@@@@@@→呉鎮守府
「探せ!!奴を逃がすな!!」
「こっちの部屋は探したか!奴は重要参考人だ!逃がすな!!」
男たちの叫び声が聞こえる。どたどたと廊下を走る音。けれどこいつらに見つかっては私の任務が果たせなくなる。だから絶対見つかってはいけない。私は彼女を止める、止めなければいけない。私は呉鎮守府内の一室に隠れ様子を見続けた。加賀の言葉が頭の中で繰り返し響く。この言葉は何の意味があるのだろうか。この言葉が無駄に私を急かし混乱させる。一体彼女の行動はなんだったのだろう。
@@@@@@→舞鶴鎮守府
「まだ見つからないのか!!」
提督はまた怒鳴ってしまう。これで怒るのは今日20回目だ。普段あまり怒鳴らない提督を見て大淀はついため息を漏らす。今までにない出来事が起き、無茶な指令を出され、秘密を隠し通す。これが大淀にはいつもにないほどストレスになっているのを艦娘の誰も知らなかった。
大淀はあれ以降も中部海域を観察し続けていた。ワ級のことは過去に島風から少し話を聞いており、艦娘や物資を輸送していることは知っている。が、今回は目的がよくわからない。前回は連合艦隊をおびき寄せるための春雨の鹵獲行動で武装も鉄網だけで何もしなかった。が、大淀が気になっているのはワ級よりも新しく表れた人型の深海棲艦。この情報と解析を頼むためにいつもなら神通に頼んでいるが、今回ばかりは外部への情報の流出を防ぐためどうしても頼むことができない。また、物事がうまくいかないことに大淀はいらつきを覚える。結局できることは中部海域の動きを監視し続けることと、島風の行動に何か意味があることを信じるだけであった。
@@@@@@横須賀矢矧宅
南方海域攻略が終わり、矢矧と伊401ことしおいは前に住んでいたアパートに戻ってきた。矢矧はまだ、コルセットや眼帯をとりきることができず、自宅療養や介護が必要な状態だったのでそれを口実にしおいは呉から完全に除隊し、横須賀に登録してもらった。今も松葉づえをつく矢矧をしおいは荷物を持ちながら見守っている。
「はぎー、大丈夫?無理なら荷物は晴嵐さんに任せて手伝うよ?」
「ありがとう…」
「はぎーはさ、何日か休めるんだよね?いいよね…」
「これを口実にサボろうとしてるあなたに言われたくないけどね…」
そんなことを話しているとあのアパートのドアの前までたどり着いていた。療養のためとはいえ、家に帰ってくることはやはりうれしいと矢矧の心は少し踊る。家には彼女と萩風、嵐が待っているはず島風はあれから舞鶴に残ったのでここにはいない…家に入る数秒前はそう思っていた。
家のドアを開け一声、ただいまといい家に入る。見覚えのある3LDKの家。キッチンの隣の部屋にはテレビとコタツが置いてある。年がら年中そのままだが、何故か違和感がない。矢矧たちが部屋を見渡してくると奥の部屋からこえが聞こえ、よく聞くと子供の声とテレビの声だ。
「あ、矢矧先輩お疲れ様です…すぐご飯作りますから休んでてくださいっ!」
「先輩から言われた通り、子供はしっかり保護してるぜ?かなり勇敢になったもんな?」
奥の部屋から来たのは一人の少年と二人の駆逐艦、萩風と嵐だった。少年は以前、身寄りのなくなったことから矢矧に保護され、家を離れる際に矢矧は二人の駆逐艦にこの少年を託していた。少年は不思議そうに矢矧を見上げていた。矢矧はしおいに手伝ってもらいながら座り、少年を見据えると少年を撫でた。少年は変わらず不思議そうに矢矧を見ていた。
やがて、萩風が机に食事を持ってきて事実上の家族が集まった。六人で囲む食卓、久しぶりで心がさらに踊る。と、矢矧は少し疑問を抱く。島風は既にここを出て行ったはずなのになぜここに六人もいるのか。もう一度机の周りに座る人達を見てみる。すると島風の席に見たことのない艦娘が座っているではないか。が、この艦娘は以前にあったことがある気がするが…思い出せない。
「天津風です。家族ということを知るために…島風を変えた物を知りにここに来ました。」
恥ずかしそうに礼をする天津風。その天津風を見て矢矧は驚きが止まらない。そして、島風の…今までのことをすべて察してしまった。そうか、あの子が探していたのは…そうなると自然と涙が流れてしまう。なんで、なんでなのだろう…私達はそのような、いや、そんな程度の仲間…繋がりだったのか。その瞬間からどんどん溢れてくる失望感。矢矧には止められなかった。
「はぎー…ぜかましは…帰ってくるよ。きっと。」
矢矧の横でしおいが背中をさする。矢矧は泣き出してしまった。今までに泣いたことがなかったのに、姉妹と別れても泣いてないのに、声を上げて泣いた。
「ぜかましがここにいないということは…きっと、何かしてるんだよ…待とう?」
他の三人も静かに見守っていた。
@@@@@@→舞鶴鎮守府
舞鶴鎮守府では、再び提督と大淀が動揺していた。目の前には鹵獲され行方不明のはずの春雨が立ちはだかっているのだから。服や体は傷ついておらず、変わったところといえば少々髪に白髪が混じりこんでいることだが大淀と提督は全く気にしなかった。
「お久しぶりです。白露型駆逐艦春雨です。深海棲艦のことについて話に来ました。」
これだけを言うと春雨は指令室のホワイトボードに歩いていき海域を描き始めた。二人はその海域に驚いてしまう。なんと春雨が書き始めたのは中部海域であり、先日つかめなかった場所の海域図を正確に書き写し始めたのである。そしてそれに加え敵の戦力も書き始めたために提督は思わずその作業を遮ろうとしたが、その手すら振り払い、春雨は作業を続けた。表情を全く変えずに、黙々と海域図は完成していく。
「春雨…君のことは信頼したい…が、深海棲艦から帰還したんだ…しばらくケアを受けてもらいたい…」
「洗脳なんてされていません。むしろ情報を持って帰ってきたスパイという考えをしてほしいです。」
提督の方を全く向かずに話す春雨を見て明らかに変化があったことを大淀は察した。が、大淀は提督を制止し春雨の横に座った。大淀が頷くと春雨は海域の情報について話し始めた。
「まず、彼女たちは貴方達艦娘の実力を認め、今は動きが止まっています。むしろ、交渉をしたいとも言っていました。一部だけですがね。」
「そんなことを…誰が…?」
「姫クラス…貴方たちで言う、戦艦棲姫…というところでしょうか。主力艦隊をまとめているのは彼女で、もしかすると近頃連絡が入るかもしれません。今はこちらも動きを停止し、鎮守府近海の警備に当たった方がいいと思われます。」
「本当か?君は洗脳されたいないと信じても。」
「戦艦姫は攻めてきません。彼女の決定は深海棲艦の総意といっても過言ではないです。彼女を超える存在が現れない限り…の話ですが。」
大淀と提督はお互い顔を見合わせ安堵した。何かから解放されたかと同時にどっと疲れがかぶさってきた。大淀はすぐに現実に戻り、机から一枚の写真を取り出した。それは以前出撃の際に辛うじてとれた、人型の未確認の深海棲艦の写真だった。その写真を見て春雨はまた静かに語り始める。
「これは新しく建造された…ツ級型軽巡洋艦です。そんな名前はありませんが…彼女たちは対空射撃に長けていて、今までに建造された軽巡クラスのなかでも最高傑作ではないでしょうか。ですが、さらに気になる深海棲艦がいました。」
「…?」
春雨は絵を描き始める。ざっくりとだが、人型で尻尾がついている。ショートカットでその姿を見た二人の脳裏にはあるものが浮かんだが、春雨がさらに書いたパーツで提督は顔が凍りついた。
その深海棲艦が履いているニーソックス。それが提督の施行を停止に追いやった。それも関係なく春雨が話す。
「これは単体しか存在しない…オリジナルです。ネ級重巡洋艦クラスです。全く鎮守府内で話しているところを見たことがないですが、試運転では精度が高く特に雷撃では百発百中の命中率を誇っています。もしも戦うことになれば会うことになりますが…確実に今までの深海棲艦を超え、究極といっても過言でもありません。」
その話を聞き再び頭を悩ませる提督。提督はこの深海棲艦を見てわかってしまったのだ。もう春雨も深海棲艦なのだと。提督はいつも艦娘を眺めているから分かる。そう、このスパッツの持ち主は間違いなく子の鎮守府にいて、行方不明になった者のニーソックス…そう、鈴谷と熊野の物だった。
それと同時に大淀は思いついてしまった。島風が今何をしようとしているかすべて見えてしまった。今まで、島風は目の前のことを一人で解決しようとする癖があった。深海棲艦の新たな情報があったと同時に島風は行方不明。
ひょっとすると彼女のことだから中部海域に一人で行くこともありうるが、さすがに無謀なことをしないだろう。ならほかの何かをしようと動いている…?だが、島風はどこからこの情報を知ったのだろうか。大淀達がこのことを話したのはあの独房で話した日だけであり、三人しかいなかった…
止める…
島風の声がふいに聞こえたような気がした。大淀は周りを見るが、どこにも島風の姿はなくレーダーも反応を示さない。それと同時に反応を示したのは無線だった。それは呉鎮守府からだった。
『呉ヨリ、1400、駆逐艦島風ヲ確保シタ。重要参考人ト無断外出デシバラク身柄ヲ拘束スル。』
悪い予感が当たってしまった。大淀はすぐに打電を送り返す、それに合わせ提督も鎮守府の艦娘たちを集め始めた。
『舞鶴ヨリ、拘束ヲ解除セヨ。コチラノ鎮守府ニテ処罰ヲ決定スル。サラニ、出撃ヲイマスグ中止セヨ。モシモ、コノ勧告ヲ無視スルヨウナラバ、貴殿ノ鎮守府ニ威嚇攻撃ヲ行ウ。』
その後、呉鎮守府から打電が返ってくることはなかった。
提督は舞鶴の艦娘を講堂に集め、今回のすべての出来事を話した。中部海域の深海棲艦の出没、自分たちの思惑、そして、初瀬から聞いた本当の事実を告白した。そうした後、提督は思っていた。思っていた暴動が起きるのではないかと…だけれど、いつまでも隠すのは逃げではないか。自分がつぶれてもいい、守ることを教えてくれたのは島風だった。自分の身を壊しても、自分の身がなくなってもすべてのことに全力でぶつかり、人々や我々を守ってきた。今島風は、我々には見えない何かと戦っている。今度は…俺たちが守る番だ。島風にどんな顔されようと、艦娘たちにどんな罵倒を受けようと、自分が提督という名をなくしても、艦娘たちに嘘をつき、傷つけたくない、と。
「提督、お前は俺らが反乱を起こすと思っていたのか…つまり俺らは信頼されていなかったということになるな。」
「あぁ、すまない…」
「ショックだな。とっても。見てみろ、酒匂なんてもううずくまっているぞ。」
天龍がいつになく真面目な顔で提督に向き合う。が、提督は全て悟ったように目をつぶり続けていた。
「なんてな。どうせ島風のことなんだろ?しかも、お前がしたかったことなんて理解できてる。少なくとも、俺たちは仲間だ。お前がやめたら次に命令だす奴は他にいねえぞ?提督!」
「すまないな…わかった。行くぞ諸君!俺たちは島風奪還と、深海棲艦とのコンタクトを図る!大淀、作戦を。」
「はい。初瀬による侵入ルート作成のもと、少数の艦隊で潜入し、島風を開放する。なるべく情報を漏らさないために速やかに実行してほしい。誰かやってほしいが…」
「…やるよ。」
意外な人物が立候補し、鎮守府の士気は上がった。失敗するかもしれない作戦…さらに島風はどう動いてくれるか、皆無事の作戦遂行を願っていた。
@@@@@@→呉鎮守府
「お前はなぜ呉に来た?吐け!」
憲兵の持つ警棒が思い切り島風の腹を強打する。壁に足を縛られ、両腕を天井から縛られた島風は思わず息を漏らしてしまう。だが、島風は口を一文字にし全く話す気配がない。
「松から聞いた…貴様たちは海軍に隠して任務を行っていた。それは舞鶴我々すべてを敵にすることを知っていたのか!血迷いやがって!!」
今度は蹴りが島風の顔面を直撃。苦しい表情を浮かべながら憲兵を見続ける。
「さて…お前は解体処分だけではない。一生署で監禁され、死んでいくがいい。今海軍に打電を送ってもらう。送り終わってから24時間後にお前はスクラップどころか行けた屍と化するのだ…無様だな。」
「笑ってろ…貴方達憲兵もいつもよく働いてるよ…けど…私たちの…こと…は…繋がる…私たちしか…わから…ない…!」」
クスッと笑う島風。島風の顔に金属製のバットが降り降ろされた後、憲兵は独房を後にした。島風は独房の中一人でいつまでも牢の外を見続けた。