その8
「およ、提督に長門じゃん。」言うは重雷装巡洋艦:北上「何ラブラブしてんの、パフェなんて二人でつついちゃって。」
片手には、沢庵が乗ったご飯茶碗/もう片手に箸。
目の前には、1000苑もする豪華なパフェを分け合って食べる上官と同僚/北上は少し眉を寄せた。
「なに、ラブラブ中?」
一見すると、仲睦まじくパフェを食べ合うカップルである。
しかし、二人ともあまり美味しそうに食べていない。
「そら見ろ、やはりそういう具合に見えるんじゃないか。」
と、紙ナプキンで口を拭きながら軍服の男。
「説明すればいい話だ。」
水を飲み干した女が言う。
「これはな、私がきんぐすとろべりぃぱるふぇを頼んでみたんだが、いかんせん先程食べたばかりでな。腹に入らなくなったのを、一緒に食べていた司令と一緒にかたしていたんだ。」
「上官を残飯処理に使わないで欲しいんだが。そもそも、君は見る人見る人全員にこれを言い続けるつもりなのか。」
傍から見れば痴話喧嘩にしか見えないなァ/北上は茶碗を彼らの前に置いた。
「あー、大体のことはわかったからさ。」
未だ続ける言い合いを遮った北上。
「要はそのパフェ、食べないんでしょ。あたしにちょーだい。」
二人は顔を見合わせ、次にパフェを見つめた。
「まあ、それはいいが。お前は今から食べるのか?」と長門。
「うん。非番だからって昼寝しちゃったら、食いっぱくれちゃったよー。」
どかっとすわり/「いただきまーす。」/口にものを放り込んだ。
鼻に息を通してから男はコーヒーを口に含む。
「あ、さっきさ、金剛が死んだ目で歩いてたけど、提督なんかした?」
もそもそと咀嚼しながら話す北上/長門は行儀が悪いなと思いながら横目で見ていた。
「なんで僕なんだ?」
「だってさ、あいつが笑ったり落ち込むのってたいてい妹か提督のことじゃん。それに朝見たときはなんかベイビーがこうのって怒ってたし。」
男の横の女はフフフと笑った。
「まあ、何かあったといえばそうだが、提督が直接したわけではないぞ。」
フーン。
曖昧な相づちを打ったあと、北上は口の中のものを嚥下する。
「まあ、尋常じゃないくらい凹んでたから、後でフォローしたほうがいいんじゃない?」
肩をすくめながら長門は足を組んだ。
「あとさ。」
一枚目の沢庵を食べた北上が切り出した。
「珍しいね。提督が誰かと食堂で食べてるの。」
「そうかな。」
「そうだよ。」
横では、手持ち無沙汰になった長門がスプーンで遊び始めていた。
「少なくとも、食堂じゃ見たことないよ。」
「金剛達と、たまに食べてるじゃないか。さっきも話しかけられた。」
長門が割って入った。
「あれは絡まれてたんじゃないのか?」
その9
「ヘーイ! 提督ー!」
第四戦隊出撃の約30分後/鎮守府内食堂。
戦艦長門と隣り合って座っていた男の前/戦艦型艦娘が座る。
周りの人影はまばらだった。
「なあ司令、今の気分を当ててやろう。『面倒なな相手に絡まれたなあ』だ。」パフェスプーンを上官に向けて指す。
「シャラーップ! だいたい、ナガトはどーしてテートクと一緒にティータイムしてるデース!?」
金剛型高速戦艦:金剛
有事の際に強襲艦隊を組む場合、旗艦を任される。この鎮守府への配属はかなり最近である。
海軍帽を傍らに置いた男/半笑いを浮かべながらマドラーをいじっている。
「子守の礼だそうだぞ。どんな理由であれ、甘味を馳走になるなら断る理由はなかろう」
「ソウ! 提督、あのベイビー、どういう事ネー!」
「聞いているんだろう? 司令の赤子だ。」
長門/寒天の最後のひと欠片をすくいながら。
「ナガトには聞いてマセーン!」テーブルから身を乗り出して「聞けば提督とあの女の子供じゃないんデースか!」
「あんな女とより、提督には私が似合ってるネー!」
将校/コーヒーで喉を潤す。
「女で自分を飾る趣味はないな。」
「ストイックなところも素敵ヨ。ますます私と一緒にいたほうがイイデース。」
「どんな理由だ。」
長門/鼻で笑う。
「そもそも」スプーンを手慰みにしつつ「提督閣下のご好意で我々は好きにしていただけているが、金剛、私たちは兵士で、閣下は上官であるのだぞ。」
金剛はうっと息をつまらせた。
「恋に階級は関係ないネ。」
どぎまぎしながら答える金剛。
「ごもっともだな。そうじゃなきゃとなりの鎮守府の姉妹艦の浮ついた話なぞ、聞こえてこない。」
先日、近くの鎮守府の提督と同鎮守府所属の長門型が挙式を挙げていた。
「それはそれだが、それなら、司令官閣下のご夫人と御子息だぞ。女やべいびぃ?などとぞんざいに呼ぶのは、いかんのではないか?」
頭を少し曲げたスプーンを器に投げ入れた。
「親しき仲にも礼儀ありというが、上官と親しくなりたいのならなおさら礼儀も必要になろう。」
金剛の視線=あうあうと呻きながら長門/提督を行ったり来たり。
長門=目をつむって腕を組む。
提督=カップの水面を見つめ/口にえみを張り付かせる。
やがて肩を落として「失礼しましたデース、閣下」
しなびた敬礼の後、とぼとぼと食堂を後にした。
「これでいいか、上官殿。」
ニヤリ、と長門。
「言いすぎかもしれないけど、ありがとう。」
「いいさ。――――物のついでだ、その財布重そうだな。どれ、私が軽くしてやろう。」
鎮守府の食堂使用規約:朝昼晩の三食以外の時間と定食に付属していないデザートは有料。
「キングすとろべりぃぱるふぇ。千と二十苑だ。」
男が黒革の財布から紙切れを二枚差し出した。
「釣り分でケーキセットを持ってきてくれないかな。」
「いいだろう。」
将校は帽子を深くかぶり、細く息を吐いた。
超弩級型戦艦:長門
艦娘が百人以上いるこの鎮守府内で、初期艦の叢雲を除いて三番目に早く着任した物である。
「司令官、ケーキはチョコとショートとタルト。飲み物はコーヒー、紅茶、オレンジジュースがあるぞ。」
その10
「まあ、そう言ってしまえば、そうだけど。」
提督=コーヒーを一口のむ。
北上=また飯をかき込む。
長門=組んでいた足を組み替えた。
「話しかけられれば相手はするさ。だけど、こちらからはあまり話しかけようとはしないよ。」
「あれでしょ? いつもの上官と部下の関係がどうのってハナシ。」
「そうだね。」
「なんで今になって改めようとしてんのさ?」
「改めようとしてるわけではないよ。でも、そうだね――」
もう一口コーヒーを飲んで/下を向きながら/口を開いた。
「本音を話すと、言われるまで自覚がなかったんだ。気づいてなかったし、そんな気もなかったよ。
どうやら、僕自身が動揺してると思えないくらい動揺してたようだ。」
「それって、やっぱり赤ちゃんのせい?」
提督/無言で頷き/カップを揺らす。
「ほぇー。」
表記するには曖昧な発声で北上は声を上げた。
「どっかの研究所が会話できるヒューマノイドロボ作ったってニュースがあんじゃん? なんていうかさ、提督って、いままでそいつに軍事AI組み込んだみたいな人だと思ってたけど、ちゃんと人間なんだねー。」
クククと長門が笑った。
「なんだ、それは。」
「提督って優男でいつもニコニコだし、そのくせきっちり軍人してるからさー。あ、貶してるわけじゃないよ?」
今更なフォローである。
ニヒルな笑みを浮かべる提督は、不意に笑みを収めた。
「ところで北上、君の昼はそれだけかい。」
男は、北上の持つ茶碗を指さしていた。
「あと、それ」キングストロベリーパルフェ「ね。節約だよ、節約。欲しい服があるんだー。」
聞いた男は、何も言わずに300苑を出した。
「うっそ、いいの?」
「成り行きだけど、相談に乗ってくれたお礼さ。」
なぜか自慢げな長門が空のコップを持って立ち上がった。
「遠慮するな、閣下は財布が重くで悩んでおられる。私もそのぱふぇで貢献したのだ。」
そのまま彼女はウォーターサーバーへ向かった。
「まじで? これなら毎日赤ちゃんが来てもいいな~。」
食券機に向かう北上を、男は苦笑いで見送った。
「なーに食べよっかなぁ。今日はフライの気分だから……うん、エビフライ!」
べちっとボタンを押し、食券お釣りとをとってカウンターに向かう。
「おばちゃーん、タルタルソース、大盛りね!」
北上=身を乗り出して食堂婦の近くに置いた。
両肘をカウンターにかけ鼻歌を歌いながら待っていると、そこに水を汲んだ長門が寄ってきた。
「なあ、北上。」
「うん?」
「300苑の元が来たぞ。」
長門が顎で示した先を見る/ちょうど食堂に入ってきた霧島と朝潮/その腕に抱かれた赤子が見えた。
赤子は、少しぐずっているようだ。
「ほんとだー。あ、あたしの分の水も頼める?」
ちょっとだけ長門が睨んだ。
「別にかまわんが、…………お前の嫌いな駆逐艦と子供がセットで来たんだぞ?」
「んー? 別にいいよ、今は。」
そうか。とだけ答えて、長門は給水器の前に戻っていった。
「はい、エビフライ。タルタルソース大盛りね。キャベツもおまけしたよ。」
「おおーあんがとー。」
エビフライとルタルソース/千切りキャベツ大盛りの乗った皿を受け取り、自分の席へ戻る道すがら、霧島の方をちらりと見た。
さっきとは別の食堂婦に、哺乳瓶と乾パンの缶のようなものを見せてなにか説明している。
どうでもいいことだ/北上は自分の椅子に着席した。
前を見る/提督がさっきと変わりない様子で座っている。
それもまあいいか/エビフライをソースにつけ、口に運んだ。
「それ、300苑だったっけ?」
空のカップをソーサーに置いた提督が訪ねてきた。
「うんにゃ、120苑。」
答えたあと、北上はしっぽをバリバリと食べ始めた。
その11
哺乳瓶の帰還を待つ霧島たちに、白い影が近づいてきた。
「やあ、霧島、朝潮。」
「あ、提督。お疲れ様です。」
「司令官、叢雲と霧島さんと一緒にこの子を見ていましたが、途中で叢雲が離れ、今はミルクを食堂婦の方に作ってもらっています。」
「叢雲が? そうか……。」
まるで戦果報告するように言った朝潮の頭を、男は優しく撫でた。
「ご苦労様。もし疲れたら、その子、僕のところに持って来てね。」
「はい。あの、提督。」
「……うん?」
霧島=男が相槌を打つ/それを聞いて話を切り出した。
「提督の奥様は、本土にいらっしゃるのですよね。」
「うん。」男は肯定した。
「我が鎮守府は本土から離れています。提督の御子女は、誰が連れてきたのです?」
「ああ、それは、ベビーシッターだよ。」
「ベビーシッターですか?」
朝潮が子供をあやしながら聞いた。
「そう。妻の家が華族でさ、二人も雇ってこちらに連れてきたんだけけど、こっちに来てから水に当たったようでね。」
「なるほど、それでこの状況というわけですね。」
霧島=眼鏡を直しながら微笑んだ。
しかしすぐに怪訝な顔を作る。
「ですが、奥様の意図が理解できません。乳母がついていたとしても、幼子に長旅は危険ですし。奥様がこちらにいらっしゃらない事も疑問に思います。」
「ああ、彼女は来ないんじゃなく、来れないんだよ。――――朝方に青葉が来てたから、みんな事情はわかってるよね。
たぶん、家に軟禁状態なんだと思う。」
唯一事情は知らない朝潮=首をかしげていた。
彼女が首を動かしたせいではないのだろうが、もともとぐずっていた赤ん坊がついに大声を上げて泣き始めた。
「わわっ。し、司令官、どうすればっ。」慌てる朝潮。
「そう聞かれても。」焦っていないようで焦っている軍服の男。
「落ち着いてください。二人とも。」冷静な霧島。
そこに中年の食堂婦が飛んできた。
「おーよしよし、お待たせしましたねー。」
食堂婦が赤子の前に瓶を差し出す/赤ん坊は勢いよく吸い付いた。
「ああ、ご婦人、ありがとう。」
「いーえいえ、元気なお子さんですね、提督。これなら二人目もいい子が生まれますね。」
その女性は赤ん坊の生い立ちを知らないのであろう。
微妙な雰囲気になった霧島と提督を尻目にニコニコと持ち場に戻っていった。
「まあ、元気な子だね。」
「です、ね。」
一方の朝潮=初めて見る赤子の食事風景に、目をキラキラさせて観察していた。
少しだけ沈黙は降りたとき:くるくると可愛らしい音が鳴る。
霧島=さっとお腹を隠す/顔は赤くなっていた。
「すいません、司令。私、お昼がまだでして。」
言い訳のように/小さい声=霧島。
それに反応して、朝潮が顔を上げた。
「私もまだです。」
「あれ、じゃあ、もしかして君たち、あの後すぐにこの子のところに行ったのか。」
「お恥ずかしながら、そのとおりです。」少しだけ照れた朝潮。
「そうか、そうか。ならちょうどいい。」
いいながら、男は財布から札を一枚出した。
「子守のお礼に、これで食べてね。」
霧島が受け取る/少し不安げな顔をしていた。
「これでは、二人で定食を頼んでも十分に余ってしまいますよ。」
フム、と唸る/男は彼女たちに背を向けた。
「なら、甘味を頼んでもいいさ。霧島にもうひとつ頼むことがあるから。これでも足りないくらいだ。」
頼むこと? 霧島は首をひねる/提督は食堂を去っていった後である。
あっけにとられていた二人だが、今度は黒い影が近づいてきた。
「ご苦労だな、霧島、朝潮。」
「長門?」
振り返る二人。長髪の女/長門が口元を拭いつつ立っていた。
「頼まれごとをしてくれ。お前と、お前の姉妹にしかできないことだ。」
不遜にも見える態度/しかし、そう言われてなるほど合点がいった。
金剛姉妹にしかできず/提督から頼まれた。
=提督絡み/しかも/金剛お姉さま絡みのことだ。
◼︎
ありがとうございます。
◼︎
北上はパトリシアのようでいてほしい。
☆
次話投稿予告:
9月7日(月)
天てれが始まる前ごろ