東方和河童   作:BNKN

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16 半人半霊の庭師

 

 一振り、二振り。

 ヒュンと鋭い風切り音を響かせながら振られた二刀の軌跡から放たれる幾重の弾幕。まるで斬撃を飛ばしているかのごとく。

 

 鞭のようにしなりながら迫る弾幕を魔理沙は必要最低限の動きでぬるりと躱す。何十発もの弾が服をガリガリと掠めていく。

その弾幕の中を遡上する星弾は魔理沙から放たれた物である。刀の少女は一直線に向かってくるそれらを見ても避ける素振りを見せない。

あわや被弾かと思われた瞬間のことであった。自身の身体に重なるであろう全ての球を切り落としたのだ。

目視出来ぬほどのスピードで振られた刀。

それはもはや人間が一生の内に身に付けることが出来るであろうレベルを超越していた。魔理沙の素人目にもわかる“剣“の極地を体現した技であった。

 

「…まーたこういう手合か」

 

 魔理沙の言う[こういう手合]とは前回で言うところのパチュリー。弾幕を避けるのではなく当たっても被弾にならない、詰まるところ弾幕を無力化してくる者達のことだ。これをされると魔理沙に出来ることは限られてくる。

 

 一つ、相手のスペルカードを全取得。

 

 二つ、無力化しきれない程の物量で押しつぶす。

 

 三つ、無力化出来ない程の火力によるゴリ押し。

 

「ま、私らしいやり方でいこうかな」

 

 呟くと同時に為されるスペル宣言。

 

『獄神剣「業風神閃斬」』

 

 突如として上空に駆け上がる少女。魔理沙の遥か上空に月のように設置される大きな白球。その白球から無数に放たれる大玉が魔理沙めがけて降って来る。

 

「なんだ、もっと難しいと思ったがなんてことは無いじゃないか」

 

 挑発する様に笑いかける魔理沙に少女もまた笑みを返す。

 

「ここからよっ!」

 

 放つ言葉と共に少し高度を下げ、魔理沙と白球の間にまで降りてくる。そんな所にいては少女自身も大玉の雨に飲まれてしまう筈。

 

「らああぁっ!」

 

 気合いの雄叫びを上げながらその雨の中に身を投げる少女。

 

「何してんだ?」

 

 訳が分からないと言った様子で刀を振り終えた格好の少女に尋ねる。それはそうだろう魔理沙から見れば突然に自分の放つ弾幕群に突っ込んでそれを避けただけなのだから。

だが、次の瞬間大気が裂けた。

 

「!!」

 

 それは隙間妖怪の作るものでは無い、純粋な亀裂だった。紛れもなく少女の刀の通り道である。それが四本、虚空に線を引いたのだ。それだけではない、彼女が切り裂いたのは大気だけではなく、大玉の雨すら斬っていた。一つの大玉から何百もの弾が弾けて飛んでくる。それに形作られた弾幕は雨どころの話ではない。紛れもなく滝であった。

 

「いやいやいやっ! 馬鹿だろ!?」

 

 およそ避ける隙間の見当たらない壁が落ちてくる。弾幕ごっこのルールとして詰み弾幕は禁止されている。

 

『魔符「ミルキーウェイ」』

 

 咄嗟に放つ魔理沙の星雲が滝を逸らした。

 

「お前ルールわかってるか?」

 

「お前なんて名前の奴は知らない。そういう名前の奴がいるのなら同情するわ。因みに私の名前は魂魄妖夢よ」

 

 先ほどの仕返しと言わんばかりだ。

 

「コイツっ」

 

「弾幕に関してだけど、ランダム性が高いから詰む可能性もあるかもしれないわね」

 

「よくもまあ、いけしゃーしゃーと」

 

「ほらほら次よ」

 

『修羅剣「現世妄執 -Lunatic-」』

 

 先程の縦弾幕と違い今度は魔理沙を挟み込むように左右からそれぞれ赤と青色の弾が漫ろに迫る。

 

(どうせまたここからなんだろーが)

 

 心の中で悪態をつく魔理沙の期待に答える妖夢。

 魔理沙に構えた刀を一閃。

 

「うぉっ!」

 

 何か来ると用意していなければそれに切り裂かれていただろう。先程まで魔理沙の肩の位置に大気を割く斬撃が残る。

 

「不意打ちとは卑怯だぞっ!」

 

 白狼天狗が聞けば腰を抜かす程の言葉。台詞にするならお前がいうなと言ったところか。

 

「ちゃんとスペカの宣言はしているが?」

 

 以前の魔理沙よりよっぽど良心的だった。

 

「それにまだ終わってないわ」

 

 左右から迫る弾がその斬撃の軌道上に乗った瞬間その動きを横から縦へと動きを変えた。

 

「あっ」

 

 魔理沙は唐突な変化に対応出来ずあえなく被弾。

 

「なんだもっと頑張るかと思ったけど、そうでもないわね」

 

 これも先の魔理沙の言葉を盗んだものだろう。

 

「どこまでも舐めやがって…。じゃあ見せてやるよっ!」

 

 相手は畔のように貧弱ではない。当たっても死なないだろう。今回二枚目の魔理沙のスペルカード。

 

『恋符「マスタースパーク」』

 

 魔理沙の放つ極光は妖夢の放つ斬撃と同等かそれ以上のスピードで彼女の視界を埋め尽くした。光の過ぎ去った後に煙を上げながら立ち竦む妖夢。流石に切り捨てることは出来なかったようだ。

 

「あんたルール分ってる!? 逃げ場なかったじゃないっ!」

 

 怒鳴った勢いで焦げ付いたリボンが地面へと音もなく落ちていく、その様はなんとも哀愁が漂う。

 

「急げばギリギリで避けれるぞ? だからセーフ」

 

「こいつっ! もう容赦しないわ!」

 

『天神剣「三魂七魄」』

 

 妖夢の持つ刀が天を衝き、迷いなく振り下ろされる一刀。ぞわりと湧き出す弾幕が不規則な軌道で魔理沙に迫る。今までの弾幕を見るに何かしらのギミックが追加される事は予想できた。そしてその予想通りそこから姿を変えていく。

 

 魔理沙が弾の間に身を滑り込ませた瞬間、約2秒の間全ての弾と魔理沙の体のスピードが格段に落ちたのだ。

 

「うっ!? おごぉっ」

 

 突然の緩急に体がついていけず大きく仰け反ったところに楔弾が腹に突き刺さり地面へと叩き落とされた。カラカラと音を立てて八卦炉が魔理沙の元を離れていく。

 

「かっ…おぇっ」

 

 落ちた拍子に切ったのだろうか、口から赤い雫か垂れる。

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

 それを見下ろす妖夢は顔にいくつもの汗の滴を付け大きく肩で息をしている。

 

「ど、どう?はぁっ…こ、降参する?」

 

 降参してくれと言わんばかりの声音に魔理沙は痛む腹を抑えつつ笑う。

 

「そりゃあ、こっちのセリフだぜ。息が上がってるぞ?」

 

「~~~ッ!」

 

 妖夢は震える手で再度刀を天へ掲げ、それを地に落とす。地面の魔理沙がその弾幕を躱すことは難しい。おまけに八卦炉が手元にない。つまりボムに頼ることも出来ない。

 地に這い蹲る魔理沙に容赦なく降りかかる弾幕。先のスピードダウンが来ることは分かっていたが、それがいつなのか掴めない。

 

「あっ…」

 

 魔理沙の集中力が途切れかけたまさにその時にそれは来た。

 

「がっ、え"っっ!」

 

 頭と胸に一発ずつ。口からではなく頭から流れ出る血が地面に小さな花を咲かす。

 

「ゴホッゴホッ…はぁ…はぁっ!」

 

 対する妖夢の顔色は先程よりも酷い。酸欠の様に大きな呼吸を繰り返している。次第に空を飛ぶことも難しくなった妖夢はヨロヨロと地面に降り立ち、剣を杖にして危なっかしく立つ。

 

「はあっはあっ。お、終わっ―――」

 

「まだだぜ」

 

 地面に倒れ込む魔理沙が頭の血を拭いながら立ち上がるのを信じられない物を見る目で見る妖夢。

 

「私のやる気はなくなっちゃいない…満身創痍には程遠いぜ……」

 

 程遠い所かどこからどう見ても満身創痍だ。だが、本人が立ち塞がる以上弾幕ごっこは終わらない。

 

「ちょ、ちょっと。いい加減にしないと魔理沙、死ぬかもしれないわよっ」

 

「…死んだら私も生き返って見せるぜ」

 

「何を言って―――」

 

「いいからっ! さっさともう一回さっきの打ってこいよ。それで最後にしてやる」

 

「はぁっ…クソっ」

 

 三度天を衝く妖夢。腕は上がりきらず、立っているのもやっとといったところだ。脱力するかのように下ろされ、放出される弾幕の鮮度は前二回となんら変わらない。

 

 この弾幕を魔理沙は避けなかった。というよりも最初から避ける気がなかった。既に魔理沙の体は悲鳴を上げており足を動かすことも苦痛だったのだ。故に端から当たること前提に全て耐え忍ぶことにした。パチュリーの行っていた七つの石による防御が出来れば良かったのだが、ないものねだりをしても始まらない。ひたすら頭を抑え屈みこみ、弾幕にさらされる面積を少なくしてじっと待った。腕や足に刺さる痛みを耐える時間は一頭長く感じた。

 

 やがて過ぎ去った弾幕群。身を起こす魔理沙の腕は赤く腫れ上がり所々に切り傷がついている。

 

「つっう~~ッ!」

 

 暫く使い物にならないであろうそれを空に放って妖夢を見ると彼女もまだ立ち上がっている。髪に隠され、その表情は読み取れない。

 

(駄目だったか…)

 

 魔理沙が狙っていたのは妖夢のスタミナ切れ。正真正銘、妖夢と魔理沙との耐久勝負。今その勝負が決しようとしていた。

 

 二本の内1本を地面に打ち立て、両手で刀をあげる。駄目かと目を強く結んだ魔理沙の耳に無機質な金属音がきこえてくる。

 

 目を開けば地面に転がる妖夢の刀。そのまま妖夢自身もどさりと倒れ込んだ。

 

「なんだ、終わってたんじゃないか…」

 

 身形だけで言えば魔理沙の方がズタボロである。だが、今立っているのは妖夢ではなく魔理沙。話しかけても返せない妖夢を見るに弾幕ごっこを続けることは出来ないだろう。

 

「はぁ。す、少し休むか」

 

 その場にへなへなと座り込み、瞼を落としていく魔理沙だった。

 

 〇

 

(畔っ! これ何もしない空気じゃろ)

 

(そ、そうですね)

 

(どうにかここから抜けれんかの)

 

(相手は紫さんですよ? 無理に決まってます)

 

(むぅ…)

 

 心の中で不満を漏らすのは白忌さん。平和に解決されそうになるのが気に食わない様子だ。

 

(こいつは何処までも邪魔しよる…)

 

(今回だけじゃありません?)

 

(ああっすまん。気にするな。)

 

「ええと、じゃあ何から話そうかしら」

 

 式に見放された紫さんが無事再起動を終えた。

 

「あまり興味無いですけど、この異変の首謀者と目的ってとこかしら」

 

「首謀者は西行寺幽々子。ここ冥界の管理を閻魔から一任されている亡霊よ」

 

 管理者側が異変を起こしてもいいのだろうか。紫さんがその気になれば誰にも止められない気がする。

 

(…西行寺)

 

「幽々子の目的は此処にある封印された西行妖を開放し、その元でお花見をすること」

 

「そんな下らない事で……」

 

 咲夜さんの溜息が漏れる。

 

「と幽々子は言ってるけど、本当の目的は恐らく開放と共に復活するとされるある者」

 

(…ょ………)

 

「ある者とは?」

 

「…幽々子に絶対言わないのなら教えてあげる」

 

「特別接点もないですし」

 

「わ、私も」

 

 絶対面倒臭い事になりそうなので聞きたくもなかったが、先程からブツブツ零す白忌さんの反応が気になる。

 

「じゃあ二人とも舌を出して頂戴。ちょっとした術式をかけさせて貰うわ。体に害はないから安心して」

 

 舌を出すなんて別に紫さんじゃなくても抵抗を覚える。だが、咲夜さんが何も言わず出していたので私もそれに習った。

 

「はいっ。もういいわよ」

 

 一瞬出しただけだったというのにもう終わったらしい。出さなくても良かった気がしないでもない。

 

「じゃあ話しましょうかね」

 

(…)

 

「あの妖怪桜を開放して復活するのは西行寺幽々子自身なの」

 

「?」

 

「二人とも訳が分からないって顔ね。それを説明する為に少し昔話からしていきましょうか。

 あれはまだ幻想郷のできるずっと前のことーー」

 

 

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