そよ風と荒風の間に   作:かえー

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6-1ーk 偵察

「…でっちなんで来なかったんだろうね…?」

 

島に向かう途中にろーちゃんこと呂500が呟く。他の潜水艦娘の方に目を向けるが皆目を伏せ苦笑を浮かべる。が、来日して何日のろーに分かるわけがない。ろーちゃんは先ほどあったことを思い返した。

 

数時間前。島風を捜索するが島風の姿は見つからない。屋根、風呂、部屋、さらには矢矧の家にも連絡したが、いないと返事が返ってきてさらに混乱する。こんな時どうしよう、提督は混乱しながらも以前の方法を考えた。そのタイミングで潜水艦娘たちに目が行った。

 

「ゴーヤ…今回は主力艦隊に入ってもらいたいんだが…」

「嫌でち!!もうオリョールなんて二度と行かないでち!!」

「いや…水上艦と一緒に…」

「どうせ大鯨でち!!知ってるでちよ!!また資材が必要だからだましてオリョールとかサーモン島とかに強制送還させるつもりでち!」

 

と、近くの潜水艦娘たちに発言権を与えず怒鳴り散らし、そのまま部屋に走り去ってしまった。呆然とする艦娘たち。提督は改めて今回の作戦の説明を始めた。

 

「あくまで今回はだますつもりはなくて、本当に参加してほしい。中部海域の偵察だ。いるならしおいに任せたいが…」

 

そう、しおいは潜水艦娘唯一の潜水空母で提督はしおいに搭載されている晴嵐を使った偵察を予定していたが、横須賀の家に居候していて、作戦開始予定時刻には間に合わない。寄って直接確認するしかないことになり、今の状況になっている。潜水艦娘の重い空気の中、小麦色の艦娘が手を挙げ立候補する。

 

「ろーちゃん行きます!はいっ!!はっちゃんも!!」

「えっ!?まぁいいけど…」

 

急な展開にはっちゃんこと伊8が動揺を見せるが、すぐにいつもの様子になり表情を変える。はちは本を持ち込み出撃準備を始めた。ほかの潜水艦娘はごーやが走り去った廊下を悲しそうに見つめていた。

 

普段がひどすぎるんでしょ…この艦隊に随伴している瑞鳳が呟く。伊8はおそらく拒絶反応を見せなかった、もう体が任務を受け付けてしまう体にされてしまった。呂500は来たてでまだそこまでに至っていない。ただ、純粋に提督の役に立ちたいと思って仕事をしている。帰ったら絶対提督に潜水艦の起用について直訴せねば…瑞鳳は思った。

今艦隊は臨時で大淀を旗艦に、龍鳳と瑞鳳が艦載機から海上を観察。潜水艦は自慢のステルス航行で敵地の捜索を行っていた。中部海域は今まで人類達が輸送経路として使っていたが深海棲艦の姿が確認されなかったために海域調査は後回しになっていた。人類は世界中にドローンを飛ばし海域調査を行っていたが反応はやはりなかったらしい。ここにも海軍のがさつさが出ていてよくわかる。

 

「…何も情報が流れてこないわ…提督の気のせいじゃないかしら…」

 

「そうですね…彩雲も何もないというし感もない…」

 

空母二人の言葉を聞き大淀は考える。まだ初瀬は彼女たちと繋がっていたりするのか…もしくはこの期間ですぐにアジトを変えた?南方棲姫だった彼女が消えたことによって作戦を変えてきたとしか考えるしかない。その時、龍鳳の彩雲に情報が流れる。

 

「我、敵艦ヲ発見シタリ。ワ級クラス…flagship。」

「できるだけ航行水路を記録してください!アジトを割り出します!」

「…モウ一艦…人型ノ…未確認艦アリ!」

 

その後、彩雲からの打電は不安定になる。大淀たちはばれるのを回避するため撤退の準備を始める。

 

「撹乱します。潜水艦は魚雷発射体制に、艦載機は今すぐ退避運動を!」

 

遠くの艦載機が引き返そうとする。戦闘機の中にいる偵察機の一つに先ほど龍鳳が言った彩雲がある。彩雲はかつて最高速度609k/mを記録し、「我ニ追イツク敵機無シ」といった無線を残した偵察機である。今回も振り切れると主力艦隊の誰もが思っていた。龍鳳、瑞鳳の無線に砂嵐が響く。驚きの出来事だった。彩雲が正確に撃ち落されたのだ。混乱するなか舞鶴主力艦隊は海域離脱を開始した。

 

 

「何度でも繰り返す…変わらない限り…同じ過ちを…」

 

 

艦娘たちは無傷で海域離脱することができたが、彩雲や偵察機の撃墜のために鮮明な映像や証拠が残っておらず、中部海域の攻略はさらに難しくなった。大淀たちの出撃している間にも島風は見つかっておらず、いまだに捜索が続いていた。艦娘たちどころか提督の思考を混乱させる。再び舞鶴鎮守府に不穏な空気が流れてしまった。海軍を敵に回す。この言葉の責任の重さと苦しみを大淀は初めて知った。

 

「…止めなきゃ…私が…」

 

自らの身を隠すかのように、一人の少女が岸壁付近でつぶやいた。


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