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人間を竹林の外まで送り届けた後、私は自分の家に戻ることにした。
あの人間とは特に何も話さなかった。悩んでいるのは伝わってくるが、だからといって私がどうこうできる問題でもない。人を励ましたり元気づけたりするのは苦手だし、話すことだって不得意だ。そもそも私が頼まれたことはあの人間を小屋にまで案内することだけ。それ以上は私の領分ではない。
「案外冷たいのね、あなた」
笹の葉擦れする音に乗って、蜜のようにねっとりとした女の声が聞こえてきた。どこから発せられているのかは分からない。出所を考えるだけ無駄だ。この声はどこからだって聞こえてくる。私は足も止めずに適当な方向に返答する。
「私としては十分親切にしたつもりだが。ともかく、これで言われた通りのことはやった。次はあんたの番だ」
「わかってるわよ。里の工事を手伝うんだったわよね。この件が片付いたら取り掛かるから安心なさい」
声がやれやれと息を吐いた。面倒臭そうに肩を竦める姿が目に浮かんでくる。
「だいたい、私じゃなくてあんたが動けば良かっただろ。その方が手間も少なくてすむ」
「そうしたかったのもやまやまだったのだけれど、駄目なのよ」
「なんでだ」
「いきなり私が会いにいったら、警戒されちゃうもの」
思わず足を止めた。半眼で中空を見やる。
「あんた外の世界でもそんな扱いなのか?」
「ね、失礼しちゃうわ」
失礼もなにも真実なので何も疑うところはないのだが。同意せずに再び歩き始める。
「これからどうするんだ?」
「どうって?」
「いつまでも高見の見物してるわけじゃないんだろ。こうやって動いてるのも結末を見据えてのことだ。いったいあんたはあいつをどうしたい?」
「簡単なことよ。外の世界に戻す。ただそれだけ」
「だったらさっさとあんたの力で戻してやればいいだろ。それで解決だ」
「勿論そう思ったわよ。だけど怪我もしてたし、気絶したまま移動させてそのまま永眠でもされたら、さすがに寝覚め悪いじゃない」
「意外だな。もっと情に薄いと思ってたんだが」
「あら、これでも義理人情に厚いってよく言われるのよ」
「誰に?」
「私に」
はぁ、とこれ見よがしに溜息をついてみせる。どうせこの反応すら愉しんでいるのだろう。そういう女だ。
「もしあいつが残りたいって言ったらどうするんだ?」
「彼の意見は関係ないの。どんな結論を出そうが、二・三日中には強制的に帰すわ」
ふん、と鼻を鳴らす。
「結局あいつは悩み損か。やるせないね」
「だからあなたが熱弁でもって帰るよう仕向けてくれるのを期待してたのに」
不満そうな声にぴしゃりと言い放つ。
「それは私の領分じゃない」
ふと気配を感じて立ち止まる。周囲に視線を配ると、やがて竹林の間からおずおずと人影が歩み出て来た。その人物を見て、私はもう一度同じことを呟いた。
「ほら、私の領分じゃないだろ?」
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