オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚2

「団長ー。野営の準備が整いましたー」

 

「よし。それじゃ今日はここで寝泊まり、明日の朝になったら出発だ。一気に地上へ戻るからそれまで各自、決められた仕事やそれ以外の者は行動してくれ」

 

【ロキ・ファミリア】は18階層、モンスターが唯一生まれない安全階層(セーフティポイント)という階層で留まっていた。寝泊まりできるテントを張って、食事の準備などしている冒険者や何もせず腰を下ろし雑談する冒険者、(リヴィラ)に赴く冒険者など団長のフィンの言葉を皮切りに動き出す。

 

「アーイズッ、あたし達は暇だから森に行かない?何か見つかるかもっ」

 

「あたしは団長のお傍に―――」

 

「ああ、僕達は会議をする。構わないからティオナとアイズと一緒にいてくれ」

 

「だってさぁ~?」

 

想い人からの優しげな配慮に「ううう・・・・・団長ぉ」と肩を落として残念そうにティオネは落胆する。アイズは自分も【ロキ・ファミリア】の幹部の立場で雑用みたいな仕事は新人やサポーターの冒険者が主にするので何も手伝うことは無く、空いた時間を持て余すので散策の誘いは肯定と頷いた。

 

三人の少女は「あ、レフィーヤも来る?というか、一緒に行こうかっ」「えっ?えええええ?」と山吹色のポニーテールのエルフの少女を巻き込んでどこかコソコソと動いて森の方へ向かう。18階層の時刻は『昼』。天井は光り輝く師匠で埋め尽くされていて、まるで咲き開いた菊のように、夥しい量の水晶が隅から隅までに生え渡っている。色は二種類に分かれていて、中心には太陽を彷彿させる白、その周囲は空を思わせる蒼色だ。木漏れ日みたいに水晶から発する光が森の中を歩くアイズ達を照らし、のどかな気分を抱かせる。

 

「水の音・・・・・」

 

歩いてしばらくした時、アイズが唇を動かした。近くに水があることを察し、ティオネとティオナは聞こえてくる音の方へと足を運んだ。

 

「水浴びしようよ!」

 

「そうね・・・・・ダンジョンに潜ると碌に体を洗うこともままならないし」

 

「うん・・・・・いいよ」

 

「は、はい」

 

冒険者とは言え少女だ。体を清めてさっぱりしたい気持ちは抗えない。足を運ぶにつれ水の音は次第に大きく、ドドドと滝の水流の音がハッキリと聞こえてくるようになった距離まで近づいたその時、

 

『ガオンッ!』『ギャオッ!』『ギュオンッ!』

 

体格はほっそりとし、後肢に大きな鉤爪が特徴的の全長二Mはあるモンスターが四人の行く道を阻んだ。

 

「見たことのない、モンスターだ。新種?」

 

「いきなり現れてくるなんて。気配すら感じなかったわ」

 

「・・・・・囲まれている」

 

目の前の三匹、左右に計四匹の七匹がアイズ達を取り囲もうとする。だが、襲ってくる気配は無い。この先には行かせないという気配が醸し出している。

 

「奥にこいつらにとって何か大切な、大事な物があるというの?」

 

「どうする?襲ってこないなら戦わずキャンプに戻っても良いと思うよ」

 

警戒しながら検討するティオナとティオネ。徐々に近づくモンスターは追い返そうとしているのがハッキリと窺える。新種のモンスターが冒険者を構わず攻撃を仕掛けるのは当然の行動。なのに攻撃してこないモンスターは初めて見た。

 

「・・・・・」

 

念のために持ってきた《デスペレート》を抜き放ち、まず左右のモンスターを一閃。

 

「「「ア、アイズ(さん)ッ!?」」」

 

「知る必要がある。もしかしたら・・・・・巨大なモンスターが隠れているかもしれないから」

 

仲間をやられたことで追い返そうとしていた気配は目の前の人間を敵として認識、獣の声を上げながら凶悪な牙を覗かせ、大きな鉤爪と手の爪で捕え、捕食しようとするモンスターよりアイズは風のごとく素早い動きで首や脚など両断して倒した。

 

「あ、あのっ、団長に報告した方が・・・・・」

 

「団長に報告する前に私達で対処してからでも遅くは無いわよ。というか、アイズがやる気出しちゃったから戻るのは無理ね」

 

「あーんっ、こんなところでもぉ~?」

 

レフィーヤの提案など最初から無意味だった。自前の得物を構え出して警戒しつつ前へ歩きだす。目指すは滝の音。歩く音を殺し、己の気配すら極限まで消して移動。その最中、先ほどのモンスター達と草の茂み越しで擦れ違ったり、気付かれないうちに倒すことを繰り返して、ようやく滝がある場所まで近づく四人は木の枝を伝って上から周囲を見渡すことにした。

 

「うわー、綺麗な清水」

 

「こんなところに泉があったのね」

 

「美しいですね・・・・・」

 

未だに絶え間なく流れ落ちる水流、滝の下には溜まった水が泉と化している場所を発見した少女達。周囲は木々と水晶に囲まれ、頭上は巨大な樹の枝葉によって完全に塞がられている。藍色に染まる周囲の光景と相まって、森の聖域という言葉も浮かんでくるほどだ。

 

「ここをあのモンスター達が守っていた?でも、何もないし、何もいないね」

 

「もしかしたら泉自体を守っていたのかも。何か特別な効果があるのかしら」

 

食糧庫(パントリー)みたいな物なのでしょうか・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

周囲にモンスターの気配は無い。ということでレフィーヤをアイズが抱える形で四人は飛び降りて泉の前に着地した次の瞬間。水面が勢いよく盛り上がって、何かが出現した。水飛沫は宙に舞い、次に金色の十二枚の翼が水面から飛び出てきたと同時に人の背中、真紅の髪を生やす頭部がアイズ達の視界に飛び込んできた。

ソレは人だった。金色の翼を生やす人はまるで天使のようで四人は見惚れて釘付けになるほど目を奪われた。

 

「綺麗・・・・・」

 

レフィーヤは翼を見て呟いた。目を奪われてしまっていることを自覚しながら、泉から出てきた天使を何時までも見ていると・・・・・。その天使が四人に振り返った。

 

「・・・・・」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

場は静まり返り、滝の音しか聞こえなくなった。そして、アイズ達四人はその天使の顔を見て気付いた。ごく最近知ったばかりのとある冒険者だった。

 

「あっ―――!」

 

ティオナが驚きの声を上げようとした。が、しかし・・・・・。

 

「きゃあああああっ!覗きぃっ!変態が覗きよぉっ!誰かぁー!」

 

「「「えええええええええええええええええええええええええっ!?」」」

 

なにそれぇっ!?とお門違いな反応をされて、ただ目を大きく開いて静かに驚くアイズ以外の三人は声を高く上げて驚愕の声を上げてしまった。ご丁寧に、『男』なのに鍛え上げられた胸板を両腕で隠して恥じらう乙女のように泉の中へ勢いよく体を落として隠した。

 

「ちょっ、待ちなさいっ!?その反応は逆よ!こっちが叫ぶ方よ!?」

 

「そ、そうですっ!?」

 

「男の子なのにその反応は何!?あたし達は男の子の水浴びを覗くような変態じゃないからね!?」

 

「・・・・・(コクコク)」

 

勘違いするなっ!と食って掛かる三人。アイズはどう言えばいいのか分からず、首を振って周りの反応と空気に乗じる。

 

「ははっ、それもそうだな(笑)」

 

「「おいっ」」

 

明らかにこの状況を楽しんでいる男の冒険者に突っ込みを入れるヒリュテ姉妹。

 

「だが、お前らがそこにいると陸に上がって着替えもできない。後ろ向いてくれ」

 

「えー?別に堂々と上がってくればいいじゃん」

 

「変態」

 

「変態じゃないよ!」と言い返すティオナの首を掴んで森の奥へ消える三人を見送って、地上に上がって素早く全身の水滴を拭き取って衣服に着替える男の冒険者―――一誠がアイズ達に声を掛けたことで再び姿を現すアイズ達。

 

「まだダンジョンにいたんだな」

 

「そう簡単に地上に戻ることはできないわよ。でも、まさかここで再会するとは思いもしなかったけれど」

 

「そうだな。この辺にモンスターで見張らせていたんだが・・・・・もしかして倒した?」

 

「え?あのモンスターって君が調教したモンスターだったの?」

 

意外そうな反応をされて、一瞬どう応えようか悩んだ末、「そうだ」と肯定したのだった。

 

「新種のモンスターだったから徹底的に調教して俺の水浴び姿を他の冒険者に見させない為に配置させていたんだ。勿論、追い返すようにな」

 

「・・・・・ごめん、倒しちゃった」

 

シュンと調教したモンスターを倒したアイズが落ち込んだ。追い返そうとしていた行動は一誠の命令だったからなのを知って、大人しく引き下がっていれば問題は起きなかっただろうとアイズの中の幼いアイズも涙目で頭を下げていた。

 

「あー・・・・・いいよ。冒険者はモンスターを倒すのは当然だし、こっちも迷惑を掛けた」

 

一誠もバツ悪そうにアイズの謝罪を受け止め、お互い今回の一件は水に流した。

 

「で、ここに来たと言うことは四人も水浴びをしに来たのか」

 

「初めてここまで来たんだけどね。君が先にここを見つけていたなんて驚いたよ」

 

「隅から隅まで調べたくなるのさ。未知な場所に立たされると。さて、俺はここから離れるとしよう」

 

「覗き魔にはなりたくないし」とどこからともなく四枚のふわふわのタオルを地面に置きながら言う。

 

「え、もう行っちゃうの?」

 

「もう充分のんびりしたからな。また深層に行くつもりだ」

 

「深層って・・・・・どの階層?」

 

「62階層」

 

それだけ言い残して泉から離れようとする一誠の肩や腕を掴んで引き止めるティオナ、ティオネだった。怪訝に「何?」と言いたげな視線をアイズ達に向ける一誠は、

 

「ちょっと、信じられない階層の数字を聞いたわ」

 

「うん、詳しく教えてくれない?ね?いいでしょ?」

 

水浴びをする気持ちは打って変わって一誠を事情聴取しようとする気持ちが一気に湧き上がり、ティオナとティオネが一誠の両腕を自分の腕で絡めて来た道に戻り始めた。つまり、一誠は捕まって連行されてしまったのだった。

 

「あ、あれ・・・・・水浴びは・・・・・?」

 

「また今度」

 

―――○●○―――

 

「・・・・・本当に60階層を超えたのかい?」

 

「にわかに信じ難いのぉ」

 

「・・・・・改めて見るが、恰好からしても深層どころか中層にどうやって来たのか不思議だ。どこかの【ファミリア】と一緒に来たのか?」

 

【ロキ・ファミリア】のとあるテント内、団長のフィンと副団長のエルフ、老傑のエルフの三人に問い詰められている一誠がいた。

 

「すまないが、君の所属【ファミリア】とLv.を教えてくれないか?」

 

「悪いけれど、それは教えられない。あまり目立ちたくないんだ。というか、お互いちゃんとした自己紹介していないと思うけれど?」

 

「ああ。そう言えばそうだったね」

 

黄金色の碧眼の小人族(パルゥム)【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナ。美しい翡翠の長髪を一つに結んだ副団長のエルフ、リヴェリア・リヨス・アールヴ。第一級冒険者、フィンとリヴェリアの同期で最古参のドワーフ、ガレス・ランドロック。改めて自己紹介をし終えてフィンは地上に戻ってギルドで調べれば分かることだろう。知りたいなら自分達の方法で知ろと言ってはばからない一誠を一先ず溜息を吐く。

 

「わかった。教えられないのなら仕方ないね。でも、59階層はどんな場所だったのか、それぐらいは教えてくれるかな?」

 

「それぐらいならいいな。まあ、平たく言えば極寒の階層、『氷河の領域』だった。氷山と雪山、水流に冷たい空気。出現するモンスターは寒さに適していて動きは素早い。それとドラゴンもいたな。三Mぐらいの」

 

一誠から聞きだす60階層の情報。ドワーフがメモしている余所に一誠は出会った、体験したこと全て打ち明けた。

 

「それで他には?」

 

「雪山に洞窟があって、潜ってみるとモンスターの巣窟で見たことのない金属や鉱石が採掘できた。その場所は結構離れた場所だったぞ。それにあの寒い中じゃ食事や寝ることもままならない。寝ている間に死んでいたなんて有り得そうだ」

 

「・・・・・君だったら寒い中で睡眠や食事をするとしたらどうする?」

 

「そりゃあ、温かい恰好で手足を凍傷にならないよう気を配って寝るしかないだろうし、食事に至っては・・・・・かまくらを作ることか」

 

かまくら・・・・・?聞いたことのない単語で、フィン達は顔を見合わせる。かまくらとは何なのか、ガレスが問えば、一誠は説明口調で語る。

 

「雪を煉瓦状に作って建物のように積み重ねて寒い風を通らないようにするんだ」

 

「そんなことは可能なのか?儂は雪なんぞ触れたこともないからわからん」

 

「ふーん?じゃあ、実際に作ってみるか?」

 

「実際にって・・・・・雪は?」

 

「これから持ってくる」と、そう言って三人に表へ出るように告げる。

一体どうする気なのか、訝しげな思いを胸に抱き一誠の後を追ってテントから出て広い場所へ移動する。

 

「この辺でいいか」

 

足を停めた一誠達の頭上に巨大な魔方陣が発現した次の瞬間。膨大で真っ白な何かが魔方陣から落ちて来て―――フィンとリヴェリア、ガレスに降りかかった。

 

「おーい、大丈夫かー?これで雪はどんなのか分かっただろう」

 

・・・・・ボコッ

 

「うん・・・・・よーく理解したよ。身にも染みた」

 

「冷たいな・・・・・」

 

「これはいかん。寒くて敵わんわっ」

 

頭に雪の塊を乗っけた状態で大きな雪山と化となった雪から出てきた。

 

「こんなのまだ序の口だ。極寒の中で作るんだから体力と体温は奪われつつモンスターに襲われる可能性だってある。まあ、【ゼウス・ファミリア】があの階層を攻略したもんだよ。感嘆の一言だ」

 

「で、どうやってかまくらとやらを作るのだ」

 

「まあ、一緒にやれば分かるよ」

 

足元に複数の魔方陣を展開し耐寒の手袋、四角形の籠とスコップ、ノコギリが人数分出てきた。

 

「さて、作り方は教える。三人はその通りにして鎌倉を作るんだ」

 

 

「・・・・・団長達とあいつ、なにをしているのかしら?」

 

「白っぽい何かが大量にあるねっ!」

 

「アレは雪ですよティオナさん」

 

「雪・・・・・」

 

【ファミリア】の最古参の三人組と一誠が鎌倉を作っていることを知らないアイズ達が見掛けた。規模は大きく、足場を固める作業はガレスが、箱に雪を入れるフィンにそれを固める一誠、リヴェリアは形になった雪の壁を均等に立てて積み上げていき、後にガレスも箱に雪を詰めて雪の壁を作っては一誠に教わりながら積み上げていく。

そんな四人の行動に【ロキ・ファミリア】の冒険者達も遠巻きで見ているのだった。

 

「何だか面白そうだから近づいてみない?」

 

「ティオネさんとティオナさん、足に靴を履いた方がいいですよ。雪は冷たいですから」

 

と、教えるレフィーヤなのだが、アマゾネスの姉妹はさっさと雪の野原と化している場所へ堂々と近づいた。

 

「へっちゃらだよへっちゃら―――つめたぁっ!?」

 

「なにやってんのよまったく・・・・・つめたっ」

 

「お二人とも・・・・・」と何とも言えないレフィーヤは四人に近づくアイズの後を慌てて追いかける。

 

「・・・・・なにしてるの?」

 

「おお、アイズ。この若造から鎌倉というものの作り方を教えてもらっておるのじゃ。これがまた意外に面白くての」

 

「かまくら・・・・・?」

 

聞いたことのない単語にアイズもやはり首を傾げた。ガレスの他にフィンとリヴェリアへ視線を向けると、心なしか夢中になっている様子が窺える。まだ完成とはほど遠いが何らかの壁となっているのが把握できる。

 

「アイズ、60階層に対する対処方法の一つらしいんだ。一緒に作ってみないかい?楽しいよ」

 

「自然の中を生きる為には自然を利用する。故郷を思い出すな・・・・・」

 

フィンとリヴェリアは笑みを浮かべていた。本当に楽しそうだ。アイズの中の幼いアイズはうずうずとしていて参加したがっている。

 

「・・・・・うん、やってみる」

 

まだ見ぬ60階層に対する対処方法。かまくら作りに参加するアイズに一誠が自分の手袋を突き出した。

 

「素手じゃ手が凍りつくように冷たくなって動きが鈍る。付けとけ」

 

素直に頷き、手袋を装着する。それから一誠が作った雪の壁を持って既に積み上げている雪の壁の上にそっと置いて、リヴェリアが均等に調整を施し一つ、また一つと積み上げていく。

 

「あ、あの。私も手伝いますっ」

 

「じゃあ、この籠に雪を詰めてくれ。壁を作らないとできないからな」

 

一誠の指導のもと、レフィーヤも参加する。その後、

 

「あたしもやるー!」

 

「団長、お手伝いします!」

 

誰かの靴を強奪し、履いて雪の上を駆けるヒリュテ姉妹。それから数十分後のことだった

 

「これで・・・・・よしっと」

 

天井部分を小柄で活かすフィンが空いた穴の部分を塞いで一誠が崩れ落ちないように固めることで―――完成したのだった。

 

「これで出来上がったのかな?」

 

「ああ、完成だ。これがかまくらという」

 

木製の脚立で降りてフィンは目の前の巨大な白い塊を見上げる。全長は五Mといったところだろうか。無機質な白で建物のように作られた雪はまだまだ周囲に残っているが、それでも初のかまくら一号は完成した。

 

「うわー、雪でこんな風に作れるんだぁー」

 

「がっはっはっ。儂もこんなことするのは初めてじゃ」

 

「これで寒さを凌ぐってのだから驚きよ」

 

「こんな風に作るなんて初めて知りました・・・・・」

 

「中に入るとするか」

 

「うん」

 

感嘆と達成感の中、アイズ達はかまくらの中へ。十人ぐらいはいるであろう白い空間に入って肌に寒気が覚える。

 

「寒さを凌ぐにしても、やっぱり寒いじゃない」

 

「冷たい風が肌にぶつかるよりは断然マシじゃよ」

 

「火で溶けないかな?」

 

「大丈夫ですよ。こんなに広ければ焚き火灯程度でしたら直ぐには溶けません」

 

「これを作るのに時間は掛かるな」

 

「ンー、冷たい風の中で作るとなると確かに結構厳しい方だね。でも、食事のことを考えれば仕方ないよ」

 

一同は表に出たところで―――ゴロゴロと雪の塊を転がして既に作ってある雪の塊の上に乗っけては岩や木で顔に象っていく一誠が視界に飛び込んできた。

 

「・・・・・なにをしているの?」

 

「雪だるま。雪遊びと言えばこれだろう」と当然のようにパンパンと完成した雪だるまを主張する一誠に苦笑と興味が交ざったフィンは「あはは、雪遊びか。他にもあるのかい?」と聞いたところ

 

「あることはあるぞ。例えばこんな風に」

 

「―――おいっ、なに遊んでやがるテメ―――(ばふっ)」

 

獣人の青年の顔に小さな雪の塊をぶつけた。その衝撃で上半身が仰け反り、雪の上に倒れてしまうほどだ。

 

「雪合戦。丸めた雪をお互いぶつけあう一種の遊びだ」

 

「あはっ、何だか面白そー!」

 

ティオナが笑った後に自分も足元の雪を手の平サイズに丸めて一誠に向かって投げたところで、軽く受け止められては投げ返されて逆に顔面にぶつけられた。

 

「ふっふっふっ、俺に当てること自体不可能なのだよワトソン君」

 

「こんのおー!というか、ワトソン君って誰!?」

 

絶対に当てる!と意気込むティオナは雪を掴んでそのまま投げ放つものの、一向に当たらず逆に当てられる方が多い。

 

「むきー!アイズ、ティオネとレフィーヤ、一緒にあいつを当てよう!」

 

「う、うん・・・・・」

 

「私は嫌よ。冷たいんだから」

 

「私、こういう遊びはちょっと・・・・・」

 

ヒュンヒュンッ

 

「うおっ、僕達も巻き込まれたぞガレぶっ」

 

「上等じゃ。若造の遊びに乗ってやろうではないぶふっ」

 

フィンとガレスの顔面に雪玉が直撃。Lv.6の冒険者が正体不明な冒険者に当てられた。

 

「この野郎ぉっ!よくも団長の顔に当てやがったなぁ~!?」

 

「あ、ティオネがやる気出したっ」

 

掴んだ矢先に投げ放ち始めるティオネ。片思いの異性の顔に当てたことで怒りはあっさりと最高潮に達した。

 

「何だかわからないが・・・・・んじゃ、俺に当てたらフィンと二人きりの混浴権をプレゼントだ」

 

「―――っ!?」

 

「君・・・・・なに言っちゃってくれているんだい?」

 

「大丈夫、フィンが先に俺に当てれば無効だから」

 

親指だけじゃなく全身が震えだすフィン。横眼で過敏に反応したアマゾネスの仲間を見やるや・・・・・。

 

「団長と一緒に入浴、あの小さな体、滑らかですべすべとしていそうな肌を触れるっ。全身という全身を私が触れて団長の団長のア、アソコも・・・・・っ」

 

もうもはや、(アマゾネス)ではない何かが荒い息を吐き、紅く煌めく双眸でフィンを獲物のごとく見詰めていた。恐怖に似た感情で震える全身だけじゃなく、第六感の警報も完全に鳴っている。―――勇者として負けたら明日の朝は拝むことはできないと。

 

「―――ガレス、リヴェリア、アイズ、ティオナ、レフィーヤ!僕の命より大事な人生が懸ってしまった!全力で僕を援護してくれ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!団長との混浴ぅー!?」

 

「あっはっはっはっ、なんだか賑やかになってきたなー」

 

こうして【ロキ・ファミリア】幹部VS一誠の雪合戦が勃発したのだった。遠巻きで見ていた仲間の冒険者達に温かな眼差しで見守られていることには気付いていない。

 

「団長っ!一緒に入って私は頑張って子供は十人作ります!いえ、百人がいいでしょうか!」

 

「すまないティオネ・・・・・。僕には負けられない理由があるんだ!」

 

「何という愛の格差なんだろうか」

 

この後、一誠は当てられたのかどうかは不明なのだが、フィン達は必死に、それでいて苦笑いを浮かべながらも楽しげに雪合戦をしていくのだった。

 

 

 

「やー、悪いな。俺まで食わせて貰って」

 

「なに、気にしないでくれ。思いの他楽しませてくれたお礼だよ」

 

辺りは一層に暗くなり、焚き火が灯火としてくれるので闇に包まれても明かりは消えない。【ロキ・ファミリア】と交ざらず人知れず人気のない場所で食事をしようとする一誠を呼び止める。

 

「一緒に食べたくないのか?」

 

「部外者がいちゃ、変だろう」

 

何か言おうとするフィンよりも一誠がどこかへ歩く方が早かった。

 

「・・・・・少し、懐かしかったな」

 

今の自分の表情を見せたくない思いが強かった。空のない天井を見上げ、遠い目で走馬灯のように脳裏で様々な記憶が過ぎる。

 

「そっちは・・・・・今どうなっているんだ?・・・・・リーラ」

 

「それは誰の名前だ?」

 

独白に等しい言葉を繋げられた。尻目で見れば翡翠の長髪のエルフの女性が近づいていた。

 

「・・・・・俺は一人で食べるつもりだが、どうしてここに?」

 

「客人がどこか一人で食べる光景を見れば気にもなる」

 

付き合ってやると一誠の心情を知ってか知らずか、どちらにしろ一緒に食べる雰囲気を醸し出すリヴェリアに勝手にしろと背中で伝えた。そう遠く離れていた無い【ロキ・ファミリア】の野営地のテントの裏にあった木箱を椅子代わりにして座り込んだ。

 

「・・・・・普通に美味しいな」

 

「口に合って何よりだ」

 

「ん、ごちそうさま」

 

「・・・・・食事の速度が早過ぎるではないか」

 

空になった器を地面に置いてそれから二人の間に沈黙が続く。

 

「お前は・・・・・どこか不思議だな」

 

真っ直ぐ一誠に向かって食べながら言葉を続ける。

 

「お互い同じ冒険者。【ファミリア】は違えどお前は私達に馴染むように溶け込んでいる。私達から接触しようとしまいと他の冒険者は私達に対して敬意や畏怖の念を抱く。だが、お前はどちらでもなくまるで友人のように接してくる。だから他の者達も気兼ねなくお前と接するのだろうな」

 

「・・・・・」

 

「特にアイズ、あの子はどうやらお前に興味津々のようだ。これからもあの子と接してはくれまいか?いい刺激になるだろう」

 

それ以上リヴェリアは何も言わなくなった。今まで無言で耳を傾けていた一誠は一度、天井の水晶群を見上げ、それから隣に座る女神に匹敵する美貌の持ち主のエルフに横眼でこう言う。

 

「言い方が母親らしいな」

 

「よく言われる。不本意だが周りの者は皆、私のこと母親(ママ)と言うのだ」

 

「―――ママ?」

 

キョトンとエルフに似つかわしくない呼び方をされている事実を知り、思わず口から笑みが零れた。

 

「なんだ」

 

「いや・・・・・二つの意味でしたわれているんだなって、そう思ったらな」

 

親しみと慕われている。そう言いたげな一誠に翡翠の双眸が理解ができないと細くなる。

 

「つまり、リヴェリアは心優しいエルフだってことだよ。当然のように気を配って、何時も内心では心配しているんだろう?特定の人物だけじゃなく周囲の者にもさ」

 

「・・・・・」

 

リヴェリアも何時しか一誠の話に無言で尖った耳を傾けていた。したわれている理由もハッキリと述べられポツリと自分がそうなのかと漏らす。

 

「堅物の私が優しいか・・・・・」

 

「少なくとも俺はそう思っているよ。・・・・・さて」

 

周囲に小型の魔方陣を展開したと思えば、様々な楽器が発現し一誠の手元にも笛が。

 

魔法円(マジック・サークル)から物が出てくるとは・・・・・」

 

「できないのか?まあ、これも企業秘密だけど」

 

横に笛を構え、深呼吸した後に一誠は始めた。一人で勝手に楽器は音を鳴らし、奏で何かの音楽へと演奏をする。

 

「・・・・・ふむ」

 

初めて見聞する音楽に瞑目して音楽を聞くことに意識する。どこか儚く、どこか明るくなる音楽であった。

その音楽は―――。

 

 

「・・・・・音楽?」

 

近くを通っていたアイズ達が聞き逃さなかった。【ロキ・ファミリア】の誰かが楽器でも紛れこませて持ってきたのだろうかと気になって音を頼りに足を運ぶと・・・・・。一誠を中心に数多くの楽器が一人で音を鳴らしては奏で、笛の音に合わせて演奏する光景と瞑目して静かに聞き耳を立てているリヴェリアも発見した。

 

「はぁ・・・・・なんて綺麗な音楽なんでしょうか」

 

「うん・・・・・それに、とても静か」

 

レフィーヤとアイズの口から称賛の声が漏れた。澄んだ音色が夜営地に広がって渡る。何時しか目を閉じて音楽を聴く姿勢で離れた場所から演奏が終わるまで佇む。

 

 

「素晴らしい音楽だった。見掛けによらず何でもこなせるのだな」

 

「何でもは言い過ぎだ。まだ使いなれていない楽器もあるんだ。魔力で動かしたに過ぎない」

 

演奏が終わって楽器等は魔方陣とともになくなっていく最中でリヴェリアから称賛の言葉が送られた。

 

「魔力でか?そんなことできるものなのか?」

 

「そもそも魔導師は詠唱しないと魔法を放つことはできないのか?」

 

「そういうものだが」と至極当然に言うリヴェリアの翡翠の瞳にアイズ達が離れたところで佇んでいる様子が映り込んだ。どうやら先ほどの演奏を立ち聞きしていたらしい。一誠の器を手にしてリヴェリアは腰を上げた。

「また音楽を聞かせてくれ」と言い残し、一誠から離れるリヴェリアを見送っていると、タイミングを計ったようにアイズ達が近づいてきた。

 

「あ、あの、凄く綺麗な音楽でしたっ」

 

「ほんと、色んな楽器が勝手に音を鳴らしたし凄かったよ!」

 

「うん、良い音楽だった」

 

「リヴェリアも目を瞑って聞くほどだったわね」

 

アイズ達もまた称賛し、一誠に話しかける。四人の少女達の称賛に相槌を打つ一誠もまんざらでもなさそうに笑みを浮かべる。

 

「流石に聞こえていたか」

 

「というか、アイズがあなたと話をしてみたいらしいからここまで来ていたのよ」

 

「話?俺と?」

 

コクリと金髪の前髪を揺らし首を縦に振るアイズを視界に映る。

 

「ちょっとだけ、私と戦ってくれない?」

 

「・・・俺の実力を知りたいってことか」

 

「うん・・・・・深層でたった一人来たあなたの力、知りたくなった」

 

腰に佩いている《デスペレート》に触れながら申すアイズ。あの51階層に現れた新種のモンスターを倒しただろう一誠の実力を、戦って知りたい気持ちを金の眼から送る視線で訴えることで腰を上げたまだ若き冒険者の少年が

 

「Lv.5の実力・・・・・俺も気になっていないなんて嘘になる。良いだろう、軽く模擬戦をしよう」

 

「軽く・・・・・?」

 

「ああ・・・・・」

 

ゴキゴキゴキッ・・・・・

 

「俺がダンジョンで全力で以って戦うと、地上まで攻撃の余波が被りかねないからな」

 

片手で指の関節を不敵に鳴らしアイズに対してこう言った。

 

「お前の戦い方次第で俺は本気になって戦おう。じゃなきゃ、本気を出さずにアイズ・ヴァレンシュタインという第一級冒険者を一蹴する」

 

―――○●○―――

 

野営地から遠く離れた草原にてアイズと一誠が三Mの距離で対峙していた。更に二人から数M離れたところでティオナ、ティオネ、レフィーヤが見守る。

 

「さてと、やるか」

 

「・・・・・武器は?」

 

「必要に応じて戦いながら出す」

 

腰を低く落とし拳を構える。拳闘士―――その言葉がしっくりくる一誠の戦闘スタイル。アイズも《デスペレート》を抜き放って攻撃の構えを取る。天井から淡く照らす光だけが二人の姿を肉眼でも捉えることができる。

誰も邪魔されず、二人だけの空間ができつつあった次の刹那。

 

「こい」

 

「うん」

 

相手を催促する一誠の声によって戦いは始まった。ザザザザッ!と草原を駆けるアイズに対して、一誠は上へ跳躍した。それも高く、18階層の全容が把握できるんじゃないかと思うほどの高さ。ティオナが「高っ!?」と目を張る程に跳躍した一誠は足を振るった。

 

「嵐脚」

 

アイズの金目が張った。振るった足から鎌風が発生して迫って来たのだ。だが、気を引き締めて軽やかに余裕でかわし、草原の大地を深く斬撃の痕跡を残した一誠の一撃は―――。落下しながら足を振るっては鎌風を起こして攻撃を仕掛けてくる。足での攻撃はベート・ローガと似ているが斬撃を放って攻撃してくる時点で立っている領域は異なっていることを明らかにした。かわしながら足を振るうその一瞬の時間を食ってかかるように草原から跳躍して上空にいる一誠へ肉薄する。

 

「―――空中戦がお望みか?」

 

ニヤリと口角を上げて下から跳んでくるアイズを嘲笑うかのように、爆発的な脚力で横へ移動して距離を取った。

 

「―――っ!?」

 

常識はずれな回避行動。空中では思うように力を込められない状況下で一誠はアイズの周りをぐるぐると空を蹴って移動し、360度から一瞬で『嵐脚』を放った。武器を振るって戦うだけのスタイルだったらアイズはここで倒されていただろう。だが、アイズには魔法がある。

 

「【目覚めよ(テンペスト)ッ!】

 

攻防一体の風の魔法、『エアリアル』。全方向から来る鎌風を鎧のごとく纏う風で完全に防ぎきった。

 

「それがアイズの魔法か?」

 

未だに空中にいる一誠は―――一気にアイズへ肉薄しかかった。

 

「突破してやる」

 

あろうことか、アイズの魔法を突き破る気でいた。そんなことをする冒険者は愚か、モンスターすらいなかった愚行。落ちるしかなく風の魔法で一誠の攻撃を防ぐ姿勢でいるアイズに衝撃が襲いかかった。

 

ドンッ!

 

体をねじらせ、ぐるんとアイズに向かって拳を突き刺す一誠。生身の華奢な体には届かなかったが、衝撃波は確かに伝わった。拳打で殴りかかってくる冒険者は初めての経験だった。躊躇も恐れもない。伝わった衝撃に顔が少し歪む。

 

「なるほど、風の気流がそうさせるのか。だったら・・・・・」

 

一誠の両手に小規模の風が纏い始めた。アイズから見てもそれは見間違いではない。小さいが『風』だ。

今度は両手で金髪の少女を守る風を指先を立てる。すると纏った風がアイズの風の気流と混ざり最初は同調したが、徐々に一誠の風が気流の流れを変えては歪ませ、ついには・・・・・。

 

「お前の風、攻略させてもらった」

 

両腕を左右に勢いよく広げたと同時にアイズの風が引き裂かれた。言葉を失い、愕然と目を張る金目。

こんな、真正面から魔法を突破する冒険者はいなかった。無防備になったアイズの華奢な体に、鉄砲のように指を構え―――バチッ!と指先から迸る電撃がアイズに直撃した。今まで経験したことのない攻撃と痛覚に苦痛の叫びすらアイズは忘れて全身に電撃が痺れ渡るのを感じて・・・・・。

 

「ア、アイズさんっ!?」

 

レフィーヤの思わずといった叫び声と同時に、アイズは背中から落ちて一誠はしっかりと足で着地して地上に戻った。

 

「威力は最小限にしておいたからそこまでダメージは無いはずだ」

 

「まだ戦えるはずだろう?」と掛ける言葉でアイズはゆっくりと目の前の少年に見られながら立ち上がり、しっかりと立つ彼女に言葉を続ける。

 

「逆に言えば、最大出力でさっきの攻撃を食らったらお前は負けていた。どうする、まだやるか?」

 

「まだ、戦える。今度は、全力で」

 

さっきの一撃で本気を出せば、自分は本気も全力も出す前に負けていた。一誠の「軽く勝負」というのはこういうことだったのだろう。全力どころか本気すら出さずに【剣姫】と畏怖の象徴を神々から授けられた二つ名の持主たる自分を、唯一無二の魔法を真正面から打ち破る冒険者。本気で戦わなかった先ほどの自分に叱咤し、何時も以上の真剣な表情で剣を構えた。

 

「あなたも、本気を出して」

 

「本気・・・・・ね」

 

苦笑を浮かべる。相手の力量を知っていったのか、知らずに言ったのか定かではないが・・・・・求められては仕方ないだろう?

 

「負けて悔しくて泣くんじゃないぞ」

 

徐に腕を横に伸ばし手の先の空間が歪み、一振りの得物の柄が出てきたところでそれを引きずるように取り出した。宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ剣身の至るところに不思議な刻印が刻まれている装飾と意匠が凝った金色の大剣。

 

「・・・・・見たことのない武器」

 

【ヘファイストス・ファミリア】が作製したとは思えないほどの大剣を見つめ、一誠は自分の懇願に応えてくれたのだと察した。どんな凄い武器で戦おうと後は持ち主の腕前、技と駆け引きが主に勝敗を決する。

 

「さて、俺に本気を出せていったのはそっちだ。俺の本気を少しばかり見せてやろう」

 

―――禁手(バランス・ブレイカー)と静かに、力強く発した直後。全身から真紅のオーラが迸り、一誠を包みこむ。真紅のオーラは魔力で、魔力は真紅の鎧と具現化しつつ一誠の全身を包むように装着。その姿はドラゴンを模した金色の宝玉が身体の各部分にある頭部に鋭利な角が威圧を放つ全身型鎧(フル・プレート)であった。

 

「いきなり、鎧を着込んだ・・・・・?」

 

どんな原理で成り立ったのか理解ができないでいるアイズの金目に映る一誠が忽然と姿を掻き消えた。

 

「(ど―――っ!)」

 

「アイズさん、上ですっ!?」

 

探すよりもレフィーヤが指摘してくれた。はっと目を上に向けると紅い物体が剣を振り下ろしていた。

《デスペレート》で受け止め―――いや、アイズは横に飛んで回避した。

 

ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!

 

直径百Mの草原が深く、激しく抉れ、地面が崩壊した―――。その中心地に鎧型の龍が大剣を振り下ろした状態で佇んでいる。

あんな一撃を受け止めていたら、自分の腕がどうなるのか考えただけでもゾッとする。

 

「な、なんてバカ力ッ!?」

 

「Lv.5・・・・・いえ、まさかLv.7!?」

 

「そ、そんなっ・・・・・!?」

 

まだ一誠のLv.を知らないティオナ達は予想として挙げた現在の最高Lv.の数字。

草原の大地を崩壊させる力量の冒険者は見たことも聞いたこともなかった。

もしもアイズが一誠に負けるようなことがあれば、Lv.はアイズより上回っていることが明らかになる。

 

「・・・・・っ!」

 

羽のように大きな大剣を片手と腕で振るう一誠の腕力。細剣(レイピア)型で不壊属性(デュランダル)の《デスペレート》で受け止めようとする考えは頭に無い。武器が耐えても己の腕がイカれてしまう恐れが現実に成りかけない。振り下ろし、振り払う大剣の軌道を受け流すか逸らすかで直撃を避けるが、その度に殺しきれなかった衝撃が手に伝わって痺れが生じる。一瞬の油断もできない「軽い勝負から本気の勝負」となったこの状況にアイズは途端に膨張した紅い拳に正面から殴られて吹っ飛ばされた。

 

「~~~~~~~~~っっ!?」

 

剣戟の間に織り交ざった拳撃。《デスペレート》を防御の構えをする暇もなく一度崩壊した地面にバウンドしてから体勢を立て直す。―――が。アイズの真下から紅い拳が飛び出してきて再び殴られる。一誠の方を見れば、片腕から発生している赤いオーラが植物の幹のように地面の中へ突き刺さっている。地面の中を進んで、アイズが止まりそうな位置を把握して攻撃を繰り出したのだろう。

 

「アイズッ!」

 

「ちょ、あいつ、一体何なのよ!?」

 

【剣姫】が一方的に攻撃を食らい、防戦を強いられる。それでもアイズは食って掛かるように一誠へ駆ける。

足を振るって鎌風を起こし、飛ぶ斬撃をかわすか起動を逸らす少女に一誠は新たな動きをした。

 

「―――魔剣創造(ソード・バース)

 

地面から夥しい数の刀剣類が一誠には近づけさせんと飛び出してアイズに襲う。

 

―――負けられないっ!

 

心の叫びと重ね合わせながら、アイズは切り札を唱えた。

 

 

(エアリアル)―――」

 

最大出力!!!

 

「―――リル・ラファーガ!!」

 

風の閃光。超大型、あるいは階層主専用の神風が一直線に突き進む。草原を縦断するその大嵐の螺旋矢に地面から生え出す刀剣類が砕け散り、アイズの進撃を許した。

 

「それが、お前の切り札か・・・・・・」

 

亜空間からまた別の一振りを取り出した。青い鞘に収まっている剣を抜き放ち、頭上に掲げると金色の刀身に極光の粒子が集う。

アイズは悟る。アレはどんな攻撃をしてくるのか、何となく把握した。準備が整う前にケリをつけなければならないと伝わってくる神速の勢いで急迫する風の螺旋矢を一誠は鎧の中でアイズとの戦いの中、初めて笑みを浮かべた。

 

「エクスカリバーァッ!!!!!」

 

アイズの予想を上回るチャージが終わり、極光の刀身と化となった剣を前方に振り下ろす。それは斬撃と化して草原を抉り、極光はアイズへ決河の勢いで迫る。

 

「・・・・・綺麗」

 

目の前の光の斬撃に見惚れてしまった。「アイズーッ!」と仲間の声が耳朶に刺激するものの呑みこもうとする極光に意識を奪われ掛けた時だった。

 

ガッ!

 

誰かがアイズの腕を掴んで脅威に極光の斬撃からともに遠退いた。目をパチクリとして自分の腕を掴む者を見ると、獣人の青年が敵意と怒りを露わにして一誠を睨んでいた。

 

「ベート、さん?」

 

「なにボーとしてやがんだお前は!」

 

「えっと・・・・・」

 

お互い、最大の攻撃で勝敗を決しようとした。だが、アイズを助け出した【ファミリア】の味方にそれを知らず邪魔され・・・・・。

 

「・・・・・」

 

「な、なんだよ・・・・・なに不満そうな顔をしてやがる」

 

助けてやったのに不満顔になる少女。光の斬撃を食らえばタダでは済まない。そこを窮地のピンチに陥っただろうアイズを助けた。何も間違ってはいないはずだと―――また一誠に近づくアイズの背を見つめながら思っていた獣人の青年。

 

アイズの金目に入る光景。【ファミリア】の仲間が一誠に警戒して取り囲んでいた。その中には当然、フィンがいてティオナ達に説明を求めていた。

 

「・・・・・フィン」

 

「アイズ、無事だったようだね。いまティオナから説明を聞いていたけれど・・・・・」

 

「うん、私がお願いして模擬戦をしていた」

 

「・・・・・模擬戦というレベルじゃない状況だと思うけれど?」

 

見渡すフィンの碧眼に飛び込む光景。崩壊した草原、とてつもない広範囲で進んだ極光の斬撃の痕。大型のモンスターとの戦いではないかと思われても不思議ではなかった。

 

「僕達に一言は声を掛けて欲しかったところだよ。こうして皆と聞こえてくる戦場の音までやってきてしまったんだからね」

 

「ごめん、なさい・・・・・」

 

直ぐに勝負をしたかった為、邪魔にならない場所を選んで戦った結果、やるべきことをやらずにフィン達を心配掛けた。

 

「で、あの全身型鎧(フルプレート)が彼なんだね?」

 

「・・・・・うん」

 

ガレスを筆頭に【ロキ・ファミリア】の冒険者が取り囲む龍を模した鎧を着込む一誠もガレスに事情を説明したいたようで警戒は解かれて、光となって鎧は霧散し生身の体を晒す一誠をアイズ達が確認した。

 

「アイズ。彼はどうだった?直接戦った君はどう感じたかな?」

 

「負けそうになった」

 

ただそれだけ。あの攻撃を食らったら風の鎧ごとアイズは吹き飛ばされていただろう。その未来を確信した様子の仲間に小人族(パルゥム)の団長は相槌を打った。

 

「君を追いこむまでに強いと言うのか・・・・・」

 

「まあ、まだまだ隠し玉は残っているけどなー?」

 

忽然と話に交ざってきた一誠。気配もなく現れた為、フィン達は驚く余所に顔を真っ直ぐアイズに向けて苦笑いを浮かべ出す。

 

「横やりが入って勝負はお預けとなったなアイズ。また今度、勝負をしよう」

 

「今度は、負けない。最初から全力でする」

 

「挑戦は何時でも受けて立つぜ?」と不敵に発した。すると、ビシッ!とティオナが挙手した。

 

「はいはい!その今度はあたしもやりたい!」

 

「おー、別にいいぞ。何人増えようが俺は負けないし?」

 

「言ったなー!あたしとアイズが揃えば百人力なんだから!」

 

「私と団長が揃えば愛の力で百万力けどね」

 

「あはは・・・・・」

 

結果、アイズとの模擬戦もとい真剣勝負にまで発展した勝負は曖昧なままで終わり、一誠はアイズ達と別れて地上に戻った。

 

 

「イッセー・・・・・・」

 

「アイズ、気に入ったの?」

 

「・・・・・地上に戻ったらあの冒険者を調べたい」

 

「そうだねー。凄かったもんねー。驚いたよ。地面から剣と刀と槍が飛び出して来たんだもん!アイズ、あたしも付き合うよ。イッセーだっけ、あたしも知りたくなっちゃった。一体どこの【ファミリア】なんだろうね」

 

「うん・・・・・分かったら会いに行こう・・・・・かな」

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