オラリオで自由気ままに過ごすのはダメだろうか(一時完結)   作:ダーク・シリウス

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冒険譚30

「―――ウラノス!?」

 

一誠の通信式、立体的な魔方陣に映し出されている映像に、フェルズは振り返りながら絶叫した。ギルド本部地下神殿。黒衣の人物の叫びに、その映し出された光景に、神座に座すウラノスは蒼色の瞳を細めた。

 

「やはり、か」呟きの後に、信じたくなかったが、と続けウラノスは語り出す。

 

「古代、神々(われわれ)の意志を受け取り、英雄に助力した数々の『精霊』達・・・・・このオラリオの地で彼等とともに散っていた内の、一柱か」

 

魔方陣の映像で笑い続けている『彼女』を見据え、眉間を歪める。―――神々が降臨する以前、『古代』まで、精霊は神意を受け取る受信機(アンテナ)の役割を担っていた。下界から怪物(モンスター)を排除する為、一部の神々が放った人類の導き手であり、武器。現代の『神の恩恵(ファルナ)』とほぼ同義の役割を持っていたのである。人類、ひいては英雄達の多くが精霊の加護を授かり、彼女達の声を聞き届けモンスターを駆逐していた。

 

古代から存在し続けていた精霊の加護を受けている人魚族(マーメイド)もまたそうであった。

 

そんな中でも、全ての元凶であるダンジョン、旧オラリオには多くの精霊が遣わされた。

 

紡がれた『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』。

 

今も受け継がれている史実の正体は、精霊を通して神々に導かれた、英雄達の闘争の歴史である。地からある『古代の精霊』にまつわる話に、フェルズは息を呑みながら魔方陣の映像に向き直る。つまり、映し出されているあの存在は―――。

 

「ダンジョンにもぐり、察するにモンスターに喰われ、なおも自我を保ち続けた存在」

 

「千年以上も生き続けていたというのか!?」

 

「ああ。そしてモンスターに喰われたことにより、その在り方が反転した・・・・・」

 

弱肉強食。モンスターの理。怪物に取り込まれた『精霊』は今や、喰らう、奪う、溺れる、の原始的な欲求に支配された怪物に成り果てた。

 

神々(われわれ)の子とモンスターの融合・・・・・これも、下界の可能性か」

 

―――○●○―――

 

「イッセー」

 

降り立った少年に『彼女』を見据えながらフィンは尋ねた。

 

「君からアレを見てどう思う」

 

意見を聞きたいと言外を発する黄金色の髪を持つ小人族(パルゥム)に返す言葉を考えた後に自分なりの推測を発する。

 

「お前らだけだと苦戦しそうだな。何より、理知を備えているんなら魔法の詠唱ができそうだ」

 

モンスターが魔法の詠唱を。有り得ない事実を告げた一誠に再び問いかけた。

 

「なら、君だけ戦ったら勝てる相手なのかな?」

 

「ああ。勝てるな」

 

豪語する一誠。能力(ステイタス)を封印されているにも拘らず、目の前の『彼女』を見て冷静で平然としている。「そうか」と碧眼の双眸を隻眼の金色の目を持つ少年に向けた。

 

「僕達に力を貸してくれ。君の勇姿を僕等に見せてほしい」

 

「・・・・・」

 

金色の目に映るフィン。「来るぞ!」と警戒の声が張り叫ぶのを聞こえる中で一誠は口を開く。

 

「俺はお前らのサポートやフォローをするつもりだったんだがなぁ」

 

いいのか?と一誠の問いに頷くフィンは『彼女』に振り返る。了承されてしまった少年は、息を零し、全身に真紅のオーラを迸らせ、魔力を鎧に具現化させ、真紅の龍を模した体の各部に金色の宝玉がある全身型鎧(フルプレート)を纏った。

 

「雑草は任せろ」

 

フィンの号令を待たず、ニ対四枚のドラゴンの翼を展開して先に芋虫型と食人花へと肉薄する。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 

破鐘の吠声を響かせ五十を優に超える芋虫型と食人花がアイズ達から飛び出してきた膨大な魔力を感じさせる一誠のもとに驀進する。押し寄せる黄緑と極彩色の塊に、数十M先にある天井まで飛び上がり両腕を突き出して巨大な業火球を放った。

 

『―――――――ッ!?』

 

直上から降ってくる太陽と彷彿させる火炎球が、悲鳴を上げる暇もない一撃がモンスター達を呑みこんで魔石も腐食液も焼失した。

 

「・・・・・あ、圧倒した」

 

「一人で全滅させおった・・・・・」

 

燃える火の海の中にまだ、『彼女』の姿が窺えており敢えて倒さなかったのだろうと察したアイズ達。上から降りてくる一誠の右手の籠手の宝玉から『Boost!』という音声が立て続けに発生し続けている。

 

「一気にあいつも倒して良かったんだけど、それじゃつまらないからな」

 

「イッセー?」

 

「取り敢えず、俺から送り物だ」

 

『Transfer!』

 

腕を突き出した籠手の宝玉からそんな音声が響いたと思えば、宝玉が発する金色のオーラがアイズ達の全身に包みこんだ。

 

「こ、これは・・・・・?」

 

「『能力昇華(ステイタス・ブースト)』と、言うべきかな。制限時間内だが、時間切れまでお前らの能力(ステイタス)は激上した状態だ」

 

―――――っ!?

 

超反則級の超越魔法(レアマジック)を発動した一誠にアイズは湧き上がってくる力に何とも形容し難い思いを抱き、『彼女』に向かって普段より三倍速い速度で駈け出した。

 

『フフッ』

 

巨大植物(タイタン・アルム)の下半身から複数の触手を眼前に掲げ、恐ろしい速度で撃ち出した。迫りくる長大な触手群に対し、ティオナとティオネが疾走しこれを迎撃する。

 

「「っ」」

 

速度と威力を兼ね備えた敵の攻撃に歪む姉妹は、今の自分の状態に驚いた。切り払う敵の触手を両断させてアイズのフォローをする。

 

「なにこれ!イッセーがくれた力が物凄いんだけど!」

 

「今の私達ならどんなモンスターでも倒せそうねっ」

 

「・・・・・うん」

 

一〇〇M異常離れた地点から浴びせかける触手の雨は、全てアイズを狙ったものだった。仲間の少女へ向かって執拗に振るわれる鞭撃に、ティオナ達は舐めるなと迎撃を重ねる。

 

「ほら狼。さっさと行かないと美味しいところ持って行かれるぞ」

 

「俺に指図すんな!」

 

一誠からの指摘に怒鳴り三人のもとへ掛け走るベートを見送って戦況を見定め行動に移ろうとするリヴェリアに、フィンが制止を促す。

 

「リヴェリア、詠唱は待て」

 

「フィン?」

 

振り返らず彼女に背中だけを見せる小人族(パルゥム)は、右の親指を痙攣させ、苦渋に染まりきった声を落とした。

 

「親指の疼きが止まらない・・・・・何かが、来る」

 

予断は許されないと、フィンの統率者の仮面が罅割れ、今にも剥落しようとしている。現在の戦況に誰よりも危惧を抱く、そんな彼の直感を。

 

女体型は―――微笑みをもって肯定した。

 

 

「【火ヨ、来タレ―――】」

 

 

次の瞬間、呪文(うた)が奏でられる。

 

「詠唱!?」

 

アイズ達全員の驚愕が重なり合った。巨大な下半身のもとに展開される魔法円(マジックサークル)。禍々しい紋様と立ち昇る魔力光が、女体型の全身を包み込んだ。

 

「だろうと思ったよ」

 

虚空から金色の杖を発現、手にして地面に突き刺したら黄金色の光の半球状の膜が一誠達を包みこんだ。これは結界なのだとフィンは察し、まだ結界の外にいる仲間達のことで叫んだ。

 

「イッセー!?アイズ達がまだ―――!」

 

「分かってる」

 

女体型に駆けていた四人の体に、突如発生した霧が全身を包みこんだ光景を目の当たりにした面々。一拍して結界の中に霧が発生してアイズ達が霧から現れた。

 

「え、どうしてあたし達ここにいるの?」

 

「疑問は後だ。取り敢えず―――」

 

「【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ―――】」

 

禍々しい歌声が紡がれる。敵の詠唱の規模に、魔導師であるリヴェリアやレフィーヤの瞳が揺れる。

 

『超長文詠唱』

 

信じられないほど長大な詠唱量、にもかかわらずその紡がれる詠唱速度は恐ろしく早い。

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身炎ノ女王―――】』

 

「・・・・・魔剣創造(ソードバース)

 

短く呟いた一誠に呼応して、巨大な女体型の下半身から一本の槍が飛び出してきて顎から頭蓋を撃ち抜いた。

 

『グッッ?』

 

顎の下から槍に貫かれた女体型は驚愕とともに衝撃で上半身を背後に逸らし―――魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を発生させた。

 

「悪いな。俺は相手の攻撃を待つほどのんびり屋じゃないんだ」

 

『!?』

 

まさかの攻撃着弾により発動間際だった『魔法』の制御が乱れる。莫大な『魔力』の手綱を手放してしまった女体型は、暴走を食い止められず激しい自爆を引き起こしてしまった。肉体の内側によりその巨躯を覆い尽くすほどの大爆発が起こり、展開されていた紅の魔法円(マジックサークル)が霧散する。

 

「結界を解いて!」

 

「もうした」

 

今なら攻撃の機会(チャンス)!と言うのも惜しいティオネの叫び以前に一部の結界に穴を開けていた一誠だった。爆炎に包まれている女体型を視線の先に、パーティが一層の速度で突撃を執行する。

 

『・・・・・』

 

全身を焼き焦がす女体型の上半身が、立ち込める煙の奥で、女体型の周囲の地面からまた飛び出す武器。今度は数多の数で全身に武器で貫かれ、突起物を生やしているような姿となる様をアイズ達は視界に入れながら駆けていた。それでも、その状態でも――――。

 

「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)雷ノ化身雷ノ女王―――】」

 

己の目の前に、黄金の魔法円(マジックサークル)を広げた。

 

「短文詠唱!?」

 

一瞬で用意された砲台にティオナが驚倒する。執行速度に秀でる短文詠唱型。しかも規格外である。『精霊』の怪物から放たれる魔法威力は、並の魔導師のそれとは比べものにならない。上位魔導師の大砲撃に匹敵するその砲口に、中に浮かぶ巨大な魔法円(マジックサークル)から漏れ出す、光り輝く無数の雷条。雷光に顔を焼かれ時を止めるアイズ達の前で、女体型は魔法名を唱えた。

 

「【サンダー・レイ】」

 

轟雷の大矛。

 

力ある『古代の精霊』に許された砲撃魔法が、轟きとともにアイズ達を呑みこまんとした。

 

「させるかっ!」

 

だが、やらせまいと。黒と紫が入り乱れた籠手を装着した一誠が己の体をアイズ達の盾となって雷の大鳴を―――発する硝子細工が割れたような甲高い音とともに打ち消した。

 

「もう魔法を発動させないぞ」

 

女体型の眼前に立ち、一誠を中心に巨大な透明の半球状のドームが広がった。

 

『―――っ!?』

 

そのドームの中に入っている女体型の魔力の制御どころか、まるで蓋を閉じられたように魔力の行使ができなくなった女体型の顔に初めて焦燥の色が浮かび上がる。

 

「今だお前ら。この中に存在する者の魔法は発動できなくなるが・・・・・お前らはそんなこと気にしないだろう?」

 

女体型の魔法を封じた一誠に感謝の念を抱き、アイズ達は魔法の脅威を恐れなくなったことで勇ましく飛び出した。

 

『・・・・・!』

 

己の攻撃の一つを封じられ、ひたすら己のもとへ突き進んでくるアイズ達を認める女体型は、硬質な表情で唇を閉ざす。次には長い緑髪を揺らしながら、喉を震わせた。

 

『―――――アアアアアアッ!』

 

そして、『彼女』の甲高い呼び掛けに応えるように。地面―――あたかも下部階層から放たれたかのように―――夥しい緑槍が打ち出された。

 

「あっ、そーするか」

 

魔法封じの欠点を突かれた一誠だがさも焦りはしない。物理攻撃を制した者が勝者となり敗者が決まる。女体型を中心に半径一〇M、触手の束で築き上げられた円形の壁ができる。精霊の怪物を取り囲む高い防壁に驚愕する中、一誠が―――ニ対四枚のドラゴンの翼を生やし出した。

 

「アイズ、ティオナ、ティオネ、ベート!こっちに来い!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「この程度の壁で足を止める様な奴らじゃないだろう!」

 

鎧に覆われて顔が見えないが、不敵の笑みを浮かべている。

 

「とーぜん!」

 

「当り前よ!」

 

「・・・・・うんっ」

 

「てめぇに言われなくてもっ!」

 

あっという間に一誠に近づく四人に対し、四枚の翼が跳んだ四人の足の踏み場として乗せ―――。一〇Mの緑壁の上に向かって思いっきり放り投げた。

 

『!』

 

壁を越えてきた四人の冒険者達に女体型が動いた。全触手を迎撃に己より上にいるアイズ達につぎ込んだ。

 

「せ、斉射っす!」

 

「―――【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

意識が上に向けられていることを察し、魔法封じの結界を解いた途端だった。三条の吹雪と『魔剣』による同時射撃と数百発に及ぶ炎矢がアイズ達に伸びる触手と一〇Mの緑壁に殺到した。

触手群は四人の冒険者達に届く前に穿ち、貫かれ、焼き尽くされた。女体型に向かって落ちるアイズ達を他所に

 

「ふんっ!」

 

淡い光を纏った拳を崩壊寸前の凍った緑壁に叩きつけ完全崩壊を促したところでガレスとフィンが一誠の横を通り過ぎた。

 

『ッッ!?』

 

間合い一〇Mの懐に入られた女体型が、上と下から迫ってくる敵に対し、地面から打ち出す触手でフィンとガレスの足元から無数の槍が突き出される。

 

「遅いわい!」

 

能力昇華(ステイタス・ブースト)によって激上した俊敏のアビリティがガレスの手助けとなった。地面から穿ってくる触手に反応して、飛び出す前から避け切っていく。女体型との距離が五Mまで差しかかった頃、二つの魔法円(マジックサークル)が出現した。

 

「乗れってことかな?」

 

「いや、跳べってことじゃろう!」

 

『彼女』の物ではないことを認知して駆ける足を緩めず二つの魔法円(マジックサークル)に向かって足を踏み入れた次の瞬間。鈍い破裂音とともに小人族(パルゥム)とドワーフを女体型に向かって弾いた。上から下からも迫ってくるアイズ達に下半身の備わる十枚の巨大な花弁を正面に並べる。同時に魔法封じの結界が無いことに下半身に魔法円(マジックサークル)を展開して詠唱を唱え始める―――。

 

「今更守りの姿勢になったところで、もうお前の負けは決定したのも当然だ」

 

再び魔法封じの結界が張られてしまい、女体型の展開した魔法円(マジックサークル)が霧散した。残る脅威は『彼女』の防御力である。上半身を守る十枚の花弁の壁はフィンの槍とガレスの斧の一閃でダメージを与え、

 

「燃え尽きろぉおおおおおおおおおっ!」

 

両足に炎を纏うベートの渾身の一撃が、花弁の表面を焼き焦がし、蹴散らして

 

「どりゃあああああああっ!」

 

「はぁああああああああっ!」

 

自身と大双刃(ウルガ)を駒のように回転し続けるティオナと同じように回るティオネが女体型の花弁の盾を斬り刻みつつ下半身にも深い傷を負わせる。―――そして最後に。一誠が展開した中に浮かぶ魔法円(マジックサークル)を足場にしてぐっと膝を折って《デスペレート》を『彼女』に向けて構えていたアイズ。今や暴風と化した魔法(エアリエル)を纏いながら、超大型級の巨躯を持つ怪物へと砲弾の如く突き進んだ。

 

「この結界の中に入ったら、魔法が使えなくなるって分からないかなー?」

 

しょうがないと、魔封じの結界を解いた一誠。ならば、直接魔法を封印することに決めた少年は『彼女』の周囲の空間が歪み、ぽっかりと空いた穴から数多の鎖が飛び出して身動きができないように拘束した。

 

『――――イヤァ!?』

 

全身を拘束する鎖を強引に引き千切って解放を考えた女体型に迫る風の暴威に戦慄、堪らず下方から一本の触手を射出する。一閃された渾身の大鞭に風の鎧を破壊され、アイズは弾き飛ばされた。そしてすぐに魔法を封じられた女体型は己の魔法を封じる一誠に向かってその巨大な身体で押し潰さんと倒した。そうすればきっとこの拘束する鎖は解け、魔法を発動できるだろうと考えた故に―――。

 

「今回はアイズ達が主役なんだ」

 

何時の間にか一誠の手にはヘファイストスから受け賜わった剣を持っていた。

 

「俺が倒したら意味がないだろう?」

 

剣を持つ腕がブレる。そして、片方の手を固く握って女体型の整った顔に渾身の正拳突きをして突き飛ばした。

女体型の『上半身』だけが空高く吹っ飛んだ。下半身は地面に沈んで上半身と切り離されていたのだ。

 

「―――」

 

地上の様子を見ていた頭部から流血するアイズの眼光は、欠片も衰えていない。瞳を剣のように鋭く保ったまま、打ち上げられた勢いを利用し、階層天井部に―――着天。天地逆様の体勢で、右手の《デスペレート》を背に引き絞る。

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】―――」

 

最大出力。

 

身体中からかき集められた精神力(マインド)が【エアリアル】に装填される。嵐を超える風の大気流が咆哮を上げた。

 

『!』

 

己の直上で構えられるアイズの必殺に、女体型は己の状態を気付いた次の瞬間―――。

 

『【閃光ヨ駆ケ抜ケ闇ヲ切リ裂ケ代行者タル我ガ名ハ光精霊(ルクス)光ノ化身光ノ女王―――】』

 

高速で短文詠唱が紡ぐ。白の巨大な魔法円(マジックサークル)を女体型の頭上に召喚し、一人の剣士と正対させた。こちらを仰ぐ『精霊』と視線を交わしながら、アイズは、剣の切っ先を地に向ける。繰り出されようろする一撃の瞬間。誰もが彼女の姿を見上げた。

 

「アイズ・・・・・」

 

リヴェリアが呟く。

 

「やれい」

 

ガレスが瞳を細める。

 

「「いけぇー!!」」

 

ティオナとティオネが吠える。

 

「ブチかませ」

 

ベートが告げる。

 

「頼んだよ」

 

フィンが笑う。

 

「――――――アイズさぁああああああああああああああああああああああああああんっ!!」

 

レフィーヤが、少女の名を呼ぶ。

 

そして、

 

 

「リル・ラファーガ」

 

 

神風は放たれた。

 

 

『【ライト・バースト】!!』

 

同時に発動する『精霊』の魔法。

 

大地へ突き進む風の螺旋矢と天へ放たれる閃光の砲撃が、衝突する。拮抗は一瞬。城の閃光を消し飛ばし、神風が突き進んだ。

 

『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――』

 

女体型の頭部と胸を穿ち、貫通する不壊の剣。完全に精霊の上半身を貫く。胸部の『魔石』を貫かれ、女体型が完全に消滅したことで地上にある下半身の巨躯が一瞬で灰となる。

 

「よっと」

 

軽い調子の声が地上に突貫してくる少女を十二枚の金色の翼で完全に受け止めた。

 

「お疲れ、アイズ」

 

「・・・・・皆のおかげで倒せた」

 

「可愛いことを言ってくれるなー」

 

「頑張ったから・・・・・一日私の弟になって?」

 

「それは断る」

 

地面に立たせられたアイズは「アイズゥー!」とティオネと走ってくるティオナに抱きつかれた。

 

「・・・・・あまりダメージを食らわず、思った以上に苦戦もせず倒せたのは、彼のおかげでもあるか」

 

「儂らは対して活躍せんかったがな」

 

「次世代の冒険者達が頑張ってくれたからだろう?」

 

古参の三人の目にはベートとレフィーヤもアイズに駆け寄って喜びを分かち合う。

 

「いやはや、すごいものを拝ませてもらった」

 

喜びを分かち合う【ロキ・ファミリア】を一人見守る椿は、左眼の眼帯を人撫でする。そこへ一誠が近づいてきた。

 

「おお、イッセー。お疲れ」

 

「お疲れ様。お互い対して活躍しなかったな」

 

「何を言っておる。イッセーも活躍しただろう」

 

「手前はただ突っ立って見ていただけだったぞ」と苦笑を浮かべる椿に一誠は首を横に振る。

 

「俺にとっては作業的な攻撃の感じだった。だから頑張った、なんて言葉は言われても実感はしない」

 

そんなこと言う一誠には後にフィンやガレス、リヴェリアに呆れられ「お前のおかげだということを忘れるか」と言われてしまったのである。

 

59階層に勝鬨に似た歓声が響く。『冒険』を超えた冒険者達は声を、数々の武器は光沢を放った。少女の手の中で、

一振りの剣も銀の輝きを煌めかせるのだった。

 

 

 

 

 

「イッセーから連絡があったわ。数日後、地上に戻るらしいよ」

 

「【ステイタス】を封印されても強いって、イッセーはどこまで強いんだい」

 

旧【アテネ・ファミリア】の本拠(ホーム)のリビングキッチン。アイシャと春姫、ウィルとレリィー、カルラが一誠からの知らせを聞き少なからず安堵で胸を撫で下ろした。

 

「あっちは終わりましたことですし。今度はこっちの問題を片付けないといけませんわ」

 

「私達の今後のこと、ですか・・・・・」

 

「神アテネ様がいないんじゃ、私らは前のように魔法も力も振るえない。まだ冒険者として生き続けたいならば他の派閥に改宗(コンバージョン)をする必要がある」

 

「それって今すぐ決めないといけないことなの?」

 

「・・・・・うーん」

 

既にギルド本部に天界送還されたアテネのことを知らせている。主神が天界に戻ってしまって残された眷属達はそれぞれの道を模索する。他【ファミリア】に属するか、故郷に戻るか、オラリオの一般住民として生きるか。大抵この三つが主な選択肢として定まる。

 

「ウィルとレリィーは海に帰って元の生活に戻れるじゃないか」

 

「それはそうだけど・・・・・イッセーと離れるなんてそんな今さら」

 

「うん、出来ないわ・・・・・」

 

「カルラ様。カルラ様はどうしますか?」

 

「そうですわね・・・・・。皆さんとはまだ日が浅いですし、深い絆で結ばれているわけではございませんから、他の派閥に転属することを罪悪感は抱きませんわ。でも、私は彼に買われた身。あの子が私に何を臨むかが決まるかもしれませんね」

 

人魚族(マーメイド)が棲息している海への帰還、人身売買で流れ的に買われた女。それぞれ一誠に対する想いは浅くは無い。

 

「そう言うアイシャはどうするのよ?」

 

「春姫?貴女はどうしますの?参考に聞かせて下さらないかしら?」

 

質問を質問で返され、春姫は狐耳を垂らし、尾を悩む表現を表しているように、小さく揺れる。

 

「私は・・・・・イッセー様のことがお慕いしております。で、ですから・・・・・」

 

「・・・・・なーんだ。結局、皆してイッセーと離れたくないってことじゃないか」

 

口の端を吊り上げだすアイシャ。

 

「―――悪いけど、私は他の派閥に改宗(コンバージョン)をするよ」

 

「「「っ!?」」」

 

アイシャが他派閥に乗り換えようとする。意外な言葉が出てきたため、春姫が一番驚いた。

 

「アイシャさん。どうして、どうしてなのですか?」

 

「決まってるだろう。私達は冒険者なんだ。だったら神の派閥に属するのは当然じゃないか」

 

「イッセーから離れるの?見捨てるの?」

 

非難めいた視線をアイシャに向けるレリィー。対して手を振って違うと仕草をするアイシャが己の気持ちを口から出した。

 

「あいつから離れるのは仕方がない。それと、見捨てるなんて考えは無いよ私は。―――元凶を見つけるためだからね」

 

元凶、その言葉の隠された意味はアイシャがウィルとレリィーに送る視線で春姫とカルラは察した。

 

「二度も、二人を狙った襲撃者達を見つけて相応の仕返しをするつもりだ。神アテネを天界に送還してイッセーを泣かせた。それだけで十分、他の派閥に入る理由となるんだ」

 

「アイシャ・・・・・」

 

能力(ステイタス)を封印された状態で探しても、仮に見つけ出しても本来の力が振るえないんじゃ返り討ちに遭うだけだ。イッセーの足を引っ張る真似はしたくないんだよ」

 

アイシャの強い決意が春姫達の心まで伝わる。そんな考えをしていたアマゾネスに春姫は。

 

「戦えるアイシャさんが羨ましいです」

 

と、羨望の眼差しを向けるのだった。アイシャは春姫の金の髪に手を置いた。

 

「何言ってんだい。春姫には春姫しかできないことをしてやればいいんだ。見習いの娼婦としてイッセーを慰めてやりな」

 

「はうっ!?」

 

「あら、面白い話しですわね。私も噛ませて貰いましょうか?」

 

意味深に口元を緩ますカルラは真っ赤に顔を染める春姫を見つめる。ウィルとレリィーも自分なりに一誠の役に立とうと心中で決意する。

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