オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚23

「・・・・・」

 

どこか恍惚と似た表情で赤面して、朝食の支度をしている一誠だった。自分でも自覚している『病状』は久々になったなぁーと他人事のように思いながら壁に掛けられている時計の針が『6』に指した頃には朝食は完璧に整い、

 

「まぁ・・・・・一先ず・・・・・これで空腹にはならんだろう」

 

長大のテーブルに置いて全てやり遂げたとばかり、一誠はバタリと床に倒れた。その十分後、リビングキッチンにアテネが誰よりも早く入って来て愛おしい少年が倒れている姿に絶叫染みた悲鳴を上げた。

 

 

「どう見ても風邪だね」

 

「昨日まで元気でいらしたのに・・・・・」

 

「ドラゴンでも風邪を引くのね」

 

「でも、どうやって治すの?」

 

四人が一誠の寝室に集まってキングベットサイズのベッドに沈んで眠っている一誠を囲み、見守る。

 

人魚族(マーメイド)が風邪を引いたらどんな風に治すんだい?」

 

「いや、それ以前に海の中だから風邪引くこと自体縁がないって」

 

「うん、そうよ」

 

「そうなんですか」

 

この場にアテネがいない。理由はとある神に助力を求めに向かった為である。

 

「こういう時治療師(ヒーラー)がいてくれたら助かるんだけどねぇ・・・・・」

 

「アイシャや春姫は風邪を治すことはできないの?」

 

海のモンスターの人魚族(マーメイド)と違って地上の生物、こんなことは日常茶飯事ではないのかと対処方法も知っている筈では?と視線に込めて訴えるが、

 

「アマゾネスの私が風邪を引くと思っているのかい?春姫なんて元は貴族のお嬢様だったんだ。怪我の手当てすらできないへっぽこ狐だよ」

 

「あぅ・・・・」と狐耳をぺたーんと垂らし、落ち込んでいる表現を狐の尻尾にも表す。

 

「・・・・・なんだか、私達ってこう時に限って何もできない役立たずだね」

 

「レリィー、それを口に出さないで。物凄く落ち込んじゃうから」

 

一誠に頼っているところがあると四人の中で自覚している。食事の準備は頼んでいるが他のことに関しては微力ながら手伝っている。

 

「アイシャさん。私達は今日、どうしますか?」

 

「いつまでもこいつを見ているわけにはいかないだろ。主神様が連れて来てくれる治療師(ヒーラー)、もしくはこの手のスキルが長けている奴に任せて私達はダンジョンに行くよ」

 

「イッセーがいないパーティで大丈夫?」

 

「私だけだと不満かい?私はイッセーほど厳しくはないよ。精々10階層ぐらいまでいれば大丈夫さ」

 

副団長として、アイシャは一誠の代わりに今後の予定を告げ、春姫達のLv.に合わせて行動を開始する。

 

 

 

―――ガチャリと眠っている一誠の自室の扉が開く。開けた張本人はそーっと静かに顔を出した半分だけ瞼が閉じた眠たげな女性が、「お邪魔します」と声を殺して入室するのだった。袖が短くスカートに尻尾が生えたソレは緩慢に振り、眠る一誠がいるベッドに近づく。背中に背負っている大きめのバックパックを置いて、

 

「・・・・・眠ってる」

 

【ミアハ・ファミリア】の唯一の団員、ナァーザが赤面の状態の一誠を少しばかり見つめた後、いそいそと風邪の病状を和らげる薬剤の調合に入るためバックパックから必要な道具を取り出す。アテネが他の派閥に頼み込んだ神はミアハ。事情を知った男神は快く受け入れ、店仕舞いしてでも一誠に恩を返そうという考えでナァーザを一人だけ行かせたのだ。ゴリゴリと数種類の薬草をすり潰し、調合の集中して製作していると、ベッドから呻き声が聞こえた。

 

「イッセー・・・・・?」

 

調合していた手を止め、一誠の顔を覗きこむ。熱っぽい息を断続的に吐いて眠っている状態のままだった。顔中は汗だらけであり、拭いた方がいいだろうと清潔な布をバックパックから取り出して優しく拭き始める。額を拭いて、次は頬、最後に左眼や右眼と拭こうとしたその時だった。

 

「眼帯・・・・・外すね」

 

隙間から汗が流れて溜まっているかもしれないと、左手を伸ばして眼帯に触れた直後。一誠の右手がそうはさせないと反射的にナァーザの手首を掴んだ。

 

「っ!?」

 

「・・・・・んぁ?」

 

その瞬間、一誠が眼を開けた。隣に腕を伸ばした状態のナァーザがいることにも気付き、口を開いた。

 

「ナァーザ・・・・・・?」

 

「おはよう、イッセー」

 

挨拶をしてくる彼女に挨拶を返し、手を放した。

 

「どうして、ここに・・・・・?」

 

「アテネ様から、イッセーの治療をしてくれって頼まれたから・・・・・」

 

「・・・・・ああ、理解した」

 

上半身を起こす。ベッドから眺めるナァーザが薬剤の調合の準備を見て感謝の念を抱く。

 

「手首、大丈夫だったか」

 

「うん、びっくりしたけど・・・・・外しちゃダメだった?」

 

軽く掴まれた手首を擦りながら尋ねるナァーザ。一誠は小さく頷いた。

 

「ナァーザに怖い思いをさせる」

 

「目玉がないなら平気だよ・・・・・?」

 

「いや、それ以上に怖い。これは人に見せるようなものじゃない」

 

黒い眼帯を、眼帯に隠されている右眼をまるで禁忌のような扱いをする。

 

「布を貸してくれ。自分で拭く」

 

「うん・・・・・」

 

受け取った布をナァーザに見せないように反対側へ顔を向けては眼帯を外して拭き始める。それが終われば布を返した。

 

「身体は・・・・・大丈夫?」

 

「しんどいの一言だな。久々に風邪を引いた・・・・・」

 

「イッセーは色々と頑張っているみたいだから・・・・・自分でも気付かないほど疲労が蓄積していたんだと思う」

 

「そうか・・・・・これでも休んでいる方だとは思っていたんだが。まぁ、今日は良い休息になるか」

 

「身体を拭くから脱いで」とナァーザの指摘に従い、上着を脱いだ。適度に引き締まった体。無駄な脂肪や筋肉は無く男らしい体つきに、眠たそうな表情とは裏腹に「イイ身体してる・・・・・」と心中で漏らした。

 

「翼がないんだね・・・・・」

 

「アレは俺の意志で生やすことができるんだ。今は出す必要もない」

 

上半身裸の一誠の身体を拭き終えれば、ナァーザに頼んでクローゼットから白い服を取り出してもらい、着込んだ。

 

「風邪の状態を和らげる物を調合しているんだよな?」

 

「うん・・・・・もうちょっとだけ待ってて」

 

再び調合の下準備に取り掛かる。そんなナァーザの様子に寝転がったまま耳を傾けて待つことにした一誠は瞑目する。しかし、直ぐに目を開け、指をパチンと鳴らしたその矢先に魔法円(マジックサークル)がナァーザがいるベッドの反対側の脇に発現して、一人の紫色を発光させる黒髪の青年が現れ出した。

 

「悪いが、ダンジョンにいるかもしれないアイシャ達のところに向かって見守ってくれ。もしもよからぬことが起きた場合は―――任す」

 

「はっ、分かった我が主よ」

 

足元に黒い魔法円(マジックサークル)を展開した青年は、光に包まれて一誠の前から姿を消した。

 

「・・・・・今の人、誰?」

 

「俺に忠誠を誓っている頼もしい家族、としか言えないな」

 

教えたところで信じてくれるか怪しい青年の姿である。一誠は再び瞑目して静かに寝息を立てた。

 

―――数分後。

 

「・・・・・イッセー、出来たよ?」

 

「ん・・・・・寝てたか」

 

瞑目していた瞳を開けて上半身を起こしてナァーザと彼女が持っている湯のみを見つめ、眉間に皺を寄せた。

湯気立つ湯のみの中にある湯の色が紫だった。

 

「・・・・・これが、そうなのか?」

 

「良薬口苦し・・・・・だから。利き目は抜群」

 

親指を立てて「大丈夫」とナァーザの眠たげな表情を向けられても、毒々しい薬を差し出され一誠でも躊躇してしまう。

 

「・・・・・飲めない?」

 

「少しばかり、勇気が必要かな・・・・・?」

 

「熱い内が一番利き目があるんだけど・・・・・」

 

作った本人がそう言っても、飲む本人には勇気が必要なんだと一誠は心の中で漏らした。

 

「・・・・・分かった。飲みやすい方法をしてあげる」

 

「なんだ、それは?」

 

「・・・・・取り敢えず、目を瞑ってくれる?」

 

「・・・・・?」

 

瞑る必要性があるのか、と思うものの。ナァーザの好意を無化に出来まいとその通りにしてみた。それから数秒後・・・・・唇に温かく弾力性のある柔らかい感触がしたのだ。

 

「・・・・・」

 

それはナァーザの唇であることと、これからどうするつもりなのか察した一誠は軽く口を開けると。

 

「―――っ!?」

 

舌全体に広がる不味いを超えた何かの味が入ってくる熱い液体。極限まで隻眼の瞳を開けてその苦さを耐えて、飲み干す。

 

「・・・・・どうだった?」

 

「不味いっ・・・・・!」

 

「うん・・・・・問題ないみたいだね」

 

不味い以前に問題があるんじゃないかってあまりの不味さに涙目になってしまう。そして一誠にとってきつい時間が待っていた。

 

「まだ、残ってる・・・・・全部飲まないと風邪が治らないよ。大丈夫・・・・・また、口移ししてあげるから」

 

「ああ・・・・・それは嬉しいことだなっ(涙)」

 

飴と鞭、天国と地獄を同時に味わう一誠であった。

 

―――○●○―――

 

利き目は効果抜群であることを後に実感するのは小一時間後であった。体が軽くなったが頭はまだぼんやりとしている。その間、ナァーザは一誠の隣で片時から離れようとはせず、手を繋いで過ごしていた。

 

「大分・・・・・良くなってきている」

 

「そいつは良かった・・・・・」

 

「お腹は空いていない?」

 

「あー、朝は何も食べてないから空いている方だが、果実ぐらいなら」

 

どこからともなく、【デメテル・ファミリア】生産の果物の盛り合わせを一誠に見せつけた。

 

「準備が、いいですね」

 

「このぐらいは、わかるよ・・・・・」

 

キラリとナイフも見せ付け、リンゴの皮を剥き始める。手先が器用であっという間に皮を剥いただけではなく、

 

「ウサギの完成・・・・・」

 

「おお、ベル坊だ」

 

兎を象ったリンゴを数個皿に乗せたナァーザに違った感嘆をする一誠。

 

「ベルのこと、知ってるんだね。あーん・・・・・・」

 

「弄り甲斐がある兎だからな。あーん・・・・・」

 

食べさせる側と食べさせられる側が両立し、ほのぼのとした雰囲気が醸し出す。

 

「・・・・・うん」

 

雛鳥のように食べさせようとした、フォークで指したリンゴを見て意味深に頷いたそんなナァーザは、半分だけシャリとリンゴをかじって口の中で噛み砕くと、徐に一誠に顔を近づけ・・・・・口移しを始めた。甘い果実と果汁が入りこんでくると同時に一誠はナァーザの舌を絡め取って、口移しは濃厚なキスへと変わった。

 

「・・・・・イッセー・・・・・」

 

「もう一度してくれるかな・・・・・?」

 

「うん・・・・・いいよ、何度だってしてあげる」

 

それは切ってくれたリンゴが全部なくなるまで行われた。

 

ある程度、空腹を満たせば両想いの二人は、というよりナァーザが布団の中に潜りこんで一誠に甘えるように両腕を首に回しては背中に両腕を回されて互いの胸が密着、抱き合って雑談を交わしていた。微笑み、呆れ、苦笑いを浮かべる会話をしばらく続けると一誠がナァーザから離れて徐にベッドから出た。

 

「風呂に入ってくる。直ぐに出てくるから待っててくれ」

 

二人がいる部屋にある浴場へ足を運ぶ一誠をジーと眠たげな目で意味深な視線を向けるナァーザの視界から、一誠が浴場に入って姿を消せば静かに立ち上がる。

 

「たまには、朝風呂もいいなぁ~・・・・・」

 

三人が一緒に入ると丁度良いぐらいの広さ、そして狭さの空間にたった一つだけの檜の浴槽に張ったお湯に身体を入れている一誠。縁に腕を汲んでうつ伏せの態勢だと、懐かしい木の香りを鼻に入って適した温度に「はふぅ」と身を委ねたくなる思いが増すばかり。金色の十二枚の翼を背中から生やして浸かってでもいる一誠の入浴に声を掛ける者は―――。

 

「気持ち良さそう・・・・・」

 

―――いた。一誠の頭上から声が掛かった。視線を上げれば片手に持った浴布一枚で胸の膨らみを隠すナァーザが視線を落としていた。

 

「直ぐに出てくるって言ったけど?」

 

「私も、一緒に入りたくなった・・・・・」

 

「・・・・・しょうがないな」

 

緩慢に振るう尻尾は喜びが含まれていた。体勢を直して座り直す一誠の隣に座るナァーザは金色の翼を触れ始める。

 

「青白くない・・・・・?」

 

「二種類の翼を持っているんだ俺は」

 

「そうなんだ・・・・・」

 

肩と肩が触れ合い、ナァーザの右手はしっかりと一誠の左手と重ねている。久し振りに会った愛おしい歳下の少年との混浴で、お湯でなる違った火照りが頬に朱を散らす。

 

「今日はありがとうな。おかげで助かった。アレは不味いけど」

 

「有り得ないけど、ミアハ様がダメって言っても・・・・・私は貴方のところに行ってたよ。・・・・・良薬苦しだよ」

 

「そっか」と口から漏らし、ナァーザを見つめる。お湯で桜色に染まる頬や肩、健康的な肌に豊かな胸から括れた腰、胴体を巻き付けている浴布から覗ける魅惑的で肉付きの良い太もも、ほっそりとした脚、隣に全裸に近い美女と一緒に混浴している光景は艶やかで扇情だった。

 

「・・・・・どうしたの?」

 

「違った姿のナァーザを見惚れていたと言っておくよ」

 

朗らかに笑いながらそう言う一誠はナァーザから離れて浴場から見える外の光景を、もう一つだけ湯船がある外へ扉を開けて出た。眼下に広がるオラリオの外。広がる青い空と白亜の巨塔を中心にある様々な建物、一誠の隻眼の瞳が捉える街を闊歩する住民達。

 

「・・・・・オラリオが一望できるんだね」

 

全身を浴布で隠して一誠の後を追ったナァーザが少なからずの感嘆を漏らす。

 

「俺の特等席みたいなところだ」

 

青空の下で入る浴場。岩に囲まれたお湯は白い湯気を上げている。二人一緒に違う湯船の中へ入いろうとした矢先、悪戯心が湧きあがったナァーザが「えい」と一誠の背中に抱きついた。その軽い衝撃で仲良く湯船の中に飛び込んでしまった。数秒して湯から頭を出して、首まで出した一誠とナァーザはべったりとくっついた髪を分けて、お互いの視線をぶつけ絡み合わす。

 

「今のは流石にびっくりしたぞ」

 

「ふふっ・・・・・」

 

悪戯が成功したと楽しそうに微笑み、真正面から一誠に抱きついたら胡坐を掻き、ナァーザの腰に腕を回して引き寄せ自分の脚の上に乗せられたことで両足を自分の下にいる少年の腰に回して絶対に離れたくない雰囲気を醸しだす程回して絡め、対面する形で座り合い二人だけの空間を作り上げた。

 

「イッセー・・・・・女神様と他の団員達は・・・・・?」

 

「アテネは酒場で仕事、アイシャ達はダンジョンに繰り出している。けど、俺のことが心配して早めに帰ってくるかもしれないな」

 

「・・・・・そう。だったら」

 

―――体に巻き付けていた浴布を緩めて外した。

 

「ちょっとだけでもいいから・・・・・私のことだけ、見て・・・・・?」

 

露わになるナァーザの健康的な身体。好意を寄せている異性を誘惑するに十分過ぎる艶姿であり、豊かな胸を一誠の顔に押しつけ始めた。

 

「イッセー、だーいすき・・・・・」

 

「俺もだよ、ナァーザ」

 

―――○●○―――

 

「・・・・・なに、これ」

 

一誠の言った通り、今日だけ早めに帰らせてくれたアテネは一秒でも早く愛おしい少年の顔を見たいと訪れると、

ベッドの上でナァーザに抱き絞められる形で、ナァーザの胸に押し付けられる形で眠っている一誠が灰色と青色の双眸の視界に飛び込んできた。顔色は良くなっていて、ミアハに頼んだ甲斐があると喜ぶべきだろうが・・・・・無性に面白くなくなるアテネである。

 

「う~っ・・・・・」

 

責めての抵抗と一誠の隣に寝転がって抱きついた。背中から感じる大好きな温もりはあっさりアテネの心を落ち着かせる。

 

「イッセー・・・・・」

 

この時だけ、神の力(アルカナム)を発動して一誠を自分の方へ向きを変えた。それを嬉しそうに紅髪の頭を抱え込むように絶対的自信がある胸へ押し付けてご満悦する。

 

「ん・・・・・。・・・・・アテネの匂い・・・・・」

 

ナァーザの匂いに包まれていたのに違った匂いに包まれていることを敏感に気付いた一誠は目をゆっくりと開けた。

 

「おはよう、そしてただいま・・・・・」

 

「おかえり・・・・・仕事はもういいのか?」

 

「大事な私の子供が風邪を引いたのよ?仕事よりも貴方を優先にするに決まってるじゃない」

 

言われた一誠は「それはとても嬉しいな」とアテネの銀髪と一緒に耳と頬を触れて優しく撫で始める。

 

「ん、くすぐったいわ・・・・・」

 

そう言う裏腹に触れられて嬉しそうに目を細めて身動ぎする。愛おしい眷族の胸に顔を押し付けて背中に腕を回して抱きつく。この瞬間はとても久し振りね、と誰にも邪魔されないことを問題にも思わない女神は嬉々として笑みを浮かべて―――グイッと一誠が横から強い力で仰向けにされたことでアテネは「え?」と唖然。

 

「・・・・・お帰りなさい、アテネ様」

 

原因は目が覚めたナァーザだった。片腕を抱きかかえて眠たげな目をアテネに向けている。ひくっ、と至福の時を邪魔され、口元を引く付かせるアテネももう片方の腕を抱えてナァーザに笑みを浮かべた。

 

「『私』のイッセーの治療をしてくれてありがとう。とっても感謝しているわ。後日、ミアハにもお礼をしに行くわ」

 

「どういたしまして・・・・・。私も、久し振りに『大好きな』イッセーと会えて嬉しかったです・・・・・」

 

「もう風邪が治った様だから、後は私に任せてくれないかしら?」

 

「・・・・・風邪の病状を和らいだだけで、完治した訳じゃないのでもうしばらく様子が必要。それにアテネ様達、医療や医学といった知識が疎いはず・・・・・」

 

一誠を挟んで見えない火花が散る。

 

―――私のイッセーをなに誘惑しようとしているのよこの淫犬っ。

 

―――誘惑しようとではなく、しているの間違いですアテネ様。

 

恋する乙女同士の主張という張り合いに巻き込まれている元凶でもある張本人は、上半身を起こせば、二人も必然的に状態を起こされる。

 

「「イッセー・・・・・?」」

 

「腕」

 

腕を放してもらうと、アテネとナァーザの肩に回して引き寄せた。抱き絞められる女神と犬人(シアンスロープ)は若干の戸惑いを顔に出して一誠を見つめる。

 

「・・・・・(ナデナデ)」

 

不意に撫でられる。ただ無言で撫でられる。一誠が何をしたいのか、撫でられながら考え、至った。

 

―――喧嘩するな。

 

「「・・・・・」」

 

解ってしまって大人しくなる。そんな撫でられ大人しくなったアテネとナァーザを愛おしげに慈愛が満ちた隻眼の瞳を向けハッキリと言った。

 

「二人とも、大好きだよ」

 

誰一人しか選ぶつもりはない一誠。ハーレム願望者であるように思えてしょうがない。だが、一誠は魅力の塊と言っていいほど、異性や同性問わず好かれる。自分に好意を向けてくる異性に対して心から情愛を向ける為に応えないといけないという思いが抱かされてしまう。

 

「うん・・・・・私も大好きだよー」

 

「私なんて出会ったその瞬間に好きになっているわよイッセー」

 

二人纏めて愛する一誠に微笑んで、一誠も微笑み返す。

 

 

―――その頃、ダンジョンに向かって行ったアイシャ達。予定通り13階層以上の階層には行かず、オークやインプと戦いを繰り広げ、上層最強種のインファント・ドラゴンとも戦いに勝って一段落していた。一誠のいないパーティは初めてだが、アイシャが一人欠けた分の穴を埋めて、フォローしたことで春姫達は傷一つ負うことなく戦えたのだった。霧が発生している階層で直ぐに上層へ移動できる位置に休憩を取っている四人は精神回復薬(マジックポーション)を飲んで魔力を回復して奇襲されても問題ないように準備をした。

 

「このパーティでも十分この階層には通じるね。でも、流石に私一人だと前衛は厳しいか」

 

「やはり、イッセー様の存在が大きいですか?」

 

「あいつは化け物だよ。笑いながらすべてこなしてしまうんだから」

 

「寧ろ、それぐらいのことをしてくれないと困るんじゃないかしら?」

 

「アイシャとイッセー以外、直接戦える人はいないからね。この弓でも懐に飛び込まれたら危ないもの」

 

誰よりよりも動き、非力な春姫達を気がかりで意識しているアイシャの体力と精神力は三人の中で疲弊しているに違いない。三人からのサポートもあって戦いやすいが、もう一人前衛が欲しいと実感するのだった。そんな四人に迫るモンスターはいなく、霧しか見えず冒険者の気配すら感じない。

 

「イッセー、今頃風邪治っているかしら」

 

「じゃなきゃ困る。私達の中心でもあり、団長なんだからね」

 

「・・・・・ホームに戻ってみますか?」

 

「うん、私もイッセーの顔を見たくなった」

 

春姫の尋ねにウィルが同感と便乗した。この四人のパーティのリーダー的存在のアイシャは仕方ないね、と思い。

 

「だったら地上に戻るよ。イッセーにお前らが懸命に頑張ったと言えば褒めてくれるだろうさ」

 

立ち上がるアイシャに呼応して春姫達も立ち上がる。病気で弱っているところを襲いかかるのも悪くはないと意地の悪い考えを浮かべ、それが楽しくなってきたとアイシャは―――。迫る矢を大朴刀で叩き落とした。

 

「危ないねぇ」

 

誰だい、と意味深な笑みを浮かべ、襲撃者から春姫達を守るように立つアイシャの視線の先、霧の向こうから―――一人のアマゾネスがたった一人だけ飛び出してきた。

 

「なんだい、同じアマゾネスだったか。だけどね・・・・・」

 

下級冒険者では到底できない無駄のない得物の振るい方を察して上級冒険者であることを察し、同時に一誠の工場から勝手に拝借した罠道具(トラップアイテム)が、発動した。

 

「その辺は罠だらけだよ」

 

落とし穴に落ちた同種の女性をせせら笑うアイシャ。

 

「逃げるよ」

 

「え?」

 

「ほら早く。私らに襲撃して来たってことは他にも仲間がいるはずだ。流石に春姫達を守りながら戦うのは骨が折れるんだよ」

 

警戒しながら行け、とアイシャの指摘に弓を構えてウィルとレリィーが先へ上の階へ戻れる階段へ駆け上がった。続いて春姫、最後にアイシャが続いて駆け上る。

 

「ど、どうして私達を・・・・・?」

 

「理由は色々とあるし言ったらキリがないよ」

 

背後から追いかけてくる気配を意識しつつ春姫達の間の位置を保ちながら走る。

 

「(このタイミングで襲撃したってことはイッセーを警戒していたんだろうけど、それはアイツの怒りを買うようなことだ。いったい何が狙いだ・・・・・?)」

 

目的は不明、襲撃する冒険者の考えていることは【ファミリア】同士のよるものか、それとも個人的な理由なのか。【イシュタル・ファミリア】が【フレイヤ・ファミリア】を敵視し、隙あらば襲撃してきたように【アテネ・ファミリア】をダンジョンの中で襲撃してくる【ファミリア】がいたとは思いもしなかった。今はこの三人と地上に戻って無事にホームへ変えることを優先に考えようとしたアイシャだったが、そんな問屋が卸してくれなかった。ダンジョンの壁面の色が薄緑色に変わる中、見えてくる次のルームの入り口に足を進めた。

 

「よし、いまだッ!」

 

「なっ」

 

狭い通路を抜け、ルームに身を飛びこませた次の瞬間だった。ヒューマンや獣人達が弓矢をウィルとレリィーに放ったのだ。

 

―――ここにも、ここまで、待ち伏せして襲撃してくるとはっ!

 

舌打ちをした思いを胸中に留めて二人の仲間の前に出て大朴刀を振るって矢を弾き落とした。次々と放たれる矢を非力な春姫達から守り続け―――横から投げ放たれた縄に狙っていたかのようなウィルとレリィーの首へ巻き付いて春姫とアイシャ、ウィルとレリィーはそれぞれ引き離された。

 

「ちぃっ!?」

 

「おっと、それ以上抵抗すんなよアマゾネス。武器を捨てろ」

 

穂先が捻じれた赤い槍をウィルの首筋に突き付けた眼装(ゴーグル)の男が冷酷に告げた。これ以上動けば仲間がどうなってもしらないぞと言わんばかりに脅迫、脅しを掛けられてしまい忌々しげに武器を捨てた。相手の【ファミリア】のエンブレムを見ようにも見当たらず、所属派閥の判明はできない。

 

「―――目的は人魚族(マーメイド)だったのかい」

 

「これはついでだ。だが、手に入るものなら手に入れる主義でよぉ。満月まで待ってれば人魚族(マーメイド)から宝玉を手に入れば巨万の富が手に入るなんてものすげーじゃねぇーか?それをせずにいるなんてお前らの団長は『怪物趣味』だったんか?」

 

嘲笑の言葉を口にする眼装(ゴーグル)の男。この状況をどうやって打破しようかと必死に頭の中で考え、イッセーがこのピンチに駆けつけてくれると助かると淡い希望を抱いたアイシャの背後から、仲間と思しき冒険者達が、落とし穴にハマったアマゾネスも現れてくる。

 

「悪戯程度で考えているなら今すぐ二人を放しな。後の祭りになりたくなければね」

 

「心配は御無用だぜ。ここでお前らを殺して口封じすれば誰も気付きもしない。まあ、それはお前達から聞きたいことを吐いてからでも遅くはないがな」

 

ウィルの首を更に押し付け、プツと槍の穂先を滲み出る血で濡らす。

 

「お前ら、竜女(ヴィーヴィル)をどうした?」

 

「・・・・・は?」

 

竜女(ヴィーヴィル)、ウィーネの話をいきなり挙げた眼装(ゴーグル)の男。どうしてあのモンスターのことを話に持ち上げるのか理解できないでいるアイシャは怪訝な面持で間抜けな返事をしてしまった。

 

「19階層でお前らが稀少種(レアモンスター)を捕獲したって話は聞いているんだよ。その後、あのモンスターをどうしたんだって聞いているんだ。まさかとは思うが、ホームに匿っているわけじゃねーよなぁー?」

 

「・・・・・理解できないね。あのモンスターがお前達と何の関係があるんだって言うんだい」

 

「喋るモンスターなんてーのは結構珍しいとは思わないか?竜女(ヴィーヴィル)のドロップアイテムはどれも破格の金で取引されるんだ。しかも喋るんだって言うなら興味が尽きねぇわけよ」

 

あの時の階層にいた仲間から聞いた情報を口にしているかもしれない。しかし、何か腑に落ちない。

 

「ああ、そういやお前らの団長もモンスターだったな?ありゃ、なんてモンスターだ?人型のモンスターなんて聞いたことも見たこともねぇよ。できればアレも手に入れてぇところだが俺達には無理難題だ。強すぎてても足も出ねぇんだからよ」

 

「そうだ。そんなモンスターに目を付けるような真似をするお前らは到底救いようのないバカとしか思えないんだがねぇ?」

 

「言っただろう。お前らを殺して口封じってよ」

 

「その後、このモンスター達を掻っ攫ってとんずらこくさ」と、自分達の状況の有利さを揺るぎない自信さを醸し出し、他の冒険者達も不敵に笑みを浮かべる。

 

「・・・・・私達を殺したところで、イッセーは絶対にお前らを探り当てて復讐するよ」

 

「戯言を。さて、教えてもらおうか。あのモンスターはどうした?さもなくば、このモンスターを殺す」

 

「・・・・・っ」

 

命を脅かされている仲間。アイシャはこの決断を、どうすればいいのか追い詰められた。仲間を見捨てるかモンスターを売るかの二つの選択に。

 

『ギギギギギッ!!!!!』

 

苦難の色を浮かべていたアイシャや、おろおろとして当惑している春姫、二人を囲みウィルとレリィーを人質にしてウィーネの情報を聞き出そうとしている眼装(ゴーグル)の男とその仲間達がいるルームに大量の『キラーアント』がやってきた。

 

「あぁ?なんだこのキラーアントどもは」

 

迫ってくるモンスターを一蹴し、それ以外は放っておくが隙を付いて武器を手にしたアイシャが春姫をキラーアントから守り屠る。

 

「・・・・・逃げてる?」

 

不思議そうに春姫は呟く。ダンジョンにやってくる身の程知らずの敵を殺し、食らうはずのモンスターが『何か』から離れ、逃げるように下の階層へ目指す雰囲気を醸し出していた。少なくないキラーアントの死骸を残して全てのキラーアントがアイシャ達がいるルームからいなくなって直ぐにそれが現れた。黒を基調とした服を身に包み、紫色を発光する黒髪の青年が威風堂々と、悠然とした歩調でやってきた。

 

「誰だお前?さっきのキラーアントどもの異変の元凶はお前か?」

 

「さて、俺はただ歩いていただけだ。さっきのモンスター達が勝手に俺から逃げるように移動をしただけなのだが?」

 

小馬鹿するように口角を上げ、歩みを止めない。眼装(ゴーグル)の男はヒューマンに顎を使ってこの場から遠ざけろと命令する。【アテネ・ファミリア】の仲間、関わりのある他【ファミリア】であれば取り押さえるがどちらでもないと判断した。

 

「なあ、俺達はここで大事な事をしているんだ。さっさとここからいなくなれよ」

 

得物を突き付ければ青年は否が応でも足を止めた。誰もがそう思うだろう。

 

「なんだ?」

 

しかし―――ズブリ、とヒューマンの持つ剣に自ら突き刺さって歩みを止めなかったのだ。

 

「な・・・・・・は・・・・・?」

 

「俺の前に立ちはだかるということは、それ相応の覚悟があると思ってもいいな?」

 

胸に突き刺さっても、平然とした態度と口調でヒューマンに声を掛ける青年。血は確かに刀身を伝って濡れている。なのに、心臓を突き刺しても生命の活動をし続けられているのは―――なぜなんだっ!?目の前の有り得ない光景に一人残らず驚き、戦慄、畏怖の念を抱く。

 

「な、なんなんだっ、お前ぇっ!?」

 

「貴様等に名乗るほど安くはない」

 

恐怖が顔に滲み出るヒューマンの首を片手で掴み、持ち上げた。仲間の命の危険を反射的に弓を構えた眼装(ゴーグル)の男の仲間達。

 

「その手を放せっ!」

 

「放さなかったら何だと言う?」

 

ヒューマンを弓を構える冒険者に対して盾にした。

 

()ってみろ。お前達の仲間意識がどれほどの物か試してやろうじゃないか。待っている間。俺はこのヒューマンの首に握力を加えるがな」

 

青年にとっての握力は微々たるもの。が、実際に掴まられているヒューマンは苦痛に顔を歪ませる。

 

「先に剣を構えたのはそちらだ。文句はあるまい?―――死の覚悟の上でそうしたのだろうからな」

 

胸に剣が突き刺さったまま、青年は薄い笑みを浮かべた。それはゾッと恐怖感を覚える。突如現れたヒューマンに意識はアイシャ達ではなく、青年に向けずにいられなくなった。眼装(ゴーグル)の男は赤い目を細め、口を開いた。

 

「お前、ヒューマンじゃねぇーなぁ?」

 

その疑問はアイシャ達まで動揺の波紋が広がった。モンスターであれば、納得する。しかし、体内にある魔石を破壊されれば灰と化してしまうが、ダンジョンのモンスターと同じ末路を辿る気配が微塵も感じさせない。なら、青年は何だ?と問われば―――。

 

「【アテネ・ファミリア】にまだ化け物がいたとはなぁ・・・・・?」

 

「勘違いされては困る。俺はその神の派閥に属していない」

 

「なら、どうしてこの場に現れた?【アテネ・ファミリア】の仲間を助けに来たんだろう」

 

「それこそお門違いだ。俺はこのダンジョンの中を歩いていただけだ。そこのアマゾネス達の仲間でもなければ赤の他人に過ぎん。俺は唯一無二の存在である主に従う者」

 

次の瞬間。捕えていたヒューマンを無造作に弓矢を構えている冒険者に向かって投げ放った。

 

「先に剣を突き刺してきたのはそちらだ。―――攻撃されたら応戦するのは当然だろう?俺から刺さりに来たとはいえ、俺の歩く道を阻んだお前達は報いを受けてもらおうか」

 

胸の剣を抜き放って、血を垂らす。

 

「―――出でよ、我が眷族達よ」

 

血が蠢き始め、禍々しい魔の爬虫類へと形を成した。フォルムは四肢の蜥蜴、大きさは一M程度で冒険者達からすれば恐れるに値しないモンスターだ。しかし、頭部と言える部位には大小様々で数多の眼球がギョロギョロと動いている。

 

「血で、モンスターを産むだと・・・・・?」

 

「ディ、ディックスッ・・・・・!こいつ、なんかやべーぞ!?」

 

眼装(ゴーグル)の男をディックスと呼んだ獣人の青ざめた顔は次の瞬間、茫然とした顔となる。

 

「は・・・・・?」

 

腕の先から感覚が無くなっていることに気付いた。視線を落とせば・・・・・・肩から先の腕が両断されたかのような傷口と大量の血が噴出していた。

 

「腕や足の一本、それが俺に対する謝罪の代価として払ってもらおう」

 

感情が籠っていない声音で宣告する青年と口を開け、不気味な雄叫びを上げて物凄い勢いでレリィーを捕まえている冒険者の脚に狙って駈け出したモンスター。

 

「う、うわぁあああああああああっ!?」

 

捕えていた人魚族(モンスター)から離れて逃げる冒険者だったが、舌を使って捕食する生物の如く、鋭い突出をする舌を使って冒険者の脚を絡めて、捕えた。

 

「や、止めぇ―――いぎゃあああああああああああっ!?」

 

歯のないモンスターのはずだったが、ギラリと凶悪な歯を生え揃え出して口の中に入れた片足を噛み砕く。

 

「ディ、ディックスー!?」

 

「喚くなっ!?こっちにゃ人質が―――」

 

「言っただろう。関係のない奴らだと」

 

蜥蜴のモンスターだけが凶悪振りを見せるかと思いきや、青年もまた動いて素手や足で攻撃を始めたのであった。

次々と、一人、また一人とやられる同派閥の団員達を見て、ディックスは決断した。

 

「逃げんぞ!」

 

「逃げるって、ディックスあいつらは!?」

 

「てめぇの命が惜しくなかったら助けろ!」

 

逃走を始める味方に、他の冒険者達も一拍して我先と蜘蛛の子が散るように散り散りになって逃走を始めた。

 

「人間らしい判断だ」

 

手足のない数人と青年によって倒された数少なくない冒険者達。役目は終わりだと蜥蜴のモンスターに視線を向ければ、青年の胸の傷穴に飛び込み、再び血と化となって傷穴を塞いだ。

 

「お、お前は一体・・・・・」

 

一歩も動けない。動いた瞬間にやられてしまうと頭の中で甲高い警報が鳴る第六感に動けずにいるアイシャ。

青年はやれやれと首を横に振りだし、

 

「我が名はアジ・ダハーカだ」

 

「「「「―――っ!?」」」」

 

その名のドラゴンに聞き覚えのある四人の心情を露知らず、アジ・ダハーカは地獄絵図を作り出している襲撃者の冒険者達を一瞥し、指を弾いた途端、魔法円(マジックサークル)が展開して光に包まれ消え去った。そしてこのルームの全ての出入り口に向かって魔力弾を放って破壊、道を塞いだ。その行動に理解できないと顔に出しているアイシャ達に向かって一言。

 

「弱者が、手間を取らせるな。我が主の気を使わせたことに恥と知れ」

 

「「「「・・・・・っ」」」」

 

アジ・ダハーカをここにこさせたのは自分(アイシャ)達のことを心配したからだと言うことを理解せざるを得なかった。

 

「戻るぞ。主がお前達を待っている」

 

五人の足元に展開する魔法円(マジックサークル)は増す光に包まれ、ルームから消え去った。

 

そして後日―――。血でモンスターを産み出す黒髪のヒューマンと相対した【イケロス・ファミリア】は被害者らしい言動でギルドに告げ、要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せた。実際、バベルの前で手足が無くなっている冒険者達が忽然と現れ中央広場(セントラルパーク)は大騒ぎと化した。それが身内となればギルドも手を打たなければならない。【アテネ・ファミリア】の団員メンバーを調べても存在していない人物だったが、ギルドに対してこう言った。

 

「危険なモンスターをホームに匿っている。このまま野放しにしていいのか」と

 

 

 

 

 

 

 

「ウラノス、【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)捜索が始まろうとしているが、手を打つべきか?」

 

「リド達の存在を明るみにされることだけは避けたい。アテネとアテネの眷族達に伝えるべきだ」

 

「分かった。彼等も理解してくれるだろう」

 

―――○●○―――

 

「ディックス・・・・・そいつがいる【ファミリア】がアイシャ達を襲い、ウィルとレリィーを狙い、ウィーネのことを聞き出そうとしていたのか」

 

ホームの敷地内、森に囲まれリド達『異端児(ゼノス)』と【アテネ・ファミリア】がとっくにオラリオが暗闇に包まれている中、巨大な焚き火を囲んでダンジョンで起きたことをアイシャ達から説明されている。

 

「・・・・・フフフ。俺の大切な家族を襲った報いを、清算しに行かないとダメだよなぁ・・・・・?」

 

この世界では浮かべたことがない一誠が怖い顔を浮かべ、初めて見るリド達やアイシャ達は青ざめてガクガクと全身を震えだす。ウィーネにいたっては涙目で歌鳥人(セイレーン)に抱きついて怯えていた。

 

「アジ・ダハーカの件でギルドが動きそうだな。リド、お前らはしばらくダンジョンにいてくれないか?」

 

「イッセー、ギルドが私達のホームに来ると思うの?」

 

理知を備えるモンスター達をダンジョンにいさせようと考えている一誠をアテネは疑問をぶつける。

 

「ギルドが来る云々よりも、ディックスって奴が喋るモンスターに興味を持っている。あるいはリド達みたいなモンスターを知っていて、喋る竜女(ヴィーヴィル)を知りたがっている方が気がかりだ。有り得ないが、このホームの敷地に入り込んでくる可能性も捨てきれないし・・・・・リド達を発覚したら面倒なことになるのは間違いない」

 

「じゃあ、どうする?」とアテネの問いかけに・・・・・一誠は顎に手をやって悩む仕草をする。

 

「モンスターを捕獲す狩猟者、ハンターがこのオラリオにいる。ウィルとレリィーみたいな見目麗しいモンスターだったら破格の値段で売られる。だとすれば、リド達『異端児(ゼノス)』を捕まえて利益を得ている【ファミリア】はディックス達が所属している【ファミリア】だってことになるだろうな。リド、そうじゃないのか?」

 

理不尽な運命に強いられて、虐げられているリド達に問う一誠に肯定と首を振った蜥蜴人(リザードマン)

 

「オレっち達の仲間を捕まえている冒険者がいることは知ってる。フェルズもそれを知っているけどそれだけだ」

 

「・・・・・尻尾を捕まえていない状況か。だが、ディックスって奴が所属している派閥を調べれば何かが分かるかもしれない」

 

自然と視線を、暗闇に包まれている森の方へ向けた一誠。誰かがここへやってくる気配を察知し、腰を上げて立ち上がった。

 

「こんな夜に・・・・・どうしたんだ?」

 

その尋ねの問いは、宵闇と同化していた黒いローブを全身に覆い隠しているフェルズが影から出てくるように姿を現した。

 

「私に気付くとは流石だが、少し悪い知らせがある。ギルドがこのホームに捜索する方針だ」

 

一誠達に近づきながら告げるフェルズにアイシャ達の間で緊張が走った。

 

「ふうん・・・・・やっぱりそうなったか。今、そのことでリド達をダンジョンの中にしばらくいてもらえるように頼んでいたところだ」

 

フェルズの知らせに予想は的中した一誠。それは何時なのか訊くと、「明日だ」と告げられる。

 

「早急な行動だな。まあいい、リド達の存在を隠し通せばそれで十分だ。それとフェルズ、頼みたいことがある」

 

「なんだ?」

 

「ディックスって冒険者を調べてほしいんだ。ウィルとレリィーがその冒険者と仲間に狙われた」

 

「判明したらどうするつもりだ?」

 

愚問だな、と狂喜の笑みを浮かべた。

 

「どうせ白を切るなら、決定的な証拠を掴んでからして―――大切な家族に手を出した報いを与える」

 

 

 

その翌日―――。十数人のギルド員が百Mの石壁の前に立って―――完全に立ち尽くしていた。扉以前に門番すらいない巨大な石の囲いの中にある【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)内に一体どうやって行けと言うのだという話なのだ。

 

「班長・・・・・どうします?」

 

「聞くな」

 

ハーフエルフの当惑が含んだ問いに一刀両断。侵入不可の高い壁に立ちはだかれてしまっては手も足も出ない。冒険者でも恩恵(ファルナ)を受けていないギルド員がこの瞬間、どうしようもない事実を突き付けられている。その様子を、遠くから金髪金目とアマゾネス姉妹、エルフの二人が見ていたことすら気づいていない。

 

「なーんで、ギルド員が【アテネ・ファミリア】(イッセー)のホームの前にいるのさー」

 

「大方、理知を備えるモンスター達の存在の有無を確かめに来たのではないか?」

 

「で、でも、私達は誰も・・・・・」

 

「口に出した覚えはないから・・・・・もしかしたら違う件で来たんじゃないかしら?」

 

「それは、なに?」とアイズからの質問に「知らないわ」とあっさり返させられた。レフィーヤの横にいたリヴェリアはしばらく見守っていた翡翠の双眸をふと、明後日の方へ向けた。自分達と同じように建物の屋根に身を潜んでいる二人の冒険者の姿を見つけた。何かを待っているかのような姿勢だが、リヴェリアと目がぶつかった途端に屋根から飛び降りて姿を暗ました。

 

「お前達、ホームに戻るぞ。私達まで関わっていることを知られては面倒な事になりかねない」

 

「そうね・・・・・」

 

「せっかくイッセーと会いたかったのになー」

 

「残念ですね、アイズさん」

 

「・・・・・うん」

 

五人もこの場から離れるように踵を返して移動を開始したその直後、巨大な石壁が両開きに人一人分が潜れる空間を作った。ギルド員達は目を丸くしたが、中に入れる光景に一人、また一人と【アテネ・ファミリア】のホームの敷地に侵入する。

 

「うわぁ・・・・・大きくて凄い木」

 

エイナ・チュールは目を丸くして一つの大木を浮き上がっている根っこを跨ぎながら感想を述べる。隣には狼人(ウェアウルフ)のローズと二人一組で行動をしていた。

 

「どうして【ファミリア】の本拠(ホーム)の捜索を始めることになったんでしょうか」

 

「どこかの【ファミリア】の冒険者が【アテネ・ファミリア】に危険なモンスターを匿っているって言うから調べに来たんじゃないか」

 

こんな朝っぱからさせられていい迷惑だと億劫そうに胸中で漏らし、ローズは隣から話しかけてくるエイナと会話の相手を続行する。

 

「でも、とてもそうは思えないのですが・・・・・」

 

「私だってそう思ってるわよ。そう信じて恩人に被された疑いを晴らそうとしている気持ちよ」

 

恩人・・・・・。闇の商人に人身売買され掛け、助けてくれた一誠のことを言っているのは把握しているエイナ。

 

「・・・・・良い空気ね。ここだけは」

 

「はい、故郷を思い出します。この森の香りがまたなんとも・・・・・」

 

すぅーと鼻で新鮮な空気を吸って何とも言えない気持ちを胸に満たす。自然豊かな証拠だとエイナは思い、豪華絢爛な建物とは真逆の環境の真っただ中にいるため、仕事でここへ来た目的を少しだけ忘れそうになる。

 

「ふふっ・・・最後のところ、なんか親父臭かったわよエイナ」

 

「うっ!?」

 

年長のギルド員に笑われながら指摘され耳まで羞恥心により真っ赤に染まったエイナ・チュール。

 

『―――こんな朝っぱから無断で【アテネ・ファミリア】の敷地に土足で入り込んでくるとは驚いたぞ』

 

いきなり聞こえてくる男の声。ばっ、と反射的に顔を上げて周囲へ視線を向けるが誰一人、姿形すら見当たらない。

 

『入口から入ってきたならそのまま真っ直ぐ進んで来い。そうすれば湖がある。弁解はそこで聞こう』

 

それ以降、声が聞こえなくなった。エイナとローズは急ぎ足で湖がある場所まで歩めば他の同僚達と合流を果たし、全員で湖へと到着する―――。

 

「来たな」

 

湖の上に立っているように見させる一誠がギルド員達を出迎えた。ギルド員達は目をギョッと見開いて一誠の立ち姿を見つめる。「み、水の上を立ってる・・・・・」と。

 

「で、何か用か?主神アテネの代わりに聞くぞ」

 

一誠のその言葉に班長と呼ばれたの犬人(シアンスロープ)中年男性が一歩前に出て口を開く。

 

「突然の訪問に申し訳ないと思っております。この度の訪問は【アテネ・ファミリア】に危険なモンスターを匿っているという情報が当ギルドに届きました」

 

「それは誰から言われた情報だ?【アテネ・ファミリア】を嵌めようとしている身に覚えのない俺達に敵対している【ファミリア】の誤報だったら、どうしてくれる?」

 

その時は容赦はしないぞ、と青白い天使化となってバチッ!と放電させた。

 

「無実の濡れ衣を着させられたからにはそれ相応、ギルドに訴えんぞおい」

 

隻眼の金色の瞳をギルド員達に向け、睨む。班長は頭を垂らして懇願する。

 

「・・・・・その時は、なんなりと当ギルドに申し上げても構いません。今は【アテネ・ファミリア】の敷地及びホーム内の捜索をさせていただきたい」

 

「・・・・・しょうがない。主神アテネの代わりに承諾するが聞くぞ。敷地にモンスターはいたか?」

 

「まだ、発見はされていません」

 

「当然だろう。いない存在を探すのは雲を掴むような感じだ」

 

人差し指をエイナとローズに指した。

 

「そこの二人の女性ギルド員だけホーム内に連れて行かせてもらうぞ。後は好きなだけ敷地を調べればいい」

 

一対の翼を動かして指名したギルド員の体を包み、引き寄せて宙に浮いた。

 

「30分後、またここに来る」

 

それだけ言い残して一誠は聳え立っている巨大な岩の柱の上の白亜の城に向かって飛翔した。風が二人の髪を乱す程の飛行速度で飛ぶ一誠の翼に包まれた状態でオラリオの全体を見下ろすことができた。

 

―――これが、『迷宮都市』オラリオ。

 

地上で歩き、当たり前のように建物や住民達を見聞してきたがそれは極一部であることを突き付けられた。ここまで一望できる場所は魔天楼の巨塔ぐらいの高さでないと拝めれないだろう。数十秒後、【アテネ・ファミリア】のホームを飛び越えた一誠は黄金の大鐘楼(グランドベル)の前に降り立ち、二人を解放した。

 

「こ、この大きな鐘は・・・・・!」

 

「なんて綺麗な・・・・・」

 

意匠が凝った黄金の大鐘楼(グランドベル)。毎朝、聞こえてくる美しい鐘の音の正体はコレなのだとようやく理解できた。鐘を素通り、さっさと無実を証明を求めるかのように白亜の城の中へと招き入れた。

 

―――一時間後。

 

万神殿(パンテノン)に戻った調査隊。結果は白。モンスターの姿やいた痕跡すら発見できず、本拠(ホーム)内でも隅から隅まで、それこそ女神や団員達の自室まで調べ尽くしたエイナとローズでも首を横に振っていないことを明らかにした。エイナやローズ、一誠の元担当者や現担当者は胸中、疑いが晴れて良かったの思いであったが。

 

「で―――これで終わらすほどそう問屋が卸さないのだけれど?」

 

ゴゴゴゴ・・・・・・ッと擬音が聞こえそうなほど、後に【アテネ・ファミリア】の主神直々がギルドにやってきて『言い掛かりを押し付けられた』と静かな怒りを露わにして訴えに来たのだ。

 

「さて、どう落し前を付けてもらおうかしら」

 

「・・・・・」

 

辺り構わず神威を解放して、それが自分の怒りだと醸しださせている女神にローズは冷や汗が止まらないでいる。冒険者やギルド員達はそんなアテネに顔を青ざめ、恐怖で身体を震わせて入れないでいたり、怯えていたりしている。

 

ここ(ギルド)の長を呼んでくれないかしら。大至急」

 

「か、かしこまりました。ですが、その神威を治めて・・・・・」

 

「は?」

 

「いえ、何でもありませんっ」

 

灰色と青色の瞳が細まり、圧力を掛けられては従う他なかったローズ。なぜこうなったっと、何かに恨まずにはいられないがギルド長をこの場に来させることで生贄もとい身代りの形で女神の相手をさせようと早足でギルド本部最上階にいる長のもとへ足を運んだのだった。しかし、離れていても感じる神威に生きた心地がしなかった。これが神の力(アルカナム)を封印せず、本当の意味で地上に降臨した神なのか―――と思わずにはいられない。

 

 

アテネの目の前に可哀想なほど神威に当てられて怯えきっているエルフがいた。顔から伸びる尖った耳は紛れもなくエルフを表している。だが、その外見は容姿端麗と称えられている彼の種族とはほど多い。通常職員の物より質のいいスーツを押し上げる腹の肉。横幅のある体型は控えめに言っても肉付きがいい、とは形容できず、『(オーク)』のように肥えていた。その腕も足も太く短く、顎はすっかり弛んでしまっている。身なりの良さも相まって、まさに一代で富をなした豪商人のようだ。ギルド長、ロイマン・マルディール。都市運営の最終決定権を持つ、事実上ギルドの最高権力者だがそれは表向きであることをアテネは把握している。

 

「か、神アテネ・・・・・私めに何かご用でしょうかっ・・・・・?」

 

「用もないのに呼びだすほど私は暇じゃないのよ。私がどうして直々ここに来ているのか、解らないとは言わせないわよ」

 

「そ、それは・・・・・」

 

緑の瞳が揺れる。ここまで神威を解放するほどのことでもない、無実を証明されたから問題はなかったはずだと口に出して言えるほど愚かではないロイマンは頭の中で必死に言葉を選んでいた。

 

「どこかの【ファミリア】の子供が私のホームに危険なモンスターを匿っていると情報を確かめに来たのだけれど、結果はいない。そうなっているわよね?」

 

「は、はい・・・・・仰るとおりでございます」

 

調査しに行ったギルド員からの報告ではそうなっている。ならば、もう問題視する必要はないと―――いまさっき屑箱に入れてしまったばかりであった。

 

「その子供がいる【ファミリア】とギルドに在りもしない真実を疑いの濡れ衣を着させられた。つまり、神である私に対してギルドが疑いを持ったことになるわね」

 

「っ・・・・・」

 

「疑ってしまうのはしょうがないわ。神は子供の嘘を見抜くけど、子供は神の嘘を見抜くことはできない。その疑心は最もだと思うわ。でもねぇ?貴方達を調査させたどこぞの派閥の冒険者に私の子供達が襲われた事実があるのよ」

 

その報告は聞いていない。と、ロイマンは思った。意趣返しのつもりかと思ったがアテネの次に発する言葉で青ざめた。

 

「ギルドと私達に訴えた【ファミリア】に対して罰則(ペナルティ)と罰金を要求するわ。―――天界の送還はその後でもできるしね」

 

 

ディックスという冒険者が所属している【ファミリア】は直ぐに判明した。【イケロス・ファミリア】―――。

アテネと一誠は直ぐに行動するかと思ったが、しなかった。一誠がフェルズに言った通り、証拠を掌握してから事を起こすつもりなのだ。ギルド本部から戻ってきたアテネから伝えられる話をリビングキッチンで耳を傾ける五人の団員達。

 

「取り敢えず、ギルドからお金をふんだくったわよ。四億ほど」

 

「・・・・・ごめん、流石にそこまで罰金を手に入れるとは俺も驚いた」

 

「素直に渡してくれたわよ?ウラノスを天界送還してもいいわよって言ったら」

 

「「それは脅しと言うんだ」」

 

アイシャと一緒にアテネに突っ込みを入れる一誠。女神とは程遠い事を仕出かした主神に春姫やウィル、レリィーも度肝を抜かされた。「後で宝物庫に入れたいから皆手伝ってね」と傍に置いてある大量に詰め込んだヴァリス(かね)が入っている一誠のバックパックをポンポンと触れながら言い続ける。

 

「それと今後ギルドは私達に対して静観の姿勢をするわよ。だから、派手にはしゃがない限り何も言ってこないわ」

 

「で、【イケロス・ファミリア】にどんな罰則(ペナルティ)を与えるんだ?」

 

肝心のディックスがいる派閥に罰則(ペナルティ)与えたいのかと訊いてくる一誠に可愛く首を傾げ―――。

 

「天界送還。それ以外ないじゃない」

 

と、神にとっては物騒な発言をした。

 

「明日、私達にしたようギルドに対してイケロスの本拠を調べるように命令しといたわ。だからイッセー、明日は一緒に」

 

「おう、分かった。女神の前では嘘は付けれないからなー」

 

泡を食う襲撃者達の姿を思い浮かべ、アイシャ達を襲った報いを与えることで楽しみな一誠は、唇を吊り上げた。

 

―――○●○―――

 

そしてまた翌日の朝。万神殿(パンテノン)の前には編成された調査隊が集結していた。【アテネ・ファミリア】のように上層部からの指令によって二日続けて容疑が掛けられている【ファミリア】の本拠(ホーム)捜索が行われようとしている。

 

「ふぇ~、どうして二日連続も~」

 

「愚痴らない。必要な事なんだから」

 

同僚の情けない声が出るもしょうがないだろう。今回はなぜか上層部から直々に指令を受けたのだ。ガセではないのかと二度目のモンスターの存在を確かめる調査をしなければならない。調査対象は【イケロス・ファミリア】の本拠(ホーム)。十数人の調査員が動き出す―――。

 

「さて・・・・・俺達も行くとしようか」

 

「ええ」

 

彼等彼女等の動きを見守っていた一人の冒険者と女神が追うように行動を開始した。

 

 

調査隊は【イケロス・ファミリア】の本拠(ホーム)を訪れた。だがしかし、調査は早速難しい状況に迎えられた。

 

「もぬけの殻・・・・・?」

 

【アテネ・ファミリア】とは真逆の無人の派閥の本拠(ホーム)が調査隊のギルド員達を当惑させた。呼びかけにも応じず、静か過ぎることにかえって不自然と班長が中に入るや否や、【イケロス・ファミリア】は主神や団員の一人すら姿を暗ましていた。―――いや、かなり前から本拠(ホーム)を別の場所に変えたような感じが醸し出しているのだ。ギルドが把握している彼の派閥の本拠地は、一報もせず何時の間にか住む場所を変えていた。この事実を班長だけじゃなく調査隊全員が悟り、察するも小さな手掛かりでも掴めまいか調査を行う。

 

 

「・・・・・見つからないな。あの状況じゃあ」

 

「住む場所を移していた・・・・・イッセー、どう思う?」

 

路地裏で一誠が展開する映像を立体映像にして映す魔法円(マジックサークル)でギルド員の調査の捗りを見守っていたアテネの質問はこう返させられた。

 

「黒だな。前以て自分達の居場所を明るみにさせればギルドはそれ以上なにもしない。裏で公表されている本拠とは別に確保していた本拠へ移動すれば、トカゲの尻尾のごとく、もぬけの殻の本拠を注目されても現在いる本拠を見つからない。これは犯罪者がよくやる敵の目を撒く手段の一つだ」

 

「だとすれば・・・・・イケロスがいる本拠が本物の住みかってこと・・・・・」

 

「そういうことになる。んー、まんまとやられたな」

 

有意義な情報や手掛かりは得られないと判断する。ギルドもこれで【イケロス・ファミリア】に対する疑惑は深まるだろうが、見つからない相手を探すのは至難の業。最後に残された手段は【イケロス・ファミリア】の団員を見つけ、問い詰める他ない。

 

「諦める?」

 

見つからないならば、放っておくことしかできない。探す行動をする者を当人達が見れば警戒を最大にして身を暗ます。神ですらできないことがある、一誠はそれを理解している。だが、一誠は執念深かった。

 

「いや・・・・・向こうからやってくるように誘き出す。それは今ではないがな」

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