡そうとした時、シャワールームから何かが落ちた音が聞こえた。金属やプラスチックのような固く、鋭い音じゃない。どこか鈍く、重みのある音だ・・・もしかして!?
「簪!?」
俺は急いでシャワールームに駆けつけ、乱暴にドアを開けた。そこには、倒れている簪がいた。シャワーからの流水でパジャマと髪は濡れていた。口元から血が混じっているナニかがちょっと出ていた。
「簪!しっかりしろ!」
簪に声を掛けたが反応がない。
「急いで保健室に行かないと!」
俺はシャワーを止めて、濡れた簪を背負い保健室へ走って行った。千冬姉に見つかったら怒られるだろうが関係ない。今は緊急を要する事態だ。
「俺も、和也みたいに早く走れたら・・・」
狼男である和也を羨ましいと思いながら保健室へ息を乱すことなく向かった。
簪とオリ主の繋がりが薄かったので、話を作るのに苦労しました。
事前に知っていても、実際に遭遇するとパニックを起こす。
簪はその状態に陥ってしまったのです。一夏がどう切り抜けるのかは・・・ご期待ください。