オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚11

深夜の海。夜空は満月の光に照らされ、海にもその月光が降り注ぐ時、阿鼻叫喚や轟音が絶えまなく聞こえてくる。

 

ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

「レリィー!レリィー!?」

 

「ウィル、逃げてっ!」

 

「ダメ、今助けるっ!【水よ―――】」

 

ヒュンッ!

 

「あぐっ・・・・・!」

 

「ウィルーッ!?」

 

船に冒険者が乗っている前提で襲いかかる人魚族(マーメイド)達。過去を振り返ってもここまで卑劣で苛烈な迎撃や攻撃は無く、今回が初めてであった。大量の小舟に乗っている冒険者達によって海に落とされる樽は一拍して大爆発を起こし、人魚族(マーメイド)達の肌を焦がし、衝撃波でダメージを与える他、隙を見せれば槍や銛で貫かれ、投げ放たれた縄で首を絞められて海から引っ張られ、船の上から魔法の攻撃が雨のように降り注がれる。何隻もあった巨大な船は残り僅かとなっているが、人魚族(マーメイド)達の被害も甚大だった。

 

「よぉーしっ!お前ら、ここから引き上げるぞ!これ以上欲を掻いたらこっちまでやられちまう!」

 

小船から大船に引き摺り上げられる人魚族(マーメイド)達。海から、水から離れだした瞬間に魚の下半身が、見る見るうちに人間と変わりない二本の足へと変化して人魚族(マーメイド)は全裸のまま両腕に、怪我を負っても手錠を掛けさせられる。尚も攻撃してくる人魚族(マーメイド)達には爆発する樽と魔法、槍で応戦する。

 

「ははっ、今回は大量に人魚族(マーメイド)を捕獲できたな」

 

「ああ、これで主神様も喜んでくれるだろう。人魚族(マーメイド)を眷属にしたら俺たちはもっと強く成れるからよ」

 

「後は人魚族(マーメイド)から金に成る物を絞るだけ絞ってその辺に捨てればいいってか?」

 

「おいおい、宝玉を取り出すのかよ。気持ち悪い・・・・・」

 

「それこそおいおいじゃねーかっ!こいつらは人間じゃねぇ、人魚族(マーメイド)というモンスターだぜ?一匹か二匹ぐらいは良いだろ。なあ、団長」

 

団員達に話を振られた恰幅の良いスキンヘッドの男は億劫そうに答えた。

 

「指定された人魚族(マーメイド)の数だけ商人に引き渡せば後は俺達の好き勝手にできる。それまでは人魚族(マーメイド)に手出しするなよお前ら」

 

団員達に釘を刺す団長は人魚族(マーメイド)達の姿を視界に入れる。どれもこれも上玉で自分の物にしよう、どこかに高値で売りさばこうという悪意の気持ちを抱いてもおかしくない。現に団員達は下種な笑みと会話をしている。そんな冒険者達を乗せている船は戦場と化し静けさが戻った海から離れていく。僅かな船以外取り残された海には、樽や船の残骸、暗い海にうっすらと滲む赤い色―――。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

朝弁当の販売の休日の日。アテネから弁当を受け取ってダンジョンに潜ろうとしない一誠は南の歓楽街に足を運んでいた。早朝の時間帯で建物は全て閉じ待って静まり返っていた【イシュタル・ファミリア】の支配域。人魚族(マーメイド)との出会いから数日経つが一誠はヘルメスの言葉が頭から離れず、少なからず罪悪感に似た気持ちと人身売買という商品として扱われる理不尽な運命に対する不快と苛立ちが一誠を突き動かした。【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)に気配を殺して侵入し、目的の女神がいるであろう部屋へ一直線に侵入した。相手は寝ていようが関係ないとばかり、高級な布団の中で静かに寝息を零している女神に声を掛けた。

 

「イシュタル。起きろ」

 

「ん・・・・・誰だ」

 

「俺だ」

 

「・・・・・。―――ひっ!?」

 

不快にも女神たる自分を起こした者に文句の一つでも言おうとしたが、イシュタルは相手は誰なのか気付いて一気に顔を青ざめた。

 

「な、何しに来た!?ま、また何か要求か!」

 

「まあ、要求みたいなものか。お前に頼みがある」

 

「頼みだと・・・・・?」

 

恐怖する者から頼まれる。理解に苦しむが、一先ず冷静に話を聞こうとするイシュタル。全裸のままだが一誠は完全に眼中にないのか真っ直ぐイシュタルの顔を見つめるばかりだった。

 

「春姫を売るような商人がいる、人身売買が行われている裏の場所を教えろ」

 

「・・・・・なんだい、まさか欲しい女でもいるのか?」

 

弱みが握れそうな、それも自分しか頼めない状況下に立たされている一誠であると分かってイシュタルは余裕の笑みを浮かべた途端。

 

「―――くだらないことを聞くな。今度は本気でドラゴンに喰わせるぞ。お前はただ俺の質問に答えるだけでいい」

 

一誠の足元の影から黒いドラゴンが涎を垂らしてイシュタルを見ていることに恐怖を思い出され全身を震わせながら何度も首を縦に振った。

 

「わ、わかったっ。わかったからそのドラゴンをどこかに・・・・・っ」

 

その要望に応えるように黒いドラゴンは霧散した。

 

「教えてくれるな?」

 

「教える。だが、場所は人身売買として用意される男や女、亜人(デミ・ヒューマン)の価値の違いで売られる場所は度々変わる。間違ってでもギルドに発覚されない為にね」

 

人魚族(マーメイド)だったら?」

 

「・・・・・随分と価値のある種族だね。それだったら私の方でも小耳に挟んでいるよ。最近とんでもない物が貿易商に運ばれたって。それが何なのか分からなかったが人魚族(マーメイド)だったら納得する。春姫よりは高く―――わかった。言うからその睨みは止めてくれ」

 

再度、場所はどこだと催促する。イシュタルは一誠の執着心に興味を抱くが、それは二の次にしてドラゴンに喰われる恐怖から逃れたい為、詳細を告げた。

 

人魚族(マーメイド)を欲しがる奴はごまんといる。お前さんも知っているかもしれないが人魚族(マーメイド)程の価値の高い種族はオラリオに来る可能性は確実にある。数十年振りのことだからあの場所は賑やかになるだろうねぇ」

 

「それはどこでやる?」

 

イシュタルは人差し指を立たせた。

 

「ここさ。私の支配下の外にある繁華街で行われる。賭博場(カジノ)でな」

 

それを聞いて用が済んだとばかり踵返そうとする一誠を呼び止めた。

 

「正式に入らないとその場所に行けるどころか取引ですらできないよ。裏の取引にはそれ相応の警戒があるんだ。その警戒網を突破しないとお前がしたいことは成功すらできない」

 

「・・・・・だったら、どうすればいいか教えてくれるな?」

 

振り返り有無を言わせない一誠のプレッシャーに冷や汗を掻かせながらイシュタルは気丈に振る舞う。

 

「ああ、教える。だが、条件がある」

 

天蓋付きの高級なベッドから全裸のまま、一誠に近づき妖艶な笑みを浮かべて

 

「今日一日、お前の時間を私に寄こせ。そしたら連れて行ってやる。真正面から堂々とな」

 

「・・・・・」

 

「私に頼ってきたんだ。他の神では分からない情報を確実に持っているであろう(わたし)のもとへ来たんだ。なら、私から得た情報の代金としては安いものだろう?」

 

いやらしい笑みも浮かべ、両腕を一誠の首の後ろに交差させて豊満な胸を押し付けた。

 

「あの処女神には黙ってやる。今日一日限りの付き合いをお互いしようじゃないか」

 

イシュタルの思惑は定かではないが、一誠はただ溜息を吐いた。

 

「嘘吐いたら即ドラゴンの餌にする」

 

「あ、安心しな。神は嘘は絶対に吐かない」

 

「そうか・・・・・お前でも嘘は吐かないなら」

 

褐色肌の顎を摘まんで隻眼の金色の瞳をイシュタルの目を覗き込む。

 

「お前の要望通り、今日一日付き合ってやる」

 

「ふふっ・・・・・光栄に思いな?私が抱いた子供はお前が初めてだぞ?」

 

「なら、お前を満足させるように応えてやらないと失礼というやつか」

 

―――何時の間にか数人の一誠が増えていて、イシュタルを横抱きに抱えてベッドに連れていき、

 

「こ、こいつらは!?」

 

ソファに腰を下ろしだして寝転がる一誠は言った。

 

「俺の分身体だ。そいつらだけでも充分だろ。―――甘美な快楽に溺れてろ」

 

と主神の部屋からイシュタルの嬌声が何時しか悲鳴となるのは時間の問題であった。

 

 

 

今夜の繁華街は何時も通り賑やかだった。しかし、良く見れば顔に仮面を被った男女やボディガードマンとして付き沿う冒険者が見掛けては何かを楽しむ予定なのかいやらしい笑みを浮かべる男神の姿がちらほらと賭博場(カジノ)へ足を運んで行く様を見受ける。その場に銀髪に顔を隠す仮面を被る少女に付き沿う真紅の髪の冒険者。賭博場(カジノ)の中へ侵入し不審な動きをせず威風堂々と歩いていく。

 

ポンポン

 

と、少女の肩に誰かが触れた。振り返り自分を触れた者の姿を見たらアテネは目を丸くした。

 

「やあ、やっぱり来ていたんだね」

 

大して変装すらしていな何時もの格好のヘルメスが朗らかに笑みを浮かべてアスフィを付き沿わせてこの場にいた。

 

「あなた、どうしてここに?」

 

「はっはっはっ。ここの常連客とだけ言っておくよ。しかし、例の場所に行くならアレが必要なんだけど君は持っているのかい?初めてだろうこんな所に来るのは」

 

「ええ、とある女神とこれから待ち合わせをするのよ」

 

女神?と誰のことかとヘルメスは首を捻っていたら向こうからやって来た。

 

「なんだい。ヘルメスまでもいるとはね」

 

「え、イシュタル?」

 

「今さっき声を掛けられたところなのよ」

 

思いがけない神物に呆然なヘルメスを気にせずアテネと二Mはある巨躯のアマゾネスを引き連れて現れたイシュタルが会合を果たした。

 

「ゲゲゲッ!あん時はよくもアタイの顔を燃やしてくれたなぁ~?護衛なんてなかったらお前を滅茶苦茶にしてから食べてやりたいところだったよぉ~!」

 

「また、燃やされたいか?というか、顔を近づけるなッ!?」

 

眷属同士も会話していたが一触即発だった。

 

「イシュタル。もっとマシな劵族を連れてこなかったの?思い切り目立つじゃない」

 

「取引は自分のホームに戻るまでは終わったことにはならないんだよ」

 

「・・・・・どういうこと?」

 

「アテネ、取引が成功しても最後まで油断はしちゃいけないのさ。ここは『迷宮都市』オラリオだぜ?」

 

そう言われてもアテネは怪訝に眉値を寄せて解らないと気持ちを醸し出す。

 

「ヘルメス。あなたは何を求めてここに来たの?」

 

「うーん。秘密と言いたいところだけど俺達はほとんどただの見物人として来ているだけなんだよね。欲しい物があったら買うけど」

 

「・・・・・そう。まぁ、いいわ。イシュタル、案内してちょうだい」

 

「分かってる。フリュネ、いつまで遊んでいる。行くぞ」

 

三柱の神と三人の眷属が行動する。イシュタルが先導する形で突き進む先は黒を基調とした意匠と装飾が凝った扉を開いた状態の所だ。扉の前には立ち並んで一人ずつ何かをまるで門番のように佇んでいる黒服のヒューマンの二人組に見せてから中に入れるようで、アテネ達の番となった。慣れた手つきでイシュタルはカードを見せたがそれはアテネには無い物であった。

 

「この二人は私の連れだ」

 

「規則です。カードを拝見させてもらわない限りは」

 

職務を全うしようとヒューマンが頑になって入場を拒むことを予想していたイシュタルは艶やかな笑みを浮かべ、親指を背後に指した。

 

「固いことを言うな。いいだろう?じゃなきゃ、こいつがお前らを食べてしまうぞ」

 

ゲゲゲ、と裂けた口を限界まで吊り上げて笑みを浮かべたイシュタルにあっさりと通らせた男達。フリュネの存在を存分に活かしたイシュタルに「おお・・・・・」と感心した。

 

「流石イシュタル。今度このデカブツを貸してくれ。面倒な連中の魔除けに成りそうだ」

 

「だ、そうだフリュネ」

 

「そいつらを喰わせてくれるんなら考えても良いぜぇ~?」

 

「ああ、やるよ。見合う男かどうか分からないが骨の髄まで喰え」

 

何という会話のバトンリレー。アスフィは息を静かに零し扉の向こうを潜れば斜め下に連なる数多の席とその目の前に赤い幕が下ろされた状態のステージらしき空間が視界に飛び込んだ。

 

「イシュタルとヘルメスはどうやってそのカードを手に入れたのよ」

 

「貿易商に賄賂と合い言葉を言うだけで簡単にもらえるのさ。その際、【ファミリア】のエンブレムを見せないといけないけど」

 

アテネもいるかい?と問われると即座に一誠が欲しいと答えたことでヘルメスはにんまりと笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、今度エンブレムが出来たら教えてくれ。まだ、自分の本拠(ホーム)を持ってないんだろう?」

 

「一応、あるらしいわよ。ダンジョンの中にね」

 

「・・・・・マジで?」

 

「マジで」

 

一番奥の座席に座るアテネ達。フリュネの体格では席が潰れるオチなので、席の背後の通路に座らせる他ない。邪魔そうにフリュネを一度見る参加者達だがギョロリと睨まれる大きな目玉に畏怖の念で委縮し、違うルートから自由に席へ座りに行ってしまう。

 

「ところでアテネ。【ファミリア】の貯金はどのぐらいあるんだ?人魚族(マーメイド)の価値は軽く一〇〇〇万ヴァリスを超えるよ」

 

落ち着いた状態となってヘルメスは肝心のことを聞き出すと、アテネは一誠に灰色と青色の双眸を向けつつ答える。

 

「ここ数日、イッセーが店を休んで【ロキ・ファミリア】と行くことすら断わって、ダンジョンに籠りっぱなしだったわね。イッセー、その時の稼いだ額はどのぐらいだったの?」

 

「ああ、やっぱり長期間ダンジョンにいると何時も稼いでいる額の倍となったよ。んと、軽く一億は超えた」

 

「「んなっ!?」」

 

「あら、今まで最高の稼いだ金額ね。―――私との時間を削ってそれ以下だったら許せなかったわ」

 

「大丈夫。今後はゆっくりとアテネと一緒にいるよ」

 

甘々なムードを展開する二人と一人でそこまで稼いだ一誠に戦慄に似た驚愕をするヘルメスとイシュタル。

 

「イ、イッセー君。軽くそれなら、全部でどれぐらいだったんだい?」

 

口答じゃなく人指し、中指、薬指だけを立てる一誠―――三億ヴァリスを稼いだLv.1の冒険者。

 

「んで、【アテネ・ファミリア】が貯蓄しているのと合わせれば・・・・・一三億ヴァリス以上はあるな」

 

「残念ね。せっかく一〇億ヴァリス突破できたのに」

 

「しょうがない。数日ダンジョンに籠れば三億ぐらいは稼げれると分かったんだ。また一ヶ月貯めればいい」

 

何度もアテネと一誠の口から出る巨大な数字の金額。ヘルメス達はもう言葉を失っていると、扉が閉まる音が聞こえたと同時にステージの幕が開いて肥え太った体と頬が垂れるほど肉が付いた顔のオークとも勝らない太っちょのヒューマンがギチギチと太った体を収めきれないと悲鳴を上げる黒い服を身に包んでシルクハットの黒い帽子を被っているという出で立ちで登場した。

 

「あいつが商人の中で一番の権力を持ち富を築いた豪商人だよ」

 

イシュタルが一誠とアテネにそう告げた。覚えておいて損はないとばかりに。

 

『ほっほっほっ。皆様、今宵も足を運んでいただき誠に感謝の至れり。今年は十年振りの物凄い商品をご用意させていただきましたので、是非とも皆様方に購入してもらえることを願うばかりです。では、話はここまでにして―――オークションを開催しましょう。まずはこちらからです』

 

ついに始まった闇のオークション。最初にステージに出され、用意されたのは有機物と無機物の商品だった。

「むむっ」とヘルメスが唸るほどの商品なのか、そんな物かとつまらなさそうな態度をするイシュタルとは真逆な反応するから、

 

「イッセー、アレはとても高価な物なの?」

 

「さあ、俺にも分からん」

 

価値が分からない一誠とアテネは首を傾げる一方だった。価値が分かる者しか値段と思しき数字が暗闇のステージに飛び交う。しばらくすれば高額の値段で落札された。

 

「何時もこんな感じなのか?」

 

「ああ、大して変わらないね」

 

「だが、今回の大目玉ともいえるべき商品がオークションに掛けられるとこんな騒ぎなど囁かれた声のようにも思えるさ」

 

それが何時になるか分からないが、オークションは次々と売買されていき主催側もほくほくした顔で御満悦に綻ばしている。

 

『―――以上を持ちまして、以下の商品の全てが落札されました。では、いよいよ今宵のメインに入ります』

 

あれだけ騒がしかった会場は静まり返り。この時を待っていたかのように参加者達は声を殺して呟く程度で商品をステージに用意されるその時を待った。

 

「そろそろかな?」

 

「だろうね」

 

ヘルメスとイシュタルの予想は当たった。ステージの方からジャリと鉄の擦れる音が聞こえ始めた。耳を傾け、目を目蓋をする暇も惜しいばかりにステージへ向けていると瞳に生気がなく絶望と恐怖で色塗られた顔の若い男女達が手錠や鉄球付きの足枷で拘束されたまま姿を現してきた。

 

「アテネ。暴れて良い?」

 

「終わってからにしなさい」

 

一誠から感じ始める怒りを宥めるように手を握って抑える。種族はバラバラな商品として扱われている者達がステージに現れる中、一誠はふと見覚えのある赤髪の女性を見つけた。

 

「あれ、ギルド員の亜人(デミ・ヒューマン)じゃん」

 

「え、本当かい?」

 

赤髪の狼人(ウェアウルフ)。担当のハーフエルフの同僚だったはずと頭の中で記憶の糸口を探りつつ肯定する。

 

「間違いない。髪の色が同じだから覚えているよ」

 

「そうか。とうとうギルドの子供にも手を出すようになったか。冒険者ではない上に商業の中じゃ巨大な権力を有しているから、彼と彼と関わりある者達はやりたい放題だろうね」

 

「後で助けるからいいけどな。今は―――」

 

『今宵のメインディッシュとも言える商品はこちら―――人魚族(マーメイド)ですっ!』

 

布一枚だけという出で立ちの、魚の鰭のような耳はヒューマンではないという証は誰でもすぐに分かった。会場は歓喜と絶叫が湧きあがり、滅多に姿を見せないという人魚族(マーメイド)の全貌を目の当たりにして興奮が収まらなくなるほど嬉々としていた。

 

「イッセー。頑張って」

 

「ああ、分かってる。あの時知り合った人魚族(マーメイド)もいるからな。もう、他人事じゃない」

 

人魚族(マーメイド)は10人。手持ちの金額と最悪の考慮すればギリギリか、と一誠は細めた眼をヘルメスに向ける。

 

「ヘルメス。この会場に貴族、もしくは莫大な富を持っている奴はいるか?」

 

「え?んーと、悪い。流石に俺はそこまで知らないな」

 

「そうか・・・・・まずは様子見としよう」

 

人身売買の競りが行われ始めた。ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)を指名する今回のオークションの主催者に応える参加者はそれなりにいては他人の人生を金で買っていく。後で全員強奪してやろうと悪だくみを考えた一誠の耳に主催者の声が弾んだのが分かった。

 

『それでは最後に―――人魚族(マーメイド)の競りを行います!一〇〇〇万から始めます!』

 

「本当に一〇〇〇万ヴァリスからなのね・・・・・」

 

「並の冒険者だとこの値段で一気に候補から崩れ落ちる。王侯貴族や最も位が高い人物、もしくは最大派閥の【ファミリア】であれば人魚族(マーメイド)を手に入れられる」

 

「以前人魚族(マーメイド)を手に入れた奴はいたか?」

 

「以前はいなかったよ。【アストレア・ファミリア】が正義の名の下に今より治安の悪かったオラリオを徹底的にならず者や他の【ファミリア】を粛清していた際に人身売買が行われている闇のオークションも壊滅させたからね。その時捕えられていた人魚族(マーメイド)は全員、海に送還された」

 

ヘルメスから聞かされるかこのオラリオととある【ファミリア】。

 

「【アストレア・ファミリア】?」

 

「もう壊滅した派閥だけどね。主神は行方知れず、団員達も全滅だ。ただ一人除いて」

 

その団員は誰なのかヘルメスの口から語られることはなかった。その間にも人魚族(マーメイド)の競りは―――。

 

 

『一億ヴァリス!』

 

 

とうとう一億という値段が一人の人魚族(マーメイド)を落札しようとしていた。会場にいる参加者達は誰も食い下がろうとはしない。この時点で一億以下しか参加者達は持っていないという事実が証明された。だからこそ一誠は打って出た。

 

「一億五〇〇万」

 

『―――っ!?』

 

一億を上回る額が一誠の口から出たことに会場にいる面々は一斉に背後にいる一誠に振り返った。

 

『ぐっ、一億五五〇万ッ!』

 

まだ粘る。人魚族(マーメイド)という種族は金になる存在であると知っててか、それとも知らないで己の欲望の為に欲するのか定かではないが相手が悪かった。

 

「一億二〇〇〇万」

 

『なっ!?』

 

おおおおおおおおおおっ!と会場が湧きあがった。主催者は満面の笑みを浮かべ、一誠が発した金額以降食い下がる者の声が聞こえなくなったところで口を開いた。

 

『では、一人の人魚族(マーメイド)は一億二〇〇〇万として落札!ここからは一億二〇〇〇万から競りを行います!まだまだ人魚族(マーメイド)は九人もいますからねぇ~?』

 

主催者の思惑を察知し、席から立ち上がって意識を一身に集めさせて高々に述べた。

 

「残りの九人の人魚族(マーメイド)、一億二千万―――合計十億八〇〇〇万とさっきの赤髪の狼人(ウェアウルフ)の落札した値段を上回る五〇〇〇万で買い取らせてもらう」

 

『はっ!?』

 

「ああ、他のヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)達も俺が全員買わせてもらう。纏めて一億で、だ」

 

傍若無人、そして十億以上の額の金を投資した一誠に一人残らず言葉を失った。

 

『・・・・・本当に十億というお金は用意できるんでしょうね?』

 

主催者は疑問をぶつけた。見るからに若い少年だ。とてもじゃないが十億という大金を持っているようには思えない。そんな風に考えていると真紅の髪の少年が席から一気にステージまで跳躍して目の前に着地した。

 

「証拠が必要なら見せてやるよ」

 

突如として出現した魔法円(マジックサークル)―――膨大な量のヴァリスがジャラジャラと音を立てさせてステージに落としていく。大量の金貨は落ちながらも勝手に積み重なっていき、やがて金色の大きな山と化したのであった。

 

「十三億五〇〇〇万ヴァリス。目の前の現実を受け入れないんじゃ商人としての目は節穴だぞ?」

 

嘲笑の笑みを浮かべ挑発する一誠に対し主催者は苦笑いを浮かべた。

 

「・・・・・分かりました。全ての商品をあなたに引き渡しましょう」

 

「話が早くて嬉しいな」

 

十人の人魚族(マーメイド)達やヒューマン、亜人(デミ・ヒューマン)に振り返り、安心させる温かい笑みを浮かべた。

 

「お前達の人生は俺が守ってやるよ。だから安心しろ」

 

この日の夜。一人の少年が売買された者達を買い取り、人生を救ったという話は後に話題となった。闇のオークションは全ての商品が売買されたことで速やかに終わって参加者達も誰とも分からない真紅の長髪、隻眼の金色の瞳の少年という存在を記憶に焼き付けて去っていく。人魚族(マーメイド)達は速やかに一誠に引き渡され、主催者が笑みを浮かべて「またのお越しをお待ちしております」と言うなりいなくなった。

 

「アテネ。俺は人魚族(マーメイド)達を海に返してくるからその間、他のヒューマン達をロキんとこに預けて貰えないか?」

 

「なるほど、最大派閥に預ければ手も出しようもない、か。考えたねぇーイッセー君」

 

一人一人の枷を物理的な力で解除していく一誠は言い続ける。

 

「まっ、その道中アスフィとフリュネにも同行してもらうけど。アテネ達の護衛としてな」

 

「まだ私らを顎で使うか・・・・・」

 

「んー、乗り掛かった船だ。アスフィ、頼めるかい?」

 

「仕方がないですね。ですが、イッセー。あなたの方がよっぽど狙われるのでは?」

 

アスフィの尋ねに大丈夫だと笑みを浮かべる。十人の人魚族(マーメイド)を手に入れた者が襲われるわけがないが、一誠もそれを把握、理解もしていて問題ないと告げる。

 

「空から行くから襲われはしないさ」

 

「空、からですか?」

 

とても空を飛んで行く道具(アイテム)すら無いに等しい一誠の姿。一体全体どうやって海まで行くのか、アスフィは人魚族(マーメイド)の枷を外しかかる一誠に疑問の視線を向ける。

 

「あ、あのっ」

 

「うん?」

 

「本当に私達を海に帰してくれるの・・・・・?」

 

恐る恐ると自分達を買った冒険者に尋ねる人魚族(マーメイド)。まだ信じられないのか、不安の色が瞳から消えて無くなっていなかった。

 

「ああ、絶対に海へ帰す。安心してくれ」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・お願いがあるのっ」

 

「お願い?」

 

バキッ!と首輪を外したところで人魚族(マーメイド)が一誠の腕を掴んで懇願した。

 

「―――私達以外に連れて行かれた仲間を助けてっ!今日は満月だから宝玉が、私達の命が抜かれちゃう!」

 

それは悲痛の叫びにも聞こえた。

 

―――○●○―――

 

「ハハハッ!お前ら、よーくやってくれたな。これで【ファミリア】は富も名声も思うままに成った!人魚族(マーメイド)を眷属にした【ファミリア】なんて他の神連中にはいないだろうし自慢にもできるってわけだ!」

 

主神の調子のいい声が聞こえてくる、とある敷地も広く建物もそこそこ大きい【ファミリア】のホーム。団長を含む団員達は捕えた十数人の人魚族(マーメイド)を囲んでホーム内での祝杯を繰り広げていた。手首にきつく縄で縛られた人魚族(マーメイド)の背にははっきりと神聖文字(ヒエログリフ)で刻まれた【ファミリア】のエンブレムが浮かんでいて既に己の意志とは無関係な眷属の契りを結ばれていた。まるで奴隷の証のように。

 

「これからお前達は俺達の仲間に成ったわけだ。よろしくねぇー?人魚族(マーメイド)ちゃーん」

 

「しっかし見ろよおい。全裸だって言うのに誰一人恥じらいもしねぇなんて流石は海のアマゾネスだなっ!」

 

「気性の荒いアマゾネスとは違ってこっちは淑やかな種族だ。羞恥心なんて概念は無いだろう」

 

「だったらホームの中では服を着させず全裸でいさせようぜ!そんで触り放題だ!」

 

捕らわれた人魚族(マーメイド)の末路―――。人魚族(マーメイド)達は泣きもしない怒りもしない、恨みの呟きすら発しない。異様な雰囲気を醸し出し、無表情で床を見つめる人魚族(マーメイド)達に男神が近づく。

 

「おいおい人魚族(マーメイド)。そんな辛気くせぇ面すんなって。俺達の仲間に成ったんだからもっと喜べよ。海の中で男を襲わず地上で男を襲えば子孫は作れるだろう?まぁ、俺達がその手伝いをしてやるがなっ!」

 

うぉーっ!と拍手喝采が響き渡るホーム内にて団員達が人魚族(マーメイド)達に近づく。

 

「主神様。そろそろいいよな?」

 

「ああ、もう待ち遠しいぜっ」

 

「蛇の生殺しだ!もう俺のなんてガチガチのビンビンだぞっ!?」

 

酒で酔っ払っている団員や興奮している団員達は徐に服を脱ぎ出す。人魚族(マーメイド)との情事を心から臨んでいるのだとあからさまな言動で男神は「汚いモンを俺に見せるなっ!?」と苦情する。

 

「堪え性のない奴らだ。やりたければ自分の部屋でしてろ。俺も一人連れていくがな」

 

主神の許しを得た団員達は汚い獣のような雄叫びを上げ、我先と人魚族(マーメイド)達に群がった。人魚族(マーメイド)達の全身をいやらしく触り、欲望のまま思うがままに欲情をぶつけようとする団員達の耳朶に―――綺麗な歌声が聞こえてくる。

 

「・・・・・この歌は」

 

「いや、ありえねぇだろ?」

 

「でも、間違いねぇよ。これ・・・・・人魚族(マーメイド)の歌だぞ」

 

邪な心が高ぶった精神が静まり、聞き惚れる歌声に思わず耳を傾けてしまう。

 

「だけど、どうしてだ?オークションで人魚族(マーメイド)を手に入れた奴等が歌でも歌わせているのか?」

 

「じゃねーの?俺達には関係のない―――」

 

 

「―――私達は~」

 

「歌に愛され歌を愛する~」

 

「ラララ~」

 

 

突如、沈黙を貫いていた人魚族(マーメイド)が沈黙を破って歌い始めた。まるで外から聞こえてくる歌声に呼応するかのようだ。意識は二分にされ、ついには団員達は戸惑い始める。

 

「―――まずいっ!人魚族(マーメイド)どもが仲間を呼び出しているぞ!」

 

主神が眷属達に口を塞げと命令するが、

 

「いや、水場のないこの場所にどうやって助けるんですか?」

 

「そうだぜ。寧ろこっちに来てくれるならいいじゃないですか」

 

有利な地形にいると主神に対して余裕の態度でいる団員達。人魚族(マーメイド)の歌声に心から酔わされる団員は少なくはない―――時に絶望が訪れた。

 

ガチャ。

 

「ああ、本当にいたわね」

 

「な―――」

 

銀髪の長髪、灰色と青色の瞳を持つ一柱の女神があっさりと入ってきた。

 

「歌うの止めなさい人魚族(マーメイド)。迎えに来たわ」

 

その一言で人魚族(マーメイド)達は口を閉ざし、現れた女神に振り返る。団員達や主神も女神に目を丸くする。

 

「お、お前はアテネかっ!何をしに俺のホームに現れたっ!?」

 

「二つ」

 

人差し指と中指を立ててアテネは告げた。

 

「違法な手段で人魚族(マーメイド)を眷属にしたあなたに罰を与えに来た。そして人魚族(マーメイド)を海に帰す。ただそれだけをしに来ただけよ」

 

「―――ふざけるなっ!人魚族(マーメイド)は既に俺の眷属に成ったんだ。お前の思い通りに成るわけがない!いや、させるか!」

 

アテネの来訪の理由に激怒する男神は眷属達に命令した。

 

「捕えろっ!ただそれだけでいい、あいつの【ファミリア】の冒険者どもを牽制してやるんだ!」

 

主神の命に従い、簡単な作業をしようと取り押さえ掛かる団員達。アテネは悠然とした佇まいで、くすりと口の端を小さく上げた。

 

「私は一切あなたの子供に手出しはしないわよ」

 

「なに・・・・・っ!」

 

「するのは私の子供が買い取った人魚族(マーメイド)

 

次の瞬間。天井が何かによって吹き飛ばされ、満月を浮かばせる夜空に膨大な水の塊が浮かんでいた。『迷宮都市』オラリオを覆うほどの膨大な水の中に満月をバックにしていることで無数の影が窺える。

 

「な、何だあれは・・・・・」

 

「見ろ、水の中に人魚族(マーメイド)がいるぞっ!?」

 

水場のない場所で水の塊が浮かんでいる。人魚族(マーメイド)がいる水の塊は―――水精霊の加護を受けている状態と道理でもあった。

 

「ま、まずいっ!?」

 

水の塊から大粒の雨が降り注ぎ始める。

 

人魚族(マーメイド)の水魔法が来るぞぉッ!?」

 

団員の悲鳴はすぐに掻き消える。ザーッ!と土砂降りの雨が団員達の体に直撃し、徐々に膝を崩されついには四つ這いになるほどの雨の勢いと水の重さで団員達の動きを封じた。

 

「―――さて」

 

唯一、人魚族(マーメイド)の水魔法を受け付けていない空間に立っているアテネと男神。びしょ濡れな床を歩きだすアテネは真っ直ぐ眼前を見据えた。

 

「あなたに天罰を下しましょう」

 

「天罰、だとっ?」

 

「ええ、天界にいる神々からね?―――あなた達下界に降り立った神々を一人でも多く天界に送還してくれと頼まれたのよ。『神の力(アルカナム)』の使用許可を貰った上で私はこの地に降りてきたの」

 

アテネの全身から神々しい神秘の輝きが発光し出した光景に男神は信じられないと限界なまでに眼を大きく見開き、全身を震わせた。―――目の前の女神は本気なんだと実感して。

 

「もう充分楽しんだでしょう?なら、いい加減に天界に帰って仕事をしなさい。あなたの分の仕事はそのまんま残っているだろうし今まで下界にいた分の利息も増えているでしょうから」

 

手を男神に向けてかざすアテネに制止の声を張り上げる。

 

「ま、待てっ!?男神(おれ)を天界に送還したらとんでもない罰則(ペナルティ)を食らうぞ!それでもいいのかっ!?」

 

「ええ、別に構わないわ。私は天界にいる皆の願いを叶えるだけだし」

 

光が固形化し一振りの剣が具現化した。

 

「それじゃ、天界に戻ったら皆によろしくと伝えてね」

 

狙ってやっているのか、二柱の空間は一本道となっていた。他神のみ使用可能な神の力(アルカナム)を扱えるアテネに対し、『神の力(アルカナム)』を封印している男神とでは―――直ぐに結果が火を見るよりも明らかだった。

 

 

「・・・・・おお、綺麗だなー」

 

「ほ、本当にアテネはやったんだね・・・・・」

 

「恐ろしい女神だ・・・・・っ」

 

凄まじい轟音とともに巨大な光の柱が夜空に立ち昇った光景を、逆行する大瀑布のように、天空に突き刺さる光柱を見つめる一誠と二柱の神とその眷属達。

 

「まぁ、これでアテネの本気も分かっただろう?」

 

「・・・・・同時に天界にいる神々も色々とヤバいこともね」

 

「これじゃ流石のフレイヤもアテネには勝てないねぇ・・・・・」

 

盛大に汗を浮かべるヘルメスとイシュタルは送還された神の柱を何時までも見つめる。自分達の末路の後はこうなのだとアテネに見せつけられているように思えてしょうがない。

 

「イッセーッ!」

 

しかし、まぁ・・・・・。

 

「あんな笑みを浮かべるようになったのもイッセー君のおかげでもあるかな」

 

「天界じゃあ頑固で融通も利かない女神だったのにねぇ?」

 

己の眷属に抱きつく女神と女神に抱きつかれ抱きしめ返す眷属を見て軽く笑う二柱の神。

 

そして、それからの一誠達は―――。

 

「ロキー。しばらくの間で良いからこの子達を預かって。もしも冒険者に成りたいって願われたら全面的に叶えてやりなさい」

 

「はぁっ?おんどれ、いきなり来て何ぬかすんねん」

 

「ロキ、あなたの【ファミリア】は【アテネ・ファミリア】の傘下に降っていることを忘れてないかしら?」

 

「うっ!?・・・・・わかった。何が遭ったのか知らんけどしばらくの間だけ預かっておくで」

 

「話が早くて良かったわ」

 

売買されたヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)達を一時【ロキ・ファミリア】に預けてもらい、その後はヘルメスを通じてあの乗り物を利用し生まれ故郷に送り返すことに。そして人魚族(マーメイド)達は。

 

「もう、冒険者に捕まるんじゃないぞー!」

 

再び海へ戻って来られたことに感謝の声と手を振るう人魚族(マーメイド)達は一人、また一人と海の中へ姿を消していく。

 

「・・・・・ねぇ」

 

「ん?」

 

「助けてくれてありがとう」とまだ魔方陣を足場にして立っている一誠の傍にいる二人のうち一人の人魚族(マーメイド)が感謝の言葉を口にした。その場で跪き、人魚族(マーメイド)のレリィーの頭を触れる。

 

「どういたしまして。だけど、何度も助けられる訳じゃないから。もう本当に捕まるなよ?」

 

「うん・・・・・ねぇ、私達と一緒に暮らさない?私達や他の仲間もきっとあなたなら喜んで受け入れてくれると思うんだけど」

 

突然の思いもしなかった共存の提案に、ははっ、と苦笑いを浮かべた。

 

「海の中を生きるのって結構大変だと思うんだけど?人魚族(マーメイド)じゃないし俺」

 

「ああ・・・・・うん、そうだよね・・・・・やっぱり、人魚族(マーメイド)は恋なんてできないわよねぇ」

 

どこか残念そうに言葉を漏らした。しかし、一誠からも提案が。

 

「だったら俺と、俺達と一緒に暮らしてみないか?」

 

「それって地上に?」

 

「そうだ。俺がいる限り手出しはさせないことを誓う。地上にも地上の良さがあるんだぞ?美味しい食べ物とか気の良いヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)なんかもいる」

 

二人に微笑み誘い掛ける。

 

「種を超えた共存なんてオラリオでは当たり前のようにできている。二人が良ければの話なんだがどうだ?無理強いはしない二人の意志を尊重する。断わっても良いから話し合って決めてくれ」

 

レリィーと今まで黙っているウィルは顔を見合わせた。

 

「・・・・・私、恩返ししたい」

 

「ウィル・・・・・」

 

「私、このヒューマンだったら安心できる。み、身も心も・・・・・捧げれるっ」

 

はい?何だか話が変な方向になっているような・・・・・。一誠は二人の人魚族(マーメイド)の会話を静かに見守る中で疑問を抱く。

 

「あなた・・・・・本気?」

 

「うん」

 

「即答・・・・・はぁ、本気であなたはそうなのね」

 

呆れ混じりの溜息を吐くもののウィルの肩を掴むように乗せるレリィーは表情を緩ませた。

 

「たった一度の出会いなのに、友達でもないのに助けてくれたから好きになってしまうのも無理はないかもね」

 

「レリィー・・・・・?」

 

「今更私がダメなんて言っても、気持ちは変わらない。そうよね?」

 

気に掛けている友に申し訳ないという思いを抱きつつも一誠と共にありたいという思いが強くウィルは頷いた。しばらく会えない友との別れを思うと尻目に涙が浮かび―――。

 

「なら、私も行くわ!」

 

「「・・・・・えっ?」」

 

別れの雰囲気だったこの場に弾んだ声とともに一誠とウィルが思いもしなかった言葉がレリィーの口から発せられた。当の本人は笑みを崩さず自分の思いを告げた。

 

「ウィルを一人だけ地上に暮らさせるのはちょっと不安というか心配なのよ。それに地上のことは気になっていたし丁度良いわ。何よりも・・・・・」

 

にんまりとレリィーはウィルの耳元に口を寄せてこう言った。―――挑発の言葉を。

 

「こんなイイ男をみすみす逃す私じゃないわよウィル?」

 

それだけでウィルは悟った。この友人は一誠を狙っていると。好きな相手は誰だか知ってて、横恋慕してでも手に入れようとしているのだと。久し振りに怒りを覚え、頬を膨らませては海から勢いよく飛び出して一誠に抱きついた。

 

「ダメっ!この子は私が最初に恋したんだからレリィーにはあげない!」

 

「いいじゃない。ケチくさい女は嫌われるわよ?」

 

「ケ、ケチッ!?イイ男なら誰だっていいと言うあなたより誠実よ!」

 

「ブサイク男と交わりたくないってだけ。これでも私は分別している方よ」

 

何故か良い争いが発展してしまって仕舞にはレリィーまでも一誠に抱きついてそのまま海へ落ち、

 

「この子は私のぉー!」

 

「だからー!」

 

海の中で一誠争奪戦が始まった。

 

 

 

 

「・・・・・で、結局二人はあなたと一緒にいたいから連れて来ちゃったってことで良いのね?」

 

「ああ、【ファミリア】に入団させたいんだけど」

 

「はぁ・・・・・また、恋のライバルが増えるわね」

 

「その分、アテネの休めれる日が多くなるから俺と一緒にいられる時間も増える方だと思うけどな」

 

「・・・・・そう考えると確かに悪くないわね。ところで、どうしてここで立っているの?」

 

とある建物の屋上にてアテネと一誠が佇んでいる。疑問を浮かべるアテネに悪い顔を浮かべ出した一誠が口を開く。

 

「ここで受け取る予定何だ。―――と、言っている傍から来たな」

 

二人の前に突如として現れた魔方陣から・・・・・大量の金貨が積み上げられた状態で出てきた。アテネはどこか見覚えのあるもので、まさかと口にした。

 

「これって、私達のお金・・・・・?」

 

「そうだ。あの商人を俺の分身体が尾行していたんだ。んで、誰かに盗まれた痕跡を残して取り戻したわけ」

 

十二億の大金をたかが商人の力じゃ管理は難しい。どんな強固な金庫に仕舞っても魔法の一つで破壊してでも開けられてしまい、金庫を守る護衛がいても常日頃モンスターと命を懸けて戦っている冒険者のほうが有利。その金庫の番人が雇い主を裏切って我が物にしようとする可能性も低くないわけだが。

 

「い、何時の間に・・・・・でも、そんなことして良かったの?」

 

「俺達の金を不正な商売をする奴にやるかってんだ」

 

明日になれば大騒ぎして大損害を被るだろうなと悪い顔を浮かべる一誠は楽しげに笑った。

 

「あの場にギルド員の者がいて幸運だった。少なくともギルドに貸しを作れたからな。空いている土地の情報ぐらいはくれるだろう。だからアテネ」

 

 

―――俺達の本当の本拠(ホーム)に住もう。

 

 

静かで透き通った一誠の声は決意を秘めていた。アテネは一人の女神としてではなく女として潤った双眸を真っ直ぐ一誠に向けて頷いて抱きついた。

 

「うんっ、住もう。私達の本拠(ホーム)に」

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