そよ風と荒風の間に   作:かえー

4 / 28
友達ってどうやったらできるのか。どうすれば信頼できるのか。


1-3 weigh anchor

島風がブインに着任してちょうど二週間。島風には特に面白いことは起こらなかったが、ブイン基地に艦娘は増えた。講堂には駆逐艦娘以外にも提督、駆逐艦たちの前では、重巡と軽巡の艦娘が立っていた。

「重巡古鷹です!よろしくお願いしますね!」「鬼怒だよ!一緒にいい汗かこうねっ!」

「えぇ、二人はこの鎮守府に正式着任となる艦娘だ!仲良くしてやってくれ!解散!」

提督が話をまとめ各艦娘たちがそれぞれの部屋に帰っていく。そんなことが起ころうが、島風にとってはスクラップが二隻増えたとしか思うことができなかった。艦娘はスクラップ。人間を救うことなんてできない。誰も救うことなんてできない。自分たちはなんで存在しているのか、自問自答していた。そしてその解答はすべて、自分たちの存在否定だった。

 

しばらくして、放送が入る。「今から、製油所地帯に艦隊を派遣する!旗艦、鬼怒、白雪、響、吹雪、島風、文月!後は、鎮守府の護衛にあたってくれ!以上!」

「島風ちゃん、また一緒だね~よろしく~」なぜか島風が出撃する時文月が一緒についてくるパターンが増えてきている気がするが、あえて気にしないことにした。

 

「抜錨!」旗艦鬼怒声が響き渡り各艦は錨を海に落とす。島風はいつも通り錨を外さずに出撃しようとした。がそれを神通が止めた。

「島風さん、前回錨を外さずに出撃しましたね?」だが、島風は答えない。「外してください、これは全鎮守府のルールです。外さなければ、解体します。」だが、島風は無言のまま航行を始めた。不意な行動に神通は対応できず、ただ立っていることしかできなかった。

 

錨をしているにせよ、島風は艦隊の最後尾に難なくついて行っている。周りから見れば、全く違和感もなかった。

鬼怒と前の駆逐艦たちは改めての自己紹介か、趣味を話し合っている。島風は集団が大嫌いだった。だから、見るだけでも吐き気がした。が、そんな空気そっちのけで駆逐艦娘が話しかけてくる。「島風ちゃんは行かないの?」

察しろ文月。「興味ないからいい。」何とか絞り出した一言は、文月を暴走させる火種となってしまった。

「えっ!?じゃあ私のことも…うっ…うっうっ…」

さらに面倒くさくしてしまった。島風は天を仰いだ。(言うなら、興味ないじゃなくて気分じゃないとか言っておくべきだった…)泣いている文月を撫でながら島風は鬼怒たちについて行った。

 

しばらくして、雲行きが怪しくなってくる。鬼怒の水雷戦隊メンバーは全員察した。この近くに主力艦隊がいる。

「よし、ここで単縦陣になるよ!並んで―…」

遅い。島風は察していた。もう自分たちは戦闘海域にいて、いつどこから現れてもおかしくない。そして、敵は今目の前にいる。しかし、鬼怒も甘くはなかった。鬼怒はいきなり黙り込むと、14cm砲弾を叩き込み、駆逐艦の先導を始める。

「敵艦見ゆ!戦艦ル級、雷巡チ級、軽巡へ級、あとは駆逐艦!」鬼怒の報告に駆逐艦一同黙り込む。どうしてわかったのか…驚いていた。だが、相手は目の前にはいない。水雷戦隊は引き返す。その直後後ろから、水しぶきが上がった。特に一番最後に上がった波は高く、今まで見た艦とは全く違う形をしていた。完全な人間の形をした深海棲艦。戦艦ル級だった。鬼怒が飛び出し、砲弾を叩き込む。しかし、その弾丸はル級の連装砲にはじかれた。お返しに帰ってきたのは、16inch三連装砲からの砲弾だった。鬼怒はすぐ回避運動を始める。「私は戦艦の目を引く、君らはは軽巡と駆逐艦を何とかして!」弾をよけながら決断を下す。島風は珍しく旗艦命令に従った。

「無駄だよ。」「私が弾幕を張ります!」「文月いっくよ~!」駆逐艦たちは次々と深海棲艦を沈めていく。

「私がやっつけちゃうんだから!」吹雪が軽巡へ級を攻撃。見事ヒットし、軽巡は大破、撤退していく。その時鬼怒が叫ぶ。「退避して!」集団だった駆逐艦は扇状に散っていく。さっき駆逐艦がいた場所には水柱が上がった。ル級の砲弾がそれたのだ。そして、その弾は島風の近くに着弾し島風は砲弾に挟まれる形となった。そして水柱。水柱が無くなった時島風の顔が変わっていた。笑った、笑っているのである。それは駆逐艦たちに衝撃を与えた。島風は装備から鎖を外す。抜錨したのである。だが、時は待ってくれない。ル級は照準を島風に合わせる。

「みんな、援護するよ!魚雷構え!」鬼怒たちは魚雷を発射する構えを取る。「ひやぁぁぁぁぁ…」文月がいきなり悲鳴を上げだした。「何か近くにいますよぅ…」「…三時の方向にチ級!ナイス文月!」文月はそんなどころでもなさそうだ。腰を抜かして、気絶していた。「てえ!」魚雷が直撃する。チ級は深海へと消えていった。

その中、島風と、ル級はにらみ合いが続いていた。「魚雷装填、酸素魚雷をぶつける。」ブザーが鳴り響く。そして、島風の背中の魚雷発射装置が敵を捉える。それと同時にル級の主砲が火を吹いた。

「どこ狙ってんの?」にやけながらル級の背後に島風が立っていた。その後爆発。鬼怒達は爆心地に向かった。しかしそこには島風の姿は無かった。駆逐艦達は探し始めたがだが、文月は探さなかった。なんせ、彼女は帰ってるのだから探しても海域にはいない。文月は静かに帰投した。

 

文月の思った通り島風は鎮守府に帰っていた。だが、いつもと違うことがあった。文月が出迎えていたのである。「島風ちゃんおかえり!」

島風にとって初めての出迎えである。しかし、島風は無視した。無視し続けた。信じられなかったのだ、文月の横を通り過ぎ部屋に入っていった。

 

○○○○○○

 

「神通、話がある。」

「なんでしょうか?」

「島風のことなんだが…」

「彼女がどうしたのでしょう?」

「島風のことを神通はここに来る前から知っている。そうなんだよな?」

「まぁ、そうですね…一度だけあったことがあります。」

「島風の調査票を見たのだが、彼女は明らかにここの鎮守府の駆逐艦とは実力が違う。装備も違う。酸素魚雷なんて見たこともない!後…改修も全て終わらせてある。教えてくれ神通。彼女は何者なんだ…」

「彼女は私達と同じただの艦娘です。ただここの艦娘と違うのは…彼女は舞鶴鎮守府出身です。」

「舞鶴…鎮守府…か……」

 

☆☆☆☆☆☆

 

明日も何かありますように。と毎日言うが、結局何も起こらない。帰ってくるなんて嘘だ………

 

嘘つき。

 

部屋の隅で島風は身を休めた。

 

もう消えちゃいたいな。そう思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。