→ブイン基地講堂
「君たちの活躍により、無事呉に物資が輸送された…感謝するとトラック島から、打電が入った。本当に感謝だ。」提督が笑顔で話し、艦娘達も笑顔で頷き話を聞いている。
この駆逐艦達の中に一人、その話なんそっちのけで別のことを考えている艦娘がいた。
「島風ちゃん？なんか…難しい顔してるよ？」文月が小声で話しかける。その声も島風の耳には入らず、耳をすり抜けていくだけだった。今の島風の心は一つの疑問と一つの気持ちででいっぱいいっぱいだった。(あの艦はなんなんだ…ただの船じゃない…)「島風？」後ろから声を掛ける艦娘…響だった。「どうしたんだい？」「前に出てきた艦が…ただの艦じゃないと思うと…」「島風、あまり考え過ぎない方がいい。これは私達が抱えることでもないからね。あと、その状態を人間は不安と呼ぶらしいよ。」
提督の話も終わり、講堂から艦娘達は離れて行くが島風だけその場を動くことができなかった。(これが…不安、か…)
→→→翌日→→→ブイン基地講堂
翌日、島風は駆逐艦と提督を講堂に集めた。
「島風どうしたんだー？」「なんだろう…」
島風が皆の前に立つ。
「今日呼び出したのは…私から提案があるから…です。」おどおど話し出す島風。「私達は深海棲艦から海域を奪還するのが…仕事。だけど…深海棲艦だって何か…理由があって海に入って来たんだと思う…」
文月や白雪、深雪達も黙って島風を見つめる。
「しかも、カムランにいた深海棲艦は攻撃せずにこの海域を去って行った…私達は何もしなかったら深海棲艦も何もしないのではないかと思った…私が皆に提案すること…それは…」皆息を飲む。「深海棲艦への攻撃を止める…ということ…場合によれば…和睦をしたい…」ブイン基地がどよめきに包まれる。「そんなの…いやに決まってるわ！」「流石に島風でも…もうよくわかんなくなってきた…」講堂は反対の声で埋まり、提督も口出しが全くできなかった。
「駆逐艦だねぇ…！」
「そうですね…まだまだ子供です…」陰から古鷹と鬼怒がこの様子を見ていた。
あの後ブイン基地は静寂に包まれ、誰も部屋から出ようとしなかった。
島風はオリョール方面へと出向い
た。
→→→→→→オリョール海域
オリョール…ここもかつて戦場だった。今は深海棲艦の気配もなく、青い水面が先まで続き、奥に向かえば補給物資が溢れるほど転がっている。。島風はそこへ、偵察任務と言うことで休暇しに向かった。もちろん今回も抜錨しておらず、錨を引きずりながら航行を続けた。が、ここに来ても島風の様子は変わらなかった。自分の中に渦巻く謎の感覚に困る。決してさっきの打ち明けの反応に不満を持ったわけではない…
不安と言うことに気づくことがなく、島風は補給地点に向かう。島に上陸し、その場に寝転ぶ。しばらくして何か艦影が見える。爆雷を手に持ち構えるが、水中から何か出てくる。それは島風の爆雷投射を制止して来た。「止めるでち！ゴーヤ達はは敵じゃないよ！」
出てきたのは水着にセーラー服を着た少女。その少女が島風を制止させた後続々と水の中から顔を出しその数は四人となった。
「…ここで、水泳は危ないよ。」島風が島に手招きし少女達を陸へあげる。「私達は艦娘よ！」ロングヘアを一つに結んでいる少女が言う。「じゃあ誰。」「私達は潜水艦です。呉所属の伊8、伊19、伊58、伊168です。」メンバーが分かり少し安心したが、不審の目は変わらない。「なんでこんなところに。」「それは…提督が〜クルージングって言ってイク達を騙したからなの〜！」「…」呉の環境は悪いのだろう。島風は彼女の無事を祈った。
「この近くで体が大きい深海棲艦を見た？」潜水艦ということで島風は聞いてみた。「んーあるでちよ、何もしない艦でちね？」
「でっち、その艦は有名？」「有名でち。輸送ワ級って呼ばれてる…ってその名前なんでち？」「気にしないで。」輸送ワ級…何か運んでいるんだろう。少しもやもやするものが消えた。「あなた悩んでる顔してるのね〜どこに所属してるかわからないけどたまには呉に来るのね〜？」
それじゃと4人は補給物資を運んで呉へと帰って行った。日本…か…また別のことを考えているとまた何か視線を感じた。その正体が輸送ワ級ということに島風は気づくことが出来なかった。
輸送ワ級は島風を遠くから見つめた後深海へと潜って行った。
→→→→→→ブイン基地
島風は基地に帰り部屋に入った。明日も何か…『ブイン基地艦娘に通達する！至急講堂に集まるように！』
面倒な気持ちを押し殺し島風は講堂へ向かったのであった。