オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結) 作:ダーク・シリウス
「ほい、約束の武器だ」
「何で二つなんですか?」
腕に装着するように作られたリリの新たな武器が二つ。両腕に身に付けろとばかり用意されたことで不思議と疑問が混ざった心情で一誠に問うた。
「片手で処理し切れる場所じゃないからな。どうせなら二つ同じ物を装着すればいいだろ。んで、ベル坊にも用意した物があるんだ」
「僕にもですか?」
うわー、なんだろうと期待するベルの
「はい」
「・・・・・え?」
突き付けられる―――ふさふさとしたウサ耳のヘアバンド。どこからどう見ても頭に装着する物で訝しい目でリリは一誠に疑問をぶつける。
「・・・・・イッセー様、これはなんですか?」
「気配を敏感に探知する為の装備品だ」
「・・・・・どうしてそんな形なんですか?」
「んー、この方がしっくりきたから。さあ、ベル坊。これを身に付けてダンジョンに行こう」
この人はアレだ。
「そ、それはいりません!というか嫌です!?もっと他に何か作らなかったのですかあなたは!」
「・・・・・そうか、ならこっちだな」
少し残念そうにバックパックの中にまた何かを取り出す一誠の姿に
今度はマシな物でありますようにと願うベルに―――。
「敏捷が50も上がるこの兎の着ぐるみを―――」
ベルは脱兎の如く逃走を開始した。
「・・・・・絶対にからかいが含んでいますよね?」
「あ、わかる?ついでにリリのも作ってあるんだけど・・・・・着てくれるか?俺がモフモフする為に」
リリは持ち前の逃げ足で逃走を開始した。一人、ポツーンと取り残された一誠は『解せん・・・・・』と呟いていたのを二人は気付きもしない。
「な、なんて物を作るんだあの人は!?」
「凄い人であると同時に変人ですイッセー様はっ!」
「だよねっ!僕にあんな恥ずかしい物を付けてくれって言う方が変だよ!」
逃走を続ける二人がそう口走っていれば、
「―――俺が変人とは酷いことを言うじゃないか」
「「っ!?」」
「変更だ。お前ら、敏捷を上げるためにダンジョンの中を延々と走りまわって貰うぞ。俺に捕まったら、この兎の着ぐるみを着てもらう」
魔法の絨毯の上に乗って移動している一誠の両の手に二つの着ぐるみ。ソレを見てベルとリリは悟った。
―――この人は自分達を弄ることを楽しんでいるのだと。そしてこの日、モンスターに追われているわけでもないのに必死な形相でダンジョン内を走り回っている二人の冒険者と楽しそうに笑いながら追う冒険者が見掛けたのを上層と中層にいた冒険者からの証言がちらほらと上がった。
とある日―――。
『豊饒の女主人』のウエイトレスのリューがお暇をミアに了承してもらって緑のフードの付いたケープと口元を覆う覆面、木刀と二刀の小太刀を腰に佩いてダンジョンに赴いていた。迫りくるモンスターを一蹴し、しっかりとした足取りでどんどん下の階層へ進み、
『ヴオォオオオオオオオオオオオオオッ!?』
「・・・・・」
息を乱さず無言のまま
狭い木々のトンネルを潜った先にあったのは、墓場だった。僅かばかりの空間が開けており、周囲は細い木立ちと水晶によって囲まれている。頭上から差し込む一筋の光の下、木の一部を紐で結ばれた十字の墓が、いくつも並んでいる。そして、この場を自分しか知らないはずだったが他にも一人、青白い十二枚の翼、青白い長髪、頭上に青白い輪っかを浮かばせている謎の人物の背中を見たリュー。新種のモンスター?と小太刀に手を伸ばしたところで、
「珍しいな。リューが
「っ!?」
聞き慣れた男の声。愕然としているリューの瞳には、立ち上がって踵返して全貌を晒す―――眼帯を付けている金色の瞳の少年と視線がぶつかった。間違いないとリューの中で同じ酒場に働く少年の顔と一致していた。髪の色と姿が違うが・・・・・。
「あなたは・・・・・イッセー、なのですか?」
「―――そうだったな。リュー達には俺の事何も知らなかったな」
十二枚の翼が折り畳むように小さく、背中から見えなくなり、青白い髪が元の色、真紅と染まり、頭上の輪っかが消失する。
「これでいいか?」
「・・・・・イッセーは、あなたは一体なのですか?」
「言葉で説明しても納得してくれる方が難しいかな。俺という存在が特殊過ぎるんだ。今さっきの姿は俺自身の力の一つだと思ってくれ」
力の一つ。冒険者としてではなくイッセーという個人の特殊な力のことだろうか?と考えるもこれ以上の追及をせず、別の話に切り変えた。
「どうしてここにいるのですか?」
「どこかの【ファミリア】の団員達の墓場だとぐらいは解っている方でな。たまにこうして墓参りをしに来ているんだ」
改めて墓場を見てみる。それぞれの墓の前にささやかな料理と酒瓶、リューが採取した花より色鮮やかで様々な種類の花束が手向けられていた。
「・・・・・どうして、見ず知らずの【ファミリア】の墓場にこんなことをしているのです?」
「そこに墓場があるから」
間も空けずリューの尋ねに返した。この墓場はリューと関わりあることを一誠は知らない。なのにダンジョンにある墓場を見つけたから手向けをしているのだと言ってはばからない一誠。
「リューも、墓参りをしに来たんだろう?どーやらこの墓場と関係があるみたいだがな」
「・・・・・」
この場にリューが現れたことで他の【ファミリア】の墓場と関わりがあるエルフだと言う事実を認めているようなものである。一誠が非難しているわけではないことを理解して、
「イッセーが私達に対して教えない理由も解らなくはないです。私もあなたと神アテネにも私の素性を教えていませんから」
「リューの素性?」
はい、とリューは肯定と述べ、頷いた。墓場を見つめながら一誠に話しかける。
「何となく察しているでしょう。この墓場は、かつて私が所属していた、【ファミリア】の仲間達の墓です」
エルフの彼女は静かにそう告げた。空色の瞳を一誠に向ければ隻眼の瞳とぶつかる。
「この墓を知ったあなたには知る権利があるでしょう。何よりあなたは私の大切な人でもある。それに、私の素性を知る者が現れるかもしれません。いずれあなたにも知れるでしょう。・・・・・自らの口で話せなかったことを、後悔はしたくない」
聞いてもらいますか、と。そう尋ねるリューに、一誠は頷いた。
「私は、ギルドの
「・・・・・」
「冒険者の地位も既に剥奪されています・・・・・一時期は賞金も懸けられていました」
いきなり、驚きの言葉を聞いた一誠。顔を隠し、一人でここ18階層まで単独で行動で来たその実力もLv.は2か3、もしかしたらそれ以上の器かもしれない。『豊饒の女主人』に働き始めてからただのエルフではないと察していた一誠はそう言うことだったのかともどこか納得した。
「私が所属していた派閥は【アストレア・ファミリア】・・・・・正義と秩序を司る女神アスとレア様のもとで、当時の私は少なからず名を馳せていました」
リュー・リオン。彼女の真名。二つ名は、【疾風】。
「私達の【ファミリア】は迷宮探索以外にも、都市の平和を乱すものを取り締まっていました。その分、対立する者も多くいた」
ほんの五年前まで、オラリオは今と比べものにならないほど『悪』が蔓延っていたと言う。正義の翼が刻まれたエンブレム、
「ある日、敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、私以外の団員は全滅・・・・・遺体を回収することもできず、当時の私はこの18階層に仲間達の遺品を埋めました」
「それが、この墓か」
「はい。彼女達はこの
自分達が死んだらここに埋めてくれと、いつも冗談を交わしていた、と。当時の事を思い出しているのか、リューは唇を曲げ、目を伏せがちにする。
「・・・・・生き残った私は、アストレア様に全てを伝え、そしてこの都市からお一人で去って欲しいと頭を下げました。何度も懇願する私に、あの方も受け入れてくれた」
「天界送還の危機を遠ざける為だからか?」
「いや、違う」
もっと自分歩にで、浅ましい動機だと、リューは頑なに否定する。
「激情の言いなりになる醜い私の姿を、あの方に見て欲しくなかった」
そして当時の感情の一端を覗かせながら、彼女はハッキリそう言った。
「仲間を失った私怨から、私は仇である【ファミリア】に一人で仇打ちしました」
「・・・・・」
闇討ち、奇襲、罠、手段を厭わない襲撃に晒され―――敵方の【ファミリア】は壊滅。たった一人のエルフの手によって、大組織であった敵対派閥は息の根を止められた。
「あれはもう正義ですらなかった。復讐に突き動かされた私は、彼の組織に与する者、関係を持った者・・・・・疑わしい者全てに襲いかかりました」
それが、ギルドの
「その後、お前はどうなったんだ?」
「力尽きました。全ての者に報復した後、誰もいない、暗い路地裏で」
もともと、死ぬ覚悟だったのだろう。復讐をやり遂げ、主神も、仲間も失った彼女を生に繋ぎとめるものは、既になかったのだ。
「血に濡れて、汚泥にまみれ・・・・・愚かな行いをした者には、相応しい末路だった」
「・・・・・」
「けれど・・・・・」
―――大丈夫?
温かい手が、汚れきった彼女の手を取った。シルが、路地裏に一人倒れていたリューを助けたのだ。彼女の摘心―――当時のリューに言わせればしつこいお節介を何度も焼かれ―――によって、彼女は生の道に連れ戻されたのだ。
「私を助けたシルは、ミア母さんに頼み込んで、『豊饒の女主人』の一員として迎えてくれました。・・・・・地毛も強引に染められてしまいましたが」
「ははは・・・・・」
思わずと苦笑いを零す一誠。冒険者時代は常に覆面を纏っていたので、
「・・・・・耳を汚す話を聞かせてしまって、すいません」
「いや、リューのこと、シル達と同じぐらい知ることができて嬉しい方だ。それに―――」
「?」
「俺もリューの復讐する気持ちは解るよ」
とある当時の事を思い出し、金眼に宿る憎悪の炎がリューの空色の瞳から捉えることができた。憐れみでもない同情でもない。―――まるで彼の瞳から窺える復讐の炎はかつて自分が宿していた物と同じだった。
「俺も大切な人を失った。俺から大切な人を奪った奴に復讐をする為に悪の組織に身を投じた。でも、その時の俺の家族や仲間、友達に復讐の権化と化した俺を止めるために奮闘されてな。結果、俺が臨んだ復讐が果たせず倒された」
「・・・・・あなたの大切な人を殺した物はどうしたのですか?」
「―――殺したよ。この手でな」
結果的に復讐は果たせた。しかし、一誠にとっての復讐はそうではなかった。ただ一人だけで復讐しかったのに、周りは心から許した者達と一緒に戦って、叶ってしまったのだと聞かされたリュー。
「あいつらもお人好し過ぎる。家族との過ごした時間や思いすら記憶から消してでも復讐をしたかったのに、どうして止めるんだってな」
「・・・・・貴方を愛しているからではないでしょうか」
「・・・・・だよなぁ」
溜息を零し、仇を殺した手を見下ろす。仇の血で汚れ、貫いた感触はまだ手に残っている。
「あまり気にしなかったが、今思えば俺の手って汚れていたんだよな」
自嘲に似た言葉とともに苦笑いを浮かべた一誠の前にいるリューが手を動かした。
「・・・・・自分を貶めるような真似は、止めてください」
汚れた手だと語った一誠の手を両手で包みこんだ。
「貴方はいつでも前を向いて、誰にも分け隔てなく接する優しさを持って、強いです。なにより私が心を許したでもないのに貴方に握られた手を私が最初に振り払わなかった。貴方が、貴方で三人目です」
一誠の手を包みながらリューはそう告げた。
―――なに、名前はリュー?言いにくいわね。今日からあんたのことはリオンって呼ぶわ!
一人目は、自分を【ファミリア】に誘った快活な少女の冒険者。
―――大丈夫?
二人目は、冷たくなっていく自分に温もりを、居場所を与えてくれた心優しい酒場の少女。
そして、快活な少女をどこか彷彿させる三人目が・・・・・。
「光栄と思えばいいのかな?」
己の手を何時までも包みこむ手とリューを交互に見て一誠は問うと、意地悪そうな眼差しを浮かべリューは頷くのだった。
「ありがとう」
徐に包まれている手ともう片方の手を動かし、リューの背中に回して抱き絞めた。自然過ぎた仕草にリューは反応できず、一瞬だけ全身を委縮し、固まったが後に伝わる温もりに緊張が解けたかのように体から力を抜いて
「どういたしまして」
自身も腕を一誠の背中に回して抱擁を交わした。一条の光に注がれ、包まれる二人は顔を上げ、視線を向け合う。
「ははっ」
「ふふっ」
微笑み、笑い合う。
―――リュー、異性として大好きだぞー。―――そんな、照れますっ。
―――○●○―――
「ヘルメス様」
「んー?何だいアスフィ」
「
「喋る
「はい、どう思いになられますか?」
【ファミリア】の団長に問われる主神は橙黄色の瞳を天井へ見上げ、隻眼の赤髪の冒険者というキーワードを注目し、誰なのか考えれば自分が知る限り唯一の冒険者の顔が思い浮かんだ。
「イッセー君、【アテネ・ファミリア】が関わっているだろうな」
「やはり・・・・・」
「おや、気付いていたのかアスフィ。お気に入りの男の子だって」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、からかいを含んだ声でアスフィに話しかけるヘルメスを言い返さず、無視して問い続ける。
「放っておきますか?真に受けた冒険者がいないとは限りませんし、ギルドで情報を集められれば直ぐにどこの【ファミリア】なのか気付きます」
「いやー・・・・・イッセー君の種族って
だから問題はないんじゃないかと、ヘルメスは口を閉ざさず言い続けた。
「でも、横取りされてドロップアイテムを手にした彼の周囲が騒いでいないってことは、まだその
「余計な事をして私達に苦労を掛けないでくださいッ」
そんなことされたら【ファミリア】がどうなるか分からないわけではない主神に叱咤するアスフィに「まぁまぁ」と両手で宥める。
「もしかしたら彼も俺と同じ考えをして、実際にしているかもしれないよ」
「何の為にですか・・・・・」
「喋れるならモンスターに心がある。しかもそのモンスターが同じドラゴンとして他のモンスター同様に倒すことはできないんじゃないかな?」
「・・・・・」
「彼は優しいからなー。捕らわれた
橙黄色の瞳を細め、口も緩めて笑うヘルメスと無言のアスフィ。もしも、もしもヘルメスの言う通り、ダンジョンのモンスターを保護した理由がそうであるとしたら、一誠は跳んだお人好しであるとアスフィは溜息を零した良い思いだった。
「取り敢えず、アテネのホームに足を運んでみようかな。実際どうなのかこの目で確かめてみたい」
「・・・・・分かりました」
団長として同行しない訳には行かない。それが突然撒かれてもだ。
「ヘルメス様ー」
その直後。
「ルルネ、入る時はノックしなさい」
注意するが吹く風のごとく気にしないでルルネは用件を口にした。
「イッセーがヘルメス様と会いたいってさ」
「おや、俺にかい?」
「ああ、ホームに来てほしいってさ。出来れば一人でって」
というと、
「アスフィ、留守番を頼むよー」
「はいはい・・・・・」
言葉とは裏腹に、ヘルメスは腹黒い考えをアスフィに伝えた。羽付きの鍔広帽子を被って
「おはようヘルメス」
「おはよう。丁度今、君の話をしていたところなんだよ」
「ははっ、人気者になってきたなー。神に噂されるなんて。さて、ホームまで案内するよ」
徒歩で西にある【アテネ・ファミリア】のホームへともに歩く一誠とヘルメス。
「ところで、風の噂で聞いたんだが喋るモンスターを横取りしたんだって?」
「なんだ、もう地上にまで広まっているのか。まあ、違わなくはないな」
「そのモンスターはどうしたんだい?」
一誠は意味深な笑みを浮かべ「内緒」と焦らす。それはヘルメスは嫌いじゃなかった。「楽しみだなぁー」と笑みを浮かべ肩を並んで歩き続ける。
「ところでアスフィとルルネは元気してる?」
「二人とも元気にしてるよ。会いたかったかい?」
「そうだなぁー。最後に会ったのって新しくできたホームに来た時以来だ」
「ふっふっふっ。なんなら、俺の【ファミリア】に鞍替えしたってもいいんだぜ?君なら大歓迎だ。職業はアスフィの補佐が良いかな?」
黒い笑みを浮かべ、アテネのいないところで勧誘を始めるヘルメスと勧誘を平行線で語り続ける一誠。
「イッセー君。ダンジョンの階層到達は順調かい?」
「んー、しばらくは到達階層の数を増やそうとは思っていないんだよ。春姫達をモンスターとの戦いに慣らせようかなって」
「団員の強化を精に出しているんだね。因みにどこまで進んだんだい?」
「20階層」
「・・・・・イッセー君って意外と鬼畜?」
Lv.1の団員達を自分より
「俺がガネーシャだ!」
ガネーシャ自身を象った
「ガネーシャ、悪いけれど私のホームに来てくれる?とても重要な話があるのよ」
「とても重要な話?なんだそれは」
浅黒い肌に引き締まった肉体を持つ象の仮面を顔に被っているイケメン(顔は実際見たことがないから不明よ)の一柱の神が腕を組んでアテネに問う。
「そうね・・・・・私の眷属が、あなたの力を貸して欲しいぐらい、今後オラリオの住民達が笑みを浮かべて楽しめる事をしたいって言うの。その為に群衆の主たるあなたが―――」
「喜んで行ってやろう!全ての民が笑うようなことであれば力になってやる!」
あっさりと同行を了承したことでアテネは隣で存在感たっぷりなガネーシャを引き連れて自身のホームへと足を運ぶ。
「アテネよ。子供達を喜ばす事とは一体何なのだ?」
「それは着いてから説明するわ」
さっさと連れて行こうと、考えで歩む速度を上げる。ガネーシャも無言でアテネの同じ歩みの速度で肩を並びつつついて行き、やがて・・・・・西にある巨大な壁がある場所へ辿り着けば、
「あ、来たか」
「うん?ガネーシャ?」
先に【アテネ・ファミリア】の
一誠と合流を果たせば、巨大な壁が両開きに開く。
「ガネーシャは私達のホームに入ってくるのは初めてね」
「そうだな。中々立派ではないか」
「その称賛は中を見てからにしてちょうだい」
壁の向こうへ潜れば自然豊かな森林が一誠達を出迎える。壁は閉じ、一誠達は森の中を歩き始める。
「そう言えばヘルメス」
「うん?」
踵返して、
「アスフィを透明にさせて連れてくるなんて実に腹黒いことをしてくれるな」
宙で何かを掴むような仕草をすると、虚空から純白のマントを身に包み、
アテネは一瞬驚き、ジロリとヘルメスへ睨む。
「・・・・・何時から気付いていたのですか?」
「最初から。厳密にいえばヘルメスをホームから連れて来た時からずっと」
「ど、どうやって気付いたんだい?」
「ん?姿を隠せても俺は相手の『気』を、気配を感じ取れることができるんだ。アスフィの気は覚えているからヘルメスの背後で歩いていたことは気付いていたし」
ヘルメスとアスフィは言葉も出なかった。気付いた素振りもしていない。それは最初から警戒していなく、最初からアスフィがついてきていることを知っていたからなのだろう。一誠の理由に両手を揚げ出すヘルメス。
「・・・・・参った。アスフィの
「後、匂いとかするから気をつけろよ。姿を消せても嗅覚が鋭いモンスターには気付かれるだろうし」
「・・・・・参考になります」
バツ悪そうにするアスフィにトドメの一言。
「甘くて良い匂いだなアスフィって。好きだぞ」
「―――っ」
主神の女神に頬をつねられるも、一誠は笑みを絶やさず
「いつ来ても綺麗な空気がする場所だねー。一つ一つの樹も大きいし」
「うむっ!自然が豊かなのは良いことだな!」
小鳥の囀りも聞こえるようになった森林や地面へ伸びる樹木の根も支援らしい風景と光景を醸し出す。
「だけどガネーシャまで呼んでいたとは驚いたよ」
「俺とヘルメスにどんな話をするのだ?」
「―――二人ともとある『裏』の共通点を持っているからね。共通を持つ者同士、色々と話をしましょう?」
ヘルメスとガネーシャが共通している事。無言でお互い顔を見合わせ、アテネに視線を向ける。
「もしかしてアテネ」
「知っているのだな?」
「ええ、同類よ。ある意味では」
そして、湖に辿り着いた。その場所に―――。リド達多くのモンスターが一誠達を待ち構えていた。その中に
「内密に、ウラノスに協力している派閥の主神の一人よ」
「そして話とは、リド達『
アテネと一誠の、二柱を
―――○●○―――
「なーるほど・・・・・このモンスター達が『
「俺も初めて見るな」
リド達と二柱の神が軽く挨拶を交わしたところで『
「
「ああ、俺も最初に出会った時は驚いたよ。ダンジョンは未知で溢れていると改めて認識された」
「けど大丈夫なのかい?他の神や冒険者、ギルドに発覚されると【ファミリア】の存続が危うくなるよ」
「俺は別に【ファミリア】が解散されようがどうでもいいんだ。冒険者でなくても生きて行く自信があるし」
「私は下界にいる神々を天界に送還させることが第一の目的でもあるから、【ファミリア】の存続がどうなろうとあまり関係ないわよ」
それぞれ【ファミリア】が最悪の結果になろうと痛くも痒くもないと言い切る二人に冷や汗を浮かばせるヘルメスとガネーシャ。
「アテネ、俺達を天界に送還するとは?」
「天界にいる神々があなた達を送還させて仕事をさせたいって願いなのよ。その為、私は
実際にその力を見せれば、ますます冷や汗を浮かばせるガネーシャ。
「お、俺達もか・・・・・?」
「当然よ例外は無いわ。でも、まだ、天界に送還するかどうか私の判断で決める。二人ともしばらくは下界にいられるから安心してちょうだい」
素直に安心できない、喜べない。
「さて、話を戻すわよ。二人を呼んだのは他でもない心を持つモンスター達の今後の事よ」
「ウラノスから話を聞いているなら、今さら説明なんてお互いしなくていいね?」
「うむ。俺はガネーシャであるからな!」
「真剣な話だからガネーシャ。自己主張するソレは止めて、送還するわよ」
「ゴメンナサイ」と静かになるガネーシャに一誠とアスフィは何とも言えない思いを抱く。
「アテネ、彼等の話をするのは異論ないけどさ。子供達と交流できるような考えがあるのかい?まず、いきなりモンスターと触れ合わせようなんてことは無理があると思うよ」
「
瞳を向ければパチンと指を弾いた一誠に呼応して三人の神前に
「ぬおっ!これはなんだっ!?」
「これって、遊園地じゃないか」
初めて見るガネーシャと遊園地の楽しさを確かめたヘルメス。アテネは口を開く。
「そう、これはイッセーが創った娯楽の塊でもある巨大な施設。これを効率よく活用し、モンスター達と出来る限り触れ合いをさせたいの」
「・・・・・悪くないとは思うけれど、実際どうやってだい?」
「この娯楽の施設、遊園地にモンスターを調教して慣れている
アテネの答えに「うむ。確かに俺の子供達ならばモンスターの傍にいようが勇敢な姿で佇んでくれるだろう」と自身と期待、信用と信頼が籠った言葉がガネーシャの口から出てきた。
「それでヘルメスもこの遊園地の運営と管理をして貰いたいと思っているわ」
「うーん、そういうことか。俺とガネーシャのピッタリな役割だな。でも、肝心のアテネ達は?」
「他力本願はしないわ。主に一誠がモンスターと子供との共存、交流を常に考え、子供達を喜ばせる。その為に私達は契りを結びましょう」
タイミングを見計らったアテネの横から一誠がスノーグローブをどかし、代わりにテーブルを置いてから一つの羊皮紙を突き出した。
「契り?」
「所謂【ファミリア】同士の同盟よ。絶対に互いを反しないという誓いをする為の契約書」
確かめてちょうだいと言うアテネからガネーシャとヘルメスは羊皮紙に記された内容を目に入れる。
・【アテネ・ファミリア】【ヘルメス・ファミリア】【ガネーシャ・ファミリア】の以下三柱の【ファミリア】が同盟を了承した際、以下の絶対の
・この同盟の内容を他の【ファミリア】に漏洩した場合、即時対処を行う。
・アテネ、ヘルメス、ガネーシャの以下の三柱は協力態勢を敷き、全力でウラノスに協力する。
・眷属の束縛は禁じる。
・以下の同盟派閥、に
・
・遊園地で得た利益は三大派閥がそれぞれ二割、遊園地の運営資金として四割とする。
「「・・・・・」」
契約内容を呼んだ二柱は羊皮紙からアテネに視線を向ける。
「不満があるなら言ってちょうだい。出来る限りの譲歩はするから」
「いや、不満は無いけどこの敵対する【ファミリア】って【フレイヤ・ファミリア】だったらどうするんだい?」
「契約内容に則って、天界に送還するつもりよ。言ったでしょ、例外は無いって」
「【ロキ・ファミリア】はどうするんだい?」
「ああ、問題外よ。【アテネ・ファミリア】の傘下にしたから」
んなっ!?と愕然とする。あの最強の派閥の片割れを傘下にさせたアテネに橙黄色の目が大きく見開いた。
「強大な後ろ盾があるから私達は安心して活動ができるわ」
「・・・・・もう、【アテネ・ファミリア】が末恐ろしくなってきたよ・・・・・」
無言で頷くガネーシャもそうだとばかりだった。
「それで、契約をしてくれる?」
「・・・・・まぁ、これは儲け話でもあることだし、乗らない手はないな」
「遊園地とやらで子供達が笑顔を浮かべるならば、このガネーシャも喜んでやろうっ!」
羊皮紙にそれぞれの【ファミリア】を記した直後、羊皮紙が光り輝き四つに分裂した。
「証として受け取ってちょうだいね。これで私達は一心同体だから今後とも良い関係でいましょう」
「じゃあ、イッセー君をしばらく貸して欲しいなー」
「絶対にダメっ!」
即座に否定されてしまったヘルメスの隣で、スノーグローブの中を象の仮面をべったりとくっつけて覗くガネーシャ。
「アテネ。この遊園地でどうやって運営をするのだ?」
「この遊園地を丸ごと、ガネーシャのホームの敷地に置きたいのだけれど」
「俺の
その質問にアテネではなく一誠が答えた。
「【ガネーシャ・ファミリア】の敷地十倍以上はあるな。だけど、この水が張っている場所にガネーシャの『アイアム・ガネーシャ』を設置すれば問題なく【ガネーシャ・ファミリア】の物としてなるはずだ」
「だが、十倍以上誇るのであれば子供達の住む建造物を壊してしまうだろう。それをどうする気でいるのだ」
「ん、そこは問題ない。住民達が寝静まる深夜にオラリオの敷地を拡大させる。それから遊園地を【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内に具現化させる」
「イッセー君・・・・・本当にそんなことできるのかい?とてもじゃないけどそれこそ無理があると思うんだけど」
心配そうに言葉を掛けてくるヘルメスに対して不敵に笑む。
「俺はできないことを口にしない。というか、ガネーシャ。お前の敷地内で遊園地を置かせてもらうがいいか?群衆の主、人間を心から想いやる神だからこそ信用と信頼して遊園地を譲りたいんだけど」
「無論だ!子供達からは俺が説明しておこう!この遊園地で市民の笑顔が浮かべるのであれば尚更だ!」
「それじゃ、遊園地の運営開始は―――一ヶ月後ぐらいでいいな?色々と説明しないといけないからさ。それから運営する際の決まり事や、案内の仕方、リド達
「「了解だ」」
「これからしばらく大変な毎日を過ごすのね。まあ、暇じゃなければそれでいいのだけれど」
「そうだなー。それより懸念しているのは遊園地の規模によって掛かる税金の額だ。ヘルメス、予想でどのぐらいだと思う?」
問われたヘルメスは―――顎に手をやって自分の予想として告げた。
「最低でも五〇〇〇万ヴァリス以上、最高でも一億ヴァリス以上は掛かると思った方が良いよ。無難にね」
「・・・・・税金の方は俺がダンジョンで稼いだ方が安全かもしれない」
「頼んだぞ、アテネの子供よ!」
「言った手前だからしっかり頑張ってね。帰ったら私が色々と尽くして疲れを癒してあげるから・・・・・ね?」
そしてそれからガネーシャとリド達を遊園地に招き入れ、遊園地を案内、説明した後にその日の深夜―――。
「よし・・・・・ようやく完成だ」
『アイアム・ガネーシャ』の周りに娯楽施設もとい遊園地が具現化し、【ガネーシャ・ファミリア】の一部と化した。
―――○●○―――
「俺がガネーシャである!アテネの子供よ順調か!?」
「ガネーシャの協力と口添えしてくれたおかげで順調だよ」
現れるガネーシャとの対談。褐色肌に鍛え上げられた身体を惜しみなく晒す、象の仮面を被ったイケメンの男神は一誠の肩と並んで状況を確認し合う。
「そっちはどう?」
「うむ、問題ないぞ。だが驚いた。間近で市民達にモンスター達を見させるなど我々は考えたことがなかったぞ。冒険者ではない市民の危険に晒すような真似が出来んからな」
「その為に大きくて広い、モンスター達が活動できる頑丈な檻が必要不可欠なんだ。んで、俺のところに来たってことはモンスター達の収容を完了したってことなんだな?」
「その通り!」
白い歯を覗かせ、キラーン☆と煌めかせるガネーシャを気にせず、遊園地内の地図を記した羊皮紙を広げて見つめる。
「ギルドからの運営の承諾は了承してもらったし、後は万全の態勢を整えたらいよいよだな。ガネーシャ、色々と遊園地を楽しんでみたか?」
「当然だ。実に愉快であり、面白く、こ、怖かったな」
全ての遊園地のアトラクションを体験させた結果、最後にお化け屋敷も経験したガネーシャも声を震わす程に恐怖差である。
「ああ、楽しんでもらえたようだな。市民達も喜んでくれそうだ。ありがとうガネーシャ」
「俺がガネーシャだからな!」
自己主張の激しい男神だなぁーと思いつつも、一誠は数多の項目に完了したと一つの枠に丸を記した。
「後は色々あるけど大目玉のパレードが重要だな。ガネーシャ、群衆の主として頑張って貰うぞ」
「任せろ!市民や子供達の笑顔を見れるならどんなことでもやってやる!何せ俺がガネーシャである!」
「んじゃ、リド達と合流してパレードの内容を一緒に考えるとしようか」
「うむ!ともに市民の笑顔を見ようではないか!」
暑苦しくも、気の良い男神に同意と頷き分身の一誠と『
―――そして、そんなこんなを奮闘していると
「―――ねぇ、この瞬間。全ての者に天罰を下して良いかしら?私のイッセーは見世物なんかじゃないのよ?」
「お、落ち付いてくれアテネ!?」
「あなたが本気で力を発動したらオラリオが吹っ飛んじゃうから止めなさい!」
白亜の巨塔『バベル』三十階。
『イッセー様、頑張ってくださいっ』
『負けるわけがないけど、軽くやってしまいな』
『こっちはこっちで応援しているから』
『怪我だけはしないでね?』
『イッセー、頑張って』
『オレっち達も見ているからなー!』
【ファミリア】やリド達からの声援に口元を緩まして「ああ」と短く返事をする。脳裏ではどうやって相手を倒すか考えている。派手にやるか、それとも絶望を与えるか、印象を残す勝利を見せ付けるか―――。
「このっ!」
「くそったれっ!?」
派閥のエンブレムを隠し、様々な得物で攻撃を仕掛けてくる冒険者達から紙一重でかわし続けてだ。一切の仕返し、迎撃はしていない。一誠にとって単なる暇つぶしでしかならない。腕時計を見て、
「そろそろ行くか」
後ろに目があるのかと思うぐらい、背後からの攻撃を難なくかわし続け前へ歩きだす。
闘技場最上部の観覧席。アリーナ全体を一望できる位置で
『あー、あー、えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の
なんて二つ名だとどこからか憐れな呟きが発せられたが本人は気付きもしない。実況を名乗る褐色の肌の青年が魔石製品の拡声器を片手に声を響かせていた。
『解説は我らが主神、ガネーシャ様です!ガネーシャ様、それでは一言!』
『―――俺が、ガネーシャだ!』
『はいっありがとうございましたー!』
実況者イブリの横でガネーシャが吠える。観衆は一誠に喝采を送った。
『今回の
イブリの発言に観客は大盛り上がり、ガネーシャは嬉しそうに白い歯を覗かせてはキラリと輝かせる。
『開始の時間も迫っている頃ですのでお呼びしましょう!まずは【ソーマ・ファミリア】の団長のザニス・ルストラ、二つ名は【
鉄の扉が開きだした向こうから現れる眼鏡を掛けた細面は彫が深い。黒い瞳は鋭く、理知人的なヒューマンの男性。腰に差している片手剣の漆黒の衣服の出で立ちで
『続いては【アテネ・ファミリア】の団長!イッセー!』
現れたザニスとは反対側の開いた扉の向こうから―――。
「さーて、どう倒すかなー?」
悠々と武装をしていない無防備な出で立ちの一誠が姿を現した。