高原和也が入院して10日が過ぎた。
朝の食堂はクラス対抗戦の事件が無かったかのように、学園は生徒達の声で賑やかであった。ISの話からファッション、人気のスイーツに勉強と飛び交う話題は様々。眠気を抑えながら食べる人、朝から多めに食べる人、体重を気にして少なめに食べる人もいれば・・・
「むぅ・・・」
不貞腐れながら食べる人もいる。
「1週間も生徒会の仕事をせずに、和也さんの所へ行ってたお嬢様に非があります」
「だからって、私の首元を引っ張らなくてもいいじゃない?」
「そうまでしないと、お嬢様が仕事をなさらないからです。目を通さなければならない書類が溜まっています。それに、和也さんに手を出そうとした事を忘れたのですか?」
「う・・・それを言われたら、返す言葉がないわ」
「それに和也さんだって、一人で休む時間が必要です。お嬢様だって、それは理解してるはずですよね?」
「虚ちゃん。何か口調がきつくないかな?」
「気のせいです。生徒会室に行きましょう」
淡々と語る虚の姿に背筋に少しの寒気を感じた楯無は、朝食を食べ終えて足早と生徒会室に向かった。
「それで、どうなってるの?」
「和也さんに対する不信感が日に日に増していく一方です。やはり、無人機襲来が和也さんの印象をより悪くしてしまったみたいです」
「そう・・・」
食堂での明るさから一転、楯無の顔つきは徐々に険しくなっていく。
「あまり気を立てないでください。周りに誰もいないからと・・・」
「分かってるわ。けどね、よってたかって和也君を拒んで、何かあれば和也君のせいにして、理解者が増えない事実に苛立ちを抑えるなんて無理な話よ」
憤慨と達筆に書かれた扇子を口元で広げたが、扇子から何かを軋む音が響き渡っている。表情どこか作り笑顔で本音を隠しきれていない。
「それに、和也君にまた何かあったら・・・私が何をするか分からないから」
作り笑顔で語る刀奈の危うい決意に、虚はただ圧倒されるだけであった。
・・・・・・
「葉山さん。高原の身体はどうなんですか?」
「体の方はとっくに大丈夫だから、教室に戻したい所だ。他の生徒達も利用するから復帰させてくださいと言っても、ダメだの一点張りが3日も続いてるからな」
IS学園の保健室では、和也の容態を知るために千冬が葉山から聞いていた。完治している事に僅かな安堵をしていたが、未だに理解を示さない学園の対応に落胆せざる得なかった。
「ところで織斑先生。和也がISを起動させた後に起こる不具合の原因は分かりましたか?反応値が高すぎる以外で」
葉山の質問に織斑先生はスーツのポケットからUSBメモリーを取り出した。
「クラス代表戦の時のIS稼働データです。以前に渡した参考書とデータを参照しながら見てください」
そう言い、千冬は保健室を後にした。
「前々から気付いていたが、コミュニケーション・・・意外と苦手なんだな」
彼女の不器用ぶりに驚きつつ、デスクの上で眠っているノートパソコンを起こした。
「さてと、ここからは俺の仕事だ」
起き上がったノートパソコンに千冬から渡されたUSBメモリーを挿しこんだ。
「俺の仮説が正しければいいんだが・・・」
USBメモリー内にあるファイルを開き、参考書を片手にデータを見始めた。
・・・・・・
日本 とあるホテルの一室
「以上が、『高原和也』の情報と任務だ。何か質問はあるか?」
「狼男をISで倒すことは可能なのですか?」
「それを可能にするために、君の専用機にAICを搭載させた。それとケースの中に小瓶を使えば、確実に狼男を倒せる」
部屋の中で眼帯を付けた小柄な少女が携帯電話を片手にケースの中にある透明な液体が入った小瓶を見つめている。
「その小瓶に入ってるものを奴に与えれば、12時間後に奴は死亡する。ワイヤーブレードに塗って切り刻んだ場合は、24時間に死亡する。これ以上、高原家にドイツ軍の名誉を傷つけさせてはならん」
「分かりました。必ず任務を遂行します」
そこで通話が切れたのを確認した後、彼女はポケットから写真を取り出しだ。
「高原・・・我が祖国の名を汚し、あまつさえ狼男の存在を隠匿したあいつを生かしては返さない」
若干、険しい顔つきをしている少女の顔つきがますます険しくなり、年相応の顔つきをしていなかった。
「待っていろ高原・・・息子共々、このラウラ・ボーデヴィッヒが抹殺する」
彼女は怨念を忘れることなくベットに潜り込み、その日の夜を迎えた。
「何故・・・私はベットから落ちているのだ?」
次の日の朝、逆さのままベットから落ちている状態で彼女は目を覚ました。