東方和河童   作:BNKN

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24 托卵

 

 不羈奔放の小鬼と二人きりで月見酒に浸ったのが昨日。未だに喉に熱が残る畔であるが、今日は紅魔館のテラスで優雅にお茶会と洒落込んでいる。茶菓子もあると言えどまた液体か。飲み物ばかり取り込んで陸上でも溺れやしないかちょっとした疑問である。

 

「畔も色々と面倒に巻き込まれるものね」

 

 魔道書を捲りつつ目をこちらへ向けるのは動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジ。不動という割にはこうしてお茶会に参加している。吸血鬼の友人に感化されてか、生来のものかわからないがこの少女もあまり日の光を好まない。故にその肌は少し前までの幻想郷の様に白い。そんな肌を偶には天日干ししようとテラスまで足を運び、咲夜の入れた紅茶を飲むパチュリー。

 

「被害癖って言えばいいんですかね。もう慣れましたけど」

 

 本当に慣れてるなら鬼を前にしただけで失神しないだろが、その事実を知るのは萃香と畔だけなので何とでも言える。

 

「その妙な癖は治さなくていいの?死活問題でしょうに」

 

「えーと、治したいんですけどね。パチュリーさん治してくれません?」

 

「私を便利屋か何かだと思ってる? 無茶言うのはレミィだけにして頂戴」

 

 机の向かいに座るレミリアがズルりと椅子から落ちる。

 

「い、今の流れで私を出す意味あった?」

 

「いい機会だったからつい」

 

 つい、で引き合いに出されるレミリアも大概の事を普段からしているということだろう。

 

「う〜。何なのよぉ、折角いい気分に浸ってたのに〜。あっ咲夜おかわり」

 

 さっきまで誰に見せているのかわからないがドヤ顔で紅茶を飲んでいたレミリア。そこ一枚だけ見れば美少女が優雅にティーカップを傾けているという非常に絵になるシーンだったが、他に席につくものが談笑している隣で一人それをしている所まで見てしまえば一気に滑稽に見えてくる。

 

「大体レミィのさっき顔は何なのよ。誰に格好つけてたのよ」

 

「わかってないわね。普段から気配りをする事でいざと言う時にもその対応が出来るというものよ。パッチェもまだまだね」

 

 注がれたティーカップ片手にふふんと鼻を鳴らすレミリアは何処か得意な顔をしている。

 

「そんな顔が必要ないざと言う時がわからないわ」

 

「いざと言う時はいざと言う時よ。思いもよらない時に使うの」

 

 思いもよらないと言うが一度これを使った時もある。八雲紫が紅魔館に訪れた時、舐められるわけにはいくまいとしたレミリアがその顔を使ったわけだが、結果的に舐められはしなかったが手玉には取られたと。日頃の練習もあまり意味をなさないらしい。

 

「思いもよらないねぇ。――ま、精々私たちの顔として頑張ってね当主様」

 

「任せなさい!」

 

 レミリアが薄い胸をドンと力強く叩くいた拍子にティーカップからこぼれ落ちた紅茶が彼女のお気に入りの服にシミを作る。

 慌てる彼女を白けた目で見つめるパチュリーと畔であった。

 

 

 カシャリ。

 

 

 そこに響く乾いたシャッター音。黒い羽を羽ばたかせる一羽の烏天狗が三人にレンジファインダーカメラを構えている。

 

「毎度どうも皆さんこんにちは! 新聞記者をやっている射命丸文と申します!」

 

 カメラをずらし顔を覗かせる彼女。妖怪の山に古くから住まう、清く正しいかはわからないが由緒正しい烏天狗である。天狗と言えば前々から話に出てきているが、幻想郷における最大規模の勢力である。その数と組織運営は現代の人間のそれに近いものを感じる。

そんな烏天狗の仲間内で流行っているのが新聞作りなのだが、それも所詮完全に趣味であるので出来はゴシップ誌と大差ない物が殆どである。

 文の作る文々。新聞も例に漏れず、掲載情報の真偽の程は自らで確かめる必要がある。

 

「前聞いたわ」

 

 レミリアは溢れた紅茶をフキンで拭きながら一瞥もせずに切り捨てる。

 

「いいんですよ。そちらの方は初対面ですからっ!」

 

 文が言うそちらの方とは奥に座る色白な図書館。

 

「レミィから話は聞いてるわ。ろくな新聞書かないんでしょ?」

 

「あややや。何て事を仰るんですか! 私の新聞ほど真実に忠実で正確な物も無いというのにっ!」

 

 文はよよよよと態とらしい泣き真似を見せる。

 

「どの口が正確だなんて言うのよっ! 私のことを本当に500年生きているかどうか怪しいとかここを趣味の悪い不気味な館とか書いたくせにっ!」

 

 必死になっているところ悪いが後者に関しては客観的な事実に相違ないだろう。人でも妖怪でも赤一辺倒の配色に高評価を下す者はあまりいるまい。

 

「記者とて、私とて一人の妖怪ですからねぇ。ある程度その思想が反映されたものになるのは新聞の性というものですよ」

 

 文はいつの間にかカメラをしまい、手にはメモとペン。そのペンをくるくると片手で弄びつつもレミリアを軽くいなす。

 

「もういいわ! 何しにきたのよ?」

 

「ええ、今日はレミリアさんではなく畔さんに取材を――」

 

「お姉ちゃん別に敬語じゃなくていいんじゃない?」

 

 畔の言葉にペンを回す新聞記者の手が止まる。

 

「ほ、畔さん。こういうパブリックな場所でお姉ちゃんというのは…」

 

「パブリックって言うけどここ、今の私の家だよ?」

 

 位置的には元の位置から移動はしていないし、ここに住んでいることは事実だ。自分の家と言う位には馴染んできているだろう。

 

「あのね…今は一応仕事中みたいなもんなんだから――や、もういいか」

 

 ペンを胸元のポケットに戻す文はニコニコと笑う畔に呆れたような顔を見せる。

 

「何よ。あんたら知り合いだったの?」

 

 レミリアが不審物を見るような目で畔と文を見比べながら尋ねる。

 

「昔からよく面倒見てくれたお姉ちゃんって感じですかね」

 

「手間のかかる近所の子供って感じですかね」

 

 畔の頭に文が手を乗せつつ言葉を重ねる二人だった。

 

 〇

 

 いつの間にやら畔たちと共に紅茶を飲む文。

 

「いやぁ申し訳ないですね。饗してもらっちゃって」

 

「遠慮してくれていいのよ?」

 

「他人の好意を無礙にするなんてとんでもない。お言葉に甘えてお邪魔させてもらいますね」

 

 邪魔な鴉を追い払いたいレミリアとその鴉は両者共に笑顔だが纏う物は笑顔から程遠い。

 

「それでお姉ちゃんは私に何を聞きたいの?」

 

「ああ、どこかの誰かのせいで忘れるところだったわ。ええと、あんた前回だけじゃ飽き足らず今回も何かやってたらしいじゃない」

 

 隣で何か言いたそうにしているレミリアはさておき、目を見張る程の情報の速さである。まさに昨日の今日の出来事をもう耳にしたのか。幻想郷最速の名は伊達ではないらしい。

 

「随分早いね?」

 

「そりゃ妖怪の山であれだけ派手にやってりゃ誰でもわかるでしょ」

 

 今回の件に関していえば最速は伊達だったようだ。

 

「そっか、そう言えばそうだね」

 

「此処の妹さんと畔と萃香様以外には話を聞いたし、萃香様は怖いから置いといて後は畔なの」

 

 美鈴は話をした上でこの記者を中に通したらしい。いよいよ門番なんていらないんじゃないだろうか。現門番の彼女にももっと別の仕事を任せた方が紅魔館はうまく回る気がしてならない。

 

「フランちゃんには聞かなくていいの?」

 

「五月蝿いお姉さんがいるから難しいの」

 

「うるさくないわよっ!」

 

 隣で耳を塞ぐパチュリーを見れば五月蝿いか否かははっきりしている。

 

「ね? だから畔で最後」

 

「う〜ん。話とは言うけど特に何もないと思うんだけど」

 

「いやいや。あの萃香様が意味もなくあんたを誘拐するはずが――いや、酔ってたらするかな?まあそれはさておいて、ずっと寝てたとかでもない限り何かしらあったでしょ」

 

 この射命丸は先に萃香の言う"旧いやつ"に当てはまる。つまりいい意味でも悪い意味でも彼女をよく知っているのだ。勿論絡まれた事とてあるだろう。あまり近寄りたくないという彼女の考えを一概に否定することは出来ない。

 

「二人きりって言っても、してた事ってお酒飲んだだけだよ?」

 

 昼下がりの紅魔館に水を打ったかのような静けさが落ちる。季節の少し遅れたウグイスの声だけが虚しく響く。

 

「え、何この空気」

 

「いや、え? 鬼と酒飲んでたの? ずっと?」

 

「うん。最後はお酒無くなっちゃったからお開きになったけど」

 

「萃香様の酒が無くなるって…畔は何でピンピンしてるのよ」

 

 元来酒には強い種族の天狗。その天狗よりも更に強いのが鬼であることはもう言わなくてもいいだろう。その鬼、萃香は自他共に認める酒好きで、それはここ数百年の間、素面になったことがないほどである。その彼女の酒が尽きる程、正に浴びるように飲んだ畔は頭痛に苦しむどころか酒気さえ帯びていない。その事が文には信じられないらしい。

 

「その強さがもっと別のところにあればね」

 

 所謂極振りというやつだ。酒耐性だけ頭抜けている。

 

「うーん。じゃあ書くとしても異常に酒に強い河童の記事になっちゃうなぁ」

 

「だから何もしてないって言ったでしょ?」

 

「いや鬼と肩を並べる妖怪の話はそれなりに記事になるとは思うけど…畔だしね」

 

 いわば畔の姉御分の文。あまり畔が目立つことはしたくないのだ。普通に暮らしているだけで赤子のように危険の多い畔に余計な心配を増やしたくないと。

 

「私達の事を書く時とえらく対応が違うのね」

 

「ええ、それはそうでしょう。片や幻想郷に現れた新参ながらに強力な力を有する吸血鬼一派、片や人間より非力な河童ですからね。それに畔は身内ですし」

 

 公私混同もいい所だと言いたいレミリアだったが、眉を顰めるだけに留める。レミリアとて畔は共に暮らす仲なのだ。

 

「さてと、聞くことは終わったのでそろそろ私は御暇しましょうかね」

 

 底の見える様になったティーカップを机に置いて席を立つ文は畳んでいた羽を広げ空へ浮かぶ。

 

「それでは咲夜さん紅茶有難う御座いました。とても美味しかったです」

 

 さっと器用に空中でお辞儀した文は一言残して直ぐにその自慢の翼を羽ばたかせ幻想郷の空へ駆けていった。

 

「なんであれはあんなに落ち着きがないの?」

 

「レミィが言うことじゃないわね」

 

 ぐうの音も出ない紅魔館の顔であった。

 

 

 以下、この翌日人里に舞う新聞から抜粋。

 

 

 白玉楼の西行寺幽々子氏が起こした異変が終わり、著者も漸く花見に興ずる事が出来るかという時分。

 博麗神社では連日盛大な宴会が行われていた。頻繁に行われる魑魅魍魎達の百鬼夜行を知っている人も多いのではないだろうか。その喧しさも然ることながら、その頻度にも目を向くものがあった。

 神社の巫女である博麗霊夢氏によればいつの間にか宴会が開かれているらしい。

 

 そんな素性不明、怪しげながらに大勢の集まる宴会。

 実はこの宴会が作為的に集められたものだった事が一昨日深夜に発覚した。

 

 名前は伏せるが犯人は鬼である。その動機については著者が話を聞いた博麗霊夢氏や紅魔館の紅美鈴氏にもわからないという。当の本人にも話を聞きたかった限りではあるがその機会がなく断腸の思いで諦めた次第である。

 

 本人に聞かない限りわからないことではあるが、著者の推察ではただお酒を飲みたかっただけなんじゃないかと考えている。

 鬼とは元来酒好きな妖怪である。恐らく犯人である鬼も花見酒がしたいと思った迄はいいが地上を見れば見るべき花がなく、あるのは雪ばかり。漸く春が訪れたと思へど季節は春を終えようと準備を始めていたわけだ。「少ないのなら集めてしまえばいい」として犯人が宴会を開いたのだろう。

鬼に付き合わされる酒。最後まで付き合える者がいるのかどうか興味が尽きない。少なくとも著者はついていける自信が無い。

 

 鬼の気が収まったかどうか迄はわからないが願わくば鬼が異変を起こすことは避けてもらいたいと思う。

 

 

 お気に入りの一枚。

 自称500年を生きているという紅魔館の主。彼女は吸血鬼であるからか、幻想郷デビューの異変のイメージが強いのか人里では恐ろしい妖怪の様に考えられている事が多いようなので今回はそんな彼女のお茶目な一枚を。

 

 上の写真はお茶会の最中、お気に入りの洋服に紅茶を溢し、焦りつつそれを拭き取るレミリア・スカーレット氏の様子を収めたものである。

 これを見れば彼女にも親近感らしい感情が湧いてくるのではないだろうか。

 

 

 記事を書いている上でこんな事を言うのはどうかとも思うが、日頃、文々。新聞読者の皆様には噂話で物事を測るのではなくその目で見たものを信じてもらいたいと考えている。

 なかなか紅魔館まで足を運ぶのは難しいと思うので、彼女が人里や博麗神社にやってきている時にこっそり彼女の様子を見てみよう。その愛らしい姿を見れば噂話の不正確さというものを目の当たりにすることでしょう。

百聞は一見にしかず。

 

 

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