オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚18

「まさか・・・・・っ」

 

フェルズがフードの奥から驚きの声音を漏らした。一誠は興味深そうに『彼女』を見つめ、ウィルとレリィーも一誠と同じ心情であるがアイシャとアミッドが目を見開いていて、春姫はこの場の雰囲気に当惑する。

 

「人型のモンスター・・・・・か?蜥蜴人(リザードマン)って感じじゃないし・・・・・。興味深いな」

 

未知のモンスターに笑みを浮かべ近づく一誠。そして、傷を負っていることに気付き、バックパックから回復薬(ポーション)を取り出しては壁際に座りこんでいる『彼女』がびくっと体を揺らす。

 

「平気だ、これを傷が治る薬でだな―――」

 

試験管の蓋を開けると、『彼女』は鼻をピクリと震わせ、すんすんと匂いを嗅ぎ始めた。

 

「いい、におい」

 

―――喋った。

 

一誠の耳朶に刺激するモンスターの人語。それはこの場にいる全員が驚いたのだった。

 

「アイシャ、喋れるモンスターっていたのか?」

 

「いや・・・・・そんなこと聞いたこともなければ見たこともない。・・・・・ただ、一人を除いてな」

 

「え?」

 

「「「・・・・・」」」

 

春姫、ウィル、レリィーから意味深な視線を向けられてくる。なんだ?とアイシャを含め四人に対して怪訝な思いでいると・・・・・。

 

「・・・・・ああ、俺か」

 

「「「「それ以外ないっ」」」」

 

お前も人型のモンスターじゃないかと言いたげにアイシャ達に突っ込まれる一誠だったが、

 

「待て、ウィルとレリィーだってモンスターだろ。人魚族(マーメイド)だ」

 

「「あっ」」

 

「・・・・・そうだったね」

 

「で、ですね・・・・・」

 

矛先は人魚族(マーメイド)である二人にも向けられる始末であった。溜息を吐き『彼女』の傷の状態を見て、

 

「アミッド・・・・・このモンスターに治療してくれないか?」

 

「え・・・・・」

 

治療師(ヒーラー)として一誠達と共に行動しているアミッドに治療を求めた。モンスターに治療なんて、アミッドは一誠を信じられない目で見つめる。しかし、隻眼の瞳から向けられる真剣な眼差しと

 

「頼む。モンスターを忌み嫌い、倒すべき存在なのは分かっているが、根本的に他のモンスターとは異なっているモンスターだ。―――一つだけ俺ができることなら何でもお前の願いを叶える。だから、治療してくれないか?」

 

「・・・・・っ」

 

頭を深く下げる一誠の言動にアミッドは葛藤と戸惑いが胸の中で渦巻く。綺麗な顔をしているから治療してくれと、そんな理由であれば『怪物趣味』と下界では最大級の蔑称、女面鳥体(ハーピィ)半人半蛇(ラミア)を始めとした人型のモンスターに欲情してしまう異常性癖である。しかし、自分が知っているイッセーという冒険者はそんな最低な男ではないことを

 

「・・・・・抵抗が物凄くありますが、わかりました」

 

アミッド・テアサナーレは知っている。警戒と緊張がアミッドの顔を強張らせ、『彼女』に近づき、一誠の隣で跪き、バックパックから医療道具を取り出しては

 

「傷を、治れるようにあなたの体に触れます。いい、ですね?」

 

「・・・・・」

 

「大丈夫です。私達は、あなたの敵ではないです。攻撃はしません」

 

無言だが小さく頷いてくれた。了承を得て折れているかもしれない酷い状態の左足にアミッドの細い指が触れた。

 

「・・・・・応急処置として固定できる物と包帯を巻けば一先ず悪化は免れます」

 

「そうか」

 

治療を施してくれる治療師(ヒーラー)に嬉しく思い、『彼女』に安心させる笑顔と共に、優しく青銀の髪を撫でるように触れる。

 

「―――探せっ、まだ近くにいる筈だ!?」

 

その時だった。一誠達の何時通路に荒々しい声が届いてきたのは。『彼女』は肩を跳ねらせた。次には治まりかけた震えを纏い直す。恐怖に抱き絞められる一誠にフェルズが疾呼する。

 

「彼女を早く連れて行かねば!」

 

「いや、こうした方が早い」

 

金色の杖を発現し、迷宮の中で神々しい一条の光を目の前で放って・・・・・大きく強固な台車付きのカーゴを創造した。

 

「この中で俺達は隠れる」

 

そして呪文のような言葉を詠唱し始め、一誠がもう一人増え出した。

 

「アミッド、中に入って来てくれ。俺、追っ払ってくれよ」

 

「任された」

 

カーゴの中に入る三人に扉を固く閉めた分身体の一誠と武装した冒険者達が現れるのは、同時だった。

 

「おいっ、てめえ、そのカーゴの中に何を入れた!?」

 

大声を張りながら四名の男女が歩み寄ってくる。

 

「何を入れた?【ガネーシャ・ファミリア】に運んで調教(テイム)の仕方を教わる為にモンスターを捕えたところだが?」

 

「・・・・・中身を見せろ」

 

さらに近づいてくる冒険者に分身体の一誠は首を横に振った。

 

「断る。それに何をそんなに慌てているんだ?」

 

竜女(ヴィーヴィル)だよっ!冒険者なら知らないはずがないだろう!?とにかくその中身を見せやがれっ!」

 

荒々しく強引にカーゴの扉に触れようとする冒険者の手を払った。

 

「仮に、この中にお前らの探し求めているモンスターだったらどうする気だ?」

 

「俺達が見つけたんだ。俺達がどうしようとお前等には関係ないことだろうがっ!」

 

唾を吐く勢いで怒鳴り散らす冒険者に対して

 

「んじゃ、お前等に関係のないことかもしれないな。―――このカーゴの中にはお前らの求めているモンスターがいる」

 

あっさりと、分身体の一誠が『彼女』の存在を打ち明けた。目を張る冒険者達へ愉悦に、優越感が顔に出るほどいやらしい笑みで言い続ける。

 

「が、残念だったな。見つけるだけなら誰でも許されるが、モンスターを捕獲した冒険者から横取りするなんて行為はルール違反だ。諦めて他を探したまえ」

 

「んだとぉっ・・・・・!?ふざけるなっ!」

 

先に自分達が見つけたんだ、所有の権利は自分達にあると言ってはばからない冒険者の目に春姫の隣にいる耳がヒューマンでも亜人(デミ・ヒューマン)でもない、魚の鰭のような特徴的の耳をもつ人魚族(マーメイド)の二人が視界に入る。

 

「ま・・・・・まさか、人魚族(マーメイド)・・・・・!?」

 

「うん?ああ、そうだが?」

 

だからどうした、と億劫そうに問い返したら返したらで、嗜虐的な色が瞳に孕み始めた冒険者が得物を一誠の首元に突き付けた。

 

「ここからすぐにいなくなれば命だけは助けてやるぜ」

 

「・・・・・」

 

「ついているぜぇ。竜女(ヴィーヴィル)人魚族(マーメイド)が同時に手に入るなんてよぉっ。売れば巨万の富が手に入るんだ。知らないわけがないだろう。だから他の冒険者達に見せつけて自慢しているんだろ?ああ?」

 

ニヤニヤと悪意が満ちたいやらしい笑みを浮かべる冒険者。他の三人の冒険者達も得物を抜き放って近づいてくる。

 

「・・・・・なあ」

 

「ああ?」

 

剣先を摘まむように分身体の一誠が触れる。

 

これ(武器)を突き付けてくるってことは、戦いの覚悟と死ぬ覚悟があるって認識してもいいんだよな?」

 

「チッ、てめえ、何を言っている?この状況を理解できないってか?」

 

「いやー、俺は聞いている方なんだけどな?まあ、そっちがその気なら・・・・・因果応報を受けてもらおうか」

 

摘まんだ剣の刀身が、ビシッと全身に渡って罅が入り、粉々に砕け散った。

 

「なっ・・・・・」

 

「さて・・・・・お前ら。ここから18階層はちょっと遠いけど、足の一本が砕けても問題なく戻れるよな?」

 

足を横薙ぎに払い、眼前の冒険者の脚を鞭のように当てた瞬間。骨が砕け折れる感触が両者自覚し、

 

「うっぎゃあああああああああああああああっ!?」

 

冒険者の足を一本、不能にした。木肌の地面に倒れ込む折れた脚を抱える冒険者を意識から外し、男女の三人の冒険者に獲物を見つけた鷹の目のように鋭く見据えた。

 

「残り三人の脚だな」

 

「「「ひっ!?」」」

 

バキッ!ボキッ!ゴキッ!

 

―――○●○―――

 

「まったく・・・・・冷や冷やさせてくれる」

 

「ああでもしないとしつこく追いかけてくるぞ?お前が案内してくれる先までに」

 

「確かに、脅しの一つでもしてやらないと金に目がくらんだ冒険者は見張ってまで追いかけてくるよ」

 

闇に閉ざされたフードの奥からフェルズは溜息混じりに発し、治療した『彼女』に対して一誠とアイシャがそれぞれ指摘した。一行は木肌で覆われた階層域の中を、空飛ぶ魔法の絨毯に乗って進む中、

 

竜女(ヴィーヴィル)って竜種の種族がいるんだな。木竜(グリーンドラゴン)とか砲竜(ヴァルガングドラゴン)とか強竜(カモドス)が主に見掛けるんだけどな」

 

一角獣(ユニコーン)と同じぐらい希少種(レアモンスター)だ。彼女の鱗や爪、額にある宝石を売れば巨額の金が手に入る」

 

「ふーん。そうなんだ。地上に戻ったらローズから色々聞こうっと」

 

フェルズと雑談しつつ

 

「しかし、魔道具(マジックアイテム)の上で移動できるとはね。これなら早く進めれる。私に提供してくれないか?」

 

「一〇〇〇万ヴァリス」

 

「買った」

 

商談も交わす。

 

「名前はどうしようかねぇー?」

 

「可愛らしい名前が良いんじゃない?」

 

「うんうん。ロックンロールとか!」

 

「あの、それは言い辛いかと思います」

 

「同じく・・・・・」

 

女性陣が一誠の背中にすり寄っている『彼女』を視界に入れつつ名前を決めよう!と話になっていた。和気藹々とあっという間に人型モンスターの抵抗なんて最初からなかったかのように平然と話をするアイシャ達にアミッドは不思議でしょうがない。

 

「皆様・・・・・抵抗は無いのですか?警戒もしないんですか?」

 

「「「「もっと怖いの、目の前にいるから」」」」

 

「え?」

 

アレはまだ物凄く可愛い方だと、聞いたアミッドは目を白黒させる。

 

「悪いけど、他【ファミリア】に秘密を教えれないんだ。状況とイッセーが放してくれるって言うなら話は別だけどね」

 

「・・・・・いえ、【ファミリア】に内情を探るのは規則に反しますので当然かと」

 

「そう言ってくれると助かるんだけど・・・・・さて、アミッド」

 

アイシャがアミッドの肩に腕を回し、

 

「イッセーの事、どう思っているのか今この場で聞かせてもらおうじゃないか」

 

「っ!?」

 

耳まで発火する勢いで白い顔の肌が朱を散ばした。そんな小柄なヒューマンの反応に四人は理解した。

 

「脈ありだねこれは」

 

「イッセーのスキルの影響って・・・・・」

 

「異性と同性問わず魅了してしまうってそれは凄いんだけど」

 

「・・・・・う~っ」

 

複雑な心境。他者と接することで効果が持続するスキル故に老若男女問わず魅了する一誠の言動に目の前のアミッドも、一誠に魅了された一人なんだろうと悟るのに十分の反応であった。

 

「20階層のとある場所につくのはまだ時間がある。じっくりと聞かせてもらおうじゃないか~?因みに私はお気に入りの雄として見ているよ」

 

あっ、ずるい。とアミッドは思った。先に言われては突破口を開く意味での質問をする意味が無くなる。

春姫が何時にも増して積極的に狐耳をピコピコ、尻尾をフルフルと動かしてアミッドに詰め寄ったのであった。

 

「わ、私も気に成りますっ」

 

「「以下同文」」

 

「え、ま―――!?」

 

四人に詰め寄られ、魔法の絨毯から落ちそうになりながらも囲まれて・・・・・。

 

「後ろ、賑やかだな」

 

「ふふっ、人気者だね」

 

「何時ものことだ。それにそういうのが俺のスキルだからなー」

 

知ってる、とフェルズは心の中で頷いた。だからである。一誠に賭けをするに値する存在なのだと。誰でも平等に接することで効果が持続するスキル―――。人もモンスターも関係なく、だ。

 

「イッセー。『彼女』を見ても平然と接すしたがそれはどうしてだ?」

 

「ん?興味と好奇心だな。それに、助けを求めていたそうだったし助けたかった」

 

「モンスターに助けを求められるなんておかしいと思わないのか?冒険者として」

 

「いや普通におかしいと思うだろ?だけど、俺はそんじょそこらにいる冒険者と根本的に違うんでね。だからこうして『彼女』と触れ合うこともできる」

 

背後にいる竜女(ヴィーヴィル)の青銀の髪を触れる。『彼女』はビクッと肩を揺らすが、次第に落ち付き始め、一誠に撫でられる姿勢で保つ。

 

「ここに座ってみるか?」

 

ポンポンと胡坐掻く足に叩く手で催促する一誠をキョトンと見つめると安心させてくれる笑みを浮かべられて、言われた通りに一誠の胡坐の上に小振りな臀部を落として背中を一誠の胸に付けた途端。

 

「・・・・・あ」

 

体が温かくなるのを感じた。物凄く落ち付く。とても心地良い・・・・・と『彼女』は感じ取ったところで上から声を掛けられた。

 

「安心できるか?」

 

「・・・・・うん」

 

「ははっ、それはよかった」

 

両腕を『彼女』の腹に回してしっかりと抱き絞めると『彼女』はその腕の中に包まれて・・・・・心地好い温もりに睡魔が襲われて寝息を立てた。

 

「はやっ」

 

「モンスターや冒険者達に排他され、逃げ回り続けていたから疲れたのだろう。本当に、彼女を見つけれたのは幸運だった」

 

「で、なんなの?このモンスターは」

 

「・・・・・いずれ、分かる」

 

焦らすフェルズに一誠はそうかと追求はしなかった。遭遇(エンカウント)するモンスターに対し、完全無視で躱して突き進む。フェルズの案内のもとで魔法の絨毯を駆使する一誠。正規ルートから外れてからどのぐらいの時間が経っただろうか。右、左と大樹の迷路を進む一行を阻むモンスターは次第に数が減り、やがて、

 

「ここか?」

 

「ああ」

 

一誠達は目的地に辿り着いた。長方形の広間である。幅は十M以上あり、頭上の高さも同様だ。これまで通り天井と壁は樹皮で形作られており、発光する青光苔(アカリゴケ)に覆われている。広間の中には草の緑と小輪の白からなる美しい花畑が、一面というわけではないものの随所に広がっていた。しかし、それよりも目を引くのが、

 

石英(クオーツ)

 

食糧庫(パントリー)が近いせいか、緑玉石(エメラルド)を連想させる濃緑の石英(クオーツ)が広間の至るところから生えていた。一誠も過去一度は来たことのある場所でもある。樹皮の天井や壁面、床を破って生える大小様々な石英(クオーツ)を見て、春姫を始めとした者達からも感嘆の息が漏れた。視界正面、広間の奥の壁際には多くの石英(クオーツ)―――群晶(クラスター)がまるで小さな氷山の様に形成されている。この広間以外にも食糧庫(パントリー)周辺域は石英(クオーツ)に浸食された地形が多い。

 

「こっちだ」

 

魔法の絨毯から降りるフェルズを、起こした『彼女』よ一緒に飛び降りればアイシャ達も続いており、前へ進むフェルズを追うと階層の奥、あの壁を覆う群晶(クラスター)の一角に近づいくのを察した。広間最奥にある壮麗な石英(クオーツ)の塊。生え渡る濃緑水晶の柱の前でフェルズの足は止まる。一見して何の変哲もない石英(クオーツ)畑にも見えるが・・・・・一箇所、発光の弱い水晶がある。

 

「これを壊してみろ」

 

フェルズからそう言われ、一誠は打ち壊す。ガシャンッ、という硝子の塊が砕けるような甲高い音を撒き散らし、石英(クオーツ)はばらばらに砕け、そして塞がれていた穴が露出した。

 

「はは・・・・・これは流石に見つかる筈がないよ」

 

隠れていた樹穴に一誠が苦笑い。自己修復するダンジョンの中でも、砕かれた石英(クオーツ)は通常より速い速度で復元が始まっていた見る見るうちに元の形に直っていく濃緑水晶を跨ぎ、一誠達は素早く身を滑り込ませる。飛び散った石英(クオーツ)の破片が地面に転がる薄暗い樹洞は、間も無く一口が閉ざされた。斜路(スロープ)状となっている樹洞の奥を進む一行。樹洞の中は狭いモンスターが産まれる気配もない。苔が繁茂していない天井や壁には小さな石英(クオーツ)がところどころ伸び、洞窟内をぼんやりと照らしている。先頭を進むフェルズに、真後ろにいる一誠が魔力による発光する玉を複数も浮かばせながら、一行は樹洞を下っていた。

 

「・・・・・泉」

 

坂を下りきった先には、清冽な青い泉があった。大きさは奥行きの横幅、深さともに五Mといったところで、池ととも呼べる程度のものだ。石英(クオーツ)の光源が乏しい暗い空間に、一誠は魔光を周囲に巡らせ、辺りを照らし出すと、

 

「イッセー、君一人だけ先に進んでくれ」

 

「・・・・・進む?」

 

「この泉の向こうに」

 

フェルズが指す泉。一誠はまさか、と思いフェルズに顔を向ければ意味深に頷かれた。

 

「・・・・・本当、ダンジョンって未知が溢れて面白いな」

 

笑みを浮かべた一誠が上半身裸になって泉の中に息を大きく吸ってから飛び込んでいった。冷たい泉水の感触、視界が利く澄んだ水底。そして奥へと続く横穴。水底に点々と生えた石英(クオーツ)が穴の先へ導くように光を発している。一誠自身や上乗せする形の恩恵(ステイタス)によって常人より遥かに息が続く中、横穴の突き辺りまで来た一誠は、柔らかい緑光が差し込む真上を仰いだ。水底を蹴り、一気に浮上する。

 

「―――ふぅっ!」

 

水面に顔を出す一誠の視界に飛び込んでくるのは、樹洞から様変わりした鍾乳洞に似た洞窟だった。黒い岩盤で構成されており、天井や壁から生えている石英(クオーツ)の光だけは変わらない。そして一誠は、薄闇が蔓延る新たな道―――奥へと伸びる岩盤の通路を見つめた。

 

「・・・・・『未開拓領域』ってやつか。ははっ!」

 

今もギルドに蓄えられているダンジョンの地図情報(マップ・データ)。冒険者達に公開され階層攻略の手助けとなっているそれは、『古代』の探索者達も含めた過去の先人の足跡であり功績である。彼等は何の情報もないまま命を賭して正規ルート含めた各階層を開拓し、地図作成(マッピング)を行ってきたのだ。まさしく『偉業』である。だが、そんな中でも先人たちの手が及んでいない地底(エリア)が存在する。計り知ることのできない深く広すぎるダンジョンの全貌。人類の到達階層が増えていく一方で置き去りにされた横の広がり。あるいは、今日に到るまで誰も発見することのできなかった、正真正銘の未開の地。

 

『未開拓領域』。

 

文字通り、前人未到の領域だ。地図に記されていない行路―――【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】でさえ足を踏み入れていない地底(エリア)に、一誠は笑った。

 

「―――できれば、お前らと一緒に攻略したかったぜ」

 

暗闇でも目が利く一誠はそれでも後からやってくるだろうアイシャ達の為、複数の魔光をこの場に展開して深淵に繋がっているかのような暗闇の穴へと静かに歩み始めた。何が自分を待ち受けるのか、どんなモンスターが襲ってくるのか、初見の迷宮の陥穽(ダンジョン・ギミック)異常事態(イレギュラー)が存在すれば、一瞬で全滅すらありうる。純然たる『未知』。踏み出される一歩が新たな『未知』を切り開いていく。先人達と同じように。やがて、『未開拓領域』の奥へ奥へ進む一誠の目の前に細い通路が終わりを迎えた。

 

「暗っ」

 

そして開けている。閉塞感からの解放、圧倒的な空間の広がり。恐らく特大の広間だ。同時に完璧な闇が支配している。そして・・・・・。

 

「なーんか、いるな」

 

警戒や緊張感など全く顔に出さず、逆に寧ろ喜ぶ一誠は魔光を数多に発現して広間から闇を取り払った。

 

「・・・・・!」

 

一誠は、隻眼の金色の瞳を丸くした。

 

『グルルルルッ・・・・・!』

 

『オォオォオ・・・・・!』

 

『ヒェアアアアッ・・・・・!』

 

蜥蜴人(リザードマン)小怪物(ゴブリン)、翼をはためかせ宙に滞空する半人半鳥(ハーピィ)。種族が異なるモンスター達の間で共通しているのは、一誠が目を丸くするのは、曲刀(シミター)手斧(ハンドアックス)、鎧と盾を装備していることだ。

 

「武装した・・・・・モンスター・・・・・だと?」

 

半人半鳥(ハーピィ)の他にも頭上を舞う石竜(ガーゴイル)鷲獅子(グリフォン)、地を這うのは半人半蛇(ラミア)一角兎(アルミラージ)獣蛮族(フォモール)戦影(ウォーシャドウ)人蜘蛛(アラクネ)一角獣(ユニコーン)・・・・・『上層』『中層』『下層』『深層』、あらゆる階層域から集まった多種族のモンスターの群れ。地上の闘技場(コロシアム)が収まろうかという特大の広間の中に浮かぶ眼光の数々に一誠はこんな光景は初めて見たと驚きで開いた口が塞がらない。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!』

 

蜥蜴人(リザードマン)が喊声を上げ、一誠に他のモンスター達も動いた。

 

「・・・・・フェルズ、俺をどうしてここに一人で行かせたのか分からないが」

 

武装したモンスターと戦う気分は何とも言えない新鮮さを覚える一誠は徐に眼帯を外した。

 

「面白いことをさせてくれるじゃないかっ」

 

次の瞬間。闇が一誠を包みだし、次に姿を現したのは―――逆関節の二本脚、三対六枚の翼、三つ首のドラゴンを彷彿させる全身紫色の発光現象を起こす黒い鱗に覆われた人型のドラゴンとして一誠は眼前のモンスター達と衝突した。

 

『ギィエエエエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

 

『『『『『っ!?』』』』』

 

冒険者、敵だと認知していた眼前の存在が自分達と同じ存在―――いや、明らかに異なっている姿に変貌して凄まじい衝撃波と共に咆哮を上げた。モンスター達は広間の奥まで吹っ飛ばされ、

 

『フハハハハッ!武装したモンスターと戦うなんて初めてだ!』

 

空間を歪ませ、空間に開けた穴から大剣を抜き取って構える一誠は口角を上げ、嬉々として蜥蜴人(リザードマン)へ肉薄する。

 

『勝負だ!』

 

意気揚々と初めての勝負に楽しもうとする一誠を驚かせる現象が起きた。

 

「―――ちょ、待てっ!」

 

『―――』

 

目の前から言葉が聞こえてきた。その声に反射的で勢いよく振り下ろした大剣がピタリ、と蜥蜴人(リザードマン)の頭部ギリギリに止めた。

 

『・・・・・なに?』

 

六つの眼が眼前のモンスターに向ける。姿形は間違いなくモンスターだ。だが、間違いなく人語が聞こえた。

振りかざされた大剣を逃げるように横へ移動して立ち上がる蜥蜴人(リザードマン)も雄黄色の眼に疑問が浮かんでいた。

 

『・・・・・喋った?お前、喋ったのか?』

 

「お、お前はなんだ・・・・・?冒険者かと思ったらモンスターに成りやがって」

 

気付けばモンスター達から感じる敵意や殺意といったものが霧散して、一誠を取り囲んだ。モンスター達から奇異な視線を送られるの何とも言えない気分となる中、

 

「・・・・・お前、俺達の『同胞』・・・・・なのか?それとも、地上の冒険者なのか・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

驚愕が抜けきれない一誠に問われた質問。『同胞』―――。理知を備えているモンスターにそう言われ、元の人間の姿に戻った一誠は言い辛いそうに述べる。

 

「俺は人間じゃない。モンスターだ。だが、お前の言う『同胞』でもない」

 

「・・・・・じゃあ、何だってんだ。お前」

 

「・・・・・さあ、何だろうな」

 

大して気にしていなかったことを改められて突き付けられる。今思えば、自分はこの世界にとって一人ぼっちなんかじゃないかと他人事のように考えた思いを振り払った。

 

「もしかして、ここにいるモンスター達も全員?」

 

「いや、そうじゃない。話せれる奴もいれば話せない奴もいるんだ」

 

「ふーん、そうなんだ」と蜥蜴人(リザードマン)の手や腕、顔、肩、背中、胸だと全身を触れ始める。

 

「お、おい・・・・・?」

 

「ああ、他の蜥蜴人(リザードマン)と違うところもあるかなーって思ったんだけど、変わらないんだな体の構造」

 

「触っても平気なのかよ。モンスターだぜ?」

 

「俺もそうだけど?見た目は人間だが、実際はこんな感じだ」

 

真紅のオーラに包まれる一誠の体が見る見るうちに大きく、真紅のドラゴンンへと変貌する。

 

『これが俺の本来の姿だ』

 

「デ、デカッ・・・・・!?」

 

『もっとデカくなれるがな』

 

あっさり元の姿に戻る一誠。だから触れられるんだと証明して。

 

「俺は人型のドラゴン。見た目は人間ぽいから地上でも生活ができるわけだ」

 

「そんなモンスター聞いたことがねぇー!?」

 

大袈裟に仰天するモンスター。『未開拓領域』に潜伏している理知を備えるモンスター達との遭遇。

一誠はふと、あることを尋ねた。

 

「もしかして、フェルズって奴のこと知ってるか?」

 

「フェルズ?どうしてその名前を・・・・・」

 

「・・・・・ああ、なるほど。そういうことだったのか」

 

蜥蜴人(リザードマン)達も知っている人物にここへ一人で来させた理由は目の前のモンスター達との会合。

 

「この場所にフェルズに案内してもらった」

 

「なるほどな。納得したぜ。お前、名前なんて言う?俺はリドってんだ」

 

「イッセーだ。よろしく」

 

モンスターと人型モンスターの握手が交わされたところで背後から、

 

「―――どうやら、上手く事が進んだようだ」

 

事の元凶もとい原因がアイシャ達を引き連れて現れた。

 

「フェルズ!」

 

リドが一誠よりも早く声を掛けた。そして『彼女』を見た途端に口の端を吊り上げた。

 

「新たな『同胞』も連れて来てくれたんだな!」

 

「偶然にも発見できたんだ」

 

アイシャ達のところへ戻る一誠と、リド達モンスター達に近づくリドと擦れ違い、対面した。

 

「フェルズ、そのモンスター達はどうして人語を喋れる?この竜女(ヴィーヴィル)の」

 

「イッセー様、ウィーネです」

 

「ウィーネ?」

 

春姫が『彼女』の名前を訂正するように告げた。オウム返しで問えば春姫は頷いた。

 

「はい。お伽噺や童話に出てくる登場人物の名を縮めて『ウィーネ』と名付けました。

 

ウィーネという名前を付けられた張本人は一誠の腕に抱きついて、春姫を羨ましがらせた。

 

「イッセー、あの蜥蜴人(リザードマン)・・・・・喋ってなかったか?」

 

「ああ、喋ったぞ。ウィーネと同じモンスターと人語が喋れないモンスターの集団のようなんだ」

 

「こ、こんなに他にもいたんですかっ!?」

 

アミッドが驚愕する。心を持つモンスターが一匹、二匹だけじゃなく優に十を超えているモンスター達を目の当たりにし、気が遠退きそうになる。

 

「アミッドはともかく、アイシャと春姫、ウィルとレリィーは接することはできるだろ。あいつら、俺みたいなもんだし」

 

「姿がモンスターだぞ?お前とは違う」

 

「ははは、それもそうだな。んじゃ、こうした方がいいか?」

 

頭部に角、背中に二対四枚の翼、腰辺りに尾が生え出し腕や頬に真紅の鱗が浮かび、手が龍化した一誠。

 

「翼が生えた!?」

 

「いや、俺はドラゴンだぞ?出せて当然だ」

 

その時だった。ウィーネが一誠の腕や翼を見て目を輝かせて「わたしと、同じ」と漏らした。

 

「ああ、お前と同じ俺も竜だ。・・・・・アミッド」

 

視線をアミッドへ向ける。この中で唯一、一誠の正体を知らない彼女に近づき、

 

「俺はヒューマンじゃない、亜人(デミ・ヒューマン)でもない。モンスターだ」

 

「・・・・・」

 

「今まで騙していた形でお前と触れ合ってきた。悪いとは思っている。でも、これからも俺と接してくれるか?」

 

龍化した腕のまま手を差しだして握手を求める。人の手ではない手を突き付けられ、アミッドは無言でその手をただ見つめるだけだった。何時までも握手してくれない、受け入れてくれないのだと雰囲気で悟り、残念そうに伸ばした手を引っ込めようとした一誠―――。

 

―――ギュッ

 

「・・・・・」

 

「・・・・・この手でも、私の好きな温もりを感じるのですね」

 

華奢な両手が引っ込む一誠の手を包みこみ、自分の頬に添えるように押し付けてくる。瞑目して龍化した赤い鱗に覆われ、鋭い爪さえ触れてくれた。

 

「ヒューマンではないことに驚きました。モンスター、ドラゴンであることも正直畏怖の念を抱いて驚きました。でも、あなたは他のモンスターとは異なっています。その理由は分かりませんが・・・・・」

 

一誠に近づき、小柄な体をゆっくりと寄せて預けた。

 

「あなたはあなたであることはなんの変わりもございません」

 

双眸を真っ直ぐ一誠に向け、ハッキリとそう告げたアミッドを力強く抱きしめた。

 

「―――ありがとう」

 

心から受け入れてくれたアミッドに感謝を述べ、華奢な腕が回され抱きしめ返され嬉しく思う一誠だった。

 

「・・・・・可能性が高まった」

 

フェルズが一誠とアミッドのやり取りを見て頷いた。蜥蜴人(リザードマン)のリドが鋭い爪を一誠へ指しながら問いかけた。

 

「おいリド、あのイッセーって奴はなんだよ?冒険者と変わらない姿でいると思えばモンスターになってよ」

 

「それは私も気になっている方だ。―――イッセー、どうか教えて欲しい。どうしてドラゴンの姿に成れる?どうして自由にドラゴンの姿に変わることができる?」

 

問われる質問にアイシャ達もどうなんだと知りたがっている雰囲気を醸し出し、目を向けてくる。アミッドと抱き合っていた一誠が顔を周囲へ向け、見渡し・・・・・肯定と首を縦に振った。

 

「そうだな・・・・・フェルズには面白い奴らを会わせてくれたから、アテネしか知らない俺の最大の秘密でも教えてもいいか」

 

双方の陣営に注目できる位置に移動し、

 

「まず最初に言わせてもらう。俺がこれから言う言葉は全て事実だ。それを受け入れる前提で聞いてもらう」

 

一誠は言葉を言い続けた。

 

「俺はこの世界に生まれた存在じゃない。この世界とは全く異なる違う世界、―――異世界からやってきた」

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