オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚13

「―――ねぇ、オッタル?頼みがあるのだけれどいいかしら」

 

「なんなりと」

 

「コレを、あの酒場にいる真紅の髪の少年に渡してきて?でも、一冊だけあの子のじゃないから決して見ないように注意してちょうだい」

 

「・・・・・お言葉ですが、あの者にこれは不要なのでは?」

 

「ふふっ、そうでしょうね。でも、構わないの。察してくれると思うの、これは近づきの印だって」

 

「・・・・・はっ」

 

 

 

 

『豊穣の女主人』の朝弁当の販売はもはや日常と化しているだろう。そこに現れる消費者達が東西南北からのメインストリートから足を運んでくるほどの高い知名度を誇る。最近では一部の店も朝弁当となる物を売り出すようになったが、出遅れ気味でしかも色々劣っている。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「「い、いらっしゃいませー!」」

 

『うぉおおおおおおおおおっ!?』

 

人魚族(マーメイド)の二人も朝弁当の販売の手伝いをするようになり、さらなる『豊穣の女主人』の評判が鰻登り。

 

「地上の男って、どうしてこうもだらしない顔をするのかしら?」

 

「二人が美人なんだ。俺の自慢の女性だよ」

 

「そ、そう言われると照れる・・・・・っ」

 

今日も完売し、今日から始まる日課を一誠は促した。

 

「それじゃ二人とも」

 

意味深な一誠の言葉。それは二人の歌声をオラリオに聞かせることだ。拡張させるマイク型の機械を二人に持たせた。それは、オラリオ中に展開している小型の通信式魔方陣でウィルとレリィーの歌声を清聴してもらうためである。魔方陣から様々な楽器を発現させ、一誠自身もピアノを弾く準備をし合図を出す。

 

「「――――――」」

 

静かに息を吐いて透き通る声で歌い始める。耳障りな歌ではない。誰も楽しんで聞いてくれるような音色と歌声がオラリオ中に響き渡る。ウィルとレリィーに交じって一誠も歌い始める。

 

 

 

「―――アイズッ、この歌って」

 

「うん・・・・・イッセーの声も聞こえてくる」

 

「とても綺麗な歌声・・・・・」

 

「そうね・・・・・」

 

人魚族(マーメイド)の歌声だろう。全く、朝から驚かせてくれるな・・・・・」

 

人魚族(マーメイド)だって?【アテネ・ファミリア】に彼の種族がいるのかい?」

 

「ほほう、なら納得いくの歌じゃな。心まで楽しませてくれるわい」

 

「・・・・・けっ、うるせぇだけだ」

 

「ええ歌やなぁ~」

 

 

「・・・・・なるほど、あいつらの仕業か。朝っぱからやってくれるねぇ」

 

 

「ミアハ様、とても綺麗な歌です」

 

「うむ。そうであるなナァーザよ。私も聞き惚れそうな歌声だ。そして、どこか楽しませてくれる」

 

 

「この声は・・・・・あなたですか?もしそうだったら素敵な歌です」

 

 

「アテネの子の仕業ね・・・・・ふふっ、いい歌じゃないの」

 

 

「アスフィ、これは間違いなく彼らだ。ああ、彼のすることは本当に胸が躍るよっ」

 

「そのようですねヘルメス様」

 

「気持ちのいい歌だなぁー」

 

 

「タケミカヅチ様。この歌は・・・・・」

 

「今は静かに聞こうじゃないか」

 

 

「いい歌じゃないかベル君っ」

 

「そうですねぇー神様。リリも聞いているかな?」

 

 

「イッセー様・・・・・今日もリリはベル様と頑張りますよ」

 

 

オラリオ中に響き渡る三人の心から籠った静かで楽しい歌。いったいどうなっているのだと疑問が多いだろう。しかし、活気を満たしてくれるこの歌に耳を傾けられずにはいられなかった。

 

「―――ええ、感じるわ。伝わってくるわ。あなたの心から籠った歌声が・・・・・」

 

摩天楼(バベル)の最上階に君臨するように硝子の壁際に立っているフレイヤのところまでも届いていた。

 

硝子壁に手を添えて白皙の肌に朱を散ばせて、でもちょっと銀色の双眸に怒りの色が孕む。

 

「こんな形で『魅了』するなんて・・・・・嫉妬しちゃうくらい素敵じゃない」

 

 

 

「・・・・・伝わったかな」

 

「きっと伝わったさ。また今度しよう」

 

「練習にもなるわね」

 

周りから拍手が送られる中、一誠達はどもどもと手を振って応対する。

 

「さて、店の中に戻ろうか」

 

ウィルとレリィーは頷き、先に酒場の中へ戻っていく。ただ一人一誠は振り返って大通りを通る冒険者や無所属(フリー)の一般人達を一瞥して、

 

「何か用か?」

 

誰かに対して呟いた声は酒場の裏路地から岩のような体、錆色の双眸で獣耳を生やす二Mを超す亜人(デミ・ヒューマン)が姿を現した。

 

「敵意がないから放っておいていたが、何か用か?」

 

「受け取れ」

 

質問を返さず一方的に渡してくる分厚い本。雪を彷彿させる白銀と血の色より鮮やかな真紅の本。

 

「・・・・・?」

 

見ず知らず・・・・・いや、滲み出るプレッシャーと覇気・・・・・。一誠はすぐに理解した。【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者であるアイズ達より格上の存在であると。―――思いもしない最高の強者との巡り合わせに隻眼の金色の瞳に宿る好奇と戦意とともに口を三日月のように吊り上げる。

 

「お前がオラリオ最強の冒険者ってやつか。アイズ達より強いな確かに」

 

【フレイヤ・ファミリア】首領、二つ名は【猛者(おうじゃ)】オッタルであることを後に一誠は気付くだろう。思わず全身から戦意を醸し出し、最強の冒険者に己の力をオーラにして迸らせる。オッタルはピクリと微細に眉根を寄せた。

 

「戦いに来たわけじゃない」

 

「だろうな」

 

あっさりと戦意を消し、力のオーラも消し自然体に成る一誠は取り敢えずと突き出される本を受け取る。

 

「で、この二つも俺のなのか?」

 

「一つだけだ。もしもあの方に手を煩わせるようなことをすれば俺はお前を殺す」

 

「今ここで殺しておかないとお前の主神に牙を剥くかもしれないぞ?」

 

「―――抜かせ」

 

それだけ言い残し、踵返して再び路地裏に足を進め、一誠から離れオッタルはいなくなった。残された一誠は手元の本を見つめる。

 

「―――『美の女神』からのプレゼントってやつか。オラリオの神の考えはわからんな」

 

酒場に戻る一誠にリューが近づく。綺麗なエルフの顔が強張っていた。とてつもない気配を感じていただろうか、中から見えた表にいる一誠が戦意を醸し出すなど珍しいのだ。

 

「イッセー、誰かがいたのですか」

 

「ああ、多分、最強の冒険者だ」

 

「・・・・・そうですか。それで、それは?」

 

「わからない。リューは分かるか?」

 

ニャんだ?ニャんだ?とキャットピープルやヒューマンの店員達も興味津々と二人に近づいてくる。

 

「ミャーは本を読むほど博識(インテリ)じゃニャいのニャ」

 

「右に同じニャ」

 

「うん、知ってるから。黙ってていいよ?」

 

「「ぶっ殺してえニャ」」

 

一誠とリューはその本を観察する。どちらも分厚い本だった。真紅と白銀に塗装されており、どこか古い紙の匂いがする。表紙にはでたらめな幾何学模様が刻まれ、題名(タイトル)は何も記るされていない。

 

「・・・・・待って下さい。まさか、これは・・・・・」

 

「これは?」

 

何かに気付き掛けたリューだったが、その直後にミアの怒声が響き渡る。

 

「おい、馬鹿娘どもぉ!遊んでないでさっさと働きなァ!」

 

ちっとも捗らない店内の準備を見兼ね、女将のミアが奥の扉から声を轟かせた。一斉に肩を揺らした馬鹿娘達は一誠から素早く離れ素早い動きで仕事に戻る。

 

「ボウズ、まだいたのかい」

 

「あっ、その言い方は何かショック。そうだ、ミアさんなら知ってる?」

 

「ああん?何がだい」

 

二つの分厚い本を見せると、ミアは一誠と本を交互に見つめていたかと思うと、顔を思い切りしかめる。

 

「それはどこにあった?」

 

「あったというより、渡された。多分【フレイヤ・ファミリア】の冒険者に」

 

ミアは忌々しそうな視線を本に送りながら、心持ち平時より押し殺した声音で一誠に指示を出す。

 

「貰ったんならさっさと読んじまって捨てちまいな。たくっ、何を考えているんだがあの女神は」

 

具体的な事を教えてもらえず、結局は亜空間に仕舞ってアテネから弁当を受け取り、抱き絞め合ってからダンジョンに赴くのだった。

 

 

 

魔導書(グリモア)?」

 

「見間違いですらありません。これは魔法を強制的に発現する魔導書、グリモアです」

 

【ヘルメス・ファミリア】のホームに来訪し、アスフィに尋ねればそんな答えが返ってきた。

 

「『神秘』や『魔導』というスキルを極めた者にしか作製できない代物で、魔導書(グリモア)一つで【ヘファイストス・ファミリア】の一級装備品、あるいはそれ以上の値段で販売されます」

 

「うわー、そんな凄い物だったのか」

 

「ですが、使用制限は一度きり。効能が消え後にただの奇天烈書(ガラクタ)となりますが」

 

これをどこで手に入れたのですか?と意味深な視線が向けられ、素直に発した。【フレイヤ・ファミリア】から貰ったと。

 

「フレイヤ様が君に?もしかして、どこかで会ったことがある?」

 

「会ったのは一度きり。でも、話したことがないぞ」

 

同席してアスフィの傍にいるヘルメスが顎に手をやっては一誠に向かって「さてはイッセー君。気に入られたな」と呟いた。

 

「そうだ。朝のあの歌、聞こえたよイッセー君。人魚族(マーメイド)を入団させたんだね?」

 

「そうか。それはよかった。ああ、一緒にいたいって言われてアテネに頼んだ」

 

「そうなんだね。で、人魚族(マーメイド)の【ステイタス】はどうだったんだい?」

 

ニヤニヤと人魚族(マーメイド)を眷属に入団させた唯一の【ファミリア】に所属している一誠から聞こうとヘルメスは―――。

 

「え?」

 

思いっきり苦虫を噛み潰したかのような苦い表情となった一誠にアスフィは不思議そうに思わずと漏らした。ヘルメスも「ん?」と首を傾げた。

 

「あれは、もう二度と体験なんてしたくないっ」

 

「「・・・・・」」

 

聞くなと言わんばかりの雰囲気を醸し出して、一体何が遭ったんだろうかと疑問を浮かぶが触れたらとばっちりが来そうな気配を察知して「わかりました」とアスフィがヘルメスを止めた。

 

「でも、レアスキルだったってことは確かだな」

 

「―――ほほう?」

 

興味深い情報を聞けたヘルメスに釘を刺す。

 

「言ったらアテネに言うからなヘルメス。当然、酒を飲んでつい滑ってしまった―――なんてこともな?最悪、フリュネに喰わす」

 

迫力のある笑みをヘルメスに向かって浮かべ、脅迫する。一応は信用しているからこそ最小限の情報を与えた。だがしかし、ヘルメスのようなオラリオにいる神々は、『レアスキル』だとか『オリジナル』だとか、そういった特別な単語にアホのように反応しやすい。もはや子供のように、全力で興味をもって全力でちょっかいをかけたがるのだ。

 

「言わないっ!絶対に言わないよイッセー君!」

 

天界に送還されかねない、あの巨大なアマゾネスに喰われる恐怖と戦慄から本気で心から誓った。どっちも自分にしてみれば最悪の結末であると。

 

「・・・・・神を脅す冒険者がとうとう現れるようになりましたか」

 

何とも言えないとアスフィに一誠はさらりと述べた。

 

「アスフィも一度ぐらいすれば?特に歯止めが利かなくなった場合に」

 

「ええ、そうしましょう」

 

「ア、アスフィッ!?」

 

なんか自分の眷属が他派閥の子供に毒されていないか!?と橙黄色の目をこれでもかと丸くするヘルメス。

 

「あ、そうだ。ヘルメス、西のメインストリートに空いている土地、もしくは建物がないかわかる?」

 

「え、どうしてだい?」

 

「そろそろ本格的に【アテネ・ファミリア】のホームを欲しいんだ」

 

「あーそういうことか。うーん、ちょっと待ってくれる?」

 

何かを取りに行ってしまったヘルメスに残された二人は、

 

「これからの予定は?」

 

「何時もと変わらないかな。ダンジョンに潜ってドロップアイテムや道具(アイテム)を採取しに行く。もう金を稼ぐ必要性もなくなってきたし今の状況」

 

「あの十億という大金を使い果たしてもまだ余裕ですね」

 

「うん、裏からこっそり全額あの豪商人から奪ってきたからな」

 

返ってきた返答はアスフィを唖然とさせる一誠の発言だった。つまり人身売買にされた者達をタダで手に入れたと言うことになるのだ。

 

「アスフィは?予定がなかったら俺と一緒にダンジョンの中でデートしない?」

 

「デッ・・・・!?か、からかうのやめなさい。普通に言いなさい普通にっ」

 

「ははは。言い方次第でダンジョン攻略は楽しいじゃん。アスフィは美人なんだから他の男に言い寄られることもあるだろう?」

 

と、言われて「それは・・・・・」と言葉を濁す。ないわけではないが、全て断わってきた。―――あの、腹黒い自由奔放の神の相手で今は精一杯なのだ。異性と付き合うなどとそんな暇もない。

 

「はぁ・・・・・」

 

「なぜにそこで溜息を吐く」

 

「いえ・・・・・なんでもありません。それで、予定は特にありません。何時も通りヘルメス様の護衛として付き沿うだけです」

 

「それ、予定というもんじゃないか?」

 

「持ってきたよー」

 

ヘルメスが大きな巻物を持ってきた。何を持ってきたのかそれはテーブルに広げられてようやく分かった。

 

「オラリオの地図?」

 

「そうだよ。これで今のオラリオが分かると思うんだ。アスフィ」

 

主神の意味深に発する眷属の名を告げると、アスフィがその地図を触れただけで記されていたオラリオの全体地図が形作って盛り上がり、完全なる立体模型と化した。

 

「おおおおおおっ!」

 

「ふっふっふっ、良い反応だよイッセー君。アスフィが作製した魔道具(アイテム)の中で最高傑作の一つなんだ」

 

「アスフィ、パネェー!」

 

「おっ、神語かっ!」

 

訳の分からないことを言いだす二人を余所に集中して一誠の要望通りの空いている土地や建物を模索するアスフィ。都市の中で行き交うヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)の姿ですら再現されていて、どこで何をしているのかも把握できるのだ。

 

「イッセー。少し残念ながらあまりないですね。殆ど使用されているか使われなくなった廃墟と化している建物しかないです」

 

しばらくした後にアスフィから出た言葉はあまり言結果ではなかった。しかし、一誠からすれば一筋の希望が見えていた。

 

「や、廃墟と化している建物があればいいんだ。で、それの大きさと土地の広さは?」

 

「・・・・・大雑把で言えば―――」

 

―――○●○―――

 

アスフィからの情報をもとに万神殿(パンテオン)に足を運んで担当員のアドバイザーにも助力を求めようとしたが、

 

「変わった?」

 

「はい、申し訳ございません。あなたのアドバイザー担当者は私ではなくなりました」

 

ハーフエルフの女性の口から告げられるアドバイザー変更。疑問で首を傾げる一誠にハーフエルフは説明口調で語った。

 

「あなたの担当者に成りたいと、他のアドバイザーに願われまして、上司もお認めに成られてしまったので」

 

「何でそんな事になったんだ?」

 

「それは・・・・・」

 

ちらりと翡翠の瞳をとある人物へ向けたので隻眼の金色の瞳も釣られるように彼女が向けている視線を追うと、

 

「あなたが一番ご存知かと」

 

「うん、めっちゃ知ってる」

 

変わらず働いている姿を窺わせてくれる赤い長髪の狼人(ウェアウルフ)を二人揃って視界に入れた。

人身売買の被害者の一人だ。ハーフエルフは一誠に振り返り、セミロングのブラウンの髪を突き出すように頭ごと垂らし、

 

「当ギルド員の者を助けていただき誠にありがとうございます。全ギルド員の代表として私エイナ・チュールが深く感謝の言葉を送ります」

 

エイナ・チュールというハーフエルフの行動を見ていた他のギルド員達も一斉に頭を垂らして感謝の念を伝わらせた。流石に一誠も動揺する。

 

「いや、頭を上げてくれないか?あの時は俺も目的があった訳でたまたま救えただけなんだ。無事ならそれでいいんだよ。でも今後、夜道の帰りには細心の注意を払うべきだ。ギルド専用の冒険者を雇ってでも安全に帰る為にも」

 

「・・・・・かしこまりました。忠告として深く受け入れ上司と打診してみます」

 

その後、変わった担当員のもとへ近づくと赤髪の狼人(ウェアウルフ)の女性が一誠に気が付いた。

 

「久し振り。元気そうで何よりだ」

 

「あなたのおかげで今もこうしていられます」

 

気の強そうな女性は恭しく頭を下げた。一時【ロキ・ファミリア】に庇われ、ほとぼりが冷めたところでギルド本部に姿を現すと久しく見なかった彼女を心配してくれた同僚達にことの詳細と経緯を説明した。

 

すると―――。ギルドの者を手を出したその商人と関わった者達の徹底調査が、上にも内密な独断調査が行われた。

ギルド員が人身売買の被害に遭うなど『迷宮都市』オラリオの創設以来の事件。また同じ被害を遭う恐れの可能性も考慮して被害にあったギルド員の証言を基、万神殿(パンテオン)に足を運ぶ冒険者にも協力を求め、発見次第ここへ連れてくるように頼んでいたら、

 

十億という大金が消失した!ととある商人が藁に縋る思いでギルドに駆けつけ大金を盗んだ冒険者の捜索と捕縛依頼を冒険者依頼(クエスト)として発注しに来た、闇の豪商人がやってきた。当然、人身売買に遭ったギルド員が忘れるはずもない商人の顔を見た瞬間の顔をぶん殴って張本人だと主張した。商人は冒険者から商品となると買い取っただけで悪くないとも主張するが、ギルド員を売買した事実は消えるわけではなく商人としての職業剥奪―――まではできないがオラリオに構えている建物と財産の没収『迷宮都市』オラリオの一切の出入り禁止と要注意人物一覧(ブラックリスト)にも載せられた商人はオラリオから追い立てられて自分の本拠(ホーム)へと逃げる様に帰っていった。

 

「今後のオラリオでは、厳戒なまでの調査を行うことをし闇の商人や不法な取引をする者達の出入りを頑なに禁止、その場で捕縛する方針が定まれるようになるでしょう」

 

「積荷の徹底調査も行われるんだな?だったら問題なさそうだな」

 

「冒険者様があたしを救ってくれたからこそ発覚で来た事件です。あの賭博場(カジノ)の支配人も関係者として強制追放、ギルド員の監視の下で運営がされます」

 

「あんたを誘拐した冒険者はどうなっている?」と尋ねると狼人(ウェアウルフ)の女性は首を横に振った。

 

「未だに捕まっていません。正体を晒さないように【ファミリア】のエンブレムや素顔すら隠していたので調査は難航中で」

 

「まだ安全ではないのか」と嘆くように漏らす一誠は提案した。

 

「団員が多い【ガネーシャ・ファミリア】にでもギルド員専属の護衛の任を与えたらどうだ?さっき元アドバイザーにも言ったんだけど」

 

「上に掛けあってみます。―――本当にありがとう」

 

最後はギルド員としてではなく一人の女性として感謝の言葉を発した狼人(ウェアウルフ)に笑みを浮かべる。

 

「んじゃ、改めて自己紹介かな。【アテネ・ファミリア】所属のイッセーだ」

 

「私はローズと申します。今後のあなたの冒険を真摯にサポートさせてもらいます」

 

握手を交わし合い、二人は笑みを浮かべ合う。

 

「早速だけど相談に乗ってくれる?」

 

「かしこまりました。どんな相談でしょうか?」

 

本題に入る一誠は本拠(ホーム)の建設についてローズとロビーに設けられた一室、ボックスに向かいながら訊いた。

 

 

―――あ、何時もの口調でこれからも話し合おうなローズ。―――私、年長者なんだけど。

 

 

一方。『豊穣の女主人』では―――。

 

「おおっ!新たな店員が増えとるやんアテネ!」

 

「私の眷属よ。手を出したら承知しないから。というか、私忙しいのだから話しかけないでよ」

 

「ええやん。客の話し相手も仕事の一つやでー?」

 

繁盛している酒場にロキと護衛役としてアイズがやってきていた。

 

「・・・・・」

 

「ねぇ、あなたの子。なんか元気ないみたいだけど」

 

「ああ、アテネの子と会えないからやろうな」

 

「会わせてやりなさいよ。個人的に会わせたくないのだけれど・・・・・それとお礼は言ってなかったわね。イッセーを預かってくれてありがとう」

 

「お、おう。気にせんでいいで。うちも楽しい思いをさせてくれたし」

 

「あら、どんなことをしていたのか気になるわね。あなたの言う通り、話し相手になりましょうか。そこのロキの子供から直接、ね?」

 

ひくっとロキは頬を引き攣らせた。神の前で子供は嘘を付けない。黙ってもらえばますます疑われてしまう。もしもあんな事故を知ったら・・・・・。

 

「(天界に送還される前にうち殺されるっ!)」

 

「ねえ、私のイッセー。そっちで何をしていたのか教えてちょうだい?」

 

「・・・・・」

 

灰色と青色の瞳、金の瞳の二つの視線がぶつかり、顔中に冷や汗を流すロキを気付かず問われたアイズは小さく口を動かし――感想を述べた。

 

「アイズおねーちゃん、って呼んでくれました。・・・・・初めてできた弟みたいで可愛かったです」

 

「いきなり惚気っ!?」

 

「・・・・・でも、もう言ってくれないから残念、です」

 

本当に残念そうに顔を俯いたアイズ。逆に少ししか一緒にいられなかったアテネは羨望と嫉妬の眼差しを向け出す。

 

「もう一度、もう一度アレを飲んでもらわないといけないのね・・・・・」

 

「なんのことや?というか、アテネの子供がどうして本当に小さくなっていたのか気になるんやけど」

 

「秘密よ」

 

「ケチッ!」と口を尖らして文句言うロキはテーブルに肘を付いて手の平で頬を支えるように添え出すと指摘した。

 

「なぁ。そろそろアテネもホーム構えたらどうや?いつまでもミア母ちゃんの酒場に居候するわけないんやろ?」

 

「あなたに言われなくてもそのつもりよ。ロキが驚くほどのホームを持つんだから」

 

「ほー、それは楽しみやなー。次の『神の宴』はアテネのホームで決定やな?」

 

「さぁ、どうかしらね?」

 

微笑みを浮かべ、その時の光景を自分なりのイメージをしていると―――。

 

「おーい、アテネー」

 

愛おしくてしょうがない子供の声が聞こえてくる。―――リアルに。

 

「アテネ?」

 

「ひゃわっ!?」

 

ダンジョンに行ったのではないのかと、アテネの目の前には一誠が顔を覗き込む様に近づけていたことに驚いて椅子から転げ落ちようとした主神に慌てて支える一誠。

 

「悪い悪い、驚かせたな。わざとだけど」

 

「ええ性格のやつやなぁー?」

 

にひっと面白いと一誠に口を三日月のように吊り上げた。

 

「ど、どうしてここにいるの?もうダンジョンから戻ってきたの?」

 

「いや、今日はダンジョンに行っていないんだ。ギルドやヘルメス達から空いている土地を教えてもらって―――見つけた」

 

「っ!?」

 

「これからホームを用意する。用意できたら迎えに行くよ」

 

それだけ言い残して酒場を後にする一誠を―――ロキを一人残してアイズまでもが付いて行った。

 

「アイズたんっ!?うちを置いて行ったらあかーん!」

 

慌てて置いてけぼりにされない為ロキも立ち上がって後を追うとしたが

 

「―――丁度良いわね」

 

ガシッ!

 

「・・・・・へ?」

 

「ロキ、あなたどうせ今は暇なんでしょう?ミアさんの監視の下で一緒に働きましょうよ?どれだけ肉体労働のある仕事が大変なのか、酒好きのあなたのその体に直接叩きこんでやるわ」

 

凄みのある笑顔を浮かべているアテネに捕えられてしまったこの日だけ、最強最大派閥の主神がヒーヒーと情けない声で酒場に働いている目撃者が後を絶たなかった。

 

 

「どうしてついてくるんだ?」

 

「気になるから・・・・・」

 

北西と西のメインストリートの間に挟まれている区画に向かっている一誠の背中をアイズは追う。ホームを用意すると言った一誠が気に成り、この目で確かめたくなった。

 

「アイズが強く成れそうな事をするわけじゃないんだけど?」

 

「・・・・・それでも構わない」

 

次々と屋根から屋根へ飛び移って進む二人。そんな移動をする冒険者は風を切りながら目的地に辿り着くのも時間の問題だった。

 

「あの人魚族(マーメイド)達を眷属にしたんだね」

 

「まぁな。春姫、あの狐人(ルナール)も揃って非力だけど頼もしい能力を持っているよ」

 

「そう、なの・・・・・?」

 

「そうだ」と前へ進む一誠が一際大きく跳躍して―――白亜の柱の上に軽々と飛び乗って佇んだ。

 

「ここか」

 

目的地の区画に辿り着いた。廃墟と化した教会や崩壊している建物だらけしかないこの場所は一誠が好む。理由はだれにも迷惑をかけず、自由にできるからだ。

 

「ん?一人、教会にいるな・・・・・まあ、邪魔にならない場所にすれば問題ないか」

 

ロリ巨乳の女神であると知らない一誠は亜空間からスノーグローブを取り出しその中身を意味深に見つめた。

 

「・・・・・よし、やるか」

 

柱の上でスノーグローブを思いっきり青空の彼方へと投げ放った―――。

 

次の瞬間。

 

膨大な閃光が迸り、北西と西のメインストリートを挟む区画全域を包む光やはやがて宇宙から飛来した隕石のごとく巨大な轟音が響き渡る。

 

「あ、防音対策すんの忘れた」

 

その発生源は巨大で聳え立つ柱のような岩が摩天楼(バベル)の天辺まで迫ろうとするほど出現した音だった。岩の麓にはこの区画全域に崩壊している建物や崩れ、半ば折れている柱の代わりに森があり、森林に囲まれる湖も存在している。

 

「・・・・・凄い」

 

アイズは一誠から離れた場所で見ていた。いきなり突然巨大な柱のような断崖絶壁が出て来たと思えば森がこの区画全域に生え出したのだ。金目を岩の柱の天辺まで見上げると、見覚えのある白亜の巨城が見えた。

 

『な、なんだこれは―――!?』

 

森の中から聞こえてくる悲鳴。姿は見えないけどこの区画に生活している人なんだろう。こんなことをした一誠は柱から森の中へ飛び込む姿を窺わせた。アイズも続こうと森の中へ駈け出す。森の一つ一つの幹や枝が大きく、枝の上に家が立てれるんじゃないかと思うほどに森の中で住むエルフが好みそうな環境だった。金髪とスカートを揺るがし冒険者として必然的に鍛えられる肉付きの良い太股を何度も前へ出して地を蹴り一誠を追うと眩い光が森の間の隙間から漏れ出した。その光の向こうに一誠がいると踏んで向かえば、大きな湖に囲まれている50階層にあったはずの要塞が展開している魔法円(マジックサークル)から出て来ていたところの光景とその前に立つ一誠の姿。

 

「イッセー・・・・・あれは?」

 

「あの城に入る為の出入り口かな」

 

「でも・・・・・遠いよ?」

 

第一級冒険者ではないと跳躍できないではないかと思うほどの湖に囲まれている要塞。小振りの船を用意しないと向こうの岸に着けないほどにだ。

 

「分かってる。これから用意するつもりだ。今はこうして進む」

 

湖に足を運ぶ。湖の水が近づく一誠に呼応するかのように水が意志が持っているかのように蠢き、水の柱と化した。それはアイズも見たことある。水なのに歩けれる橋だ。アイズも水の端を渡って開かれた強固に閉ざされた門の扉の向こうに侵入する。無機質な石で造り囲まれる中を進む二人に万神殿(パンテノン)のような神殿が出迎えた。神殿の屋根を支える幾重の柱、扉も強固そうな石造りで―――。

 

ガラガラガラ。

 

「・・・・・え」

 

横に引くと石造りの扉があっさりと重たさを感じさせないほど軽く動きだして中に入れた一誠をちょっとびっくりするアイズ。後でどうしてあんな開け方なの?と聞けば、「遊び心と悪戯心だ」と浮かべた笑みと共に返って来たあのであった。神殿の中は特に変わった様子は無く、ただ床に刻まれている魔方陣が光り輝いていた。

 

「これは・・・・・?」

 

「あの城に直接行ける転移魔方陣だ」

 

行こうと一誠からの誘いにアイズは小さく頷き、共に魔方陣の光の中に入った瞬間に姿が消えた―――。

 

 

 

「―――というわけで、俺達のホームを用意した」

 

「驚いたわよ。ここまで結構凄い音が聞こえたんだから」

 

「ここからでも見えるあの岩の天辺にある城が私達のホームとはね・・・・・」

 

「「「す、凄い・・・・・」」」

 

【アテネ・ファミリア】のホームができて数時間後の夜。一誠から告げられた真の本拠(ホーム)の存在を知ったアテネ達は驚かざるを得ない。

 

「だけど、あんなに高い所にホームがあると行き来が大変じゃない?」

 

「その点は大丈夫。新しく設けたその扉から行けるぞ」

 

「・・・・・これで、ございますか?」

 

春姫が視線を向ける先はいつの間にかできていた見覚えのない扉。その扉を近づく一誠が開け放ってアテネ達を招き入れ、新たな【アテネ・ファミリア】のホームを案内した。

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