そよ風と荒風の間に   作:かえー

18 / 28
平和の世界への一ページ


4-5-ex 絶望から見える希望

波が荒れてくる海域。第三水雷戦隊はその中、戦っていた。水雷戦隊の一人、夕立は敵主力艦隊、装甲空母鬼と対峙していた。「倒すっぽい…!」夕立は闘志をむき出しに、声を荒げ叫ぶ。それに応えるかのように鬼は砲撃を仕掛けてくる。夕立の心は燃え盛っていた。深海棲艦を倒す。平和を取り戻すと。砲弾をよけきると夕立もお返しに砲撃する。鬼は動きが遅く、夕立の放った弾丸は鬼の装甲を破っていく。鬼があまりの痛みに枯れた声で悲鳴を上げる。被弾箇所からは煙が上がり、黒い破片が海面に浮かぶ。煙がはれ、鬼の姿はさっきまでとは変わり果てていた。服はすべて欠落し、辛うじて、一つに纏めてあるポニーテールが彼女の体を覆っていた。武装も白い腕が消えていた。ユニットが破壊されたことによって、彼女は自分の足で海面に立っていた。「クソ…オボエテオケ!」鬼は沈んでいくが、それを追うように夕立もエンジンを切り潜ろうとする。

その時、夕立を横からの衝撃が襲った。いきなりの攻撃に夕立は吹き飛ばされ、また、エンジンに火がついてしまう。が、突き飛ばしたのは深海棲艦ではなかった。「夕立落ち着くんだ。これ以上やる必要はないんだ。」その言葉は夕立には届かず、夕立は砲撃体制に入ろうとした。が、時雨は夕立の腕と足を締め上げ、完全に夕立の動きを封じた。「僕たちは無事に帰ることが任務なんだ。」そのままで時雨は夕立を曳航した。

 

しばらくして、時雨たちは戦闘海域を離脱し長い道のりを帰投していた。夕立も落ち着き、今は目が緑色になっている。「どうも、改修を受けてから調子が変っぽい…」夕立の興奮癖は夕立本人も自覚済みであった。「僕はそうでもないんだけど…」時雨も以前と比べれば紙が少しはねやすくなった。「まぁ、帰って落ち着いたら話そう。」「そうね…敵がいるっぽい」二人は戦闘態勢を整える。目の前の海が盛り上がり、中から黒い塊、深海棲艦が出てきたが相手を見た途端二人は驚愕する。二人に向かって、深海棲艦は口を開く。「私は…貴方たちの名前で言うなら駆逐棲姫…貴方たち駆逐艦の姫です。」姫は先ほどの鬼と同じユニットに乗ってはいたが、白露型の制服に、ツインテール、足についた魚雷発射管も艦娘達が使っている物と類似している。ツインテールにはある駆逐艦と似ているリボンがついていて、帽子も被っていた。「春雨…」二人は言葉を失う。「あなたたちと話がしたい。攻撃はしません、来てください。」「断ったらどうするつもりかしら?」

姫が手を挙げると、小さな帽子をかぶった赤子のような深海棲艦がたくさん浮上してくる。帽子の目は青く光っており、不気味だ。「力づくでも話を聞いてもらいます。」微かに姫は笑った。

 

;;;;;;→カレー洋リランカ島沖

「ここです。ここなら、多分誰にも見つからない…」三人がたどり着いた場所はカレー洋にあるとある島だった。「ちょっと場所を借ります。」「クルナトイッテルノニ…」その島に居座っていたのは巨大な深海棲艦だった。身長は人工棲姫波並みにあり、全体的に白が基調となっている体は光が反射している。白いトレーナーを着て困った顔をしている。艤装は島の半分を占めており、まるで島そのものが深海棲艦に見えた。時雨と夕立は驚きのあまり顔が固まった。「二人とも、上がってきてください。」手を引っ張り、二人を引き上げる。「君は何を話すんだい?」「深海棲艦の秘密です…貴方達なら信じることができます。」二人が息をのむ。「もし、私が艦娘達に密告するかもしれないけれど…それでもいいの?」「いいです。私たちの気持ちが伝えれるならいいんです。」二人の目を見て姫が口を開く。

 

;;;;;;→キス島付近

輸送船は春雨を捕らえ、戦闘海域から離脱していく。「離してください!」暴れるが網から脱出できそうにない。「貴方たちは…こんなことをして何が何になるんですか!」「ナラ、オマエハタタカウコトニイミガアルノカ?」言葉が出ない。司令を出されて、自分はでも…急に姉妹と引き離された心は悲鳴をあげて軋んで壊れてしまいそうだ。春雨は抵抗をやめる。「今から…何をするんですか…?」「オマエヲタノマレタモノノモトヘ」輸送船は深海へと潜る。春雨も深海へ行くが呼吸は苦しくならなかった。普通の地上で息をするように、水の中でも息ができた。砂ぼこりに包まれて、先は見えない。三隻は埃の中に入っていく。

 

 

??????→○○○基地

ベッドの上で春雨の目が覚める。まわりは灰色の壁で囲まれた部屋。微妙に…潮のにおいがする。立ち上がるが疲れだろうか、力が入らない。なんとかしてベッドの上に座る。それと同時にドア開く。背が高い白い女性が立っていた。ベッドの近くにあったベンチに彼女は腰掛ける。「アナタハココニキテショック?」春雨は何が起きているのかわからなかった。

「マァ、ソウデショウ。ココハアナタタチガシンカイセイカントヨンデイルモノノキチ。ワタシハ…泊地棲姫。シンカイセイカンデ、ハジメテコトバヲシッタモノ。」姫は目を瞑り落ち着いて話す。春雨は怖くて逃げ出したかった。「ごめんなさい、本当なら私がみんなの前で謝ればいいのだけれど…貴女を鹵獲したのは理由がある。」「なんで…ですか?」やっとの思いで声が出た春雨。だが、まだ怖い。「アナタニシンカイセイカンヲタスケテモライタカッタ。アナタニニンゲントワタシタチノミチヲツクッテホシカッタ。ゴメンナサイ…」姫は目から涙を落とす。感情があることに驚きを覚えた春雨。「私達深海棲艦は…元は落ちた船の怨念の塊でした。ある日、深海での生活では私達は耐え切れなくなり新たな海域を探した。けれど、人間は泳いでいるだけで砲撃してきた。私達は何もしていないのに、撃ってきた。そこから私達と貴女達の戦いは始まってしまった。」「けれど、昔一度海域は私達が奪還したって…」

「もう一度、私達の反抗組が立ち上がり、奪還して行きました。少数派の私達は待機、追放され生きていました。彼女たちは改装を繰り返しelite、flagshipと言った改造艦を作るようになりました…その者たちは艦娘を沈め、怨念、恨み、執念を落ちた艦娘に集結させ、どんどん改造して行きました…状態が良い者は姫や鬼クラスに…」

「姫様は…私に…何を」「春雨さんに私達の思いを人間に伝えて欲しい…」「…」「貴女はまだ死んでいない…純粋な艦娘です。貴女は私達の言葉もわかります…私達深海棲艦は平和を望みたい。」ドクン…春雨の心臓が疼く。これは深海棲艦の罠かもしれない。生きたままの艦娘を改造し、艦娘を倒すために洗脳されてしまうのかもしれない。けれど、無視することは春雨には信じられなかった。今まで敵だったとしても、信じようと思った。もしも、意識がなくても道を作る。洗脳されても…作ると春雨は決心した。

「私が…私が深海棲艦になります。みんなを助けます。」春雨の目は迷いがなく、しっかり姫を目据えていた。「分かりました、なら、貴女には深海の艤装装甲と水雷戦隊の旗艦を持ってください。あと…」姫が指笛を鳴らす。すると扉の奥から小さい赤ちゃんみたいなものが走ってきた。「この子達はptです。貴女と装甲がリンクしています。貴女の手足として使ってください。」PTたちは飛び跳ねて楽しそうに笑っている。

「今日から貴女は…駆逐棲姫よ…」

泊地棲姫の声を聞き、はいと言い返した。

 

;;;;;;→カレー洋リランカ島沖

「戦いは私たちが始めたわけではないんです。」今まで、話を聞き白露型の二人は絶句する。そして思う。いったい何のために戦っているのか。深海棲艦は場所が欲しかった。けれど、人間が何もしていないのに攻撃した。「二人はこの話を聞いてどう思ったか知りませんが…私からお願いがあります。反抗部隊を…止めてください。お願いします。」敵とは思えない言葉、二人は黙って頷く。あの日の春雨のように。

「分かった、善処はする。君の言葉を伝えるよ。僕からも頼みがある。」時雨は春雨の手を取りこう言った。「この戦いが終わったら…共に生きよう…」「…分かりました」お互い難しいのは分かっている。絶望を一度見た二人には希望を信じることができた。自分の住処を奪われ、仲間も消えて行った時雨。理由があるが、いきなり味方が敵になった春雨。二人の意見は敵味方関係なくあったのである。「…」夕立が二人を眺め失望していた。「私は…なぜ戦っていたんだろう…」

 

春雨と別れ、鎮守府へと帰還する二人。「よかったよ、春雨が生きていて…夕立?」先程の戦闘の威勢は夕立には見受けられない。顔は真っ青で航行も不安定だ。時雨が心配して肩を貸す。「夕立には…まだ早かったのかな。」時雨は鎮守府を目指す。(皆は…どう思うのかな、深海棲艦と……と言えば)皆に否定され、また場所を失うかもしれない。攻撃を続け、春雨は本当に死んでしまうかもしれない。けれど、時雨は決めた。「僕は…」建物が見えてきた。建物に向かって時雨は急加速して帰った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。