オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結) 作:ダーク・シリウス
「・・・・・フィン、イッセーはどうしちゃったの?」
「分からない・・・・・。戻って来てからずっと天井を向いたままなんだ」
【ロキ・ファミリア】は六日という短い期間で50階層に辿り着いていた。野営の準備が行われている中、壁を作るようにしてただ一人、一誠が離れたところでずっと寝転がって天井を、地上を、空を見据え続けている様子にフィン達は何とも言えない気持ちで当惑している。
「・・・・・喋らなくなった」
「ああ、話しかけても返してくれなくなったな」
シュンと寂しそうにアイズが肩を落とす隣でリヴェリアが同意と付け加えた。
「地上で何か起きていたのかな?」
「今の私達が知る術は無いけれどね」
これはどうしようもないわ、とティオネは肩を竦む。それからのフィン達は野営の準備を
完了させ食事に移った。
大きな輪になる団員達に、これまでの『遠征』でもそうであったようにご馳走が振舞われる。
50階層まで踏破した団員達への労いと士気の維持を兼ねた豪勢な内容で、
始めとした迷宮産の果実と干し肉、大鍋で作られたスープが配られた。
しかし、一誠だけがキャンプの輪に加わろうとせず、食事も要らないとばかり
野営の陣地から遠ざかった。それには流石に、
「・・・・・様子を見に行く」
リヴェリアが誰よりも先に買って出て一誠に近寄った。せめてスープだけでも食べろと
ばかり食器を持って歩み寄る。
「どうした。お前らしくない静かさだぞ」
「・・・・・」
胡坐を掻いて天井を見上げている一誠が話しかけてくる絶世の美貌を持つ
を完全無視。リヴェリアを崇拝する、尊敬する同族のエルフがこの場にいたら一誠に
怒りを露わにして食って掛かっていただろう。
「腹が減っては戦いに役立たない。スープぐらい口にしたらどうだ」
それでも、一誠は天井を見つめたまま・・・・・口を開こうとしない。まるでいじけた
子供の様だと、リヴェリアは内心溜息を零し、スープが入った器を地面に置いて一誠の
真正面に移動して隻眼の瞳と翡翠の瞳を合わせる。
「イッセー」
「・・・・・」
「頑なに口を閉ざすその理由は私達には分からないが、パーティを組んでいる者として
あまりその態度はいただけないぞ。他の者達にも影響を与えかねない」
腕を組んで一誠を見下ろすリヴェリア。
「イッセー、何が遭った」
問いかけてくるリヴェリアに無表情で口を閉ざしたままの一誠は、静かに瞼を閉じて顔を
俯いた。顔や目すら合わせないようにしたか、と心底呆れ、
少年と同じ視線になるように跪き、両手で顔を掴んで持ち上げた。
「いい加減にしろイッセー。お前のその態度がアイズ達をどれだけ心配させているのか
分からないのか」
若干痺れを切らし、怒気が孕んだ声音で言葉を飛ばす。
「地上で何が起きた、何が遭った。答えろ」
「・・・・・」
リヴェリアの追求は、一誠にようやく視線を向けさせるようにした。
「・・・・・アテネが天界に送還された」
「・・・・・」
そして、口を開いたと思えば一誠達の、【アテネ・ファミリア】の主神が天界に送還された
と驚愕の事実と現実が告げられたリヴェリアだった。目を大きく見開いて言い続ける
一誠の言葉に先が尖った長い耳を傾けた。
「どこかの派閥に酒場が放火されて、家族を襲って失敗した
腹いせなのか・・・・・アテネに致命傷を負わせて天界に送還されたんだ」
「―――っ」
「【アテネ・ファミリア】は事実上、消滅した」
神アテネが天界送還された。リヴェリアは一誠の心情を深く察して静かに離れ、遠巻きで
見守っていたアイズ達のところまで歩んだ。
「リヴェリア・・・・・彼から何か聞けたかい?」
「・・・・・ああ、とても残酷な事だった」
「・・・・・残酷?」
どういうこと?ティオナは首を捻ってさらに尋ねた。直接理由を聞いたリヴェリアは
一誠に一瞥してフィン達【ロキ・ファミリア】の幹部だけに聞こえる声量で告げた。
「神アテネは何者かによって襲撃に遭い、重傷を負って・・・・・天界に送還されたそうだ」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
「【アテネ・ファミリア】はもう存在しない。それがイッセーの今の状態の理由だ」
アイズ達は目を大きく開いて一誠に視線を向けたり、絶句の面持ちでリヴェリアに顔を
向けたりした。
「嘘じゃ、ないのよねリヴェリア・・・・・?」
「今のイッセーが嘘を言うとは思もえない。何よりあの落ち込みようと静けさは
今まで見たことがない」
「そ、そんなっ。どうして、イッセーの女神様が・・・・・」
「・・・・・」
「それが本当にそうだったら・・・・・今の彼を考慮すれば納得いくね」
「確かに・・・・・残酷なことじゃなぁ」
同情と憐れ、悲哀の反応を示すアイズ達。ただ一人ベートは何も言わず一誠に視線を
向けるだけだった。
「
「誰かが試せば分かることだ。だが、そうすることを私は望まない。しばらく一人に
させた方がいい」
主神が天界に送還されると与えられた恩恵が封印され、今まで蓄積してきた
相応しい動きができなくなる。一誠の強さを知っている【ロキ・ファミリア】の女性陣は
どのぐらい一誠の力が弱くなったのか疑問を浮かべる。リヴェリアの言う通り、一誠を
一人にさせて心の整理をさせることも大切だと思い、異議もなく同意した。
「えっと・・・・・団長。イッセーには失礼ですけれど、神アテネが天界に戻ったってことは、
【ロキ・ファミリア】は元の状態に戻ったってことで、いいのですよね?」
「ああ、そうだね。加わっていた派閥が消滅してしまったからには【アテネ・ファミリア】
とは無関係になる」
「元々他の【ファミリア】との干渉は極力控えている方が当たり前なんだ。もうあいつと
関わるのだって必要はないだろう」
「・・・・・でも、もう二度と関わるなと言う方が難しいと思います」
「じゃなぁ・・・・・手の平を返すような真似なぞ儂にはできん」
友好的な交流を持ってしまった冒険者同士ならば尚更難しいだろう。特にアイズは・・・・・。
「・・・・・」
スタスタと一誠に近づくアイズ。背後から制止の声が飛んで来ても、
真っ直ぐ一誠へ歩み寄って《デスペレート》を構えた。
「イッセー・・・・・私と勝負して」
「・・・・・」
「・・・・・いくよ?」
―――本気の初撃を振った。金髪を揺らし、金目に躊躇の色を窺わせないアイズの最初の
一撃は―――背中から生える金色の翼で受け止められた。
「・・・・・一人にしてくれないか。今はそういう気分じゃないんだ」
「私と約束した」
「・・・・・また今度にしてくれ」
「ダメ」
【剣姫】の本気、Lv.6に至った最強の女剣士の『技』と『駆け引き』が無気力な
元下級冒険者に向けられた。一誠はそんなアイズを見ずに片翼だけで全てを防いで、
受け流して、完全にアイズ・ヴァレンシュタインと互角に渡り合っている。
「う、嘘・・・・・?」
「・・・・・あれ、恩恵なしの状態なのよね・・・・・?」
「・・・・・そのはずだ」
「僕等が神から与えられている恩恵に甘えている・・・・・。
彼の言葉が今になって改めて思い知らされたね」
「アイズさんと完全に・・・・・」
「なんて奴じゃ・・・・・本当に何者なんじゃ・・・・・・?」
愕然と驚愕、共通する感情と気持ちがフィン達は抱いた。アイズ自身も恩恵を封印されている
一誠がここまで強かったとは内心驚いている。
片翼の一枚で、
バッ、と翼が二対四枚と増え、四倍の刃状と化した翼がアイズを攻め立て始める。
「っ・・・・・!」
一枚の翼がアイズの剣技と互角に渡り合えるだけでも凄いのにそれが四枚となれば
四人のアイズが同時に襲いかかってきていると彷彿させるほどの斬撃が一斉攻撃で振るわれる。
たった一本の愛剣で三倍以上の斬撃を対応しなくちゃならない状況で一瞬の油断も緊張を
緩むこともできない。縦、横、袈裟、突き、四方八方、時には地面に突き刺して
触手のように真後ろから肉薄する翼にこれまで以上の攻撃は―――さらにアイズを追い詰める。
四対八枚と翼が増え、
「―――っ!?」
翼に迸る、纏う雷にアイズは目を張った次の瞬間。翼がアイズを囲むよう地面に突き刺さり、
完全包囲網中で翼から放たれ迸る電撃に、「【
発動しても風を貫く雷はアイズに直撃して感電する。
「ア、アイズー!?」
「あれは・・・・・キツイね。四方八方からの攻撃は」
「ああ、逃げ場を塞がれた状況下で対処するのは難しい。風魔法を貫く雷に対してアイズの
『耐異常』のアビリティがどこまで効果があるかが問題となるな」
フィンとリヴェリアの冷静な指摘を他所に雷の牢獄がアイズを苦しめること数十秒。翼の
檻が解くと、アイズがその場で倒れ伏した。
「アイズさんが・・・・・負けたっ!?」
「・・・・・いや、待て」
崇拝するアイズの敗北を認知したレフィーヤに待ったを掛けるリヴェリア。様子を見れば、
震えながら身体を起こす金髪の少女がフィン達の目に映り込む。背後で立ち上がる
少女に対し・・・・・計十二枚の翼が一誠の背中から生え、肉薄する。
「とうとう彼も本気を出したようだね」
「ああ、アイズの敗北で終わってしまったのが残念だったがな」
二度目のアイズのひれ伏す姿を視認した後、静かに瞑目する
背を向けていた一誠がようやくアイズに振り返って、歪ませた空間から高級そうな瓶を
取り出してはアイズの口に流し込んだ。それから翼で包んだ少女を見守っていた仲間に
元へ伸ばして差し出した。ティオナがアイズを受け取ると翼は一誠のところまで引っ込み、
再び天井へ視線を向け続けだす。
「ティオナ、彼女を天幕へ寝かしておいてくれ」
「はーい。それにしてもアイズが負けちゃったかー。よーし、次はあたし!」
「やめなさい馬鹿ティオネ。そっとしてあげろってリヴェリアが言ったでしょうが」
「ア、アイズさんの天幕へ早く連れて行きましょうっ!?」
少女達がアマゾネスの腕の中で眠るアイズを連れてこの場から離れて行く。後にフィン達も
一誠を一瞥して続くように野営地へ移動を開始する。
―――これで一誠にとって静かになったと思ったが、時間を置いてまた近づいてきた者と
接することになった。
「・・・・・何でまた来たんだよ」
「これぐらいは寛容しろ」
下掛けと上掛けの布を持って現れたリヴェリア。何時までも天井を、地上を、
空を見続けるだろうと踏んで一誠の寝具を持ってきたのだった。
「天井を見上げたままでは首に悪い。寝転がって見続ければいい」
【ロキ・ファミリア】の間で呼ばれる
気を利かせている。少年の隣で布を敷くリヴェリアに指摘した。
「・・・・・布の面積が大きくはないか?」
「私もここで寝るつもりだ」
三人一緒に寝れるだろう布の大きさに指摘するとリヴェリアらしくない発言が返ってきた。
レフィーヤが聞いたら「し、信じられませんっ!?」と驚くだろう。
「【アテネ・ファミリア】は、完全消滅したんだ。これからの【ロキ・ファミリア】は以前のようにいられるな」
一誠の【ファミリア】からは特に横暴で、傲慢的な事を強いられたわけではないが他派閥の傘下に加えられるようなことはもう無くなった。それは喜んでいいのかリヴェリアは複雑な心境だった。
「お前は、お前達はどうするつもりだ。どこかの派閥に入るつもりか?」
「・・・・・どこにも行くつもりはない。アイシャ達もどこかの派閥に行きたいなら、尊重する」
例え一人になっても【アテネ・ファミリア】で在りたいと望む一誠。「そうか」と一誠の気持ちを知り、【ロキ・ファミリア】に誘うことを断念する。
「―――守りたかった、なぁ・・・・・」
ポツリと悲哀が籠った呟きが長い耳の耳朶に刺激した。
「いや・・・・・また、守れなかった」
「イッセー・・・・・?」
隣にいる
「力があるのに、大切な家族を守れない・・・・・ダメじゃん。俺・・・・・」
膝を抱えて頭を垂らす哀愁を醸し出す一誠と接してきた中で初めて見る落ち込み様にまるで子供のようだった。
そんな紅い髪の少年を―――リヴェリアは両腕を差し伸べ優しく胸の中に抱き絞めてやった。
「今なら誰も見ていない・・・・・。泣けばすっきりする」
「・・・・・泣かない」
「強がるな。泣きそうな顔をしているじゃないか」
母親のように一誠を慰めるつもりはない。ただ、傍にいてやることだけ。
何時までも抱きしめてやれば、まだ若い少年の冒険者から嗚咽が漏れ始める。
リヴェリアの胸に頭を押し付ける様に縋りつき、肩を震わす。アテネに対する懺悔を呟き、
「うああああああっ」
声を出して泣くまで時間は掛からなかった。
―――○●○―――
「・・・・・ごめん」
目の周りを赤くして泣き終えた一誠は気恥ずかしそうにリヴェリアから目を逸らす。
泣いたのは本当に久し振りで、今まで溜めていた感情が爆発したように止まらなかった。
「気にするな。私が勝手にやったことだ」
寧ろ、泣くお前の姿を見れて安心した、と付け加えるリヴェリアだった。
「それ、どういう意味だよ・・・・・」
「強者は涙を流すことは滅多にない。だから、自分の弱さを誰かに見せることを嫌い、
恥ずかしさを覚えて我慢する傾向がある。お前もそうなのだろうと思っていたが、
中々どうして・・・・・泣いたではないか」
唇を緩まして一誠に微笑む
「リヴェリアの温もりの所為だ。・・・・・二人に見られるなんて
恥ずかしいがいなんてことないぞ」
「二人・・・・・?」
この場に一誠とリヴェリア以外いないはずだ。周囲に翡翠の目を見回しても人の姿や
影の形も見えない。50階層、
一誠の傍に置いてある二つの魔石灯しか灯りが無い状態だ。
「誰もいないぞ」
「
覗き見している犯人の名前まで言い、証拠とばかり石を明後日の方へ投げ放てば「痛っ!」と
声が聞こえてきた。
それからすぐ、地面と同化していた布がもぞもぞと蠢き、左目に眼帯を付けている
褐色肌の女性が姿を現した。
「いたた・・・・・イッセー。手前に石を投げつけるでない」
「コソコソと覗いている奴が悪い」
「いやー、皆が寝静まった後に手前がイッセーを誘ってともに夜を過ごそうと
思っていたところに
上に・・・・・何やらイッセーが泣きだしたから出るタイミングを計っておったのだ」
悪そびれた様子もなく近づいてくる椿・コルブランド。
「どうした、泣きだすとは何か悲しいことでもあったか?」
「・・・・・主神が天界に送還された」
「なんとっ!?」
驚きだす椿にあっさりと理由を説明した。何故か釈然とせず、どうしてすんなり教えたのだと
問い詰めると―――「リヴェリアみたいに追求されるのが目に見えている」とのことだった。
「では、イッセーは恩恵を封印された状態でこの階層に来ておるのか。・・・・・有り得ん」
しかも下級冒険者であるから、ますます自分の目で確認するまでは信じられない事実でもある。
「元々強いからな・・・・・。でも、前より弱くなったのは事実だ」
「お前の強さの基準が分からん」とリヴェリアの疑問にこう答えた。
「ガレスに腕相撲を吹っかけたら俺が負ける可能性が大きい」
「・・・・・例えがおかしいが・・・・・納得した」
それでも何となくだ。リヴェリアとは反対側に座りだす椿は一誠に目を向ける。
「だったらイッセー。主神様に頼んでやるから【ヘファイストス・ファミリア】に入るがいい。
手前がイッセーの師匠となって立派な鍛冶師にしてやるぞ」
肩に腕を回してサラシで巻いた胸へ一誠を寄せつけた。
椿のその言動に一誠との仲の良さが明らかになる。
「二人は何時の間に知り合ったのだ?」
「
捕まってその際に」
なんか、神が他派閥の冒険者を捕まえるなどと耳を疑う言葉が出てきた。
あの戦闘で知った一誠の強さと技に神が興味を持たないはずがない。ならば―――。
「・・・・・まさかとは思うが、お前の秘密を知ってるのか?」
リヴェリアと椿はそれぞれ一誠の秘密を知っている者同士だが、
秘密の内容は違うことを知らない。「言うなよ」と、釘を差す一誠の事情を知る者達が
判明するのである。
「イッセーの秘密を知る者が多くなってきたな」
「できれば、これ以上増やしたくもないんだけどな。主神無き俺にこぞって【ファミリア】
に加えようと躍起になってきそうなんだしさ」
「・・・・・先に謝っておくべきか。すまん」
満面の笑みを浮かべ一誠のもとへ向かう主神を容易く思い浮かべることができたリヴェリア。
謝らないでくれ、と溜息がでそうなのを押しとどめ、
「どこの【ファミリア】にも転属する気はないよ」と改めて椿からの勧誘を断れば
不満げにふてくされる椿。
「何故じゃ。イッセーの鍛冶の腕前は手前が認めておるのに・・・・・」
「・・・・・なんだと?」
あの椿・コルブランドが認める一誠の鍛冶の腕前。言うなれば『
「イッセー、鍛冶のアビリティを発現しているのか?」
「それ以前にLv.が上がらないんだけど?自前だよ自前。武器を打てることができるんだよ。流石に『魔剣』は打てない。作製方法が分からないんだからな」
「ふっふっふっ。だったら【ヘファイストス・ファミリア】に入れば手前が
ほれほれどーする?と一誠を誘惑する椿。だが、一誠は逆の反応を示す。
「
「・・・・・イッセー、知らないのか?」
「知っていたら疑問を浮かばない。椿、なんだそれ?」
「うむ、本当に知らんようだな。
一流の鍛冶師が教鞭を振るうことで「ふむふむ」と真摯に耳を傾ける一誠だった。
「うん、打てないや。それとヘファイストスの派閥には入らないからよろしく」
「むぅー。ここまで親切に教えたのに。頑固な奴めっ」
「誰も一流の鍛冶師を目指すとは言ってないし。それに俺はアテネを連れ戻すつもりでいるんだ」
天界からアテネを連れ戻す。リヴェリアと椿は揃って目を張った。
「お前・・・・・死ぬつもりか?」
「死なないよ。文字通り、天界へ行ける方法や手段を考えて、編み出して完成したら天界に乗り込むんだ」
「イッセーよ・・・・・流石にそれは不可能ではないか?手前達人類が死後、天界に行くという
「・・・・・約束したんだ。アテネを連れ戻すって」
分かり切った反応でも一誠の気持ちは揺らがない。また天井を見上げて、腕を伸ばした。
「アテネが死んだわけじゃないんだ。天界と下界が同じ世界にあるんなら、行く方法が他にもある筈なんだ。だから俺は、誰も予想もしない道を探索して開拓、神々が住む領域に足を踏み入れてやるんだ」
開いていた手を固く握りしめ、二人に強い意志を示す。到底不可能な考えをする一誠はおかしいと二人は思う。同時に本気なのだと悟る。もしも―――もしもそれをかのうにしたならば一誠は偉業を果たすことになる。そんなこと実現できるのかと、それぞれ違う一誠の秘密を知る二人の女性の視界に。
「明日も早い。だから寝る」
一誠の背中から金色の十二枚の翼が生え出して大きく広がった。十人は軽く寝転がれるほど大きく、暗闇の空間の中で唯一神々しく黄金色に輝く光が発する。
「イッセー、なにを・・・・・」
「直接地面で寝ると痛いだろう。この上で寝ろ」
「大丈夫なのか・・・?」
「問題ない」
一誠の翼の上で寝る。今まで体験したことのない寝方である。提案をした当人が寝転がれば地面は黄金色の草原と彷彿させる輝きをずっと発し続ける。リヴェリアと椿は互いの顔を見合わせ、一誠の言う通りにゆっくりと翼の上で寝転がる。
「おおお・・・・・なんという温かく心地好い」
「綺麗だ・・・・・」
寝転がった状態でもリヴェリアの視界の端に映り込む金色の光は、神秘的だった。背中から感じる温もりは全身まで包むように伝わって、まるで草原の上で寝転がっている
「(・・・・・こんな気持ち、何時以来だろうか・・・・・)」
心が不思議なぐらい穏やかになる。どうしてなのだろうか。隣にいると居心地がいいと感じる己がいることも薄々自覚するようになっていくのだった。
「(神アテネを失ったショックは大きいだろうに・・・・・イッセー)」
初めて涙を流し、泣いた一誠を抱きしめた時を思い出し、隣にいる一誠の手を握った。
「
自分に呆れ果てると、一誠は天井を視線を向けたまま笑みを浮かべた。
「リヴェリアが優しいことをアイズ達は知っているよ」
「・・・・・椿は?」
静か過ぎる『
「もう寝ている。俺の腕を胸に抱えてな」
早いな。よほど寝心地が良いのだろう。全身を包むこの安心する温もりに眠気を誘われたに違いない。
「―――ありがとうな」
いきなり感謝をされた。横目で一誠を見れば顔をリヴェリアに向けていた。真っ直ぐ金と翡翠の目がぶつかって絡み合い続ける。するとリヴェリアが上半身を起こしだしたと思えば、一誠の肩に頭を乗せた。完全なる密着となって、異性の少年の温もりを服越しで感じるようになる。
「・・・・・しばらく、このままでいさせてくれ」
「気が済むまでいいさ」
リヴェリアの翡翠の髪を撫でる手が
―――不思議な少年だと、瞼を閉じながら思うリヴェリアは何時しか規則正しい寝息を立てて
深い眠りに着いた。
一方、気を失っていたアイズは頭に鈍い衝撃を受けて意識を回復して目を覚ました。自分の天幕の中だとおぼろげに認知し、起き上がるとティオナやティオネ、レフィーヤが傍で寝転がっては寝ていた。特にティオナは足を投げ出していて片足はアイズの頭があった場所に伸ばされていた。どうやら寝相の悪さに巻き込まれたようだった。
「・・・・・ありがとう」
気を失っていただろう自分を運んでくれた仲間に感謝の言葉を小さく告げ、
足音をたたさず天幕から出る。見張り以外の同派閥の仲間達以外寝ていてこっそりと
一誠がいる場所へ移動を開始。どうしているのだろうと気になって歩みを止めず
進むと・・・・・金色の光が暗闇の中で輝いている場所を見つけた。
不思議と思いからでた好奇心による行動で近づいてみれば。
なんと、金色の光の正体は一誠の背中から生えている十二枚の翼から放つ現象だった。そしてその翼の上に皆から頼りにされている
【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランドが一誠に寄り添って穏やかな
表情を浮かべて寝ていた。どちらも寝顔を見るのは初めてだ。穏やかに寝ていられる
原因はやはりこの翼なのだろう。跪き、翼を触れるとフワッとした弾力と感触が手に
伝わり、心地好い温もりまでもアイズの手に浸透するよう広がる。
「・・・・・うん」
二人とも、羨ましい。心の中の幼いアイズも、この金色の翼の上を寝転がりたいと、うずうずと目を輝かす。
三人を起こさないように気を配ってそーっと、翼の上に乗って一誠の腕を抱えて
寝ている椿の邪魔にならない少年の脇に頭を乗せて寝転がった。
「(・・・・・温かい)」
アイズの感想はそれだった。リヴェリアも感じたそれと一緒であり、全身を包みこむ
温もりは一誠から感じる体温と一緒だ。まるで・・・・・一誠に抱き絞められながら
寝ているような感覚だった。悪くない。寧ろ、好ましいと思える。野営でいつも寝る
寝具とは違う睡眠する瞬間は不思議と心地好い。
多分、病み付きになりそうだとアイズは瞼を閉じて意識をゆっくりと夢の中へ落とした。
―――後に寝相の悪いティオナに起こされたティオネが、アイズがいないことにレフィーヤと仕返しとばかりティオナを蹴り起こして探せば・・・・・一誠が生やす翼の上にアイズとリヴェリア、椿が寄り添って寝ている光景を見つけて四人を起こすのも悪いと思うと同時に穏やかな顔を浮かべて寝ている仲間達を見たティオナが提案をして、ミイラ取りがミイラになった形で一誠の翼の上に寝転がっては・・・・・寝てしまった。
―――○●○―――
日は昇らず、暮れもしない迷宮の中で出発の時が迫る。50階層に陣地を構える
【ロキ・ファミリア】の天幕の数々を背に、見送る陣地の防衛と居残りをする団員達を
背に出発する主力メンバー、戦闘員七人とサポーター五人、一誠と
総勢十四名のパーティ。前衛にはベートとティオナ、中衛にはアイズとティオネ、そしてフィン。後衛にはリヴェリアとガレス、一誠。この各
何より、短時間でそれも、『深層』へ自由に行き来できる一誠の経験が頼りになる。
「・・・・・やっぱり、お前らだけでも十分行けるだろ」
「信頼できる仲間達だからね」
階層西端の壁面に開いた大穴―――50階層と51階層を繋ぐ険しい連絡路、崖のような急斜面の坂に辿り着いて、その先に待ち構えている数々のモンスターは前衛と中衛の戦闘員のベート達が
「愚問なことを聞く。武器は必要か?」
「いや―――いらん」
後方から産まれ落ちるモンスターがさらに後方から迫ってくるモンスターと合流する形で襲いかかってくる。サポーターの二人はガレストリヴェリアに守られる形の中、爆発的な脚力で鎌風を起こした一誠の飛ぶ斬撃は数々のモンスターを真っ二つにする。
「ただの蹴りで飛ぶ斬撃を放つとはのぉ」
「ベートに見せつけたら触発しそうな技だな」
純粋な蹴りによる斬撃を長年冒険者として見聞したことが無いリヴェリアとガレスにとっては興味深い攻撃だった。これならば、あの新種のモンスター、何でも溶かす腐食液を放つ芋虫型にも有効だろう。恩恵をなくしても『古代』の英雄みたいに強い一誠のことを考えていると前方からけたたましい進撃音が轟いてくる。
「―――来た、新種!」
幅広の通路を埋め尽くす黄緑色の塊。極彩色に侵された表皮にエイを連想させる広く平たい扁平状の腕。疣足の多脚が迫りくるその姿はまさに戦車のごとしである。その体内に貯め込まれているのはあらゆるものを溶かす腐食液だ。【ロキ・ファミリア】が最大警戒していた芋虫モンスターと、とうとう
「隊列変更!イッセー、前へ!」
暇をさせないことを約束していたフィンが今果たす時だろうと考えた。即時かつ即行の指示が
「氷れ」
手の平から極寒の吹雪が嵐の如く迸る。
「・・・・・魔法の詠唱無しで、しかも『
あれ・・・・・ですか」
レフィーヤの目は限界までに見開き、全てを氷の牢獄に閉じ込めた一誠に愕然とする。凍土に成り代わったダンジョン、一直線に伸びる通路は最奥の突き辺りまで蒼氷の世界と化した。凍りついた芋虫型、果ては巻き添えを食らったモンスターが無数の氷像となって乱立する。
「イッセーと己を比べるなよレフィーヤ。―――イッセーは我々とは異なる存在だ」
隣にいるリヴェリアから意味深で、最後は声を殺してレフィーヤに聞こえるぐらいの
声量で告げた。人型のドラゴンである一誠を知る者同士しか知らない会話だ。明らかな
若干一誠に畏怖の念を抱いて肯定する。
「と、そう言うがやはり・・・・・驚かされている自分がいるな」
同じ魔導師として息を零す。久し振りに驚かされた、と胸中で呟くリヴェリアが走る通路は、氷と霜に覆われた壁面からはさしもの深層出身モンスターも産まれない。凍りついたルートを進む面々は、そこからあっさりと下部階層に続く階段に辿り着く。
「ここからはもう、補給できないと思ってくれ」
広く長い階段―――52階層への連絡路を前に、フィンはパーティ一同に振り返る。
「イッセー」
「ん?」
「ここから先、君が僕等を誘導してくれ。アイズ達とこの階層にやってきて60階層以上踏破した君にね」
絶句する【ロキ・ファミリア】のサポーター達を除いて、アイズ達の目は一人の少年に向けている。フィンの告げる言葉に口の端を愉快に吊り上げた。
「いいのか?俺の移動は壮絶極まるぜ?」
「完璧に僕等を守ってくれるなら君を心から信用と信頼をする」
「お前ら第一級冒険者は守るつもりはないぞ。サポーターだけ守る。自分の身は自分で守れ」
それができないとは言わせないぞ、と言外の言葉に「手厳しいね」と苦笑いを浮かべるフィン。
「行くぞ」
やがてフィンから【ロキ・ファミリア】の指揮系統を与えられた一誠の短い命令とともに、パーティは52階層へ進出した。
「だ、団長っ。任せて大丈夫なんスかっ?他派閥の団員に指揮を任せて・・・・・!」
「ラウル。ここは信じてやってくれ。アイズ達彼女等が心底信頼している彼をさ」
額を大きく晒す団員の焦燥に冷静で対処する。51階層と変わらない黒鉛色の迷路内を、先導する一誠の歩調と同じくゆっくりと移動する。モンスターの出現頻度、
「おい、こんな遅いペースで移動すんな!何チンタラ歩いてんだテメェはよッ!?」
「大丈夫だってベート。そりゃ、イッセーがいなかったらかなり危ないけどさ」
「そうね。今はイッセーがいるから・・・・・毎度驚かされるけど大丈夫よ」
「何言ってんだバカゾネス!というか、その余裕の態度はなんなんだよ!」
ベートの焦る気持ちは分かるとサポーター達は心の中で同意する。椿はティオナトティオネ、ベートの会話を拾って何のことだから理解ができず眉根を寄せる。
「リヴェリア、この先彼はどう行動をするのか解ってるね?」
「ああ、アレが聞こえるまであいつは歩き続ける」
「なら、それまでこの状況が続くのか」
産まれ落ちるモンスターの迎撃を繰り返す。第一級冒険者達は顔色を変えず、ただただ一誠に続き歩く。この二つの状態を差すフィン。緊張が走ってるパーティと余裕の態度でいるパーティの二分が存在している最中―――響いた。地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが。
「・・・・・竜の、遠吠え?」
耳朶に喰らいつく、怪物の王の絶叫。咆哮の主を察する椿だったが、やはり近く範囲には何もいない。
「補足したか―――」
一誠の歩みの足が停止したと同時に巨大な
「これは・・・・・」
「見ていろフィン、ガレス」
真上にも同じ大きさの
「イッセー、何をしようとするのじゃ?」
椿の疑問の質問に、左目に眼帯を付けているハーフドワーフに振り返る。
「落ちる準備」
「・・・・・はっ?」
「椿、準備しておけよ。走る準備をな」
彼女にとって訳の分からないことだった。しかし、一拍遅れて理解ができた。―――次の瞬間。
地面が爆砕した。
一誠達を囲む
「「―――これはっ!?」」
「これが、イッセーという元冒険者さ」
炎の熱でさえ感じさせない一誠の
再び轟く大爆発も完全に防いだ。そして、降下を始めた。
「落ちるぞー」
あまり抑揚のない言葉が短く発せられた。その意味を深く、心から分からなかった冒険者達は―――突然の浮遊感に意識と視線は下へ。
「・・・・・ああ、リヴェリア」
「なんだ?」
「流石の僕も、これは・・・・・驚くよ」
浮遊感は一瞬にして終わりを告げ、人類は重力に逆らえず真っ逆さまになったり、横になったり、立ったまま大穴の中へ一直線に落ちた。絶叫と悲鳴、動揺が交じった仲間の声が耳朶を震わす。深く、深く、深すぎる。放出された轟炎によって何層もの階層をぶち抜いて形成された長大な縦穴。穴の底で落ちてくる己等を仰ぐのは、無数の牙の隙間から煙を吐く、数匹の巨大な紅竜。―――遥か下の階層からの砲撃を51階層まで届く竜の力はまさに怪物界の王者。その場所まで一誠達は、一誠によって落ちる【ロキ・ファミリア】。
「フィン。どうだー?落ちる経験は」
胡坐を掻いて腕を組んでフィンを尋ねる一誠にこう返した。
「できれば、もっと安全な方法で移動して欲しかった」
「俺に指揮系統を預けたお前の責任だ」
さらにそう返されたフィンは、一誠に腕を掴まれて縦穴の壁面に向かって放り投げ出された。突然のことで目を見開きながらも難なく着壁を成功する。そのまま下へ下へと走り続ける彼の碧眼の瞳に映りだす光景は、第一級冒険者達を壁に向かって投げ飛ばして走らせている一誠が飛び込む。そしてサポーターは背中から生えだす十二枚の金色の翼に包まれ一誠と一緒に落ちていく。
「先に下に行ってるからなー!」
紅竜、
「なんて男なんだろうか・・・・・」
自分から臨み、好んで大穴に飛び込む者の神経はイカれている。それがとんでもないモンスターの巣穴であると分かっててするならば尚更思わずにはいられない。
「フィン!
離れた場所で壁面を足場に走るガレスが叫んだ。リヴェリアに視線を向ければ、レフィーヤと一緒に走っていて魔法の詠唱を始めていた。ならば、自分がすべきことは―――。
「彼がいる階層まで
先に59階層へ到達した一誠は大紅竜と戦闘を始めていた。サポーターを包む翼以外、刃状にして紅の鎌首を両断、大きな身体の懐に飛び込んで正拳を叩きこんだ。
「―――
壁から、地面から、巨大な様々な武器が顔を出して
「これで新たに産まれることは無いだろうしばらくは」
翼からサポーターを解放させ、51階層まで貫かれている縦穴へ仰ぐ―――その視線は階層の北端に空いた57階層の連絡路へ突如変わった。隻眼の瞳におぞましい無数の影が吐き出された黄緑と極彩色の不気味な表皮のモンスターが入る。
「一難去ってまた一難・・・・・まあ、俺にとっては一難ではないか」
腕を芋虫型に伸ばして巨大な火炎球を形成した魔力を放った。
―――○●○―――
縦穴から続々とフィン達が姿を表して一変している58階層に着地する。
「ふぃー、今回も落ちたねー」
「こんなこと、あんまりしたくもないのだけれどね」
何度も体験し、経験した『竜の壺』の飛び込みに何とでもなさそうに言う。氷の空間と化して、紅竜の氷像や氷漬けの姿を見させる張本人、先に降りた数名のサポーターと一誠達は。
並んで顔だけだしてぬくぬくと炬燵の中に入っていた。顔は蕩けていて、だらしなく緩んでいる。
「・・・・・なにやっている?」
ここまで落ちる間は死闘を繰り広げていた自分達とは、明らかにだらけきっている一誠達に尋ねるリヴェリア。待ち人がようやく降りて来たとした態度で返した。
「自分でやっておいて寒かったから、皆が落ちて来るまで休む意味を兼ねて暖まっていた」
卓袱台返しよろしく、ぽいっと炬燵を明後日の方へ起きると同時に放り投げた。
「確かに・・・・・まさか、君の力はここまで凄いとは思わなかった」
「恩恵なくとも俺は強いってことを分かってくれて何よりだ」
天井や壁、地面を覆う氷の空間の中で落ちてきたフィン達の束の間の
「はいよ、『豊饒の女主人』が作る料理だ。ある程度腹を満たしておけ」
「おー!ダンジョンで本格的な料理が食べられるとは!」
「あんた、本当に何でもありね」
「ふははは、俺だからな。はい、アイズの大好きなジャガ丸君小豆クリーム味」
人数分の椅子と大きなテーブルが置かれ、数々の料理が一誠の手でアイズ達の前に出される。ジャガ丸君が食べられる事実に心の中の幼いアイズと一緒に目を輝かせるアイズ。携行食では味わえない味と食欲をそそる香ばしい匂いがフィン達の士気を向上させるのだった。味は絶賛。食べすぎず飲みすぎずに配慮して各々は地上の酒場の料理を胃の中に送り続ける。
「フィン、出発は何時にする?」
「五分後にしよう」
「了解。それじゃそれまではのんびりといさせてもらうよ」
フィン達から離れた場所に腰を下ろして天井を見上げる姿勢になった。テーブルを囲んで食事をする【ロキ・ファミリア】の光景を視界の端に入れながら天界にいるアテネのことを考えた。
「(天界はこの世界の下界とは別世界にある。それは俺達の世界の天界や冥界、神々の世界と同じだと思えばこの世界の天界に行ける可能性はある方だ。そう思わないか?)」
一誠の頭に直接話しかけるドラゴン等が現れる。
『この世界と天界がある世界に隔離―――次元と次元の狭間が存在するでしょう。世界の狭間があれば別世界がある』
『同時に次元の狭間に何かが存在している可能性も考慮した方がいいだろうな』
『あの女神に隠れて色々と調べ回った中で、まだ、次元の狭間は調べていなかったな我が主よ?』
『ならば、この茶番のような『遠征』が終わったら調べに行くか?』
ドラゴン達と心の中で会話をする。
「(・・・・・お前ら、
『神とは言え、異世界の神。神特有の力が違う我々の世界とは違い、この世界の神が有している神の力は違いが無い。主が今まで交流してきた神々から感じ取った力は殆ど同じ力しか感じませんでした』
『それに、アテネが天界に戻った際。遥か上空から神と同じ力の波動を感じた。突然にな。まるで、扉が開いたように』
『それってつまり、天界に繋がる何かが開いたってことかよ?てか、神々が言う天界に送還、戻るときどうやって天界に行くんだって話だよなぁ?』
『もしかしなくてもさ。天界から下界を見ている神とか天界と繋がっている場所があるんじゃないかな?』
『
数々のドラゴン達の予想や推測が頭の中で飛び交う中、一誠の中である事を考えた。
「イッセー?」
横から天真爛漫なアマゾネスが天井を見上げる一誠の顔を覗き込んだ。思考の海に潜っていた一誠にティオナが声を掛けてくる。
「また、女神様のことを考えていたの?」
「飯は食べたのか?」
「うん。ごちそうさまっ。とっても美味しかったよ」
あのイスとテーブル、食器はどうしようか?と尋ねたティオナに対して、出発前に片付けると言う一誠が解決。
「ねえ、イッセー。これからどうするの?」
「俺が強いことを分かっただろう?一人でもダンジョンに行けれる」
「でも、アイシャ達はそうじゃないよね?一人だけダンジョンに行くなんてそれじゃイッセーは寂しいじゃん」
「・・・・・あいつらはあいつらだ。自分の意志で動けない子供じゃないんだ。例え、俺から離れて別の派閥に行こうがあいつらの自由だ」
それが、冒険者でもあるだろう?と告げられてはぐうの音も出ずにいるティオナ。
「ティオナだって、仮にロキがいなくなって、
「ううう・・・・・多分、そうだけど・・・・・」
「個人的に仲の良い俺らだけど、派閥のことに関しては俺達はもう他人のような感じだ」
だから―――と一誠は言い続ける。
「もう、俺と会いに来るのは止めてくれ」
「っ!?」
「この『遠征』が終えれば、俺は天界に行く方法を思考錯誤する時間が欲しいんだ。もうお前達と関わる時間もなくなるだろう」
表情が固まったティオナに淡々と述べ、離れたところからフィンの出発の声が聞こえてくる。
「行くぞ。59階層に」
「・・・・・」
59階層と繋がっている連絡路は58階層の南端に空いた暗い大穴から行かないと進めない。暗闇に包まれる連絡路を一誠の魔力光で周囲を照らして突き進む中。
「(妙だな・・・・・)」
疑念を抱いた。59階層の先の階層は一誠がよく足を運んでいる。だからこそ、極寒の冷気を感じるはずの空気どころか、湿った空気が感じることに疑い始める。胸騒ぎも覚えた。遥か下へと続く階段を進みながら周囲の物音一つにさえ敏感になる。かつん、かつん、と。階段を降りる冒険者達の足音が響いていく。暗闇の底へ底へ。底を進んだ先にある、光のもとへ。
「フィン、これは・・・・・」
「ああ、今から僕達が目にするものは・・・・・」
背後から掛けられるガレスの声に、フィンは頷いた。
「誰もが、神々でさえ目撃したことのない―――『未知』だ」
そして、ようやくリヴェリア達に追い付いたと胸中で苦笑いを浮かべるフィン。
そして、光の先へ到達する。
連絡路の階段を降り終えたアイズ達は、59階層へ進出した。
「――――――――――――――――――――――――」
視界に広がった光景に、誰もが言葉を忘れる。そこに氷河などありはしない。高くそびえる氷山や蒼氷の流れなど存在しない。アイズ達の瞳に映ったのは、不気味な植物と草木が群生する、変わり果てた59階層の景色だった。
「・・・・・なんだと、密林・・・・・?」
顔を振りながら唖然と呟く一誠。アイズも、ティオネとティオナも、レフィーヤも、リヴェリアも一誠と同じ唖然とした表情で周囲を見回した。直上の58階層の規模を超える広大な『ルーム』には緑一色に染まった樹や蔦が生えていた。連絡路直前の空間に密生する背の高い樹林。地面には青い草原と毒々しい極彩色の小輪の揺らす花々。閉鎖空間である階層の壁面、遥か彼方の四方は緑壁がそびえ、大きさの異なった無数の蕾が垂れ下がっている。
「これって、24階層の・・・・・?」
「というか、どうなってんのよ?私達が何度も来た59階層じゃないわ」
「一体何が、何でここまで変わり果てさせたんだ・・・・・?」
さすがの一誠も驚きを隠せないでいる。もっと全容を確認したいという思いが一誠を突き動かし、翼を広げ上に飛んだ。
「なんだ・・・・・あれは」
何かを見つけて下にいるフィン達を置いて一人先にある場所に向かった。そこは樹林が姿を消し、灰色の大地が広がる大空間。荒野と見紛う階層の中心には、夥しい芋虫型と食人花のモンスター。吐き気を催すほどの怪物の大群が囲むのは、巨大植物の下半身を持つ、女体型だった。
「見たことのないモンスターだな。何となくだけど前見た資料の・・・・・『タイタン・アルム』って巨大植物モンスターみたいだ」
深層域に棲息する巨大植物モンスター。同胞だろうが冒険者だろうが手当たり次第捕食する『死体の王花』である。
舌のような器官を伸ばし、先端にある『極彩色の魔石』を差し出していた。
食人花も巨大な顎を開き、『魔石』を露出させている。捧げられる『魔石』を、女体型は貪欲に取り込んでいた。巨大植物の上部に存在する上半身は、、50階層で遭遇した芋虫型の女体型と相似している。無数の触手で極彩色の供物を片っ端から貪り、『魔石』を吸収された側から芋虫型と食人花が続々と灰へと朽ちていった。
「まさか、この灰色の大地って・・・・・モンスターの灰なのか?」
見張られた一誠の左眼に映るのは、女体型の周囲に積まれた塩塊のごとき膨大な灰粉である。アイズ達も女体型の前に辿り着いていて、一誠と同じ心境で眼前の光景に立ちつくしている。この灰色の大地は、尋常ではない数のモンスター達が灰へと果てた死骸そのものだと。
『―――ァァ』
上半身を起こす女体型、醜怪な頭部から落ちる微かな声音。周囲のモンスター達を食らい、丁度その半分を消した頃。女体型の上半身が、蠕動のごとく打ち震えた。
『―――ァァ』
醜い上半身が蠢くように震え続け、一気に肉が盛り上がる。空にいる一誠や下にいるフィン達が驚倒する最中、恍惚の息を漏らす女体型の上半身から―――蛹から羽化するように、美しい体の線を持った『女』の体が生まれる。
『―――ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!?』
「マジかよ・・・・・」
歓喜の叫びが迸った。鼓膜を破壊されるかのような恐ろしい高周波に冒険者達は両の耳を塞いだ。膨れ上がった肉の殻を破いて現れる『女』は仰け反り、天を仰ぐ。背に流れる長い頭髪は、光沢を帯びた美しいものに。瑞々しい両腕、胸や腰といったなだらかな上半身を覆うのは、極彩色の衣。地底の天井を見上げ喜びに打ち震えるその横顔は、女神にも劣らない美貌を誇る。緑色の髪に緑色の肌、緑色の上半身。瞳孔も虹彩も存在しないその瞳だけが、淀みの掛かった金色であった変貌するのは人型の上半身だけにとどまらず、異形の下半身もまた組成を変容させ、巨大な花弁や無数の触手を出現させる。怪物の下半身に、天女と見紛う上半身を持つ巨大生物が、59階層の中心で産声を上げた。
「はぁ・・・・・失敗したかなぁ」
未知のモンスターとの戦闘を心躍る一誠。だが、今回の主役は【ロキ・ファミリア】だ。残念そうに呟き、天に叫んでいた『彼女』が、ぐるりと首を回し、アイズを見つめ歓声を上げる様を見つめる。
『アリア―――アリア!!』