しかし、これは息抜きの短編です(文章無駄に長いけど)。連載にするかは皆さんの評価(必ず評価しろというわけではないです)とGrand Order のストーリー次第です(まだ二章までだし)。
それでは、どうぞ。
動き出す輪廻
???side
誰かが言った。自分は、正義の味方になりたいと。
――フォウ……? キュウ、キュウー…?
誰かが言った。才能は人それぞれなのだから、自分ができることをやればいいと。
――フォウ! フー、フォーウ!
誰かが――俺の頬を舐めた。
――――――――――
「――って、おかしいだろ!?」
起きて早々ツッコミをしてしまった。いや、だってあまりにも酷いオチだったろ? そりゃツッコミたくもなる。
しかし、此処が自分の部屋でよかった。もし誰かに見られてたら――
「…………………」
顔を横に向けると、ピンク色の髪で片目を隠したメガネ少女が気まずそうにこちらを見ていた。俺も突然のことに目を点にして固まってしまう。
「「…………………」」
そのまま互いに沈黙した状態が続く。……おっと。そういえば、さっき中途半端に思考が途切れちまったな。もし誰かに見られてたら――
「――死ぬしかないじゃない!!」
俺は立ち上がって壁に頭を何度も打ちつける。死ね、俺! 死んでしまえ!! そうでなくてもこの記憶を消してくれ!
「せ、先輩!? 何やってるんですか!? そんなことしてたら怪我しちゃいますよ!?」
少女は俺を羽交い締めにして止めようとしてくる。
「止めないでくれ! 君だって引いてるんだろ!? 何こいつ……、とか思ってるんだろ!?」
「思ってませんから! とにかく、落ち着いてください!」
少女に諭され、俺はおとなしくその場に座る。……まあ、此処は廊下みたいだが、気にしないでおこう。なんか、若干頭がボーッとしてるし。
……だが、羽交い締めされた時に当たったもののおかげで、さっきよりは意識がハッキリした。見た目以上にボリュームある――
「喝っ!!」
「ど、どうしたんですか!? 自分の顔を殴るなんて――」
「いや、気にしないでくれ。少し頭がボーッとしてたから、眠気覚ましだ」
決してボーッとしてたせいで変なこと考えていたからではない。
「そ、そうですか。――それにしても、頭がボーッとするですか……。たぶん、それは
霊子ダイブ? なんだそれ? そんな疑問が頭を過るが、質問をしようとしたら逆に質問されてしまった。
「ところで、先輩はなぜ廊下で眠っていたのですか? 硬い床でないと眠れないのですか? それにしてももう少し別の場所を……」
「あー、それだけど、俺にもわからないんだ。自分で此処に来た覚えはないし、第一この場所自体に見覚えがない――」
「フォーウ! ンキュ、キュー!」
後ろから妙な鳴き声が聞こえてきた。そう思った次の瞬間には何かが右肩に乗っかる。そちらに目を向けると、視界には真っ白な毛が映った。何これ?
「あ、フォウさん。あなたの紹介がまだでしたね。先輩、そちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権動物です」
「フォウね……」
ジッと見てると、フォウの顔を見つけ目が合った。
「私はフォウさんに導かれて、此処でお休み中の先輩を発見したんです」
「つまり、こいつは恩人ってことか」
下手したらまだ放置されていた可能性もあったわけだ。……そういや、目が覚めたのも何かに舐められたからだったな。
「あれもお前だったのか?」
「フキュー!」
答えてくれたと思ったら、肩から降りて走り去ってしまった。
「あらら。嫌われたか?」
「いえ、むしろフォウさんは滅多に人になつきません。肩にまで乗っかったのですから、充分好かれたはずです。よかったですね先輩。フォウさんお世話係第二号ですよ」
「……ちなみに、一号は?」
「私です」
それ、滅多にというか君以外なついてなかったってことじゃ……。
そこへ、誰かが近づいてきた。シルクハットの帽子をかぶって笑みを浮かべた男性だ。
「おお、そこにいたのかマシュ。ダメだぞ、断りなしで行動するのはよくないと――おっと、先客がいたんだな。君は………今日から配属された新人さんだね?」
「えっと、はい。多分、そうです」
「随分と曖昧な返事だね……。もしかして、本当は不法侵入だったのかな?」
「……………」
返事に困るな。此処に来るまでの記憶が曖昧で、なんて言えばいいのか…。
「すまない、冗談だ! そんなに困った顔をしないでくれ。こちらまで困ってしまう。――と、挨拶が遅れた。私はレフ・ライノール。此処で働かせてもらってる技師の一人だ」
そう言って手を出してくるライノールさん。握手を求めているのだろう。俺はその手をはたき落とす――なんてことはせずに普通に手を出して握手した。
「よろしくお願いします、ライノールさん」
「ああ、よろしく。ところで、君の名は?」
あ、そういえばまだ名乗ってなかった。まあ、それはそこの娘も一緒だけどマシュと呼ばれていたし、そう呼べばいいだろう。
「――ライズ・アルスティと言います。以後、お見知りおきを」
――――――――――
ライズside
あれから少しの間あの場で話し、今は歩いてとある場所へ移動してる。ここまでの話で、此処がどういう所なのか聞いた。
此処はカルデアという施設で、人類最後の希望にして、かつてないほどの大偉業を行う人材が集められた場所。大偉業とは、詳しくはどんなことをするのか聞きたかったが、これからこのカルデアの所長の説明会があるらしく、それを聞いていれば大丈夫とのこと。今向かっているのは、その説明会が行われる中央管制室だ。
……しかし、途中で出てきた〈マスター〉、それに〈魔術〉というワード。まさか、
……いや、焦るな。このあとの説明を聞けば、詳しいことがわかるはず。判断はそれからにしよう。
「なるほど。ほとんど記憶がないのか……。それは今までにない事例だね」
「本当、自分でもわけがわかりませんよ。特に、名前はともかく変なネタに関してバッチリ記憶してる辺り呆れますね……」
「先輩。そんなに落ち込まないでください。ギャグのセンスもないにこしたことはありません」
「そういう問題か?」
ちなみに、さっきの話の最後に俺は自分が記憶障害を起こしてることを告げた。
…まあ、ちょっと盛ってるけどな。名前はもちろん、記憶にはほとんど支障はない。此処に来るまでの記憶は本当に曖昧だが。
なぜこんな嘘をつくのかというと……………初対面でいきなりだが、このレフ・ライノールはどこか胡散臭い。一見人当たりのよさそうな人物に見えるが、俺が此処に呼ばれたマスター適正者48人の最後の一人と知った時、本当に一瞬だがこちらを虫けらを見るような目をしていたのを俺は見逃さなかった。前にもこういうタイプの人を見たからわかる。……いや、あいつは話し方からして胡散臭さが滲み出ていたけどな。
――だがまあ、これはあくまで俺の勘にすぎないし、今は普通に対応しよう。確証もないのに嫌うのは人としてどうかと思うしな。
「っと、着いたよ。此処が中央管制室だ。少し予定時間を過ぎてしまったから、中に入ったらなるべく早めに自分の立ち位置に行くように。所長はその辺に厳しいからね」
「わかりました」
ライノールさんが扉を開けて中に入る。俺もそれに続いて入ると、そこには広い空間があった。部屋全体が青く、部屋の中心にある巨大な地球儀のようなものが特徴的だ。俺以外の人は全員来ているようで、既に人の壁ができていた。
「……………」
部屋を見渡していると、鋭い視線が飛んできているのに気づく。そちらを見ると、銀髪の女性がこっちを睨んできていた。あの人が所長か…。
――まあ、そんなことより。
「……眠い。とてつもなく眠いぞ…」
確かに俺は睡眠時間が多い方だし、眠ること自体も好きではあるが昼間(?)からこんな睡魔が襲ってくるのは初めてだぞ。
「大丈夫ですか、先輩? シミュレーターの後遺症がまだ残ってるようですね。できれば医務室に連れていきたいのですが……」
「わかってるよ。何か言われる前にさっさと行くさ。ところで俺の立ち位置ってどこ?」
「えっと………先輩の番号だと、最前列ですね。空いてるところに行ってください」
「了解」
「さあ、お喋りはここまでにしよう。これ以上は目をつけられるよ?」
既に手遅れな気がするんですが……。とりあえず、俺たちはそこで離れ、俺は最前列に向かう。前に行くと1つだけ空いてるところがあった。………真ん中だ。
これで目をつけられるなという方が無理な話だろ。しかも最前列だし…。
暗くなりつつも、女性の正面に位置するところに立つ。すると、ずっと睨みつけてた女性が口を開く。
「時間通りとはいきませんでしたが、全員そろったようですね」
――あー、ダメだ。やっぱり眠い。これじゃあ、すぐにでも意識が飛ぶぞ。
「特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガ――」
――――――――――
…………………バシッ! …………ベチッ! ……………………ガンッ!!
――――――――――
「せ、先輩。大丈夫ですか?」
「ああ。なんか顔中が痛いこと以外は特に問題ない」
「いえ、その顔について心配していたのですが……」
目が覚めるとさっきいた廊下でまたマシュに心配されていた。一瞬無限ループかと思ってビビったが、さっきとは違い顔が痛いのでホッとした。いや、これでホッとするのもおかしいんだけどな。
「えーと…………もしかしなくても説明会の時、俺寝てた?」
「はい。20秒もしない内に顔が下を向いてました。その後、所長が先輩に平手打ちをしましたがまだ寝ていたので、更に平手打ちをしました。ですがまだ寝ていたので、遂にはパンチに変わり所長が諦めるまで殴られ続けてました。結局起きなかったので追い出されてしまいましたが……」
「反省してる」
ここまで支障をきたすとは…。一刻も早く医務室に行って寝たいところだ。
「ところで、実際のところ先輩はどの辺りまで起きていましたか? 顔が下を向いていたとはいえ、まだ意識はあったりしませんでしたか?」
「ん~、確か所長の名前辺り」
「本当にすぐ眠っていたんですね……」
ごめんね。こんなどうしようもない野郎でごめんね。
「で、でも! 所長の名前はしっかり覚えてるぞ! オルガ――」
そこまで言って固まってしまう。そういえば、あの人の名前の途中で意識が途切れた気がする。
「オルガ………。オルガ……!?」
「覚えてないのなら無理に言わなくてもいいんですよ?」
マシュの優しさが痛いです。だが、ああ言った以上はしっかり言ってやる!
「オルガ………! ――オルガナイザーG1!!」
「先輩。成し遂げたような顔をして言っても誤魔化し切れてませんよ」
ですよねー。記憶の片隅からそれっぽい単語を引っ張ってきただけです。すいません。
「所長の名前はオルガマリー・アニムスフィアです。本人の前で間違ったらまた殴られますよ?」
「それは勘弁だな。以後、気をつけるよ。――ところで、俺たちはどこに向かってるんだ?」
さっきから話しながら歩いてるが、目的地がどこかわからない。
「そういえば、言ってませんでしたね。今は先輩に与えられた個室に向かっています。医務室でもよかったのですが、自室の方がゆっくりできると判断しました。あと、先輩はファーストミッションから外されたので、ゆっくり休憩できますよ」
「そっか。ありがとう」
さりげなく初陣の先延ばしが伝えられたが、まあいいか。こんな調子で行っても足手まといになるだろうし。
それにしても、まだ会って1時間も話してないというのに、この娘には世話になりっぱなしだな。あ、そういえば…。
「なあ、マシュ。なんで俺のこと――」
「フォウ!」
「きゃっ!?」
俺が質問しようとした時、マシュの顔にフォウが跳びかかってきた。
「お、おい! 大丈夫か、マシュ!?」
「は、はい。いつものことですので問題ありません」
マシュがそう言ってると、フォウは顔から離れて背中に行き、最後は肩に乗っかる。
「フォウさんは私の顔に奇襲をかけ、そのまま背中へ回り込んで、最終的に肩へ落ち着きたいらしいのです」
「慣れた対応だな。フォウの面倒は結構前から見てるのか?」
「はい。フォウさんがカルデアに住み着いてから一年ほど経ってますから」
そんなに前からいるのか。なのに今までなついたのは二人だけか…。
「フォウ。クー、フォーウ! フォーウ!」
「ん、なんだ?」
「待ってください。ふむふむ………。どうやらフォウさんは、先輩を同類として受け入れたようですね」
「同類ってなんの? 獣か?」
「さあ、そこまでは…」
まあ、そりゃそうか。言葉がわかるわけじゃなし。
「――と、それは置いといて。さっきの質問の続きをしていいか?」
「はい、どうぞ」
「なんで会って間もない俺を先輩って呼ぶんだ?」
「……………」
なぜか黙り込んでしまった。え、なんか地雷踏んだ?
「答えたくないなら別にいいぞ? そこまで気になることでもないし――」
「あ、いえ、大丈夫です。私にとって先輩くらいの年齢の人は皆先輩なんです。でも、口に出して呼ぶのは先輩が初めてですね。………もしかして、嫌でしたか?」
「いや、そんなことないさ。それに、前にも後輩からそう呼ばれてたことがあったからな。これからどう呼ぶかも、マシュの自由にしてくれ」
まあ、あっちは苗字のあとに先輩だったが。……それが一般的か。
「……ありがとうございます、先輩」
そう言ってこちらに微笑んでくるマシュ。……やっぱり、かわいいな。
「あ、先輩。着きましたよ。此処が先輩に割り当てられた個室です」
俺がマシュに見惚れている内に、目的地に着いたようだ。
「あ、ああ。ありがとう、マシュ。世話になりっぱなしで悪いな」
「いいえ。私が勝手に世話を焼いているだけですので、気にしないでください」
けどなー、申し訳ないというか…。何かお礼がしたいが……。
俺があーだこーだ考えてると、マシュが声をかけてきた。
「あの、先輩。申し訳ないんですが、私はもう戻らないと。ファーストミッションのAチームですので……」
「ああ、わかった。そんなに暇でもないのに、本当悪いな…」
「ですから、気にしないでください。そんな申し訳なさそうな顔をされたら、私まで困ってしまいます」
「ああ、悪い――って、さっきからこれしか言ってないな」
思わず苦笑いすると、マシュはくすりと笑って返してくれた。……優しくてかわいいって、なんだこの理想的な女の子は。ある種の感激を覚えていた。
身近にいた異性は、親友の家に飯食いに来るいい加減な教師と、優秀なくせにどこか抜けた宝石魔術師に、優しくはあるが親友にお熱が入った後輩しかいなかったからなぁ……。弓道部のあいつは……確かに美人だけど、直接的な関わりはほとんどなかったんだよな。もう少しそういうのに積極的だったらよかったか?
「キュー…………キュ!」
「今度はなんだって?」
「フォウさんが先輩の面倒を見てくれるそうです。これなら安心ですね」
「俺がこいつの面倒を見るの間違いじゃ――」
「フォーウ!!」
「うわ、ちょ!? 何すんだフォウ――ああ、すまん! 俺が悪かった! だから頭の上で暴れるな!」
俺の言葉に腹を立てたのか、フォウはマシュの肩から俺の顔に跳びかかり、その後頭の上に登って髪を引っ張るなどして暴れ始めた。慌てて謝ると、フォウはようやく頭から降りてくれた。
フォウはこちらの言葉がどういう意味なのかわかるようだ。非常にやりづらいぜ……。
「ダメですよ先輩。フォウさんは見下されるのが嫌いですから」
「そういうのは先に言ってくれないか…」
あと笑ってないで助けてほしかった。
「すいません。以後、気をつけるようにします。――それでは先輩。私はこれで失礼します」
「ああ。色々とありがとう。次会った時にでも、この恩は返すよ」
「はい。楽しみにしてます」
マシュは最後にもう一度微笑んで立ち去っていった。残された俺とフォウで少し見つめ合う。
「……とりあえず、入るか?」
「フォウ!」
フォウに一声かけると、フォウは俺の背中に飛びかかって肩に乗っかる。肩の上が好きなのか?
そう思いつつも、部屋の自動ドアを開ける。
「ハァ……ハァ……。マギ☆マリ最高だよ、マギ☆マリ……!!」
俺の部屋らしき場所には、何故か先客がいた。少し変わった白衣を着た、薄いオレンジ色の髪をした男性が、携帯端末を見ながらベッドの上でハァハァ言ってる。
「「……………」」
俺たちは黙ったまま後ろに下がる。自動ドアは誰も通すことなく閉まった。
「………フォウ。俺の部屋は隣だな」
「キュ」
そのまま左を向いて隣の部屋に向かう。
「――ちょちょちょちょちょっと待って!!」
だが、二歩歩いたところでさっきの部屋にいた男性が飛び出てきて俺たちを呼び止める。あまり関わりたくないのだが、仕方なく止まって振り返る。
「なんですか? 部屋を間違えたのは申し訳ありませんでしたが、俺たちは何も見てないのでご安心を」
「いや、嘘だよね!? 忘れようとしてるだけでしっかり見たよね!? とにかく、部屋に入って!」
結局、俺たちは半強制的に部屋に入らされた。
――――――――――
「あはははは! なんだ、此処の部屋に来る予定の人は君だったのか。それを先に言ってくれればいいのに」
「あなたの弁明が長々と続いたから言えなかったんですが……」
詳しくは語りたくないが、マギ☆マリ、マギ☆マリうるさかったとだけ言っておこう。
「あはははは……………………で、誰にも言わないでくれるかい?」
「言いませんよ。むしろ忘れたいくらいなんですから」
「それはそれでなんか傷つくなぁ……」
どうしろというんだ。
「こ、この話題は終了しよう! とにかく、自己紹介といこうじゃないか。名前を知らないのも不憫だし」
「まあ、そうですね」
「じゃあ、僕から。――ロマニ・アーキマン。此処カルデアの医療機関のトップさ。呼び方だけど、皆なんでかDr.ロマンと略すんだよね。まあ、そう呼んでくれても構わないし、名前で呼んでくれても構わないよ」
「ライズ・アルスティです。よろしくお願いしたくないです」
「うん。こちらこそ――って、よろしくしたくないの!? あまりにさらりと言われたからスルーしちゃうところだったよ!?」
「ああ、すいません。つい本音が。悪気はなかったんです、Dr.マロン」
「悪気しかないよね!? 絶対わざとだよね!?」
「そんなことないですよ。他人の部屋でハァハァ言ってた人とは関わりたくないとか、せっかく休めると思ったのに邪魔しやがってとか、全然そんなことは考えてませんよ。Dr.メロン」
「今のこそ本音でしょ!? というか、いい加減ちゃんと呼んでくれないかな!?」
「わかりました。Dr.ロンパ」
「それも違うよ! というかドンドン離れていってるよ!」
おぉ、ここまでツッコミを返してくれるとは中々の腕だ。
「冗談ですよ、Dr.ロマン。――ところで、質問してもいいですか?」
「冗談とは思えなかったんだけど……。まあ、いいよ。それで、質問って?」
「あなたがいる此処は、医務室に見えますか?」
「……………」
目を逸らすな。
「サボってたんですね……。ったく、よりによって医療関係の人がそんなんで大丈夫なんですか?」
「ぼ、僕だって好きでサボってるわけじゃないぞ! 所長に追い出されて仕方なく待機していたんだ!」
「けど、医務室じゃないですよね?」
「うぐっ……。で、でも、現状から考えるにライズくんも追い出されてきたんだろ!? 本当ならレイシフト実験でスタッフは全員現場に出ているはずなんだから!」
「まあ、否定しませんよ。正確にはファーストミッションそのものから外されましたけどね」
「そのものから? 一体何をしたんだい?」
「説明を聞かずに眠ってました」
「そりゃ怒られるよ……」
この人から呆れた視線を受けるとは心外だ。
「そういうロマンさんは、なぜ追い出されたんですか?」
「ん、僕かい? 僕はほら、あくまで医療が仕事だからさ。皆の健康管理が仕事だから、やる事がなくて暇だったんだよ。魔術師のバイタルチェックは機械の方が確実だし。で、そんなところを所長に見られて『ロマニが現場にいると空気が緩むのよ!』って言われて追い出されたんだ」
「結構理不尽な追い出され方ですね」
ただ、空気が緩むという点に関しては否定できない。この人といるとなんかいつもより明るくなってる気がする。
「そうだろう!? それで空いてるこの部屋に来て一人でマギ☆マリに癒されていたってわけさ」
「あー、はいはい。それはもうわかりましたから」
「凄く面倒臭そうに言うね!? ――それより、さっきから気になっていたんだけど、君の肩にいるその生き物。それが噂の怪生物?」
ロマンさんがフォウを指差しながらそう聞いてくる。
「そうじゃないですか? ただ、自分はマシュから預かってるだけなので、詳しくは知りませんが」
「フキュー!」
「あー、悪い悪い。面倒見られてるのは俺だったな」
自分が預けられてる言い方が嫌だったようで、頭をペシペシと前足で叩いてくる。まったく痛くないが、一応謝っておく。
「マシュから? ということは件の生物で間違いないね。話は何回か聞いていたから。にしても、本当にいたとはね。よし、手なずけてみよう!」
「無理だと思いますよ。一年いてマシュ以外になついてないんですから」
「じゃあ、なんで今日来たばかりのライズくんになついてるんだい?」
「マシュ曰く、気に入られたらしいです。詳しいことはよくわかりませんが」
「それなら僕だって充分なつかれる可能性があるじゃないか。それじゃあ、お手。うまくできたらお菓子をあげよう」
「……………」
ロマンさんがフォウの前に手を出すが、フォウはその手を黙って見るだけ。
「…………………キュウ」
ようやく反応したと思ったら、俺の首に器用にしがみついて後ろに隠れた。
「あ、あれ? なつかないどころか、なんか嫌われてない?」
「あー、あれじゃないですか? さっきの光景で危険人物と思ってるのでは?」
「お願いだからもう忘れて!」
――――――――――
『ロマニ。あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』
あのあと、フォウにロマンさんは(俺たちに対しては)危ない人じゃないと教え、しばらく雑談していると突然通信が入った。声からして、相手はライノールさんのようだ。
「僕が? レフ、今更行ったところでやることないだろう? だからそこから追い出されたんだし」
『そうでもない。Aチームはともかく、Bチーム以下の慣れていない者に若干の変調が見られる。不安からくるものだろう。コフィンの中はコクピット同然だから』
「う~ん、それは気の毒だ。麻酔をかけて落ち着いてもらおうかな?」
『ああ、急いでくれ。今医務室にいるんだろ? そこからなら二分で到着できるはずだ』
そのままライノールさんは通信を切る。………医務室なら、な。
俺は無言でロマンさんを睨む。反論できないようで、バツの悪そうな顔をしてる。
「うう、そんな目で見ないでくれ……。しかし、此処からだと五分はかかるな」
「倍以上じゃないですか」
「ま、少しくらいの遅刻は許されるでしょ。Aチームは問題ないみたいだし」
倍以上の時間差があるんだが。
「よくそんな適当な判断でクビになりませんでしたね。意外と甘い人なんですか所長って?」
「まさか。むしろ厳しい人だよ。僕は運がいいだけさ」
ドヤ顔で言わないでください腹立たしい。
「まあ、他の人たちは僕なんかより才能のあるもっと優秀な人ばかりだけどね。その人たちが集まってようやく今回のミッションが実現するわけだし、僕は正直場違いな気もするけど、呼ばれたのなら行くしかないね」
そう言ってロマンさんは立ち上がる。仕事があればしっかりするのな。
「ライズくん。話し相手になってくれてありがとう。今度、医務室を訪ねてくれ。美味しいケーキくらいはご馳走するよ」
「わかりました。お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとう。それじゃあ――」
――その時、突然目の前が真っ暗になった。
どうやら、気絶したわけではないようだ。体の感覚は全部ある。
「なんだ? 明かりが消えるなんて何が――」
次の瞬間、大きな音と共に部屋全体が揺れた。
『――緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。――繰り返します。中央発電所、及び中央――』
赤い警報ランプが点滅し、それと同時にアラームと緊急アナウンスが鳴り響く。というか、今中央管制室って言ったか……!?
「火災だって…!? 一体何が……!? ――モニター、管制室を映してくれ! 皆は無事か!?」
ロマンさんが慌てて部屋にあるモニターを操作して映像を映す。それは中央管制室の映像――のはずだ。
何故はずだと言ったのかというと、そこはさっき行った場所とは思えないほどに荒れ果てていたからだ。壁にはヒビが入り、機材もほとんど壊れ、青かった部屋は部屋中に広がる炎によって赤く染まり。唯一特徴的だったあの地球儀のようなものがあるおかげであの部屋だと判断できる。
「……何処の地獄だ、これは?」
それはまさしく地獄絵図。動く物も揺らめく炎しか確認できない。
「……ライズくん。すぐに避難してくれ。僕は中央管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖するから、その前に君だけでも外に出るんだ!」
少し前までのどこか軽い空気を纏ったロマンさんはそこにはおらず、真剣な表情でそう言い残して走り去っていった。
取り残された俺とフォウ。だが、することは決まっている。
『私はもう戻らないと。ファーストミッションのAチームですので……』
――マシュが、あそこにいるんだ。何もお返しできないまま、死なれるのは困る。
「……フォウ。マシュを助けに行くが、お前はどうする?」
「フォウ!」
この時、フォウがどのような意見を言ったのか、俺にもわかった。
「よし。――それじゃあ、行くぞ。ちょっと我慢してくれ」
肩に乗ってるフォウを胸に優しく抱える。今は一秒も惜しい。
「――――
俺は魔術で脚力を強化し、自動ドアを開けずに跳び蹴りでぶち破る。そのままの勢いで廊下の壁に着地し、管制室に向けて走り出す。現状、俺が壁を走っている絵面だが、一々下に下りる暇もない。
凄まじいスピードで駆け抜けること10秒。見覚えのある背中が見えた。
「ロマンさん!」
「ん? って、ライズくん!?」
一旦壁から下りてロマンさんの前に着地する。
「何してるんだ君は!? 第二ゲートは逆方向――」
「話してる暇はないですよ! とにかく、背中に乗ってください! その方が速い!」
「え、いや、君は避難を――」
「早く!!」
「ああ、もうわかったよ! ただし、隔壁が閉鎖する前に戻るんだぞ!」
背中にロマンさんが乗ったのを確認して、再び走り出す。
「うわ、ちょ――はやすぎ――!?」
後ろでロマンさんが何か言っていたが、俺は気にせず走り続けた。
――――――――――
あれから一分ほどで中央管制室に着いた。ロマンさんが腕を押さえていたが、少しキツかったか?
にしても――
「直に見ると、更に酷いな……」
熱い。とにかく部屋中の炎で室内がとても熱い。これじゃあ、生き残りがいてもすぐに体力を奪われるぞ……!
部屋に入って二人で周りに生き残りがいないか捜すが……。
「……………ダメだ。生存者はいない。無事なのはカルデアスだけだ」
その言葉を聞いて、俺は歯を食いしばる。間に合わなかったのか……! マシュ…!
「……それと、調べててわかったけど、これは事故じゃない。此処が爆発の基点となった、人為的な破壊工作だ」
それはそうだろう。人が集まるこの管制室と、発電所が同時に火災なんて、偶然で起こりえることじゃない。にしても――
「一体、誰が……!!」
『動力部の停止を確認。発電量が不足しています。予備電源への切り替えに異常 が あります。 職員は 手動で 切り替えてください。隔壁閉鎖まで あと 40秒。 中央区画に残っている職員は速やかに――』
いつの間にかタイムリミットもあと40秒。これ以上留まるのは危険か……!
「……ライズくん。僕は地下の発電所に行く。カルデアの火を止める訳にはいかないからね。君は急いで第二ゲートに向かうんだ。さっきの脚力ならそう時間はかからないだろうけど、これ以上は危険だ。外に出て、外部からの救助を待つんだ!」
ロマンさんはそう言って走っていく。地下への階段に向かったのだろう。
だが、俺は出口に向かわずに足元に落ちてる瓦礫の方に向かう。まだ時間はある。最後まで諦めねぇ……!
『システム レイシフト最終段階に移行します。 座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』
…………は? 俺はそのアナウンスに動きを止めてしまう。2004年、しかも冬木だと!? それって――
「フォウ! キュー!」
「――っ!? わ、悪い、フォウ!」
フォウが声をかけてくれたおかげでなんとか正気に戻った。落ち着け! 今は生存者を捜すのが最優先だ!
改めて瓦礫をどかしながら辺りを見渡す。
――ガラッ
少し離れたところでそんな物音がした。そちらに目を向けると――
「――マシュ!!」
瓦礫の下敷きになり、頭から血を流しているマシュの姿が見えた。
俺は全速力で跳び、瓦礫をどかす。
「マシュ、しっかりしろ!」
「……………………あ……」
なんとか目を覚ましてくれたが、その体はあまりにも悲惨な状態だった。マシュは大きめの瓦礫に潰されたためか、瓦礫が乗っかっていた体の骨のほとんどが砕けているようだった。
「まだ生きてるな!? 待ってろ! 今此処から脱出して――」
「いい、です………助かりません、から。……先輩も…………理解して、ますよね……?」
「言うな!! どうにかして助けるから、諦めるんじゃねぇ!」
クソッ! こんな状態じゃ運ぶだけでも……! 何かないのか!?
望みをかけて辺りを見渡すが、あるのは瓦礫や死体のみ。医療器具なんかは当然ない。
その時、ある変化に気づいた。
電源が落ちて黒くなっていたと思った地球儀が、真っ赤になった。その赤は、今目の前にある炎のような色合いだった。
「あ………」
マシュもその様子を見て小さくも驚いた声を出す。
『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました』
またしても、アナウンスが流れる。……そうか。何回か単語だけは聞いたが、あの地球儀がカルデアスか……!
『シバによる近未来観測データを書き換えます。近未来百年までの地球において 人類の痕跡は 発見 できません。 人類の生存は 確認 できません。 人類の未来は 保障 できません』
不吉なことを告げるアナウンス。………どういうことだ? 人類がこの百年以内で滅ぶとでも言うのか?
「カルデアスが………真っ赤に、なっちゃいました……。いえ、そんな、こと、より――」
『中央隔壁 封鎖します。 館内洗浄開始まで あと 180秒です』
っ、ヤベ――!?
「……隔壁、閉まっちゃい、ました。……もう、外に、は」
「……いざとなれば、無理やりぶち破るさ」
口ではそう言ったが、正直無理かもしれない。俺は特殊な体質で使う魔術は精神の影響を受けやすい。色々と動揺した今の状態じゃうまく発動できない。
『コフィン内マスターのバイタル 基準値に 達していません。 レイシフト 定員に 達していません。 該当マスターを検索中……発見しました。 適応番号48 ライズ・アルスティ を マスターとして 再設定 します。 アンサモンプログラム スタート。 霊子変換を開始 します』
マスターだと? そう思っていると、辺りに光の粒子が――いや、俺が粒子になっているのか!?
「………あの……………せん、ぱい。手を、握ってもらって、いいですか?」
「――マシュ?」
こんな時に何を? そう思ったが、マシュは至って真剣な目をしていた。
「………おやすい御用だ」
マシュの手を優しく握る。そうすると、マシュは何も言わずに微笑んだ。
『レイシフト開始まで あと3』
このままだと、俺たちはどうなるのか――
『2』
だが、予想はついている――
『1』
これから行くのは、
『全工程
これより――輪廻に従い、運命を修正する。
ライズ・アルスティ
身長:179cm
体重:72kg
好きなもの:ラーメン、睡眠(もの?)
嫌いなもの:キノコ、安眠を妨害する全て(もの?)
特技:目を閉じて10秒で眠る(環境によって前後する)
解説:顔立ちは凄く整ってる。金髪を肩まで伸ばしており、青いツリ目。服の上からはわからないが、体をかなり鍛えており脱いだらすご――ゲフンゲフン。性格はクールな方だが、ボケたり暴走してる時は止まらなくなることが多々ある。中卒で、カルデアに来る前は日本でアルバイトに勤めていた。そのため、日本の知識と日本語はバッチリ。実はある秘密を隠している。
魔術師としての解説:使える魔術や戦闘スタイルは、完全な魔術師(物理)特化。基本の身体能力が常人の上をいくため、魔術で強化をかけると凄いことになる。特殊な体質で、魔力がライズの精神に反応しやすいため、動揺してる時などはうまく魔術を使えなくなる。
使用魔術