オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚15

『豊饒の女主人』の前にてベルと合流を果たす一誠は―――。

 

「ベル坊、女神と添い寝はどうだった?」

 

「な、なんであなたが知っているんですかっ!?」

 

「ふはははっ。―――俺がそう仕掛けたのだ!」

 

「あんたかぁっー!?」

 

二人の間でしかわらかないことを騒ぎ空いている大通りを進み、

 

「今日はリリと待ち合わせしてるか?」

 

「はい、そうです」

 

「最近のあいつはどうだ?」

 

「何時もと変わりませんけど?」

 

【ソーマ・ファミリア】の内情とリリの立場を知っている一誠が言葉を選んで聞いてみたところ、しばらく会っていなかったリリはベルの前では何時も通りの態度で振る舞っているらしい。

 

「僕、魔法が使えるようになったんですよイッセーさん!」

 

「おー、そうなんだ。どんな魔法なのか見せてもらおうじゃん」

 

「絶対に驚かせます」

 

リリと集合場所へ赴くベルを付いて行くと中央広場(セントラルパーク)に辿り着いた。晴れ渡る空の下、今日も広大な円形広場は、完全武装した戦士達が集まっていた。

 

「今日はどこまで行きますか?」

 

「アイツの手助けをする為にも27階層にまた行くとしよう」

 

「また、馬に乗ってですか?」

 

「当然だ」

 

ダンジョンに潜る前にどっと疲れた表情を浮かべ出すベル。慣れていない騎馬を再びしなくてはならないほど急いで行かないと日が暮れる程に遠いのである。

 

「そういや、【ステイタス】の方はどうだった?」

 

「凄く伸びていました」

 

「・・・・・30階層に行ってみるか」

 

「勘弁してくださいッ!」

 

自分に不相応な階層に連行させられそうになる一誠にご下座をする勢いで拒絶した。

 

「しかし、いないな。後から来るのか?」

 

「そうですね。まだ来ていないのかな・・・・・?」

 

集合場所にリリの姿を探してみても、視界の中にはそれらしき幼女はいない。ベルは不思議に思いつつバベルまで赴こうとすると、その途中、木洩れ日に濡れ、そよそよと葉が風に揺れる気持ち良さそうな木陰に、リリと冒険者らしき男達がいた。四人の大の男が小さなリリを取り囲んでいる。彼等は凄い形相を作り何事かを言い放っていて、リリの方はと言うと必死に顔を横に振っていた。決していい雰囲気じゃない。

 

「―――あいつら」

 

「イッセーさん?」

 

億劫そうに一誠もベルが視界に入った四人の冒険者を見て溜息を吐きだした。

 

『・・・・・いいからっ・・・・・寄こせっ!』

 

『もうっ・・・・・ない・・・・・ですっ!・・・・・本当に・・・・・!』

 

一誠の耳にはリリ達のもとから言い争っている声が届いてくる。手をリリの方へ翳すと、大きなバックパックを背負った幼女が宙に浮き始め、物凄い勢いで・・・・・。

 

「よぉ、久し振りだなリリ」

 

「っ、イッセー様っ!?」

 

「早速だが、ダンジョンに行くぞ?時間が勿体ないからな」

 

「ふぎゃっ!?」

 

ベルに迫ってバックパックが直撃したことでリリは地面に着地することができた。

 

「おいベル坊。情けないぞ。ちゃんと受け止めてやれよ」

 

「ちょ、いきなりリリを宙に浮かせてこっちに来させないでくださいよ!?」

 

「ああ、悪い。反省も後悔もしていない」

 

「「最低ですあなたは!?」」

 

歳下からの非難を受け流し、合流を果たせたリリともどもベルの背を押してダンジョンへと繰り出す。その背後から不穏な声を一誠達は聞こえず、聞き逃していた。

 

 

「奪われたぁ~?」

 

「はい・・・・・イッセー様が提供して下さった道具と殺すぞと脅されてあの時のお金を全部・・・・・」

 

馬に騎乗して27階層に進む俺の隣で告白するリリ。上下激しく揺さぶられベル坊にしがみ付く最中でここしばらく起きたことを俺とベルに教えてくれた。

 

「五〇〇万ヴァリス全部?」

 

「全部です・・・・・」

 

「そんな、酷いっ・・・・・」

 

金より命の方が大切なのは分かるが、どの世界も弱肉強食めいたことが起きるもんだな。さて、今回も稼いだ金を横取りにされるなら・・・・・。

 

「そうだな。直接ソーマに退団の申し出をするか。今日」

 

「今日、ですか?本当にリリは【ファミリア】から退団ができるのでしょうか」

 

「前にも言ったができなければ脅すまでよ」

 

「さらっと言うイッセーさんが怖いのは僕だけかな・・・・・」

 

気にしたら精神が保たんぞベル坊。

 

「奪われるぐらいなら、退団してベル坊の【ファミリア】に加入したほうが金が溜まる。今の派閥よりずっとマシな派閥にな」

 

「え、イッセーさんの【ファミリア】ではなくて?」

 

「俺の【ファミリア】は今後色々と問題を抱えそうになっているから無理だ」

 

「イッセー様、一体何をなさっておるのですか」

 

はっはっはっ、リリ。そんな呆れた目で俺を見つめるな。俺がいると毎日が異常事態(イレギュラー)が生じてもおかしくはないんだぜ?

 

「ベル坊も眷属の一人や二人は欲しいだろう?」

 

「それはそうですけれど・・・・・」

 

「俺もここ最近、一気に四人も増えて賑やかになっている」

 

「え、そうだったんですか?」

 

「ああ、種族はバラバラな仲間達だ。今度会わせてやるよ」

 

遭遇(エンカウント)したモンスターは馬が通り越したり、踏みつけて倒したりとしていくこと三十分。

 

「イ、イッセーさん。こ、腰が痛いですっ」

 

「リ、リリもですっ!」

 

悲鳴を上げ出す二人に、休憩しようと馬を停止させた。

 

「冒険者でも恩恵を受けているから騎馬でも乗りこなせれるのかと思ったんだがな」

 

「何度も腰に衝撃が伝わって痛いんですよっ」

 

「リリもですっ」

 

地面に腰を下ろして深い溜息を零すベル坊とリリに首を傾げる俺。

 

「んー、足で走るより馬で行った方が速いんだけどな・・・・・しょうがない」

 

「「え?」」

 

俺がバックパックから絨毯を取り出しては広げ、乗れば宙に浮きだす絨毯。

 

「これなら問題ないだろう。空を飛べる魔法の絨毯だ」

 

「「それがあるなら早く言ってくださいよっ!?」」

 

何故か非難される・・・・・解せん。ベル坊とリリはすかさず絨毯の上に乗りだして落ち付いた。

 

「これ、魔道具(マジックアイテム)ですよね?」

 

「そうだ。持ち運びにも便利だぞー」

 

移動する絨毯の上で説明する。

 

「・・・・・意外とスピードが遅いような」

 

「おいおい、猛スピードで行ったら絨毯から転げ落ちるぞ」

 

「あっ、そういうことですか」

 

ベル坊は納得した。確かに掴む場所は無く、物凄い速さで行けば風と衝撃で座り辛くなるのは必然的だ。だからそれなりの速さで進ませているんだ。

 

「やっぱり、それなりに速く進んでいるが馬よりは遅いな」

 

「いえ、こっちの方が断然いいです」とリリからキッパリ言われてしまう。しかも「今度からこの絨毯で行きましょうイッセー様」「僕からもお願いします」などとリリだけじゃなくベル坊まで言われ・・・・・。

 

「・・・・・このヘタレ共」

 

「「あなたが異常なんです!」」

 

最近、見ない間になんかこの二人は息が合うような気がしてならないな・・・・・。

 

 

 

 

「エイナーエイナー」

 

「なによ、今勤務中だから―――」

 

万神殿(パンテノン)、ギルド本部に働くギルド員、受付や魔石やドロップアイテム専用の換金所があるダンジョンを運営・管理する為の施設の中は何時も通り様々な種族や冒険者達が足を運びにやってくる時間帯で同僚に話しかけられるハーフエルフ。

 

「なんか、ピリピリしてない?」

 

「え?」

 

エルフの象徴でもある尖った耳にコソッと耳打ちをする同僚からの指摘に初めて周囲の雰囲気の異変を感じ取った。

 

「(言われてみれば・・・・・)」

 

何時もの日常とは少し違っている。何か、絶対に見逃してはならないとそんな緊迫した雰囲気が長年受付嬢として勤務してきたハーフエルフのエイナも敏感に感じた。

 

「それにさぁ・・・・・ずーっといる冒険者がちらほらいるんだけど」

 

同僚は遠慮気味にチラリととある冒険者を見つめる。待機できるソファや椅子に何時までも座っている冒険者を一瞥した程度だが、エイナは何となくの程度で覚えていた。

 

「今日、【ソーマ・ファミリア】の冒険者が多くない?」

 

「・・・・・うーん、確かに」

 

三日月に杯のエンブレムを描かれた鎧を身に包む冒険者がギルドに長時間滞在している。それも五人だ。

 

「何となく見ていたんだけど三十分とか一時間とかその度に他の【ソーマ・ファミリア】が入れ換わって何かを待っているような感じで居座っているんだよねぇ」

 

「そう・・・・・」

 

「別に悪さもしてるわけじゃないし、換金した後で居座っているから注意も中々できないから他の皆も歯痒い思いをしているよきっと」

 

顔に出さないギルド員の心情を察する同僚。今日に限って【ソーマ・ファミリア】がギルドに長く居座る理由は定かではない。

 

「(一体、どうしたんだろう・・・・・)」

 

何か悪いことにならないといいんだけど・・・・・。

 

 

 

「【ファイアボルト】ッ!」

 

赤い稲光がベル坊の手から炸裂し、あろうことか木竜(グリーンドラゴン)の頭部に直撃し焼いたものの、いまだ健在。それでも十分にダメージを与えたことには変わりない。

 

「なるほど、炎の稲妻か。面白そうな魔法だな」

 

「でも、やっぱり一発では倒せませんね」

 

「実際あのモンスターはベル坊より上だ。魔法に対する防御力も高い」

 

「まあ、こうして動きを封じておけば怖くは無いんですがね」

 

落とし穴に見事嵌まっている宝財の番人(トレジャーキーパー)を油断せず見据えるリリも話に加わる。

 

「イッセーさんは魔法を発現しているんですか?」

 

「ああ、雷系の魔法だ」

 

「雷系ですか。見てみたいです」

 

純粋に懇願されるが・・・・・生憎この魔法は、

 

「無理だ。ここじゃ狭すぎる」

 

「と、いうと?」

 

「俺の魔法は殲滅魔法だ。ここで放てば、せっかくの宝石の実も巻きこんで消失してしまう」

 

「・・・・・もしも本当にそうならばリリ達も巻き込まれる危険性もありますね」

 

そーいうことだ。だからここでは使えない。

 

「悪いな。俺の魔法のお披露目はまた今度だ」

 

「いえ、しなくてもいいと思いますが、ねっ!」

 

魔力で矢を具現化させる弓を持つリリが矢を射る。光の矢は貫通性で木竜(グリーンドラゴン)の焼けた頭部を貫き、絶命に追い込んだ。

 

「魔力を随分と込めたようだな?」

 

「そうしないとリリでも倒せないですよ」

 

「うーん、サポーターとして鍛えられた俊敏も合わせるとリリも冒険者としてもいけるんじゃないか?」

 

「いえ、この弓では少々動きにくいです。リリの《リトル・バリスタ》でしたら動きながらでも矢を放つことができます」

 

右腕に装着している武器を見せ付けてくる幼女を肯定と頷いた。

 

「分かった。リリ専用の武器を作ってやろう」

 

「いいんですか?」

 

「物作りは趣味の一つだから別に構いはしないさ。後でそのバリスタを貸してくれ」

 

コクリと小さく頷くリリや灰化したモンスターからドロップアイテムと魔石を手にするベル坊を視界に入れ、

 

「ようし、宝石の実を採取するぞ!」

 

「「はいっ!」」

 

俺達の報酬とばかり宝石樹が実らす宝石の実を根こそぎ採取して魔法の絨毯の上に置いていく。

 

「いちいちここまで来ずともこの樹を地上に持ってきて育てることはできないかな」

 

「ダンジョンの中でしか手に入らない物はダンジョンでしか育たない物もあるかと思いますよイッセー様」

 

「うーん・・・・・気になるなぁー。一度試してみたいよ」

 

宝石樹を強引に地面から土ごと引き抜いては、バックパックに入れ込んでいく。その後、膨大な量のダンジョンの土をかき集めて巨大な瓶の中に入れ、バックパックの中に詰め込んでいく。

 

「・・・・・よく、入りますね」

 

「一体どういう仕組み何ですか・・・・・」

 

「んー、秘密だ。帰りに食糧庫(パントリー)に寄るぞ。宝石樹の栄養分として泉を採取したい」

 

唖然とする二人と長い時間を掛けて、ダンジョンでのやるべき事を終えた俺達は地上に帰還する。

 

「リリ、今日の報酬は―――」

 

「ええ、お願いします」

 

バベルを後にし、まだ夕暮れにもなっていない青空の下でギルド本部へ赴く。浮遊する絨毯の上で布に包まれているも隙間から見える煌めきを発光させる宝石樹の実を見てリリは尋ねるように声を出す。

 

「今日はどのぐらいなんでしょうかねー」

 

「前回と同じかそれ以下かなー。それでも多額の金が手に入るだろうと思うけど」

 

「結果がどうであれ良ければリリ達の苦労が一気に報われますよ~」

 

「そうだねー」

 

笑みが絶えない若き幼女と少年の様子に俺も口元が緩む。そろそろ春姫達とダンジョンに潜ってもいいだろうか?

酒場で働いているだろう女神の眷属達を思い浮かべながら大通りを進んでいく。酒場に戻るように北西のメインストリート、『冒険者通り』に進んでいく中、目的の建物に辿り着いた。

 

『・・・・・おい』

 

『ああ・・・・・』

 

俺と不意に目が合う冒険者達。その眼に邪な色が宿ったのがよーく解った。そして鎧のエンブレムを見て、物凄く溜息を吐く。ああ、あからさまにだ。

 

「(失敗したなー)」

 

胸中でも嘆息し、完全に無視してギルド本部に入って換金所に真っ直ぐ赴いて布に包まれたアイテムを換金した。

 

「お願いしまーすっと」

 

宝石の実の一つの額は数万から十数万。それが大量に採取すれば当然、他のドロップアイテムと込みで―――。

と、予想金額をしていた俺の目の前に戻ってきた大小の金貨が包まれた大量の亜麻袋を見た。―――三〇〇〇〇〇〇以上のヴァリス(かね)

 

「気を付けなよ」

 

しかも、鑑定員から警告を貰った。今までなかったことなんだが、その理由は直ぐに理解する。亜麻袋をバックパックから取り出す大きめの亜麻袋に詰め込んで、背後にいるベル坊とリリに振り返って頷く。

 

「そんじゃ、静かな場所で山分けと行こうか」

 

「「はい」」

 

ソーマのところに行かないといけないし、タイミングが大事だよな。数多の意味深な視線を向けられていることに気付きながらも気にしないでギルド本部を二人と一緒に出ようとした雰囲気を察した冒険者が呼応して動き始める。

 

「よぉ、俺達にも金恵んでくれねぇか―?」

 

「そこのガキと同じ【ファミリア】で、金に困っているんだ」

 

「俺達の仲間に大金をくれてやったそうじゃないか。だからよ、俺達にも寄こしてくれないか?」

 

腰に帯剣している得物に触れながら悪い笑みを浮かべながら近づいてくる冒険者達。

 

「リリ、なんか言ってきてるが?」

 

「聞こえませんよ。金の亡者(ゾンビ)なんかの言葉なんて」

 

「だ、そうだ。だからお前らにやる金なんてないからどいてくれるか?

 

【ソーマ・ファミリア】だけじゃなく他の冒険者にも囲まれる中、否定するリリにこの状況に不安でどうしたらいいのか分からない風にオロオロするベル。

 

「おいおい!一〇〇〇〇〇〇ヴァリスぐらい俺達にくれたって罰は当たらないだろ!」

 

「そうだぜ。見ていたが結構たんまりと稼いでいたじゃないか?その三割ぐらいくれって」

 

「同じ冒険者だ。金をくれたら一緒にダンジョンに行ってやってもいいんだぜ?」

 

と、道を阻む冒険者共。

 

『うわぁ・・・・・そういうことだったんだね。とうとう【ソーマ・ファミリア】は他所の冒険者から金を奪い取ろうとしているんだ。エイナ、どうする?』

 

『・・・・・ギルドの者として当然のことをするまでだよ』

 

聞こえる受付嬢の会話。動いてくれるなら俺自身が動くまでもないかな。

 

「そこの冒険者様方。ここはギルド本部。ここで騒ぎを起こすようであれば罰則(ペナルティ)を執行をせざるを得ません」

 

「エ、エイナさんっ」

 

ハーフエルフが助け船を出しれくれたことでベルが安堵の表情を浮かべた。

 

「ヒデェ言いがかりだ。俺達は言葉でこいつらと話をしているんだ。金を分けてほしいってよ」

 

「大の大人達が幼い子供達から、命を賭してダンジョンから得た金銭を巻き上げると言う話しですか?」

 

「俺達はこのサポーターと同じ【ファミリア】の冒険者だぞ!?仲間に金を分けてくれって何が悪いんだ!」

 

「悪くはありません。ですが、寄って集って得ようとするあなた達の行いは、努力もせず多額の大金を得ようとする考えをするあなた達は冒険者以前に大人として失格です」

 

次の瞬間、冒険者達から怒気のオーラが滲み出た。

 

「言ってくれるじゃねぇか」

 

「飽きるほど命を懸けて、モンスターを殺して金を得る俺達冒険者の気持ちを貶すってか、ああ?」

 

数人の冒険者がハーフエルフに近寄る。

 

「楽に金を得ようとして何が悪いってんだよ」

 

「ああそうだぜ。俺達みたいな冒険者は他にもゴロゴロと腐るほどいやがるんだ」

 

「なんなら、テメエの体で稼いでもらおうじゃん?」

 

一人の冒険者がハーフエルフに手を伸ばした。その汚い手で捕まえた瞬間、ギルドも黙っていないだろうにそれを気付かない馬鹿に―――。

 

「っっっ!」

 

ベル坊が二人の間に立ち、ハーフエルフを守るよう咄嗟に冒険者の手を払った。

 

「エイナさんに触れるなっ」

 

「んだ―――ごはっ!?」

 

「げばっ!?」

 

「がっ!」

 

おっと、悪い。大金が詰まった亜麻袋でスイングしてしまった。

 

「おっと、虫が飛んでいたから叩こうと巻きこんでしまったな」

 

ブンブンと亜麻袋を振り回す俺によってなぎ倒された冒険者達を見て、他の冒険者が非難を浴びせてくる。

 

『わざとだろう!?』

 

「当然だ!」

 

『なんて奴だ!』

 

脳震盪を起こしているのか、起き上がろうとしないし気配もしない。

 

「お前らも食らってみるか?大金が詰まった亜麻袋の打撃を」

 

ブンブンと豪快に振り回し近づけば、あぶねっ!?あぶねっ!?と避けて躱し、俺から距離を置かれたので首を傾げた。

 

「おーい?お前らが欲しがっている大金が入っているんだぞ。欲しいなら受け取れよ」

 

「ふ、ふざけんなっ!?完全に渡す気がないだろうが!俺達を誰だと思ってやがる!?」

 

「【ソーマ・ファミリア】しか知らないよ馬鹿が。名前まで知る筈がないだろう。それともなにか?お前らは【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】みたいな超有名な派閥のどこかだと言いたいのか?碌に『中層』以上言ったこともないくせに威張るなよ」

 

「なん―――(ブオンッ!)あぶなっ!?」

 

ちっ、

 

「ちっ」

 

「舌打ちしやがったこいつ!?」

 

あら、口に出ていたか。今度からバレないようにそうしよう。

 

「どちらにしろ、この金はお前らにくれてやるほど安くはない。さっさと自分のマイホームに戻ってろ。それでも欲しいなら・・・・・」

 

―――【アテネ・ファミリア】と抗争でもして奪ってみるか?

 

―――○●○―――

 

「―――ねぇ、ソーマ・・・・・。ねぇ、あなたの子がうちの子にとんでもなく迷惑を掛けているのだけれど・・・・・。ねぇ、そんなに天界に戻りたいの?ねぇ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)にて女神と男神の会合がされていた。しかし、二柱の符に気はとても穏やかではなく、女神アテネから感じる神の力(アルカナム)に男神ソーマは無表情ながらもうっすらと額に汗を浮かばせている。怒髪天を衝くのごとく、夜、一人だけで他派閥の本拠地に乗り込んでは【ソーマ・ファミリア】の冒険者達を青ざめさせ、恐れ戦かせて直接ソーマと対峙してやってきたアテネの心情は『天界』『送還』の思いで胸一杯だった。

 

「これが初めてかと思えば『三度』もあなたの子供が迷惑を被ったらしいのよ。あの子、優しいから言わなかったんだろうけど・・・・・流石に鬱陶しいかったようで私にどうにかしてくれないかって泣きつかれちゃったわ」

 

―――一誠は億劫そうにギルド本部で起きたことを告げたのだが、愛して止まない一誠の心情を思って頭の中で可愛く涙目で「どうにかしてちょうだい、アテネー!」と美化していた。

 

「あなたの生産するお酒は、住まわせてもらっている酒場の為にもなるから購入していたのだけれど、派閥同士の話になると全く別になるわソーマ」

 

「・・・・・」

 

「人の話を聞いている?さっきからうんともすんとも言わないのだけれど?ねぇ・・・・・」

 

神の力(アルカナム)で具現化した刀身をソーマの前髪をばっさり切って目を晒した。

 

「私の目を見てくれないと、その眼玉をくり抜いて私に向かせて語るわよソーマ」

 

突き付けられる刀身の切っ先にソーマはようやく口を開いた。

 

「・・・・・・すまない」

 

「その一言で今の私が許すと思ったら大間違いよ。―――『戦争遊戯(ウォーゲーム)』とやらでもして、お互いすっきりさせちゃいましょうか」

 

「―――っ!?」

 

前髪がさっぱりしたソーマの双眸が大きく見開いた。―――『戦争遊戯(ウォーゲーム)』。対戦対象(ファミリア)の間で規則(ルール)を定めて行われる、派閥同士の決闘。眷属を駒に見立てた盤上遊戯(ボードゲーム)のごとく、対立する神と神が己の神意を通す為ぶつかり合う総力戦。いわば、神の『代理戦争』。勝利をもぎ取った神は敗北した神からすべて奪う、命令を課す殺生与奪の権を得る。通常ならば団員を含め他派閥の資材を全て奪うことも通例である。

 

「あなたからの謝罪を受けた程度であなたの子供が心を改めるとは限らない。だから、結果を示して白黒とはっきりさせた方が早いわ」

 

「・・・・・アテネの子供は何人ぐらいいる?」

 

「五人よ」

 

たったの五人で【ソーマ・ファミリア】と戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込むアテネの心情が理解し難いソーマ。

 

「先に言わせてもらうけど、あなたが首を縦に振らないとあなたをすぐに天界に送還するわ。ええ、今その気持ちが一番強いのよ。縦に振ってくれたら一先ず天界の送還は先延ばしにしてあげる」

 

どうかしら?と刀身の切っ先を突き付けてくるアテネに対し、ソーマはハッキリと肩を落とし、頭を垂らす。

 

「・・・・・分かった」

 

脅迫も何でもない。この状況を打破するには相手の思い通りにしないといけない。十人も満たさない【アテネ・ファミリア】の団員達が一体どうやって【ソーマ・ファミリア】に立ち向かうのか、この時ソーマは知らない。

 

 

 

【アテネ・ファミリア】と【ソーマ・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)の話は瞬く間に広まった。発生源はギルド本部から。派閥同士の戦争遊戯(ウォーゲーム)を聞き付けた娯楽に飢えた神々が、

 

『臨時の神会(デナトゥス)を開くぞ!他の神々(ヤツラ)も招集だ!』

 

『滾ってきた―――ッ!!』

 

『久々の祭りやー!』

 

あっという間にお祭り騒ぎにしてしまい、彼等彼女等は戦争遊戯(ウォーゲーム)の膳立てを主導し始めた。

 

「ほんじゃー、ここにはおらんソーマを抜きにしてうちらが色々面白可笑し―――」

 

「は?」

 

「い、いや!真剣に決めようやっ!」

 

ここ、オラリオ中央、魔天楼施設(バベル)三十階にてロキを始め、多くの神々が招集された。神会(デナトゥス)とは、もとを辿ると一部の神々が退屈しのぎに企画した一種の集会だった。ある程度の自派閥(ファミリア)の実力と地盤を築き上げた神は、今を生きると言う苦労を忘れ堕落期に突入しがちとなる。時間を持て余すようになった彼等は戯れに同郷の者同士で集まることを覚え、些細な事を喋り合っては暇をつぶすようになったのだ。要はただの歓談であったのだが。ここで重要なのは、奔放の神達が一定期間で一ヶ所に集まる場が設けられたということだった。やがて集会は参加する神が多くなるにつれ規模を広め、時代を経るごとに目的を変えていった。ただの駄弁は最新(ホット)な情報の共有となり、また意見を交わすことで相互の【ファミリア】だけでなく、ギルドと提携して都市全体を巻きこむ『催し』を企画するまでに至った。神会(デナトゥス)の会場は都市中央に位置する魔天楼(バベル)、その地上三十階。塔を改装し一つの(フロア)を丸々を使った大広間は、存在していた全ての仕切りが取り払われ、太く、長大な列柱が整然と並び遥か上の天井を支えていた。広い空間には巨大な円卓が中央にポツンとあるだけで、他は何も設置されていない。奥の壁際には巨大な硝子が周囲に張り巡らされており、地上三十階の空に囲まれている。天井が異様に高いこともあって、まるで空に浮かぶ神殿にいるかのようだ。

 

「どーしてロキが私とソーマの問題に関わってくるのか不思議なのだけれど?」

 

「いや、ほらな?アテネは知らんやろうけど『戦争遊戯(ウォーゲーム)』となると、オラリオ全体も巻き込むんやからうちら神々も色々と決めなあかんやで」

 

「―――自分達が盛り上がるような決めごとなら、この場で天界送りにしてやるわ」

 

神の力(アルカナム)を発動させるアテネに焦燥に駆られるロキや神々。

 

『ちょ、【天界の怒髪天姫】が神の力(アルカナム)を封印してないんだけどぉー!?』

 

『マジかよ!?天界の神々(ヤツラ)なに許しちゃってんだよぉっ!?よりにもよって【天界の怒髪天姫】に!』

 

『アイツに激怒された記憶が甦ってトラウマが・・・・・。後を任せて良いか?俺は先に―――』

 

『『『お前っ、それは死亡フラグッ!』』』

 

好き放題言ってくれる神々の顔を覚え、今度問答無用に送還してやると胸中に秘め、力を収めた。

 

「それでロキ、あなた達が決めるのだからきちんとしているのよね?」

 

「も、勿論やアテネ」

 

「で、どーやってあなた達が決めるのよ?」」

 

「本来ならソーマもここに来てほしいんやけど、呼びかけにも応じへんからうちらで勝手に決めるしかない。ここはくじで決めるで」

 

ロキのその提案は認められ、ヘイ、と準備のいい神が箱をどこから取り出し円卓に置く。その場にいる神が一柱一枚戦争遊戯(ウォーゲーム)の方法を羊皮紙に書き、集められていく。アテネも記して箱の中に入れた。

 

「それじゃ、ロキ。あなたが引きなさい」

 

「おっしゃ!任せときぃ!」

 

『『『面白いクジを引いてくれ無乳!』』』

 

「潰すぞっ」

 

『『『すいませんでしたぁーっ!』』』

 

「本当のこと言われても変えようのない事実なのにね」

 

「アテネなんて嫌いやっ!」と箱の中に手を突っ込んでゴソゴソとあさるロキ。決まるその時を待つアテネ達の前で、彼女は取りだした一枚の羊皮紙を確認すると・・・・・。

 

一対一(タイマン)勝負』

 

という結果が決まってしまった。

 

「(問題ないわね)」

 

胸中で呟くアテネの中での予想は既に決まった。勝負は始まる前に決していると。

 

 

 

―――その後、夜。本拠(ホーム)に戻ったアテネが全員揃ったタイミングを計ってテーブルを囲んで神会(デナトゥス)で起きた詳細を眷属達に伝えていた。一対一での勝負で他派閥と戦って貰うことになったと。一誠達の反応は―――。

 

「問題ないな」

 

「そうだな」

 

「そうなのでございますか?」

 

「「そうなの?」」

 

さほどの脅威を感じていない一誠とアイシャ。春姫、ウィル、レリィーは強い冒険者がいるかもしれないと言う不安感で二人に向かって問うと、アイシャが口を開いた。

 

「フリュネを倒したこいつなら他大抵の冒険者なんて何とでもないさ」

 

「そう言うことだ春姫。心配することよりも信頼して信じていた方が嬉しい限りだ」

 

笑みを浮かべる一誠、春姫はコクリとそうしようと思い頷いた。

 

「勝利条件は団長の撃破だと思うから。イッセー、あなたが勝負の幕を下ろしなさい」

 

「りょーかい。我が主神様に栄光の勝利を貢献しようかね」

 

「期待してるわ」

 

Lv.は上級冒険者のアイシャが上だが、実力は一誠の方が逸脱している。アイシャ自身も一誠の実力を身体で体験し、認めている。そして戦争遊戯(ウォーゲーム)を行う場所は闘技場(コロシアム)と決まっている。

 

「一週間後、闘技場(コロシアム)で勝負が行われるわ。イッセー、【ステイタス】の更新でもしましょう?」

 

「大して増えていないと思うけど、まあ、してみようか」

 

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