そよ風と荒風の間に   作:かえー

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5-5 決戦

@@@@@@→鎮守府近海

 

「提督、さっき言った通り私が旗艦で南方海域を叩きます。」

 

島風が無線を送る。ブイン提督は頷き書類にサインをした。

 

「島風…恐らくこの戦いが…最後になる。お前は探し物、見つけることできたか?」

 

 

島風の胸が痛む。。

 

自分の探し物はあったのか。もしかしたら見つけていたのかもしれない。けれど、気づいていなかったのかもしれない。

でも何故かこの戦いで見つかる気がした。

 

「いや、まだ見つかってないけど。今は目の前のことに専念するしかないよ。」

 

いつも通り、慌てもせず島風は提督に答える。

 

 

「私たちは兵器でしょ?提督はそんなこと心配しなくてもいいから。出来ることをやって出来なければ仕方がないのさ。諦めることも大切…私が今やってることは無茶だから…節目を探して諦めることも大事なんだよ…多分。」

 

 

「でもさーあんな気持ち悪いことよく言えるよね…」

 

蒼龍が島風を見る。蒼龍の顔は今にも何か吐きそうなほど顔色が悪かった。

 

 

「甘いなー蒼龍先輩…そういう時は爆撃してやればいいんですよ。」

 

「えぇ!?提督は死なないの!?」

 

「冗談ですよ!こういう時は大淀さんに言っといたらなんとかなりますよ。」

 

 

皆蒼龍の反応にくすくす笑う。

 

 

「そういえばさ、蒼龍さんはどうして大和さんの下についたっぽい?」

 

「えっとね…普通に大和さんから誘われたんだよ…私たち二航戦が空母隊から外されてて…訓練している時に大和さんから誘いに来た。今の海軍を倒さないかって。最初は断っていたんだけど、何度も来られるたびに考えてみてだんだん私たちの使い方が適当な海軍に怒りがわいてきた。そして参加した…」

 

「なら、どうして抜けたの?戦力は私たちと同じかもしれないのにー?」

 

 

次に質問したのはプリンツ。彼女はドイツでは艦隊を組んだことがなく、まだ日本の状況もつかめていないようだった。

 

 

「まぁ、この前の第一次サーモン海戦…あそこで大和さんから少し引いたな。いくら敵でも無慈悲に艦娘を倒すのは私たちにはできなかった。特に…大和さんが加賀先輩、いや、トラック島輸送作戦も全て大和が仕組んだ罠だったの…そこに私たちは手伝った。私たちにも責任があるし…償えないと思うけど…できることを見つけた結果だよ…」

 

 

「今回は初瀬と南方棲姫を倒すのが目的。昔のことはあまり気にしなくていいよ。蒼龍。」

 

 

蒼龍は泣きかけたが、その涙を呑みこみ、航行へと集中した。

 

 

やがて島風たち新連合艦隊は南方海域サーモン海へ到着した。サーモン海には新連合艦隊と、南方棲姫率いる主力艦隊、

 

そして、大和…初瀬の率いる旧連合艦隊が睨み合っていた。

 

初瀬達は距離が遠く、どの艦隊の有効射程に入ってなかった。

 

 

「サテ…シズメヨ…オマエタチハ…ソノウンメイナンダヨ…」

 

 

南方棲姫が姿を現すが、この前とは姿が変わっており、艤装もでかくなっている。そして、表情もにやけ顔ではなく、険

 

しい顔になり連合艦隊をにらんでいる。

 

 

「もし…私たちが和睦したいと言ったら…?」

 

「オマエラジンルイナンカト…ワボクナンテ…シナイ!!」

 

 

南方棲姫は砲撃を開始する。島風たちは回避とともに砲撃体制に入った。

 

 

:::::::

 

「行きます!第二水雷戦隊!突撃!!」

 

 

夕立だけが前衛に立ち、後衛の五人が魚雷を放つ。魚雷は駆逐級どころか、重巡、戦艦にも直撃し、水面に沈めていく。

 

 

続々と沈めていく中一隻だけ残った深海棲艦がいた。片目が青く光る空母ヲ級だった。彼女は丸井小悪魔のような艦載機

 

を発艦する。水雷戦隊は回避するが、夕立に艦載機が迫る。

 

「夕立さん!」

 

神通が艦載機に砲撃する。が、距離が届かず砲弾はそのまま水面へ。

 

「ヲ級クラスを撃沈します!魚雷発射用意!!」

 

魚雷が発射され、ヲ級は沈んでいった。が、艦載機は動き続ける。

 

「ヲ級クラスがもう一隻!さっきと同じ種類だ!」

 

先ほど沈めた片目が青いヲ級と同じものがもう一隻いた。

 

「自発装填…!」

 

が、間に合わない。自発装填ができていたのは神通だけでそれだけじゃ、沈めることは難しかった。

 

そして…艦載機から魚雷が投下された。魚雷は退避する夕立に向かって降下する。

 

海上の上爆発した爆弾は断片と煙を吹き出し夕立を包み込んだ。

 

 

 

 

島風たち主力艦隊は南方棲姫と戦闘していた。姫は自分の艦隊を水雷戦隊撃沈に回し、一人で主力艦隊と戦っていた。巨大な主砲を持ちながら、艦載機を発艦して主力艦隊を近づけない。主力艦隊は姫に対しかなり手こずっていた。

 

 

「フラグシップ!魚雷を発射するわ!!」

 

ビスマルクが魚雷を発射すると200m先ですぐ爆破した。

 

 

その爆心地には、島風たちが見たことのある物がいた。

 

 

「…レ級…!!」

 

「いくぞ!」

 

 

武蔵が砲撃するが、軽やかに避け砲撃する。その砲撃は武蔵にではなく島風に砲撃する。島風は回避するが、南方棲姫の

 

砲撃で挟叉されてしまった。

 

「島風!!」

 

「来るな!武蔵たちは姫を狙って砲撃!空母たちは第二次攻撃を…はっ…」

 

 

島風が殴られる。レ級は尻尾を器用に使い島風を海面に叩きつけた。そして、あの時と同じ尻尾の口を開け…砲撃準備を

 

整える。島風は立ち上がれなかった。浮力を保つのに精一杯で魚雷を装填できなかった。

 

 

「フラグシップ!」

 

「だめよ!このままだと島風も巻き込まれて轟沈しちゃうわ!」

 

 

ビスマルクの魚雷発射を瑞鶴が制止する。

 

「なら…どうすればいいのよ!!」

 

 

姫の砲撃で二人は回避するが、どちらもそれより島風を助ける思いの方がいっぱいだった。

 

 

 

「…死ネ」

 

 

その時、レ級が傾いた。そしてそれはレ級の隙ができたということを表す。島風は魚雷を装填し、レ級へと目標を絞った。島風が見たのは、武蔵に羽交い絞めにされているレ級だった。レ級の顔からは笑顔が消えており鬼神のようにとても起こっているように見えた。武蔵は艤装が壊れながらもレ級を引き止める。

 

 

「撃て島風!!」

 

「でも…武蔵が沈んでしまう!」

 

「かまわず撃て!ここでレ級を沈めるか…私を守りレ級を逃がすか…どちらか大事か考えろ!!」

 

 

島風は覚悟を決め魚雷を放つ。島風から発射された五本の魚雷はレ級にすべて直撃した。追い打ちに武蔵はレ級に46cm砲で砲撃した。至近距離の砲撃でレ級と武蔵の体は吹き飛びレ級は沈んでいった。島風は武蔵のもとに寄り添う。

 

「武蔵…すぐ助ける。ちょっとそこの島で…」

 

 

武蔵は島風の手を払いのける。

 

 

「私の体はもう持たない。今できることは…お前の体を私の艤装で修理することしかできない…」

 

 

武蔵は島風を掴みあげる。島風は抵抗するが、戦艦の力に負けそのまま近くの島まで曳航された。武蔵は上陸すると艤装

 

を取り始めた。途端、武蔵が苦しみ始める。艤装を外したことにより普通の女性に戻り艤装によって軽減されていた砲撃のダメージが武蔵を襲っていた。

 

「もうやめて!一緒に鎮守府に…!」

 

 

島風の制止を無視し、痛みに耐えながら武蔵は作業を続ける。作業がが進むたび武蔵の息は短くなっていく。この状態に島風は止めることができなかった。島の外では南方棲姫と連合艦隊が戦っていた。まだ、どちらもにらみ合いが続いていて戦いが終わりそうでもなかった。作業が終わり、島風の艤装は新品同様ピカピカになった。が、それと引き換えに武蔵は服だけを着ている普通の人間に戻

 

ってしまった。武蔵はその場に倒れる。島風が膝に武蔵を乗せる。武蔵は最後の力を使い笑う。

 

 

「大和を…紀伊を…頼んだぞ…お前は…もう一人じゃない…」

 

 

武蔵はこう言うと、目を閉じ眠った。寝息を立てず、永遠の眠りについた。

 

 

 

魚雷が爆発し、煙がはれた。そこには誰の姿もなく、ただ波が荒れていた。神通たちは夕立を諦め、怒りを押し殺しヲ級を探す。

 

「ここにいるっぽい!!」

 

突如沈んだはずの夕立の声。聞こえた方向を向くと、そこには近距離から砲撃を繰り返す夕立の姿があった。

 

 

「早く沈めるっぽい!こいつ自発装填しているっぽい!」

 

「魚雷発射用意!」

 

それを聞いて神通達は魚雷を発射する。直撃したが、ヲ級は轟沈せずそのまま航行を続ける。神通が自発装填するタイミングを見てヲ級は口を開き艦載機を発艦した。が、狙った場所には神通たちはいなかった。

 

 

「残念でしたね…自発装填済みでした♪」

 

背後からヲ級を狙い魚雷が発射される。起爆した魚雷はヲ級の浮力を奪い、海の底へと沈めていった。

 

そして、夕立の被弾位置には菊月が浮いていた。菊月は誰にも気づかれることなく、ただその場に浮いていた。

 

 

;;;;;;

 

島風が戦線復帰したが、状況はあまり変わらず、南方棲姫は傷つかなかった。するといきなり南方棲姫が砲撃をやめた。

 

それと同時に大和と朝日が戦場へ現れる。

 

「ここまでよく頑張りましたね…皆さん。」

 

「何故…ここまで戦わせたんですか…そのおかげで何人沈んでいったか…あなたにはわか…」

 

「私たちは兵器です。敵を倒すことが役目。その任務を全うすればいいんです。」

 

「でも…本当に私たちは兵器でしかなかったのかな。私はそうとは思えない。」

 

「私たちは名前を付けられた兵器と訂正しましょう。私たちは人間じゃないんです。そして、私たちの任務はここで終わります。何故なら…貴方たちを…お前たちを倒すことで私の欲は…恨みは晴らされる!!私を見捨てたお前たちを私は絶対許さない!!私はもうやられはしない!!」

 

 

大和の砲撃と共に南方棲姫も動き出す。艦隊は回避のため離れる。二隻の戦艦相手になかなか攻撃の準備ができなくなっ

 

ていた。

 

「背後から回れば…」

 

 

神通が南方棲姫の後ろに回ろうとした。が、すでに後ろには初瀬が立ちはだかっていた。

 

「知ってたよ。行方不明になったけれど謎の帰還を果たした理由。神通、あなたは深海棲艦になって生き返った。何者の

 

力を使ったかは知らないけどね。だから深海棲艦の機関音や、行動パターンが分かっている。そして、今回の作戦も南方棲姫を撃沈するうえで攻撃を開始した。けれど私の動きまでは読めなかった。私は深海棲艦の弱点を知ったうえで勝負を仕掛けているんだ。甘いね。」

 

神通の首を締め上げる初瀬。神通は初瀬を蹴っているが、大和の力は全く緩まず損傷もしていなかった。

 

「ふふ…どう?自分が深海棲艦だとばれるのがとても怖かったでしょう?お前には元から深海棲艦を助ける気持ちなんてない。慈悲か、周りに流されてだ。艦娘…いやもどきか。なら、ゆっくりなぶって沈めてやるよ。」

 

初瀬はさらに力を強くする。神通は目まいがしてきた。目の前がぼやけ、周りの状況もわからなくなってきた。その時、少し大和の力が緩んだ。その傍らでは南方棲姫が被弾していた。神通は初瀬を蹴り逃げた。初瀬は南方姫の後ろを再び警戒し始めた。

 

 

神通が戻ってくるタイミング、南方棲姫の被弾。この二つから島風はこの作戦を完遂できないか考える。もしかすると相手にはまだ増援が残っているかもしれない。かとして、どうして二隻は傷つかないのかもわからない。いままでの行動を思い返す。

 

 

前回は被弾しても表情が変わらず、笑みが出ていた。艤装を四割失っても立っていた。その時、大和の様子は分からない。

 

その一方、大和は小破もしていないけれど機関が停止した時があった。機関が停止するのは炎上でもしないとならない。

 

が、大和は動けずそのまま止まった。その状態で機関が止まるのは自分で止める他ない。つまり機関を止めるほどの余裕があった。損傷していないと予想できる。

 

つまり、大和、南方姫が被弾しても損傷は少ないと予想できる。

 

改めて今回、起こったことは南方棲姫が被弾した時大和…初瀬の力が弱まった。すべてを整理してみる。

 

 

そして島風に一つの…この任務の全てを完遂する一つの答えが出た。

 

 

「皆、私は、みんなに旗艦命令として命令する…予想するに南方棲姫と初瀬は艤装の状態がなんらかで繋がっている。その仕組みは…南方棲姫を攻撃すると初瀬にダメージが入る…すなわち、攻撃していない方にダメージが入る仕組みだ…明石にも解析を急いでもらっているけど…私はこの過程で初瀬を攻撃して、南方棲姫を攻撃したいと思う。」

 

無線で島風がみんなに伝える。

 

「でも…それは確証はないんですよね…もしかしたら初瀬さんも沈んでしまうかもしれないですよね…」

 

 

神通が聞く。神通は初瀬を沈めたくない。深海棲艦だろうと助けたい気持ちは変わりなかった。艦娘でなくても、再び生きる希望があればそれを歩める手伝いをしたい。正しく生きれるならそうしていと思った。

 

 

「分からない…でも…止めるにはこうするしかしかないと思うんだ…ついてくるものは続いて。」

 

 

「私たちが援護します!」

 

どこからか声、そして砲撃音。砲撃は大和の周辺に降り注いだ。

 

 

「支援艦隊旗艦紀伊只今到着いたしました。その作戦内容、私たちは遂行します!」

 

紀伊達支援艦隊は攻撃を始める。艦載機が迫る。

 

「大和さんが救える可能性が少しでもあるなら…私もやります!」

 

蒼龍の艦載機により姫の艦載機は壊滅、なくなった。

 

 

「主力艦隊砲撃…」

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

紀伊の目の前に艦娘が一人。その艦娘は艤装にクレーンを携えていた。

 

 

「あなたは…まさか…明石さん!?」

 

 

「待って待って…誰それ…。私さ、朝日っていう名前があるしー私の旗艦を邪魔するやつはそいつらを邪魔するぞー!」

 

 

ワー!と体を大きく見せる朝日。紀伊達は呆然としてしまう。

 

「あ、あの…ちょっとそこどいてもらってもいいですか…」

 

 

紀伊が砲撃しようとした瞬間紀伊の顔に主砲が付きつけられる。

 

 

「だから、邪魔するって言ったじゃん?」

 

 

気だるそうな顔で朝日は言う。

 

「もし、一度でも砲撃したら私も砲撃するよ?」

 

その顔に合わない言葉だが、その効果もあってか誰も砲撃できない。そんな中、さらに北の方向から激しい波と共に巨大な船が迫っていた。

 

「あのさー…あの船沈めるから少し耳塞いで動かないでね?」

 

朝日が主砲が構える。が、その正体がわかると朝日の顔があざめる。それもそのはず。その船はあの横須賀にあるはずの…

 

戦艦三笠なのだから。

 

 

「よーそろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!朝日ぃぃぃぃぃ!久しぶりだな!!ちょっとこっちまできてくれ!」

 

三笠の言葉に圧倒される。朝日からは正直妹にあたる三笠だが艦上にいたもう一人の艦娘に圧倒されてしまい。諦めて自首した。

 

 

攻撃が艦娘全員に承認され、砲は初瀬に向けられる。初瀬は砲撃を繰り返すが初瀬の砲撃は見切られていた。そして初瀬への攻撃が始まる。初瀬は痛がるが全く艤装が傷ついていない。その分、南方棲姫が苦しむ。その顔は今まで見せたことのなかった、苦痛の表情。その表情は初瀬と全くと言っていいほど似ていた。

 

「発射!敵を撃ち払います!!」

 

 

南方棲姫に砲撃される。その砲撃は初瀬への攻撃と同時に行われた。

 

南方棲姫は胸を撃ち抜かれあの時と同じように…沈んだ。

 

南方棲姫が沈んだということは初瀬にもダメージが入っている。が初瀬に変化が起きていた。初瀬の周りには黒い粒が集まりつつあった。あの時の加賀と同じように浸食されつつあった。

 

 

「初瀬!だめだ!!また自分の破滅の道をたどってしまう!!私たちがいるから…私たちと一緒に行こう!!」

 

 

島風が手を差し出す。初瀬はうずくまり顔を伏せていた。初瀬の体が黒く包まれていく。

 

「私はまた一人だ…マタ…ヒトリデ…ヨミガエル…」

 

 

島風は抱きしめた。黒く染まりつつある初瀬を抱きしめる。黒い粒は島風をも浸食していく。

 

「ナゼ…ソンナコトヲ…」

 

「そりゃ…ねぇ?あか…敷島。」

 

「やっと…捕まえた…」

 

初瀬は前を向くと木のボートに乗った敷島の姿。初瀬の手をしっかりとつないでいた。

 

「ワタシハ…ミンナヲシズメナキャダメダッ!!」

 

「初瀬!!!!!!」

 

島風、敷島、三笠、神通達や鎮守府で待機している艦娘…全ての艦娘が初瀬を呼んでいた。初瀬は我に返る。そして、自分の状況を理解すると顔を少し上げた。

 

初瀬が弱弱しく手を握り返す。

 

 

「でも…私は…もともとの仲間を…捨て駒に使ってしまった…それじゃ…あの人間たちと同じ…私は悪い…」

 

「そのことに気付いたあなたはあの人たちと違うの。だから…私たちは…許す。沈めてしまった仲間に十分謝って…罪を自覚して生きてくれたら…許してくれる…と、と思う…」

 

「でも…すでに沈んだ人…私は…」

 

「その人の分まで生きなさい…今のあなたにはそれしかできないわ?」

 

「ごめんなさい…ごめん……分かった…」

 

 

初瀬は頷くと三笠がおろしていたウインチにつかまった。かなり不安定だが、三笠の船上に回収された。初瀬はうっすらと笑い眠っていた。

 

 

帰り道、深海棲艦は現れることなく、これ以上の損傷をせず舞鶴鎮守府に帰投した。南方海域を制圧したことにより世界中から深海棲艦の気配が消えた。世界の漁業や輸入輸出は警報から注意報に下げられ、徐々に海上には輸送船の姿が見え始めた。

 

 

 

 

海軍では沈んだ艦娘達の調査が始まり、潜水艦娘は毎日のように出撃が続いた。

 

 

「あぁ~!!なんでこんなことになるでち!!戦いが終わったら次は救出って…ゴーヤたちはなんなんでちか!!」

 

「潜水艦だからこうなるのね…仕方ないのね…」

 

「イクが無休暇に対して抵抗がなくなってるでち…他の子…」

 

「別に海に入れなくなるよりはいいんじゃない…?」

 

「ダンケェ…」

 

「イムヤはともかくハチに関しては会話じゃなくなっているでち!!のこるは…」

 

「戦闘じゃない分疲労がたまらないけど…出撃よりテレビ見たいよねー」

 

「お前は仕事するでち!!しおい!!」

 

 

明石こと敷島が保健室を留守にしている間に、矢矧の意識は完全に戻った。しかし、体は長い間動かしていなかったためなまっており、まだリハビリを続けていて戦闘復帰には程遠かった。島風たちの戦闘中、矢矧は夢を見る。

 

 

「貴方が矢矧さん…ね。島風がお世話になっているわ…」

 

頬を撫でられる感触。その相手は矢矧が見たことのない相手だった。それは、相手が話しかけてきたのである。銀髪をツインテールにまとめ、茶色の制服を着用、肩から鞄のようなものをぶら下げている少女。

 

 

「貴方は…行方不明だったはずの…」

 

「天津風よ。島風が矢矧にお世話になっているって聞いたから来てみたわ。とてもまじめな人で安心した。さすが、能代さんの姉妹ですね…!」

 

「そ、それは、ありがたいけど…島風にも挨拶してきたら?あなたのこと知ってるんでしょ?」

 

「あの子今、出撃中だし…残っているあなたに声掛けに来ました。聞こえてるかは知らないけど…私も家族というものにならせてください…」

 

「えっ!?」

 

 

矢矧は起き上がったが、そこには誰の姿もなかったという。

 

 

 

 

艦隊が帰投し、皆それぞれの仕事に戻った。艦娘たちは元の配属先へ戻っていき、舞鶴鎮守府は以前のように静かになる。

 

 

三笠は初瀬と敷島を舞鶴に降ろし、横須賀に帰る。敷島はそのまま明石として、修理担当を引き継いだ。朝日はその助手として敷島に可愛がられている。

 

その中でも初瀬は、大和の装具を外され、敷島型で唯一艦娘として生き返った。だが、性格は以前の初瀬ではなく、タメ語を使い、敷島より島風に甘える回数が増えたという。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

島風は自室に戻った。人が少なくなり、ざわつきがなくなったので久しぶりに部屋に入っていた。実際、深海棲艦とは和解ができていない。が、今回の首謀者が初瀬で、その初瀬を制圧することができて、和解への一歩を踏み出せた気がし、自信があった。が、謎のことはまだたくさんある、紙切れ、深海棲艦を操っている組織、初瀬を深海棲艦にする改造方法、これらが分かる日が来るのは相当先になりそうだ。でも、昔と今を比べ、今回の作戦で自分には仲間いることを知れた。

 

 

昔は自分より足が遅い弱い艦娘としか思えなかった。今はそれぞれが違った個性、特性を持つ艦娘と思う。自分だってすべてが完ぺきではない。みんなもそうだ。だから、支えあって戦っていく、支えあって助け合う。紀伊達に救われたとき、自分の思っていたことがとても恥ずかしく思えた。

 

 

島風は疲れてベッドに潜り込んだ。

 

 

いつか…何かあると信じて。

 

 

To be continued…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…島風…島風!あんた、ちょっと!人がベッドに入っているときに入らないでよ!!全く…」

 

「…んぁ?誰…って!?えぇーーーーーー!?」

 

 


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