オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

28 / 47
冒険譚27

【アテネ・ファミリア】―――のトレーニングルームにて一誠の苛烈な修行が行われている。

一度大剣を振るえば、大朴刀ごと弾き飛ばしてアイシャを吹き飛ばす。遠距離から魔力の矢を放つ春姫とウィル、レリィーに対しては射られた魔力の矢を素手で掴んで握りつぶし、ナイフを突き立ててくる獣人の腹部を拳で貫き、アイシャのところまで吹っ飛ばす。そこで一時休止。

 

「対人戦に関してはやはりと言った感じでアイシャが上だな。春姫達はもう少し相手の動きを牽制するか、虚を突くように工夫しないと。んで―――カルラ」

 

虎人(ワータイガー)のカルラに隻眼の瞳を向ける。

 

「最初から戦闘より基礎から叩きこんだ方がいいだろうなやっぱり」

 

新しく、【ファミリア】に加わることになった女性は腹を擦って上半身を起こした。

 

「痛いですわね。もう少し加減して下さらない?」

 

「無理だ。攻撃を食らえば食らうほど耐久が上がるんだからいいだろう」

 

「乙女に対する扱いではありませんわ」

 

眷族の向上だ、仕方ないと肩竦ませる一誠。

 

「一時間後、ドラゴンと追いかけっこしてもらうから。それまで特訓を続けんぞ」

 

ひぃっ!と悲鳴染みた声が上がったのは気のせいだと一誠は「もう一度だ」とアイシャ達を催促する。

 

「・・・・・何時もこんな感じですの?」

 

「ああ、性格が変わるほどにあいつは修行の鬼となる。―――良い笑顔でな」

 

私はなんとかついていけれるが非力な春姫達は地獄だろうさ、とカルラと言葉を交わすアイシャは新人の仲間に憐れと視線を送る。

 

「頑張なよカルラ」

 

「・・・・・入る派閥を、間違えたかしら」

 

苦笑いを浮かべ、腹部から来る鈍痛を感じながら立ち上がるカルラのそう遠くない未来。前衛(アタッカー)としてのカルラが春姫、ウィル、レリィーと一緒に『器』の昇華を果たすのだった。

 

―――○●○―――

 

「おはようございます。イッセーさん」

 

「おはようございます。イッセー様」

 

早朝の『豊饒の女主人』の前にベルとリリが「二人ともおはよう」と言う一誠と挨拶を交わす。

 

「イッセーさん、今日は一緒にどうですか?」

 

「そうだな。見ない内にどれだけ成長したか見てみるのも面白そうだ」

 

「と言っても、リリ達だけではまだ中層には行けれません。未だに12階層留まりですよイッセー様」

 

三人は白亜の巨塔、魔天楼バベルへ向かう。

 

「ところでイッセー様。小耳にはさんだ情報なのですが、【ロキ・ファミリア】が遠征に向かわれることを知っておりますか?」

 

一誠に顔を、上目遣いで見上げながら歩くリリの問いに対して「ああ」と肯定した。

 

「ああ、勿論知ってるよ。俺個人にも誘われたんだが、とりあえず行くことにしてある」

 

「そうですか。あの最大派閥から『遠征』に誘われるなんて凄いじゃないですか」

 

リリの世辞に頭を掻きだす一誠。

 

「でも、俺が行くと作業的な感じでモンスターを倒してしまうんだよなぁー。それじゃ【ロキ・ファミリア】の為にもならんし」

 

それに、個人的にやりたいこともあるからな―――と付け加える一誠にベルが尋ねる。どんなことですかと。

すると一誠はベルとリリにニヤーと笑みを浮かべた。その嫌な笑みを見た二人が眉根を寄せた。とんでもないことを考えているんじゃないかと警戒したところで、

 

「お前らを弄ることだ」

 

「「(リリ)達で遊ぼうとしないでくださいっ!」」

 

予想通りの発言に突っ込まずにはいられなかった二人である。一誠の玩具となりかねないベルとリリはせめての抵抗を示す意志を胸中に宿す。

 

「二人も俺以外の派閥の冒険者とパーティを組めるといいんだがな」

 

「零細の派閥に懇意派閥でもない他派閥の冒険者が快くパーティに入ってくれるとは思えませんよ」

 

「ヘスティアの友神や神友の派閥に声を掛けたらすんなりと受け入れてくれるんじゃないか?」

 

脳裏に浮かぶ鍛冶女神。かの女神が抱えている団員の中で一人ぐらいはいるんじゃないかなーと考える一誠に声を掛ける。

 

「イッセーさん、地面から武器が生えるあれって何なんですか?」

 

「あれは俺の力の一つだ。一つ一つの武器が強力でな。『魔剣』みたいに放つことができる武器も出すことが可能だ。あの時の試合を見ていたら分かっているとは思うが」

 

―――鍛冶殺し。リリの頭の中でそう思い浮かんだ。『魔剣』と同等、それ以上の威力を誇る一誠が生み出す武器は超越魔法(レアマジック)ではないかと思ってしまう。

 

「イッセー様。鍛冶師の方々とお会いする時は気を付けた方がよろしいかと」

 

「んー?別に会ったら会ったで、喧嘩を吹っかけられるってわけでもないだろ」

 

まるで気にしていない風に答える一誠。自分が鍛冶師でもないのに他の鍛冶師に気を付けることなど意味がないと思っている一誠を知らないリリは少々心配そうに見ていた。

 

「お前ら、今日はミノタウロスと戦いに行こうか」

 

「突然どうしたんですか?というか、ミノタウロスって・・・・・」

 

「別に今さら怖がるモンスターじゃないだろ?一緒とはいえ、大型級のモンスターを何度か倒したんだからそろそろお前らだけでも戦えるよう成長しないとな」

 

ベルは悟った。この人は自分達をミノタウロスと戦わせようとしているのだと。

 

「あの、イッセーさんと一緒ならミノタウロスを倒せるんじゃあ」

 

「さっき言っただろう。俺が一緒だと作業的になるって。それはつまりそいつの成長を妨げる原因にもなりかねないんだよ。精々アドバイスかフォローする程度だ。ベル、モンスターを怖がるぐらいなら冒険者なんてやめておけ。大事で大切なものを失うか、守れないだけだ」

 

胸に突き刺さるキツイ言葉の他に諭すような口調で言い続ける。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインは十歳未満でLv.2になったんだ。それはつまりどういうことだかわかるか?」

 

「えっと・・・・・」

 

分かり兼ねると言葉を言い淀んでいるベルに指摘した。

 

「まだ幼い少女が異例の速さでLv.2になったということは、『強くなりたい』という凄まじい想いと念を抱いていたからだ。大体他の冒険者は10代後半から冒険者になる方が多い。アイズと他の冒険者の強さの差はこれにあると俺は思っている」

 

「幼い頃からダンジョンに潜っている、からですか?」

 

リリも話に加わり、自分なりの答えを出した。一誠は「それもある」と告げ、

 

「誰よりも強くなりたいという強い憧憬を抱いていたんだろう。他の冒険者より何倍何十倍と冒険をして、自分なりに強くなって―――誰一人としてしなかった、できなかった階層主をたった一人で倒したことでLv.6になった」

 

つまりは―――。ベルを見つめ、リリも見つめ、

 

「二人も強くありたいと思うなら、ミノタウロスぐらいの大型モンスターを倒さないと『器』の昇華は望めないだろう。女子供だからって関係ない。強くなりたいならば冒険をしないとダメだ」

 

―――それが、冒険者だろう?と笑みを浮かべてそう述べた。ベルの中で憧憬の象徴である金髪の少女を思い浮かべ、強くなりたいと思った。リリはベルの足手纏いにはなりたくないと特殊武装(スペリオルズ)を装着している両腕に目を落とす。

 

「さーて。また宝石の実を採取して金を稼ぐぞ二人とも」

 

「「はいっ!」」

 

数十万から数百万という額を一度に稼げる冒険にベルとリリは元気の良い返事をした。とても現金である。

 

―――一方【ガネーシャ・ファミリア】の敷地では。

 

「俺がガネーシャである!」

 

馬車のような人力で動く乗り物の上にガネーシャが様々なポーズをしながら何かに

対する練習をしていた。馬の力で動かす馬車とは言えないほど様変わりしている動く乗り物は

下段、中段、上段と三つの階段とUの字の足場があり、一番上にいるガネーシャを

筆頭に中段と下段の足場に道化(ピエロ)みたいな衣装とメイクされた

【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が客がいなくても笑顔で『調教(テイム)』した

小型モンスターや『異端児(ゼノス)』と一緒に手を振ったり踊っていたりしていた。

 

その他にも練習によって一瞬の乱れも見させない踊り(ダンス)や様々な楽器を持ち、抱えて演奏する異端児(ゼノス)と混合移動集団。モンスターを象った大きな模型等々。最後に大目玉と言わんばかりのガネーシャ自身の模型が最後に見ている一誠の横を通り過ぎた。

 

「はい、皆。お疲れ様ー。おかわり自由のご飯の支度ができたんで一時間の休憩の後、もう一度リハーサルをするからよろしくお願いしまーす」

 

今日も一日。練習練習と冒険者として過ごす一日とかけ離れている行いをしている【ガネーシャ・ファミリア】。他派閥の中で唯一モンスターの飼育を許されている派閥であり『異端児(ゼノス)』を見た【ガネーシャ・ファミリア】は驚愕、絶句するものの割と時間も掛からず受け入れた。なので―――。

 

「おい!また飲み比べといこうじゃねぇか!」

 

「今度はオレっちが飲み勝つぜい!」

 

「アンコール!アンコール!」

 

「しょうがありませンね」

 

理知を備えるモンスターと宴状態はもう日常茶飯事と化している。人類を襲わないモンスターならば、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達にとっては恐れることはない。一人、また一人と接することで『異端児(ゼノス)』は安心安全なモンスターであると理解してくれるだろう。

 

「アテネの子供よ!」

 

鍛えられた褐色肌の体を惜しみなく晒し、象を模した仮面を被る男神ガネーシャが堂々たる闊歩で近づいてくる。

 

「どうだ、我が優秀な団員達の動きは。もうそろそろ大丈夫ではないか?」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の遊園地開園を臨んでいるガネーシャに首を捻る。

 

「んー・・・・・。パレードの方はもう問題ないと思うけれど他にも色々と点検や確認をしたいからもうちょっとだけ待ってくれないか?」

 

「どこか不備でもあるというのか?」

 

「いや、ガネーシャの団員には問題はないさ。ヘルメスにも任せてあることも確認しないと」

 

それもそうだったな、と腕を組んで頷くガネーシャ。同盟を組んでいる派閥同士のことも考えて大規模なイベントを成功させたい所存のガネーシャである。

 

「ガネーシャみたいな神がいてくれて大助かりだよ。流石は【群衆の主】だ。今後も頼りにさせてもらうよ」

 

「任せろ!子供達の笑顔は俺の至福でもあるからな!俺もアテネの子供には凄く頼りにさせてもらうぞ!」

 

娯楽を飢え、娯楽を求めに下界へ降臨した自堕落な生活を送っている神々より好印象を抱く一誠。目の前の男神との交遊を大切にしようと決意する。

 

「よし、夜の部のパレードもガネーシャの印象を深く与えるような演出も考えようか!」

 

「そうだな!アテネの子供よ!」

 

―――ところ変わって、【ヘルメス・ファミリア】のホーム。

 

「ヘルメス、頼んでいた件の方はどうなっている?」

 

「勿論、イッセー君の要望通りに世界各地へこれからオラリオしかない情報を俺の子供達が広げに行かせているよ。君が創造した乗り物でね」

 

世界中に旅をするヘルメスや団員達に遊園地の存在と開催日を知れ渡らせている。順調にことが進んでいるのだと察し、満足げに微笑む。

 

「世界中から人がオラリオにやってくる。つまり予想を遥かに上回る人数が来ると思って対応しよう。特に商人の荷車は厳重に調べてな」

 

「違法な取引をする闇商人を警戒しているんだね」

 

「人身売買や『異端児(ゼノス)』を売買している連中の存在が明らかになっているんだ。警戒はする」

 

ウィルとレリィー、カルラやギルド員のローズがそんな目に遭った被害者。さらにはリド達の仲間もどこかの他派閥に捕獲され、売買されているのだと察している。

 

「ヘルメス、リド達みたいなモンスターがオラリオから密売された国を知らないか?」

 

「知っていたらどうするつもりだい?いや、知ったらどうするつもりかな?」

 

愚問だな、と一誠は述べた。「助けるのに理由が必要か?」と。一誠の心情を理解し、首を横に振った。

 

「生憎、俺も知らないんだ。俺の子供達にそれを調べに行かせているところなんだよ」

 

「・・・・・そうか。まあ、大体どんな奴が『異端児(ゼノス)』の取引に応じるかは想像付くがな」

 

橙黄色の瞳に興味の色が孕んだ。まるで最初から解っていたかのような口ぶりだ。

 

「どうして分かるんだい?」

 

「物珍しいものならば、その手の趣味や性癖を持つ富豪の一家、豪遊ができる貴族、または王族だったら手に入れたいと思うからだ」

 

異端児(ゼノス)』を捕獲した派閥ならばそれ相応の額を要求するだろう、と一誠の考えだ。その手の生業が長けた派閥ならば、ギルドや他派閥に悟られないように警戒し、陰に隠れて闇に乗じて活動をし続けている。一誠自身も直接体験した経験から考えついた予想だ。

 

「ヘルメス、この世界にも王族や貴族というやつはいるのか?」

 

「ああ、いるよ?現にアスフィはとある海国の王女様なんだぜ?」

 

ばっ、と一誠は反射的にヘルメスの隣に座っている気苦労な団長へ視線を送った。有り得ない、とても王女様とは思えない立ち振る舞いを見てきた一誠は、マジマジとアスフィに隻眼の金色の瞳を向ける。

 

「・・・・・マジで?え?どうしてここにいるんだ?」

 

途端にヘルメスがいらやしい笑みと自慢げに語った。

 

「ふっふっふ。一目見て気に入って、城から連れ出したんだよ」

 

「違います」

 

バッサリと横で否定という斬撃を放たれた。

 

「私が寝ている間に何時の間にか馬車の上に乗せられて故郷から連れ出されていました。起き上がってみれば良い笑顔で『俺の眷族になってもらったから。これからよろしく!』と・・・・・」

 

それから私が苦労する連続の始まりでもありました。とふかーい溜息を吐いたアスフィに一誠はゴミを見るような目でヘルメスに軽蔑する。

 

「神がそんなことして良いのかよ」

 

「俺はヘルメスだぜ?アスフィが空を飛んでみたいって願いを聞いたからその要望を叶えたに過ぎないんだよ?」

 

「叶った?」

 

「ええ、まあ・・・・・私の魔道具作製者(アイテムメイカー)としての名前は伊達ではないということです」

 

魔道具(アイテム)で空を自由に飛べる物を作ったアスフィ。それはつまり、数少ない『神秘』のアビリティを持つ冒険者の中で唯一飛行可能な魔道具(アイテム)を作製した物凄い冒険者である。

 

「すげー!」

 

子供のようにキラキラと金目を輝かせる一誠にアスフィは照れくさそうに、気恥ずかしそうな反応をする。

 

「別に、大したことでもありません」

 

「いや、大したことあるって。他の冒険者ができないことをしてみせたアスフィの『偉業』は感動したぞ。俺も『神秘』のアビリティが発現できたらなー」

 

自分のことのようにヘルメスは嬉しそうに橙黄色の目を弓のように細め、二人を見つめる。

 

「アスフィ、空飛べるんなら一緒に飛ばないか?」

 

「一緒に、飛ぶ?」

 

「俺が翼を生やせることはもう知っているはずだけど?」

 

青白い天使化となった目の前の少年に碧眼の双眸は丸くなる。間近で見る人類とは異なる姿。

 

「その翼は本物ですか?」

 

「ああ、そうだ。触ってみるか?」

 

一翼の翼がアスフィに差し伸ばされる。青白い羽毛が鳥のように生えていて輝く青白さは美しいという想いを抱かされる。いざ、触ってみれば温かくふわふわとした弾力が手の平に感じ取れる。

 

「こんな翼、見たことがないです・・・・・」

 

驚嘆と感嘆。その二つが交じった呟きは誰かに対しての発言ではなく、感想だった。

 

「ヘルメス、ちょいっとアスフィと空飛んでくるから」

 

「へ?」

 

次の瞬間。アスフィは翼に包まれてしまい、一誠が発現する魔方陣の光に視界が奪われた。

それから視界が回復した頃には―――オラリオが一望できる空の上に立っていた場所にアスフィと一誠が宙に浮いている。青白い天使化のままの一誠は微笑んだ。

 

「い、何時の間に・・・・・?」

 

「ここなら神といえども俺達を肉眼で捉えることはできない。誰も俺達を気付きもしないさ」

 

自分(アスフィ)の腰に腕を回して抱き寄せている一誠がそういう。今の状態に気付き、羞恥で赤く染まる顔は異性の胸に顔を押し付けて見せないようにする。

 

「アスフィ、空飛ぶ方法を使ってくれないか?誰かと一緒に飛ぶのは楽しいぞ?」

 

「楽しい・・・・・」

 

過去、誰よりも空に焦がれていたとある王女(しょうじょ)が叶った願い。複数の鳥が戯れながら空を飛ぶ姿に何度も憧憬を抱いていたことやら。自分も空を飛んでみたいという思いは様々な苦労の末、叶った。

―――叶った。たが、ただそれだけだ。冒険者になってみれば、派閥の団長となれば、勝手な行動や自由な行動ができなくなり使うにも情報の漏洩を防ぐために使用を極力控えるようになった。―――それは本当に鳥のように飛べるようになったと言えるか?

 

「・・・・・」

 

誰も見つからない空にいる。誰も届けない場所にいる。上を見上げればどこまでも広がる蒼穹。この蒼穹の空を鳥達が我が物顔で飛んでいる。だから王女は羨望の眼差しと憧憬を鳥に向けていた。そして手に入れたのだ。鳥のように空を飛べる魔道具(アイテム)を作製に成功したのだ。

 

「―――飛翔靴(タラリア)

 

(サンダル)に巻き付くように備わっていた金の翼の装飾が、命を吹き込まれたように解ける。瞬く間に二翼一対、計四枚の翼を左右の足に広げ、アスフィは一誠から離れて飛翔した。

 

「おおっ!」

 

楽しげに驚く一誠を見て、小さく口を緩ました。何も考えず空を飛ぶ。翼を羽ばたかせて空を飛翔する鳥みたいに。

 

「行きましょう。イッセー」

 

「ああ!」

 

有翼の(サンダル)と青白い六対十二枚の翼が羽ばたいて空を飛翔する。風が、大気が、空気が二人の全身にぶつかり、それがとても楽しく地上の風景や光景を見下ろしながら飛ぶ体験は心地良かった。既にオラリオから遠く離れている。まるで空を旅する鳥みたく。今のアスフィは自由を手に入れた美しい純白の体の水色(アクアブルー)の頭部を持つ鳥のようだった。

 

「・・・・・久しく、忘れていたかもしれません」

 

一誠から伸ばされる手を掴んで、同じ速度で飛ぶアスフィが呟いた。

 

「空を飛ぶという楽しさを」

 

「なら、もう一度この楽しさを堪能すればいい」

 

隣からそういう一誠が話しかけてきた。碧眼の双眸を向ければ顔を向けている一誠が口を開いていた。

 

「また一緒に空を飛ぼう。空は誰も拒まない自由な場所なんだからさ。せっかく飛べるようになったんだから思う存分飛ばないと損だろう」

 

「イッセー・・・・・」

 

「良い場所を連れてってやるよ」

 

すると、突然アスフィの腰に腕を回して上空に物凄い勢いで上昇を始めた。見る見るうちに大地が、大陸が雲を突き抜ける度に小さくなり、呼吸がし辛くなったところで二人を包む金色の膜が張られた。

 

―――そして、二人は『迷宮都市』オラリオが存在する巨大で青い丸い形をした物を見える高さまで飛んで行ってしまった。

 

「どうだアスフィ。俺しか行けれないだろう場所は」

 

「っ・・・・・」

 

絶句の面持ちで見据える。人類、モンスター、生物達が当たり前のように誕生しては生きている大陸、場所はここから見ればとんでもなくちっぽけに思えるほど小さい。世界を旅するヘルメスが今まで足を運んだ場所すら大雑把で見れば直ぐに「あの辺」だと見つかりそうだ。

 

「俺達はとてもちっぽけな存在だ。ここから見ているとそう思える」

 

一誠が神妙な顔つきで地球を見下ろしている。

 

「世界を手に入れようとする、世界征服を目論む輩がこれを見ても『世界が欲しい』とまだそう言えるのならばそれは滑稽だ。それは世界に挑戦すると道理でもある。モンスターに挑戦するよりよっぽど難しいことだからな」

 

それもまた、偉業の一つかもしれない。そう述べる一誠にアスフィは周囲へ目を向ける。常闇のように真っ暗な空間がどこまでも広がっている。何時までも意識が吸い込まれそうになる。奈落の底と彷彿させる暗闇は恐怖感を抱いてしまう。

 

「イッセー、あの暗闇の先には何があるんですか?」

 

「惑星というこの地球と何倍何十倍の大きい奴や小さい奴、他にも隕石が漂っていたり、途方も暮れないほど距離の先には―――」

 

ぺらぺらと教えてくれる一誠に半ば圧倒される。あらかた説明が終わると「戻るぞ」と言う一誠が動き始めた。真っ直ぐオラリオがある大陸、大地に向かって降下する。

 

「・・・・・イッセー、貴方は一体」

 

何者なんですか、と言葉は続かなかった。一誠がアスフィの唇に人差し指で添えて閉ざしたからだ。

 

「俺は俺だ。それ以下でもそれ以上でもない。イッセーという存在だよ」

 

「それじゃ不満か?」と一誠の言葉に口を閉ざして何も言わなくなるアスフィ。

 

「いえ、大丈夫です」

 

「ん、ありがとう」

 

異性に抱き絞められて頭を撫でられる。大人の女性として威厳が、と思う他所にお気に入りであり、気にもなっている少年にされると不思議と悪くない気分となる。

 

「(・・・・・どうしよう、マッサージをして貰いたくなりました)」

 

それは二人きりになる口実であり、女体を触れさせる一種のご褒美を考えていたアスフィであった。

後にアスフィと別れた一誠は【ディアンケヒト・ファミリア】に訪れた。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で」

 

「ん、何時もの換金だ」

 

「では、こちらへ」

 

隔離された一室に案内され、防音対策された個室に入るとヒューマンの女性は鍵を閉め、一誠に抱きしめられる。

 

「んー、やっぱり抱き心地がいいなアミッド」

 

「っ」

 

珍しく一誠から抱き絞められた動揺と驚きがアミッドの心を震わす。しかし、受け入れて一誠の手を添えてしばらくそのままでいた。

 

「今日はどうしましたか?」

 

一誠の膝の上に乗って虹色の花の鑑定を直ぐに終えた頃に問うた。

 

「ん、アミッドの報酬はまだだったなぁーって思ってさ。これ以上先延ばしにするのもいけないし」

 

アミッドの報酬・・・・・19階層でウィーネの手当てをする際に一誠から提案された条件もとい報酬だ。

そのことを言っているのだと一誠は告げ、アミッドは理解した。

 

「あの時は貴方の真摯な気持ちを察して治療をしただけです」

 

「それでも、アミッドには感謝をしているんだぜ?だから、俺ができることだったらアミッドの願いを叶えたいんだ」

 

自分の願い・・・・・。そう言われてもすぐには出ない。帽子(キャップ)を外され、直接頭を撫でられる中、アミッドは大きめな双眸を一誠に見上げた。

 

「なんでも、ですか?」

 

「俺のできる範囲ならばな」

 

改めて確認をし、思考の海に潜る。そして・・・・・考えが至った。

 

「非常に申し訳ないのですが・・・・・イッセー」

 

「うん?」

 

「貴方の角を、くれませんか?」

 

その要求に肯定とばかり頭から真紅の角を生やし、自分の手で負った。とても生々しい音が間近で聞こえ、血が出て一誠の顔を汚す。

 

「はいよ」

 

「あ、あのっ、血がっ!?」

 

「ん?ああ、問題ない」

 

折れた角に手を添え、すっと上にずらせば角が再生を始め、元に戻って血が止まった。

 

「な?」

 

「・・・・・驚きです」

 

自分で負った角はアミッドの両手の中に収まっている。温かくずっしりとした重みが感じる。異世界のドラゴンの角―――。

 

「それでどんな物を作るのかアミッド達次第だ。出来上がったら教えてくれ」

 

「はい、分かりました。ですが、本当に申し訳ございません。貴方の一部を提供して欲しいなどと言って」

 

「気にするな。アミッドの役に立てればそれでいい」

 

白銀の頭を撫で、安心させる笑みをアミッドに向ける。仲間の体の一部でも道具、販売する気はない一誠は己ならばアミッドやナァーザに願われば提供するだろう。そんな優しい一誠から、

 

「(やはり私は・・・・・)」

 

温かい眼差しが向けられる。猛禽類のような瞳は自我が強いと彷彿させ、何時までも覗きこんでいると意識が吸い込まれそうになる。角をテーブルに置いて対面座位の形で一誠と向き合うと背中に腕を回された。それが一誠にとって何時もの行動パターンだった。

 

アミッドは大きな双眸を金色の瞳を見上げ続ける。じっと覗きこむように見続けると

頬に歳下の少年が手を添えてくる。とても大きな手であり男の手だと改めて認識する。

 

「・・・・・ぁ」

 

アミッドの双眸を覗きこまれていた。額と額が重なりそうになるぐらいに顔を近づけていた。

近づけられていた。アミッドの方から?一誠の方から?否、どちらの方でもなく自然と顔の距離を縮めている。

 

「儚げで綺麗な瞳だアミッド」

 

「イッセーも・・・力強い目です」

 

交わす言葉は短い、ドキドキと高鳴る胸、心臓が五月蠅いほど打つ鼓動、これからすることが現実となれば間違いなくアミッドは一誠に心と体を捧げたいと思いを抱くだろう。

常に一誠の隣に在りたいと思うだろう。派閥を超えた難しい恋愛をしなくてはならない。

だが、アミッドの心は求めていた。

 

「私と、口づけをしてもいいんですか・・・・・?」

 

「アミッドが心配するようなことはないさ。嫌なら―――」

 

まだ歯止めが利ける状態で問うた一誠。しかし、既に吐息が互いの唇に掛かるほどの距離まで近づき唇が重なり掛けている。

 

「後悔しないか?俺はモンスターだぜ?」

 

「・・・・・私の心はもう、あなたに奪われています。だから、全てを受け入れるつもりですよ」

 

一誠の瞳は途端に慈愛が満ちた。心から彼女を愛そうとする一誠を察したアミッドは瞳を潤わせ、互いが思想相愛になったのだと理解し、互いの名を呟いて・・・・・ゆっくりと唇を重ね合った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。