白露型の艦娘達と別れた後、運悪く金剛や川内などの比較的俺に絡んでくる子や、逆にあまり関わりの少ない長良や五十鈴と会ったおかげで執務室までの道のりがえらく遠く感じられた。
絡まれるだけなら適当にあしらうことが可能だが、この前に潮と角でぶつかりそうになった時はかなり驚かせてしまったらしく、泣かせてしまったからな・・・。
本当にあんな気の弱い子が本当に任務をこなせるのか、というところは大きな疑問となりえるだろうが心配はいらない。
彼女の・・・いや、彼女たちの戦闘時の表情は鎮守府にいる時とはまるで違う。
本能、というものなのだろうか。
こういったことはあまり言いたくないが、彼女たちはやはり俺たち人間とは一線を画す、まったく別の存在。
そう、"兵器"なのだと断言せざるを得ないのかもしれない。
そんなこんなで執務室に着いた俺だが・・・。
扶桑、だいぶ待たせてしまったのではないか?
怒ってなければいいが・・・。
ん?何やら中から話し声がする。
そーっと扉を開け、中を確認する。
そこにいたのは・・・。
「あら、姉様。私たちの話を盗み聞きしようとする不届き者がいるようですね」
少し中を確認するつもりで開けたのだが気づかれたか。なかなかの索敵値だ。
そして悪い予感的中。
この上司に対する失礼なものの言い方。
巫女を連想させるような白い着物を身に纏い、赤く短いスカート。
パッと見ると、姉と見分けがつかないくらいよく似た姉妹の妹の方、山城である。
姉の扶桑と異なる点といえば、扶桑がたっぷりと蓄えられた黒髪であるのに対し、山城は肩につくかつかないかといった短めの長さで切りそろえられているというところか。
「何が不届き者だ。ここは俺の部屋だし、俺からすればお前が不届き者だぞ」
こう言い返し俺と山城が視線をぶつけ合い、火花を散らしていると思わぬ声が。
「そうだよね・・・ごめん、提督。僕たち邪魔だよね。行こう山城。扶桑も仕事あるだろうし」
んん!?
山城の体に隠れて見えなかったがどうやら時雨も一緒に来ていた!
「い、いや、時雨。別に邪魔というわけでは無いぞ?ああ、大いにいてくれても構わないが、しかし訓練などの予定は消化したのか?もともとお前は今日一日遠征要員だった予定が変更になっているんだ。もう直ったのならすべきことがあるんじゃないのか?」
ああ、また最後の方にかけて語気が強く・・・。
「そうね、時雨。この男は私たちが邪魔なようだわ。さぁ、行きましょう。今日は私も付き合って射撃訓練をしましょうか」
時雨はうん、と返事はしたものの肩を落とし、明らかに落ち込んでいる様子だった。
くそッ、山城に上手くダシに使われてしまった。
時雨と山城が出て行き、賑やかだった部屋が静かになり、自分の呼吸音までなんとなく気になる状態というものに寂しさを感じる。
資材管理。午後の演習艦隊の確認、および編成確認などの簡単な雑務に一通り目を通しているといつの間にか2、3時間は経過していた。
集中していると時の経過は早いものだ。
グッと伸びをして万年筆を机に置く。
「ねえ、提督」
執務室の沈黙を破ったのは扶桑の俺を呼ぶ声だった。
「随分と遅かったのね?今日は二人が遊びに来てくれていたからまだよかったけど、普段なら怒り心頭よ?」
さっきの話、やはり遅かったか・・・。
「や、何。金剛や長良達と話していてな」
「長良さん?珍しいのね」
「部下である艦娘とのコミュニケーションも大事だろう?その一人一人と毎日話すことは難しい。ここにいるのはけして少数ではない人数だからな。だから廊下で会った時くらい些細な事でも話すことが大切だと思うわけだよ。確かに私は、君たち艦娘の事は自分の野望を叶えるための一手段としか思っていない。しかしそんなことを少しでも滲み出させてみろ。俺と君たちとの関係が破綻し、この鎮守府自体の運営が立ち行かなくなる。ましてや俺の野望などもってのほかだ。俺は徹底的に猫を被る。これはお前たちを
上手く話をすり替えられたか・・・?
俺の言葉を聞いた扶桑は何やら嬉しそうな表情を浮かべ寄って来た。
「はい。もちろんです、提督。私だけが、あなたの理解者です。例えあなたが私を理解しようとしてくれなくても私はあなたを理解したいの」
そして俺の耳元でこう呟く。
「・・・いつものお願いできますか、提督。あなたに、断る権利は無いわよね?」
先ほどまでの優しい声ではなく、刺々しく俺を責め立てるような声色に悪寒を感じる。
しかし、その声の奥底にはどこか寂しげで儚さも混ざりあっているようであった。
明かりを消し、真っ暗になった執務室にろうそくの明かりが灯される。
ゆらりゆらり。
炎の揺れをジッと見つめていると、なんだか自分の体、心まで揺れているような感覚に陥る。
『いつものお願いできますか』。彼女のこの言葉が、開戦の合図。
「提督・・・そこは、アッ・・・ンッ、ダメ・・・」
「お前がお願いしたのにダメだなんて、随分な物言いじゃないか?」
艶めかしく擦れ、細々とした声を発するのは扶桑。
彼女が秘書艦になってしばらくしてからは毎晩のようにこのような事をしている。
「そこ、そこです提督・・・。すごく気持ちイイ・・・アッ・・・」
そこがいいと言われた箇所を優しくさすってから、先ほどよりも少し強めに押し込んでみる。
次はその周りからほぐしていき、徐々に中心に向かって移動させていく。
このように緩急をつけたり、バリエーションを持たせることで、快感に飽きが来ずに長く楽しませてやることができるのだ。
「ンッ、もう十分よ、提督。今日もありがとう。なぜかしら、すぐに肩が凝るのよね、歳かしら?不幸だわ・・・」
そうだな、俺が思うに君のその大きく前に飛び出した胸部にその疑問の解決の糸口を見い出せると思うのだが。
こんな事を言うと41cm連装砲を向けられそうで怖いな・・・。
正直、扶桑が俺の秘書艦であるというのは俺にとっての利益はあっても扶桑にとっての利益は無いに等しい。
扶桑が俺に好意を寄せてきているのはわかるが、俺はそれにこたえるつもりは無いからだ。
恐らく、他の艦娘達が秘書艦の席を欲しがっているというのは扶桑と同じような感情を俺に抱いているからなのであろう。
もちろん、俺は大々的に誰の好意も受け取るつもりはないだなんて言うわけはない。
それは先ほどの話と同様、艦隊の士気に関わることだからだ。
扶桑はそれでもいいと言ってくれている。
しかしそれではいくら何でもと非情にはなりきれなかった俺が言うと、それではと扶桑が提案してきたのがこの『肩もみ』である。
罪悪感が無いわけでは無い。
俺は『野望』だの『記憶』だの、そんな不確かな言葉に陶酔し、縛られ続けているただの大人になりきれなかった子供なのかもしれない。
しかしだからと言ってこの、酷く歪な関係を終わらせる勇気は俺には無かった。
途中悪ふざけが入りましたが、これR-18タグつけなきゃダメって程では無いですよね?ね?(ろーちゃん並感