オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚14

【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)ができて翌日の朝。魔天楼(バベル)の次に高く聳え立つ巨岩の柱の上に建つ白亜の城。見た目は【ロキ・ファミリア】の『黄昏の館』に似てはいるが純白を基調とした城はどこか美しさも醸し出している。ようやく念願の本拠(ホーム)を構えることができたアテネ達は、

 

「そういうことだからミアさん。今月いっぱいで俺達は―――」

 

「ダメだね。許さないよ」

 

「最後まで言わせてっ!?」

 

『豊穣の女主人』と別れの挨拶をすませようとしていた。が、しかし。何故か了承してくれないでいた。

 

「ニャー!オミャーら、冒険者ニャんてやめてミャー達と一緒に酒場の店員として働くのニャ!」

 

「いや、定期的に手伝いには来るぞ?本業は冒険者で副業は酒場の店員」

 

「できればその逆にしてほしいかなーなんて」

 

「大して変わらないし、そう言う約束の上で俺とアテネは住み込みで働いていたんだけど?」

 

「本当にダメ、ですか・・・・・?」

 

「可愛いけどダメだな」

 

シルの上目遣いですら通用しない一誠はミアに困り顔を向ける。

 

「あんたらが急にいなくなると客の足が滅法減ってしまうんさ。それに坊主の朝弁当も期待している客の気持ちも裏切るってのかい?」

 

「あっ、その点は大丈夫。俺達、朝は何時も通り店の手伝いをしてから冒険者として活動する。朝弁当も相変わらず販売はし続けるさ」

 

「ニャ?どういうこと?」

 

首を傾げ、意味が分からないとキャットピープルの女性に簡略的な説明をする。

 

「さっき言っただろ。本業は冒険者で副業は酒場の店員って。俺達がダンジョンに行っている間、アテネは一人だから店の手伝いはこれからもしにくる。でも、来ない時もあるからな?んで、俺達が帰って来て一休みすれば店の手伝いをしに来る」

 

「つまり、住む場所が変わっても店の手伝いはするということですかイッセー」

 

「そう言うことだリュー。まあ、手伝いに来ない日もあるから重々承知してくれ」

 

一誠の言いたいことが分かったところでシル達は顔を綻ばせた。

 

「「流石はイッセー!ミャー達のことを愛しているんだニャー!」」

 

「せっかく親しくなれた男の子の店員がいなくなるのは寂しいんだよ?」

 

「良かった。これでサボる同僚がいなくなっても助かります」

 

「イッセー君、大好きだよ?」

 

わっと群がってくるシル達に包容力ある一誠は笑みを浮かべ、「これからもよろしくなー」と握手を交わしていく。

 

「んで、女神はどうしたんだい」

 

ミアの問いに「ああ」と答える。

 

「ようやく自分のホームを構えれたから今日一日はホームの中にいる。主神としての仕事もあるんだよアテネには。―――だからこそ、こんな物を作ってみた」

 

デデンッ!と一誠はある物をミア達に見せびらかした。当然、訳の分からない真っ白な板状の物を見て怪訝な顔を浮かべるミア。

 

「・・・・・なんだい?これは」

 

「題して『豊穣の女主人の出勤スケジュール表』!一週間に三日は店の手伝いをしに来る日で、残りの四日間は冒険者として一日活動する。と、こんな風に事前に決めておければミア達も何時手伝いに来るかわかり易くていいだろう?」

 

おおーっ、と感心と感嘆の声がシル達から発せられた。さらに一誠はひょいっとどこからともなく取り出した別のスケジュール表を見せびらかす。

 

「んで、こっちはリュー達のスケジュール表な。まだ真っ白だけど、シルは突然店を休むからここに休む日を決めてもらえば、アーニャやクロエとか文句も言わないだろう」

 

一誠からの提案に賛同する声が挙がる中でミアは呆れ顔で首を横に振った。

 

「そんなこと何時の間に考えていたんだい坊主」

 

「今」

 

 

 

「と、言うことで話しは付けておいた」

 

場所が変わり、一誠はホームに戻ってことの詳細を仲間達に説明した。大理石の床や壁、天井という空間にある黒檀のテーブルを挟んで深く腰をソファに落としているアテネ達。

 

「そう、ありがとうねイッセー」

 

眷属の話を聞き、今日一日はホームにいることになったアテネは灰色と青色の双眸を己の眷属の顔を見回す。この一ヶ月で唯一一人だった【ファミリア】が五人まで増えた。全て一誠が関わってきた少女や女性達。【ファミリア】の規模として等級(ランク)はH、もしくはDかもしれない。現実的に強さで例えれば一誠だがLv.を基準にすればアイシャが団長と思われるだろう。他はLv.1で戦いに不慣れな非力な団員達三名。

 

「しかし女神様。よく罰則(ペナルティ)を貰わなかったねぇ?一つの【ファミリア】を壊滅させた挙句、神を天界に送還したほどだからギルドから相当の罰則(ペナルティ)を食らうハメになると思っていたんだけど?」

 

「―――食らったわよ」

 

人魚族(マーメイド)の一件の話を持ち出すアイシャに「は?」と反応させたアテネは告げた。

 

「あの後すぐにギルドから召喚命令が下されてね。罰則(ペナルティ)として資産の半分を請求されたわ」

 

ギルド員の子を助けたのに仇で返された気分だと、アテネはご立腹な様子でギルドに対して文句ばかり言い始めた。

 

「イ、イッセー様。本当でございますか?」

 

「本当だ。はぁ・・・・・タイミングが悪かったな」

 

「と、言うと・・・・・」

 

人魚族(マーメイド)をオークションで買い取った額の一〇〇〇〇〇〇〇〇〇以上。【ファミリア】の貯金が激減した上にギルドから資産の半分を請求された。春姫とアイシャは貧乏になってしまった【アテネ・ファミリア】を想像―――。

 

「―――六〇〇〇〇〇〇〇〇ヴァリスしか残っていないっ。また一〇〇〇〇〇〇〇〇〇まで稼がないといけなくなってしまった!」

 

「「「「十分過ぎるっ!?」」」」

 

予想以上なまでの六億の資産があるのに十億まで稼ぐ必要はあるのかと、驚愕と疑問が混ざった突っ込みをした四人の団員達。

 

「イッセー、何もそこまで稼ぐ必要ないんじゃないかい?」

 

「いや、ある。十億は俺の目標なんだ。一ヶ月でどのぐらい稼げることができるのかってのも含めて」

 

「で、でも、達成できたのよね?」

 

「俺一人だけ数日間ダンジョンに籠れば三億は稼げれることは理解したほどにな」

 

なら、もういいのではないかという雰囲気が醸し出す春姫達。アテネもその雰囲気を察して苦笑を浮かべる。

 

「取り敢えずあるだけのお金で現状を維持しなさいイッセー?せっかく【ファミリア】も増えてきたのだから五人でダンジョンにでも行ってみたらどう?」

 

「アイシャはともかく、春姫達も自分の身は自分で守れるぐらいの力を持って欲しいところなんだよな」

 

「三人とも武器なんて扱えないからねぇ。超越魔法(レアマジック)の保有者だけに戦闘に直接の参加は出来ない。精々弓程度ならなんとかなるんじゃないか?」

 

「その弓も扱う練習をしなければ当たる的も当たらないぞアイシャ。―――せめて特訓をしてから行かせるか?」

 

ウィルとレリィーは水がある環境があれば人魚族(マーメイド)としての本領発揮ができる。だが、なければ本来の能力は発揮できない。春姫同様のサポート系の魔法(マジック)で一誠とアイシャのフォローするしかない。

 

「・・・・・まぁ、鎧の方は問題ないな」

 

「鎧?なにを言っているんだいお前は?」

 

「後で教えるよ。さて春姫。お前に渡したい物がある」

 

テーブルの上に発光する魔法円(マジックサークル)を展開しあの真紅の分厚い書物が光と共に出てきた。

 

「こ、これは・・・・・?」

 

魔導書(グリモア)だ。知ってるだろう?これを春姫に読んで欲しい。新たな魔法の発現をして貰う為にな」

 

「―――っ!」

 

狐耳をピーンと立てて驚いた表情を体で表現する春姫は魔導書(グリモア)を見つめる。【ヘファイストス・ファミリア】の第一級装備と同等あるいはそれ以上の値段が叩き出される高価な物を春姫に宛てられ戸惑の色を目に浮かべる。

 

「ほ、本当に私が・・・・・?イッセー様やアイシャさん、ウィルさんとレリィーさんじゃなくて?」

 

「ああ、ウィルとレリィーは水がある環境だったら戦えるしアイシャは春姫が良く知ってるだろう」

 

「はい・・・・・」

 

「俺は魔法なんて得なくても魔力があるから必要性は感じない、って言っても俺も魔法は発現しているんだけどな」

 

たはは、と頭を掻いて苦笑いする一誠。春姫やアイシャでも見たことがない一誠の魔法。雷系の魔法であることは分かっているがその全容は把握していない。

 

「サポーター兼妖術師としての春姫の力が必要不可欠だ。俺も何でもできるわけじゃないし万能じゃない」

 

「万能じゃなくてもフリュネを倒した時点で凄いんだけど?」

 

「物理的に倒すぐらいならオッタルでも倒せんぞ」

 

「・・・・・Lv.1の冒険者がLv.7の冒険者を倒すなんて話、一体誰が信じるんだって話だ」

 

本当にやってのけそうな一誠に半ば呆れで息を零すアイシャだった。豪語する一誠を頼もしく思うアテネも春姫を後押しする。

 

「春姫、イッセーはあなたを頼りにしているの。あなたの能力や魔法じゃなくてあなた自身を」

 

「アテネ様・・・・・」

 

「私からもお願いするわ。私の代わりにイッセーの力になって、皆の力になってちょうだい」

 

主神からの心からの願いに春姫はしばし魔導書(グリモア)を見つめ・・・・・手にして胸に抱えた。

 

「分かりました。春姫は、皆様のお力になりとうございます。新しい魔法で皆様のお力に・・・・・」

 

後日、サンジョウノ・春姫に新たな魔法が発現した。その魔法は一誠の目を輝かせるほどの効果内容の魔法で―――。

 

「―――さて、春姫とウィル、レリィーには少しばかりマシな動きができるぐらいの修行や特訓でもしようか」

 

「「「はい?」」」

 

そしてさらに春姫達は知った。イッセーは強くなる為には手段も選ばない修行や特訓を課す酷烈(スパルタ)をあっさりさせるほどの鬼畜であると―――。

 

「イ、イッセー様はお優しい方であると思っておりました・・・・・っ」

 

「なに、あの変わり様は・・・・・」

 

「こ、怖いっ、恐いよっ・・・・・・」

 

―――○●○―――

 

「アイズー、来たのは良いんだけどさ。本当に勝手に入っちゃっていいの?」

 

太陽の光が森林に降り注ぎ、時折木洩れ日の中を通るアイズ達。既に【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)の敷地内にいると思しき【ロキ・ファミリア】のアイズとティオナ、ティオネとレフィーヤ、リヴェリアが侵入していた。

 

「こ、この森も【アテネ・ファミリア】の物となると私達完全に不法侵入してますよね?」

 

「でも、森の中にエルフがいるわけでも門番らしき人も見掛けないからいいんじゃない?森の中に入るだけなら」

 

「彼と女神は温厚だ。後で謝れば許してくれるさ」

 

「うん」

 

心地の良い風が吹けば、アイズ達の髪を靡かせ清々しい気分を感じさせる。特に森の中に住むと言われているエルフのリヴェリアやレフィーヤは懐かしさを覚える。

 

「良い風が吹く。まるで故郷にいる様だ」

 

「そうですね・・・・・とても居心地の良い森です」

 

瞑目し全身で感じつつ前へ進むリヴェリアとレフィーヤ。アイズも金目を周囲に向ければ緑に覆われた地面や廃墟と化し、折れた石柱に浸食されているかのように苔や木々が繁殖している。

 

「でも、結構歩いているんだけどここってこんなに広いんだっけ?」

 

「そこは【アテネ・ファミリア】に直接聞けばわかることでしょ?」

 

巨大な木々や短い草ばかりの地面。オラリオの西と北西のメインストーリの区画に挟まれているこの地域周辺には他にも一般の建物や住人達が存在しているはずだが誰もこの場所にやってこようとはしない。まるで【ファミリア】の敷地だと熟知しているかのように。ここまでくるのに隔離する為の柵や石壁も確認しなかった。

 

「アイズ、まだ入り口の場所は着かないのー?」

 

「ん、もう少し・・・・・」

 

唯一、【アテネ・ファミリア】のホームの入り口を知っている合図を先頭に歩かせているティオナ達。走ればすぐに辿り着く場所にかれこれ20分程地道に歩いている五人はもうしばらく自然豊かな【アテネ・ファミリア】の敷地内を歩くことになった。

 

「・・・・・?」

 

アイズの金目に映る光景。大きな湖に囲まれている要塞にようやく辿り着いたかと思えば先客がいた。

雰囲気的にどうやって向こうに行けばいいのか悩んでいる感じであった。

 

「あれは・・・・・」

 

どうしてここにいるのか、などもは疑問を浮かべずとも明白している。自分達と同じ目的でこの場所まで辿りつけたのだろう。ならば、邪魔をするような真似などできるわけがない。先客の背中に近づくアイズ達に気付き振り返った―――。

 

「ん?おや、【ロキ・ファミリア】の子供達か。人魚族(マーメイド)の一件以来だね」

 

先客は【ヘルメス・ファミリア】の主神、ヘルメスと団長のアスフィ・アル・アンドロメダ。

 

「ここに来た理由、なんて野暮な事は聞かないけど、あの向こうにどうやって渡れるか一緒に考えないかい?」

 

その誘いとも言える提案にアイズ達は理解した。小舟を用意しないと渡れない距離に存在する要塞に立ち往生していたヘルメスとアスフィに。だが、一人だけ知っていた。

 

「大丈夫、です」

 

「へ?」

 

アイズは二人より前に進み、湖に片足を―――踏んでそのままスタスタと中央まで歩くと振り返った。

 

「イッセーは道を用意しています」

 

愕然の一言に尽きる。湖の上を、空中を歩いているかのような姿を窺わせてくれるアイズに。

 

「真っ直ぐ歩いていれば、大丈夫です」

 

「・・・・・透明の道、ということですか。【剣姫】、あなたは以前ここにきたことあるのですね?」

 

アスフィの問いかけに肯定と首を縦に振った。ならば、アイズの言う通りに進めば問題なく前へ進めると悟り、真っ直ぐ前を、足を前に出して若干の緊張をしながら進めば、足の裏はしっかりと何かを踏んだ感触を覚えさせた。

 

「・・・・・やれやれ、彼は人を驚かせる才能の天才のようだ」

 

「うわっ、湖の上を歩いている感じだよ」

 

「どんな魔法でこんなことできるのですか・・・・・?」

 

不思議に尽きる会話が発する中、一行は要塞に辿り着いた。開け放たれた状態の門を潜り、アイズが先導して今度は固く閉じ切った扉の前に移動する。

 

「【剣姫】ここはどこの【ファミリア】の物なのか分かっているのですか?」

 

「・・・・・イッセーの、【アテネ・ファミリア】のです」

 

「アテネのホームだったのかいっ!?」

 

「この森も全部、含めてです」

 

アイズの説明を聞くまで知らなかったのかヘルメスとアスフィは目を張った。

 

「・・・・・ここまで誰一人も見張りすらいないのは逆に不自然さを感じるな」

 

「それ以前にあの渡り方を知らなかったら誰もここまでやってこれなかったと思うわよリヴェリア」

 

堅牢な扉をあっさり横に動かして開けるアイズの姿を唖然と見るのは直ぐであった。

 

「なにその開け方っ!?見栄っ張りもいいところだよ!」

 

「うーん、イッセー君。わかってるねぇ~」

 

「何がですかヘルメス様」

 

扉の先、建物内は床に刻まれて発光している魔法円(マジックサークル)がアイズ達を出迎えた。

 

「あれは・・・・・」

 

「あれでイッセーのホームに行けれる」

 

「あれでかい?とてもそうは思えないんだけど【剣姫】を信じてみようか」

 

突き進むアイズに続く一行は魔法円(マシックサークル)の光に包まれると視界があっという間に真っ白に染まった。

 

 

「・・・・・着いた」

 

真っ白に染まった視界の視力が回復した頃、アイズ達は別の場所に『転移』を果たしていた。巨大な白亜の城に続く胸壁がある大きな石道を前にして、幾重の柱で石造りの屋根を支えている壁のない建造物に、発光し続けている魔法円(マジックサークル)の中を立っている一行。

 

「た、たっかああああああああああああああああっ!?」

 

柱の間に顔を出したティオナが眼下を見下ろす。魔天楼(バベル)より低いものの、それでも【ロキ・ファミリア】のホームを遥かに超えている場所から見下ろせば、今自分がどこにいるのか驚かずにはいられない。

 

「ここまで高かったか・・・・・この建造物は」

 

「す、凄い・・・・・オラリオ全体が眺めれますよっ」

 

改めて知る。【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)の壮大さ。オラリオに存在する神々の本拠(ホーム)の中で断トツの高さを誇り聳え立つ。

 

「こっち」

 

変わらずアイズが先導する。石道に向けて足を運んで白亜の巨城のもとへ歩む。目の前の巨城もまた雄大さと壮大さを誇り、

 

「黄金の大鐘楼・・・・・っ!?」

 

「何という美しさ・・・・・」

 

意匠が施された金色の台と大鐘楼(グランドベル)が巨城の目の前に鎮座していた。一度鳴らせば、オラリオ全体に音が響き渡るであろう見たことのない大きさ。一行の目を釘付けにし、目と意識を奪う黄金の大鐘楼(グランドベル)は静かにアイズ達を出迎えた。

 

「よし、鳴らしてみようか!」

 

「ヘルメス様ッ!?」

 

ウキウキと鳴らしたくてしょうがなくなったヘルメスが台に駆け上がって金色の鎖を手にして引っ張る姿に「あたしもー!」とティオナまでもが加わった。

 

「あれ、止めた方が良さそうじゃない?」

 

「多分、な。だが、聞きたい私がいることにどうしようか悩んでいる」

 

「・・・・・聞く」

 

「はぁ・・・・・後で謝らないといけませんね」

 

「そ、そうですね・・・・・」

 

ティオナも加わったことで二人は一気に鎖を引っ張って大鐘楼(グランドベル)を動かした。

 

 

―――ゴオオオオオォォォォォォォォォンッ―――ゴオオオオオォォォォォォォォォンッ。

 

 

鳴る大鐘楼(グランドベル)はとても美しい音色を奏で始めたのであった。突然オラリオ全体に響き渡り、鐘は歌を歌う。地上に生きる者達に祝福を与えんとばかりに。

 

「あはははっ!なんて綺麗なんだろうかっ!」

 

「ティオネー!とっても綺麗な鐘の音だよー!?」

 

直接鳴らしている二人も顔を輝かせて何度も鳴らす。耳を傾け黄金の大鐘楼(グランドベル)の音に澄ますアイズ達も聞き惚れている。だが、流石にこの盛大な音は何時までも鳴らすのはマズい。

 

「ヘルメス様っ!そろそろお止めになってください!彼がここに来ますよ!?」

 

「後もう少しだけだアスフィっ!」

 

「ティオナ、あんたもよっ!」

 

「ごめーん!ちょっと止まりそうにない!手伝ってぇー!」

 

いい加減に止めないと一誠達どころかオラリオの住人達に迷惑を掛ける。アスフィとティオネはそれを考慮して制止の言葉を投げたが、勢いが止まらないのともう少しだけ鳴らしたい二人の相反の気持ちが聞こえてくる。

 

「ああもうっ、彼にお詫びしないと・・・・・っ!」

 

「全く世話を焼かす妹だわ!」

 

止めに行こうとする二人―――の目に白亜の巨城から飛来する真紅の一条が真っ直ぐ大鐘楼(グランドベル)に近づいてきた光景が飛び込んできた。

 

「―――さっきから何勝手に鳴らしてんだ。うるさいぞっ!」

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

次に響かせる鐘は鈍い音とともに第三者の手で止められた。その人物はアスフィが予想していた人物で、見たことがない怒った顔でヘルメスとティオナの頭に拳骨を食らわしその場で正座させ、二人の前で腕を組み怒気が籠った声を発した。

 

「おいこら。誰が鳴らして良いと許可した?」

 

「「ス、スイマセン」」

 

「人の敷地内に入ってきたことは取り敢えず許すが、【アテネ・ファミリア】の物を勝手に触れるとはヘルメスは何様だ嗚呼神様だったな自由奔放で団員を困らせる困った能天気な神様だったなぁ?」

 

―――怒ってる。かなり怒ってるとアイズ達は分かった。その怒りの矛先がこっちに向けられることを前提に静かに様子を見ていたら、

 

「この鐘を綺麗に磨け。そしたら許す」

 

どこからともなく取り出した水の入ったバケツと布を二人の前に置きだした一誠は巨城の方へと歩き始めた。

 

「・・・・・私達も怒られるかと思いましたが」

 

「ああ、覚悟していたがあの二人だけ罰則(ペナルティ)を与えただけで済んだな」

 

取り敢えず、二人を置いて進もうとアイズ達は白亜の城へと赴く。

 

 

『ちょ、あたし達を置いて行かないでー!』

 

『アスフィー!手伝ってくれー!』

 

 

自業自得である。

 

―――○●○―――

 

「で、何をしに来たんだ?」

 

無機質な壁や天井に囲まれ、必要最低限とソファやテーブルしかない一室、応接間に案内された一誠に尋ねられるアイズ達。

 

「アイズ達はともかく、アスフィとヘルメスがここに来るなんて初めてだな」

 

「西のメインストリートに巨大な建造物の出現でヘルメス様が確かめたいと仰ったのが全ての始まりです。まさか、【アテネ・ファミリア】のホームとは思えませんでした。―――どこか見覚えのある建物だとは思っていましたが」

 

「ああ、アノ中の建造物を解放したんだ。流石に海と砂浜は無理だったがな」

 

アスフィ、アイズとリヴェリア、ここにはいないティオナしか知らない事実。ティオネとレフィーヤは何のことを言っているのか分からないと首を傾げ、眉根を寄せた。

 

「あなた、何を言ってるの?」

 

「ん?秘密だ。それでアイズ達は?」

 

「・・・・・久々にあの修行をしたくなった」

 

あの修行―――【アテネ・ファミリア】しか知られてはいけない、秘匿の事実をアイズは懇願してきた。一誠の隻眼の金色の目は細くなった。発する声音も棘があり厳しかった。

 

「今回はダメだ。アイズとリヴェリア、ティオナだけならまだマシも、これ以上俺の秘密を知られる訳にはいかない」

 

他は絶対にダメだと否定され、ティオネは納得いかないと態度で問う。

 

「なに?私達が信用できないっての?」

 

「信用と信頼の以前の問題だ。本当にバレたら俺はオラリオにいられなくなる」

 

それをアイズとリヴェリア、ティオナが知っていると言う道理でもあった。

 

「それが三人の【ステイタス】の上昇の理由?ますます知りたくなるじゃない」

 

「・・・・・まさかと思うがアイズ。この二人を連れてきたのはお前か?」

 

意味深なティオネの発言に、一誠はあることを思い出した。あの経験をした三人しか知らないことだ。疑心からくる疑いの視線を金髪金目の少女に向ける一誠に対し、リヴェリアが庇うように話に加わった。

 

「この二人も信用と信頼ができる。何時も共にダンジョンに潜っている仲だからお前の秘密を共有しても良いのではないかと私の判断で連れてきた」

 

「・・・・・」

 

余計な事を、とばかり一誠は深い溜息を吐いた。良好の仲とは言えども秘密を自分から身内以外の者に晒す程お人好しでもない。

 

「ロキの差し金、じゃないな?」

 

「ああ」

 

また無言となり、アスフィにも一瞥しまた溜息を吐く。

 

「勝手な事をしないでくれよ二度と」

 

「すまない」

 

渋々ながらも了承してくれたのだとアイズは申し訳ない気持ちを抱きつつも感謝した。目的の一つを達成でき、安堵で息を零す。―――アイズの腰具に括りつけられた青水晶がキラリと煌めいた。

 

 

 

 

太陽の光が一条も照らすことはない暗く、赤い炎を揺らす四炬の松明のみで暗闇に包まれる周囲を照らしている場所は石造りの広間、祭壇。そして、資格を描くそれら松明に囲まれる祭壇の中心。大きな石の玉座―――神座に腰かけている巨体の老神は、フードの奥から視線を、その感情が籠ってない蒼色の瞳を一誠の姿を映し出されている映像に見つめていた。

 

「―――ウラノス。これで彼の正体が分かるのだな」

 

常闇から音もなく影のように現れる全身黒いローブで肌を隠す男か女も分からない謎の黒衣の人物から呼ばれた老神、ウラノスは重々しく頷いた。

 

「ご苦労だった。ロキに悟られず【剣姫】に渡せたな」

 

「彼女がアレを付けてくれるか賭けだったが、どうやら成功したようだ」

 

黒衣の人物はグローブを嵌めた手の中にある羊皮紙に視線を落とす。それは一誠のプロフィールとも言える個人情報であった。

 

龍族(ドラゴン)・・・・・ダンジョンから生まれたモンスターだと思うか?」

 

一誠の情報はギルドの間では厳戒なまでの規制が発令されていた。種族が故に、Lv.に似合わぬ階層到達数が故に。ギルド員の間でも最初は信じられないと信用していなかったが―――とあるハーフエルフの体験談によって少なからず信憑性が増したのであった。

 

「これから知ることができるだろう。フェルズ、お前の目から見てもあの者の異常は凄まじいのだろう」

 

「ああ・・・・・ダンジョンから持ち帰ってくるドロップアイテムや魔石の量、怪物祭(モンスターフィリア)時に出現した食人花を圧倒・・・・・そして極めつけは西と北西のメインストリートに挟まれた区画に出現した巨大な【ファミリア】のホームらしき建造物と先ほどの鐘の音・・・・・。とてもじゃないが、神の力(アルカナム)を使わなければできないことだらけだよウラノス」

 

「主神はアテネ・・・・・女神とあの者の出現によって今のオラリオは少々騒がしくなった」

 

「一柱の神が天界に送還された件に関しても、な」

 

最近起きた話題の事件。送還された神の眷属がギルドに進言したことで明らかになった事実。アテネの手で直接天界に送還されたのだと元【ファミリア】の団員達が告発した結果、【アテネ・ファミリア】の主神をギルドに召喚し資産の半分を没収の罰則(ペナルティ)を発令したのであった。しかも去り際に―――。

 

『ウラノスに伝えてね。私は天界にいる神々から神の力(アルカナム)の使用を許可を貰った上で地上に降り立った。理由は下界に降り立った神々を天界に送還する為にと。ウラノス、それはあなたも例外じゃないから』

 

ギルドは震撼した。神が神を派遣し、天界に送還して欲しいという理由で下界に降りる際にルールとして神の力(アルカナム)を封印することで地上に降臨することを許されていたはず。だが、一柱の女神がそれを封印せず何時でも本来の力を行使でき、下界の神々を天界に送還する役目を担って下界に降臨した。

 

「・・・・・ウラノス、天界にいる神々が怒っているのだと思うのか?」

 

「・・・・・分からん」

 

下界の子供達が死後向かうだろう天界にいる神々の心情をアテネに表しているかのように思える黒衣の人物。

―――さっさと帰って来い。と怒り心頭の神々の気持ちをアテネに表現させているのではないのかと。ウラノスも例外ではないと告げられ、ギルドはアテネの、【アテネ・ファミリア】の扱いに困り果てた。【ファミリア】の解散を命じてもアテネ自身が下界に君臨し続ける限り脅威は治まらない。逆に命じたギルド、ウラノスを天界に送還する為に動き出すだろう。

 

―――では、【ファミリア】自体の活動を停止させればどうだ?―――バカ、それこそ何をするか分からないだろう!?

 

―――オラリオからの永久追放は?―――間違ってでもラキアに属されたら天界への送還し放題だ!

 

と、ギルド内ではこう言った様々な案件や提案がでるが、何事も問題なく【アテネ・ファミリア】を規制する理由が浮かべず、ウラノスと黒衣の人物は【アテネ・ファミリア】の動きを監視する形で一先ず様子を窺うことにしたのである。

 

「アレスとアテネを一緒にしてはならない。ラキアではまたオラリオに侵攻する動きがある・・・・・この時期にオラリオからいなくなるようなことが起きれば、オラリオは確実に侵略され、神々は天界に送還される」

 

「オラリオというカゴの中に閉じ込めておくしかないんだねウラノス」

 

「・・・・・どうしてこうなった」

 

目蓋を重たげに蒼色の瞳を隠すように閉ざし困惑と疲労が混じった言葉と共に小さく息を零した。二人がいる暗闇の空間―――ギルドの地下神殿は今日も静けさを保ちながらウラノスと黒衣の人物のやり取りを見守るのであった。

 

 

大鐘楼(グランドベル)の掃除を命じられていたティオナとヘルメスを呼び戻し、アイズ達一行を一誠はとある一室へ案内する。

 

「そう言えばイッセー君。アテネや他の子供達は今どうしているんだい?」

 

「アテネはこのホームにのんびりと過ごしていて、春姫達は風呂に入っている。少しばかり修行していたからな」

 

「で、君は俺達が来るまで何をしていたんだい?」

 

「皆が驚く物を作製していた。特にヘルメスが飛び付きそうな」

 

ほほう・・・・・?橙黄色の瞳に怪しい光が煌めくヘルメス。面白そうなことをしているのだと確信して、誰よりも一誠に近づき、気安く肩に腕を回し始めた。

 

「それはどんなものなんだい?是非とも教えてくれよイッセー君」

 

「ん、別にいいぞ。向かう先にあるし」

 

「ははは、どんな物か楽しみだよ」

 

派閥を超え、種を超えた友情。アイズ達も他派閥の主神とあんな風に仲良く成れるのだろうかと感嘆の思いだ。

 

「あいつ、誰彼構わず仲良くできるわね」

 

「そういうスキルの持ち主だからな。我々にも直ぐに馴染んで仲良くなった。最初はアイズだったな」

 

「そうだねー。アイズ、イッセーと付き合ったらどぉー?【ロキ・ファミリア】と【アテネ・ファミリア】だったら恋愛はできるって決まりだしさ」

 

「ア、アイズさんがあの人とつ、付きっ!?」

 

「私は・・・・・まだ、そういうのは、いいよ」

 

「(脈ありですか・・・・・)」

 

男二人の背後では賑やかに会話をしている女性陣。大理石の空間の通路を歩く一誠達の向かう先にはアスフィが良く知っている場所だった。扉のない部屋の入口に潜ると―――。

 

「すごっ・・・・・」

 

多種多様と様々な道具(アイテム)やドロップアイテムなどが棚に飾られていたり、テーブルに置かれたままだったり、汚く散らかった状態ではないがそれでも大量の物が部屋を埋め尽くそうとしていた。

 

「ここで俺は魔道具(マジックアイテム)を作製しているんだ。所謂工場ってやつかな?」

 

「この大量の万能薬(エリクサー)は一体・・・・・」

 

あからさまにテーブルの上にある【ディアンケヒト・ファミリア】のエンブレムが描かれている箱を見てレフィーヤは尋ねた。こんな高価な物を誰でも手にできる場所に置いている一誠の神経がおかしいのではないかと思ってしまう。

 

「ああ、回復効果をそのままにして別の形に作製できないかなって思ってな。まだ手を付けてないから新品同様だ」

 

「ねぇ、この綺麗な虹色の花は?」

 

「深層で採取したんだ。【ディアンケヒト・ファミリア】お墨付きの新種のドロップアイテムだ」

 

あれこれと興味深い物を見つけて一誠に尋ねると応えてくれる。そしてヘルメスはある物を見つけた。壁際に置かれた巨大なスノードームを。

 

「イッセー君。この模型が詰まっているデカい球体はなんだい?色々と色んな物が作っているみたいだけど」

 

「遊園地だ」

 

「・・・・・遊園地?」

 

聞き覚えのない単語が出た為、アスフィもヘルメス同様に不思議と疑問を抱く。一番に目にするのは赤い円板にカーゴが幾つも連なってくっついている模型だ。他にも行き来できる道や何かの建物、大量の水までもがある。

 

「一言で言うと娯楽の都市と言えばいいか」

 

「・・・・・娯楽の都市」

 

「これは色んな楽しい体験ができる、娯楽の詰まった俺しか作れない特殊な魔道具(マジックアイテム)だ。これをオラリオに具現化させれば間違いなく娯楽に飢えた神々がやってくるだろうな」

 

まるで一誠はオラリオに存在する神々を狙っているかのような意味深な発言をしたことで、アスフィは銀の眼鏡を動かしながら問いかけた。

 

「イッセー、そこまで断言できるほどの楽しい体験ができるのですか?」

 

「直接ヘルメスに体験してもらえばいいさ。なんなら、この中に行ってみるか?アレと原理は一緒だ」

 

「・・・・・ええ、お願いします。この通り、ヘルメス様も大変興味を持っているみたいですし、ここから離そうにも梃子でもしても動こうとはしませんでしょう」

 

橙黄色の髪と同じ瞳に好奇心の色を浮かばせているヘルメスに呆れるアスフィ。話し込んでいる三人にアイズ達も近づいてどうした?と一誠に視線を向けるとこう答えられた。

 

「これをリビングキッチンに持っていく」

 

「「「「「・・・・・え?」」」」」

 

話が見えないアイズ達は、巨大なスノードームを抱える一誠の後に続くしかできなかった。来た道を逆戻りに歩き、居間、台所、食堂の空間が一つになっている一室へと一行は赴く。リビングキッチンに辿り着き、中に入っては広いスペースのところでスノードームを置きだし、魔方陣を展開した。

 

「それじゃ、中に入ろうか」

 

魔方陣が発する光に包まれる一誠達の視界は、瞬く間に視界を真っ白に染め視力を奪われた―――。

視力が戻りやがて目の前の光景を目の当たりにできたアイズ達は目にした。日々ダンジョンに潜り、道具(アイテム)回復薬(ポーション)を調達、武器の購入や整備などするために専門店へ赴く冒険者として過ごしたアイズ達は目にした。

 

―――未知の光景を―――

 

「これ、は・・・・・」

 

「外から見る分、間近で見たのとじゃ全然違うだろう?」

 

遊園地は六芒星でできている。中央は水の溜まり場といった感じで膨大な水が張っていて、その周囲には様々な乗り物や自分の手で体験できる遊具などが存在している。冒険者であるアイズ達は間違いなく見たことがない物ばかりの未知が溢れている世界にやってきた気分を抱かされる。隔離する為の柵などが各乗り物や建物に設置されており、安全性も整えられている。

 

「オ、オラリオにいる気分じゃない・・・・・」

 

「当然だ。ここは遊園地だぞ?遊びの限りを尽くせる一種の都市みたいなもんだ」

 

「ここに、神や住人達がやってくるとなると・・・・・」

 

「ああ、確実に溢れ返るな。んじゃ、早速案内するよ」

 

一誠が先導して歩き始める。まず一誠が紹介したのは―――。

 

「これはメリーゴーランド。老人から子供まで気兼ねなく乗れる遊びだ」

 

「これって馬の形をしてるね?」

 

豪華絢爛な台と屋根を支える柱の周りに馬を象った屋根と台に貫かれる状態で設置されている乗り物が鎮座している。

 

「ああ、馬車もあるぞ?まあ、これは一般の大人や子供向けになるだろうな。ただ乗って回るだけだから神や冒険者にとってはつまらないだろう」

 

「・・・・・確かに」

 

否定できないとリヴェリアが短く頷いた。馬に乗って楽しい気分など冒険者が感じるとは思えない。もっと激しく驚くような物ではないと楽しめないだろうと。

 

「ああ、これ、付け加えるとカップル―――恋人同士が乗ってイチャイチャするためでもあるんだよな」

 

「―――絶対に団長と乗ってやるわっ」

 

拳を固く握って燃えるティオネ。その熱意は一誠を苦笑いをさせるほどだった。

 

「イッセー君、興奮できる乗り物は無いのかな?」

 

「勿論あるぞ。自分で操作して動かす乗り物もある。こっちだ」

 

さらに案内をする。今度はメリーゴーランドの奥深い場所まで歩き続けること五分。ヘルメスの要望に応えれるアトラクションに辿り着いた。

 

「これだ」

 

「あれ?変な形をしてるね」

 

一人しか乗れない座席がある四角い乗り物が何十台も並べられて鎮座している。それを見てティオナは感想を口にした。

 

「これが安全な形でもあるからな。ヘルメス、乗ってみるか?」

 

「勿論だとも!」

 

「皆も体験してみろ。案外楽しいかもしれないぞ?」

 

そう言われ、一誠に乗り方と動かし方を教えてもらったことでアイズ達は各々と乗り物に臀部を落とす。

 

「周りにぶつからないように気を付けるんだぞ。それじゃ、ヘルメスから行ってらっしゃい」

 

「よし、いくぞっ!」

 

右のアクセルを踏んだ瞬間、乗り物は前へと物凄い勢いで前進した。スピードの出し過ぎだと一誠が呆れるほどに。

 

「次、アスフィ、アイズ、リヴェリア、ティオナ、レフィーヤ、ティオネの順に」

 

「では、動かします」

 

軽くアクセルを踏んで前進するアスフィに続き、一誠の言われた順にアイズ達も前進する。

 

「ハッハッハッハーッ!イッセー君、これは楽しいよぉー!」

 

遠くから聞こえるヘルメスの弾んだ声。この時点で神が楽しめる乗り物であると立証されたのである。

 

「うわー!何だか楽しいよねレフィーヤ!?」

 

「ちょ、ちょっと当たらないようにするのに緊張しますけど!?」

 

「慣れてきたことだし、もう少し速度を上げても良いかしらね?」

 

「馬とは違う感覚だな」

 

「まったく、ヘルメス様の姿が見えませんねっ」

 

「・・・・・凄いっ」

 

風を切り、自分の足でも馬でもなく進む鉄の乗り物。違った進み方をする物を自分の手で動かす感覚は新鮮さを覚える。一行はコースを一周し終えるとゆっくりと一誠がいる場所まで戻った。先にいたヘルメスは子供のようにはしゃいでいた。

 

「お帰り、楽しめたか?」

 

「うんっ!すっごく楽しかった!」

 

「これよりももっと面白い遊びがある。今日は遊園地を体験してもらった上に堪能してもらうぞ?」

 

「イッセー、二人きりに成れる遊びもあるわよね?」

 

「抱きつけれる口実が得られる遊びもあるから安心しろ」

 

「ほ、本当ですかっ!?」

 

素っ頓狂、いや、若干喜びも含んだ驚きの声をレフィーヤは期待の眼差しを一誠に向け始める。ティオネも「よしっ」と喜ぶ。一行は『カーレース』から遠ざかり、次のアトラクションへと足を運ぶ。

 

「―――絶叫しろ、ジェットコースターだ」

 

細長い乗り物に乗るアイズ達。二人一組の座席に乗って一誠はリヴェリアと乗ってジェットコースターをアイズ達に体験させる。

 

「イッセー、これはなんだ?」

 

「物凄く速くて、衝撃を与える乗り物だ」

 

ガタンッガタンッと動く乗り物にリヴェリアの問いに応える。アイズ達を乗せる乗り物は期待と興奮、緊張と恐怖を抱かせ垂直の天辺まで昇り詰めて―――ガクンッ!と一気に落下し始めた。

 

「きゃあああああああああああああああっ!」

 

「うおおおおおおあああああああああああああああっ!」

 

先頭にいるヘルメスとアスフィの悲鳴。ジェットコースターは激しく滑り、曲がったり何度も宙返りし、時には地下に進んで―――。

 

『うっふ~んっ!』

 

「「「ぎゃあああああああああああああっ!?」」」

 

筋骨隆々のスキンヘッドと三つ編の揉み上げのビキニ一丁の同じ顔を持つ中年男性達が不気味な笑みを浮かべて一誠達の真上を飛び交う光景も窺わせた。

 

「い、色々と凄かったです・・・・・」

 

「あの男達は何なの!?ビックリしたわ!」

 

「絶叫なんだから当然じゃん」

 

「ハハハハッ!楽しいからいいじゃないか、また乗ってみたいよ!」

 

「アレだけで精神的に疲労が・・・・・」

 

ジェットコースターを後にし、次のアトラクションへ赴く一誠達。和気藹々と今度はどんな遊びを体験させてくれるのか期待と興奮、ちょっと疲れの色を浮かべるアイズ達が次に体験したのは―――。

 

「はい、お化け屋敷」

 

「お、お化け屋敷・・・・・?」

 

不気味な造りの建物。暗い色を基調とし、誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出している場所に案内された。

 

「本物のお化けじゃなくてぬいぐるみや人形といった作り物のお化け達が驚かすから、取り敢えず命までは奪わないのは事実だ」

 

「精神的なまでの恐怖を陥れると言うことですか・・・・・・」

 

「そういうことだから―――はい、二人一組で行く為にくじ引きで決めようか」

 

用意が良い一誠はどこからともなく八本の棒を入れた箱をアイズ達に突き出した。それを引いてもらった結果―――。

 

ヘルメスとアイズ、リヴェリアとアスフィ、ティオネとティオナ、レフィーヤと一誠と決まった。

 

「皆、大して怖がらず出口に辿り着けるだろうからせめて楽しんでくれ」

 

「あなた、私達のことどう思ってんのよ・・・・・?」

 

「最大派閥【ロキ・ファミリア】の団員」

 

恐がるような冒険者じゃないだろう?と一誠の発言で「そうね」とどこか悟った風に漏らすティオネに、

 

「残念だな。恐がる少女を男が優しく抱擁してくれて『大丈夫、俺が傍にいるから安心しろ』って言われる絶好の好機(チャンス)なんだけどな」

 

「―――恐くなかったら承知しないわよ?」

 

乙女の純粋を弄ぶ一誠に周りから呆れと苦笑いが。リヴェリアも溜息を吐いた一人で一誠に注意した。

 

「あまりティオネをからかうな。後が怖いぞ」

 

「いや、実際にお化け屋敷はそういう状況にもなるからからかってもないけど」

 

「・・・・・そうなのか」

 

「そうだ。先行は俺とレフィーヤで行くか」

 

「はいっ!?」

 

一誠に背中を押され出すレフィーヤは目を白黒させる。お化け屋敷の扉の向こうは奈落の底を醸し出し、恐れ戦く。

 

「ちょ、押さないでくださいっ!?」

 

「だーいじょうぶだって、頼りにしてるぞー?」

 

「話すら噛み合ってません!?」

 

あっという間にお化け屋敷の中に入った二人の背後からビシャンッ!と勢いよく扉が閉まりだしたのであった。

 

「レフィーヤってお化けとか苦手?」

 

「いえ・・・・・そうでもないんですが」

 

「なら気楽に行けるな。お化けは本物じゃない、人形だから平気だろう?」

 

「み、見ないことには何とも・・・・・」

 

壁に掛けられている魔石で灯されている提灯を二つ、一誠とレフィーヤがそれぞれ手にして暗闇の中を進む。

 

「この提灯には驚いた客の声に反応してメータ、失格になる限度を表す色を表示するんだ。失格の色は赤だから気を付けて」

 

「どうしてそんなことを?」

 

「より進みにくくする為とスリルを感じてもらう為だ。だからあまり大きな悲鳴を上げるなよ?」

 

「これ、どのぐらい進むんですか・・・・・?」

 

「十分程度だ」

 

「意外と短いんですね」と一誠の隣に歩くレフィーヤ。提灯の明かりだけが頼りなほど暗く、周りはぼんやりと設けられているセットの数々が眼に映り込む。

 

「このお化け屋敷はな。ただ進むんじゃない。冒険者依頼(クエスト)みたいなのをしないと出口に行けれない仕組みにしているんだ」

 

「そうなのですか?」

 

暗闇の中を進む二人は連なる障子を横切ろうとした時であった。障子に光が照らされ、二つの影が浮かび上がる。

 

 

『ま、待てぇっ!?』

 

『お前さえ、お前さえいなければ俺はあの女性と付き合える・・・・・っ!?』

 

『そんなっ・・・・・!そんなことの為に私を、私を殺すと言うのっ?』

 

『すまん、俺の為に―――死んでくれっ!』

 

 

逃げ惑う女性に男性は刀を振り下ろした直後に甲高い悲痛の悲鳴と障子にバッ!と血飛沫が付着し―――。

 

バッ!

 

「っ!?」

 

『よ~く~も~私~を~裏切った~わ~ね~ッッッ!?』

 

ぼさぼさの髪に頭から流れる大量の血で顔が赤く染まり、夫の理不尽な裏切りで殺され、怨念を抱いて死んだ女性は怨霊となって障子から頭と両腕で突き破ってレフィーヤと一誠に迫った!

 

「きゃああああああああああああああああああああああっ!?」

 

レフィーヤは前へと一誠を置いて進んだその瞬間、連なっている障子からズバババババッ!と数多の腕が出て来て山吹色のポニーテールのエルフを捕まえようとする。

 

ブブーッ!

 

提灯が赤色に染まって音が鳴りだした。

 

「うん、障子から生える腕は定番だな。そんで早くも失格とは・・・・・」

 

造った張本人は満足と苦笑いを浮かべレフィーヤを追いかける。と、壁の隅っこで座り込んで震えていたのを見つけた。

 

「ううう~~~~っ」

 

「人形だって言っただろう?」

 

「人形にしては本物みたいでしたよっ!?」

 

「本物に近く再現にして造ったんだから当たり前だ。それとお前の悲鳴でもう失格だ」

 

無駄に技術を籠める一誠。人形といえども恐怖とスリルは計りしれない。レフィーヤはLv.3、上級冒険者としてではなく一人の少女としてお化け屋敷を侮った。―――お化けは怖いと。

 

「失格になったからには非常口から外へ出ないといけないんだが、せっかくだからお化け屋敷を一緒に堪能しよう。―――言っておくけど、背筋が凍る恐怖はこの先にもあるからな?」

 

「っ・・・・・!?」

 

「恐いなら目を瞑って俺のしがみ付けばいい」

 

と、そう言う一誠はレフィーヤを立ち上がらせて前へ進みだす。前に進む一誠の背に隠れるようにレフィーヤが続くと―――。

 

『ケケケケケケッ!』

 

通路を照らす為に吊るされていた提灯が突然大きな一つ目と口から大きな舌を出して二人を脅かした。

 

「ひっ!?」

 

思わずと言った感じで一誠にしがみ付いたら優しくしっかりと抱き絞められたレフィーヤ。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫ですっ」

 

異性に抱きついてしまって顔を赤面するレフィーヤ。これがお化け屋敷、もしもアイズと一緒だったら自分を優しく包んでくれるだろうか。

 

 

『きゃぁあああっ!?』

 

『大丈夫・・・・・?』

 

『は、はい・・・・・アイズさんと一緒なら怖くは・・・・・』

 

『無理しちゃダメ。怖いなら私の腕の中にいて?レフィーヤを守ってあげるから』

 

『ア、アイズさん・・・・・っ』

 

『レフィーヤ・・・・・』

 

 

「―――アイズと一緒だったら確実に抱き絞めてくれるぞ」

 

「んひゃぁああああああああっ!?」

 

ビクゥッ!?と脳裏で思い浮かんでいた百合百合の展開に恍惚と意識が遠のいていたレフィーヤの全身を跳ね上がらした一誠。

 

「なるほどなるほど。アイズに敬愛以上の感情を抱いていたか。美しいことじゃないか」

 

「な、何を言って・・・・・!?」

 

「いや、フツーに顔に出ているから解り易い」

 

あっさりとアイズに対する感情と心情を看破されて自分の頬を両手で添えるように包み、恥ずかしいと発火する勢いで真っ赤になった顔のレフィーヤ。

 

「確かにアイズは美人で強い。強い憧憬を抱くのも当然だろう。俺も自分の親に対してもそうだった」

 

「そうなのですか?ひっ!?」

 

「ああ、目標でもあったからなー。超えたいと思ったこともあったよ」

 

進む二人の前に何かが横切った。気にせず一誠がレフィーヤを引き連れて進むと施錠された柵が一誠とレフィーヤを出迎えた。二人がいる場所の左右に二つの通路があり、

 

「そんな二人は俺の自慢の家族だった。強くて優しくてさ、いつも楽しませてくれた」

 

「良いご両親なんですね」

 

進むと赤と青の男女のマークが記されたトイレが。堂々と一誠が女子トイレに入り、

 

『開かないよ~、開かないよ~』

 

誰もいないはずのトイレから少女の声が聞こえ、

 

「ああ、二人とも。俺より全然強くてさ。超えたい壁が越えられない壁であると何度も思う時があるんだ(ガチャッ)」

 

『開いたぁあああああああああああっ!』

 

「うひゃぁああああああああああっ!?」

 

バタンッ!

 

扉を閉める際、扉の裏に掛けられた鍵を取ってすぐに閉めた一誠。

 

「あの柵の扉を開けるのに必要な鍵だ」

 

「そ、そうなのですか・・・・・」

 

「ゴールまでいくつかこういう鍵が必要になってくる。鍵を入手する為にはこういったお化けがいる場所へ向かわないといけなくなる」

 

来た道に戻って柵にある鍵穴に鍵を差し込んで扉を開けた。

 

「あの、今ご両親はどこにいるのですか?」

 

「わからない。生き別れの状態で俺はオラリオに来たからな。死んでいるのか、生きているのかすらも分からない」

 

『ねぇ・・・・・私、綺麗?』

 

口が大きく裂けた女性が一誠とレフィーヤを追いかけ回し、

 

『おにいちゃーん、おねえちゃーん』

 

卵のような顔のない少女がレフィーヤの足にしがみ付き、

 

『そんなの関係ねぇっ!そんなの関係ねぇっ!』

 

『安心してください、ちゃんと履いていますからぁっ!』

 

ビキニ一丁の中年の男性群が執拗に壁や天井を這ってでも追いかけてくる始末で―――。

 

「~~~~~っ!?」

 

レフィーヤの精神がとうとうピークに達した。

 

「こ、恐いですぅ~!」

 

一誠の腕を胸に抱え怯えるレフィーヤ。ツンと尖った耳も萎れて、お化け達が不気味な声を発しながら驚かす度にビクリと体を震わす。

 

「んー・・・・・少し、凝り過ぎたか?」

 

山吹色の髪を撫でて恐怖を和らげようとしている一誠はお化け屋敷の出来栄えに少々困惑した。

 

「あ、あの・・・・・もしかしたらご両親もオラリオにいるのでは?」

 

「ないな」

 

即答で返した。

 

「仮にいたらすぐにあの二人は噂が流れ有名になる。そしたら俺は二人のもとへ駆けつけて感動の再会を果たしているはずだ」

 

「あなたがそこまで言うほどご両親はお強いのですか?」

 

「当然だ。アイズなんて一蹴するだろうしオラリオ最強の冒険者なんて歯牙にも掛けず倒す程だ。―――そんな両親を俺は超えてみたい」

 

数十歩歩いた二人の目の前に出口と思しき光が暗い空間を外から照らしている。ようやく外に出られる、とレフィーヤは心から安心しきった矢先、

 

『ゲゲゲゲゲゲッ!喰っちまうぞぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

その不気味な女の声と共に出口が何かによって塞がれ、巨大な女の顔が凶悪で醜悪な口の中を覗かせ、ガチンガチンッ!と歯を鳴らして迫ってきた。

 

「な、なんですかあれはぁーっ!?」

 

「見ての通りだけど?さっきの入り口に戻る羽目になるから―――全力で走れっ!」

 

「何ですかそれぇっー!?」

 

恐い思いをしてようやく出口に出られると思ったら、入口に逆戻りしないといけなくなるお化け屋敷。二人揃って踵返して来た道に戻れば、先ほどのお化け達が二人を満面の笑みを浮かべて出迎え、「またのご来場お待ちしておりまーす」と朗らかに手を振って見送ったのであった。

 

「あうっ!?」

 

躓いてしまったレフィーヤ。直ぐ背後には巨大な女の顔が迫って来ている。立ち上がろうにも疲弊しきった精神と、迫る恐怖に全身が震え―――。

 

「ああもう、冒険者が怯えてどうするっ」

 

背中に背おられ、一誠がレフィーヤを背負ったまま逆走してようやく入口が見えた。そして二人は―――お化け屋敷から抜け出れたのである。

 

「あ、二人ともお帰りー。なんでイッセーに背負われてんのレフィーヤ?」

 

「見事に震えてるわね。そんなに怖かったの?」

 

「大丈夫?」

 

アイズ達【ロキ・ファミリア】が寄ってくる。一誠の背中で震えるレフィーヤを慰めた後、ヘルメスとアイズがお化け屋敷の中へと入っていく。

 

「ああ、アイズ。お化けを壊すなよ」

 

「・・・・・うん」

 

そして、数秒後。ヘルメスの悲鳴が聞こえてくるのは必然的であった。

 

「・・・・・中はそんなに怖いのですか?」

 

「人形だからって甘くみたり、馬鹿にしたら尚更な」

 

何時か中に入らなければならないアスフィもこの時ばかりは緊張をした。それから数分後。顔を青ざめるヘルメスや疲れた表情とちょっぴり怖かったとそんな顔をするアイズが戻ってきた。

 

「怖い、アレは怖いってイッセー君っ!夜寝れなくなりそうだよ!?」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

「お化け屋敷ってそういうもんだ。はい、次はリヴェリアとアスフィ組」

 

「・・・・・行きましょうか」

 

「ああ・・・・・」

 

表情が硬い二人は―――。

 

「え、なぜ俺も―――」

 

「「いいから」」

 

一誠を巻きこんでお化け屋敷に侵入を果たし、アイズ達の前に戻って来た時には固く一誠と手を繋がっていたのであった。

 

 

―――○●○―――

 

 

それから小一時間が経過した時には遊園地から外の世界に戻って昼食をしている一誠達。

 

「いやー、遊園地とは中々楽しい場所だったよ。うん、間違いなく神は娯楽を求めにやってくるだろうね!」

 

「と、神ヘルメスの称賛を貰ったことで遊園地の人気も間違いなく高いな」

 

「そこでイッセー君。あれをオラリオで運営して見ないかい?【ヘルメス・ファミリア】が全力で協力するよ?」

 

早速といった感じでヘルメスは一誠に商談を持ちかけた。確実に人気となるであろう遊園地で泡銭を稼ごうとしているとアスフィは察して溜息を零す。

 

「別にいいと思っているけど運営する為の人員確保とギルドが許しがなー」

 

「俺とアスフィに任せてくれたら問題なく進めれるって!」

 

「いや、ヘルメス一人でやれよそこは。アスフィは今繊細な時期なんだから」

 

「・・・・・感謝しますイッセー」

 

気を使ってくれるイッセーに心中涙を流す程喜ぶ気苦労人の団長。

 

「イッセー、お前は何時でも私達を驚かせてくれるな」

 

「はっはっはっ、皆の反応を見るのが好きだからな」

 

昼食―――玉子とじのカツ丼を食べる一誠達。ホッカホカの白飯にカラッと揚げられた肉と特製のタレはティオナがガツガツと男食いをするほどの美味であり、

 

「お代り!」

 

「私もお願いできる?」

 

「―――完全に自分の本拠(ホーム)のような態度ねそこのアマゾネス達」

 

一誠の隣で黙々と食べるアテネが不機嫌そうに漏らす。それに苦笑いをする一誠。

 

「俺が小さく成った時に世話になったんだから別にいいだろう?」

 

「・・・・・そう言われると、何も言えないじゃない」

 

つまらなさそうに口を尖らす女神の頭をポンポンと優しく宥める一誠に「まるで俺達みたいだなアスフィ」、「・・・・・知りません」と主神と気苦労人の団長の話が聞こえてくる。

 

「ティオナおねーちゃん!」

 

「おかわりさせないぞ?」

 

「ああんっ!ごめんごめん!」

 

余分に作っておいたカツをアマゾネス姉妹の容器に盛って手渡すとティオネが不思議と一誠に話しかけてきた。

 

「このご飯、『豊穣の女主人』にはないメニューね?あの酒場で働いているのに」

 

「俺しか知らないメニューをホイホイと教えるわけがない。【アテネ・ファミリア】しか作らないさ」

 

「へー、他にもイッセーしか知らないメニューがあるんだ。食べてみたーい」

 

「だったら【アテネ・ファミリア】の団員に成るしかないなー?」

 

意地の悪い笑みを浮かべる少年に「ケチ」とティオナは文句を言う。

 

人魚族(マーメイド)達は元気そうだね」

 

そこでヘルメスが一誠に話しかける。あの一件に少なからず関わっている神物として。一誠もヘルメスの言葉に反応し、そうだなと肯定する。共に昼食を堪能している仲間達の姿を見て頷いた。

 

「ああ、ウィルとレリィーとはすっかり仲良くなったよ」

 

「そうか。それは何よりだよ。できれば、彼女達のスキルを教えて欲しいかなー、なんて思ったりして」

 

「はっはっはっ。ダメだ。それは禁則(タブー)に触れる」

 

笑顔で断わられる。【アテネ・ファミリア】の団員は超越魔法(レアマジック)やレアスキルの保有者ばかり。アイシャは違うが上位の冒険者で実力は申し分ない。全体的、総合的に物差しを計れば中堅の【ファミリア】より劣るものの、一誠が一人いれば最大派閥の団員を上回る戦闘力でカバーできる。

 

「ぷはーっ。ごちそうさまーっ、美味しかったよイッセー」

 

「口に合って何よりだ」

 

ティオナが満腹したと満面の笑みを浮かべ、頬にご飯粒を付けながら言う。

 

「よぉーし、お腹一杯になったから運動をしたくなってきたよ!」

 

「ダンジョンに行くか?」

 

「・・・・・修行したい」

 

空になった容器をテーブルに置くアイズが金目を一誠に向け要望を口にした。

 

「イッセー、あの修行をしたい」

 

「・・・・・マジかぁ」

 

溜息も吐き・・・・・致し方ない、しょうがないとここで否定してもまたいつか懇願しにくるだろう。冒険者の性というのは実に面倒くさいと改めて実感する。

 

「以前のあの修行空間は作らないとできない。だから他のでするぞ」

 

「他にもあったんですか?」

 

「ある、というよりこれから用意するって話かな」

 

「待っててくれ」と一誠はリビングキッチンからいなくなった。残された面々はアテネに視線を向ける。

 

「アテネ、彼は?」

 

「悪いけど、私も何をするのかさっぱり分からないわ。イッセーの行動は私でも把握しきれない」

 

「本当に、イッセーって何者?この【アテネ・ファミリア】のホームを作ったのって女神様じゃないのでしょう?」

 

「ええ、イッセーが用意したわ」

 

「・・・・・イッセーって神様なんですか?」

 

「「それは有り得ない」」

 

疑問を口にしたアイズを神であるアテネとヘルメスが否定した。

 

「俺達神は色々な事情と奇跡によって生まれる。それから不変として天界で永遠に生きる定めも与えられてね」

 

「イッセーのような神は私達が天界にいた頃には存在しなかった。ましてや―――」

 

そこでアテネの柔らかく弾力がある唇が噤んだ。その先はこれから知ることになるだろうからと敢えて別の言い方で言った。

 

「ましてや、あんなイッセーみたいな神がいたら知らないはずがないわ。仮にいたとして、イッセーが神なら私はこう呼ぶわ」

 

―――龍神―――と

 

『・・・・・』

 

一誠の種族は【ロキ・ファミリア】の幹部しか知られていない龍族(ドラゴン)。ヒューマンでも亜人(デミ・ヒューマン)でもない種族の一誠を知るオラリオの住人は極僅か。

 

「龍神、龍の神と呼んでね」

 

「イッセーが龍族(ドラゴン)だからですか?」

 

「え―――イッセー君が龍族(ドラゴン)?ヒューマンじゃないのかい?」

 

「・・・・・どういう、ことですか?」

 

「あっ」

 

ヘルメスとアスフィは一誠の種族を知らずに接していたようだ。橙黄色の瞳を丸くするヘルメスと碧眼の瞳を丸くするアスフィにティオナは自分の失言に気付いたようで、慌てた。狼狽する。

 

「えっ、あっ、そのっ、イッセーにはちょっと秘密があってぇ!?」

 

「バカッ、思いっきり暴露してるんじゃないのッ!」

 

一誠の情報の漏洩が発覚すればリヴェリアは【アテネ・ファミリア】に移籍する約束がされている。口滑ったティオナの頭にティオネの拳骨が炸裂した。

 

「・・・・・彼はヒューマンじゃないのですか。でも・・・・・」

 

「んんん?亜人(デミ・ヒューマン)でも獣耳と尻尾があるはずなんだけど彼にはないよね?でも、違うとなればヒューマンなんだけどなぁ?」

 

疑心を抱くヘルメスとアスフィ。龍族(ドラゴン)など聞いたこともない。あるとすればダンジョンのモンスターぐらいだ。

 

「・・・・・神アテネ」

 

リヴェリアが静かに頭を下げ、一誠の情報の漏洩に深く申し訳ないと謝罪した。アテネはただ無言で横眼でリヴェリアを見つめる。神との約束に反故はできない。全て受け入れる姿勢の王族(ハイエルフ)に女神は口を開いた。

 

「別に問題ないわよ」

 

「・・・・・は?」

 

「だって、これからするんでしょう?だったら遅かれ早かれヘルメスに知られるわ」

 

寧ろ、少し手間が省けたとリヴェリアに言い返す。

 

「私が、私達が本当に知られて拙いのはイッセーの秘密とイッセーが抱えている物。間違ってでもギルドに知られたら、討伐隊が編成され、襲いかかってくる可能性がある。でも、彼は無駄な殺生は好まないからオラリオを離れるだろうけど」

 

「―――ああ、そうするかもしれないな」

 

リビングキッチンからいなくなった一誠が戻ってきた。手の中には見慣れないスノードームを持ってアテネ達に近づく。

 

「お待たせ」

 

「イッセー、それは?」

 

「新しいスノードーム。今度はこの中に入ってやるぞ」

 

テーブルに置いて魔方陣を展開し、光が一誠達を呑みこむ―――。

 

 

これで何度目か視力を奪われたアイズ達は回復した頃合いを計って目を開けた。まず周囲を見渡す。

―――どこか、見覚えのある大通りと街並みであった。

 

「・・・・・え?」

 

「ここって・・・・・」

 

「まさか・・・・・」

 

屋根の上に飛び乗って全貌を目の当たりにする。

 

「あたし達、オラリオにいるのぉっ!?」

 

白亜の巨塔、魔天楼(バベル)らしき建造物が見える。他の方角も見渡せば見知った建物がずらりと存在しているが人っ子一人もいなかった。

 

「イッセー、本当に私達を驚かしてくれるな」

 

「その彼がどこにもいませんが」

 

「・・・・・多分、準備をしているんだと思う」

 

「いや、俺はここにいるぞ?」

 

アイズ達の背後から声を掛ける一誠がいたのでティオネが問いだたした。

 

「ここ、本当にオラリオじゃないわよね?」

 

「勿論だ。全部レプリカ、偽物の『迷宮都市』オラリオだ。神も冒険者も一般人もいない俺達以外しかいない無人の修行空間。どんなに壊しても問題ない」

 

「イッセー君。君という奴はどこまで凄いんだい・・・・・っ」

 

感激に身を震わせるヘルメスは口の端が限界まで吊り上がらせた。稀代の魔道具作製者(アイテムメイカー)のアスフィですら言葉を失っていた。

 

「さて、招かざる客もいるがこれを見るからには一心同体だ」

 

徐に右眼の眼帯を外し、塞がれていた瞼がゆっくりと開いた。

 

『・・・・・っ!?』

 

右眼は左眼の垂直のスリット状の金色の瞳ではなく、濡羽色の瞳だった。どこまでも暗く、感情の光が宿っていない不気味な右眼。

 

「―――出て来い、アジ・ダハーカ」

 

解放した右眼に小さな魔方陣が浮かび上がり、一誠が空高く跳躍した瞬間。アイズ達の上空に黒い魔方陣が発現し、増す光が最高潮に達し弾けたと同時に

 

 

ギェエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

 

 

全身が黒い鱗に覆われ時折紫色の発光現象を起こす、三つ首とニ対四枚の邪悪な龍の咆哮だけでオラリオの建物が破砕、吹き飛ばされていく。

 

「ド、ドラゴンッ!?一体、どこから・・・・・!」

 

体が吹き飛ばされないように姿勢を低くするティオネとレフィーヤ、一誠の事を知らないヘルメスとアスフィも警戒と真剣な表情で目の前のドラゴンを見据える。

 

「・・・・・ダンジョンのモンスターじゃ、なさそうだね」

 

アイズ達の眼前に降り立ち激しい震動を与える三つ首のドラゴンの一つの頭の上に一誠が悠然と立っていた。

愉快そうに一誠は口を開いた。

 

「紹介するよ。こいつは『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザント・ドラゴン)』アジ・ダハーカって言う主に魔法と魔術が長けている邪悪なドラゴン。因みにアジ・ダハーカは魔石がない。倒すなら肉片の一つも残さないほどの超威力の攻撃をしないとダメだ。なんたってこのドラゴンは不死身だからだ」

 

「不死身のドラゴン・・・・・っ!?」

 

「―――待ったは無しだ。アジ・ダハーカ、遊んでやれ」

 

『はっ!我が主よ!』

 

喋った!?と驚く声を余所にアジ・ダハーカは三つの口から―――火炎、雷、吹雪を吐いてアイズ達を襲い始めた。

 

「あーと、ヘルメスとアスフィはこっちだ」

 

指をクイっと動かし、二人の体を宙に浮かせ、一誠の傍までこさせたその間、アイズ達は邪龍と戦闘を開始。

 

『フハハハハッ!この世界の魔法は幼稚だ。詠唱をしないと魔法を発動させることなどできないのだからな。こんな風にっ!』

 

数多の魔方陣を一斉に展開して、様々な属性魔法を一度に放つ。

 

「無詠唱魔法!?しかもあんなにっ!」

 

「馬鹿げている・・・・・っ!」

 

『ギェエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

咆哮(ハウル)っ・・・・・!」

 

三つの顎を開けて大喉を震わせたアジ・ダハーカの咆哮は耳を抑えるアイズ達の体を後方までに吹き飛ばす衝撃波も備わっていた。

 

「アイズ、ティオナ、リヴェリアっ!こんなドラゴンとあなた達は戦っていたと言うの!?」

 

「こ、こんなドラゴン・・・・・砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)とは―――!」

 

レフィーヤの悲鳴染みた叫びが魔力弾の直撃と共に掻き消えた。

 

『お前達が日々相手をしていたモンスターと一緒にされては困るな。俺は邪龍筆頭格の一匹に数えられていた最強の邪龍。そして我が主に従える忠実な僕だ』

 

「主って、イッセーのこと!?」

 

『他に誰がいる?』

 

長い黒い尾が鞭のようにしならせ、ティオネのいる建物を薙ぎ払った。アイズは、気配を殺し風の旋風と化し、アジ・ダハーカの脚に肉薄。そして、風を纏った《デスペレート》が見事に切り裂いた。

 

しかし―――それは間違いであった。噴出する血が意志を持っているかのように蠢き始め、邪悪な昆虫、生物が生まれ、アイズに襲いかかったのであった。

 

「っ!?」

 

直ぐに距離を置いてリヴェリア達と合流した。

 

『傷つけたか。中々だが俺を倒すのにはまだまだ力不足』

 

口角を上げ、不敵の言葉を漏らすアジ・ダハーカの足元は黒く染まりつつあった。

 

「な、何よあれ・・・・・」

 

不気味さを醸し出す黒は不気味な声を発する生物の群れ。ドラゴンだけの相手が邪悪な生物と相手もしなくてはならなくなった。増殖する邪悪な生物を目の当たりにし、第一級冒険者達は息を呑む。

 

「傷つけたらあんなのが増えるなんて冗談じゃないんだけどっ!」

 

「ま、魔法を詠唱する時間もない・・・・・」

 

「・・・・・っ」

 

「これが、最強の邪龍と謳われる由縁か・・・・・っ」

 

怒涛に迫ってくる『悪』に打ち勝てる術を持っていないアイズ達。背中に乗っていざ斬撃を与えると邪悪な生物達が血から生まれ襲われ、魔法の詠唱を試みようとすれば巨大な魔力弾がそうはさせないと阻まれ、風の鎧を纏うアイズには雷の魔法で迎撃される。―――その光景を魔天楼から眺めていた一誠達。

 

「うん、見事に押されているな」

 

眼帯を外している状態で当然の結末だと思いつつ、アイズ達を見守っている一誠。

 

「あの【剣姫】ですら、敵わないモンスター・・・・・」

 

「イッセー君・・・・・あのドラゴンをどこから出したんだい」

 

「ああ、俺の中だ」

 

自身の胸に手を当てて、明かした。

 

「俺がドラゴンであることはもう知ってるな。俺の中にアジ・ダハーカ以外のドラゴン達を封印しているから何時でもどこでも外に召喚できる」

 

「―――他にもあんなドラゴンがいるのですかっ!?」

 

「それが俺の最大の秘密だ。今なら他のドラゴンと会えるが・・・・・見たいか?」

 

複数のドラゴンを身に宿すドラゴン。他のドラゴンと会わせようかという提案にアスフィは首を横に振った。

 

「いえ、それはまたの機会に・・・・・ですが、【剣姫】達は大丈夫なんですか?」

 

「いや、大丈夫じゃないだろう。アレでも手加減してもらっているけどアジ・ダハーカの魔法の威力は凄まじい。全力で放てばオラリオなんて一時間もしない内に壊滅、崩壊、消滅するだろうさ」

 

ゾクリと一誠とアジ・ダハーカに畏怖の念を、戦慄を覚えた。その気になればそんなことができる。一誠の強さの源はなんなのか少しだけ理解したアスフィは魔法による怒涛の砲撃で一部の大通りの建物が消滅した瞬間を目の当たりにした。

 

「さてと、俺もそろそろ参加しようかな」

 

そう言ってドラゴンの翼と尻尾を生やしだす一誠はアジ・ダハーカがいる方向へと飛来する。

 

「―――ヘルメス、これで理解したかしら?」

 

「アテネ・・・・・」

 

「もしも、ギルドや他の神にこの事を明かしたらあなたの【ファミリア】を潰さないといけなくなる。絶対に誰にも言わないで」

 

「・・・・・ああ、分かったよ。あんなドラゴンに差し向けられたらあっという間に壊滅させられちゃうよ俺の【ファミリア】が」

 

二柱の神の会話のやり取りを耳にしながら、真紅のドラゴンと【ロキ・ファミリア】が戦うアジ・ダハーカとの戦闘を肉眼で捉えるアスフィは、今回の一件を絶対に忘れないだろう。一誠の秘密と一誠の強さの秘訣を少なからず知ったこの日を―――。

 

その日の夜。廃墟と化している教会の各市扉を開けて地下へ静かに進むとソファとベッドでそれぞれ寝ている女神と兎を発見した。そっと白銀の分厚い書物をテーブルに置き、用は済んだとばかりこの場から去ろうとしたが、ふと二人を見て―――ニヤリと悪戯を思い付いては口角を上げた。兎を宙に浮かせ、ロリ女神が寝ているベッドに移動させるだけ飽き足らず、お互いを抱き合わせて寝かせるとフラッシュが二人を一瞬だけ照らした。翌日―――女神が珍しく目を覚ますと唯一の眷属が自分を抱き絞めて寝ている姿に驚愕と歓喜で震え、噛みしめた。そして兎が目を覚ますと真っ赤に染め上げた顔で驚愕の叫びをしたのであった。

 

 

 

 

「・・・・・ウラノス。どうする?」

 

地下神殿にてアイズの経由で窺えた映像を見た後に黒衣の人物はウラノスと共に一誠の正体と一誠の秘密を知った。ギルドの誠の王に問うフェルズは質問した。これからどうすると。

 

「・・・・・フェルズ、アテネとこの者をここに」

 

「―――本気で言っているのか」

 

ギルドの地下神殿に招きたいとウラノスに信じられないと、発する言葉の声音に驚きが含んでいたが、静かにウラノスは告げた。

 

リド(同志)達と理解しあえる可能性がある」

 

黒衣の人物、フェルズと呼ばれたものはウラノスの言葉で沈黙した。

 

「あの遊園地とやらも利用価値がある。今夜深夜に・・・・・」

 

「・・・・・貴方の真意のままに従おう」

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