オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚1

次の早朝。『豊饒の女主人』の酒場がある西のメインストリートに元気な声が響いていた。

 

「いらっしゃーい!今日もダンジョンに行く冒険者、仕事に行く一般人の皆さん!『豊饒の女主人』のより取り見取りなメニューを手頃で豊富な朝食用の弁当にした品ですよー!値段は三百ヴァリス!五十箱しかないのでお買い求めはお早めにー!」

 

その声に引き寄せられる朝市にメインストリートを歩く疎らな人々が買いに求めてくるようになって『豊饒の女主人』は朝も大繁盛であった。酒場の目の前で五十箱分の弁当箱を側に商売している一誠の姿が。

 

「今日も精が出るな坊主、二つ貰おうか!」

 

「私は一つおくれ」

 

「仕事仲間に頼まれてよ、十箱買わせて貰うぜ」

 

「今度は百箱に増やしてくれねぇーか?他の奴らに伝えて買わせに行くかせるからよぉー」

 

と、一誠のもとへ集まるヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)達。それからほどなくして弁当箱は完売。片付けて店の中に入る。

 

「今日も完売したよミアさん」

 

「相変わらず商売上手だねぇ」

 

「はっはっはっ、朝の売り込みも大事なのさ。この酒場の味を知った客にまた食べてみたいと足を運ばせるのも商売の秘訣なのさ」

 

「その歳で商売の業界を知った風に言うお前さんには呆れを通り越して感嘆の一言だよ」

 

売上金を全てミアに渡す一誠に厨房からアテネが布に包まれた弁当箱を手渡してくる。

弁当箱を受け取り、アテネを抱きしめてからミアとアテネに告げる。

 

「そんじゃ、ダンジョンに行ってくるよ」

 

「あいよ。モンスターに殺されて大事な女神を残して死ぬんじゃないよ」

 

「はははっ、それは絶対にないね。なんせ―――」

 

出入口へ踵返す一誠の背や腰辺りから、翼と尻尾が生え出した。

 

「俺自身もモンスターだ。俺を殺せるのは俺みたいなモンスターじゃないと不可能だよ」

 

それだけ言い残し二人に見送られ、背中に視線を感じつつ一誠は酒場を後にしてダンジョンを塞ぐ白亜の魔天楼の施設、『バベル』へ向かう。

 

「・・・・・まったく、とんでもない奴を【ファミリア】にして、住み込みで働かせちまったね」

 

「でも、私は後悔していないわ。行ってらっしゃい、イッセー」

 

見送った二人は作業を再開しようとそれぞれ動いたその時だった。

 

「ミア母ちゃーん!」

 

『豊饒の女主人』に朱色の髪に糸目がちな女性が騒々しく現れた。その女性は「んんー?」と見覚えのないウェイトレス姿の銀髪の女性を直ぐ発見し、逆にその銀髪のウエイトレスの女性ことアテネが来訪しに来た女性の声に反射的な反応して振り返り、

 

「おー!アテネやんっ!」

 

「あら、ロキじゃない」

 

女神同士、久しく顔を見せ合って朗らかに笑みを浮かべた。

 

「なんや、アテネも下界に降りていたんやな!?あの生真面目で固いアテネが!」

 

「悪い?ああ、天界の神々(みんな)から伝言があるのよ。『テメーラ、戻ってきたら下界にいた分きっちりと落し前付けてもらうからなぁ?』って」

 

「うへぇ・・・・・天界にいる神連中、よっぽどお怒りのようやなぁ。まっ、うちはそう簡単に天界には戻らんけどな!」

 

だろうね。とアテネは内心息を零す。

 

「で、この店に来たのは食事をしに?」

 

「いんや、そろそろうちの子供達が『遠征』から戻ってくるからここで宴でもしようと予約をしに来たんよ」

 

「ああ、そう。邪魔したわね」

 

自分が請け負うことではなさそうだと仕事に戻ろうとしたアテネの肩に「まぁー待って待って」とロキが制止した。

 

「アテネはどーしてこの店にいるん?バイト?」

 

「住み込みで働いているのよ。一時期、この酒場が私のホームみたいなもの。まあ、実際はそうじゃないけれどね」

 

「【ファミリア】はまだできてないんか」

 

「一人いるわよ。私の唯一無二の子供。あなたのところの子供達と比べればLv.なんて高が知れているでしょう。けど・・・・・・」

 

「けど?」首を捻るロキ。

 

「もしかしたら、ロキの子供達より強いかもしれないわよ、私の子供は」

 

「・・・・・ほほう、アテネが面白いジョークを言うんなんて驚きや」

 

うっすらと糸目を開いてアテネを見据える。きっと目の前の女神の子供はLv.1でステイタスも大したことじゃないだろう。なのに、第一級冒険者が五人以上いる【ファミリア】に対して喧嘩を売るような発言をしたのだ。

それなりに仲が良いアテネにロキは口の端を極限まで吊り上げた。

 

「本気で言っているんなら、止めておきぃアテネ?ただ恥を掻くだけや」

 

「可能性としての話よ。実際どうなのかは確かめないと分からないし」

 

「可能性も何もないやろ?Lv.1の駈け出しの子供なんやろ。うちの子供達はオラリオだけじゃなく世界中にも知名度があるんやで?」

 

最大派閥の【ファミリア】は否が応でも有名になる。アテネが下界に降り立ち、【ファミリア】ができたことですらロキの耳には入らなかった、届かなかったのだ。アテネの眷属が有名になったわけでもない。

もしも【アテネ・ファミリア】が名を轟かせるようなことがあればオラリオ中に知れ渡っているはずだ。

 

「ええ・・・・・貴方の言う通り、Lv.は1よ。でも、あの子の言葉を借りると・・・・・」

 

―――Lv.なんて関係なく俺は強い―――

 

はっきりとロキに向かってそう言った。自信に満ちた瞳、信用と信頼している女神の顔を見て【ロキ・ファミリア】の主神ロキはズイっと顔をアテネに近づけた。

 

「アテネの子供までそう言うんなら、うちとお前んとこの子供を何らかの方法で対決させてハッキリとしてやろうやんか」

 

「別にいいわよ。酒場に迷惑を掛けない方法でなら」

 

「んじゃ、もう一つオマケとして勝った側は負けた側に何でも要求を呑ませられるってのはどうや?」

 

罰ゲームやぁっ!と自分の子供に情熱を燃やすロキ。アテネは一瞬、負けた時のことを考えてそれは・・・・・と思ったが、一誠を信じることにし、罰ゲームの内容を了承した。

 

「ロキ、反故したら即天界に送還よ。これでも私、他の神連中から一人でも多く天界へ下界にいる神連中の意志なんて無関係に送還するようにって頼まれているのだから。いまさら反故なんてしないわよね?罰ゲームの内容も今さら変えるのも無し。いいわね」

 

「お、おう・・・・・」

 

自分達の意志と無関係に天界へ。ロキは天界にいる神々の本気がアテネから伝わって気がしてしょうがない。タジタジになりながらも自慢の子供達の強さを見せ付けて分からせる為にも引き下がるわけにはいかない。

数日後『遠征』から戻ってくるであろうとの予想で酒場に予約を入れたロキは、アテネの前から遠ざかり姿を消した。

 

 

 

「さてさて、久方ぶりに『深層(ここ)』でも稼ぐとしようか」

 

52階層―――。俺は一人だけでここまで深く潜った。上級の冒険者が訊けば鼻で笑われ、そんなことは有り得ないと言うだろう。第一級冒険者が聞けば信じられないと一言漏らすだろう。だがしかし、俺は確かにやって来ている。黒鉛色の迷路内をたった一人でだ。大きなバックバックを背負って、連絡路を歩き続ける。

ここにくるまで何時も通りに回復道具(アイテム)になる材料を採取し、襲いかかるモンスターには一蹴するという作業をしたが・・・・・やはり、やると作業的になってしまう。だが、『深層』は歯応えがある。

 

「・・・・・来た」

 

動かしていた足をピタリと停め、耳に聞こえてくる何かの遠吠え。耳朶に喰らいつく禍々しい叫喚。

足元に巨大な魔方陣を展開して―――その時を待つ。

 

「他の冒険者ができないことを俺がしてやるよ」

 

咆哮の源である『下』に意識して笑みを浮かべる―――次の瞬間。魔方陣に凄まじい衝撃が足から伝わり、紅蓮の衝撃波が俺がいる階層、そしてさらに上の天井と51階層まで突き破らんとする特大の地雷が炸裂したかのような現象。灼熱の色の爆炎を完全に防ぎきると、魔方陣を消してそのまま自由落下。

 

深い、深い、奈落の底、深淵の底のごとき穴に落ち、放出された紅蓮の衝撃波によって何層もの階層をぶち抜いて形成された長大な縦穴。穴の底で落ちてくる己を仰ぐのは、無数の牙の隙間から煙を吐く、数匹の巨大な紅竜。

あの大爆発の正体は―――遥か下の階層からの砲撃。一層一層と地道に歩き下の階層へと進む冒険者達を嘲笑い、初めて来た冒険者達にとって予測不可能で冒険者を脅かす『階層無視』の現象。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「また来てやったぞ、58階層ッ。そして『砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)』!」

 

―――過去、迷宮都市の頂点に君臨していたと謳われていた【ゼウス・ファミリア】が名付けたこの層域の名は―――『竜の壺』。壺の最下層、そして【ロキ・ファミリア】の最高到達点である砲撃地点58階層に居座る二本の脚で立ち全長一〇Mの巨躯を誇る、大紅竜。

 

「目には目を、歯には歯を―――」

 

俺自身も成ろう・・・・・龍に!

 

「龍には龍を!」

 

全身を人型から(今回は)全長十五Mの真紅の巨躯のドラゴンとして本来の姿になった俺。だが、ほぼ同時に大紅竜から砲撃が放たれる。直径五Mを超える大火炎球が打ち上がり、俺の全身を紅蓮の色に照らす―――。

 

『効くかよ。俺が食らった炎はフェニックスの方が熱かった方だぞ!』

 

自ら火炎球に向かって直撃し、そのまま58階層にまで突貫する最中、縦穴の壁面に蟻の巣のごとく繋がる横穴から、多くの竜が翼を打って飛翔してくる。砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)と同じく『竜の壺』の名の由縁となっている紫紺の飛竜、『飛竜(イル・ワイヴァーン)』。尾を入れれば三Mの体調を誇る竜が一斉に襲いかかってくるも、そんなこと意も介さず大紅竜へ迫る。

 

『また勝負しようぜ、どっちが上なのか勝負だ!』

 

大火炎球をその身に敢えて受け、俺はついに58階層に到達した。ドラゴンとして、ダンジョンのモンスターに牙を剥く。周囲は大紅竜達に、頭上は飛竜(ワイヴァーン)に四方八方と囲まれ、絶対的なピンチな状況に立たされているだろうが、このぐらいでなければ意味がない。

 

『行くぞ!』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

ドラゴンとドラゴン同士の戦いの火蓋がいま切って落とされた。その衝撃は凄まじく、上の階層まで轟くほどに。

 

「・・・・・フィン」

 

「アイズも気付いたか」

 

地上に戻ろうとしている【ロキ・ファミリア】はまだダンジョンの中にいた。

アイズは地面から感じた揺れに異変として察知し団長に報告と声を掛けられたフィンも気付いた様子で言葉を返した。

 

「この揺れを察するに・・・・・『深層』からだ」

 

「・・・・・モンスターが?」

 

「分からない。もしかしたら例の新種かもしれないけど、とにかく早く地上に戻るべきだ」

 

【ロキ・ファミリア】は気付かなかった『深層』では、ドラゴン同士、モンスター同士の阿鼻叫喚の苛烈な戦いを繰り広げられていることを。そして、あっさりと最大派閥の最高到達階層を突破していることも。

 

『ゴガアアアアアアアアアアッ!』

 

全身白い毛で覆われ、全長は熊より2倍は超える人型のモンスターの軍勢が雪の大地を芝生のように駆け、迷宮の武器庫(ランドフォーム)天然武器(ネイチャーウェポン)の野太い氷棒を片手に襲いかかる。周囲は高くそびえる氷山や蒼水の、氷河湖の水流。ダンジョンの中だと言うのに『寒さ』を感じさせ、極寒の冷気が冒険者の体の動きを鈍らせるだろう―――そんな階層の空間に上半身裸で、素手で、拳でモンスターと戦っている冒険者がただ一人だけいた。

 

「久しいな、この感じ」

 

まさに自分の居場所としてうってつけの場所だと言ってはばからない俺は口の端を吊り上げながら、白い毛むくじゃらのモンスターに拳撃を叩きこんだ。その威力はモンスターを吹っ飛ばせ、弾かれたパチンコ玉のように同胞まで巻き込んで最終的に水流へと落ちた。

 

『ゴッゴッゴッ!』

 

「ん?」

 

一部のモンスターがドラミングのような、自分の胸に強く拳で叩きつけ始めた。士気の向上かそれとも・・・・・と考えていると雪の大地から顔を出す円らな赤い目。

 

「兎?」

 

『キュウッ!』

 

中層にいる『アルミラージ』とは違う個体種。三、四Mぐらいの身長で兎がそのまんま巨大化したようなモンスターだった。新たに出現したモンスターに毛むくじゃらのモンスターがあろうことか、兎の背中に乗り出して―――兎のモンスターが雪の上をサーフィンのようにうつ伏せの状態で滑り出して俺に凄い勢いで肉薄してくるじゃないか。それは一匹だけじゃなく、他にも大量の兎のモンスターの上に乗りだす毛むくじゃらのモンスター、名付けて『イエティ』と『ウルクス』(本当の名前は知らない)。そんな二匹と大量のモンスターのコラボレーションの動きに―――って、

 

「え?」

 

俺に襲いかかるんじゃなく、この場から逃げるように去るモンスター達に唖然と見つめた。

モンスターに乗って逃げる行動を初見なのだから当然の反応かもしれないが、あのドラミングみたいなのは何の意味があったのかと思うぐらい逃げっぷりを見ていた時だった。雪の地面が揺れ、次第に鳴動となってはソレが現れた。

 

『ギュオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

長細い体の四肢、蜥蜴を彷彿させるモンスター。肌は黒く、全身を覆う鉱石やら氷やらびっしりと鎧のようにくっついていて、頭部から尾の先まで連ねる魚の背びれのようなもの。

 

「希少種かな?まあ、登場してきたところで悪いが」

 

腕を横薙ぎに振るった。目の前のモンスターは「?」と目や首の動きで不思議そうにしているのが分かった。何もしてこない敵に口を開けて攻撃をしかけようとしてきた。―――一拍遅れてモンスターの長い鎌首が横へずれ出し、時間も掛からないうちに口内から放たれるジェット噴射の水が俺の横に直撃したのを最後に白い地面に首は沈んだ。

 

「あっという間に倒させてもらった」

 

俺の手は魔力で具現化した刀身が生えていたのを消して狩ったモンスターに近づく。

後で山の中を探してみよう。きっと空洞があり、洞窟に鉱石が眠っているかもしれない。

 

―――○●○―――

 

「ふぅー、寒かったぁ~」

 

それでも、意気揚々とバベルの塔の前に転移の魔方陣で地上に戻った一誠。人知れず60階層以上踏破し、まだ、朱に染まっていない時間帯にダンジョンを後にした。

 

「そーいえば最近。ギルドに階層到達数の更新、してなかったな」

 

「最後にしたのは30階層の時以降だったか。彼女と会う前に寄ろう」と、空を見上げながら思った一誠は更新の手続きしに行こうと足を動かし―――

 

「HEY!久しぶりだね、元気にしてた?」

 

「よーやく来たわねキミ!死んだのかと思って心配していたんだからね!?」

 

「HAHAHAッ!俺は死ななんよ、60階層以上も踏破した俺がコロッと死ぬわけないじゃん」

 

「さらっととんでもなく階層到達数を言うんじゃない!絶対に嘘でしょう!そんな無防備な格好で『深層』に潜っただなんてっ!」

 

ギルド本部に颯爽とやって来て現れた一誠に開口一番で翡翠の双眸に非難と怒りが宿り叱咤するハーフエルフの女性。朗らかに笑い挨拶をした一誠だが、嘘だと言われてむっと心外だと漏らす。

 

「それを言ったら、他の冒険者だって自分がどれだけ未到達の階層に潜ったのか俺みたいに口で更新申請をしたら、あんたらギルドははいそうですかと頷いて鵜呑みにして更新を承諾するじゃないか」

 

暗に、冒険者と一緒にダンジョンへ行ったわけでもないのに否定するのはどうだと発する一誠。

 

「それとも・・・・・また以前のように俺と一緒にダンジョンに行ってその目で確かめてもらうしかないか?」

 

「―――っ!?」

 

ハーフエルフは一誠に対して一種の恐怖感を抱いている。他の冒険者とは異なる冒険者。

休日の日を狙って問答無用にギルドの者をあろうことか、ダンジョンに拉致っては自分の戦いぶりを見せ付けたのだ。ダンジョンを運営管理する機関ギルド。中立の立場を貫き、受付嬢とアドバイザー、ダンジョンで得た魔石やドロップアイテムなど換金できる場所も備わっている。ギルドにも主神はいるが、その主神は『神の恩恵(ファルナ)』をギルドの者達に【ファミリア】として与えておらず私兵は一人もいない。よってギルドの受付嬢として働くハーフエルフも非力な女性だ。そんな者がダンジョンに放り出されたら上層のゴブリンすら逃げるしかない。

そんなことされたのは以前、30階層以上も進んだと楽しげに語った一誠に嘘だと否定してしばらく経った時のこと。夜の道にただ一人歩いていたギルド員を拉致ってあっという間にダンジョンへ連れ去られた経験があるのだった。目の前の冒険者の手によって。

 

「今度の休日、もう一度俺と冒険をしよう♪」

 

「わ、わかった!わかったからほら、ここに更新でもして自分の主神のところに帰りなさい!」

 

手を差し伸べて誘う一誠に受付嬢のハーフエルフは恐怖から来る行動で羊皮紙をカウンターに叩きつけて催促する。

 

「・・・・・絶対に嘘なんでしょ、と言ったのに。信じていないのに。―――また今度、60階層に連れてってやる」

 

ブツブツと呟かれる文句の最後は聞こえなかったふりをしてエルフの象徴でもある尖った耳を押さえ、早く目の前の冒険者にいなくなって欲しいと心から切に願うハーフエルフの受付嬢だった。そして更新の手続きを終え、一誠が去った後、その羊皮紙を見て―――。

 

 

イッセー

 

所属:【アテネ・ファミリア】

 

ホーム:貴方のすぐ傍にいます

 

種族:龍族(ドラゴン)

 

職業:冒険者、魔導具作製者(アイテムメイカー)(見習い)

 

到達階層:62階層

 

武器:拳、剣、大剣etc・・・・・ 所持金:秘密です

 

 

【ステイタス】

 

Lv・1

 

力 :SSS2001

 

耐久:S912

 

器用:SS1100

 

敏捷:SSS2009

 

魔力:SSSS3000

 

 

《魔法》

 

【シン・ベル・ワン・バオウ・ザケルガ】

 

・広域攻撃魔法

 

・雷属性

 

 

《スキル》

 

【恋愛一途】

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果維持。

 

・懸想の丈と異性との相思相愛の情を続けることで効果向上。

 

【魅了成就】

 

・魅了する。

 

・異性と同性、特定の者と交流し続ける限り効果維持。

 

・老若男女問わず関係が良好、異性と触れ合い魅了し続けることで効果上昇。

 

 

「(オールSどころか、オーバーS!?)」

 

ハーフエルフは翡翠の瞳を極限まで開いて絶句した。他にも色々と突っ込みたいことはあるが兵藤一誠と言う存在は異常事態(イレギュラー)が具現化したような存在だ。やはり、これを公にはできないと心の中で溜息を吐く。

 

「(ランクアップはまだみたいだけど・・・・・どうして?)」

 

Lv.に見合わぬ到達階層。Lv.のランクアップする予兆の兆しすらない。当の本人は大して気にしていなさそうだが、ハーフエルフは疑問と疑惑の塊を抱く思いだった。

 

 

ギルドを後にした一誠は北東のメインストリートのとある建物の前にやって来ていた。

数日に一度のとあることを学ぶ為、ある冒険者に師事と教示を願った。

遠くからでも近くからでも聞こえる働く者達の声に耳を傾けながら待つこと十分、純白のマントを纏う女性だ。金の翼の装飾が巻きつくように施されたサンダルをその細い足に履いている。水色の髪で少し青く吊り目がちな眼鏡の女性が若干焦心の色を浮かべて現れた。

 

「申し訳ございません。待ちましたか?」

 

「んんー、今来たところ」

 

「そうですか。あの主神に仕事を更に押し付けられて遅れてしまいました」

 

「相変わらずだなー。まあ、遅れてもその分、あの中に入れば関係ないけどね」

 

意味深に発する一誠に女性は「そうですね」と頷いた。

 

「今回はダンジョンで何か真新しい材料を得れました?」

 

「ああ、手に入ったよ。振り撒いた粉を爆発させるモンスターから大量にその粉を採取した。その試作品も既に完成した」

 

「私の『爆炸薬(バースト・オイル)』とは異なる爆発の道具を作製したのですか。やりますねイッセー」

 

「アスフィの道具と合わせれば更なる爆発と火炎の威力が発揮すると思うんだ」

 

アスフィ、と呼ぶ一誠の目の前にいる女性。【ヘルメス・ファミリア】所属で団長のアスフィ・アル・アンドロメダ。オラリオに五人といない『神秘(レアスキル)』の保有者。【万能者(ペルセウス)】の二つ名を持つ、稀代のLv.4の魔導具作製者(アイテムメイカー)である。発展アビリティ『神秘』の力を持って彼女が生み出した秘薬や道具(アイテム)は枚挙にいとまがない。呪詛(カース)異常魔法(アンチ・ステイタス)の効果から身を守る魔薬(モーリュ)、奏でる音によって特定のモンスターを引き寄せる堅琴(キタラ)、インク要らずの羽ペンなどもとを辿れば彼女の発明品だ。都市屈指の実力を持つ第一級冒険者とは違った分野で、その名声は知れ渡っている。

 

「それに今回は60階層以上進んだ。あの【ロキ・ファミリア】でも到達したことがない未到達の階層に存在するアイテムやモンスターの素材、ドロップアイテムを出来る限り採取した」

 

「それは凄い。では、早くそれ等を見せてください。あの腹黒の主神にせいで溜まった鬱憤を晴らしながら」

 

「本音的にそっちだろうアスフィ」

 

二人は玄関からではなく、裏の扉から侵入しては隠し部屋に訪れて懐からスノーグローブを取り出した一誠はテーブルに置きだす。

 

「時間はたっぷりある。また一週間ぐらいか?」

 

「現実世界の時間では七分ですね。ええ、そのぐらいの期間があれば色々と教示してさしあげれます。・・・・・本当に便利な道具ですね。一つ欲しいぐらいです」

 

「こればかりはアスフィでも譲れないよ」

 

苦笑いを浮かべ、二人はスノーグローブから発する光に包まれ、部屋からいなくなった。

 

「・・・・・相も変わらず、ここは不思議と未知で溢れた中ですね」

 

白亜の城のとある一室に二人はいた。横長のテーブルを挟み、互いが向き合えるように座って密封された極彩色の粉を用意した一誠とアスフィの爆炸薬(バースト・オイル)が合わさった新しい道具(アイテム)の作製に取り掛かっていた。

 

「一分でも時間が欲しい時はこの中に入ってのんびりと暮すか、仕事に集中するか、その他にも修行と鍛練、特訓にも費やせるし、こうして物事に集中できる」

 

「やっぱり欲しいですイッセー」

 

「考えておくよ。今はこっちだ」

 

下手したら自分達まで爆発に巻き込まれる危険性が高い作業をしている二人の手は心配など許されていなかった。

アスフィの指導のもとで行われている作成は数十分が経とうとしている。その最中で―――。

 

「全くヘルメス様ときたらっ、金儲けに成りそうな話を聞くとすぐに飛んでいくように姿を暗ましたり、本来の自分の仕事を私に押し付けてどこかへ行ってしまい、何を考えているのか分からないあの腹黒さと悪だくみで何時もこの私が苦労を―――!」

 

と、主神に対する愚痴が出るわ出るわ・・・・・・。一誠も相槌や肯定、時には呆れと驚きの反応で応える。

そして、そうして愚痴を漏らして聞く二人の時間が過ぎている中でようやく思考錯誤して完成した爆炸薬改(ボンバー・オイル)

 

「早速試してみましょう」

 

「んじゃ、外に放り投げてくれ。狙い撃ちする」

 

部屋の窓を開け放って、アスフィは完成した手投げ弾を思いっきり振るって投げた直後、炎の矢がアスフィの横から飛び出して真っ直ぐ手投げ弾へ直撃し、凄まじい衝撃が二人のところまで届き、その破壊力を物語らせた。

 

「・・・・・ダンジョンの通路の中じゃ危険だな。広い空間と大型のモンスター相手じゃないと」

 

「予想を遥かに上回る爆発の威力・・・・・もう少し量を減らしてみるべきですか」

 

「それか矢の矢尻に付けて衝撃で爆発できるようにするとか?」

 

「悪くない発想ですが材料は限りがあります。無駄にせず作製をしましょう」

 

「だな。それじゃ、また作製する前に休憩でもしよう」

 

集中で使った精神力と心の回復をする為に、と付け加える一誠に同意するアスフィ。

 

「マッサージをお願いしても?」

 

「了解。それじゃ、浴場にでも行こうか」

 

心労が絶えないアスフィにうってつけのリラックス法の一つを挙げる。

言われて言葉ではなく首を縦に振って頷いて肯定と意志を示すアスフィは一誠とともに城の大浴場へと足を運んだ。そこは二人しかいない空間。床は大理石で壁は無く開放感を求めた風呂場。眺めれば森林と砂浜、海、青い空が見れる。当然のように二人は別々で衣服を脱ぎ、体にタオルを巻いて風呂場へ突入。

マッサージは直ぐせずにまずのんびりと湯船に入って浸かる。

 

「はぁ・・・・・・気持ちいいです。こうして【ファミリア】のことやヘルメス様のことも考えずに羽目を外せていられる私だけの時間と空間が堪らないです」

 

満喫しているアスフィに一誠はただ隣で静かに微笑むだけだった。ぶくぶくと泡立つ湯船の他にプールや防水性の座席、テーブルにはつまみとして用意されているフルーツやドリンクなど完備されている。

無論、寝台もあった。

 

「イッセー、あなたには感謝していますよ」

 

「それはどういたしまして、と言えばいいのかな?」

 

「ええ、こんな機会や時間をあなたはくれます。私もたまには羽目を外して自由にしたい、なりたいという思いもあったのです。ですが・・・・・腹黒主神と駄犬がやらかしてくれやがるときは、その対処や尻拭いは何時も私が・・・・っ」

 

あーあー、また愚痴を漏らし始めたぞーと他人事のように思いを抱く一誠が動き出す。腕を伸ばし主神や同胞に対する不満を口として漏らし続ける女性(アスフィ)の肩や足の裏に腕を伸ばして横抱きに抱え―――お姫様抱っこしだした。短く驚きの悲鳴を上げるアスフィをそのまま寝台へ移動する。

 

「マッサージするぞ」

 

「・・・・・お願いします」

 

優しく寝台の上に乗せた一誠にマッサージし易い体勢、うつ伏せになって背中だけ露出してくれたアスフィの腰辺りに跨る一誠の両手は淡い光に包まれていた。傍に置いてあったボトルに手を伸ばし、液体をまんべんなく手に馴染ませてからシミ一つもないアスフィの背中の肌に触れだす。

 

「ん・・・・・良い匂いがします」

 

「今日はミントの香りがするオイルを使っているからな」

 

「ああ・・・・・この香りとあなたの手が私の心身を蕩けさせられるように気持ちが良いです」

 

背中や肩、腰や脚までも一誠の手が揉みほぐしつつアスフィの溜まった鬱憤などを消しつつ快感を与える。滑らかな動きで白磁の肌の背中を触れる一誠はアスフィに問うた。

 

「どうだ?」

 

「ええ、とても気持ちいいです・・・・・あなた、この手の職業をしたらどうでしょうか?私なら毎日通いたいです」

 

「あははっ、冒険者の称号を剥奪されたら考えてみるよ。それにしても、アスフィの体は綺麗だな。ヘルメス以外の男で見られているのって俺ぐらいか?」

 

「そうですね・・・・・んっ・・・・・こうして触れさせることはヘルメス様でも許していませんよ・・・・・あ・・・・・あなただけです。私の体を隅々まで触れているのは」

 

「胸とか尻とか触れてないから隅々とは言えんぞアスフィ。ま、触るつもりもないがな」

 

マッサージを受けている女性の気は緩やかになっていくのを感じつつ、さらなる気持ちのリラックスをしてもらえるように施していきながら言葉を交わす。

 

「・・・・・では、触れて良いと仰ったら触りますか?」

 

「心から触れて欲しいと望むなら、な」

 

意味深に言葉を発するアスフィを苦笑いで答える一誠。目の前の女性が本気でそう言うわけがないだろうにと苦笑いを浮かべる理由を心中で漏らす余所に

 

「・・・・・私に魅力を感じていないのでしょうか・・・・・?男性なら興奮してしまいそうな状況なのですが」

 

アスフィはアスフィで何か呟いていた。が、ハッキリと一誠はそれを聞き取っていた。

上半身を倒し、覆い被さる形でアクアブルーの髪に掛かる耳元で囁いた。

 

「アスフィは魅力的な女性だよ」

 

「っ!?」

 

―――○●○―――

 

「・・・・・それでは、またここにお会いしましょう」

 

「今日はありがとう。また愚痴を聞くよ?」

 

「ええ、では・・・・・」

 

恭しく頭を下げたアスフィは一誠から離れて別れる。心なしか表情は明るく、また一誠と会う日を臨む彼女と正反対な方へ進む一誠。向かう先にあるのは来たと北西のメインストリートに挟まれた区画だ。路地裏深くと言うこともあって家屋はごちゃごちゃと入り乱れ路地も細く狭く、雰囲気は華やかとは言い難い。知る人ぞ知ると口にすれば聞こえはいいが―――その場所は陰湿だった。その場所に一誠はある派閥の本拠(ホーム)に大量の亜麻袋を担いで訪れる。【ゴブニュ・ファミリア】。武器や防具、装備品の整備や作製を行う鍛冶の派閥。知名度や勢力規模は同業大手【ヘファイストス・ファミリア】より劣るものの、作製する武具の性能そのものは勝とも劣らない、まさに質実剛健の【ファミリア】だ。依頼を受けてから武器作製に取り掛かることが多く、コアな冒険者(ファン)が多いのも特徴の一つである。扉の横に飾られているエンブレムには、三つの鎚が刻まれていた。

 

「失礼しまーす」

 

入口を潜り、工房と言う言葉がしっくりくる建物の中に入る。室内は外と同じように薄暗く炉に陣取った鍛冶師や道具を用いて彫金を施す者など、複数の職人達がそれぞれの作業に従事していた。

 

「いらっしゃぁい。今日は何のようで」

 

「深層で金属や鉱石を採取したんだ。ちょっと鑑定してくれるか?」

 

肩に担いでいた大量の亜麻袋を床に置いて一つの鉱石を取り出す。オリハルコンやミスリル、超硬金属(アダマンタイト)など高級の金属や鉱石はダンジョンから採掘できる。そんな金属と鉱石と言った物が深層域で採掘できるものは地上では滅多に入手できない。上級冒険者のパーティ、あるいは第一級の冒険者でなければ手に入らないだろうな物を一誠は鍛冶師に鑑定をお願いした。

 

「これは・・・・・」

 

見たことのない鉱石だと鍛冶師は扱ってきた鉱石と金属を頭の中で検索、思い浮かべながら漏らした。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

自分では判断しかねると悟り、神ゴブニュに意見を仰ぎに求めた。その間待つ一誠。

それからしばらくして―――。

 

「この鉱石一つ、取り敢えず一万ヴァリスで引き取らせてくれ」

 

「深層の物なのに随分と安いな」

 

戻ってきた一誠に対応する鍛冶師の言葉にそう漏らした。命の駆け引きが激しい場所で得たアイテム。自分を安っぽく見られているのかと怪訝な表情を浮かべてしまう。鍛冶師は頭を引っ掻き、申し訳なさそうに言う。

 

「初めて見る鉱石なんだ。これを加工する俺達鍛冶師も初見で完成できるわけじゃない。もしもこの鉱石を巧みに扱えるようになったら十万単位のヴァリスで買うよ」

 

「んー・・・・・まあ、そう言うことなら仕方がないな」

 

まだ誰にも扱えない物を高く買い取るわけにはいかないと神の方針なのだろう。扱えるようになれば値段は跳ね上がる。ここは一誠が折れて承諾するしかなかった。その他にも高級な鉱石や金属も交渉の結果、かなりの金額を得たのだった。

 

 

「―――と、そんな感じで売れたんだよヘファイストス」

 

「ゴブニュの計らいも分かるわよ」

 

場所は変わって鍛冶大派閥(ヘファイストス・ファミリア)の執務室、永久社長兼主神兼鍛冶の女神ヘファイストスに会っていた。手にしている見たことのない鉱石の冷たい感触を覚えながら眺める女神は後でこの鉱石をどのようにしようかと片隅で考えつつ目の前の若い冒険者と話をする。

 

「たった一人でロキの子供達の到達階層を超えるあなたにはとても今でも信じられない思いだわ。あまり無茶しないように」

 

「無茶、ねぇ・・・・・ヘファイストスにとっての無茶はよくわからん」

 

「あなたねぇ・・・・・。まあ、いいわ。それでまたダンジョンに行くの?まだ時間は夕暮れでもないから」

 

「そうだなぁー。18階層にでも行こうかな。ついでに何か欲しい物とかある?」

 

「・・・・・それじゃあ」

 

ヘファイストスからの依頼に請け負い、再び一誠はダンジョンに赴いたのだった。目の前で空間を歪ませ、ポッカリと開いた穴へ潜っていく冒険者。

 

「アンノウン・・・・・正体不明の冒険者、それともイレギュラーと言った方がしっくりくるかしら?」

 

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