「ねえレミリア、あれ誰よ?」
「知らないけどあれがフランの友達なのでしょうね。いつの間に…」
「あれ人間よね?」
「でも目青いし…わかんないわ。そんな事よりよ。魔理沙?だっけそこのあなた」
「…」
「貴女一体何したのよ?」
「わ、私は此処にいた妖怪の一匹をだな…」
魔理沙は罰が悪そうにレミリアから顔を逸らしながら言う。
「何よ妖怪ならなんでも殺していいの? フランは貴方に彼女を殺されたって言ってたけど?」
「いやそんなつもりはなかったんだぜ? そもそもあいつにやったのだってただのボムだぞ? それで死ぬなんて…」
自分に言い訳するようにブチブチと呟く。
「なら魔理沙が火力調節を怠ったんじゃない?」
ついには霊夢までもが魔理沙に疑いを持ち始めた。それ程までに先程までのフランの様子は演技だとは思えなかったのだ。
「ま、待てよ! そんな初心者みたいな真似私はしないっ! それにあいつが死んだって言うならあそこにいるあいつは何なんだよ!」
「何よ貴女、フランが嘘ついてるとでも言うの?」
レミリアが魔理沙を見る目を細くする。
「や、そうとは言わないけどさ」
魔理沙とてフランが嘘をついている様には見えなかった。というか、殺されるかと思ったくらいだ。フランが真に迫っていた事はこの場の誰よりも魔理沙が一番分かっているはずだ。
「ここで何も知らない三人で話してても進まないわ。取り敢えずあの子に話を聞きに行きましょうか」
そう言って霊夢は今だ抱き合って地面に転がっている二人の元へ歩き出す。
〇
「ねぇ貴女達そろそろいいかしら?」
まだまだ幼さの抜けない少女が仲睦まじくしてるのは微笑ましいが、片や先ほどまでこちらに指すような殺意をありありと送ってきた吸血鬼。片や得体の知れない妖怪?人間?だ。状況を把握するためにもさっさと解決したい。
「っ!」
私が後ろから話しかけるとフランと呼ばれる吸血鬼が肩をビクンと飛び跳ねさせ直ぐ様こちらを睨む。後ろにいるやつを庇っているような体勢だ。
「なによ? 何もしないわよそっちが何もしないならね」
それを示す様に私は空いた両手をヒラヒラと振る。
「フ、フランちゃん?」
「畔ちゃん大丈夫。今度は私が守ってあげるね」
これではこちらが悪役だ。別に何もしないというのに。そこでふと気づいた。睨む目は私ではなく魔理沙を睨んでいることに。
「…魔理沙あんたどっか行ってなさい。後で話せばいいから今は邪魔よ」
「え、でも…」
「邪魔よ」
切り捨てる様に言うと魔理沙は黙って離れていった。魔理沙には少々悪ノリが過ぎる所がある。私のような人間には構わないが妖怪となるとそうはいかない。何があったか知らないが今回で学んでくれたらいいのだけれど。
「さて、もうあいつはいないわよ?」
僅かに警戒は薄らいだ様だが相変わらず警戒は解かない。
「私が嫌ならレミリアにでもいいからさっさと事情を説明してちょうだい」
「フラン一体何があったの? その子はどうしたの?」
いつの間にか隣に来ていたレミリアが声をかけると、渋々と言った面持ちでゆっくりと声を――
「あっ!! あの時のっ!!」
という時になって邪魔な声が上がった。ふと見やると図書館の入り口に私が吹き飛ばした門番が立っていた。
「次から次へと…」
溜息をつかずにはいられなかった。
〇
ずっと動かない私だったが、とてつもない爆音でその目を月から逸らす。立ち上る煙を見て流石に行かなければならないかなと思い始める。
のろのろと体を動かして煙の方へ。
先程の爆音を聞くに紅魔館は無事ではないのだろう。実際燃えてたし。それを直すのは恐らく私の仕事になる。
「はぁ…やだなぁ」
本当にここに来てからというかあれに出会ってからいいことがない。
「…本当に運がなかったのは私かな?」
笑えない冗談を一人呟きながら大図書館の扉を開けた途端、感じたのは頬を撫でる風の熱さ。
ああ燃えている。ああ穴が空いている。
この惨状の責任者は誰なんだと思い辺りを見回す。
するとどこかで見た覚えのある姿が見えた。小柄な体に大きめの黄色い合羽、その目は青。紛れもなくあの少女だ。
「あっ!! あの時のっ!!」
私は声を上げずにはいられなかった。
〇
話を聞くにフランの後ろにいたのは水知不畔という名の河童らしい。
畔を紅魔館のベッドに横にさせてその部屋に今、全員が集まっている。
「いきなり攻撃ってあんたねぇ…」
「し、仕方ないだろ。まさかこんな所にそんな妖怪がいるとは思わないだろ」
なんでもこの子は河童ながらにして妖怪らしいことが全くできないんだとか。霊夢や魔理沙の様な人間ではなく普通の人間にも殺されかける程までボコボコにされたんだとか。
そして、元々家があったところに私たちが移動してきたと。その時に荷物だけでもとここに来ているのだが、彼女を人間だと思った美鈴はその話を全く信じず追い返した。
と、まあここまではいいのだが。ではどうやって紅魔館に入ったかと聞けば、わからない。気付いたらここにいた。なんて返ってきた。
そんな胡散臭い、弱小妖怪に放った魔理沙のボム。どうやらそれだけで死んでしまったらしい。
「で、畔ちゃん? 貴女は今なんで生きてるの?」
フランが見たのは右腕左脚を吹き飛ばし頭部一部を焼け落とした畔の姿と言う。しかし、彼女は今元気とは言えないが少なくとも五体満足に会話もできる。
フランが見間違えたとは思えない。この子の能力か何かだろうか。
〇
(は、白忌さん。これ言っちゃっても大丈夫でしょうか?)
テンパっていた。理由は言うまでもない。現在フランと私以外に部屋にいるのは怖い門番のお姉さん、あの霧を一人で出していたというフランのお姉さん、人間ながらに吸血鬼に仕えるメイドのお姉さん、博麗の巫女、私を殺した霧雨魔理沙という名の魔女。自分には縁遠い存在がこうも顔を連ねると緊張だってする。っていうか帰りたい。叶うなら姫ちゃんのとこに帰りたい。
(.…私が龍って事を伝えてしまうと危険な妖怪としてマークされてしまうかものぉ。)
白忌さんは呑気な事を言っている。
(そそ、そんなのゴメンです!)
(神格化すらされることのある龍が河童の中に入っていると知られればここの管理者なんぞは喜んで観察しに来るだろうの)
(絶対嫌ですっ!)
妖怪の跋扈するここで目立つことはそのまま私の死に直結すると言える。ここの賢者なんて最も会いたくない相手と言っても過言ではない。
(じゃあ誤魔化して伝えるんじゃな。適当に誰かに魂だけを譲り受けたとかの)
(そそそんなので大丈夫でしょうか?)
(まぁ疑いはされるじゃろうな)
(駄目じゃないですかっ!)
「ちょっと聞いてるの?」
「は、はいっ」
(疑われるだけじゃ。お近づきになんぞなりはせん)
(…わかりました。)
テンパる畔は他に何も思いつかなかった。だから自分でも嘘臭い話をせざるをえなかった。
「え、えっと…実は私死んでたんですけど。その時にですね体から放たれた私の魂を守ってくださった方がいてですね。その方が私に魂を譲る? ような形になりましてその方の妖力でなんとか蘇生した次第のようです…はい」
我ながらなんて胡散臭い。
「はぁ? 魂? あんた何言ってんの?」
「や、その方が体が死んでも魂が死ぬことはないと…」
「何言ってるのよ」
「でも…」
やはり博麗の巫女にはというか、多分これを聞いてる全員が疑っていることだろう。
「まあそこはもういいわ。その助けてくれたやつは?」
きた。
「そ、それがわからないんです」
「はあ?」
私も同じことを言われたなら、はあ?と答えるだろう。と言うかここまで私がまともに答えられたしつもんがないし…よくよく考えたら私怪しすぎる。
「なんというか.…夢心地だっというかなんというか……」
「…」
目頭を親指と人差し指の腹で抑える博麗の巫女。
「あの、博麗ーー」
「霊夢でいいわ。あんたの件はよくわかんないから後でスキマにでも聞きましょう、面倒くさいわ。ーーさてそれじゃあ私達は帰るから」
帰ろうとする霊夢だったが途中で言葉を切られる。
「待ちなさいよ、霊夢。私とあなたの試合はまだ終わってないわよ。勝ち逃げなんて許さないわ」
じっと霊夢を見つめる紅い双眸。
「私もまだ許してないよ」
畔の隣から上がる声。その目もやはり紅く魔理沙を見ている。
「ふ、フランちゃん? さっき謝って貰ったから...」
「私が許せない。友達を傷つけられたんだよ?」
こう言われてしまえば畔には応えるすべがない。
「…わかったわ。それじゃあ二人まとめて私が相手したげる」
「私は貴女じゃなく、そいつに用があるの」
魔理沙を指さすフランの指。
「ならこうしましょう」
レミリアが手をパンと叩き合わせる。
「私とフラン、霊夢と魔理沙の2対2の弾幕ごっこよ」
「無理ね。今魔理沙は飛べないわ。箒がないもの。ね、魔理沙?」
「あ、ああ」
歯切れ悪く答える魔理沙。
「なんだそんなことどうとでもなるわ。咲夜、直しなさい。今すぐに」
なんて無茶なことを言うんだろうかこの人は。ただの箒でなくマジックアイテムをすぐに直せなんて人間には無理だろうと畔は思っていた。なのに…
「終わりましたわお嬢様」
気が付けば女性の手の中には一本の箒。まるで時間でも止めたかの様な早さだ。
「さて、これで出来るわね。フランもそれでいいかしら?」
「何でもいいよ。私があいつを落としてやる」
「殺しちゃダメよ?」
「わかってる」
もうすっかり2対2をする空気である。
「はぁ、仕方ないわね。魔理沙大丈夫?」
「ああ…」
「それじゃやりましょう。お互いこの異変に遺恨の残らない様にね」
〇
外に出た私を照らすのは変わらず紅い月。本当に気分がいい。なんだか良くわからない内に怪しさは拭えないが、フランに友達ができた。それだけでここに来た価値はあると言える。完全に予想外だったが、フランとの約束を果たせたのだ。
あとは私。
私は霊夢に勝ちたい。でも負けてもいいとも思ってる。ただ弾幕ごっこを楽しみたいだけなのかもしれない。ただ霊夢と友達になりたいだけなのかもしれない。
ここに来る前は征服してやるなんて思っていた。私の、フランの生きやすい様な世界に作り変えようとも思っていた。なんて幼稚。既にここは私にもフランにも楽園だった。私が手を下す必要なんてなかった。私はただこの世界で楽しめばいいのだ。妖怪らしく、化物らしく。ここではそれが許される。
気に食わないが八雲紫にも感謝してやる。ありがとう。私達をここに呼んでくれて。
「さて、じゃあやりましょう」
宙に浮かぶ霊夢と魔理沙を見て思う。
なんてここは自由なんだ。当然のように人が私たちと同じ場所に立ち、私たちと肩を並べる。
「えぇ。フラン、行くわよ」
「うん。お姉さま」
きっとこれから私たちの運命は目の前の人間達と複雑に絡み合って行くに違いない。それが楽しみでならない。誰がこんな楽しいことを一人で先読みしてやるものか。
「私達のスペルカードよ! 存分に楽しみなさいっ!」
こんなにも未来が楽しみなのは初めてだ。私達の運命を決めるのは私達だけではない。それが嬉しくてしょうがない。
未来を思い、告げる最初のスペルカード
『「紅色の幻想郷」』