1-1 初陣
島風は講堂についた。そこには島風の他に駆逐艦が数十隻集まっていた。皆、何が起こるか、なぜ呼び出されたかとても楽しみではしゃいでいた。島風を除き。
少しして、提督が歩いて講堂に到着した。右手にはバインダー、左手に拡声器、慌てて着たのであろう白い制服のボタンは一つずつずれていて、額には汗をかいていた。艦娘の前に立ち、拡声器を使い話し始めた。
「今から鎮守府近海に投入する艦娘を発表する!」
いきなりの発表に艦娘達がざわめく。今この鎮守府には駆逐艦以外の艦娘は存在しない。戦果を挙げれば有名になる。そして、転属という話も十分あり得るのだ。ただの転属ではなく、連合艦隊や決戦艦隊が組まれる四つの鎮守府に召集されることもある。特に皆狙っているのが旗艦。旗艦は艦隊を指揮するリーダーのような存在であり、任せられる艦娘はそれほど信頼が高い。つまり、その鎮守府のエースと言っても過言ではないだろう。
「旗艦は…暁!その随伴艦に白雪、長月、漣、文月、そして、島風が付け!あとは、鎮守府周辺の巡視に回れ!以上!」
提督が拡声器を切り提督室に入っていった。
「やったじゃないか、暁。今までの練習の成果を発揮するんだ。」
「ま、まぁ…レディーなら旗、旗艦ぐらいこなせるわ!響任せなさい!」
暁は旗艦に選ばれたことがとても嬉しそうだ。暁は真っ赤な顔で笑みを浮かべている。対して響は、ハグをして落ち着かせているつもりだが、ハグにより暁はまた照れてその場から動けなくなった。
いよいよ、出撃である。岸壁の前には海が広がり、岸壁には六人の駆逐艦艦娘がならんでいる。だが、さっきと違うのは六人の艦娘が何か背負っているのである。艤装である。これが艦娘の命綱となる。破壊されれば、轟沈してしまう。人間の制海権を取り戻すため彼女達は戦いに行くのだ。
「抜錨!」
暁の声に合わせて、5人が艤装から錨を切り落とす。錨を外すことで、海の上を自由に走行できる。島風も後に続いた。六人の艦娘が単縦陣で、海の上を進んで行く。
しばらくして、艦娘達は動きを止め周囲を見始めた。
「深海棲艦ってどうやって出てくるのかしら…?」
「おそらく、海中からいきなり飛び出してくるんだろう。演習でもそうだっただろう?」
暁の疑問に長月が答える。呑気だなぁ…島風はそう思った。だが、ここでは平地がいきなり戦場に変わる。
「敵艦見ゆ!駆逐イ級一隻です!!」
白雪が敵を発見した。黒い魚のような巨大な塊、駆逐イ級。イ級は雄叫びを上げながら迫ってくる。
「単縦陣!突撃するんだから!」
暁の声に合わせ単縦陣で突っ込んで行く。イ級が口を開き中から3inch単装砲を覗かせる。暁はこれに気づかず、「砲撃体制用意!」と命じた。それぞれ砲塔をイ級にむけ体制を整えるが、島風は回避運動に入っていた。すかさず暁が怒る。
「島風!砲撃の準備をして!深海棲艦を倒…」
暁が話している途中島風はイ級を指差した。それを見て改めて暁はイ級の方を見た。イ級は今にも砲撃できる状態、すなわち、砲撃体制が整っていた。艦隊はスピードを下げることができず当たりに行く状態になってしまった。艦娘も急には止まれない。イ級の砲撃が始まる。砲弾は暁をかわしていき白雪に直撃する。
「きゃあっ!」白雪はたじろいだ。白雪を避け、白雪の横に止まる形でやっと止まることができ、白雪の状態を皆で確認する。白雪は中破しており、服はボロボロ、顔と腕には黒いすす、艤装から黒い煙が出ていた。
「皆さん…私はまだいけます…!!だから、戦闘を続行してください…!」
「でも……!分かったわ」
暁は少し悩み、戦闘に戻った。
しかし、イ級がいきなり逃走を始めるかのように後退し始めたのである。すかさず暁が無線を送る。
「司令官、イ級がいきなり後退し始めたわ。被害状況は白雪の中破。進軍か撤退の指示を。」
緊迫する中、提督からの答えは進軍だった。イ級を追って艦隊は最深部に向かって行く。白雪以外は気づかなかった。艦隊の変化に。
最新部に近づくにつれ、雲行きが怪しくなって来た。漣が白雪を庇い航行する状態、他の艦娘は普通に航行していた。
「敵艦見ゆ!暁、砲撃準備だ!」
「えっ!どこぉ〜!!」
長月が言うが皆が見る先には何もない。しかし、その声に驚き文月は砲撃をしてしまった。水柱が上がる。
「文月!それはレディーがする砲撃じゃないわよ!」
「ごめんなさい〜!!」
しかし、水柱が上がった後には黒煙が上がっていた。それに合わせるかのように水中から黒い塊が浮上して来た。
「軽巡ホ級一隻!、駆逐イ級二隻です!そのうち、駆逐イ級片方が大破です!!」
文月が報告する。「まず、大破してるのを狙うわよ!ついて来て!」
旋回し、敵艦隊の側面に並ぶ。
「砲撃始め!」
放たれた砲弾はイ級に直撃し、イ級は力をなくしたか、海に沈んで行く。でも、喜んでいる暇はない。次の砲撃がある。これに対し軽巡も砲撃を始める。
「回避!扇形に散って!」
之字運動を始め回避する。漣は黒煙を出し、白雪を隠しながら海域から退避、三人で二隻を狙いに行った。
「当たれ!」
長月の弾がイ級に直撃。そのまま、撃沈した。その直後、ホ級がついに牙を向いた。長月に砲撃、それが当たり、長月は中破に、さらに雷撃を行い文月が大破、絶体絶命だった。暁は魚雷を全て放った。急な雷撃に暁自身もも吹っ飛んでしまった。魚雷はホ級に命中。黒煙を吐いて沈んで行った。「司令官、戦闘が終わったのです…」
暁はもう何を言えばいいかわからなくなり放心していた。
作戦終了…と思われた。島風がいないのだ。
「島風さんは…」
白雪が話している。
「島風さんは…別の方向に航行していきました…私も止めたけど無視して…」
艦隊から驚きの声が上がる。早く助けなきゃ!鎮守府に打電を打つ。
「我、島風ト別レタリ。捜索ヲ開始スル。」
「島風は帰って来ている。お前たちも帰投しろ。」
なんで…?謎に思いながら暁たちは鎮守府に帰投した。
それから、艦娘達は講堂に集められ、作戦成功の報告が行われた。暁たちは前で作戦の内容を説明した。提督からも説明があったが、島風の途中離脱(?)の件は話されなかった。暁たちは集会の後提督室に向かい、なぜ処罰が無かったのか抗議しに行った。
「なんで島風は何もなく普通に立っていたんですか!私たちは命がけだったんですよ!」漣が発言する。
「暁の言うことを全く聞かなかったのよ!やる気が無かったんじゃ…」
「いや、何か理由があったんだろう…ほっといてやろう。」
暁の言葉を長月が話し、遮る。やがて、提督も口を開く。
「今回は許してやってくれ、作戦も成功したし…また招集があるかもしれないから今日はゆっくり休んでくれ。」
でも…!暁が何か言おうとすると、文月が泣き目でこちらを見て来た。もうやめようとでも言う目で。その目を見て暁はもう責める気も無くなってしまった。皆それぞれ自室に戻って行った。
島風はその中にはいなかった。鎮守府の屋根の上にいた。夜風が肌を撫でて行く。…何があったか正直わからない。覚えていないのではない。自分がわかろうとしてないだけだと思う。島風は自室に帰った。明日は何かあると信じて。